【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明に係る三次元画像生成装置は、励起ビームを被検物に照射する照射部と、前記励起ビームが照射された前記被検物から生じるX線を検出するX線検出器と、前記X線検出器の出力から前記被検物の表面の傾きに関する情報を算出する傾き算出部と、前記傾き算出部により得られた傾き情報を用いて三次元再構成により前記被検物の三次元画像を生成する三次元画像生成部とを備えることを特徴とする。
【0006】
このようなものであれば、傾き算出部がX線検出器の出力から被検物の表面の傾きに関する情報を算出し、三次元画像生成部が傾き算出部により得られた傾き情報を用いて三次元再構成により被検物の三次元画像を生成するので、被検物から生じるX線を用いて被検物の三次元画像を生成することができる。
【0007】
初めに座標系を
図1のように定義する。電子線などの励起ビームを被検物表面に入射させる時、励起ビームの照射位置を原点として、励起ビームの照射方向と略一致する方向にZ軸を考え、Z軸と垂直な平面としてXY平面を想定する。一般的には水平面がXY平面となることが多いと考えられる。
【0008】
励起ビームの照射位置における被検物表面の接平面は、XY平面に対して、任意の方向に傾斜角度θ傾いているとする。このとき、XY平面に対して取出し角度ψの向きに設置したX線検出器で観測されるX線の強度は、少なくとも傾斜角度θの関数であり、以下の式(1)に示すように、二つの関数EとDの積の形で書くことができる。
【0009】
【数1】
【0010】
なお、X線検出器とZ軸とを含む平面をXZ平面とする。すなわち、X線検出器の検出位置を、Z軸に沿ってXY平面上に投影した点は、X軸上にあると仮定する。
【0011】
ここで、Eは、発生するX線強度の比率を表す関数であり、Dは、被検物中を通過するX線が吸収される減衰率(正確には減衰率の比率)を表す関数である。また、I
m(0)は、被検物表面の接平面がXY平面と平行な
図2A(a)の時、すなわちθ=0の時のX線検出器の出力である。よって関数Eと関数Dは、θ=0の時を基準として、そこからの変化を比率として表す関数である。
【0012】
上記の式(1)において、発生するX線強度の比率を表す関数Eについて考察する。
被検物表面の接平面がXY平面から傾斜角度θ傾くと、発生するX線強度が変化する。この際、被検物表面の傾斜方向とは無関係に、発生するX線強度は傾斜角度θ(のスカラー値)に支配される。よって、発生するX線強度の比率(θ=0の時に対する比率)を表す関数Eは、傾斜角度θの関数E(θ)となる。
【0013】
次に、接平面の傾斜角度θの変化と、関数E(θ)の関係について考察する。
被検物表面に入射させる励起ビームが直径dの円形断面を有する場合を例に説明を続ける。被検物表面の接平面がXY平面と平行な
図2A(a)の場合(θ=0の場合、接平面に対して励起ビームが直角に入射する場合)、被検物表面上では直径dの円形領域が励起ビームによって照射される。
【0014】
しかしながら、被検物表面が
図2A(b)のようにXY平面から傾斜角度θだけ傾くと、長径がd/cosθ、短径がdとなる楕円領域が励起ビームの照射領域となる。したがって、接平面の傾斜角度θが大きくなるほど、楕円の長径が長くなり、被検物表面上で励起ビームに照射される面積が増えることになる。このため、励起ビームによって被検物に供給されるエネルギーは、単位面積当たりの強度として考えると、傾斜角度θの増加と共に単調に減少することになる。そして、接平面の傾斜角度θがπ/2に達すると、楕円形状の長径が無限大となるので、励起ビームの単位面積あたりのエネルギーはゼロとなる。これは、励起ビーム自体が被検物によって遮蔽されるために、照射される励起ビームが届かなくなることに相当する。
【0015】
したがって、発生するX線強度の比率を表す関数E(θ)は、接平面の傾斜角度がθ=0の時に極大値E(0)=1となり、接平面の傾斜角度θの絶対値の増加に対して単調に減少し、θ=±π/2においてE(±π/2)=0となる関数でなくてはならない。すなわち、関数E(θ)は、接平面の傾斜角度θに対する偶関数である。
【0016】
また、接平面の傾斜角度θの絶対値の増加に対して、関数E(θ)が単調に減少する割合や、傾斜角度θに対する関数E(θ)の変化の仕方などは、X線を発生する元素によって変化する。これは、X線の発生量が、励起ビームなどから供給されるエネルギーに対して非線形であり、かつ、その程度が元素毎に異なるからである。加えて、被検物表面に照射された励起ビームのエネルギーは、その全てが被検物内部に侵入するわけではなく、一部は反射されることにも注意しなくてはならない。すなわち、接平面の傾斜角度θが増えるほど、反射される励起ビームのエネルギー割合も増えるからである。しかも、この傾斜角度θに対する反射エネルギー割合の変化は、元素毎に異なることが知られている。このため、発生するX線強度の比率を表す関数E(θ)は、少なくとも「X線を発生する元素で決まる材料固有の係数であるm1」を含めなくてはならない。
【0017】
以上の考察をまとめると、式(1)において発生するX線強度の比率を表す関数Eは、傾斜角度θの関数であり、かつ、X線を発生する元素で決まる材料固有の係数であるm1を有する関数E(m1,θ)となる。また傾斜角度θの境界条件として、θ=0の時に極大値E(m1,0)=1となり、θの絶対値の増加に対して単調に減少し、θ=±π/2においてE(m1,±π/2)=0となる関数でなくてはならない。なお、材料固有の係数であるm1は、より詳細な理論検討から元素毎に解析的に導き出しても良いし、モンテカルロ法などの周知のシミュレーション技術を用いて数値解析しても良い。または後述の方法によって実験的に決定しても良い。
【0018】
以上のような条件を満たす関数E(m1,θ)の具体的な例としては、以下の式(2)を用いることができる。
【0019】
【数2】
【0020】
m1の具体的な値としては、0〜2程度の実数となる。例えばW(タングステン)やAu(金)などの元素のM線を利用する場合0.8に近い値を取る。一方、Ni(ニッケル)やTi(チタン)などの元素では、K線を利用する場合には0.5程度の値を取るが、L線を利用する場合には0.8を超える値となる。
【0021】
この様にして被検物内部で発生したX線は、物質に対する透過力が大きいので、被検物中を通過して直線的に進み、X線検出器に到達して検出される。しかし透過力が大きいとはいっても、被検物中を通過するX線は吸収を受けて減衰する。しかも被検物中を通過する距離に対して、指数関数的に(急激に)減衰することが知られている。従って、式(1)におけるX線が吸収される減衰率を表す関数Dについては、被検物中をX線が通過する距離についての考察が必要となる。
【0022】
まず、被検物表面の接平面がXY平面と平行な時、すなわちθ=0の時に、X線が単位深さにおいて発生した
図2B(a)のような場合を考える。
図2B(a)は励起ビームが照射された位置を中心としたXZ平面の断面図である。被検物内部の深さが1となる位置で発生したX線は、距離L
0=cosecψだけ被検物中を通過した後、XY平面に対して取出し角度ψの向きに設置したX線検出器に達する。この時にX線検出器が検出するX線強度は、以下の式(3)となる。
【0023】
【数3】
【0024】
ここで、I
o(0)は、単位深さにおいて発生したX線の強度である(強度の比率ではない)。また、m2は、被検物中を通過するX線が指数関数的に減衰する度合いを決定する係数であり、少なくともX線を発生する元素とX線を吸収する元素とで決まる材料固有の係数である。
【0025】
次に
図2B(a)の状態と
図2B(b)の状態とを比較する。
図2B(b)は、被検物表面の接平面が、XY平面に対してY軸回りに時計方向に回転して、θ
yだけ傾斜している状態である。
図2B(b)では、発生したX線が被検物中を進む距離がL
1だけ短くなることがわかる。この短くなる距離L
1は、接平面の傾斜角度θのY軸成分θ
yと、X線検出器の取出し角度ψに依存する。
【0026】
同様に、被検物表面の接平面がY軸回りに反時計方向に回転した
図2C(a)の状態を考えると、発生したX線が被検物中を進む距離がL
2だけ長くなることがわかる。この長くなる距離L
2も、接平面の傾斜角度θのY軸成分θ
yと、X線検出器の取出し角度ψに依存する。
【0027】
よって、式(1)におけるX線が吸収される減衰率を表す関数Dは、接平面の傾斜角度θのY軸成分θ
yの関数D(θ
y)となる。また、X線検出器の取出し角度ψにも依存するので、取出し角度ψを含む関数D(θ
y,ψ)となる。ここで最も注意が必要なのは、接平面の傾斜角度θと、そのY軸成分θ
yの区別である。すなわち式(1)において発生するX線強度の比率を表す関数Eは、傾斜角度θの関数であり、傾斜角度θの方向は問わない。一方、式(1)においてX線が吸収される減衰率を表す関数Dは、傾斜角度θのY軸成分θ
yの関数である。例えば、
図2B(a)の状態からX軸周りにθ
xだけ接平面が回転した場合を考えてみると、発生するX線強度の比率はE(m1,0)からE(m1,θ
x)へと減少するが、X線が吸収される減衰率は変化しない。θ
y=0のままだからである。
【0028】
次に、接平面の傾斜角度θのY軸成分θ
yの変化と、関数D(θ
y、ψ)との関係について考察する。
図2B(a)の状態はθ=0、したがってθ
y=θ
x=0の状態である。この時、式(1)の左辺I
m(θ)はθ=0の時のX線検出器の出力であるから、右辺のI
m(0)に一致する。また、発生するX線強度の比率を表す関数Eは、E(m1,0)=1としたので、X線が吸収される減衰率を表す関数Dは、D(0,ψ)=1とすれば良い。
【0029】
次に、被検物表面の接平面が、XY平面に対してY軸回りに時計方向にθ
y(θ
yは正の値)だけ傾斜した場合には、
図2B(b)のように発生したX線が被検物中を進む距離がL
1だけ短くなる。この距離L
1は、θ
yの増加と共に単調に増加するので、X線が吸収される減衰率を表す関数D(θ
y、ψ)も単調に増加する。そして、θ
yの最大値π/2に到達すると、被検物中で発生したX線は、減衰することなくX線検出器へと到達する。この時、X線が吸収される減衰率を表す関数Dは、D(π/2,ψ)=exp(m2・cosecψ)で無くてはならない。そうすると、式(1)は式(3)を考慮して、以下の式(4)に示すように減衰項を含まない式とできる。
【0030】
【数4】
【0031】
なお、以上の議論は関数Dの境界条件を定めるために考察した結果であり、実際には、θ=θ
y=π/2であるので、E(m1,π/2)=0となるから、I
m(π/2)=0となる。
【0032】
次に、被検物表面の接平面が、XY平面に対してY軸回りに反時計方向にθ
y(θ
yは負の値)だけ傾斜した場合には、
図2C(a)のように発生したX線が被検物中を進む距離がL
2だけ長くなる。この距離L
2は、θ
yの減少(絶対値の増加)と共に単調に増加するので、X線が吸収される減衰率を表す関数D(θ
y,ψ)は単調に減少する。そして、θ
y=−ψに達した
図2C(b)の状態では、発生したX線が被検物によって遮蔽された状態となるので、X線検出器に届くX線強度は概ねゼロとなる。よって、D(−ψ,ψ)=0とすべきである。
【0033】
以上の考察をまとめると、式(1)において被検物中を通過するX線が吸収される減衰率(正確には減衰率の比率)を表す関数Dは、傾斜角度θのY軸成分θ
yの関数である。また、X線が通過する距離はX線検出器の取出し角度ψにも依存するので、取出し角度ψを含む関数となる。さらに式(3)の定義からわかるように、「被検物中を通過するX線が指数関数的に減衰する度合いを決定する係数」m2を有する関数D(m2,θ
y,ψ)となる。またθ
yの境界条件として、θ
y=−ψの時に最小値D(m2,−ψ,ψ)=0となり、θ
yの増加に対して単調に増加して、θ
y=0の時にD(m2,0,ψ)=1となる関数でなくてはならない。さらにθ
yの増加と共に単調増加を続け、θ
y=π/2に達するとD(m2,π/2,ψ)=exp(m2・cosecψ)となる関数である。ここで、m2およびψは正の値をとるので、exp(m2・cosecψ)>1であり、D(m2,π/2,ψ)は、1よりも大きい有限の値となる。
【0034】
なお、材料固有の係数であるm2は、より詳細な理論検討から元素毎に解析的に導きだしても良いし、モンテカルロ法などの周知のシミュレーション技術を用いて数値解析しても良い。または後述の方法によって実験的に決定しても良い。
【0035】
以上のような条件を満たす関数D(m2,θ
y,ψ)の具体的な例としては、以下の式(5)を用いることができる。
【0036】
【数5】
【0037】
m2の具体的な値としては、0〜2程度の実数となる。例えばW(タングステン)やAu(金)などの元素のM線を利用する場合0.9に近い値を取る。一方、Ni(ニッケル)やTi(チタン)などの元素では、K線を利用する場合には0.3程度の値を取るが、L線を利用する場合には1.0を超える値となる。
【0038】
本発明の三次元画像生成装置は、
図3に示すように、前記励起ビームを挟んで対向しており、その検出方向がY軸に直交するように設けられた第1のX線検出器及び第2のX線検出器を備え、前記傾き算出部は、前記第1及び第2のX線検出器の出力I
m1、I
m2の比を用いて、前記回転角度(前記傾斜角度θのY軸成分)θ
yを算出することが望ましい。
【0039】
式(1)を2つのX線検出器の出力I
m1、I
m2について書き直すと、以下となる。
【0040】
【数6】
【0041】
両者の比を取ると、以下の式(6)に示すように、傾斜角度θを消去できる。
【0042】
【数7】
【0043】
この式(6)を解いて、Y軸周りの回転角度(傾斜角度θのY軸成分)θ
yを求める。そのためには、X線が吸収される減衰率を表す関数D(m2,θ
y,ψ)を定める必要があるが、実験結果などに合致するような関数を用意すればよい。
【0044】
式(6)が成立するのは、−ψ<θ
y<ψの範囲だけである。傾斜角度θが大きくなって、傾き角度θ
yがX線取り出し角度ψを超えると、被検物がX線を遮蔽するためにX線検出器の出力が得られないからである。このような場合には、後述する発明を利用する。
なお、式(6)においては、2つのX線検出器の取り出し角を同一としているが、異なる取り出し角ψ
1≠ψ
2であっても良い。
【0045】
また、本発明の三次元画像生成装置は、
図4に示すように、前記第1及び第2のX線検出器と互いに直交する方向に設けられた第3のX線検出器をさらに備え、前記傾き算出部は、前記第1又は第2のX線検出器の出力と前記第3のX線検出器の出力との比を用いて、前記傾斜角度θのX軸成分θ
xを算出することが望ましい。
【0046】
式(1)を直交する2つのX線検出器の出力I
m1、I
m3について書き直すと、以下となる。
【0047】
【数8】
【0048】
両者の比を取ると、以下の式(7)に示すように、傾斜角度θを消去できる。
【0049】
【数9】
【0050】
上記の式(6)などを用いてY軸周りの回転角度θ
yが既知の場合、式(7)を解いてX軸周りの回転角度θ
xを求めることができる。X線が吸収される減衰率を表す関数D(m2,θ
x,ψ)は、上記の式(6)と同じ関数を利用すればよい。
式(7)が成立するのは、−ψ<θ
x<90degの範囲であるので、上記の式(6)を用いた場合よりも広い傾斜角度θの範囲に対応できるという効果がある。
【0051】
さらに、後述するように4つ目のX線検出器(第4のX線検出器)を追加すれば、−90deg<θ
x<90degの範囲に対応できる。この際、式(7)の左辺において比を取るX線検出器は以下のように選択するのが良い。
第1のX線検出器の出力I
m1と第2のX線検出器I
m2の出力の大きい方を式(7)の分母に選択する。
第3のX線検出器の出力I
m3と第4のX線検出器I
m4の出力の大きい方を式(7)の分子に選択する。
【0052】
本発明の三次元画像生成装置は、前記励起ビームを挟んで対向して設けられた第1のX線検出器及び第2のX線検出器と、前記励起ビームを挟んで対向し、前記第1及び第2のX線検出器と互いに直交する方向に設けられた第3のX線検出器及び第4のX線検出器とを備え、前記傾き算出部は、2次元的に走査された前記励起ビームの各照射位置における前記4つのX線検出器の出力を用いて、前記各照射位置における法線ベクトルを算出するものであり、前記三次元画像生成部は、各照射位置における法線ベクトルを積分して前記被検物の三次元画像を生成することが望ましい。
【0053】
具体的に傾き算出部は、第1のX線検出器又は第2のX線検出器の何れか一方の出力と、前記第3のX線検出器又は第4のX線検出器の何れか一方の出力と、傾きに関する幾何学的な関係式とを用いて、前記各照射位置における法線ベクトルを算出することが望ましい。
【0054】
式(1)を直交する4つのX線検出器について書き直すと、以下となる。
【0055】
【数10】
また、幾何学的な関係から、以下の式(9)が成立する。
【0056】
【数11】
上記の通り、3つの未知数θ
x,θ
y,θに対して、少なくとも3つの式が成立するので、これを解くことにより、全ての未知数θ
x,θ
y,θを決定できる。
【0057】
また、法線ベクトルN=(N
x,N
y,N
z)は、以下の式により求めることができる。
【0058】
【数12】
であるので、簡単に求めることができる。
【0059】
式(8x)(8y)及び式(9)を解くためには、X線が吸収される減衰率を表す関数D(m2,θ
y,ψ)に加えて、発生するX線強度の比率を表す関数E(m1,θ)を定める必要があるが、実験結果などに合致するような関数を用意すればよい。
【0060】
また、4つのX線検出器の出力から、以下のように選択するのが良い。
第1のX線検出器の出力と第2のX線検出器の出力との大きい方を式(8y)に選択する。
第3のX線検出器の出力と第4のX線検出器の出力との大きい方を式(8x)に選択する。
【0061】
ここで、出力が大きい方とは、減衰距離が短い方のX線検出器である。すなわちSN比が高い出力を選択できるので、より高精度の計算が可能となる。このように4つのX線検出器の出力を選択することで、任意の傾きに対して、直交する2方向のX線検出器の出力を得ることができるので、−90deg<θ
x,θ
y,θ<90degの範囲に対応でき、検出可能な角度を大きく広げることができる。
なお、式(8x)(8y)においては、4つのX線検出器の取り出し角ψを同一としているが、X線検出器毎に異なる取り出し角としても良い。
【0062】
本発明において、傾き算出部が、前記4つのX線検出器の出力を用いて、前記各照射位置における法線ベクトルを算出するものであり、前記三次元画像生成部が、各照射位置における法線ベクトルを積分して前記被検物の三次元画像を生成する場合には、以下のように構成することが望ましい。
つまり、三次元画像生成部は、前記第1及び第2のX線検出器の出力が所定値に満たない領域、又は、前記第3及び第4のX線検出器の出力が所定値に満たない領域を除外して前記積分を行うことが望ましい。
【0063】
第1及び第2のX線検出器の出力I
m1,I
m2が所定値に満たない場合には、Y軸周りの傾き角度θ
yを求めることが困難になる(或いは、計算はできても精度が悪い)。また、第3及び第4のX線検出器の出力I
m3,I
m4が所定値に満たない場合には、X軸周りの傾き角度θ
xを求めることが困難になる。よって、これらの条件を満たす点については、積分処理から除外する。
【0064】
前記傾き算出部は、前記励起ビームの各照射位置において前記被検物に含まれる元素毎に個別の法線ベクトルを算出し、各元素に対応した個別の法線ベクトルに重み付けをして加算した合成法線ベクトルを算出するものであることが望ましい。このとき、三次元画像生成部は、合成法線ベクトルを積分して前記被検物の三次元画像を生成する。
【0065】
本発明の三次元画像生成装置を適用することができるX線分析装置は、被検物から発生するX線をX線検出器で検出し、特性X線又は蛍光X線のスペクトルから被検物に含有される元素の定性分析又は定量分析を行う分析装置である。すなわち、M個の元素からなる被検物では、各元素の強度分布を2次元的に取得することができ、上述した各X線検出器からX線画像をM個計測できる。そこで、各元素に対して、法線ベクトルN(x,y)
i(i=1〜M)が所定の手法により計算できるので、合成法線ベクトルN(x,y)は、以下の式により求めることができる。
【0066】
【数13】
【0067】
ここで、W
iは、i番目の元素に対する重みである。なお、重みW
iは、元素の含有率に応じて決定しても良い。また、重みW
iは、含有率が最も高い元素についてのみ1として、他の元素に対してはゼロとしても良い。
このように合成法線ベクトルを求めることにより、複数の元素からなり、その成分割合が場所により異なる被検物であっても、正しい三次元再構成結果が得られる。また、所定の元素からなる被検物の上に、異なる元素からなる異物が部分的に付着したような場合であっても、正しい三次元再構成結果が得られる。
【0068】
励起ビームの2次元的な走査方向や走査範囲は、任意で良い。例えば、
図5のように、4つのX線検出器の配置から定まるX,Y軸に対して、Z軸周りにα=45度回転した座標系X’,Y’軸を設定し、X’,Y’軸に沿って2次元的に正方形の範囲を走査して良い。X,Y軸とX’,Y’軸との間の相互座標変換は、公知の回転座標変換式を用いて容易に変換できる。
【0069】
例えば、被検物表面の法線ベクトルN(x,y)=(N
x,N
y,N
z)は、X,Y軸に対する法線ベクトルであるが、N
x’=N
xcosα−N
ysinα、N
y’=N
xsinα+N
ycosαと変換して、X’,Y’軸から見た法線ベクトルN(x’、y’)=(N
x’,N
y’,N
z)を直ちに計算できる。
【0070】
一般的に、X線検出器の出力を画像表示する場合には、2次元的な走査方向X’,Y’軸を基準として縦横の関係を表示するのが望ましい。一方、X線検出器の出力から被検物表面の法線ベクトルを求める場合には(式(1)等を利用するので)、X,Y軸を用いる必要がある。ここに、X,Y軸は励起ビームを挟んで対向する2つのX線検出器を結ぶ方向であり、X’,Y’軸とは一致しているとは限らない。上記のように両座標軸間の座標変換式を用いればよい。
【0071】
なお、励起ビームの2次元的な走査を行う場合には、走査位置に応じたX線検出器の出力補正が必要になる場合がある。X線検出器の有効検出面積が小さい場合は、このような補正は必要ない。しかし、検出感度を高める目的で有効検出面積が大きいX線検出器を用いる場合には、励起ビームの操作位置に応じて、X線検出器の出力を補正しなくてはならない。
これは、励起ビームが照査される位置とX線検出器との距離に応じて、X線検出器の有効検出領域を臨む立体角が三次元的に変化するからである。すなわち、励起ビームが照査された位置が、X線検出器に近くなるほど、立体角が大きくなる。立体角が大きくなると、その位置で発生し四方八方へ均一に広がるX線のうち、X線検出器に届く有効X線が増えることになるので、検出されるX線強度も高くなる。
補正方法は、以下のように行えばよい。すなわちXY平面に平行に(励起ビームに直交する方向に)単元素からなる平面の被検物を設置する。この状態で所定の面積を励起ビームで二次元的に走査し、各点におけるX線出力を記録する。被検物の形状は平面であるので、励起ビームのスキャン位置に応じて、各点からX線検出器までの距離に対するX線検出器の出力の変化を知ることができる。通常、それは距離に比例するので、比例係数を最小二乗法などにより決定すればよい。
【0072】
ところで、大面積のX線検出器を用いる場合には、X線の検出効率は高くなるが、いろいろな向きに飛び出したX線の平均的な値を計測することになる。このような場合であっても、X線検出器の出力から被検物接平面の傾きを求める方法や、そのために必要な材料定数等の定数を求める方法、および傾きを積分して三次元形状を計算する方法は全く同じとなる。単に、X線検出器内の1点を代表検出位置として取り扱えばよい。例えば、X線検出器において被検物に近い側の端部と、遠い側の端部では、X線の取出し角度ψが変化する。しかしながら、両者の中央位置を代表検出位置として、あたかもこの位置に点検出型のX線検出器があるかのように取り扱えば良い。代表検出位置は幾何学的な中央位置でも良いし、面積中心位置(面積が均等となる位置)、角度中心位置(角度が1/2となる点)など、任意に定めればよい。
【0073】
また、本発明に係る三次元画像生成装置の係数算出方法は、上述した三次元画像生成装置における係数m1、m2の算出方法であって、検出方向が互いに直交するように2つのX線検出器を配置し、2つ以上の異なる既知角度に形状既知の被検物を傾斜又は回転させた状態のそれぞれにおいて前記2つのX線検出器により得られた出力を用いて係数m1、m2を算出する。
【0074】
図6、
図7に示すように、被検物表面の接平面がY軸周りにのみ回転(傾斜)することにより、θ
x=0となり、検出方向が互いに直交するように2つのX線検出器(上記においては例えば第1のX線検出器及び第3のX線検出器)の出力は、以下となる。
【0075】
【数14】
【0076】
2つ以上の異なる回転角度θ
yに対する第3のX線検出器の出力I
m3がわかっているから、発生するX線強度の比率を表す関数E(m1,θ)に関連した材料固有の係数m1を式(10)から決定することができ、関数E(m1,θ)を定めることができる。なお、
図6は、θ
y=30deg,θ
x=0degの例であり、
図7は、θ
y=15deg,θ
x=0degの例である。
【0077】
さらに、同時に記録した第1のX線検出器の出力は、式(11)に式(10)を代入して、
【0078】
【数15】
と書けるので、被検物中を通過するX線が吸収される減衰率を表す関数D(m2,θ
y,ψ)に関連した材料固有の係数m2を式(12)から決定することができ、関数D(m2,θ
y,ψ)を定めることができる。
【0079】
この際、平面状の被検物を回転(傾斜)させる回数は、関数E(θ)またはD(θ
y,ψ)に含まれる(未定)係数の数以上であれば良い。平面状の被検物を回転(傾斜)させる回数が(未定)係数の数を超える場合には、最小二乗法などを用いて(未定)係数を決定すれば良い。なお、未定係数の数は、関数E(θ)またはD(θ
y,ψ)を、どのように定めるのかによって変わるが、式(1)を
【0080】
【数16】
とした場合には、材料固有の係数m1,m2の各1個が未定係数となる。加えて、XY平面に対するX線検出器の観測値I
m(0)も未定係数としても良い。ただし、I
m(0)を定める場合には、θ
x=θ
y=0となる状態、すなわち平面状の被検物がXY平面と平行な状態(励起ビームに直交する状態)で計測を行ったほうがよい。
【0081】
また、平面状の被検物が励起ビームに直交する状態では、4つのX線検出器の出力が同一となる。
【数17】
このことを利用して、被検物の回転角度の原点を定めることも可能である。すなわち、平面状の被検物に対して、4つのX線検出器の出力が同じなるように傾きを調整し、その姿勢を被検物回転角度の原点とすればよい。
【0082】
さらに、励起ビームをXY平面内の所定範囲で走査させて、各走査位置から発生したX線を順次記録しても良い。全走査位置に対応する記録結果を平均化すれば、ランダムノイズなどの計測ノイズの影響を排除できる。
【0083】
励起ビームを走査する場合には、被検物の形状が未知であってもかまわない。4つのX線検出器の出力が同一であれば、その位置における被検物の接平面はXY平面と平行な状態だからである。4つのX線検出器の出力が同一となる位置を探索してから、被検物を回転(傾斜)させ、その位置におけるX線検出器の出力を利用すれば良い。
【0084】
このことを応用すると、形状が未知の被検物であっても、少なくともXY平面に対するX線検出器の観測値I
m(0)は常に(被検物を回転させるまでもなく)計測可能であることがわかる。すなわち、励起ビームをXY平面内の所定範囲で走査させて、4つのX線検出器の出力が同一となる位置を探索すればよい。式(13)より直ちにXY平面に対するX線検出器の観測値I
m(0)を計算できる。複数の位置での平均値を取れば、ランダムノイズなどの計測ノイズの影響を排除できるので、さらに好都合である。
【0085】
別の応用例として、例えば、円柱形状の被検物を用いた場合にその稜線を求めることができる。直径などの形状が未知であった場合でも、円筒面の稜線上においては、その接平面はXY平面と平行となるので、4つのX線検出器の出力が同一となる。したがって、4つのX線検出器の出力が同一となる位置を探索すれば、円筒面の稜線を求めることができる。
【0086】
さらに、本発明に係る三次元画像生成装置の係数算出方法は、上述した三次元画像生成装置における係数m1、m2の算出方法であって、検出方向が互いに直交するように2つのX線検出器を配置し、円柱形状の被検物を前記励起ビームと直交する方向であって、一方のX線検出器の検出方向に向かう方向にその軸方向を設けて設置し、前記励起ビームを走査させて、各走査位置において前記2つのX線検出器により得られた出力を用いて係数m1、m2を算出することを特徴とする。
【0087】
この方法であれば、円柱の円周方向に見た各点での接平面(
図8参照)は、上述した算出方法と同じ状況(Y軸周りに回転した平面)を確保できるので、被検物を傾けるような手間無く、-90deg〜90degの広い角度範囲に渡って、多数の角度に対する結果を一度の測定で取得でき、材料固有の係数m1,m2などを高精度に決定できる。また、広い角度範囲に渡る多数の角度に対するE(m1,θ)、D(m2,θ
y,ψ)の値を取得できるので、角度θに対するE(m1,θ)、D(m2,θ
y,ψ)の参照テーブルを用意できる。よって、E(m1,θ)、D(m2,θ
y,ψ)の具体的な関数を仮定する必要がない。
【0088】
また、円柱形状の被検物の円周方向の座標が同じ点について、X線検出器の出力を平均化して処理することが望ましい。円柱の円周方向座標が同じであれば、軸方向(Y軸方向)に異なる位置であっても、Y軸周りの傾きθ
yは同一となる。すなわち、同じ測定条件が満たされているので、平均化すれば計測ノイズ等の影響を排除できる。