【実施例1】
【0023】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る薄膜シリコン太陽電池を示す図である。
また
図2は、
図1のA−A’−A”を含む面にて切断した、本発明に係る薄膜シリコン太陽電池を示す断面図である。以下では、主として
図2を参照しながら説明する。
【0024】
本発明に係る薄膜シリコン太陽電池は、透明導電層1、発電層3、反射層4、太陽電池基板5から構成される。太陽電池基板5自身が高い反射率と導電性を兼ね備える場合には、反射層4は無くてもよい。
【0025】
太陽電池基板5は、発電層3の光吸収を促進するためのテクスチャ構造を有することが望ましい。
テクスチャ構造が
図2にあるような凹型構造を為す場合、非特許文献2に記載の通り、凹型構造の一辺の長さ(円形の凹型構造であればその直径)を発電層3の膜厚とほぼ同程度に調整することにより、光吸収を促進できることが知られている。
【0026】
発電層3の膜厚として0.2〜10
μmを想定すると、凹部構造の一辺の長さあるいはその直径もそれに応じて0.2〜10
μm程度に調整されることが望ましい。
【0027】
また非特許文献2に記載の通り、欠陥の少ない発電層3を成長させるために、凹部構造の深さはその一辺の長さあるいはその直径の半分以下であることが望ましい。
【0028】
太陽電池基板5は、発電層成長初期における欠陥形成を抑制できるように、テクスチャ構造の底にあたる部分に平坦底部6を設けている。
平坦底部のないV字型の凹型構造上に発電層3を成長させると、非特許文献1に記載されているように、V字形状の底から欠陥が発生しやすく、結果として太陽電池の特性を低下させる。
【0029】
この平坦底部6は完全に平坦である必要は無く、緩やかに湾曲していてもよい。
またこの平坦底部6は、凹型構造に比して小さすぎれば欠陥抑制効果が小さくなり、また大きすぎれば光散乱効果が失われるため、平坦底部6の一辺の長さあるいはその直径は凹型構造のそれの1/5〜1/2倍程度に調整することが望ましい。
【0030】
このような中空の四角錘台や円錐台等の錘台を逆さにして敷き詰めた格子模様をした、あるいは規則的な配列をした太陽電池基板上に薄膜シリコン層を形成すると、製膜に応じて凹部が縮小していき、発電層の最終的な表面には逆さにした角錐あるいは円錐に準ずるような形状を持つボイド2が生じ得る。
【0031】
ボイド2の開口角度は必ずしも一定とは限らず、底部から頂部に向かって変化し得るものである。そこで、ボイド形状を特徴づける指標として、ボイドの中央を通る断面をみたときに向かい合う2辺の為す角が最小となる角度、すなわち最小開口角度を用いる。
特に、光散乱効果を高めるように凹部の高低差の大きいテクスチャ構造を持つ基板を利用すると、ボイド2の最小開口角度7が小さくなる傾向がある。
ボイド2の最小開口角度7が120度を下回ると、その上へ成長される透明導電層の膜質および膜厚の均一性の確保が難しくなってくる。
【0032】
基板のテクスチャ構造が周期性を持つ場合には、当然ながらボイド2は発電層表面に周期的に形成される。
ボイド2は、太陽電池基板5の凹型構造を反映して形成されるものであるため、その密度は凹型構造の密度とおよそ一致する。よってボイド2は、凹部構造の一辺の長さあるいはその直径を0.2〜10
μmとした場合、発電層3の表面上において10
μm×10
μmにつき1個以上、すなわち0.01個/
μm
2以上の密度で存在する。しかしながら製膜手法によっては、ボイド2の位置が太陽電池基板5の凹型構造と必ずしも一対一に対応しない場合も有り得る。
【0033】
図2に示す実施の形態では、半導体層として結晶質薄膜シリコン層を用いているが、太陽電池特性が得られるものであれば他の半導体層でも構わない。
つまり、非晶質半導体でもよく、また材料として化合物半導体や有機材料であってもよく、さらには複数の接合が積層されたいわゆるタンデム構造をなすものであってもよい。
また、バンドギャップが不連続となるヘテロ接合を含んでいてもよい。
【0034】
透明導電層1は、上述のボイド2の底部まで到達しボイド全体を充填する形で製膜され、さらに発電層3の表面にて連続性を有する。
これにより、発電層表面に対して透明導電層が良好な被覆性を持って形成されることになり、光生成電流が効率的に収集できる。
特にボイドの最小開口角度が120度を下回ると、物理蒸着法ではボイド2の底部周辺への均一な製膜が困難となる。
【0035】
そのため、上述のような構造を持つ透明導電層1を得るために、被覆性の高い表面反応を利用した化学堆積法や原子層堆積法、液相を利用した塗布法などを用いることが好ましい。
【0036】
また、
図2においては透明導電層1の材料として酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズあるいはその合金のような高透明性かつ高導電性を有する無機材料を想定しているが、透明性・導電性を有していれば有機材料であってもよい。
【0037】
図3は、本発明と比較するための、本発明を適用しない薄膜太陽電池を示す断面図である。
図2の断面図との相違点は透明導電層1の形態である。
図3では、透明導電層1が反射防止膜を兼ねて膜厚が100nm以下の薄膜で形成された場合を想定している。
【0038】
このような薄膜の透明導電層1は物理蒸着法で製膜されることが一般的であるが、開口角の小さいボイド2がある場合、シャドウ効果によってボイド底部において膜厚の低下あるいは膜の不連続が生じる。
このような不均一性・不連続性があると、ボイド近傍における光生成電流の収集が不十分となる上に、電極としての電気抵抗が増加し、光電変換効率の低下を招く。
【0039】
図4は、本発明の効果を比較するために実験的に作製した薄膜微結晶シリコン太陽電池の断面電子顕微鏡像を示す図である。
図4の左側は本発明に係る微結晶シリコン太陽電池、右側は本発明を適用しなかった微結晶シリコン太陽電池である
【0040】
この2つの太陽電池は、平坦底部6を持つ凹型構造を三角格子状換言すればハチの巣模様に周期的に配列したテクスチャ構造からなる同一形状の太陽電池基板5に対し、銀および酸化亜鉛の積層構造からなる裏面電極兼反射層を形成し、その上部にプラズマ支援化学気相化学堆積法にて発電層3に相当する微結晶シリコン層を形成し、さらに透明導電層1を形成することで作製される。太陽電池基板5は、中空の円錐台を逆さにした凹型構造を有し、円錐台の開口部直径は2.5
μm、平坦底部6の直径はその1/3程度である。また発電層3の膜厚は2
μm程度であり、発電層表面のボイド2の最小開口角度は55度程度、その表面密度は0.3個/
μm
2程度である。
【0041】
図4の左図では、透明導電層1は化学気相堆積法で形成された膜厚2
μm程度のホウ素添加酸化亜鉛層からなり、発電層3の表面に形成されたボイド2を完全に充填しつつ、かつ発電層の頂部を結ぶ線9を超えて製膜され、面内方向の連続性も確保されている。
【0042】
一方
図4の右図では、透明導電層1は物理蒸着法の一つであるスパッタリング法で形成されたITO層からなり、その膜厚は反射防止効果を期待して70nm程度としている。
この場合、発電層3の表面に形成されたボイド2の底部にて、透明導電層1の膜厚が不均一となり、一部では膜の欠損が認められる。
このような構造では、発電層3で発生した光生成電流の収集が不十分となり、かつまた透明導電層1全体としての電気抵抗が増加するために、発電特性が低下する。
【0043】
図5は、
図4に示した本発明の効果を比較するために実験的に作製した薄膜微結晶シリコン太陽電池の発電特性を比較した例である。
ここでは、
図4に示した各微結晶シリコン太陽電池に対し、エアマス1.5における太陽光を模擬した光を入射して電流−電圧特性および電力−電圧特性を取得し比較している。
【0044】
電流−電圧特性から明らかなように、厚膜の透明導電層を化学気相堆積法で作製した本発明に係る薄膜微結晶シリコン太陽電池では、最大電力密度を与える点において曲線因子が向上し、結果として光電変換効率が向上することが理解される。
【0045】
以上説明したように、本発明に係る薄膜太陽電池は、その発電層の表面に開口角度の小さいボイドを高密度に有していても、それらを透明導電層で充填させかつ透明導電層の連続性を確保することで光生成電流を効率よく収集でき、ひいては高い光電変換効率が期待できる。