【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度農林水産省「食品の安全性と動物衛生の向上のためのプロジェクト(海外からの進入が危惧される重要家畜疾病の侵入・まん延防止技術の開発)」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Veterinary Immunology and Immunopathology,2014年,Vol.160,p.184-191
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鳥パラミクソウイルス血清型10をコードするマイナス鎖RNAに、外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスであって、
前記外来転写単位において、5’側から順に、鳥パラミクソウイルス血清型10の遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルス血清型10の5’非翻訳領域と、外来タンパク質をコードするヌクレオチドと、鳥パラミクソウイルス血清型10の3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルス血清型10の遺伝子終結配列とが連結しており、
前記外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが、鳥パラミクソウイルス血清型10の内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするマイナス鎖RNAに挿入されており、かつ
前記5’非翻訳領域及び前記3’非翻訳領域が、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のNP転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のP転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のM転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のF転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のHN転写単位由来の非翻訳領域、又は、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のL転写単位由来の非翻訳領域である、組み換え鳥パラミクソウイルス。
鳥パラミクソウイルス血清型10をコードするヌクレオチドに、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを挿入するための部位を含むクローニング領域が、挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド構築物であって、
前記クローニング領域において、5’側から順に、鳥パラミクソウイルス血清型10の遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルス血清型10の5’非翻訳領域と、前記部位と、鳥パラミクソウイルス血清型10の3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルス血清型10の遺伝子終結配列とが連結しており、
前記クローニング領域が、鳥パラミクソウイルス血清型10の内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするヌクレオチドに挿入されており、かつ
前記5’非翻訳領域及び前記3’非翻訳領域が、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のNP転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のP転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のM転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のF転写単位由来の非翻訳領域、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のHN転写単位由来の非翻訳領域、又は、共に鳥パラミクソウイルス血清型10のL転写単位由来の非翻訳領域である、ヌクレオチド構築物。
更に、前記鳥パラミクソウイルス血清型10をコードするヌクレオチドの5’末側に、DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するプロモーター配列が連結しており、該ヌクレオチドの3’末側に、5’側から順に、リボザイム配列と前記DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するターミネーター配列とが連結している、請求項6又は7に記載のヌクレオチド構築物。
下記(a)〜(e)からなる群から選択される少なくとも一の物質及び使用説明書を含む、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の組み換え鳥パラミクソウイルスを製造するためのキット
(a)請求項8〜11のうちのいずれか一項に記載のヌクレオチド構築物
(b)前記DNA依存性RNAポリメラーゼを発現することができるヌクレオチド構築物
(c)前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質を発現することができるヌクレオチド構築物
(d)(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一のヌクレオチド構築物を導入するための細胞
(e)前記DNA依存性RNAポリメラーゼ及び/又は前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質とを発現する形質転換細胞。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる、上気道炎症状、呼吸器疾患等を伴う急性感染症であり、感染力が強いものであれば、感染者の症状は重篤となり、死に至る場合もある。
【0003】
インフルエンザウイルスの天然の宿主は、主に水鳥等の野鳥であり、家禽であるニワトリ等含め、トリの間で流行していきながら、ウイルス系列が進化し、様々な宿主(ブタ、ヒト)に馴化し、種間伝染が発生することになる。
【0004】
例えば、高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza:HPAI)ウイルス(HPAIV)亜型のH5N1ウイルスによって、アジア、ヨーロッパ及びアフリカの多くの国々において数百万の家禽が死に至っており、さらに、1997年に流行して以来、臨床的に重大で致死的なヒトの感染をもたらすHPAI H5N1のトリからヒトへの伝染の数は増え続けている。
【0005】
ヒトを含む動物のHPAIVに対する感受性も鑑みるに、当該ウイルスのトリにおける感染及びその拡大を防御する手段は必須であり、HPAIVに対する有効なワクチンが希求される。
【0006】
HPAIVに対するワクチンとして、ニューカッスル病(ND)ウイルス(NDV)をベクターとする組み換えワクチンが開発されている。当該ウイルスにHPAIVのヘマグルチニン(HA)遺伝子等の抗原遺伝子を挿入した組み換えワクチン(組み換えウイルス)は、飲水、噴霧投与等の省力的なワクチン接種が可能であると共に、HPAIVと同様に呼吸器粘膜に感染するため、局所免疫の誘導が期待できる等の利点がある。
【0007】
また、NDVを基にする組み換えウイルスは、NDV中のいずれかの転写単位における3’非翻訳領域に、NDVの内在性のいずれかの遺伝子開始配列及び遺伝子終結配列と、抗原遺伝子とからなる転写単位を挿入することによって作製されている(非特許文献1〜5)。さらに、これら組み換えウイルスにおいては、抗原遺伝子の開始コドンの直前に、真核細胞内で翻訳効率を高める配列として知られているKozak配列が挿入されており(非特許文献1及び3)、これが抗原遺伝子mRNAの翻訳効率を高めていると想定される。
【0008】
しかしながら、投与対象であるニワトリ等において、基にしているNDVに対する抗体が生成されていると、ワクチン効果が減弱されるという問題がある。養鶏産業ではニワトリに対して経時的にNDワクチンを投与しているため、NDVを基とする組み換えワクチンは、HPAI発生時における緊急用ワクチンとして有効でないことが想定される。そのため、NDワクチンで免疫されたニワトリにおいても使用可能なワクチンの開発が望まれている。
【0009】
この問題を解決するため、本発明者らは、NDVの代わりに、当該ウイルスと同じ属(パラミクソウイルス科エイブラウイルス属)に属する別種のウイルス(鳥パラミクソウイルス、APMV)をベクターとする組み換えワクチンの開発を試みている。そして、APMVの血清型2、6及び10(APMV−2、APMV−6及びAPMV−10)を接種し、これらのウイルスが、NDVに対する抗体の存在に関わらず、ニワトリの体内で効率良く増殖することを見出している。さらに、これらAPMVを基にした組み換えウイルスが、NDVに対する抗体を既に有するニワトリに対しても、抗インフルエンザウイルス活性を付与するためのワクチンとして有望であることも、本発明者らは報告している(非特許文献6)。
【0010】
しかしながら、APMV−10をベクターとし、そのゲノムのP遺伝子とM遺伝子の間にある非翻訳領域(P遺伝子のORFと遺伝子終結配列との間)に、HPAIVのHA遺伝子を挿入した組み換えワクチン APMV−10/HAを作製し、当該ワクチンをNDワクチンで免疫したニワトリに接種した結果、HPAIV感染に対する一定の防御効果が認めらたものの、その防御効果(感染単位:10
6EID
50のAPMV−10/HA接種後、HPAIVで攻撃した場合のニワトリの生存率)は25%と低く、十分なワクチン効果が得られたとは言えないものであった(非特許文献7)。
【0011】
このような現状故、APMVを基にする組み換えウイルスの実用化には、ワクチン効果を増強することが必要であり、例えばHA等の抗原の発現量を増加させることが考えられる。しかしながら、そのような方法は開発されていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、宿主細胞において、病原体抗原等の外来タンパク質の発現量を増加させ、病原体に対するワクチン効果の増強を可能とする、組み換え鳥パラミクソウイルスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の特徴を有する、外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが挿入されている組み換えAPMV−10(組み換え鳥パラミクソウイルス)を、作製するに至った。
(1)前記外来転写単位は、HPAIVのHAタンパク質(外来タンパク質)をコードするヌクレオチドを含み、該ヌクレオチドが、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列及び遺伝子終結配列に作動可能に連結している。
(2)前記遺伝子開始配列と前記ヌクレオチドの開始コドンとの間に、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域が挿入されている。
(3)前記ヌクレオチドの終止コドンと前記遺伝子終結配列との間に、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域が挿入されている。
(4)さらに、前記外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAは、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするマイナス鎖RNAに挿入されている。
【0015】
そして、この組み換え鳥パラミクソウイルスを、ニワトリ初代培養細胞に感染させた結果、当該細胞において外来タンパク質の高い発現が認められた。
【0016】
一方、非特許文献7に記載の組み換え鳥パラミクソウイルス、すなわち外来転写単位が、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位中の非翻訳領域に挿入されている組み換えウイルスでは、感染させた細胞における外来タンパク質の発現は殆ど認められなかった。また、鳥パラミクソウイルスの非翻訳領域を含まない外来転写単位が、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域に挿入されている組み換えウイルスでも、感染させた細胞における外来タンパク質の発現は殆ど認められなかった。
【0017】
また、前記組み換え鳥パラミクソウイルスのワクチン効果を試験すべく、ニワトリにNDVを予め感染させた上で、これら組み換えウイルスを各々投与し、さらにHPAIVを感染させた。
【0018】
その結果、従前の、外来転写単位が内在性転写単位間にある遺伝子間領域に挿入されている組み換え鳥パラミクソウイルスを用いた場合には、HPAIV感染後のニワトリの生存率は25%又は50%であった。また、当該ニワトリの全個体からHPAIVの排泄が認められた。さらに、攻撃時のHPAIVに対する抗体価は、殆どのニワトリにおいて検出限界以下であった。また、鳥パラミクソウイルスの非翻訳領域を含まない外来転写単位が、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域に挿入されている組み換えウイルスを用いた場合にも、攻撃時のHPAIVに対する抗体価は、殆どのニワトリにおいて検出限界以下であった。
【0019】
一方、外来転写単位が内在性転写単位間にある遺伝子間領域に挿入されている組み換え鳥パラミクソウイルスを用いた場合には、HPAIV感染後のニワトリの生存率は100%であった。また、当該ニワトリにおけるHPAIVの排泄は殆ど認められず、認められたとしても、そのウイルス力価は低かった。さらに、攻撃時のHPAIVに対する抗体価は、前記組換えウイルスで免疫した多くの個体で検出された。
【0020】
また、このような高いワクチン効果は、鳥パラミクソウイルスにおいて、外来転写単位を挿入する遺伝子間領域を変更しても奏されることを確認した。さらに、外来タンパク質がHAタンパク質以外のタンパク質であっても、当該タンパク質の発現量は、上述のHAタンパク質を組み換え鳥パラミクソウイルスを用いて発現させた場合同様に、増加できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、組み換え鳥パラミクソウイルス、及び該ウイルス有効成分とするワクチン用組成物に関する。また、本発明は、前記ウイルスを製造するためのヌクレオチド構築物、該構築物を含む前記ウイルスを製造するためのキット、並びにそれらを用いた前記ウイルスを製造するための方法に関し、より具体的には以下を提供する。
<1> 鳥パラミクソウイルスをコードするマイナス鎖RNAに、外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスであって、
前記外来転写単位において、5’側から順に、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域と、外来タンパク質をコードするヌクレオチドと、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルスの遺伝子終結配列とが連結しており、かつ、
前記外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするマイナス鎖RNAに挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルス。
<2> 鳥パラミクソウイルス血清型10に由来する、<1>に記載の組み換え鳥パラミクソウイルス。
<3> 前記5’非翻訳領域が、配列番号:1〜6のいずれかに記載のヌクレオチド配列からなる領域であり、前記3’非翻訳領域が、配列番号:7〜12のいずれかに記載のヌクレオチド配列からなる領域である、<1>又は<2>に記載の組み換え鳥パラミクソウイルス。
<4> 前記外来タンパク質が、病原体由来の抗原タンパク質である、<1>〜<3>のうちのいずれか一項に記載の組み換え鳥パラミクソウイルス。
<5> 前記外来タンパク質が、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質である、<1>〜<4>のうちのいずれか一項に記載の組み換え鳥パラミクソウイルス。
<6> <1>〜<5>のうちのいずれか一項に記載の組み換え鳥パラミクソウイルスを有効成分として含有する、ワクチン用組成物。
<7> 鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドに、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを挿入するための部位を含むクローニング領域が、挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド構築物であって、
前記クローニング領域において、5’側から順に、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域と、前記部位と、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルスの遺伝子終結配列とが連結しており、かつ、
前記クローニング領域が、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするヌクレオチドに挿入されている、ヌクレオチド構築物。
<8> 前記鳥パラミクソウイルスが鳥パラミクソウイルス血清型10である、請求項7に記載のヌクレオチド構築物。
<9> 前記5’非翻訳領域が、配列番号:1〜6のいずれかに記載のヌクレオチド配列からなる領域であり、前記3’非翻訳領域が、配列番号:7〜12のいずれかに記載のヌクレオチド配列からなる領域である、<7>又は<8>に記載のヌクレオチド構築物。
<10> 更に、前記鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドの5’末側に、DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するプロモーター配列が連結しており、該ヌクレオチドの3’末側に、5’側から順に、リボザイム配列と前記DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するターミネーター配列とが連結している、<7>〜<9>のうちのいずれか一項に記載のヌクレオチド構築物。
<11> 外来タンパク質をコードするヌクレオチドが前記部位に挿入されている、<10>に記載のヌクレオチド構築物。
<12> 前記外来タンパク質が、病原体由来の抗原タンパク質である、<11>に記載のヌクレオチド構築物。
<13> 前記外来タンパク質が、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質である、<11>に記載のヌクレオチド構築物。
<14> <1>〜<5>のうちのいずれか一項に記載の組み換え鳥パラミクソウイルスを製造するための方法であって、
前記DNA依存性RNAポリメラーゼと前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質とを発現する形質転換細胞に、<11>〜<13>のうちのいずれか一項に記載のヌクレオチド構築物を導入する工程と、
前記組み換え鳥パラミクソウイルスを、前記細胞の培養物から回収する工程とを含む、方法。
<15> 下記(a)〜(e)からなる群から選択される少なくとも一の物質及び使用説明書を含む、<1>〜<5>のうちのいずれか一項に記載の組み換え鳥パラミクソウイルスを製造するためのキット
(a)<10>〜<13>のうちのいずれか一項に記載のヌクレオチド構築物
(b)前記DNA依存性RNAポリメラーゼを発現することができるヌクレオチド構築物
(c)前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質を発現することができるヌクレオチド構築物
(d)(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一のヌクレオチド構築物を導入するための細胞
(e)前記DNA依存性RNAポリメラーゼ及び/又は前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質とを発現する形質転換細胞。
【0022】
なお、本発明の組み換えウイルスの基となる「鳥パラミクソウイルス」は、モノネガウイルス目、パラミクソウイルス科、エイブラウイルス属、鳥パラミクソウイルス種に属するウイルスであり、マイナス鎖の一本鎖RNAをゲノムとして保持する。
【0023】
鳥パラミクソウイルスのRNAゲノムは、3’末側に位置するリーダー配列と、5’ 末側に位置するトレーラー配列と、それら配列に挟まれた主要な6つの転写単位(NP、P、M、F、HN及びLタンパク質の転写単位)をコードするマイナス鎖RNAとから構成される(なお、APMV−6においては、FとHNの間にSHタンパク質の転写単位を更に有する)。それらがコードするタンパク質のうち、ヌクレオタンパク質(NP)及びRNA依存性RNAポリメラーゼを構成するホスホタンパク質(P)及びRNA依存性RNAポリメラーゼ(L)の3種類のタンパク質(コアタンパク質)は、ゲノムRNAと共に、自律複製可能なレプリコンである複合体(リボヌクレオタンパク質複合体、RNP複合体)を形成する。また、マトリックス(M)タンパク質、並びにウイルスの集合、出芽及びウイルスの細胞付着及び/又は侵入において役割を果たしている膜貫通糖タンパク質(HN及びFタンパク質)から構成されるエンベロープによって、前述のRNP複合体が包まれることによって、鳥パラミクソウイルスの基本構造(ウイルス粒子)が形成される。
【0024】
また、鳥パラミクソウイルスのゲノムにおいて、転写単位をコードするマイナス鎖RNAの順序は極めて高度に保存されており、3’側から、NP、P、M、F、HN及びLの順に、各転写単位をコードするマイナス鎖RNAが直列に配置されている(APMV−6においては、更にFとHNの間にSHが配置れている)。
【0025】
各転写単位をコードするマイナス鎖RNAは各々、3’末側から順に、遺伝子開始配列(GS:gene start)をコードするマイナス鎖RNA、5’非翻訳領域をコードするマイナス鎖RNA、翻訳領域(ORF:open reading frame)をコードするマイナス鎖RNA、3’非翻訳領域をコードするマイナス鎖RNAが、直列的に配置されることによって構成される。さらに、直列に配置された転写単位間は転写されない遺伝子間領域(IGR)によって全て隔てられている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、宿主において、病原体抗原等の外来タンパク質の発現量を増加させ、ひいては病原体に対するワクチン効果を増強することが可能となる。特に、ニューカッスル病ウイルス(NDV)に対する抗体を保持するニワトリにおいても、本発明によれば、高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)に対するワクチン効果を発揮させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<組み換え鳥パラミクソウイルス>
本発明は、鳥パラミクソウイルスをコードするマイナス鎖RNAに、外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスであって、
前記外来転写単位において、5’側から順に、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域と、外来タンパク質をコードするヌクレオチドと、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルスの遺伝子終結配列とが連結しており、かつ、
前記外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするマイナス鎖RNAに挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスを、提供する。
【0029】
本発明において「組み換え鳥パラミクソウイルス」とは、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを宿主細胞に導入することができ、さらに該タンパク質を該細胞において発現させることができるように、遺伝子操作によって改変された鳥パラミクソウイルスを意味する。組み換え鳥パラミクソウイルスは、当該ウイルスのゲノムRNA(当該ウイルスをコードするマイナス鎖RNA)とNPタンパク質とからなるヌクレオカプシドであってもよく、更にPタンパク質及びLタンパク質を備えたリボヌクレオタンパク質複合体(RNP複合体)であってもよく、更にエンベロープを備えたウイルス粒子であってもよい。
【0030】
本発明の組み換えウイルスの基となる(由来とする)「鳥パラミクソウイルス」については、上述のとおりであり、例えば、鳥パラミクソウイルス種に属するウイルスとして、鳥パラミクソウイルスの血清型2〜15(APMV−2〜APMV−15)が挙げられる。これらにおいて、本発明の組み換えウイルスの由来は、ニワトリには感染はするが、病原性は低いという観点から、APMV−2、APMV−6又はAPMV−10が好ましく、APMV−10がより好ましい。
【0031】
また、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスを設計、調製する際に必要となる、鳥パラミクソウイルスのゲノム配列は、本分野において公知である。このような情報は、例えば、米国国立生物工学情報センター(NCBI)のウェブサイトを通じて、各ウイルスの配列情報(NCBI GenBank配列情報)を入手することができる。APMV−2〜APMV−15の代表的なゲノム配列として、より具体的には以下が挙げられる。なお、NCBI等が提供する配列が、各ウイルスをコードするゲノムRNA(マイナス鎖RNA)に相補的なDNAの配列で表記されることを理解されたい。また現在、APMV−15のゲノム配列として、互いに相同性の低い異なる2つの配列が登録されているため、表1においてそれらを共に示す。
【0033】
鳥パラミクソウイルスの内在性の転写単位(NP転写単位.P転写単位、M転写単位、F転写単位、HN転写単位、L転写単位等)及びそれらを構成する配列(遺伝子開始配列、5’非翻訳領域、オープンリーディングフレーム、3’非翻訳領域、遺伝子終結配列)、並びに各転写単位間を隔てる遺伝子間領域については上述のとおりである。また、これらの具体的な配列についても公知であり、例えば、NCBIのウェブサイトを通じて入手することができる。以下に、表1にて例示するNCBI GenBank配列情報に基づき、APMV−10の各配列を示す。なお、当該表において、NP転写単位におけるIGRについては、配列番号ではなく、配列そのものを示す。
【0035】
なお、ウイルスの配列は自然界において容易に変異し得る。したがって、当該配列は、表1及び2に示す代表的な配列に特定されず、天然に変異した配列も含まれるものであることは理解されたい。また、本発明において、組み換え鳥パラミクソウイルスには、鳥パラミクソウイルスのゲノム全長からなるものであってもよく、当該ゲノムの一部(例えば、NP転写単位、P転写単位、M転写単位、F転写単位、SH転写単位、HN転写単位及びL転写単位なる群から選択される少なくとも1の転写単位)が欠損しているもの(所謂、ミニゲノム)であってもよい。
【0036】
本発明において、「外来転写単位」は、5’側から順に、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域と、外来タンパク質をコードするヌクレオチドと、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルスの遺伝子終結配列とが連結してなる転写単位である。
【0037】
これら配列及び領域間の結合は、直接的な結合であってもよく、また他のRNA配列(通常、1〜20のRNA)を介した間接的な結合であってもよい。
【0038】
「外来タンパク質」は、通常、鳥パラミクソウイルスの構成成分として本来存在しないタンパク質であり、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスを宿主細胞に感染させた際に、当該細胞において発現させることを所望するタンパク質であれば特に制限はなく、例えば、後述のとおり、組み換え鳥パラミクソウイルスをワクチンとして利用する場合には、感染症を引き起こす病原体の抗原タンパク質が挙げられる。
【0039】
本発明において、外来転写単位に含まれる、遺伝子開始配列、5’非翻訳領域、3’非翻訳領域及び遺伝子終結配列としては、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位(NP,P、M、F、HN、L等)に含まれる各配列であり、典型的には、表1に示すNCBI GenBank情報に記載の各配列が挙げられる(APMV−10の各配列については、表2を参照のこと)。なお、ウイルスの配列は自然界において容易に変異し得る。したがって、前記各配列は、上記典型的は配列に特定されず、天然に変異した配列も含まれるものであることは理解されたい。
【0040】
また、外来転写単位に含まれる前記各配列は、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスから外来タンパク質が発現され得る限り、各配列において1若しくは複数のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、及び/又は付加した配列であってもよく、また各配列と高い相同性を有する配列であってもよい。ここで「複数」とは、外来タンパク質を発現し得る範囲において置換等されるヌクレオチドの個数であり、好ましくは置換等される配列における30%以下の個数、より好ましくは該配列における20%以下の個数、さらに好ましくは該配列における10%以下の個数である。また「高い相同性」とは、例えば60%以上の相同性、好ましくは70%以上の相同性、より好ましくは80%以上の相同性、さらに好ましくは90%以上の相同性(例えば、95%以上、97%以上、99%以上の相同性)である。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)のプログラム(Altschul et al.J.Mol.Biol.,215:403−410,1990)を利用して決定することができる。かかるプログラムを用いた解析方法の具体的な手法は公知であり、デフォルトのパラメーターを用いて解析することができる。
【0041】
外来転写単位に含まれる前記各配列の由来としては、鳥パラミクソウイルス由来である限り、組み換え鳥パラミクソウイルスの基となるウイルスの種類と異なっていてもよいが(例えば、前記配列の由来がAMPV−2であり、組み換え鳥パラミクソウイルスの基となるウイルスがAMPV−10であってもよいが)、同一の鳥パラミクソウイルス由来であることが好ましく、共にAMPV−10由来であることがより好ましい。また、前記各配列が由来とする鳥パラミクソウイルスにおいても互いに異なっていてもよいが(例えば、遺伝子開始配列の由来がAMPV−2であり、5’非翻訳領域の由来がAMPV−10であってもよいが)、全て同一の鳥パラミクソウイルス由来であることが好ましく、全てAMPV−10由来であることがより好ましい。
【0042】
また、外来転写単位に含まれる前記各配列は、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位由来である限り、互いに異なるものであってもよいが(例えば、遺伝子開始配列がNP転写単位に由来し、5’非翻訳領域がP転写単位に由来するものであってもよいが)、これら全配列は同一の内在性転写単位由来であることが好ましい。より具体的に、前記各配列がAMPV−10の内在性転写単位由来である場合には、少なくとも、3’非翻訳領域として、配列番号:1〜6のいずれかに記載の配列を含み、かつ5’非翻訳領域として、配列番号:7〜12のいずれかに記載の配列を含む外来転写単位であり、また、遺伝子開始配列として、配列番号:13〜15のいずれかに記載の配列であり、3’非翻訳領域として、配列番号:1〜6のいずれかに記載の配列を含み、5’非翻訳領域として、配列番号:7〜12のいずれかに記載の配列を含み、かつ遺伝子終結配列として、配列番号:16〜18のいずれかに記載の配列を含む外来転写単位である。さらに、好ましくは、少なくとも配列番号:1及び配列番号:7に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のNP転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位)、少なくとも配列番号:2及び配列番号:8に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のP転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位)、少なくとも配列番号:3及び配列番号:9に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のM転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位)、少なくとも配列番号:4及び配列番号:10に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のF転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位)、少なくとも配列番号:5及び配列番号:11に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のHN転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位)、又は、少なくとも配列番号:6及び配列番号:12に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のL転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位)であり、より好ましくは、配列番号:13、配列番号:1、配列番号:7及び配列番号:16に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のNP転写単位由来の各配列を含む外来転写単位)、配列番号:14、配列番号:2、配列番号:8及び配列番号:17に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のP転写単位由来の各配列を含む外来転写単位)、配列番号:15、配列番号:3、配列番号:9及び配列番号:18に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のM転写単位由来の各配列を含む外来転写単位)、配列番号:14、配列番号:4、配列番号:10及び配列番号:16に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のF転写単位由来の各配列を含む外来転写単位)、配列番号:14、配列番号:5、配列番号:11及び配列番号:16に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のHN転写単位由来の各配列を含む外来転写単位)、又は、配列番号:14、配列番号:6、配列番号:12及び配列番号:16に記載の配列を含む外来転写単位(AMPV−10のL転写単位由来の各配列を含む外来転写単位)である。
【0043】
また、組み換え鳥パラミクソウイルスから発現される外来タンパク質の発現量がより高い傾向にあるという観点から、前記AMPV−10のNP転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位又は前記AMPV−10のM転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位が好ましく、前記AMPV−10のNP転写単位由来の各配列を含む外来転写単位又は前記AMPV−10のM転写単位由来の各配列を含む外来転写単位が、より好ましい。
【0044】
また、組み換え鳥パラミクソウイルスの力価がより高い傾向にあるという観点からは、前記AMPV−10のL転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位が好ましく、前記AMPV−10のL転写単位由来の各配列を含む外来転写単位が、より好ましい。
【0045】
また、組み換え鳥パラミクソウイルスの増殖性がより高い傾向にあるという観点からは、前記AMPV−10のHN転写単位由来の非翻訳領域を含む外来転写単位が好ましく、前記AMPV−10のHN転写単位由来の各配列を含む外来転写単位が、より好ましい。
【0046】
本発明にかかる外来転写単位において、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位に含まれる上述の各配列と、外来タンパク質をコードするヌクレオチドとは、当該タンパク質を発現できるよう、作動可能的に連結されていればよいが、パラミクソウイルスのゲノム配列は6の倍数である場合に、その複製(RNA合成)は効率良く行なわれるという観点から、本発明にかかる外来転写単位を構成するヌクレオチド数は6の倍数であることが好ましく、組み換え鳥パラミクソウイルスを構成するヌクレオチド数も6の倍数であることがより好ましい(所謂パラミクソウイルスの6のルール(rule of six)については、Kolakofsky D.ら、J Virol.、1998年2月、72(2)、891〜899ページ 参照のこと)。
【0047】
本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスにおいて、前述の外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAは、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするマイナス鎖RNAに挿入される。外来転写単位が挿入される遺伝子間領域としては特に制限はなく、NP転写単位の遺伝子終結配列とP転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(NP−P遺伝子間領域)、P転写単位の遺伝子終結配列とM転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(P−M遺伝子間領域)、M転写単位の遺伝子終結配列とF転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(M−F遺伝子間領域)、F転写単位の遺伝子終結配列とHN転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(F−HN遺伝子間領域。なお、APMV−6においては、F転写単位の遺伝子終結配列とSH転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(F−SH遺伝子間領域)、SH転写単位の遺伝子終結配列とHN転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(SH−HN遺伝子間領域))、HN転写単位の遺伝子終結配列とL転写単位の遺伝子開始配列との間にある遺伝子間領域(HN−L遺伝子間領域)の少なくともいずれかであれば良いが、タンパク質の発現効率がより良いという観点から、P−M遺伝子間領域が好ましく、またウイルスの増殖効率がより良いという観点から、F−HN遺伝子間領域が好ましい。また、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスが、上述のミニゲノムの形態をとる場合には、外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAは、リーダー配列とトレーラー配列との間に挿入されていてもよい。
【0048】
なお、このような組み換え鳥パラミクソウイルスウイルスは、例えば、後述のヌクレオチド構築物及びそれを含むキット、並びにそれらを用いた方法を利用することにより、製造することができる。
【0049】
<ワクチン用組成物>
後述の実施例に示すとおり、本発明によれば、上述の組み換え鳥パラミクソウイルスが感染した宿主細胞において、該ウイルスがコードする外来タンパク質を高発現させることができる。そのため、外来タンパク質を感染症を引き起こす病原体の抗原タンパク質とすることにより、前記宿主細胞における当該病原体に対するワクチン効果を増強させることができる。
【0050】
したがって、本発明は、上述の組み換え鳥パラミクソウイルスを有効成分として含有する、ワクチン用組成物を提供する。
【0051】
本発明において、「病原体」としては、例えば、ウイルス、細菌、真菌、原虫が挙げられ、より具体的には、インフルエンザウイルス、マレック病ウイルス(MDV)、伝染性喉頭気管炎ウイルス(ILTV)、感染性気管支炎ウイルス(IBV)、伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルス(IBDV)、ニワトリ貧血ウイルス(CAV)、レオウイルス、鳥類レトロウイルス、家禽アデノウイルス、シチメンチョウ鼻気管炎ウイルス(TRTV)、ニューキャッスル病ウイルス(NDV)、大腸菌、マイコプラズマ、サルモネラ、カンピロバクター、オルニトバクテリウム、パスツレラ、アイメリア、クリプトスポリジウム原虫が挙げられる。
【0052】
また、これら病原体の抗原タンパク質としては、病原体を構成するタンパク質であり、病原体が感染した際に、その宿主の免疫応答を惹起するタンパク質であれば特に制限はなく、例えば、インフルエンザウイルスにおいては、ヘマグルチニン(HA前駆体、H1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16等)、マトリックスタンパク質(M1、M2等)、ノイラミニダーゼ(NA1、NA2、NA3、NA4、NA5、NA6、NA7、NA8、NA9等)、非構造タンパク質(NS1、NS2等)、核タンパク質(NP)、ポリメラーゼ(PAポリメラーゼ、PB1ポリメラーゼ1、PB2ポリメラーゼ2等)が挙げられる。
【0053】
また、本発明にかかるインフルエンザウイルスとしては、例えば、ヘマグルチニンの構造の違いに基づき分けられるサブタイプ(H1〜H16等)、該オウイルスが産生するノイラミニダーゼの種類に応じてさらに分類される亜型(H1N1、H1N2、H1N3、H1N4、H1N5、H1N6、H1N7、H1N8、H1N9、H5N1、H5N2、H5N3、H5N4、H5N5、H5N6、H5N7、H5N8、H5N9、H9N1、H9N2、H9N3、H9N4、H9N5、H9N6、H9N7、H9N8、H9N9等)、分離された場所、分離された順番、分離された年に応じて分類される株(分離株;A/Hong Kong/156/1997、A/duck/Vietnam/2/2007、A/chicken/Indonesia/7/2003、A/Indonesia/CDC596/2006、A/Indonesia/CDC940/2006、A/Egypt/1394−NAMRU3/2007、A/duck/Hunan/127/2005、A/whooper swan/Akita/1/2008、A/chicken/Guiyang/3055/2005、A/Viet Nam/HN31242/2007、A/Chicken/Yunnan/493/2005、A/chicken/Yamaguchi/7/2004、A/Pheasant/HongKong/FY155/2001、A/goose/Guiyang/337/2006、A/goose/Guangxi/914/2004、A/duck/Hubei/wg/2002、A/Beijing/01/2003、A/chicken/Hong Kong/61.9/2002、A/Goose/Shantou/1621/2005等)が挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0054】
本発明のワクチン組成物においては、有効成分である上述の組み換え鳥パラミクソウイルスの他、薬理学上許容される担体又は媒体を含み得る。薬理学上許容される担体としては、例えば、安定剤、賦形剤、防腐剤、界面活性剤、キレート剤、結合剤が挙げられる。また、薬理学上許容される媒体としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝液が挙げられる。これら担体及び媒体は、当業者であれば、ワクチン組成物の剤型、使用方法に応じて、当該分野に用いられる公知の物を適宜又は組み合わせて選択して用いることができる。
【0055】
また、ワクチン組成物の形態としては、特に制限はなく、例えば、懸濁液の形態であってもよく、凍結乾燥された形態であってもよい。さらに、ワクチン効果を増強するという観点から、本発明のワクチン組成物はアジュバントも含有し得る。アジュバントとしては、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水中油又は油中水エマルジョン、サポニン、ミョウバン、CpG DNAが挙げられる。
【0056】
本発明のワクチン組成物に含まれる、組み換え鳥パラミクソウイルスの力価としては特に制限はないが、通常10
5EID
50/個体〜10
7EID
50/個体であり、好ましくは10
5.5EID
50/個体〜10
6.5EID
50/個体であり、より好ましくは10
6EID
50/個体である。
【0057】
また、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスとして、さらに好ましくは、後述の実施例に示すように、当該ウイルスを10
6EID
50にて接種した場合に、HPAIV感染後のニワトリの生存率が50%以上(より好ましくは60%以上、さらに好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは100%)となるウイルスである。
【0058】
なお、「EID
50」とは、発育鶏卵に接種した場合に、その50%が感染するウイルス量を意味する。
【0059】
<病原体の感染等に対する予防方法>
また、本発明は、動物における病原体の感染又は増殖を抑制する方法を提供する。すなわち、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルス又は当該ウイルスを有効成分として含有するワクチン組成物を、動物に接種する工程を含む、該動物における病原体の感染又は増殖を抑制する方法をも、本発明は提供する。
【0060】
本発明において接種対象となる「動物」については、組み換え鳥パラミクソウイルスが感染し得る限り特に制限はないが、通常、鳥類であり、例えば、ニワトリ、アヒル、カモ、七面鳥、ウズラ、キジ、オウム、タカ、カラス、ダチョウが挙げられる。また後述の実施例において示すとおり、NDVに対する抗体が生成されている鳥類(ニワトリ等)に、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルス等は特に好適に用いられ得る。
【0061】
組み換え鳥パラミクソウイルス等の動物への「接種」は、本分野における公知の方法を用いて行なうことができる。このような方法には、鼻内、経口、口鼻及び皮下並びに吸入、眼内、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、非経口、坐薬又は経皮が含まれるが、これらに限定されない。また、かかる接種方法は、噴霧器、霧吹き、スプレー、注射器、無針注射用具又は微粒子遺伝子銃を用いることによって行なうことができる。
【0062】
また、動物への接種スキームは、その剤型、動物の種類、齢及び体重等によって、適宜調整され、免疫学的に有効な量を当該動物に投与し得る限り特に制限はなく、単回又は複数回接種であってもよく、同時に又は順次に接種してもよい。
【0063】
<組み換え鳥パラミクソウイルス製造用ヌクレオチド構築物>
本発明は、上述の組み換え鳥パラミクソウイルスの製造において有用な、下記ヌクレオチド構築物をも提供する。
【0064】
鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドに、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを挿入するための部位を含むクローニング領域が、挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド構築物であって、
前記クローニング領域において、5’側から順に、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列と、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域と、前記部位と、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域と、鳥パラミクソウイルスの遺伝子終結配列とが連結しており、かつ、
前記クローニング領域が、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするヌクレオチドに挿入されている、ヌクレオチド構築物。
なお、本発明のヌクレオチド構築物において、前記鳥パラミクソウイルスが、ミニゲノムの形態をとる場合には、クローニング領域は、リーダー配列をコードするヌクレオチドとトレーラー配列をコードするヌクレオチドとの間に挿入されていてもよい。
【0065】
本発明において、ヌクレオチド構築物を構成するヌクレオチドは、DNA(一本鎖DNA、二重鎖DNA)であってもよく、またプラス鎖RNAであってもよいが、化学的に安定であるため、鳥パラミクソウイルスの配列を改変し易く、また後述の組み換え鳥パラミクソウイルスを生成し易いという観点から、DNAが好ましい。また、DNAによって構成される場合には、ヌクレオチド構築物は、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクターの形態をとり得る。
【0066】
「鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド」は、例えば、当該ウイルスから抽出したゲノムRNA(マイナス鎖RNA)を鋳型とし、RNA依存性RNAポリメラーゼを用いた合成反応を行なうことによって、プラス鎖RNAとして得ることができる。また前記ゲノムRNA(マイナス鎖RNA)を鋳型として、RNA依存性DNAポリメラーゼを用いた合成反応(逆転写反応)を行なうことによって、プラス鎖DNA、ひいては二重鎖DNAとして得ることができる。なお、ウイルスからのゲノムRNA抽出及びRNA依存性ポリメラーゼを用いた合成方法は公知である。また、本発明において、「鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド」は、鳥パラミクソウイルスのゲノムRNA全長をコードするものであってもよく、当該ゲノムの一部(例えば、NP転写単位、P転写単位、M転写単位、F転写単位、SH転写単位、HN転写単位及びL転写単位なる群から選択される少なくとも1の転写単位)が欠損しているもの(所謂、ミニゲノム)をコードするものであってもよい。
【0067】
また、鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドに挿入される「クローニング領域」は、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列、鳥パラミクソウイルスの5’非翻訳領域、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを挿入するための部位、鳥パラミクソウイルスの3’非翻訳領域及び鳥パラミクソウイルスの遺伝子終結配列の配列に基づき、当業者であれば、市販のDNA自動合成機を用いて、化学的に合成することができる。また、前述のとおり、調製した鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドを鋳型として、当業者であれば、公知の遺伝子組み換え技術(PCR、制限酵素処理、部位特異的変異導入法等)を適宜用いて調製することもできる。なお、前記部位としては、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを挿入することができればよく特に制限はないが、通常、制限酵素認識配列が用いられ、また当該部位は、複数の制限酵素認識配列を有する部位(所謂、マルチクローニングサイト)であってもよい。
【0068】
また、このようにして得られるクローニング領域の鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドへの挿入も、当業者であれば、公知の遺伝子組み換え技術(PCR、制限酵素処理、部位特異的変異導入法等)を適宜用いて行なうことができる。
【0069】
本発明において、前述のヌクレオチド構築物は、更に、前記鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドの5’末側に、DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するプロモーター配列が連結しており、該ヌクレオチドの3’末側に、5’側から順に、リボザイム配列と前記DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するターミネーター配列とが連結していてもよい。
【0070】
ヌクレオチド構築物がこのような構成をとることにより、後述の形質転換細胞に導入された場合、DNA依存性RNAポリメラーゼが前記プロモーター配列を認識し、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするマイナス鎖RNAが転写される。さらに、当該組み換えウイルスが、感染サイクルを開始するためには、当該マイナス鎖RNAの3’末側の正確な切断が必要とされるが、当該切断は、前記リボザイムの自己切断によって達成されることになる。
【0071】
したがって、DNA依存性RNAポリメラーゼが認識するプロモーター配列と前記鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドの5’末との結合は、当該プロモーター配列の制御下にて前記マイナス鎖RNAの転写が行われ得る限り、特に制限はなく、直接的な結合であってもよく、また他のヌクレオチドを介した間接的な結合であってもよい。
【0072】
DNA依存性RNAポリメラーゼとしては、DNAを鋳型としてRNAを転写できるポリメラーゼであれば特に制限はなく、例えば、T7 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、Sp6 RNAポリメラーゼ、真核生物由来のRNAポリメラーゼI、II又はIIIが挙げられるが、より転写効率が高いという観点から、T7 RNAポリメラーゼが好ましい。
【0073】
前記DNA依存性RNAポリメラーゼのターミネーターと前記鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチドの3’末との間に配置されるリボザイム配列としては、好ましくは、自己切断活性を有するリボザイム配列であり、より好ましくは、デルタ肝炎ウイルス由来のリボザイム配列、ハンマーヘッド型リボザイム配列、ヘアピン型リボザイム配列が挙げられる。
【0074】
また、本発明において、ヌクレオチド構築物は、上記配列の他、後述の実施例において示すとおり、大腸菌等を用いたクローニングのために、薬剤耐性遺伝子(アンピシリン耐性遺伝子等)、当該遺伝子の発現制御サイト(AmpRプロモーター等)、複製起点(f1複製起点、pBR322複製起点等)を含むものであってもよい。
【0075】
また、以下に示すように、組み換え鳥パラミクソウイルスを生成(製造)するためには、宿主において発現させることを所望する、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを、上述の部位に挿入する必要がある。
【0076】
外来タンパク質については上述のとおりであり、該タンパク質をコードするヌクレオチドについても、特に制限はないが、宿主細胞における当該タンパク質の発現効率を向上させるという観点から、当該宿主におけるコドンの使用頻度に合わせて配列が改変(コドンが最適化)されたヌクレオチドであることが望ましい。
【0077】
<組み換え鳥パラミクソウイルスの製造方法>
上述のヌクレオチド構築物を用いることによって、以下のようにして、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスを製造することができる。
【0078】
前記DNA依存性RNAポリメラーゼと前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質とを発現する形質転換細胞に、外来タンパク質をコードするヌクレオチドが前記部位に挿入されている上述のヌクレオチド構築物を導入する工程と、
前記組み換え鳥パラミクソウイルスを、前記細胞の培養物から回収する工程とを含む、方法。
【0079】
本発明の製造方法において、上述のヌクレオチド構築物が導入される「細胞」としては、当該構築物がコードする組み換え鳥パラミクソウイルスを生成し得る限り、特に制限はなく、例えば、Vero細胞、DF1細胞、ニワトリ初代培養細胞(ニワトリ胎児線維芽(CEF)細胞、ニワトリ胎児(CEP)細胞)、293T細胞、MDCK細胞、MDBK細胞が挙げられるが、遺伝子導入効率及びウイルスの増殖効率がより良いという観点から、Vero細胞が好ましい。
【0080】
また、これら細胞においては、上記プロモーター制御下にてヌクレオチド構築物がコードするマイナス鎖RNA(組み換え鳥パラミクソウイルスのゲノムRNA)を発現させ、更に当該マイナス鎖RNAからプラス鎖RNAを転写させるために、上述のDNA依存性RNAポリメラーゼと鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質とが発現するように、形質を転換されている必要がある。
【0081】
「コアタンパク質」としては、前記マイナス鎖RNAからプラス鎖RNAを転写させ得るタンパク質であればよく、ヌクレオタンパク質(NP)及びRNA依存性RNAポリメラーゼを構成するホスホタンパク質(P)及びRNA依存性RNAポリメラーゼ(L)が挙げられる。また、これらは鳥パラミクソウイルス由来であればよいが、ヌクレオチド構築物がコードする組み換え鳥パラミクソウイルスと同じ由来であることが好ましい。
【0082】
形質転換としては、特に制限はなく、これらタンパク質を前記細胞にて発現させることのできるヌクレオチド構築物(プラスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター等)を、公知の手法を用い、当該細胞に導入することによって行なうことができる。
【0083】
かかる形質転換は、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド構築物の導入の前に行なってもよく、同時に行なってもよく、また後に行なってもよい。
【0084】
ヌクレオチド構築物を細胞に導入するための公知の手法としては、特に制限はなく、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法が挙げられる。
【0085】
このようにして、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするヌクレオチド構築物が導入された形質転換細胞においては、前述のとおり、当該ウイルスをコードするプラス鎖RNAが転写され、更にそれを鋳型として、前記ウイルスがコードするウイルスタンパク質及び外来タンパク質が発現することとなる。そして、組み換え鳥パラミクソウイルスをコードするマイナス鎖RNAと当該ウイルスタンパク質とが結合等することにより、組み換え鳥パラミクソウイルスが、前記細胞の培養物において増殖することとなる。
【0086】
細胞の「培養物」としては、組み換え鳥パラミクソウイルスを含有し得るものであればよく、形質転換細胞を培地で培養することによって得られる、当該ウイルスが感染した前記細胞、該細胞の分泌産物及び該細胞の代謝産物等を含有する培地のことであり、それらの希釈物、濃縮物を含む。
【0087】
このような培養物から、組み換え鳥パラミクソウイルスを「回収」する方法としては特に制限はなく、濾過、遠心分離、吸着及びカラム精製等の公知のウイルス精製・分離方法を用いることによって、また適宜組み合わせて用いることによって行なうことができる。
【0088】
さらに、本発明においては、このようにして得られた組み換え鳥パラミクソウイルスを、後述の実施例に示すとおり、ニワトリ初代培養細胞等の該ウイルスに感染し易い細胞を追播することにより、増殖させてもよい。また、かかる細胞の代わりに、または当該細胞と併せて、孵化卵(例えば、ニワトリの卵又はウズラの卵)に接種することにより、増殖させることができる。
【0089】
<組み換え鳥パラミクソウイルスを製造するためのキット>
上述のとおり、本発明のヌクレオチド構築物等を用いることによって、組み換え鳥パラミクソウイルスを製造することができる。したがって、本発明は、以下の組み換え鳥パラミクソウイルスを製造するためのキットをも提供する。
【0090】
下記(a)〜(e)からなる群から選択される少なくとも一の物質及び使用説明書を含む、本発明の組み換え鳥パラミクソウイルスを製造するためのキット
(a)本発明のヌクレオチド構築物
(b)前記DNA依存性RNAポリメラーゼを発現することができるヌクレオチド構築物
(c)前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質を発現することができるヌクレオチド構築物
(d)(a)〜(c)からなる群から選択される少なくとも一のヌクレオチド構築物を導入するための細胞
(e)前記DNA依存性RNAポリメラーゼ及び/又は前記鳥パラミクソウイルスのコアタンパク質とを発現する形質転換細胞。
【実施例】
【0091】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
(組換えウイルスの作製)
APMV−10ゲノムを、RT−PCRにより4つの断片に分けて増幅し、pCR−XL−TOPOベクター(Thermo Fisher Scientific社製)にクローニングした。ニューカッスル病ウイルス(NDV)ゲノムをクローニングしているpNDV/B1プラスミド(Nakaya,T.ら、J Virol 75:11868−11873.2001 参照)のベクター部分(すなわち、pSL1180(アマシャム ファルマシア バイオテック社製))を制限酵素切断部位で切り出し、クローニングしたAPMV−10ゲノムを切り出したベクターにIn−Fusion HDクローニングキット(クロンテック社製)を用いてアッセンブルした。このようにして構築したAPMV−10ゲノムRNA転写プラスミド pAPMV−10の模式図を、
図1に示す。また、APMV−10ゲノムを構成する転写単位及びそれら転写単位間の領域(遺伝子間領域)の配列を、上記表2に示す。
【0093】
図1に示すとおり、pAPMV−10は、pSL1180に、T7プロモーター配列、APMV−10の全長ゲノム、D型肝炎ウイルスリボザイム配列及びT7ターミネーター配列を、挿入してなるものである。なお、D型肝炎ウイルスリボザイム配列は、転写されたRNAの3’端を切断するためのものであり、組換えウイルスゲノムには含まれない。また、本実施例で用いるAPMV−10のゲノムには、P遺伝子とM遺伝子の間にある非翻訳領域(P遺伝子ORFと終結配列との間)に制限酵素(RsrII)切断配列を挿入している。
【0094】
さらに、pAPMV−10のP−M遺伝子間に、PT−PCRにより増幅した外来遺伝子(抗原遺伝子)を挿入し、抗原遺伝子を含む完全長APMV−10ゲノムRNA転写プラスミドpAPMV−10/HAを構築した。抗原遺伝子には、ニワトリコドンに最適化した高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)HA遺伝子を用い、両隣にAPMV−10内在性の各転写単位における非翻訳領域(NCR)を、その両端を遺伝子開始配列(GS)及び遺伝子終結配列(GE)で挟んだものを用いた(
図2 参照)。
【0095】
また、対照実験用の組換えウイルスとして、P遺伝子の後ろのNCRにあるRsrII切断配列に抗原遺伝子を挿入した組換えウイルス(10/HA及び10/opHA)を作製した。
図3に示すとおり、これらの組み換えウイルスにおいて、抗原遺伝子は、その開始コドンとGSとの前に2bpのNCR、終止コドンとGEとの間に113bpのNCRを備え、P遺伝子の転写単位中に挿入されたことになる。
【0096】
各組換えウイルスに挿入した外来転写単位の配列を表3示す。
【0097】
【表3】
【0098】
なお、表3の「外来遺伝子」の項目において、「HA」は高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)HA遺伝子そのものを各組換えウイルスにおいて挿入したことを示し、「opHA」は、ニワトリコドンに最適化したHPAIVのHA遺伝子を各組換えウイルスにおいて挿入したことを示す。また、当該表に示すとおり、NCRを組み込んだ組換えウイルスは、各NCRと対応するGS及びGEを使用した(表2 参照)。10/HA、10/opHA及びcontrolにおけるGS及びGEとして、M遺伝子の転写単位におけるそれらを用いた。
【0099】
また、
図4に示すとおり、APMV−10のNP遺伝子、P遺伝子及びL遺伝子を、RT−PCRにより増幅し、タンパク質発現用ベクターpCAGGSに挿入し、CMVエンハンサー及びチキンβアクチンプロモーター下流に、クローニング部位に挿入されたAPMV−10の各遺伝子及びPolyAを有する、タンパク質発現用プラスミド pCAGGS−NP、pCAGGS−P及びpCAGGS−Lを各々構築した。
【0100】
そして、
図5に示すとおり、以上のとおりにして調製したpAPMV又はpAPMV−10/HAと、pCAGGS−NP、pCAGGS−P及びpACGGS−Lとを、T7ポリメラーゼを発現する組換えワクシニアウイルスを感染させた培養細胞(Vero細胞)に、遺伝子導入試薬(Mirus社製、製品名:TransIT(登録商標)−LT1試薬)を用いてコトランスフェクションした。1日後、ニワトリ初代培養細胞(胎児線維芽(CEF)細胞)を追播し、その1日後に上清及び細胞懸濁液を回収した。回収した上清及び細胞懸濁液を、10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔に接種し、37℃で48時間培養した後、冷却し、漿尿膜腔液を回収した。回収した漿尿膜腔液をウイルス液とし、各種試験に用いた。
【0101】
なお、上記工程にて、ワクシニアウイルスMVA/T7株が感染した培養細胞内では、T7RNAポリメラーゼが発現し、T7プロモーターを有するpAPMV又はpAPMV/HAから完全長APMVゲノムRNAが合成される。また、pCAGGS−NP、pCAGGS−P及びpCAGGS−Lからは、APMV−10のNPタンパク質、Pタンパク質及びLタンパク質が合成される。NP、P及びLタンパク質はウイルスRNAの転写複製に関わるタンパク質であるため、前記完全長APMV−10ゲノムRNAを鋳型として、APMV−10ウイルスのmRNA転写及びRNAゲノム複製が開始される。そして、各ウイルスタンパク質の合成が起こり、最終的に組換えAPMV又はpAPMV/HAが培養細胞内で作出される。さらに、これらの組換えAPMV又はAPMV/HAは、株化細胞及びニワトリ初代培養細胞に感染し、増殖する。
【0102】
(感染細胞での抗原発現量の比較)
ニワトリ初代培養細胞(CEF細胞)に、moi=1(細胞あたり1感染単位のウイルスが感染する量)を接種し、24時間後に細胞をSDS−PAGE用サンプルバッファー(ATTO社製、製品名:EzApply)で溶解して回収した。回収した溶解液を、全自動キャピラリー電気泳動イムノアッセイシステム(製品名:Wes、プロテインシンプル社製)にて泳動し、抗HA2ニワトリモノクローナル抗体及びHRP標識抗ニワトリIgY抗体を用い、抗原タンパク質を検出した。タンパク質量の測定は、Compassソフトウェア(プロテインシンプル社製)を用いて行った。得られた結果を
図6及び表4に示す。
【0103】
【表4】
【0104】
図6及び表4に示すとおり、NCRを抗原遺伝子に加えたNP−NCR、P−NCR、M−NCR、F−NCR、HN−NCR、L−NCRは、10/HA、10/opHA及びNCRを含まないcontrolに比べて、それぞれ11.6〜31.8倍、18.3〜50.2倍及び199.3〜545.3倍の抗原タンパク質を感染細胞に発現することが明らかになった。
【0105】
(発育鶏卵での増殖性)
10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔に100EID
50(感染単位)のウイルスを接種し、12、24、36、48時間後に漿尿膜腔液を回収した。回収した漿尿膜腔液の力価は、発育鶏卵を用いて測定した。漿尿膜腔をPBSで10倍階段希釈し、0.2mlずつ各希釈5個の10日齢発育鶏卵の漿尿膜腔に接種した。37℃で48時間培養した後、漿尿膜腔液を回収し、ニワトリ赤血球を用いた赤血球凝集試験によりウイルス増殖の有無を判定した。ウイルス力価の算出は、Reed and Muenchの計算方法により行った。得られた結果を
図7に示す。
【0106】
図7に示すとおり、ウイルス増殖がやや遅いものもあるが、48時間後のウイルス力価は同程度であった。したがって、NCRを付与した組換えウイルスは、NDV等と同様に発育鶏卵を使用してワクチンを製造することが可能であることが明らかになった。なお、L−NCRは、48時間後のウイルス力価が最も高く、ワクチンの製造コストが安くなることが期待できる。また、HN−NCR、10/opHA及びcontrolは、接種してから24時間後において高い増殖性が認められた。一方、M−NCR及びNP−NCRは、接種してから24時間後における増殖性は、他のウイルスと比べやや遅いものであった。
【0107】
(ワクチン効果試験)
NDVに対する免疫の付与
先ず、2週齢のニワトリに弱毒NDV B1株を10
6EID
50点眼投与し、2週間後の4週齢時にβプロピオラクトンで不活化したNDV B1株を10000HAU筋肉内投与した。
【0108】
組換えウイルスでのワクチネーション
次に、3週間後の7週齢時に、翼静脈より血液を採取した後、組換えAPMV−10/HAを10
6EID
50点眼投与した。
【0109】
HPAIVでの攻撃
そして、ワクチン接種2週間後の9週齢時に、翼静脈より血液を採取した後、HPAIV A/chicken/Yamaguchi/7/2004(H5N1)株を10
6EID
50経鼻接種した。2日目及び4日目に、喉頭及び総排泄腔よりスワブを採取した。10日間症状を観察し、死亡率を算出した。採取したスワブ中に含まれるウイルス力価は、発育鶏卵を用いて算出した。また、採取した血液中の抗体価は、赤血球凝集阻止(HI)試験によって測定した。得られた結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
【0111】
表5に示すとおり、NCRを付与した組換えウイルスで免疫したニワトリは、HPAIVで攻撃した場合、臨床症状を示すことなく、100%生存した。HPAIV攻撃後のウイルスの排泄は、NP−NCR、F−NCR及びHN−NCRでは検出されず、P−NCR、M−NCR及びL−NCRでは、10羽中1〜2羽より検出されたが、そのウイルス力価は低かった。攻撃時のHPAIVに対するHI抗体価は、NCRを付与した組換えウイルスで免疫した多くの個体で検出され、特にHN−NCRでは10羽中8羽でHI抗体価の上昇が認められた。
【0112】
NCRを付与していない10/HA及び10/opHAで免疫したニワトリは、ウイルス攻撃により25%及び50%にとどまり、感染ニワトリからのウイルス排泄が100%確認された。また、HPAIV攻撃時のHI価はほとんどのニワトリにおいて検出限界以下であった。
【0113】
これらのことから、NCRを付与した組換えウイルスは、付与していない組換えウイルスと比べ、そのワクチン効果が増強されていることが確認された。
【0114】
(赤血球凝集阻止試験)
血清を55℃で30分間熱処理し、補体を非働化した。PBSで希釈した血清25μLに、8HAに調整したHPAIV A/chicken/Yamaguchi/7/2004(H5N1)株を25μL加え、30分間静置した。PBSに0.55%の割合でニワトリ赤血球を加えた血球浮遊液を50μL加え、45分後に赤血球の凝集の有無を判定した。赤血球の凝集が起こらない血清の最大希釈を、HI抗体価とした。
【0115】
(抗原遺伝子挿入部位の検討)
抗原遺伝子を挿入する部位がP−M間以外でも、NCR挿入によって抗原の発現量が増加するかを調べるため、F−HN転写単位間に抗原遺伝子を挿入した組換えウイルスFHN−HA、FHN−opHA及びFHN−M−NCRを作製した(
図8及び表6 参照)。なお、表6において、組み換えウイルスFHN−HA及びFHN−opHAの3’非翻訳領域及び5’非翻訳領域は、配列番号ではなく、配列そのものを示す。
【0116】
【表6】
【0117】
そして、これらF−HN転写単位間に抗原遺伝子を挿入した組換えウイルスについて、感染細胞でのタンパク質発現量及びワクチン効果を調べた。得られた結果を
図9及び表7に示す。
【0118】
【表7】
【0119】
図9に示した結果から明らかなように、感染細胞におけるタンパク質発現量は、M遺伝子のNCRを付与したものが他に比べ有意に高かった。また、抗原遺伝子の挿入位置をP−M転写単位間とした場合同様(表5等参照)に、挿入位置をF−HN転写単位間とした場合にも、表7に示すとおり、そのワクチン効果も高いことも明らかになった。
【0120】
したがって、APMVの非翻訳領域によって挟まれた抗原遺伝子(外来遺伝子)を含む転写単位の挿入は、APMVの内在性の各転写単位間にある遺伝子間領域であれば特に制限されることなく、前記遺伝子がコードするタンパク質の発現量を向上できることが、確認された。
【0121】
(抗原遺伝子についての検討)
上述のとおり、本発明によれば、HA遺伝子がコードするタンパク質の発現量を向上できることが明らかになった。そこで次に、外来遺伝子としてHA遺伝子以外の遺伝子(ルシフェラーゼ遺伝子)を用いた場合にも、本発明によれば、当該遺伝子がコードするタンパク質の発現量を向上することができることを、以下に示す方法にて確認した。
【0122】
(ミニゲノム転写系の構築)
ルシフェラーゼ遺伝子がコードするタンパク質発現量における、APMV−10非翻訳領域による向上効果を確認するため、APMV−10のゲノムを模したミニゲノム転写系(ミニゲノム転写プラスミド)を用いた。
【0123】
APMV−10のミニゲノム転写プラスミドは、
図10に示すとおり、pCMV−GLuc2(NEW ENGLAND BioLabs社製)のpolyA配列とCMVプロモーターとの間に、D型肝炎リボザイム配列、APMV−10のLeader配列、APMV−10の遺伝子開始配列、ルシフェラーゼ遺伝子、APMV−10の遺伝子終結配列、APMV−10のTrailer配列及びハンマーヘッド型リボザイムを挿入することにより構築した。なお、前記ルシフェラーゼ遺伝子の配列は、ヒトコドンに最適化したガウシアルシフェラーゼ遺伝子を用いた。
【0124】
ミニゲノム転写プラスミドにより転写されたRNAは、リボザイムにより切断され、3‘末より順にAPMV−10のLeader配列、APMV−10の遺伝子開始配列、ルシフェラーゼ遺伝子、APMV−10の遺伝子終結配列、APMV−10のTrailer配列が並んだRNAとなる。
【0125】
また、
図11及び表8に示すとおり、ルシフェラーゼ遺伝子がコードするタンパク質発現量における、APMV−10非翻訳領域による向上効果を確認するため、前述のミニゲノム転写プラスミドにおいて、ルシフェラーゼ遺伝子の両端にAPMV−10のF又はHN遺伝子の非翻訳領域を付与し、2種類の転写プラスミド(Luc−F−NCR及びLuc−HN−NCR)を作製した。また、コントロールとして、非翻訳領域付与しない転写プラスミド(Luc−blank)も作製した。
【0126】
【表8】
【0127】
なお、表8において、「6の倍数への調整配列」については、配列番号ではなく、配列そのものを示す。また、当該配列は、上述の「パラミクソウイルスの6のルール」を充たすために各転写プラスミドに設けた。
【0128】
(ルシフェラーゼ活性の測定)
図11に示すとおり、前述の各ミニゲノム転写プラスミドと、APMV−10のポリメラーゼ発現プラスミド(pCAGGS−NP、pCAGGS−P及びpCAGGS−L)を、12穴細胞培養プレートに2.8×10
5/wellで播種したVero細胞に、TransIT(登録商標)−LT1 Reagent(TAKARA社製)を用いてトランスフェクションし、48時間後に培養液を回収した。回収した培養液のルシフェラーゼ活性を、Dual−Luciferase(登録商標) Reporter Assay System(プロメガ社製)を用いて測定した。得られた結果を
図12に示す。
【0129】
なお、前記試験(トランスフェクション、培養液の回収及びルシフェラーゼ活性の測定)は、各検体2wellずつの細胞を対象として行ない、別々に3回の試験を実施した。
【0130】
各ミニゲノム転写プラスミドを導入した培養細胞の細胞上清のルシフェラーゼ活性を測定した結果、
図12に示すとおり、APMV−10のHN遺伝子の非翻訳領域がルシフェラーゼ遺伝子に付与してあるLuc−HN−NCRは、付与していないLuc−blankに比べ20倍以上の高い活性を示した。また、F遺伝子の非翻訳領域がルシフェラーゼ遺伝子に付与ししてあるLuc−F−NCRにおいても、Luc−blankに比べ約3倍の高い活性を示した。
【0131】
以上のことから、発現するタンパク質がルシフェラーゼの場合でも、APMV−10の非翻訳領域の付与により、高病原性鳥インフルエンザウイルスのHA遺伝子の場合と同様に、発現が増強されることが確認された。
外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが挿入されている、組み換え鳥パラミクソウイルスであって、前記外来転写単位は、外来タンパク質をコードするヌクレオチドを含み、該ヌクレオチドは、鳥パラミクソウイルスの遺伝子開始配列及び遺伝子終結配列に作動可能に連結しており、前記遺伝子開始配列と前記ヌクレオチドと前記遺伝子終結配列との各々の間に、鳥パラミクソウイルスの非翻訳領域が挿入されており、かつ、前記外来転写単位をコードするマイナス鎖RNAが、鳥パラミクソウイルスの内在性転写単位間にある遺伝子間領域をコードするマイナス鎖RNAに挿入されている、宿主細胞において外来タンパク質を高発現させることを可能とする、組み換え鳥パラミクソウイルス。