【実施例】
【0038】
以下、実施例等に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(統計解析)
以下の実施例において、統計解析はKaleida Graph4.5(HULINKS社)を用いて、分散分析(One-Way ANOVA)を行った後、多重比較(Tukey’s HSD Test)で検定した。
【0040】
〔試験例1:細胞を用いた抗腫瘍効果の評価〕
1.細胞培養の条件
(細胞)
乳癌細胞株(MDA-MB231-luc-D3H2LN)、胃癌細胞株(MKN45)、及び大腸癌細胞株(HCT116)を使用した。
【0041】
(試薬)
細胞培養においては、以下の試薬を用いた。
RPMI1640(Invitrogen社製)
McCoy’ medium 5A modified medium(Invitrogen社製)
Heat-inactivated Fetal Bovine Serum(FBS)(Invitrogen社製)
100X Antibiotic-Antimycotic(Invitrogen社製)
0.5% Trypsin-EDTA(Invitrogen社製)
【0042】
(細胞培養方法)
乳癌細胞株及び胃癌細胞株では、培養培地として、RPMI1640にFBS及び100XAntibiotic-Antimycoticを終濃度がそれぞれ10%(v/v)及び1%(v/v)になるように添加したものを用いた。培養は暗所にて、37℃、5%CO
2の条件で行った。継代の際の細胞剥離は0.05% Trypsin-EDTAを用いて行った。
大腸癌細胞株(HCT116)では、培養培地として、McCoy’ medium 5A modified mediumにFBS及び100X Antibiotic-Antimycoticを終濃度がそれぞれ10%(v/v)及び1%(v/v)になるように添加したものを用いた。培養は暗所にて、37℃、5%CO
2の条件で行った。継代の際の細胞剥離は0.05% Trypsin-EDTAを用いて行った。
【0043】
2.細胞生存率の測定
(試薬及びキット)
以下に示す試薬及びキットを使用した。
レスベラトロール(trans-Resveratrol、Cayman Chemical社製)
プテロスチルベン(Pterostilbene、Cayman Chemical社製)
Cell Counting Kit-8(株式会社 同仁化学研究所製)
【0044】
(評価方法)
上記の乳癌細胞、胃癌細胞、及び大腸癌細胞を96ウェルプレートに各ウェル当たり細胞数が2,500個となるように播種した。播種した翌日に、レスベラトロール又はプテロスチルベンを、それぞれ12.5μM、25μM、50μM又は100μMとなるように添加した。3日間培養後に、Cell Counting Kit-8を用い、製造元のプロトコールの条件に従って、450nmの吸光度を測定することにより、生細胞数を測定した。コントロール(Mock)としては、レスベラトロール又はプテロスチルベンを添加しなかったこと以外は、上記同様にして、生細胞数を測定したものを用いた。450nmの吸光度測定にはSynergy
TM H4 Hybrid Microplate Reader(BioTek社製)を使用した。各群(レスベラトロール群又はプテロスチルベン群)の細胞生存率は、コントロールにおける生細胞数を100%としたときの値とした。結果を
図1に示す。
図1(A)〜(C)は、それぞれ乳癌細胞、胃癌細胞、又は大腸癌細胞を用いたときの細胞生存率測定結果を示す。
図1中、エラーバーは、標準誤差を示す。
【0045】
図1に示すとおり、レスベラトロール又はプテロスチルベンを添加することにより、いずれの癌細胞においても細胞生存率が低減した(コントロールとの対比)。プテロスチルベンを添加した場合、レスベラトロールを添加した場合と比較して、細胞生存率がより低減された。
【0046】
3.癌抑制的マイクロRNA(miRNA)の定量
(細胞)
癌抑制的マイクロRNA(miRNA)の定量においては、上記の乳癌細胞株(MDA-MB231-luc-D3H2LN)を使用した。
【0047】
(試薬)
試薬及びキットとしては、以下のものを用いた。
レスベラトロール(trans-Resveratrol、Cayman Chemical社製)
プテロスチルベン(Cayman Chemical社製)
miRNeasy(登録商標) Mini Kit(QIAGEN社製)
TaqMan(登録商標) MicroRNA assay(Applied Biosystems社製)
TaqMan(登録商標) MicroRNA Reverse TranscriptionKit(Applied Biosystems社製)
TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix, NoAmpErase(登録商標) UNG(AppliedBiosystems社製)
【0048】
(癌抑制的マイクロRNAの定量解析)
癌抑制的マイクロRNAとして知られているlet−7a、let−7b、miR−26a、miR−107、miR−126、miR−185、miR−200c、miR−141、miR−34a及びmiR−193bを以下の方法により定量した。
まず、上記の乳癌細胞に、レスベラトロール又はプテロスチルベンを、それぞれ濃度25μMになるように添加した。2日後にmiRNeasy(登録商標) Mini Kit を用いて、製造元推奨のプロトコールに従い、RNAを抽出した。抽出したRNAは、TaqMan(登録商標) MicroRNA assay とTaqMan(登録商標) MicroRNA Reverse TranscriptionKitとを用いて、それぞれ製造元推奨のプロトコールに従い、相補的DNA(cDNA)に変換した。そのcDNAを鋳型にして、TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix, NoAmpErase(登録商標) UNG を用いて、StepOnePlus
TMReal-Time PCR System(Applied Biosystems)により、miRNAの定量解析を行った。レスベラトロール又はプテロスチルベンを添加しなかったこと以外は上記同様にして、miRNAの定量解析を行ったものをコントロール(Mock)とした。結果を
図2及び3に示す。
図2及び3中、エラーバーは、標準誤差を示す。また、
図2及び3中、*を付したデータはp<0.05である。
【0049】
(評価結果)
図2及び3に示すとおり、レスベラトロール又はプテロスチルベンを添加することにより、コントロールと比較して、癌抑制的miRNAの発現が亢進していることが示された。
【0050】
〔試験例2:腹腔内投与による抗腫瘍効果の評価〕
4−1.プテロスチルベンの腹腔内投与実験
(実験動物)
実験動物として、5週齢のメスのヌードマウス(BALB/cAJc1-nu/nu)(日本クレア社)を用いた。
【0051】
(試薬)
試薬としては、以下のものを用いた。
プテロスチルベン(Cayman Chemical社製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)(Merck社製)
ECM Gel from Engelbreth-Holm-Swam murine sarcoma(Invitrogen社製)
エスカイン(登録商標)吸入麻酔液(Pfizer社製)
Beetle Luciferin, Potassium Salt(Promega社製)
プロピレングリコール(Sigma-Aldrich社製)
【0052】
(飼育方法)
温度20〜25℃、湿度40〜60%の条件下に保持された環境下で、上記の実験動物を飼育した。
【0053】
(試験方法)
5週齢のメスのヌードマウス(BALB/cAJc1-nu/nu)を、実験開始前に1週間ほど環境に順応させた。マウスに移植する癌細胞としては、MM-231-luc-D3H2LNを用いた。この癌細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、得られた懸濁液とマトリゲル(ECM Gel from Engelbreth-Holm-Swammurine sarcoma)とを1:1で混ぜ合わせて、移植用の懸濁液(細胞数:1×10
7cell/ml)を準備した。
【0054】
本試験例では、イソフルラン(エスカイン(登録商標)吸入麻酔液)による麻酔下にて、マウスの乳腺に1×10
6cellsの癌細胞を移植(上記の移植用の懸濁液(細胞数:1×10
7cell/ml)を100μl導入)した。癌細胞が移植されていることの確認は、上記方法で移植した後にしばらく放置してから、150mg/kgの量で、15mg/mlルシフェリン溶液(Beetle Luciferin, Potassium Salt、Promega 社)を腹腔内に投与し、約10分後にIVIS Spectrum(Perkin Elmer社)で移植された細胞由来の発光(luciferase活性)を測定することにより行った。移植後2日間飼育した後に、再度細胞由来の発光を測定した。当該測定結果に基づいて、試験用のマウスを1群当たり5匹として、以下の(i)〜(iii)の3群に群分けした。
(i)コントロール群(溶媒投与群、投与量:0mg/kg/day)
(ii)プテロスチルベン群A(投与量:12.5mg/kg/day)
(iii)プテロスチルベン群B(投与量:25mg/kg/day)
【0055】
(i)〜(iii)の各群のマウスに対し、腹腔内投与を行った。腹腔内投与は、上記マウスに癌細胞を移植した日の2日後(投与開始日)から起算して、21日間継続して行った。なお、溶媒としては、DMSO及びプロピレングリコールを含有するPBS溶液(DMSOの含有量:10%(v/v)、プロピレングリコールの含有量:10%(v/v))を用いた。プテロスチルベンの投与には、上記溶媒にプテロスチルベンを溶解したものを用いた。投与量は、プテロスチルベンの量を基準とする値である。
【0056】
各群のマウスにおいて、体重は適時計測し、一週間おきにIVIS spectrumを用いて、発光を計時観察した。移植した細胞由来の発光の測定結果を
図4に示す。
図4(A)に、投与開始から21日経過時点の腫瘍発光の結果を示す。
図4(B)に発光量の経時観察結果を示す。
図6に体重の測定結果を示す。
【0057】
投与終了後(投与開始日から21日経過後)には、イソフルラン麻酔下にて腫瘍を摘出し、安楽死を行った。
図5に、プテロスチルベンの腹腔内投与が腫瘍のサイズに与える影響を示す。
図5(A)に摘出した腫瘍片を示し、
図5(B)に、摘出した腫瘍の重量を示す。投与終了後に摘出した腫瘍は、後述するmiRNA発現解析に用いた。
【0058】
(評価結果)
図4及び5に示すとおり、プテロスチルベンを腹腔内投与した群では、コントロール群と比べて、腫瘍の増大が抑制された。プテロスチルベンの用量依存的に腫瘍の増大が抑制されることが示された。なお、プテロスチルベンの腹腔内投与は、マウスの体重に大きな影響を与えないことが示された(
図6参照)。
【0059】
4−2.ヒト由来の腫瘍中の癌抑制的miRNA発現解析
上記ヌードマウスに異種移植して形成された腫瘍片組織を用いて、癌抑制的miRNAの発現解析を行った。癌抑制的miRNAであるmiR−200c及びmiR−141の発現量を測定した。
【0060】
(試薬、キット及び実験器具)
試薬、キット及び実験器具としては、以下のものを用いた。
3ml破砕チューブ(安井器械株式会社製)
メタルコーン(安井器械株式会社製)
miRNeasy(登録商標) Mini Kit(QIAGEN社製)
TaqMan(登録商標) MicroRNA assay(Applied Biosystems社製)
TaqMan(登録商標) MicroRNA Reverse TranscriptionKit(Applied Biosystems社製)
TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix, NoAmpErase(登録商標) UNG(AppliedBiosystems社製)
【0061】
(試験方法)
上記腫瘍片組織を約3mm角の大きさに切り取り、3ml破砕チューブにメタルコーンとともに入れた。液体窒素で冷却しながら、マルチビーズショッカー(登録商標)(安井器械株式会社)で破砕した。その後はmiRNeasy(登録商標) Mini Kitを用いて、製造元推奨のプロトコールでRNAを抽出した。得られたRNAは、TaqMan(登録商標) MicroRNA assay とTaqMan(登録商標) MicroRNA Reverse TranscriptionKitとを用いて、製造元推奨のプロトコールに従い相補的DNA(cDNA)に変換した。cDNAを鋳型にして、TaqMan(登録商標) Universal PCR Master Mix, No AmpErase(登録商標)UNGを用いて、StepOnePlus
TM Real-Time PCR System(Applied Biosystems社)により、miRNAの定量解析を行った。
【0062】
癌抑制的miRNAの結果を
図7に示す。RNAの抽出は、
図7(A)中の丸で示したものを用いた。
図7(B)は、それぞれmiR−200c及びmiR−141の発現量の測定結果を示す。
【0063】
(評価結果)
図7(B)に示すとおり、プテロスチルベン群(腹腔内投与)では、コントロール群と比べて、癌抑制的miRNA(miR−200c及びmiR−141)の発現が亢進した。
【0064】
〔試験例3:経口投与による抗腫瘍効果の評価〕
5.プテロスチルベンの経口投与実験
(試験用粉末飼料)
試験用の粉末飼料の調製には、以下の試薬を用いた。
カゼイン(オリエンタル酵母株式会社)
DL−メチオニン(和光純薬工業株式会社)
β−コーン澱粉(オリエンタル酵母株式会社)
スクロース(KH1 精上白糖)(和田製糖株式会社)
セルロースパウダー(オリエンタル酵母株式会社)
コーン油(胚芽の恵みコーン油)(株式会社J−オイルミルズ)
ミネラルミックス(AIN−93G ミネラル混合)(オリエンタル酵母株式会社)
ビタミンミックス(AIN−93 ビタミン混合)(オリエンタル酵母株式会社)
重酒石酸コリン(和光純薬工業株式会社)(Lot.No.:PDQ0575、CTK0241)
90%プテロスチルベン(シルビトール)(サビンサジャパンコーポレーション製)
【0065】
(プテロスチルベン含有粉末飼料の調製)
試験用の飼料(プテロスチルベン含有粉末飼料)は、以下の方法により調製した。すなわち、まず、コーン油を50g秤量し、加温して70℃とした。加温したコーン油にプテロスチルベンを添加して溶解させた。コーン油及びプテロスチルベン以外の試薬(その他の試薬)は乳鉢ですり潰し、混合した。その他の試薬の混合物に、プテロスチルベンを溶解させたコーン油を添加し、乳鉢で十分にすり潰して混合した。その後、攪拌機で約30分間更に混合して、試験用の飼料を調製した。試験用の飼料に含まれる各種成分の組成は、表1に示すとおりである。試験用の飼料はビニール袋に入れ、株式会社コーガアイソトープでガンマ線滅菌を行った後、後述する動物実験に用いた。また、表1に示す組成の馴化食(プテロスチルベンの含有量:0質量%)を用意した。
【0066】
【表1】
【0067】
(実験動物)
実験動物としては、5週齢のメスのヌードマウス(BALB/c-nu/nu, CAnN.Cg-Foxn1<nu>/CrlCjlj)(日本チャールズリバー社)を用いた。
【0068】
(試薬)
試薬としては、以下のものを用いた。
ECM Gel from Engelbreth-Holm-Swam murine sarcoma(Invitrogen社)
エスカイン(登録商標)吸入麻酔液(Pfizer社)
Beetle Luciferin, Potassium Salt(Promega社)
プロピレングリコール(Sigma-Aldrich社)
【0069】
(飼育方法)
温度20〜25℃、湿度40〜60%の条件下に保持された環境下で、上記の実験動物を飼育した。給餌器としては、吊り下げ型の給餌器を用いた。
【0070】
(試験群)
プテロスチルベン含有粉末飼料の経口投与による癌細胞への影響の検討として、1群当たり8匹又は10匹として、(i)コントロール群(0%(w/w)プテロスチルベン群、n=18)、及び(ii)0.25%(w/w)プテロスチルベン群(n=18)の2群の試験区を設定した。
【0071】
(試験方法及び評価結果)
まず、5週齢のメスのヌードマウスを、実験開始前に1週間ほど環境に順応させた。
プテロスチルベン含有粉末飼料の経口投与による癌細胞への影響の検討として、まず、コントロール食(馴化食)を吊り下げ型給餌器で約1週間与えた後に、(i)コントロール群、及び(ii)0.25%(w/w)プテロスチルベン群の2群に群分けした。コントロール群では、馴化食を経口投与し、プテロスチルベン群では、プテロスチルベン含有粉末飼料(プテロスチルベンの含有量:0.25質量%)を経口投与した。
【0072】
群分けしてから1週間経過時点で、各群のマウスに対して、癌細胞の移植実験を行った。癌細胞の移植実験では、まず、移植する癌細胞(MM-231-luc-D3H2LN)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、マトリゲル(ECM Gel from Engelbreth-Holm-Swammurine sarcoma)と1:1の比率で混ぜ合わせて、移植用の懸濁液(細胞数:1×10
5cell/ml)を準備した。次いで、イソフルラン(エスカイン(登録商標)吸入麻酔液)による麻酔下にて、マウスの乳腺に1×10
4cellsの癌細胞を移植(上記の移植用の懸濁液(細胞数:1×10
5cell/ml)を100μl導入)した。癌細胞が移植されていることの確認は、移植後にしばらく放置し、150mg/kgの量で、15mg/mlルシフェリン溶液(Beetle Luciferin, Potassium Salt、Promega社)を腹腔内に投与し、約10分後にIVIS Spectrum(Perkin Elmer社)で細胞由来の発光(luciferase活性)を測定することにより行った。試験用の飼料及びマウスの状態は、毎日適切に管理した。マウスの体重は適時計測した。投与開始日(0日目)は、癌細胞(腫瘍)を移植した日とした。そして、投与開始日から一週間おきにIVIS spectrumにて発光を計時観察した。腫瘍発光の測定結果を
図8に示す。
図8(A)に、投与開始から21日経過時点の腫瘍発光の結果を示す。
図8(B)に、発光量の経時観察結果を示す。各群におけるマウスの体重の計測結果を
図9に示す。
【0073】
投与終了後には、イソフルラン麻酔下にて腫瘍を摘出し、安楽死を行った。各群(コントロール群又はプテロスチルベン群)における摘出した腫瘍のサイズ(重量)の測定結果を
図10に示す。なお、本試験例は独立した試験を2回繰り返し行ったものである。
【0074】
図10中、エラーバーは、標準誤差を示し、
図10中、*を付したデータは、P<0.05であり、**を付したデータは、P<0.01である。
【0075】
(評価結果)
図8及び10に示すとおり、プテロスチルベンを経口投与した群(プテロスチルベン群)では、コントロール群と比べて、腫瘍の増大が抑制された。なお、プテロスチルベンの経口投与は、マウスの体重に大きな影響を与えないことが示された(
図9参照)。