特許第6574138号(P6574138)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6574138
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】共重合体および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/14 20060101AFI20190902BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190902BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
   C08F220/14
   C08J5/18CEY
   G02B5/30
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-557799(P2015-557799)
(86)(22)【出願日】2015年1月7日
(86)【国際出願番号】JP2015050241
(87)【国際公開番号】WO2015107954
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-3862(P2014-3862)
(32)【優先日】2014年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宙
(72)【発明者】
【氏名】福本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】平岡 伸崇
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−033824(JP,A)
【文献】 特開2005−325262(JP,A)
【文献】 特開平11−228633(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0160426(US,A1)
【文献】 Holger Wickel et al.,Homopolymers and Random Copolymers of 5,6-Benzo-2-methylene-1,3-dioxepane and Methyl Methacrylate: S,Macromolecules,2003年,Vol.36, No.7,p.2397-2403
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00 − 220/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
80質量%〜98質量%のメタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位と、2〜10質量%の環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位よりなる共重合体であって、重量平均分子量8万以上、かつ、分子量分布が1.75以上3.80以下の共重合体。
【請求項2】
前記共重合体中の前記エステル構造単位を加メタノール分解後に得られる重合体の分子量分布が2.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記メタクリル酸エステル単量体がメタクリル酸メチルである請求項1または2に記載の共重合体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の共重合体を含有する成形体。
【請求項5】
請求項4に記載の成形体からなる導光フィルム。
【請求項6】
請求項4に記載の成形体からなる加飾フィルム。
【請求項7】
請求項4に記載の成形体からなる偏光子保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性および耐熱性に優れ、ゴムを含有することなく大きい引張破断ひずみを有する割れ難い共重合体、およびかかる共重合体を含有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、メタクリル樹脂は透明性等の光学特性および耐候性に優れることから、従来から、照明器具、看板等に用いる表示部材、ディスプレイ装置等に用いる光学部材、インテリア部材、建築部材、電子・電気部材、医療用部材をはじめとする様々な用途で使用されている。これらの用途において、しばしば光学特性および耐候性に加え、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、柔軟性などの機械物性が求められる。
【0003】
上記機械物性を改善する方法として、メタクリル樹脂に様々な他の樹脂を加えたメタクリル樹脂組成物が提案されている。例えば、乳化重合法によって製造した多層構造アクリルゴム粒子をメタクリル系樹脂にブレンドする方法が挙げられている(特許文献1)。また、例えば、メタクリル樹脂と、メタクリル酸エステル重合体ブロックとアクリル酸エステル重合体ブロックとを有するブロック共重合体とからなるメタクリル樹脂組成物が知られている(特許文献2、3)
これら様々な他の樹脂を添加する場合、分散不良により透明性が低下したり、フィルムやシートの場合、ブツ欠点の原因となったりして外観不良を発生させる。これら課題を根本的に解決するためには、他の樹脂を添加することなく、可撓性、耐屈曲性、耐衝撃性、柔軟性などの機械物性を向上させる究極の手法が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−36645号公報
【特許文献2】WO 2010/055798 A
【特許文献3】WO 2012/057079 A
【特許文献4】特開平11−228633号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Polymer Journal 2007, Vol39,No2,163−174pp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、透明性および耐熱性に優れ、他の樹脂を含有することなく大きい引張破断ひずみを有する割れ難い共重合体、およびかかる共重合体を含有する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の検討を行った。その結果、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位に環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位を導入することで、メタクリル系樹脂が本来有していた高い透明性や剛性を大幅に低下させることなく、割れ難くできることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を提供する。
【0009】
[1]:80質量%〜98質量%のメタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位と、2〜10質量%の環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位よりなる共重合体であって、重量平均分子量8万以上、かつ、分子量分布が1.75以上3.80以下の共重合体。
【0010】
[2]:前記共重合体中の前記エステル構造単位を加メタノール分解後に得られる重合体の分子量分布が2.0以下であることを特徴とする[1]に記載の共重合体。
【0011】
[3]:前記メタクリル酸エステル単量体がメタクリル酸メチルである[1]または[2]に記載の共重合体。
【0012】
[4]:[1] 〜[3]のいずれか一項に記載の共重合体を含有する成形体。
【0013】
[5]:[4]に記載の成型体からなる導光フィルム。
【0014】
[6]:[4]に記載の成型体からなる加飾フィルム。
【0015】
[7]:[4]に記載の成型体からなる偏光子保護フィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明の共重合体は、透明性および耐熱性に優れ、他の樹脂を含有することなく、大きい引張破断ひずみを有する割れ難い共重合体を得ることができる。また、かかる共重合体を含有する外観不良の少ない成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1、2および比較例1、2の引張り試験結果(Strain−Stressカーブ)を示す図である。
図2】実施例1、2および比較例1、2におけるStrain−Stressカーブのひずみ0〜4%部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の共重合体は、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位および環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位を含有する。
【0019】
なお、メタクリル酸エステル単量体と環状ケテンアセタール単量体との共重合体は、以前から知られていたものの(特許文献4、非特許文献1)、生分解性向上等を目的としており、本発明の効果に値するものは得られていなかった。また、本発明の目的の耐屈曲性や柔軟性が付与されることは知られておらず、その最適な共重合体の要件も、示唆も提示されていなかった。
【0020】
本発明の共重合体は、共重合体の質量に対してメタクリル酸エステルに由来する構造単位を80質量%〜98質量%含有する。当該構造単位の含有量は85質量%〜97質量%がより好ましく、90質量%〜96質量%が特に好ましい。かかるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸フェニルなどのメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸2−イソボルニル、メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル、メタクリル酸2−ノルボルニル、メタクリル酸2−アダマンチルなどのメタクリル酸シクロアルキルエステル;が挙げられ、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが最も好ましい。
【0021】
本発明の共重合体は、共重合体の質量に対して環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位を2〜10質量%含有する。当該構造単位の含有量は、3質量%〜9質量%がより好ましく、4質量%〜8質量%が特に好ましい。環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位は、環状ケテンアセタール単量体が開環して重合することで形成される。すなわち、環状ケテンアセタール単量体に由来する構造単位であって、開環重合によりエステル結合を有する構造単位が共重合体の質量に対して2〜10質量%である。それにより共重合体の主鎖にエステル結合を持った構造単位が導入される。このような開環して重合する環状ケテンアセタール単量体の具体例としては、2−メチレン−1,3−ジオキソラン、2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン、2−メチレン−4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン、8−メチレン−7,9−ジオキサビシクロ[4.3.0]ノナン、2−メチレン−1,3−ジオキサン、2−メチレン−5−メチル−1,3−ジオキサン、2−メチレン−5,5−ジメチル−1,3−ジオキサン、2−メチレン−1,3−ジオキソラン−5−スピロシクロペンタン、2−メチレン−1,3−ジオキソラン−5−スピロシクロヘキサン、2−メチレン−1,3−ジオキセパン、2−メチレン−1,3−ジオキソカン、2−メチレン−4−フェニル−1,3−ジオキソラン、4,7−ジメチル−2−メチレン−1,3−ジオキセパン、5,6−ベンゾ−2−メチレン−1,3−ジオキセパン、2−メチレン−1,3,6−トリオキソカン等が挙げられる。これらの中で、得られる共重合体の延性性能が好ましい点、また、環状ケテンアセタール単量体の貯蔵安定性の良さや、開環重合し易いという点から、2−メチレン−1,3−ジオキセパンが特に好ましい。延性性能を発揮できる必要量のエステル構造を導入するためには、共重合体における環状ケテンアセタール単量体に由来する構造の開環率は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、最も好ましくは100%である。
【0022】
本発明の共重合体は、メタクリル酸エステル単量体および環状ケテンアセタール単量体以外のラジカル重合性単量体(以下ラジカル重合性単量体(A)と呼ぶことがある)に由来する構造単位を有していてもよい。かかるラジカル重合性単量体(A)としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどのビニル芳香族炭化水素;ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロヘプセン、ビニルノルボルネンなどのビニル脂環式炭化水素;無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸誘導体;2−ビニルフラン、2−イソプロペニルフラン、2−ビニルベンゾフラン、2−イソプロペニルベンゾフラン、2−ビニルジベンゾフラン、2−ビニルチオフェン、2−イソプロペニルチオフェン、2−ビニルジベンゾチオフェン、2−ビニルピロール、N−ビニルインドール、N−ビニルカルバゾール、2−ビニルオキサゾール、2−イソプロペニルオキサゾール、2−ビニルベンゾオキサゾール、3−ビニルイソオキサゾール、3−イソプロペニルイソオキサゾール、2−ビニルチアゾール、2−ビニルイミダゾール、4(5)−ビニルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルイミダゾリン、2−ビニルベンズイミダゾール、5(6)−ビニルベンズイミダゾール、5−イソプロペニルピラゾール、2−イソプロペニル1,3,4−オキサジアゾール、ビニルテトラゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−イソプロペニルピリジン、3−ビニルピリジン、3−イソプロペニルピリジン、2−ビニルキノリン、2−イソプロペニルキノリン、4−ビニルキノリン、4−ビニルピリミジン、2,4−ジメチル−6−ビニル−S−トリアジン、3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、4−メチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、4−デシル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オンなどのエチレン性不飽和ヘテロ環式化合物;ジメチルメタクリロイルオキシメチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシ−1−メチルエチルホスフェートなどのエチレン性不飽和基を有するリン酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
本発明の共重合体に含まれるラジカル重合性単量体(A)に由来する構造単位の量は、延性性能や耐熱性、吸水性とのバランスから、共重合体の質量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0024】
本発明の共重合体は、通常のメタクリル酸エステル重合体に比して、共重合体間で分子鎖と分子鎖がからみ合い易いエステル構造単位が主鎖に導入されているため、延性性能を発現している。そのため、共重合体の分子鎖どうしのからみ合い易さに影響を及ぼす因子である重量平均分子量はある程度大きいことが重要である。その重量平均分子量は、8万以上であり、好ましくは8万〜200万、より好ましくは9万〜100万、さらに好ましくは10万〜70万、特に好ましくは12万〜50万である。重量平均分子量が低すぎると共重合体どうしのからみ合いが少なくなり、延性性能を発現し難くなってしまう。重量平均分子量が高すぎると、成形が困難になってしまう。
【0025】
かかる重量平均分子量は、共重合体合成時の重合反応における重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
【0026】
本発明の共重合体は、重量平均分子量/数平均分子量の比(以下、この比を「分子量分布」と称する。)が、好ましくは1.75〜3.80であり、より好ましくは1.80〜3.50、さらに好ましくは1.90〜3.20である。分子量分布が狭すぎると、一般的に高分子量体と低分子量体の割合が少なくなるが、高分子量体の割合が少なくなると延性性能が顕著に低下し、また低分子量体の割合が少なくなると成形性が低下してしまう。また分子量分布が広すぎると、低分子量体の割合が増大し、延性性能の低下や耐薬品性が低下する傾向がある。重量平均分子量および分子量分布は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0027】
かかる重量平均分子量および分子量分布は、重合反応時の重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。また再沈殿など低分子量体が除去されるような精製法は、分子量分布が1.80より小さくなるため好ましくない。
【0028】
なお、GPC測定は、次のようにして行う。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM−Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いる。検出装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC−8320(品番)を使用した。試料は、メタクリル樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させた溶液を用いた。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。
【0029】
分子量が5000000〜400の範囲の標準ポリスチレンを測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。クロマトグラムの高分子量側の傾きがゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0030】
本発明の共重合体は、ガラス転移温度が、好ましくは70〜180℃、より好ましくは80〜180℃、さらに好ましくは80〜120℃、よりさらに好ましくは85〜120℃である。ガラス転移温度が低すぎると共重合体の耐熱性が不足し、使用できる用途が限定されてしまう。ガラス転移温度が高すぎると共重合体が脆く割れ易くなり、本発明の効果が発現し難くなる。なおガラス転移温度はJIS K7121に準拠して測定した値である。すなわち、本発明の共重合体を230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にて示差走査熱量測定法にてDSC曲線を測定し、2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明のガラス転移温度とした。
【0031】
本発明の共重合体主鎖に導入されたエステル構造単位は加メタノール分解により切断することが可能である。加メタノール分解後に得られる重合体の数平均分子量から本発明の共重合体の主鎖中に導入されたエステル構造単位のモル比率がわかる。また加メタノール分解後に得られる重合体の分子量分布を測定することにより、エステル構造単位がどの程度均一に共重合体の主鎖中に導入されたかが分かる。なお、ここでの加メタノール分解後に得られる重合体とは加メタノール分解によって得られる重合体もしくは共重合体である。例えば、メタクリル酸エステルのみからなる重合体が該当する。また、例えば、分解する前の共重合体にラジカル重合性単量体(A)に由来する構造単位が存在する場合、加メタノール分解により得られるものは、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位とラジカル重合性単量体(A)に由来する構造単位よりなる共重合体となる。このような共重合体の場合も、加メタノール分解後に得られる重合体と称することとする。加メタノール分解後に得られる重合体の分子量分布が狭いほど、環状ケテンアセタール単量体がより均一に共重合されたことがわかる。本発明において加メタノール分解後に得られる重合体の分子量分布が狭い、つまり共重合体主鎖中に均一にエステル構造単位導入された方が、共重合体同士のからみ合いが多くなり、より高い延性性能を有する。加メタノール分解後に得られる重合体の分子量分布は2.0以下が好ましく、1.90以下がより好ましく、1.75以下が最も好ましい。
【0032】
本発明の共重合体の製造方法に特に制限はない。通常、生産性の観点から、ラジカル重合法を採用して、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類や量、重合開始剤の種類や量などを調整することによって、共重合体を製造する方法が好ましい。該ラジカル重合法は、無溶媒または溶媒中で行うことが好ましく、低不純物濃度の共重合体が得られるという観点から無溶媒で行うことが好ましい。成形体にシルバーや着色が発生するのを抑制する観点から、重合反応は溶存酸素量を低くして行うことが好ましい。また、重合反応は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0033】
本発明の共重合体の製造のためのラジカル重合法において用いられる重合開始剤は、反応性ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などが挙げられる。これらのうち、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)が好ましい。
【0034】
かかる重合開始剤の1時間半減期温度は好ましくは60〜140℃、より好ましくは80〜120℃である。また、共重合体の製造のために用いられる重合開始剤は、水素引抜き能が好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。このような重合開始剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の使用量は、重合反応に供される単量体100質量部に対して好ましくは0.0001〜0.02質量部、より好ましくは0.001〜0.01質量部、さらに好ましくは0.005〜0.007質量部である。
【0035】
なお、水素引抜き能は重合開始剤製造業者の技術資料(例えば日本油脂株式会社技術資料「有機過酸化物の水素引抜き能と開始剤効率」(2003年4月作成))などによって知ることができる。また、α−メチルスチレンダイマーを使用したラジカルトラッピング法、即ちα−メチルスチレンダイマートラッピング法によって測定することができる。当該測定は、一般に、次のようにして行われる。まず、ラジカルトラッピング剤としてのα−メチルスチレンダイマーの共存下で重合開始剤を開裂させてラジカル断片を生成させる。生成したラジカル断片のうち、水素引抜き能が低いラジカル断片はα−メチルスチレンダイマーの二重結合に付加して捕捉される。一方、水素引抜き能が高いラジカル断片はシクロヘキサンから水素を引き抜き、シクロヘキシルラジカルを発生させ、該シクロヘキシルラジカルがα−メチルスチレンダイマーの二重結合に付加して捕捉され、シクロヘキサン捕捉生成物を生成する。そこで、シクロヘキサン、またはシクロヘキサン捕捉生成物を定量することで求められる、理論的なラジカル断片発生量に対する水素引抜き能が高いラジカル断片の割合(モル分率)を水素引抜き能とする。
【0036】
本発明の共重合体の製造のためのラジカル重合法において用いられる連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類などが挙げられる。これらのうちn−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどの単官能アルキルメルカプタンが好ましい。これら連鎖移動剤は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
かかる連鎖移動剤の使用量は重合反応に供される単量体100質量部に対して好ましくは0.1〜1質量部、より好ましくは0.15〜0.8質量部、さらに好ましくは0.2〜0.6質量部、最も好ましくは0.2〜0.5質量部である。また、該連鎖移動剤の使用量は、重合開始剤100質量部に対して好ましくは2500〜10000質量部、より好ましくは3000〜9000質量部、さらに好ましくは3500〜6000質量部である。連鎖移動剤の使用量を上記範囲にすると、得られる共重合体は良好な成形加工性と高い力学強度を有する傾向となる。
【0038】
本発明の共重合体の製造のためのラジカル重合法において用いられる溶媒は、単量体および共重合体を溶解できるものであれば制限されないが、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素が好ましい。これらの溶媒は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。溶媒の使用量は、反応液の粘度と生産性との観点から適宜設定できる。溶媒の使用量は、例えば、重合反応原料100質量部に対して好ましくは100質量部以下、より好ましくは90質量部以下である。
【0039】
本発明の共重合体の製造のためのラジカル重合法において重合反応時の温度は好ましくは100〜200℃、より好ましくは110〜180℃である。重合温度が100℃以上であることで、重合速度の向上、重合液の低粘度化などに起因して生産性が向上する傾向となる。また重合温度が200℃以下であることで、重合速度の制御が容易になり、さらに副生成物の生成が抑制されるので本発明の共重合体の着色を抑制できる。重合反応の時間は好ましくは0.5〜4時間、より好ましくは1.5〜3.5時間、さらに好ましくは1.5〜3時間である。なお、連続流通式反応装置の場合は、かかる重合反応の時間は反応器における平均滞留時間である。重合反応時の温度および重合反応の時間が上記範囲にあると、透明性に優れた共重合体を高効率で生産できる。
【0040】
本発明の共重合体の製造のためのラジカル重合法における重合転化率は、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%、さらに好ましくは35〜65質量%である。重合転化率が20質量%以上であることで残存する未反応単量体の除去が容易となり、共重合体からなる成形体の外観が良好となる傾向がある。重合転化率が70質量%以下であることで、重合液の粘度が低くなり生産性が向上する傾向となる。
【0041】
ラジカル重合は回分式反応装置を用いて行ってもよいが、生産性の観点、また得られる共重合体の延性性能の観点から連続流通式反応装置を用いて行うことが好ましい。連続流通式反応では、例えば窒素雰囲気下などで重合反応原料(単量体(メタクリル酸エステル、環状ケテンアセタール、ラジカル重合性単量体(A)を意味する)、重合開始剤、連鎖移動剤などを含む混合液)を調製し、それを反応器に一定流量で供給し、該供給量に相当する流量で反応器内の液を抜き出す。反応器として、栓流に近い状態にすることができる管型反応器および/または完全混合に近い状態にすることができる槽型反応器を用いることができる。また、1基の反応器で連続流通式の重合を行ってもよいし、2基以上の反応器を繋いで連続流通式の重合を行ってもよい。
【0042】
本発明においては少なくとも1基は連続流通式の槽型反応器を採用することが好ましい。重合反応時における槽型反応器内の液量は、槽型反応器の容積に対して好ましくは1/4〜3/4、より好ましくは1/3〜2/3である。反応器には通常、撹拌装置が取り付けられている。撹拌装置としては静的撹拌装置、動的撹拌装置が挙げられる。動的撹拌装置としては、マックスブレンド式撹拌装置、中央に配した縦型回転軸の回りを回転する格子状の翼を有する撹拌装置、プロペラ式撹拌装置、スクリュー式撹拌装置などが挙げられる。これらのうちでマックスブレンド式撹拌装置が均一混合性の点から好ましく用いられる。
【0043】
重合終了後、必要に応じて、未反応単量体等の揮発分を除去する。除去方法は特に制限されないが、加熱脱揮が好ましい。脱揮法としては、平衡フラッシュ方式や断熱フラッシュ方式が挙げられる。断熱フラッシュ方式による脱揮温度は、好ましくは200〜280℃、より好ましくは220〜260℃である。断熱フラッシュ方式で樹脂を加熱する時間は、好ましくは0.3〜5分、より好ましくは0.4〜3分、さらに好ましくは0.5〜2分である。このような温度範囲および加熱時間で脱揮させると、着色の少ない共重合体を得やすい。除去した未反応単量体は、回収して、再び重合反応に使用することができる。回収された単量体のイエロインデックスは回収操作時などに加えられる熱によって高くなっていることがあるので、回収された単量体は、適切な方法で精製して、イエロインデックスを小さくすることが好ましい。
【0044】
本発明の成形体の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の共重合体に他の重合体を混合して成形してもよい。かかる他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート系重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、アクリル系熱可塑性エラストマー、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
【0045】
本発明の成形体は本発明の共重合体を80質量%以上含有するのが好ましく、90質量%以上含有するのがより好ましい。本発明の成形体の製造法は特に限定されない。本発明の共重合体または本発明の共重合体を含む成形用材料を、例えば、Tダイ法(ラミネート法、共押出法など)、インフレーション法(共押出法など)、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、射出成形法(インサート法、二色法、プレス法、コアバック法、サンドイッチ法など)などの溶融成形法ならびに溶液キャスト法などで成形する方法が挙げられる。これらのうち、生産性の高さ、コストなどの点から、Tダイ法、インフレーション法または射出成形法が好ましい。
【0046】
本発明の共重合体は、保存、運搬、または成形時の利便性を高めるために、ペレットなどの形態にすることができる。また、本発明の成形体を得るにあたり、成形は、複数回行なってもよい。例えば、本発明の共重合体を成形してペレット状の成形体を得たのち、かかるペレット状の成形体をさらに成形して所望の形状の成形体とすることができる。
【0047】
本発明においては、共重合体に必要に応じて、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、光拡散剤、有機色素、艶消し剤、蛍光体などの各種の添加剤を加えても良い。このような各種の添加剤の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に決定することができるものであり、その合計量は、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下である。
【0048】
各種の添加剤は、共重合体を製造する際の重合反応液に添加してもよいし、重合反応により製造された共重合体に添加してもよいし、成形体の製造時に添加してもよい。
【0049】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
【0050】
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、1:5〜2:1が好ましく、1:2〜1:1がより好ましい。
【0051】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサー3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP−36)などが好ましい。
【0052】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが好ましい。
【0053】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって樹脂の熱劣化を防止できるものである。
【0054】
該熱劣化防止剤としては、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4−ジ−t−アミル−6−(3’,5’−ジ−t−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが好ましい。
【0055】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる。
【0056】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0057】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明のフィルムを光学用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2‘−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−オクチルフェノール](ADEKA社製;LA−31)、2−(5−オクチルチオ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−tert−ブチル−4−メチルフェノールなどが好ましい。
【0058】
また、トリアジン類の紫外線吸収剤としては、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)や、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;TINUVIN477やTINUVIN460)、2,4−ジフェニル−6−(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジンなどを挙げることができる。
【0059】
さらに380〜400nmの波長の光を特に効果的に吸収したい場合は、国際公開第2011/089794号、国際公開第2012/124395号、特開2012−012476号公報、特開2013−023461号公報、特開2013−112790号公報、特開2013−194037号公報、特開2014−62228号公報、特開2014−88542号公報、および特開2014−88543号公報等に開示される複素環構造の配位子を有する金属錯体を紫外線吸収剤として用いることが好ましい。
【0060】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。
【0061】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などが挙げられる。
【0062】
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1〜3.5:1が好ましく、2.8:1〜3.2:1がより好ましい。
【0063】
高分子加工助剤としては、通常、乳化重合法によって製造できる、0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子を用いる。該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤は、極限粘度が3〜6dl/gであることが好ましい。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い傾向がある。極限粘度が大きすぎると共重合体の成形加工性の低下を招く傾向がある。
【0064】
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
【0065】
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
【0066】
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0067】
本発明の成形体の一形態であるフィルムは、溶液キャスト法、溶融流延法、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法などによって製造することができる。これらのうち、透明性に優れ、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れたフィルムを得ることができるという観点から、押出成形法が好ましい。押出機から吐出される共重合体の温度は好ましくは160〜270℃、より好ましくは220〜260℃に設定する。なお、一般にフィルムは厚さ0.005mm以上0.25mm以下の平面状成形体を指す。
【0068】
押出成形法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのフィルムが得られるという観点から、本発明の共重合体または本発明の共重合体を含む成形用材料を溶融状態でTダイから押出し、次いでそれを二つ以上の鏡面ロールまたは鏡面ベルトで挟持して成形することを含む方法が好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルトは金属製であることが好ましい。一対の鏡面ロールまたは鏡面ベルトの間の線圧は好ましくは10N/mm以上、より好ましくは30N/mm以上である。
【0069】
また、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は共に130℃以下であることが好ましい。また、一対の鏡面ロール若しくは鏡面ベルトは、少なくとも一方の表面温度が60℃以上であることが好ましい。このような表面温度に設定すると、押出機から吐出される本発明の共重合体または本発明の共重合体を含む成形用材料を自然放冷よりも速い速度で冷却することができ、表面平滑性に優れ且つヘイズの低いフィルムを製造し易い。押出成形で得られる未延伸フィルムの厚さは、10〜300μmであることが好ましい。フィルムのヘイズは、厚さ100μmにおいて、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。
【0070】
フィルム状に成形された本発明の成形体に、延伸処理を施してもよい。延伸処理によって機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法などが挙げられる。均一に延伸でき高い強度のフィルムが得られるという観点から、延伸時の温度の下限は共重合体のガラス転移温度より10℃高い温度であり、延伸時の温度の上限は共重合体のガラス転移温度より40℃高い温度である。延伸は通常100〜5000%/分で行われる。延伸の後、熱固定を行うことによって、熱収縮の少ないフィルムを得ることができる。延伸後のフィルムの厚さは10〜200μmであることが好ましい。
【0071】
本発明の共重合体および成形体は、延性性能により割れ難く、また、透明性、耐熱性が高いため、光学用途に好適であり、偏光子保護フィルム、液晶保護板、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、各種ディスプレイの前面板用途に特に好適である。またその他の用途としては、耐候性が良好で割れ難いため、加飾フィルム、車両内装、家具、ドア材、巾木等の建材用途に好適である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、物性値等の測定は以下の方法によって実施した。
(重量平均分子量、数平均分子量、分子量分布)
溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM−Mの2本とSuperHZ4000を直列に繋いだものを用いた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC−8320(品番)を使用した。測定対象である重合体または共重合体または重合体組成物4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を作製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400〜5000000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPCで測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を決定し、また分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0073】
(加メタノール分解)
重合体または共重合体または重合体組成物の0.5質量部をベンゼンの15質量部に溶解させた。そこに、0.5Nカリウムメトキシドのメタノール溶液を10質量部加えた後、23℃で12時間撹拌した。その溶液をイオン交換水で洗浄後、上澄みを十分乾燥させて、加メタノール分解した重合体を得た。加メタノール分解した重合体の数平均分子量、分子量分布をGPCにて測定した。
(ガラス転移温度)
重合体または共重合体または重合体組成物を、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所製、DSC−50(品番))を用いて、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後、室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度とした。
【0074】
(全光線透過率)
重合体または共重合体または重合体組成物を230℃にて熱プレス成形して、50mm×50mm×厚さ3.2mmの試験片(A)を得た。JIS K7361−1に準じて、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いて試験片(A)の全光線透過率を測定した。
(ヘイズ)
全光線透過率を測定した試験片(A)のヘイズは、JIS K7136に準拠して、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いて測定した。
(引張弾性率・引張破断ひずみ)
重合体または共重合体を230℃にて熱プレス成形して、120mm×50mm×厚さ0.4mmの試験片を得た。得られた試験片から90mm×10mmのサイズに切り出し、断面を1500番のサンドペーパーで研磨した。切り出した試験片をチャック間70mmにセットした引張り試験機(島津製:オートグラフAG−IS 5kN)にセットし、引張り速度5mm/分にて引張り試験を行い、引張応力および引張ひずみを測定した(Strain-Stressカーブ)。この測定から引張弾性率および引張破断ひずみを算出した。なお、ここでは試験片が降伏する場合、降伏しない場合に関係なく、破断した時点のひずみを引張破断ひずみとした。
【0075】
1H−NMR測定)
後述の合成例で合成した環状ケテンアセタール単量体やその中間体の構造確認、及び、実施例及び比較例の共重合体中の共重合組成、開環率の評価は、1H−NMRにて実施した。1H−NMRスペクトルは、核磁気共鳴装置(Bruker社製 ULTRA SHIELD 400 PLUS)を用いて、分析したい試料10mgに対して重水素化溶媒として重水素化クロロホルムを1mL用い、室温、積算回数64回の条件にて、測定した。
(鉛筆硬度)
重合体または共重合体または重合体組成物を230℃にて熱プレス成形して、50mm×50mm×厚さ3.2mmの試験片を得た。得られた試験片の鉛筆硬度測定は、JIS K5600−5−4に準拠し、0.75Kg荷重で測定した。
【0076】
<合成例1>
2−クロロメチル−1,3−ジオキセパン(i)の合成
【0077】
【化1】
温度計、攪拌装置およびクライゼン型単蒸留装置を備えた容量500mLの四つ口フラスコにクロロアセトアルデヒドジメチルアセタール250.0g(2.0mol)、1,4−ブタンジオール180.9g(2.0mol)およびDowex50WX8(登録商標 ダウ・ケミカル製)2.5gを仕込んだ。内温を100〜110℃に昇温し、蒸留装置より搭頂温度70℃以下の留分を抜き取りながら、5時間攪拌した。反応混合物を25℃に冷却した後、Dowex50WX8を濾別した。濾液にヘキサン740gを加えた後、5質量%の炭酸水素ナトリウム水溶液360gで洗浄した。得られた有機層を減圧下に濃縮した。該濃縮液を30cmビグリューカラムを取り付けた蒸留装置を用いて蒸留し、搭頂温度75〜76℃/1.5kPaの留分として2−クロロメチル−1,3−ジオキセパン 253.9g(1.7mol)を得た。収率は84.3%であった。
【0078】
得られた留分(2−クロロメチル−1,3−ジオキセパン)の1H−NMRを測定したところ、1H−NMRチャートは以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3,ppm,TMS,)δ:1.75(4H,m),3.47(2H,d,J=5.2Hz),3.69(2H,m),3.95(2H,m),4.85(1H,t,J=5.2Hz)
<合成例2>
2−メチレン−1,3−ジオキセパン[7MDO](ii)の合成
【0079】
【化2】
滴下ロート、温度計、攪拌装置および窒素導入管を備えた容量2リットルの四つ口フラスコにカリウム−t−ブトキシド224.4g(2.0mol)、t−ブタノール700mlを仕込んだ。滴下ロートより合成例1で合成した2−クロロメチル−1,3−ジオキセパン200.0g(1.3mol)を内温25℃以下を維持できる速度で滴下した後、内温60℃にて8時間攪拌した。反応液を25℃まで冷却した後、5B濾紙を用いて吸引濾過し、固体を濾別した。続いて、得られた濾液を減圧下に濃縮した。該濃縮液を30cmビグリューカラムを取り付けた蒸留装置を用いて蒸留し、搭頂温度40〜42℃/1.3kPaの留分として2−メチレン−1,3−ジオキセパン(7MDO)99.7g(0.9mol)を得た。収率は65.8%であった。
【0080】
得られた留分(7MDO)の1H−NMRを測定したところ、1H−NMRチャートは以下の通りであった。
1H−NMR(400MHz,CDCl3,ppm,TMS,)δ:1.76(4H,m),3.48(2H,S),3.94(4H,m)
【0081】
《製造例1》[多層構造重合体粒子(A)を含むエマルジヨンの製造]
(1) コンデンサー、温度計および撹拌機を備えたグラスライニングを施した反応槽(100リットル)に、イオン交換水48kgを投入し、次いでステアリン酸ナトリウム416g、ラウリルザルコシン酸ナトリウム128gおよび炭酸ナトリウム16gを投入して溶解させた。次いで、メタクリル酸メチル11.2kgおよびメタクリル酸アリル110gを投入し撹拌しながら70℃に昇温した後、2%過硫酸カリウム水溶液560gを添加して重合を開始させた。重合ピーク終了後30分間にわたって70℃に保持してエマルジヨンを得た。
(2) 次いで、上記(1)で得られたエマルジヨンに、2%過硫酸ナトリウム水溶液720gを更に添加した後、アクリル酸ブチル12.4kg、スチレン1.76kgおよびメタクリル酸アリル280gからなる単量体混合物を60分かけて滴下し、その後60分間撹拌を続けてグラフト重合を行った。
(3) 上記(2)で得られたグラフト重合後のエマルジヨンに、2%過硫酸カリウム水溶液320gを添加し、さらにメタクリル酸メチル6.2kg、アクリル酸メチル0.2kgおよびn−オクチルメルカプタン200gからなる単量体混合物を30分間かけて添加し、その後60分間撹拌を続けて重合を完結させた後、冷却して重合体エマルジヨンを得た。それにより得られたエマルジヨン(以下「多層構造重合体粒子(A)を含むエマルジヨン」という)は平均粒径0.23μmの多層構造重合体粒子(A)(3段階重合体)を40%含有していた。
【0082】
《製造例2》[(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)を含むエマルジヨンの製造]
製造例1で用いたのと同様の反応槽を用いて、イオン交換水48kgを投入した後、界面活性剤(花王株式会社製「ペレックスSS−H」)252gを投入して撹拌して溶解させた。70℃に昇温した後、2%過硫酸カリウム水溶液160gを添加し、次いでメタクリル酸メチル3.04kg、アクリル酸メチル0.16kgおよびn−オクチルメルカプタン15.2gからなる混合物を一括添加して重合を開始させた。重合による発熱が終了した時点から30分間撹拌を続けた後、2%過硫酸カリウム水溶液160gを添加し、次いでメタクリル酸メチル27.4kg、アクリル酸メチル1.44kgおよびn−オクチルメルカプタン98gからなる混合物を2時間かけて連続的に滴下して重合を行った。滴下終了後、60分間放置した後冷却して平均粒径0.12μmの(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)を40%含有する重合体エマルジヨンを得た。それにより得られたエマルジヨン(以下「(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)を含むエマルジヨン」という)中の(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)の極限粘度は0.44g/dlであった。
【0083】
<実施例1>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの25質量部に対して、メタクリル酸メチルの19.8質量部、合成例2で得られた7MDOの5質量部を仕込んだ。
【0084】
耐圧容器を窒素ガスにて十分置換した後、撹拌しながら140℃に昇温した。トルエン1質量部に溶解させたジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.001質量部の全量を該耐圧容器に添加し重合を開始した。140℃での撹拌を継続した状態で、重合開始から1.5時間経過時及び重合開始から3時間経過時に、それぞれトルエン0.5質量部に溶解させたジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.0005質量部の全量をさらに追加した。重合開始から4時間後に室温まで冷却して重合を停止した。得られた溶液にトルエンの25質量部を添加して希釈した後に、メタノール2000質量部に注ぎ、固形物を析出させた。析出固形物をろ別し、充分に乾燥して、共重合体(A1)12質量部を得た。共重合体(A1)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は92質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は8.0質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(A1)は、重量平均分子量(Mw)が272,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.23であった。その他評価結果と併せて結果を表1、図1および図2に示す。また、230℃にて熱プレス成形して、得られた試験片(120mm×50mm×厚さ0.4mm)を室温(23℃)にて手で180度に折り曲げたところ、割れることなく、また折れ目が白化することもなかった。
【0085】
<実施例2>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの25質量部に対して、メタクリル酸メチルの21質量部、合成例2で得られた7MDOの4.1質量部を仕込んだ。
【0086】
耐圧容器を窒素ガスにて十分置換した後、撹拌しながら140℃に昇温した。トルエン1質量部に溶解させたジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.001質量部の全量を該耐圧容器に添加し重合を開始した。140℃での撹拌を継続した状態で、重合開始から1.5時間経過時及び重合開始から3時間経過時に、それぞれメタクリル酸メチルの2.2質量部に溶解させたジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.0005質量部の全量をさらに追加した。重合開始から4時間後に室温まで冷却して重合を停止した。得られた溶液にトルエンの25質量部を添加して希釈した後に、メタノール2000質量部に注ぎ、固形物を析出させた。析出固形物をろ別し、充分に乾燥して、共重合体(A2)12質量部を得た。共重合体(A2)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は94.8質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は5.2質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(A2)は、重量平均分子量(Mw)が312,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.17であった。その他評価結果と併せて結果を表1、図1および図2に示す。また、230℃にて熱プレス成形して、得られた試験片(120mm×50mm×厚さ0.4mm)を室温(23℃)にて手で180度に折り曲げたところ、割れることなく、また折れ目が白化することもなかった。
【0087】
<実施例3>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの25質量部に対して、メタクリル酸メチルの21質量部、合成例2で得られた7MDOの4.1質量部、n−オクチルメルカプタンの0.100質量部を仕込んだ以外は、実施例1と同様に重合して共重合体(A3)12質量部を得た。共重合体(A3)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は94.1質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は5.9質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(A3)は、重量平均分子量(Mw)が147,000、分子量分布(Mw/Mn)が3.04であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0088】
<実施例4>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの17.5質量部に対して、メタクリル酸メチルの48.3質量部、合成例2で得られた7MDOの21質量部、n−オクチルメルカプタンの0.096質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.002質量部を仕込んだ。
【0089】
耐圧容器を窒素ガスにて十分置換した後、撹拌しながら140℃に昇温した。本実施例では撹拌することなく140℃で4時間重合させた後、室温まで冷却して重合を停止した。得られた溶液にトルエンの150質量部を添加して希釈した後に、メタノール8000質量部に注ぎ、固形物を析出させた。析出固形物をろ別し、充分に乾燥して、共重合体(A4)35質量部を得た。共重合体(A4)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は90質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は10質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。重合体(A4)は、重量平均分子量(Mw)が285,200、分子量分布(Mw/Mn)が2.84であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0090】
<実施例5>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にメタクリル酸メチルの62.3質量部に対して、合成例2で得られた7MDOの7.0質量部、n−オクチルメルカプタンの0.084質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.0018質量部を仕込んだ以外は、実施例4と同様に重合して共重合体(A5)40質量部を得た。共重合体(A5)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は95.4質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は4.6質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(A5)は、重量平均分子量(Mw)が695,000、分子量分布(Mw/Mn)が3.25であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0091】
<比較例1>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの17.5質量部に対して、メタクリル酸メチルの69.3質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.002質量部を仕込んだ。
【0092】
耐圧容器を窒素ガスにて十分置換した後、撹拌しながら140℃に昇温した。撹拌しながら140℃で4時間重合させた後、室温まで冷却して重合を停止した。得られた溶液にトルエンの150質量部を添加して希釈した後に、メタノール8000質量部に注ぎ、固形物を析出させた。析出固形物をろ別し、充分に乾燥して、重合体(B1)35質量部を得た。重合体(B1)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は100質量%であった。重合体(B1)は、重量平均分子量(Mw)が853,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.85であった。その他評価結果と併せて結果を表1、図1および図2に示す。また、230℃にて熱プレス成形して、得られた試験片(120mm×50mm×厚さ0.4mm)を室温(23℃)にて手で180度に折り曲げようとしたところ、割れてしまった。
【0093】
<比較例2>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にメタクリル酸メチルの69.3質量部に対して、n−オクチルメルカプタンの0.084質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.0018質量部を仕込んだ以外は、比較例1と同様に重合して共重合体(B2)33質量部を得た。共重合体(B2)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は100質量%であった。共重合体(B2)は、重量平均分子量(Mw)が176,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.02であった。その他評価結果と併せて結果を表1、図1および図2に示す。また、230℃にて熱プレス成形して、得られた試験片(120mm×50mm×厚さ0.4mm)を室温(23℃)にて手で180度に折り曲げようとしたところ、割れてしまった。
【0094】
<比較例3>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの25質量部に対して、メタクリル酸メチルの21質量部、合成例2で得られた7MDOの4.1質量部、n−オクチルメルカプタンの0.175質量部を仕込んだ以外は、実施例1と同様に重合して共重合体(B3)12質量部を得た。共重合体(B3)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は94.1質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は5.9質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(B3)は、重量平均分子量(Mw)が75,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.20であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0095】
<比較例4>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの17.5質量部に対して、メタクリル酸メチルの65.8質量部、合成例2で得られた7MDOの3.5質量部、n−オクチルメルカプタンの0.105質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.002質量部を仕込んだ以外は、比較例1と同様に重合して共重合体(B4)30質量部を得た。共重合体(B4)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は98.4質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は1.6質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(B4)は、重量平均分子量(Mw)が200,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.12であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0096】
<比較例5>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの17.5質量部に対して、メタクリル酸メチルの55.3質量部、合成例2で得られた7MDOの14質量部、n−オクチルメルカプタンの0.105質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.002質量部を仕込んだ以外は、比較例1と同様に重合して共重合体(B5)42質量部を得た。共重合体(B5)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は93.1質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は6.9質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(B5)は、重量平均分子量(Mw)が363,000、分子量分布(Mw/Mn)が3.93であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0097】
<比較例6>
充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にトルエンの17.5質量部に対して、メタクリル酸メチルの34.3質量部、合成例2で得られた7MDOの35.0質量部、n−オクチルメルカプタンの0.096質量部、ジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:パーブチルD)の0.0043質量部を仕込んだ以外は、比較例1と同様に重合して共重合体(B6)21質量部を得た。共重合体(B6)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は75.1質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は24.9質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。共重合体(B6)は、重量平均分子量(Mw)が223,000、分子量分布(Mw/Mn)が2.60であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0098】
<比較例7>
特開平11−228633号公報の実施例8と同様に共重合体を合成した。すなわち、充分乾燥させた撹拌装置付き耐圧容器内を窒素置換した。該耐圧容器にメタクリル酸メチルの25質量部に対して、合成例2で得られた7MDOの25質量部、ジメチル2,2−アゾビスイソブチレート(和光純薬製:V−601)の0.058質量部を仕込んだ。
【0099】
耐圧容器を窒素ガスにて十分置換した後、撹拌しながら60℃に昇温した。撹拌しながら60℃で1時間重合させた後、室温まで冷却して重合を停止した。得られた溶液をメタノール2000質量部に注ぎ、固形物を析出させた。析出固形物をろ別し、充分に乾燥して、共重合体(B7)2.5質量部を得た。共重合体(B7)の1H−NMRを測定したところ、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含量は95.5質量%、7MDOに由来する構造単位の含量は4.5質量%であり、7MDOは100%開環重合し、重合体主鎖にエステル構造単位を有していた。重合体(B7)は、重量平均分子量(Mw)が533,000、分子量分布(Mw/Mn)が1.68であった。その他評価結果と併せて結果を表1に示す。
【0100】
<比較例8>
(1) 製造例1で得られた多層構造重合体粒子(A)を含むエマルジヨンおよび製造例2で得られた(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)を含むエマルジヨンを、多層構造重合体粒子(A):(メタ)アクリル酸エステル系重合体粒子(B)の重量比が2:1になるようにして混合して混合エマルジヨンをつくり、それを−20℃で2時間かけて凍結した。凍結した混合エマルジヨンをその2倍量の80℃の温水に投入して溶解させてスラリー状にした後、80℃に20分間保持し、次いで脱水し、70℃で乾燥して、粉末状の耐衝撃性改良材を得た。
【0101】
(2)懸濁重合により得られたビーズ状のメタクリル酸メチル共重合体[メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル=99.3/0.7(重量比)、重量平均分子量89,000]700質量部に対して、上記(1)で得られた耐衝撃性改良材を300質量部の割合でスーパーミキサーを用いて混合して、熱可塑性重合体組成物を調製した。評価結果を表1に示す。また、230℃にて熱プレス成形して、得られた試験片(120mm×50mm×厚さ0.4mm)を室温(23℃)にて手で180度に折り曲げたところ、割れることはなかったが、折れ目が白化した。
【0102】
実施例、比較例で得られた重合体、共重合体または重合体組成物を加メタノール分解した。分解後に得られた重合体の評価結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
実施例の共重合体は、2〜10質量%の環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位を有し、当該構造単位は開環重合により生じたエステル構造を含有するものであり、重量平均分子量8万以上かつ分子量分布が1.80以上3.80以下であるため、いずれも引張り破断ひずみが大きく、また曲げた際も割れることなく高い延性性能を示す。また全光線透過率が高く、ヘイズが低く、透明性の高いことがわかる。
【0104】
比較例1,2の共重合体もしくは重合体は、透明性は高いものの、2〜10質量%の環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位を有していないため、引張り破断ひずみが小さく、延性性能を示さず(図1および図2参照)、曲げた際に割れてしまう。また重量平均分子量8万未満である共重合体(比較例3)や、環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位が2質量%未満である共重合体(比較例4)も引張り破断ひずみが小さく、延性性能を示さない。
【0105】
共重合体の分子量分布が1.75より小さい場合(比較例7)や3.8より大きい場合(比較例5)も引張り破断ひずみが小さく、延性性能を示さないことがわかる。
【0106】
比較例6の共重合体のように環状ケテンアセタール単量体に由来するエステル構造単位が10質量%より多い場合、延性性能は高いものの、ガラス転移温度が低く、引張り弾性率も低い柔らかい材料となってしまう。
【0107】
一般的な延性性能を向上させる手法として比較例8のように多層構造重合体粒子を含有させる手法が知られているが、このようなゴムを添加する手法は、透明性が低下し、曲げた際に白化し、鉛筆硬度も低いものとなってしまう。
図1
図2