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特許6574098リチウム含有複合酸化物の製造方法、正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574098
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】リチウム含有複合酸化物の製造方法、正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20190902BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190902BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190902BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-79039(P2015-79039)
(22)【出願日】2015年4月8日
(65)【公開番号】特開2016-199413(P2016-199413A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】酒井 智弘
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−095571(JP,A)
【文献】 特開2012−253009(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/083861(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/192758(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/091028(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiNiCoMn(ただし、xは1.1〜1.7であり、aは0.15〜0.55であり、bは0〜0.33であり、cは0.33〜0.85であり、dは0〜0.05であり、a+b+c+d=1であり、MはLi、Ni、CoおよびMn以外の他の金属元素であり、yはLi、Ni、Co、MnおよびMの原子価を満足するのに必要な酸素(O)のモル数である。)で表されるリチウム含有複合酸化物を製造する方法であって、
下記の工程(b)〜(d)を有する、リチウム含有複合酸化物の製造方法。
(b)NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕して、D50が0.01〜1μmである粉砕物を含むスラリーを得る工程。
(c)前記スラリーを乾燥して造粒体を得る工程。
(d)前記造粒体を、空気を供給しながら950〜1100℃で焼成して前記リチウム含有複合酸化物を得る工程。前記空気の供給速度は、炉の内容積1Lあたり、10〜200mL/分とする。
【請求項2】
前記水酸化物の比表面積が、20〜50m/gである、請求項1に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム化合物が、炭酸リチウムである、請求項1または2に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕メディアが、直径0.05〜50mmのジルコニアボールである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(d)において、前記造粒体を500〜700℃で仮焼成した後、800〜1100℃で本焼成する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
下記工程(e)をさらに有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(e)前記工程(d)の後、前記リチウム含有複合酸化物を解砕する工程。
【請求項7】
前記式におけるaが0.15〜0.5であり、bが0〜0.09であり、cが0.45〜0.8であり、dが0〜0.05である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有複合酸化物の製造方法、正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極に含まれる正極活物質としては、リチウム含有複合酸化物、特にLiCoOがよく知られている。しかし、近年、携帯型電子機器や車載用のリチウムイオン二次電池には、小型化、軽量化が求められ、正極活物質の単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の放電容量(以下、単に放電容量とも記す。)のさらなる向上が要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の放電容量をさらに高くできる正極活物質としては、LiおよびMnの含有率が高い正極活物質、いわゆるリチウムリッチ系正極活物質が注目されている。しかし、リチウムリッチ系正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、充放電サイクルを繰り返した際に充放電容量を維持する特性(以下、サイクル特性と記す。)が低くなるという問題を有する。
【0004】
放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウムリッチ系正極活物質としては、下記のものが提案されている。
空間群R−3mの結晶構造と空間群C2/mの結晶構造(リチウム過剰相)とを有するリチウム含有複合酸化物からなり、リチウム含有複合酸化物はLiとNiおよびCoのいずれか一方または両方とMnとを含み、Ni、CoおよびMnの合計モル量(X)に対するMnのモル量の比(Mn/X)が0.55以上であり、X線回折パターンにおける空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I020)の比(I020/I003)が0.02〜0.5であり、B(ホウ素)を0.001〜3質量%含む正極活物質(特許文献1)。
【0005】
該正極活物質においては、Bが正極活物質の表面に存在するため、正極活物質と電解液との接触が抑えられ、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上するとされている。しかし、該正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池であっても、サイクル特性はいまだ充分満足できるレベルにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−096650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウム含有複合酸化物を製造できる製造方法;放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる正極活物質およびリチウムイオン二次電池用正極;ならびに、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]LiNiCoMn(ただし、xは1.1〜1.7であり、aは0.15〜0.55であり、bは0〜0.33であり、cは0.33〜0.85であり、dは0〜0.05であり、a+b+c+d=1であり、MはLi、Ni、CoおよびMn以外の他の金属元素であり、yはLi、Ni、Co、MnおよびMの原子価を満足するのに必要な酸素(O)のモル数である。)で表されるリチウム含有複合酸化物を製造する方法であって、下記の工程(b)〜(d)を有する、リチウム含有複合酸化物の製造方法。
(b)NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕して、D50が0.01〜1μmである粉砕物を含むスラリーを得る工程。
(c)前記スラリーを乾燥して造粒体を得る工程。
(d)前記造粒体を800〜1100℃で焼成して前記リチウム含有複合酸化物を得る工程。
[2]前記水酸化物の比表面積が、20〜50m/gである、[1]のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
[3]前記リチウム化合物が、炭酸リチウムである、[1]または[2]のリチウム含有複合酸化物の製造方法。
[4]前記粉砕メディアが、直径0.05〜50mmのジルコニアボールである、[1]〜[3]のいずれかのリチウム含有複合酸化物の製造方法。
[5]前記工程(d)において、前記造粒体を500〜700℃で仮焼成した後、800〜1100℃で本焼成する、[1]〜[4]のいずれかのリチウム含有複合酸化物の製造方法。
[6]下記工程(e)をさらに有する、[1]〜[5]のいずれかのリチウム含有複合酸化物の製造方法。
(e)前記工程(d)の後、前記リチウム含有複合酸化物を解砕する工程。
[7]前記式におけるaが0.15〜0.5であり、bが0〜0.09であり、cが0.45〜0.8であり、dが0〜0.05である、[1]〜[6]のいずれかのリチウム含有複合酸化物の製造方法。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかのリチウム含有複合酸化物の製造方法で得られたリチウム含有複合酸化物を含む、正極活物質。
[9]前記[8]の正極活物質、導電材およびバインダを含む、リチウムイオン二次電池用正極。
[10]前記[9]のリチウムイオン二次電池用正極、負極および非水電解質を有する、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウム含有複合酸化物の製造方法によれば、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができるリチウム含有複合酸化物を製造できる。
本発明の正極活物質によれば、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極によれば、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、放電容量およびサイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】例1で得られた造粒体、ならびに水酸化物と炭酸リチウムとの単なる混合物について熱重量測定(TG)を行った結果を示すグラフである。
図2】例1および例5のリチウム含有複合酸化物のX線回折パターンを示す図である。
図3】例1〜3のリチウム二次電池について充放電サイクルを繰り返した際のサイクル維持率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「解砕」とは、二次粒子が集まった塊状物を二次粒子毎に解(ほぐ)すことを意味する。
「粉砕」とは、二次粒子自体を粉々に砕くことを意味する。
「比表面積」は、BET(Brunauer,Emmet,Teller)法によって測定される値である。比表面積の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。
「D50」は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径である。
「粒度分布」は、レーザー散乱粒度分布測定装置(たとえば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置等)で測定した頻度分布および累積体積分布曲線から求められる。測定は、粉末を水媒体中に超音波処理等で充分に分散させて行われる。
「結晶子径」は、X線回折パターンにおける特定のピークについて、該ピークの回折角2θ(deg)および半値幅B(rad)から下記シェラーの式によって求める。
abc=(0.9λ)/(Bcosθ)
ただし、Dabcは、(abc)面の結晶子径であり、λは、X線の波長である。
「Li」との表記は、特に言及しない限り当該金属単体ではなく、Li元素であることを示す。Ni、Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
リチウム含有複合酸化物の組成分析は、誘導結合プラズマ分析法(以下、ICPと記す。)によって行う。また、リチウム含有複合酸化物の元素の比率は、初回充電(活性化処理ともいう。)前のリチウム含有複合酸化物における値である。
【0012】
<リチウム含有複合酸化物>
本発明の製造方法(以下、本製造方法と記す。)で得られるリチウム含有複合酸化物は、下式Iで表される化合物(以下、複合酸化物(I)とも記す。)である。
LiNiCoMn 式I
【0013】
xは、複合酸化物(I)に含まれるLiのモル数であり、1.1〜1.7である。xは、1.2〜1.65が好ましい。xが前記範囲であれば、複合酸化物(I)を有するリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
【0014】
aは、複合酸化物(I)に含まれるNiのモル数であり、0.15〜0.55である。aは、0.15〜0.5が好ましく、0.2〜0.4がより好ましい。aが上記範囲内であれば、複合酸化物(I)を有するリチウムイオン二次電池の放電容量および充放電効率を高くできる。
【0015】
bは、複合酸化物(I)に含まれるCoのモル数であり、0〜0.33である。bは、0〜0.09が好ましく、0〜0.07がより好ましい。bが上記範囲内であれば、複合酸化物(I)を有するリチウムイオン二次電池の放電容量および充放電効率を高くできる。
【0016】
cは、複合酸化物(I)に含まれるMnのモル数であり、0.33〜0.85である。cは、0.45〜0.8が好ましく、0.5〜0.78がより好ましい。cが上記範囲内であれば、複合酸化物(I)を有するリチウムイオン二次電池の放電容量および充放電効率を高くできる。
【0017】
複合酸化物(I)は、必要に応じて他の金属元素Mを含んでいてもよい。他の金属元素Mとしては、Mg、Ca、Ba、Sr、Al、Cr、Fe、Ti、Zr、Y、Nb、Mo、Ta、W、Ce、La等が挙げられる。高い放電容量が得られやすい点から、Mg、Al、Cr、Fe、TiおよびZrからなる群から選ばれる1以上の金属元素が好ましい。
dは、複合酸化物(I)に含まれるMのモル数であり、0〜0.05である。dは、0〜0.02が好ましく、0〜0.01がより好ましい。
【0018】
a、b、cおよびdの合量(a+b+c+d)は1である。
yは、Li、Ni、Co、MnおよびMの原子価を満足するのに必要な酸素(O)のモル数である。
【0019】
複合酸化物(I)は、空間群C2/mの層状岩塩型結晶構造および空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造を有する。空間群C2/mの結晶構造は、リチウム過剰相とも呼ばれる。空間群C2/mの結晶構造を有する化合物としては、Li(Li1/3Mn2/3)O等が挙げられる。空間群R−3mの結晶構造を有する化合物としては、LiMeO(ただし、Meは、Ni、Co、MnおよびMからなる群から選ばれる1種以上の元素である。)等が挙げられる。複合酸化物(I)がこれらの結晶構造を有することは、X線回折測定により確認できる。
【0020】
X線回折測定は、実施例に記載の方法および条件で行う。空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークは、2θ=18〜20degに現れるピークである。空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークは、2θ=20〜22degに現れるピークである。空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面のピークは、2θ=64〜66degに現れるピークである。
【0021】
複合酸化物(I)のX線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(003)面のピークの積分強度(I003)に対する、空間群C2/mの結晶構造に帰属する(020)面のピークの積分強度(I020)の比(I020/I003)は、0.02〜0.3が好ましい。I020/I003が前記範囲内であれば、複合酸化物(I)が前記2つの結晶構造をバランスよく有するため、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くしやすい。リチウムイオン二次電池の放電容量を高くする点から、I020/I003は、0.02〜0.28がより好ましく、0.02〜0.25がさらに好ましい。
【0022】
空間群R−3mの層状岩塩型結晶構造を有する結晶子においては、充放電時に各々のLiは同一層内でa−b軸方向に拡散し、結晶子の端でLiの出入りが起こる。結晶子のc軸方向は積層方向であり、c軸方向が長い形状は、同一体積の他の結晶子に対して、Liが出入りできる端の数が増える。a−b軸方向の結晶子径は、複合酸化物(I)のX線回折パターンにおける、空間群R−3mの結晶構造に帰属する(110)面のピークからシェラーの式によって求めた結晶子径(D110)である。c軸方向の結晶子径は、複合酸化物(I)のX線回折パターンにおける、空間群R−3mの(003)面のピークからシェラーの式によって求めた結晶子径(D003)である。
【0023】
複合酸化物(I)におけるD003は、60〜140nmが好ましく、70〜140nmがより好ましく、70〜120nmがさらに好ましい。D003が前記範囲の下限値以上であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好にしやすい。D003が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くしやすい。
【0024】
複合酸化物(I)におけるD110は、30〜80nmが好ましく、40〜80nmがより好ましく、45〜70nmがさらに好ましい。D110が前記範囲の下限値以上であれば、結晶構造の安定性が向上する。D003が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好にしやすい。
【0025】
<リチウム含有複合酸化物の製造方法>
本製造方法は、NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕して、D50が0.01〜1μmである粉砕物を含むスラリーを得た後、スラリーを乾燥して造粒体とし、該造粒体を800〜1100℃で焼成して複合酸化物(I)を得る方法である。
【0026】
本製造方法においては、焼成前に原料(水酸化物およびリチウム化合物)に粉砕メディアの衝突によって物理的な衝撃を与え、原料同士を均一にかつ細かく接触させることによって、焼成の際に原料の反応が均一にかつ速く進行する。その結果、複合酸化物(I)における結晶構造のムラが減少する。結晶構造のムラが少ない複合酸化物(I)を正極活物質として用いると、リチウムイオン二次電池の充放電の反応において、不均一な反応が減少し、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が向上する。
【0027】
本製造方法の一態様としては、たとえば、下記の工程(a)〜(e)を有する方法が挙げられる。
(a)NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物を得る工程。
(b)NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕して、D50が0.01〜1μmである粉砕物を含むスラリーを得る工程。
(c)スラリーを乾燥して造粒体を得る工程。
(d)造粒体を800〜1100℃で焼成して複合酸化物(I)を得る工程。
(e)必要に応じて、複合酸化物(I)を解砕する工程。
【0028】
工程(a):
水酸化物がMを含む場合、水酸化物に含まれるNi、Co、MnおよびMの比率は、複合酸化物(I)に含まれるNi、Co、MnおよびMの比率と同じにすることが好ましい。
水酸化物がMを含まず、工程(b)においてスラリーにMを含む化合物をさらに混合する場合、水酸化物に含まれるNi、CoおよびMnの比率は、複合酸化物(I)に含まれるNi、CoおよびMnの比率と同じにすることが好ましい。
Mは、複合酸化物(I)に含まれるMと同様である。
水酸化物は、一部酸化されているオキシ水酸化物も含む。
【0029】
水酸化物は、たとえば、アルカリ共沈法によって調製できる。
アルカリ共沈法とは、NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む金属塩水溶液と、強アルカリを含むpH調整液とを連続的に反応槽に供給して混合し、混合液中のpHを一定に保ちながら、NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物を析出させる方法である。
【0030】
金属塩としては、各金属元素の硝酸塩、酢酸塩、塩化物塩、硫酸塩が挙げられ、材料コストが比較的安価であり、優れた電池特性が得られる点から、硫酸塩が好ましい。金属塩としては、Niの硫酸塩、Mnの硫酸塩、およびCoの硫酸塩がより好ましい。
【0031】
Niの硫酸塩としては、たとえば、硫酸ニッケル(II)・六水和物、硫酸ニッケル(II)・七水和物、硫酸ニッケル(II)アンモニウム・六水和物等が挙げられる。
Coの硫酸塩としては、たとえば、硫酸コバルト(II)・七水和物、硫酸コバルト(II)アンモニウム・六水和物等が挙げられる。
Mnの硫酸塩としては、たとえば、硫酸マンガン(II)・五水和物、硫酸マンガン(II)アンモニウム・六水和物等が挙げられる。
【0032】
金属塩水溶液におけるNi、Co、MnおよびMの比率は、最終的に得られる複合酸化物(I)に含まれるNi、Co、MnおよびMの比率と同じにする。
金属塩水溶液中の金属元素の合計濃度は、0.1〜3mol/kgが好ましく、0.5〜2.5mol/kgがより好ましい。金属元素の合計濃度が前記範囲の下限値以上であれば、生産性に優れる。金属元素の合計濃度が前記範囲の上限値以下であれば、金属塩を水に充分に溶解できる。
【0033】
金属塩水溶液は、水以外の水性媒体を含んでいてもよい。
水以外の水性媒体としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、グリセリン等が挙げられる。水以外の水性媒体の割合は、安全面、環境面、取扱性、コストの点から、水100質量部に対して、0〜20質量部が好ましく、0〜10質量部がより好ましく、0〜1質量部が特に好ましい。
【0034】
pH調整液としては、強アルカリを含む水溶液が好ましい。
強アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
混合液には、金属元素の溶解度を調整するために、錯化剤(アンモニア水溶液または硫酸アンモニウム水溶液)を加えてもよい。
【0035】
金属塩水溶液とpH調整液とは、反応槽中で撹拌しながら混合することが好ましい。
撹拌装置としては、スリーワンモータ等が挙げられる。撹拌翼としては、アンカー型、プロペラ型、パドル型等が挙げられる。
反応温度は、反応促進の点から、20〜80℃が好ましく、25〜60℃がより好ましい。
【0036】
金属塩水溶液とpH調整液との混合は、水酸化物の酸化を抑制する点から、窒素雰囲気下またはアルゴン雰囲気下で行うことが好ましく、コストの点から、窒素雰囲気下で行うことが特に好ましい。
金属塩水溶液とpH調整液との混合中は、共沈反応を適切に進める点から、反応槽内のpHを10〜12の範囲で設定したpHに保つことが好ましい。混合液のpHを10以上で行う場合、共沈物は水酸化物とみなされる。
【0037】
水酸化物を析出させる方法としては、反応槽内の混合液をろ材(ろ布等)を用いて抜き出して水酸化物を濃縮しながら析出反応を行う方法(以下、濃縮法と記す。)と、反応槽内の混合液をろ材を用いずに水酸化物とともに抜き出して水酸化物の濃度を低く保ちながら析出反応を行う方法(以下、オーバーフロー法と記す。)の2種類が挙げられる。粒度分布の広がりを狭くできる点から、濃縮法が好ましい。
【0038】
水酸化物は、不純物イオンを取り除くために、洗浄されることが好ましい。洗浄方法としては、加圧ろ過と蒸留水への分散とを繰り返し行う方法等が挙げられる。洗浄を行う場合、水酸化物を蒸留水へ分散させたときの上澄み液またはろ液の電気伝導度が50mS/m以下になるまで繰り返すことが好ましく、20mS/m以下になるまで繰り返すことがより好ましい。
【0039】
洗浄後、必要に応じて水酸化物を乾燥させてもよい。
乾燥温度は、60〜200℃が好ましく、80〜130℃がより好ましい。乾燥温度が前記範囲の下限値以上であれば、乾燥時間を短縮できる。乾燥温度が前記範囲の上限値以下であれば、水酸化物の酸化の進行を抑えることができる。
乾燥時間は、水酸化物の量により適切に設定すればよく、1〜300時間が好ましく、5〜120時間がより好ましい。
【0040】
水酸化物の比表面積は、3〜60m/gが好ましく、5〜50m/gがより好ましい。水酸化物の比表面積が前記範囲内であれば、効率的に粉砕することができる。なお、水酸化物の比表面積は、水酸化物を120℃で15時間乾燥した後に測定した値である。
【0041】
水酸化物のD50は、3〜18μmが好ましく、3〜15μmがより好ましく、3〜12μmがさらに好ましい。水酸化物のD50が前記範囲内であれば、効率的に粉砕することができる。
【0042】
工程(b):
NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物とリチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕して、粉砕物を含むスラリーを得る。また、スラリーには、水酸化物以外に、Mを含む化合物をさらに混合してもよい。
【0043】
リチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウムおよび硝酸リチウムからなる群から選ばれる1種が好ましい。製造工程での取扱いの容易性の点から、炭酸リチウムがより好ましい。
水酸化物とリチウム化合物との混合比は、水酸化物に含まれるNi、Co、MnおよびMの合計モル量(X)に対するリチウム化合物に含まれるLiのモル量の比(Li/X)が1.1〜1.7である条件が好ましい。前記混合比は、Li/Xが1.2〜1.65である条件が好ましい。
【0044】
水酸化物がMを含む場合、スラリーに含まれるNi、Co、MnおよびMの比は、複合酸化物(I)に含まれるNi、Co、MnおよびMの比と同じにすることが好ましい。
水酸化物がMを含まず、スラリーにMを含む化合物をさらに混合する場合、Mを含む化合物を混合した後のスラリーに含まれるNi、Co、MnおよびMの比は、複合酸化物(I)に含まれるNi、Co、MnおよびMの比と同じにすることが好ましい。
【0045】
Mを含む化合物としては、Mの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、酢酸塩、塩化物およびフッ化物からなる群から選ばれる1種以上が好ましい。これらの化合物であれば、工程(d)において、不純物が揮発して、不純物が複合酸化物(I)に残留しにくいため好ましい。
【0046】
水酸化物とリチウム化合物とを液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕する手段としては、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
粉砕メディアとしては、ボールミルに用いる公知のボール、ビーズミルに用いる公知のビーズ等が挙げられ、耐摩耗性の点から、ジルコニアボールが好ましい。
ジルコニアボールの直径は、0.05〜50mmが好ましい。ジルコニアボールの直径が前記範囲内であれば、効率的に粉砕することができる。
【0047】
ボールミルまたはビーズミルの回転数は、20〜500rpmが好ましい。
粉砕を行う時間は、5〜120時間が好ましい。
液状媒体としては、水または有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン、トルエン等が挙げられる。
【0048】
スラリー中の粉砕物のD50は、0.01〜1μmであり、0.1〜0.5μmが好ましい。粉砕物のD50が前記範囲の下限値以上であれば、粉砕を行う時間を短縮できる。粉砕物のD50が前記範囲の上限値以下であれば、原料同士が均一にかつ細かく接触するため、焼成の際に原料の反応が均一にかつ速く進行する。
【0049】
工程(c):
スラリーの乾燥方法は、乾燥によって造粒体が得られる方法であればよく、特に限定はされない。スラリーの乾燥方法としては、スプレードライ法、熱風乾燥法、真空乾燥法、フリーズドライ法等が挙げられる。
【0050】
工程(d):
焼成装置としては、電気炉、連続焼成炉、ロータリーキルン等が挙げられる。
焼成時に水酸化物が酸化されることから、焼成は大気下で行うことが好ましく、空気を供給しながら行うことが特に好ましい。
空気の供給速度は、炉の内容積1Lあたり、10〜200mL/分が好ましく、40〜150mL/分がより好ましい。
焼成時に空気を供給することによって、水酸化物に含まれる金属元素が充分に酸化される。その結果、結晶性が高く、かつ空間群C2/mの結晶構造および空間群R−3mの結晶構造を有する複合酸化物(I)が得られる。
【0051】
焼成温度は、800〜1100℃であり、900〜1050℃が好ましく、950〜1050℃がより好ましい。焼成温度が前記範囲の下限以上であれば、本焼成により得られた複合酸化物(I)を含む正極を有するリチウムイオン二次電池の放電容量およびサイクル特性を高くできる。
焼成時間は、4〜40時間が好ましく、4〜20時間がより好ましい。
【0052】
焼成は、1段焼成であってもよく、仮焼成を行った後に本焼成を行う2段焼成であってもよい。Liが複合酸化物(I)中に均一に拡散しやすい点から、2段焼成が好ましい。2段焼成を行う場合、本焼成の温度を上記した焼成温度の範囲で行う。そして、仮焼成の温度は、500〜700℃が好ましく、500〜650℃がより好ましい。
【0053】
工程(e):
解砕は、たとえば、カッターミル、サンプルミル、ヘンシェルミキサー、ジェットミル、ACMパルベライザ、ブラウンミル等を用いて行う。
解砕は、焼成物の二次粒子自体を粉々に砕くことなく、焼成物の二次粒子が集まった塊状物を解(ほぐ)すことができる条件にて行う。
【0054】
解砕により、複合酸化物(I)の表面が滑らかになり、タップ密度が高くなる。また、複合酸化物(I)の二次粒子の塊状物が解れて比表面積が高くなる。
タップ密度が高い複合酸化物(I)は、正極活物質の単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の放電容量にタップ密度を掛けた値、すなわち正極活物質の単位体積あたりのリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。複合酸化物(I)の比表面積が大きくなると、正極活物質の単位質量あたりのリチウムイオン二次電池の放電容量を高くできる。
【0055】
(作用機序)
以上説明した本製造方法にあっては、式Iで表されるリチウム含有複合酸化物、いわゆるリチウムリッチ系正極活物質を製造する方法であるため、放電容量に優れたリチウム含有複合酸化物を製造できる。また、焼成前に、NiおよびMnを必須として含み、CoおよびMを任意として含む水酸化物と、リチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕しているため、焼成後に複合酸化物(I)における結晶構造のムラが減少すると考えられる。結晶構造のムラが少ない複合酸化物(I)を正極活物質として用いると、リチウムイオン二次電池の充放電の反応において、不均一な反応が減少すると考えられる。このように、本製造方法によれば、放電容量とサイクル特性に優れたリチウム含有複合酸化物を製造できる。
【0056】
<正極活物質>
本発明の正極活物質(以下、本正極活物質と記す。)は、複合酸化物(I)そのものであってもよく、複合酸化物(I)に表面処理を施したものであってもよい。
【0057】
表面処理は、複合酸化物(I)を構成する物質とは異なる組成の物質(表面付着物質)を、複合酸化物(I)の表面に付着させる処理である。表面付着物質としては、たとえば、酸化物(酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等)、硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等)等が挙げられる。
【0058】
表面付着物質の質量は、複合酸化物(I)の質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。表面付着物質の質量は、複合酸化物(I)の質量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。複合酸化物(I)の表面に表面付着物質が存在することで、複合酸化物(I)の表面での非水電解液の酸化反応を抑制でき、電池寿命を向上できる。
【0059】
複合酸化物(I)を表面処理する場合、表面処理は、たとえば、所定量の表面付着物質を含む液(コート液)を複合酸化物(I)に噴霧し、コート液の溶媒を焼成により除去する、または、コート液中に複合酸化物(I)を浸漬し、ろ過による固液分離、焼成による溶媒除去を行う、ことによって実施できる。
【0060】
本正極活物質は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であることが好ましい。
本正極活物質の二次粒子のD50は、3〜20μmが好ましく、3〜18μmがより好ましく、4〜16μmがさらに好ましい。D50が前記範囲内であれば、リチウムイオン電池の放電容量を高くしやすい。
【0061】
本正極活物質の比表面積は、0.5〜4m/gが好ましく、0.5〜3.5m/gがより好ましく、0.7〜3m/gがさらに好ましい。比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、リチウムイオン二次電池の放電容量を高くしやすい。比表面積が前記範囲の上限値以下であれば、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を良好にしやすい。
【0062】
(作用機序)
以上説明した本正極活物質にあっては、いわゆるリチウムリッチ系正極活物質を含むため、放電容量に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。また、結晶構造のムラが少ない複合酸化物(I)を含むため、リチウムイオン二次電池の充放電の反応において、不均一な反応が減少する。そのため、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0063】
<リチウムイオン二次電池用正極>
本発明のリチウムイオン二次電池用正極(以下、本正極と記す。)は、本正極活物質を含むものである。具体的には、本正極活物質、導電材およびバインダを含む正極活物質層が、正極集電体上に形成されたものである。
【0064】
導電材としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、黒鉛、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
バインダとしては、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体または共重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体または共重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体等)等が挙げられる。
正極集電体としては、アルミニウム箔、ステンレススチール箔等が挙げられる。
【0065】
本正極は、たとえば、下記の方法によって製造できる。
本正極活物質、導電材およびバインダを、媒体に溶解または分散させてスラリーを得る。得られたスラリーを正極集電体に塗工し、乾燥等により、媒体を除去することによって、正極活物質層を形成する。必要に応じて、正極活物質層を形成した後に、ロールプレス等で圧延してもよい。これにより、本正極を得る。
または本正極活物質、導電材およびバインダを、媒体と混練することによって、混練物を得る。得られた混練物を正極集電体に圧延することにより本正極を得る。
【0066】
(作用機序)
以上説明した本正極にあっては、本正極活物質を含むため、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0067】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池(以下、本電池と記す。)は、本正極を有するものである。具体的には、本正極、負極、および非水電解質を含むものである。
【0068】
(負極)
負極は、負極活物質を含むものである。具体的には、負極活物質、必要に応じて導電材およびバインダを含む負極活物質層が、負極集電体上に形成されたものである。
【0069】
負極活物質は、比較的低い電位でリチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であればよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金、リチウム化合物、炭素材料、周期表14族の金属を主体とする酸化物、周期表15族の金属を主体とする酸化物、炭素化合物、炭化ケイ素化合物、酸化ケイ素化合物、硫化チタン、炭化ホウ素化合物等が挙げられる。
【0070】
負極活物質の炭素材料としては、難黒鉛化性炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類(ピッチコークス、ニードルコークス、石油コークス等)、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体(フェノール樹脂、フラン樹脂等を適当な温度で焼成し炭素化したもの)、炭素繊維、活性炭、カーボンブラック類等が挙げられる。
【0071】
負極活物質に使用する周期表14族の金属としては、Si、Snが挙げられ、Siが好ましい。
他の負極活物質としては、酸化鉄、酸化ルテニウム、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化チタン、酸化スズ等の酸化物、その他の窒化物等が挙げられる。
【0072】
負極の導電材、バインダとしては、正極と同様のものを用いることができる。
負極集電体としては、ニッケル箔、銅箔等の金属箔が挙げられる。
【0073】
負極は、たとえば、下記の方法によって製造できる。
負極活物質、導電材およびバインダを、媒体に溶解または分散させてスラリーを得る。得られたスラリーを負極集電体に塗布、乾燥、プレスすること等によって媒体を除去し、負極を得る。
【0074】
(非水電解質)
非水電解質としては、有機溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液;無機固体電解質;電解質塩を混合または溶解させた固体状またはゲル状の高分子電解質等が挙げられる。
【0075】
有機溶媒としては、非水電解液用の有機溶媒として公知のものが挙げられる。具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、酢酸エステル、酪酸エステル、プロピオン酸エステル等が挙げられる。電圧安定性の点からは、環状カーボネート類(プロピレンカーボネート等)、鎖状カーボネート類(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)が好ましい。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0076】
無機固体電解質は、リチウムイオン伝導性を有する材料であればよい。
無機固体電解質としては、窒化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられる。
【0077】
固体状高分子電解質に用いられる高分子としては、エーテル系高分子化合物(ポリエチレンオキサイド、その架橋体等)、ポリメタクリレートエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物等が挙げられる。該高分子化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0078】
ゲル状高分子電解質に用いられる高分子としては、フッ素系高分子化合物(ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル共重合体、エーテル系高分子化合物(ポリエチレンオキサイド、その架橋体等)等が挙げられる。共重合体に共重合させるモノマとしては、ポリプロピレンオキサイド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。
該高分子化合物としては、酸化還元反応に対する安定性の点から、フッ素系高分子化合物が好ましい。
【0079】
電解質塩は、リチウムイオン二次電池に用いられるものであればよい。電解質塩としては、LiClO、LiPF、LiBF、CHSOLi等が挙げられる。
【0080】
正極と負極の間には、短絡を防止するためにセパレータを介在させてもよい。セパレータとしては、多孔膜が挙げられる。非水電解液は該多孔膜に含浸させて用いる。また、多孔膜に非水電解液を含浸させてゲル化させたものをゲル状電解質として用いてもよい。
【0081】
電池外装体の材料としては、ニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウムまたはその合金、ニッケル、チタン、樹脂材料、フィルム材料等が挙げられる。
【0082】
リチウムイオン二次電池の形状としては、コイン型、シート状(フィルム状)、折り畳み状、巻回型有底円筒型、ボタン型等が挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。
【0083】
(作用機序)
以上説明した本電池にあっては、本正極を有するため、放電容量およびサイクル特性に優れる。
【実施例】
【0084】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1、2は実施例であり、例3〜5は比較例である。
【0085】
(粒子径)
水酸化物、粉砕物または正極活物質を水中に超音波処理によって充分に分散させ、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(日機装社製、MT−3300EX)により測定を行い、頻度分布および累積体積分布曲線を得ることで体積基準の粒度分布を得た。得られた累積体積分布曲線からD50を求めた。
【0086】
(比表面積)
水酸化物または正極活物質の比表面積は、比表面積測定装置(マウンテック社製、HM model−1208)を用い、窒素吸着BET法により算出した。脱気は、200℃、20分の条件で行った。
【0087】
(組成分析)
水酸化物またはリチウム含有複合酸化物の組成分析は、プラズマ発光分析装置(SIIナノテクノロジー社製、SPS3100H)により行った。
【0088】
(X線回折)
リチウム含有複合酸化物のX線回折は、X線回折装置(リガク社製、装置名:SmartLab)を用いて測定した。測定条件を表1に示す。測定は25℃で行った。測定前にリチウム含有複合酸化物の1gとX線回折用標準試料640dの30mgとをメノウ乳鉢で混合し、これを測定試料とした。
得られたX線回折パターンについてリガク社製の統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を用いてピーク検索を行った。各ピークから、D003、D110およびI020/I003を求めた。
【0089】
【表1】
【0090】
(正極体シートの製造)
各例で得られた正極活物質、導電材である導電性カーボンブラック、およびバインダであるポリフッ化ビニリデンを、質量比で88:6:6となるように秤量し、これらをN−メチルピロリドンに加えて、スラリーを調製した。
該スラリーを、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にドクターブレードにより塗工した。ドクターブレードのギャップは圧延後のシート厚さ20μmとなるように調整した。これを120℃で乾燥した後、ロールプレス圧延を2回行い、正極体シートを作製した。
【0091】
(リチウム二次電池の製造)
正極体シートを24×40mmの長方形に打ち抜いたものを正極とした。
負極材には人造黒鉛を用い、負極シートを44×28mmの長方形に打ち抜いたものを負極とした。
セパレータとしては、厚さ25μmの多孔質ポリプロピレンを用いた。
電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの容積比3:7の混合溶液に、濃度が1mol/dmとなるようにLiPFを溶解させた液を用いた。
正極、負極、セパレータおよび電解液を用い、ラミネート型のリチウム二次電池をドライ雰囲気のグローブボックス内で組み立てた。
【0092】
(活性化処理)
各例の正極活物質を用いたリチウム二次電池について、正極活物質1gにつき26mAの負荷電流で4.75Vまで定電流充電した後、正極活物質1gにつき26mAの負荷電流で2Vまで低電流放電し、活性化処理とした。その時の放電容量を初回放電容量とした。
【0093】
(サイクル試験)
活性化処理されたリチウム二次電池について、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で4.45Vまで90分かけて定電流定電圧条件で充電した。その後、正極活物質1gにつき200mAの負荷電流で2.0Vまで放電した。該充放電サイクルを合計で100回繰り返した。2サイクル目の放電容量と100サイクル目の放電容量とから、下式によりサイクル維持率(%)を求めた。
サイクル維持率=100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量×100
【0094】
(例1)
工程(b):
容量1Lのポリプロピレン(PP)容器に、表2に示す水酸化物(伊勢化学工業社製)と炭酸リチウムとを合計で168.8g加えた。このとき、水酸化物とリチウム化合物との混合比は、LiとX(ただし、XはNiおよびMnである。)とのモル量の比(Li/X)が表3に示す比となるようにした。そして、PP容器に液状媒体として蒸留水を340mL、直径5mmのジルコニアボールを2260g、分散剤(花王社製、Poiz532A)を21.1g加えた。次に、PP容器をボールミル架台(アズワン社製、PN−001)に載せ、200rpmで72時間回転させ、水酸化物と炭酸リチウムとを粉砕、混合し、スラリーを得た。
【0095】
工程(c):
スプレードライ装置(ヤマト科学社製、GS310)を用い、入口温度:160℃、出口温度:100℃、オリフィス圧力:0.7kPa、噴霧圧力:0.12MPa、スラリー供給量:5g/分の条件にてスラリーを乾燥して造粒体を得た。
【0096】
造粒体、ならびに前記水酸化物および炭酸リチウムの単なる混合物について熱重量(TG)測定(装置:ブルカーエイエックスエス社製、TG−DTA2000SA、条件:10℃/分で昇温)を行った。図1に示すように、造粒体においては、水および炭酸ガスとも、混合物に比べ低い温度で発生しており、水酸化物と炭酸リチウムとの反応が速く進行していることが確認された。
【0097】
工程(d):
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、600℃で造粒体を3時間かけて仮焼成して、仮焼成物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、980℃で仮焼成物を16時間かけて本焼成して、リチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。
結果を表2、表3および表4に示す。リチウム含有複合酸化物のX線回折パターンを図2に示す。リチウム二次電池について充放電サイクルを繰り返した際のサイクル維持率の変化を図3に示す。
【0098】
(例2)
本焼成の温度を表3に示す温度に変更した以外は、例1と同様にして例2のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。結果を表2、表3および表4に示す。リチウム二次電池について充放電サイクルを繰り返した際のサイクル維持率の変化を図3に示す。
【0099】
(例3)
硫酸ニッケル(II)六水和物および硫酸マンガン(II)五水和物を、NiおよびMnのモル量の比が表2に示す比になるように、かつ硫酸塩の合計量が1.5mol/kgとなるように蒸留水に溶解して、硫酸塩水溶液を得た。
pH調整液として、水酸化ナトリウムを、濃度が1.5mol/kgとなるように蒸留水に溶解した水酸化ナトリウム水溶液を得た。
錯化剤として、硫酸アンモニウムを、濃度が1.5mol/kgとなるように蒸留水に溶解して硫酸アンモニウム水溶液を得た。
【0100】
工程(a):
2Lのバッフル付きガラス製反応槽に蒸留水を入れてマントルヒータで50℃に加熱した。反応槽内の液をパドル型の撹拌翼で撹拌しながら、硫酸塩水溶液を5.0g/分、硫酸アンモニウム水溶液を0.5g/分の速度で14時間添加し、かつ混合液の初期pHを7とし、その後pHを11に保つようにpH調整液を添加して、NiおよびMnを含む水酸化物を析出させた。原料溶液を添加している間、反応槽内に窒素ガスを流量1.0L/分で流した。また、反応槽内の液量が2Lを超えないようにろ布を用いて連続的に水酸化物を含まない液の抜き出しを行った。得られた水酸化物から不純物イオンを取り除くため、加圧ろ過と蒸留水への分散を繰り返し、洗浄を行った。ろ液の電気伝導度が20mS/mとなった時点で洗浄を終了し、水酸化物を120℃で15時間乾燥させた。
【0101】
混合および焼成工程:
水酸化物と炭酸リチウムとを、LiとX(ただし、XはNiおよびMnである。)とのモル量の比(Li/X)が表3に示す比となるように混合し、混合物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、600℃で混合物を3時間かけて仮焼成して、仮焼成物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、1000℃で仮焼成物を16時間かけて本焼成して、リチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。
結果を表2、表3および表4に示す。リチウム二次電池について充放電サイクルを繰り返した際のサイクル維持率の変化を図3に示す。
【0102】
(例4)
表2および表3に示す条件とした以外は、例3と同様にして例4のリチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。結果を表2、表3および表4に示す。
【0103】
(例5)
例1で用いた水酸化物と炭酸リチウムを使用し、LiとX(ただし、XはNiおよびMnである。)とのモル量の比(Li/X)が表3に示す比となるようにこれらを混合し、混合物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、600℃で混合物を3時間かけて仮焼成して、仮焼成物を得た。
電気炉内にて、空気を供給しながら、空気中、960℃で仮焼成物を16時間かけて本焼成して、リチウム含有複合酸化物を得た。該リチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いた。
結果を表2、表3および表4に示す。リチウム含有複合酸化物のX線回折パターンを図2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
NiおよびMnを含む水酸化物とリチウム化合物とを混合し、液状媒体中で粉砕メディアを用いて粉砕し、造粒した後、焼成して得られた例1、2のリチウム含有複合酸化物を用いたリチウム二次電池は、サイクル特性に優れていた。
NiおよびMnを含む水酸化物とリチウム化合物とを混合し、粉砕することなく焼成して得られた例3〜5のリチウム含有複合酸化物を用いたリチウム二次電池は、サイクル特性に劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のリチウム含有複合酸化物によれば、放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
図1
図2
図3