特許第6573800号(P6573800)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6573800核酸、プライマーセットおよびこれを用いたカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルムの検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573800
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】核酸、プライマーセットおよびこれを用いたカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルムの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20190902BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20190902BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20190902BHJP
【FI】
   C12N15/11 Z
   C12Q1/6813 ZZNA
   C12Q1/686 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-159251(P2015-159251)
(22)【出願日】2015年8月11日
(65)【公開番号】特開2017-35048(P2017-35048A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(74)【代理人】
【識別番号】100174849
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 理生
(72)【発明者】
【氏名】藤川 貴史
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/074990(WO,A1)
【文献】 LIEFTING L W. et al.,Plant Disease,2009年,Vol. 93, No. 3,pp. 208-214
【文献】 GenBank,2009年9月8日,Online, [retrived on Feb. 15, 2019], accession no. EU834130
【文献】 LI W. et al.,Journal of Microbiological Methods,2009年,Vol. 78,pp. 59-65
【文献】 NISSINEN A. I. et al.,Plant Pathology,2014年,Vol. 63,pp. 812-820
【文献】 FUJIWARA K. et al.,Journal of Plant Pathology,2016年,Vol. 98, No. 3,pp. 441-446
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
C12Q 1/68 − 1/6897
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/
EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表される塩基配列に含まれる連続した16〜30塩基からなる塩基配列からなるフォワードプライマーと、
配列番号1で表される塩基配列に含まれる、前記フォワードプライマーより下流に位置する連続した16〜30塩基からなる塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとからなるプライマーセットであって、
前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーは、それぞれ配列番号1の塩基番号789、790、817、818、819、820、941、942、943、944、983、984、985、986、987、1060、1061、1062、1084、1085、1086、1087、1088、1089、1090、1091、1092、1210、1211、1248、1249、1250、1251および1252からなる群より選択される少なくとも1つの塩基を含み、
配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを鋳型として前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーを用いてPCRを行った場合に、136bp以上322bp以下の長さのDNAが増幅される、プライマーセット。
【請求項2】
前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーは、以下のいずれかの組み合わせである、請求項1に記載のプライマーセット:
(1)配列番号16で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号17で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(2)配列番号16で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号18で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(3)配列番号14で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(4)配列番号13で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(5)配列番号12で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、または
(6)配列番号11で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ。
【請求項3】
配列番号1で表される塩基配列を含まないDNAを鋳型として前記フォワードプライマーおよび前記リバースプライマーを用いてPCRを40サイクル行った場合に、増幅断片が検出されない、請求項1または2に記載のプライマーセット。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプライマーセットと、取り扱い説明書とを含む、カンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum)を検出するためのキット。
【請求項5】
試料中にカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum)が存在するか否かを検出する方法であって、
試料またはその抽出物を鋳型として、請求項1〜3のいずれかに記載のプライマーセットを用いてPCRを行う工程と、
前記PCRにて増幅されたDNAを検出することにより試料中にカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルムが存在するか否かを判定する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病原細菌として知られるカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum)を検出するための核酸、プライマーセットおよび検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum;以下「Lso」ともいう。)は、近年見つかった植物病原菌であり、吸汁性媒介虫によって宿主植物に伝播される。しかし、その生態についてはほとんど明らかとなっていない。
【0003】
2008年以降、アメリカ合衆国、メキシコ、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアおよびニュージーランドにおいて、この病原菌がジャガイモの現茎部(芋)に縞状の病徴を示すゼプラチップ病を引き起こすことが報告されている(非特許文献1)。また、ジャガイモと同じナス科植物においては、植物体に黄化症状等を引き起こすことも知られている(非特許文献1)。加えて、2010年以降には、欧州のラィンランド、ノルウェー、スウェーデン、フランスおよびスぺインにおいて、ニンジンおよび同じセリ科であるセロリーで葉の脱色化や茎や根の矮化といった病徴を引き起こすことが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
いずれの病徴についても生理障害や虫害と区別することが難しく、またファイトプラズマによる病害とも似ており、正確な病原体同定が立ち遅れていた。そのため、裁培現場において本病原菌による病害を適切に診断することが望まれている。また、種苗検査の場においては、感染種芋や感染種子の混入を迅速に診断することも望まれている。更には、多様な農作物について、これまで生理障害や虫害と考えられていた症状がLsoによる病害として再同定される可能性もある。
【0005】
そこで従来、Lsoによる感染を診断するために、LsoのDNAが植物体DNAに混入しているかどうかをPCR法による核酸増幅技術を用いた遺伝子診断技術によって判定している。Lsoを検出するためのプライマーとして、いくつかのプライマーが報告されている(非特許文献2〜5;特許文献1)。しかし、これらの既存のプライマーでは、特異性が低く偽陽性が検出されやすいという問題があった。たとえば、類緑の植物病原体であるカンジダタス・リベリバクター・アシアティクス(Candidatus Liberibacter asiaticus;以下、「Las」ともいう。)などと区別して検出することが困難であった。
【0006】
また、既存のプライマーは、PCR反応後にアガロース電気泳動等で増幅断片を検出する一般的なPCR法(コンベンショナルPCR法)に適したものか、リアルタイムPCR法に適したものかのいずれかとなっており、コンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法のいずれにも利用可能なプライマーについては知られていなかった。このため、診断を行う者は、コンベンショナルPCR法またはリアルタイムPCR法のいずれの診断方法を採用するか、あらかじめ判断する必要がある。加えて、いずれかの診断方法を採用してLsoDNA混入の判定を行っても、外部組織や他の診断者が異なるプライマ一および異なる診断方法を採用していた場合、診断結果の再現性が得られないことがあり、量的な比較も不可能である。この結果、検査現場におけるLsoの診断精度の確実性が危ぶまれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】スペイン特許出願公開第2377690号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】EPPO Data Sheets on pests recommended for regulation ‘Candidatus Liberibacter solanacearum’, EPPO Bulletin, Volume 43, Issue 2, pages 197-201, August 2013
【非特許文献2】Bertolini et al., Transmission of ‘Candidatus Liberibacter solanacearum’ in carrot seeds, Plant Pathology, Volume 64, Issue 2, pages 276-285, April 2014
【非特許文献3】Liefting et al., A New ‘Candidatus Liberibacter’ Species Associated with Diseases of Solanaceous Crops, Plant Disease, Volume 93, Number 3, Pages 208-214, March 2009
【非特許文献4】Li et al, Multiplex real-time PCR for detection,identification and quantification of ‘CandidatusLiberibacter solanacearum’ in potato plants withzebra chip, Journal of Microbiological Methods, Volume 78, Issue 1, Pages 59-65, July 2009
【非特許文献5】Nissinen et al., Different symptoms in carrots caused by male and femalecarrot psyllid feeding and infection by ‘CandidatusLiberibacter solanacearum’, Plant Pathology, Volume 63, Issue 4, pages 812-820, August 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術が有する問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物病原細菌であるカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Lso)をより特異的に検出することができる核酸、プライマーセットおよび検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、LsoDNAを特異的に検出するためのプライマーの設計を新規に行った。本発明者らは、Lsoおよび類縁のLiberibacter属細菌を含む約60種もの細菌の16S rDNA配列を抽出してアラインメント解析を行い、Lso特有の塩基を見出した。そして、塩基長、GC含量およびTm値を考慮し、Lsoに特異的なプライマーとして利用可能な塩基配列を抽出して本発明を完成させた。
【0011】
本発明は、配列番号1で表される塩基配列に含まれる連続した16〜30塩基からなる塩基配列またはその相補配列からなり、配列番号1の塩基番号789、790、817、818、819、820、941、942、943、944、983、984、985、986、987、1060、1061、1062、1084、1085、1086、1087、1088、1089、1090、1091、1092、1210、1211、1248、1249、1250、1251および1252からなる群より選択される少なくとも1つの塩基を含む、核酸を提供する。
【0012】
また本発明は、配列番号2〜18のいずれかで表される塩基配列またはその相補配列を含む上記核酸を提供する。
【0013】
また本発明は、配列番号1で表される塩基配列に含まれる連続した16〜30塩基からなる塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号1で表される塩基配列に含まれる、フォワードプライマーより下流に位置する連続した16〜30塩基からなる塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとからなるプライマーセットであって、フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、それぞれ配列番号1の塩基番号789、790、817、818、819、820、941、942、943、944、983、984、985、986、987、1060、1061、1062、1084、1085、1086、1087、1088、1089、1090、1091、1092、1210、1211、1248、1249、1250、1251および1252からなる群より選択される少なくとも1つの塩基を含む、プライマーセットを提供する。
【0014】
また本発明は、上記プライマーセットにおいて、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAを鋳型としてフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いてPCRを行った場合に、100bp以上350bp以下の長さのDNAが増幅される、プライマーセットを提供する。
【0015】
また本発明は、上記プライマーセットにおいて、フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、以下のいずれかの組み合わせである、請求項3または4に記載のプライマーセットを提供する:
(1)配列番号16で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号17で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(2)配列番号16で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号18で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(3)配列番号14で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(4)配列番号13で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(5)配列番号12で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、または
(6)配列番号11で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ。
【0016】
また本発明は、上記プライマーセットにおいて、配列番号1で表される塩基配列を含まないDNAを鋳型としてフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いてPCRを40サイクル行った場合に、増幅断片が検出されない、プライマーセットを提供する。
【0017】
また本発明は、上記のいずれかのプライマーセットと、取り扱い説明書とを含む、カンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum)を検出するためのキットを提供する。
【0018】
また本発明は、試料中にカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Candidatus Liberibacter solanacearum)が存在するか否かを検出する方法であって、試料またはその抽出物を鋳型として、上記のいずれかのプライマーセットを用いてPCRを行う工程と、PCRにて増幅されたDNAを検出することにより試料中にカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルムが存在するか否かを判定する工程とを含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、植物病原細菌であるカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Lso)をより特異的に検出することができる。また、本発明であれば、Lsoを特異的に検出でき、かつコンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法のいずれの診断方法にも利用可能なプライマーセットを提供することができる。したがって、本発明を利用することにより、共通のプライマーを用いてコンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法の両方の診断方法でLsoDNAを特異的に検出することが可能になる。そのため、診断方法を横断してLsoDNA検出結果の再現性を確認することができ、また量的な比較を行うことが可能であり、検査現場におけるLsoの診断精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施例のプライマーセットを用いたコンベンショナルPCR法によって増幅されたDNA断片を電気泳動した結果を示す図。
図2】従来のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図3】従来のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図4】本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図5】本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図6】本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図7】本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図8】本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
図9】本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、核酸を提供する。本明細書において「核酸」とは、ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドをさし、たとえばデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)およびこれらの類似体が含まれる。核酸の類似体には、たとえばペプチド核酸が含まれる。本発明の核酸は、一本鎖および二本鎖の核酸を包含する。本発明の核酸は、たとえばオリゴヌクレオチド、プライマーおよびプローブ等であることができる。
【0022】
本発明の核酸は、プライマー(核酸プライマー)であってもよい。本明細書において「プライマー」とは、遊離した3'OHを有する一本鎖のポリヌクレオチドであり、標的配列とハイブリダイズすることによって、DNAポリメラーゼによる標的に相補的なポリヌクレオチドの重合を促進させる。本発明の核酸は、たとえば、植物病原細菌として知られるカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルム(Lso)を検出するための核酸プライマーとして用いることができる。本発明の核酸は、PCR法のためのプライマーとして用いることができる。本発明の核酸は、たとえば、PCR反応後にアガロース電気泳動等で増幅断片を検出する一般的なPCR法(コンベンショナルPCR法)およびリアルタイムPCR法などに利用可能である。
【0023】
本発明の核酸は、LsoのCLso-ZC1 strainの16SrDNA配列(配列番号1)に含まれる連続した16〜30塩基からなる塩基配列またはその相補配列からなる。本発明の核酸は、以下の群から選択される少なくとも1つの塩基を含む:配列番号1の塩基番号66、167、168、169、170、171、198、199、200、201、202、231、232、250、251、252、432、433、445、534、535、543、544、545、546、589、590、591、592、593、603、604、605、606、645、789、790、817、818、819、820、941、942、943、944、983、984、985、986、987、1060、1061、1062、1084、1085、1086、1087、1088、1089、1090、1091、1092、1210、1211、1248、1249、1250、1251および1252からなる群。これらの塩基は、Lsoおよび類縁のLiberibacter属細菌を含む約60種の細菌の16SrDNA配列をアラインメント解析することにより抽出した、Lso特有の塩基である。これらの塩基群の少なくとも1つを含むことによって、本発明の核酸は、Lsoを特異的に検出することができる。
【0024】
本発明の核酸は、たとえば、Lsoの16SrDNA配列(配列番号1)の塩基番号61〜82(配列番号2)、156175(配列番号3)、182203(配列番号4)、213233(配列番号5)、231252(配列番号6)、427448(配列番号7)、522546(配列番号8)、589611(配列番号9)、643666(配列番号10)、783802(配列番号11)、804824(配列番号12)、928950(配列番号13)、969992(配列番号14)、10561077(配列番号15)、10841104(配列番号16)、14101228(配列番号17)もしくは12481270(配列番号18)のいずれかの塩基配列またはその相補配列を含んでもよい。たとえば、本発明の核酸は、配列番号2〜18のいずれかで表される塩基配列またはその相補配列からなってもよい。配列番号2〜18の塩基配列およびLso16S rDNAにおける位置は、後述する表1に示される。
【0025】
本発明の核酸は、1〜数塩基の付加配列をさらに含んでもよい。たとえば、本発明の核酸は、5’末端に制限酵素認識配列等の付加配列をさらに含んでもよい。
【0026】
本発明はまた、プライマーセットを提供する。本発明のプライマーセットは、Lsoを検出するためのプライマーセットとして用いることができる。
【0027】
本発明のプライマーセットは、Lsoの16SrDNA配列(配列番号1)に含まれる連続した16〜30塩基からなる塩基配列からなるフォワードプライマーと、Lsoの16SrDNA配列(配列番号1)に含まれる連続した16〜30塩基からなる塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとからなる。リバースプライマーは、Lsoの16SrDNA配列において、フォワードプライマーより下流に位置する。
【0028】
フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、それぞれ以下の群から選択される少なくとも1つの塩基を含む:配列番号1の塩基番号66、167、168、169、170、171、198、199、200、201、202、231、232、250、251、252、432、433、445、534、535、543、544、545、546、589、590、591、592、593、603、604、605、606、645、789、790、817、818、819、820、941、942、943、944、983、984、985、986、987、1060、1061、1062、1084、1085、1086、1087、1088、1089、1090、1091、1092、1210、1211、1248、1249、1250、1251および1252からなる群。
【0029】
本発明のプライマーセットを用いて、Lsoの16SrDNAを含むDNAを鋳型としてPCRを行った場合に、DNAを増幅させることができる。本発明のプライマーセットを用いて増幅されるDNAは、PCR法により増幅され得る長さであれば特に限定されないが、100bp以上であれば容易に検出することができる。また、本発明のプライマーセットを用いて増幅されるDNAは、特に限定されないが、350bp以下であれば、コンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法のいずれにも好適に利用することができる。
【0030】
フォワードプライマーは、たとえば配列番号2〜18のいずれかで表される塩基配列を含んでもよく、リバースプライマーは、たとえば配列番号2〜18のいずれかで表される塩基配列の相補配列を含んでもよい。フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、Lsoの16SrDNAを含むDNAを鋳型としてPCRを行った場合に、DNAを増幅させることができる組み合わせであれば、いずれの組み合わせであってもよい。
【0031】
フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、たとえば以下のいずれかの組み合わせであってもよい:
(1)配列番号16で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号17で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(2)配列番号16で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号18で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(3)配列番号14で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(4)配列番号13で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、
(5)配列番号12で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ、または
(6)配列番号11で表される塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号16で表される塩基配列の相補配列からなるリバースプライマーとの組み合わせ。
【0032】
本発明のプライマーセットは、Lsoの16S rDNA配列を含まないDNAを鋳型としてPCRを40サイクル行った場合に、増幅断片が検出されないものであってもよい。言い換えれば、本発明のプライマーセットは、Lsoの16S rDNA配列を含まないDNAを鋳型としたときのCt値が40より高いかまたは検出されないものであってもよい。Ct値とは、PCR増幅産物がある一定量に達したときのサイクル数を表す値である。このようなプライマーセットであれば、非特異的増幅が起こりにくいため、偽陽性を防ぐことができる。したがって、Lsoの存在の有無をより正確に診断することができる。
【0033】
本発明のプライマーセットは、コンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法などのPCR法のプライマーセットとして利用することができる。本発明のプライマーセットを用いて、試料を鋳型としてPCR法を行い、増幅断片を検出することによって、試料中にLsoが存在するか否かを容易かつ正確に診断することができる。
【0034】
本発明はまた、Lsoを検出するためのキットを提供する。本発明のキットは、本発明のプライマーセットを含む。また、本発明のキットは、取り扱い説明書、PCR酵素、バッファー、dNTP混合物、蛍光色素およびLso 16S rDNAを含むDNA溶液などをさらに含んでもよい。
【0035】
本発明はまた、試料中にLsoが存在するか否かを検出する方法を提供する。本発明の検出方法は、試料またはその抽出物を鋳型として、本発明のプライマーセットを用いてPCRを行う工程と、PCRにて増幅されたDNAを検出することにより試料中にLsoが存在するか否かを判定する工程とを含む。
【0036】
試料またはその抽出物としては、Lsoの感染または混入が疑われる植物体の一部またはその抽出物、たとえばDNA抽出物などを用いることができる。PCRを行う方法としては、公知の方法、たとえばコンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法などを用いることができる。リアルタイムPCR法を用いる場合、インターカレーター法およびハイブリダイゼーション法などを用いることができる。PCRの反応条件には、一般的な反応条件を用いることができ、たとえば96℃30秒、55℃30秒および72℃30秒の3ステップを35〜45サイクル行ってもよい。
【0037】
判定する工程では、アガロースゲル電気泳動法、SYBRグリーン法および蛍光プローブ法などの任意の方法により、所定の長さのDNA断片がPCRにて増幅されたか否かを検出する。その結果、増幅されたDNA断片が検出された場合には、試料中にLsoが存在すると判定することができる。
【0038】
本発明のプライマーセットは、従来のプライマーセットよりもLsoDNAの特異性や定量性に優れた検出を可能にする。また、本発明は、コンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法の両方に利用可能なプライマーセットを提供することができるため、診断者や検出方法が異なっている場合でも検出結果を客観的にとらえることが可能である。したがって、本発明は、Lso診断の現場において広く普及させることができる。
【0039】
本発明は、国内外の植物検疫所、検疫行政、病害虫防除所、種苗会社および苗木業者などの現場での利用が想定される。本発明の普及に伴い、Lso診断法がさらに確立されることで、Lsoの感染あるいは混入が疑われる種子や苗等の植物体を適切に検査することができ、国内への侵入を未然に防ぐことができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔1.Lso特有配列を抽出〕
米国生物工学情報センター(NCBI;Natinal Center for Biotechnology Information)が提供する塩基配列データベースであるGenBank等の公共のDNA配列データベースより、Lsoおよび類縁のLiberibacter属細菌を含む種々の細菌の16S rDNA配列を抽出し、アラインメント解析を行った。解析に用いた細菌群は、以下である;プロテオバクテリア門(Proteobacteria)から、Liberibacter solanacearum(Lso);Liberibacter asiaticus(Las);Liberibacter africanus;Liberibacter americanus;Rhizobium galegae;Agrobacterium tumefaciens;Shinorizobium sp;Bartonella bacilliformis;Acetobacter aceti;Bradyrhizobium japonicum;Ricketsia typhi;Wolbachia wMel;Burkholderia cepacia;Nitrosomonas europaea;Ralstonia solanacearum;Xylella fastidiosa;Xanthomonas axonopodis pv. citri;Xanthomonas citri subsp. malvacearum;Xanthomonas oryzae pv. oryzae;Legionella tucsonensis;Pseudomonas marginalis;Pseudomonas fluorescens;Pseudomonas syringae;Pseudomonas viridiflava;Buchnera aphidicola;Escherichia coli;Salmonella enterica subsp. enterica serover typhimurium;Klebsiella pneumoniae;Dickeya dadantii;Enterobacter nimipressuralis;Geobacter metallireducens;Desulfobacterium autotrophicum;Helicobacter pylori;およびCampylobacter jejuni;フィルミクテス門(Firmicutes)から、Streptococcus mutans;Streptococcus thermophilus;およびBacillus subtilis;テネリクテス門(Tenericutes)から、Ureaplasma parvum;Mycoplasma genitalium;Mycoplasma suis;およびPhytoplasma sp;放線菌門(Actinobacteria)から、Streptomyces rutgersensis;Streptomyces thermodiastaticus;Nocardia flavorosea;Mycobacterium smegmatis;Microlunatus phosphovorus;Friedmanniella antarctica;Luteococcus japonica;Nocardioides plantarum;Aeromicrobium fastidiosum;およびCorynebacterium glutamicum;その他より、Chlamydia trachomatis;Leptospira biflexa;Borrelia burgdorferi;Spirochaeta thermophila;Fusobacterium nucleatum;Bacteroides fragilis;およびThermococcus stetteri。
【0042】
アラインメント解析の結果、16S rDNA配列中でLso特有の塩基を見出した。そして、塩基長、GC含量およびTm値を考慮し、Lsoに特異的なプライマーとして利用可能な塩基配列を抽出した。抽出したプライマー配列を表1に示す。表1に示すプライマー配列において、Lso特有の塩基には下線を付した。
【0043】
【表1】
【0044】
〔2.コンベンショナルPCR〕
表1に示したプライマー配列からなるフォワードプライマー(F)と、表1に示したプライマー配列の相補配列からなるリバースプライマー(R)とを組み合わせたプライマーセットを用いて、コンベンショナルPCRを行った。表2は、使用したプライマーセットa〜gを示す。
【0045】
【表2】
【0046】
PCR酵素には、タカラバイオ株式会社のTaKaRa ExTaqHSを用いた。鋳型DNAには、LsoDNAの約108コピー相当を含むジャガイモDNA溶液を用いた。PCR反応条件は、以下である:96℃10分;96℃30秒、55℃30秒および72℃30秒の3ステップを35サイクル;72℃7分。PCR反応後に、定法によってアガロースゲル電気泳動を行い、DNA増幅断片を確認した。
【0047】
図1は、本実施例のプライマーセットを用いたコンベンショナルPCR法によって増幅されたDNA断片を電気泳動した結果を示す図である。図1に示すように、いずれのプライマーセットを用いた場合でも、コンベンショナルPCR法により増幅されたLsoDNA断片が検出された。
【0048】
〔3.リアルタイムPCR〕
次に、本実施例のプライマーセットを用いて、インターカレーター法によるリアルタイムPCR法を行った。プライマーセットには、上記表2に示すプライマーセットb〜gを用いた。また、比較例として、従来のプライマーセットLsoF/HLBr(非特許文献4)およびCaLsppF/CaLsppR(非特許文献2)を用いた。PCR酵素には、タカラバイオ株式会社のSYBR(登録商標) Premix Ex Taq II(Tli RNaseH Plus)を用いた。鋳型DNAには、ニンジン種子500粒から定法によって抽出したDNA溶液に、LsoDNAを添加したものを用いた。LsoDNAには、プライマーセットLsoOI1/LsoOI2-Rを用いたPCRによって増幅したDNA断片を用い、このDNA断片の濃度を測定してコピー数を計算し、希釈系列を調製したものを添加した。サーマルサイクラ―には、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)のStepOnePlusを用いた。PCR反応条件は、以下である:96℃10分;96℃30秒、55℃30秒および72℃30秒の3ステップを45サイクル;72℃7分。PCR反応後に、鋳型中のLsoDNAコピー数と、PCR増幅産物がある一定量に達したときのサイクル数を表すCt値とをプロットしてグラフ化した。
【0049】
図2および図3は、従来のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフである。図4〜9は、本実施例のプライマーセットを用いたリアルタイムPCR法によるDNA増幅結果を示すグラフである。これらのグラフの縦軸はCt値を表し、横軸は鋳型中のLsoDNAコピー数を表す。また、グラフには、LsoDNAを含まない試料を鋳型としたときのCt値をNCとして示した。
【0050】
図4〜9に示すように、本実施例のプライマーセットb〜gのいずれを用いた場合でも、リアルタイムPCRによるLsoDNAの増幅が検出された。これらのプライマーセットを用いたLsoDNAの増幅は、鋳型中のLsoDNAコピー数と高い相関性を示しており、定量的な検出が可能であることが示された。特に、プライマーセットb(図4)、d(図6)およびe(図7)を用いた場合には、LsoDNAを含まない試料を鋳型としたときのCt値(NC)が40より高いかまたは検出されないため、非特異的増幅が起こりにくく、より正確にLsoを検出可能であることが示された。
【0051】
一方、従来のプライマーセットを用いた場合には、図2および3に示すように、リアルタイムPCRによるLsoDNAの増幅が検出されたものの、LsoDNAを含まない試料を鋳型としたときのCt値(NC)が低く、非特異的増幅を避けられない。
【0052】
以上の結果から、本実施例のプライマーセットb〜gは、コンベンショナルPCR法およびリアルタイムPCR法の両方に利用可能であることが示された。したがって、これらのプライマーセットを用いた場合、異なる実験系を利用して検出結果を客観的にとらえることが可能である。
【0053】
〔4.Lso特異性〕
本実施例のプライマーセットを用いて、Lsoおよび類縁の細菌のDNAを鋳型として、インターカレーター法によるリアルタイムPCR法を行った。プライマーセットには、上記表2に示すプライマーセットd〜gを用いた。また、比較例として、従来のプライマーセットLsoF/HLBr(非特許文献4)およびCaLsppF/CaLsppR(非特許文献2)を用いた。鋳型としては、Liberibacter solanacearum(Lso)、Liberibacter asiaticus(Las)、Liberibacter americanus(Lam)およびLiberibacter europaeus(Leu)のDNAを用いた。PCRの条件等は上述した方法を用いた。
【0054】
その結果を表3に示す。強い増幅が見られた場合を「A」で、少ないが増幅が見られた場合を「B」で、全く増幅が確認されなかった場合を「−」で示した。表3に示すように、Lso以外の類縁の種のDNAを鋳型とした場合に、従来のプライマーセットでは少し増幅が見られたが、本実施例のプライマーセットでは全く増幅が確認されなかった。したがって、本実施例のプライマーセットは、従来のプライマーセットと比較してLso特異性に優れていることが示された。
【0055】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、植物病原細菌であるカンジダタス・リベリバクター・ソラナケアルムの定量性および特異性に優れた検出を可能にするため、国内外の植物検疫所、検疫行政、病害虫防除所、種苗会社および苗木業者などの現場で利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]