【実施例】
【0039】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0040】
[製造例1:T3EGの合成]
製造例1のポリマーとして、T3EGを、以下のように合成した。
両末端にアミノ基を持つトリエチレングリコールとモル比で0.95当量のチオカルボニルジイミダゾールをジメチルホルムアミド溶媒中に加えて、アルゴン雰囲気下、80℃で6時間撹拌した。反応混合物を激しく撹拌したメタノール中に滴下してペースト状の不溶物を得た。不溶物と上清をデカンテーションにより分離しクロロホルムに溶解させた。再びこれをメタノール中に滴下し、生じた沈殿物を分離する操作をさらに2回繰り返した。得られたペースト状の不溶物を80℃で24時間真空乾燥させて、黄色がかった透明の樹脂として、T3EGを得た。このポリマーの合成のスキームを、次のスキーム1に示す。
【0041】
スキーム1:
【化16】
【0042】
なお、チオカルボニルイミダゾールの代わりに両末端にイソチオシアネート基を持つモノマーを用いても、同様にポリマーを合成することができた。得られたポリマーの分離精製には上述のチオカルボニルイミダゾールを用いた場合と同じ方法を用いた。得られたポリマーは、上述のチオカルボニルイミダゾールを用いた場合と同様の性質を示した。このポリマーの合成のスキームを、次のスキーム2に示す。
【0043】
スキーム2:
【化17】
【0044】
[製造例2〜5:T2EG、T4EG、TC8、TC12の合成]
製造例2〜5のポリマーとして、それぞれT2EG、T4EG、TC8、TC12を、T3EGと同様の方法によって合成した。
【0045】
[製造例6:U3EGの合成]
U3EGの合成には、モノマーには両末端にアミノ基を持つトリエチレングリコールとモル比で0.95当量のカルボニルジイミダゾールを、溶媒にはN−メチルピロリドンを用いた(温度、反応時間は同じ。)反応混合物を激しく撹拌したアセトンに滴下すると、粉末状の不溶物が生じた。これをろ過で分離した後に、粉末を過剰量のメタノールで洗浄した。得られた粉末を80℃で24時間真空乾燥させて、白色の粉末として、U3EGを得た。
【0046】
【化18】
【0047】
[合成したポリマーの特定(1)]
製造例1〜6で合成したポリマーの化学構造を、
1H NMR、
13C NMRを用いて確認した。測定には20mgのポリマーサンプルを0.7mLのジメチルスルホキシド−d6に溶解させたものを用いた。測定は全て室温で行った。U3EGの測定には溶媒として重水を用いた。
【0048】
T2EG:
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 2.80 (br, CH
2NH
2), 3.45−3.59 (br, CH
2O, C(S)NHCH
2), 7.50 (br, C(S)NH).
13C NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ):44.05, 69.54,183.34
T3EG:
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 2.78 (br, CH
2NH
2), 3.45−3.59 (br, CH
2O, C(S)NHCH
2), 7.49 (br, C(S)NH).
13C NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ):44.03, 69.54, 70.11, 183.34
T4EG:
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 2.76 (br, CH
2NH
2), 3.45−3.59 (br, CH
2O, C(S)NHCH
2), 7.48 (br, C(S)NH).
13C NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ):44.04, 69.52, 70.15, 70.28, 183.21
TC8:
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 1.21(br, CH
2), 1.41(br, C(S)NHCH
2), 3.03 (br, CH
2NH
2), 7.23 (br, C(S)NH).
13C NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 26.91, 29.32, 44.18
TC12:
1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 1.20(br, CH
2), 1.40(br, C(S)NHCH
2), 3.08 (br, CH
2NH
2), 7.21 (br, C(S)NH).
13C NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 26.91, 29.35, 44.18
U3EG:
1H NMR (500 MHz, D
2O, δ): 3.10 (br, CH
2NH
2), 3.55 (br, C(O)NHCH
2), 3.80-3.92 (br, CH
2O )
13C NMR (500 MHz, DMSO-d6, δ): 40.04, 70.01, 70.27, 160.84
【0049】
ポリマーの重合度、数平均分子量は
1H NMRの末端アミノ基に隣接するメチレン由来のピークとNH由来のピークの積分比から求めた。モノマー仕込み比から予想される重合度は41であり、全てのポリマーにおいてこの値付近の妥当な重合度のポリマーが得られたことを確認した。多角度光散乱測定を用いたZimm−plotにより重量平均分子量を求め、多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)を得た(T3EG、U3EGのみ)。
【0050】
ガラス転移温度を、示差走査熱量測定を用いて測定した。アルミニウム製のパンに4mgのサンプルをのせ−20℃から200℃まで10℃/minで昇降温を3サイクル繰り返した。ポリマーのガラス転移温度に特徴的なエンタルピー緩和を含むピークが全てのポリマーにおいて観察された。ガラス転移温度の測定は動的粘弾性測定の温度分散からも求めており、示差走査熱量測定と一致する結果が得られた。
上記のポリマーの特定の結果をまとめて、表1に示す。
【0051】
[合成したポリマーの特定(2)]
動的粘弾性測定を行い貯蔵弾性率(G’)と損失弾性率(G’’)の周波数依存性(600−0.01rad/s)を測定した(サンプル高さ1mm、12mm平行プレート、ひずみ0.1%)。表1には0.01rad/sでのそれぞれの値を示した。
図1〜4に、T2EG、T3EG、T4EG、U3EGそれぞれの20、40、60℃における測定結果を示した。
図1〜4のグラフにおいて、黒塗り正方形の印は貯蔵弾性率(G’)、白抜き正方形の印は損失弾性率(G’’)、下向き白抜き三角形の印はtanδをそれぞれ示す。貯蔵弾性率と損失弾性率が交差する周波数(ω
i)はバルク中でのネットワークの動的性質を表す指標となる。この交差する点の周波数からネットワークの寿命を算出することができる(結合寿命 = 2π/ω
i)。T3EG、T4EGのネットワーク結合寿命は室温においてそれぞれ31秒、3.1秒、T2EGの結合寿命は40℃において310秒であった。一方U3EGサンプルは今回測定した温度範囲では貯蔵弾性率が低下する挙動は示さなかった(結合寿命は最低でも600秒以上)。
上記のポリマーの特定の結果をまとめて、表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示されるように、チオ尿素をオリゴエーテル構造で連結されている場合、原子数が同数の単純なアルキル鎖と比較して低いガラス転移点を持つ。また、広角X線散乱測定を行い、オリゴエーテル構造で連結されたポリマーは熱履歴に関わらず、全く結晶性を示さないことが確認された。
【0054】
[水中接着性試験]
合成したポリマーの水中接着性を確認するために、以下のような操作を脱イオン水中で行った。
厚さ1mm、幅10mmの短冊状アルミニウム板2枚及び、厚さ0.3mm、8mm x 3mmに加工した樹脂片のT3EGを用意した。これに対して、次の操作A、Bを順に行った。
【0055】
(操作A):
アルミニウム片2つを接触面積50mm
2となるように5mm重ね合わせ、この間にポリマーを挟み込んだ。そして、ポリマーを挟み込んだ状態でアルミニウム片を固定した。この固定には専用設計した治具を用いた。このようにして、T3EGを挟み込んだ状態で治具で固定したアルミニウム片を用意した。この操作は、20℃で行った。
【0056】
(操作B):
このT3EGを挟み込んだ状態で治具で固定したアルミニウム片を、別途用意した80℃の水浴に移しかえて30秒間静置した後に、再び室温の水浴につけて1分間静置した。その後、治具から取り外したところ、アルミニウム2片は完全に接着していた。このようにして、T3EGを挟み込んだ状態で接着したアルミニウム片を得た。
【0057】
上記の操作A、Bによる水中接着性試験の操作のスキームを、次のスキーム3に示す。
【0058】
スキーム3:
【0059】
T3EGの代わりに市販のホットメルトボンド(エチレンビニルアセテート系)(住友3M社製、製品名3M(商標登録) Scotch−Weld(商標登録) ホットメルト接着剤3738)を用いて、T3EGと同様に上記の操作A、Bによる水中接着性試験を行ったが、この場合には、全く接着性を示さなかった。
【0060】
T3EG純品の代わりに、T2EGまたはT4EGを用いて、T3EGと同様に上記の操作A、Bによる水中接着性試験を行ったところ、いずれも水中接着性を示した。ただし、T2EGの接着性はT3EGよりも劣るものであった。また、T4EGの接着性はT3EGと同一の温度条件下ではT3EGよりも劣るものであったが、操作Bにおいて室温の水浴につけて1分間静置することに代えて、5℃の水浴に1分間静置したところ、T3EGと同等の接着性を示した。
【0061】
上述の接着試験と同様に操作Aを行って、T3EGを挟み込んだ状態で治具で固定したアルミニウム片を用意し、これを80℃で30秒間静置する代わりに、出力30W、周波数40Hzの超音波で15分処理したところ、同様にアルミニウム片が接着することが確認された。
【0062】
[溶解性試験]
T3EGは乾燥状態でホットメルトボンドとしても使用可能であり、どのような溶媒に耐性があるかは重要な知見である。そこで、溶媒に対する耐性(溶解性)を確認するために、以下の試験を行った。
長さ4cm程度のガラス製チューブを用意し、この中にポリマー片を10mg入れ、これに各種溶媒を1mL加えて3時間ほど静置した。
その後、目視観察により、完全に透明な溶液が得られた場合にはsoluble、分散はするが完全には溶解せずに白濁したままのものはpartially soluble、全く溶解性を示さないものはinsolubleに分類した。この溶解性試験の結果を含めて、T3EGの特性を、
図5にまとめて示す。
【0063】
溶解性試験の結果から、水中にはほとんど溶け出さないことが示された。またT3EG10mgを重水中に加えて、80℃で24時間加熱した後に
1H NMR 測定を行ったがサンプル由来のピークは観察されなかったことから、水中には溶け出さないことが確認された。
【0064】
[接着力評価試験]
接着力の評価には引張せん断試験を用いた。水中での接着強度を評価するため、サンプル(接着部位)が完全に水(脱イオン水、室温)に浸ったままで引張りを行うことができる治具を用いた。
この試験片を2mm/minの速度で引張ることで応力ひずみ曲線を得た。破壊が起きた時点での応力を接触面積で割り、接着力を算出した。
特別な記述がない限り、ある条件での接着力を決めるには7サンプルの引張試験を行い、最高値、最低値を除外した5サンプルから95%信頼限界を算出して接着強度を得るという方法を用いた。この接着力評価試験の手順を示す説明図と、試験結果を、
図6にまとめて示す。この結果から、本発明の水中接着剤は、水中で十分に高い接着強度を発揮することがわかった。
【0065】
[水中接着耐久性試験]
接着の水中での耐久性を評価するために、以下の試験を行った。
水中接着性試験と同様の手順によって操作A、Bを行い、T3EGを挟み込んだ状態で接着したアルミニウム片を調製して、サンプルとして使用した。
調製したサンプルを室温の脱イオン水にそれぞれ6、24、48時間静置したのちに、接着力評価試験と同様に、引張試験を行った。この結果を
図7に示す。この結果から、本発明の水中接着剤は、水中で長時間経過した後も、十分な接着強度を維持していることがわかった。
図7に示される接着強度は、市販のエポキシ系接着剤が示す接着強度よりも、いずれの時間経過後も、大きなものであった。
【0066】
[接着強度のプロセス依存性試験]
接着強度のプロセス依存性を評価するために、以下の4通りのプロセスを経たサンプルに対して、接着強度を試験した。
DD(ドライ−ドライプロセス): 水中接着性試験と同様の手順によって操作Aを行って、T3EGを挟み込んだ状態で治具で固定したアルミニウム片を用意した。これを140℃のホットプレート上で30秒静置した後に、ホットプレート上から再び移動させ大気中で空冷し室温に戻した。これを室温大気下で24時間静置した後に、大気下で引張り試験を行った。
DW(ドライ−ウェットプロセス): 水中接着性試験と同様の手順によって操作Aを行って、T3EGを挟み込んだ状態で治具で固定したアルミニウム片を用意した。これを140℃のホットプレート上で30秒静置した後に、ホットプレート上から再び移動させ大気中で空冷し室温に戻した。これを室温の脱イオン水に24時間静置したのちに水中で引張り試験を行った。
WD(ウェット−ドライプロセス): 水中接着性試験と同様の手順によって操作A、Bを行い、T3EGを挟み込んだ状態で接着したアルミニウム片を調製して、室温大気下で24時間静置した後に、大気下で引張り試験を行った。
WW(ウェット−ウェットプロセス): 水中接着性試験と同様の手順によって操作A、Bを行い、T3EGを挟み込んだ状態で接着したアルミニウム片を調製して、室温の脱イオン水に24時間静置したのちに水中で引張り試験を行った。(水中接着耐久性試験と同様の試験となる。)
【0067】
さらに、比較のための市販のエポキシ系水中接着剤(コニシ社製、製品名水中ボンドE380)を用いて同様の実験を行った。
【0068】
接着強度のプロセス依存性試験の結果をまとめて、
図8に示す。この結果から、T3EGが、DD、DW、WD、WWのいずれのプロセスにおいても、市販のエポキシ系接着剤と比較して大きな接着強度を示すこと、その接着強度は24時間経過後にも十分に大きなものであること、水中接着剤として市販されているエポキシ系接着剤であってもWWでの接着強度はDDと比較して1/3程度にまで減少するところを、T3EGではWWでの接着強度はDDと比較して3割程度の減少に過ぎないこと、がわかった。
【0069】
[塩に対する耐久性試験]
塩の存在下での接着の耐久性を評価するために、以下の試験を行った。
水中接着性試験と同様の手順によって操作A、Bを行い、T3EGを挟み込んだ状態で接着したアルミニウム片を調製して、これをサンプルとして、室温の0.4M塩化ナトリウム水溶液、または0.2Mの塩化カルシウム水溶液に浸して、24時間後にアルミニウム片が接着した状態を維持できるか確認した。どちらの場合にも接着が維持されたままだった。この結果を、
図9に示す。この結果から、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の塩の存在下でも、水中接着が維持されることがわかった。
【0070】
[基材依存性]
T3EGはアルミニウム以外の基材に対しても接着性を示す。接着の基材依存性を確認するために、アルミニウムの代わりにステンレス、真鍮、ガラス、木材、合成樹脂(ポリカーボネート)を用いて水中接着性試験と同様の手順によって操作A、Bを行い、接着試験を行った。ただし、ガラスについてはクリップによって固定を行い、真鍮についてはピンセットによって固定を行った。接着したサンプルを室温の脱イオン水で24時間静置した後に、接着状態が維持されるか確認した。全てのサンプルで接着状態は維持されていた。これらのサンプルのうち、ガラス、真鍮、アルミニウムの接着状態の写真を、
図10に示す。
【0071】
[自己修復性試験(定性的評価)]
T3EGの自己修復性を定性的に評価するために試験を行った。このために、以下の操作Cを行った。
【0072】
(操作C):
T3EGをテフロン(登録商標)シートとホットプレートを用いて厚さ1mmのシートに加工した。試験片打抜刃を用いて所定の大きさのダンベル型試験片を得た。この試験片のサイズを、
図11に示す。これを室温下でカッターナイフを用いて切断した(
図12の左側の写真)。切断してすぐに、この断片を手で持ち切断面を常温で20秒間接触させた。
【0073】
上記の操作Cの結果、2片は完全に接着した。この試験片は
図12の右側の写真のように、端部が180度回転するまでに折り曲げても、2つに再び分断されることはなく温和な条件で優れた自己修復性を示すことが確認された。
【0074】
T3EGに代えて、T2EG、T4EGを用いて、同様に操作Cを行って、自己修復性を評価した。この結果、T4EGは室温での自己修復性を示し、T2EGはドライヤーで温風(約45℃)をあてる程度の加熱操作を加えることで自己修復性を示した。
【0075】
[自己修復性試験(定量的評価)]
自己修復性を定量的に評価するために、以下の試験を行った。
はじめに切断の操作をしていないダンベル試験片(
図11に示すサイズ、厚さ1mm)の引張試験を行った(自己修復試験は試験速度10mm/minで行った)。得られた応力ひずみ曲線の積分値は破壊までに要したエネルギーに対応する。本試験では、「切断していないサンプルの破壊に要する仕事W
0に対して、自己修復させたサンプルの破壊までに要した仕事W
healの割合を自己修復率として評価した。ダンベル試験片を、操作Cと同様に切断・修復させた後に、ドライオーブン(50℃)で一定時間静置してから取り出し、大気下で室温に戻して十分に温度平衡に達してから引張試験を行った。この結果をまとめて、表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
この結果から、T3EGは、その機械特性として、比較的に強度のある材料でありながら、切断した後に接着してから12時間の経過後には、切断前の95%にまで引っ張り強度が回復するという、高い自己修復性を備えていることがわかった。さらに6時間後(切断後の接着から18時間後)まで回復させることで100%まで回復した。一方で、分子構造的には類似しているU3EGは、自己修復性を全く示さなかった。
【0078】
[圧縮による自己修復試験(定量的評価)]
T3EGの自己修復性を以下の圧縮による自己修復試験で評価して、加熱を伴わない圧縮操作のみで損傷前と同等の機械的強度を示すことを確認した。なお、以下の実施例において、T3EGをTUEG3又はTUEG
3と記載することがあり、T2EGをTUEG2又はTUEG
2と記載することがあり、TC8をTUC8又はTUC
8と記載することがある。
【0079】
[サンプルの調製]
ガラス状のT3EGサンプルをテフロンシート、ホットプレートを用いて180 ℃で加熱溶融させ、プレス機で押しつぶして厚さ0.6 mmのシートに加工した。得られたT3EGシートをホットプレートから取り外し直ちに室温まで冷却した後、試験片打抜刃を用いて幅6 mm × 長さ35 mmのダンベル試験片を調整した。ダンベル試験片の中央部分を室温においてカッターナイフで2片に切断し、2つの切断したT3EGダンベル試験片を接触面積が10 mm
2になるように5 mm
2重ねあわせた。手動の回転式クランプを用いてダンベル試験片の接触部分を圧縮応力が0.1−1MPa程度となるように固定して、21℃で静置した。
【0080】
[試験方法]
6時間後、強固に接着した試験片が得られた。切断・圧縮操作を行う前後の試験片を用いて引張試験を行い、[切断・圧縮操作を行う前の試験片の強度(破壊時の試験力)]/[(切断・圧縮操作後の試験片の強度(破壊時の試験力)を自己修復率として評価した。引張試験は試験温度21 ℃、変形速度100 mm/minの引張試験により測定した。圧縮処理前後の条件についてそれぞれ5サンプルの測定を行い、最大値と最小値を覗いた値から自己修復率を算出した。
【0081】
[結果]
切断・圧縮操作を行う前の試験片は試験力48 ± 1 Nで破壊を示した。切断・圧縮操作を行った後の試験片は試験力47± 3 Nで破壊を示した。すなわちT3EGは室温において6時間圧縮処理をすることで、98%の自己修復性を示すことが確認された。
【0082】
[その他のポリマーとの比較]
汎用ポリマーであるポリビニル酢酸(PVAc)はT3EGと同様に20−30℃付近にガラス転移点を持つ。しかしPVAcについて同様の実験を行っても自己修復性は示さなかった。T2EG(Tg 59℃)サンプルについてT3EGと類似の方法を用いて自己修復性を評価したところ、51℃18時間の圧縮処理で98%の自己修復性を示した。TC8(Tg 39℃)についても類似の実験行ったが、ガラス転移点付近あるいはガラス転移点以上の温度で24時間圧縮した場合でも自己修復性は全く確認されなかった。
【0083】
上記の圧縮による自己修復試験(定量的評価)の手順を、
図13に示す。T2EG(TUEG
2)についての圧縮による自己修復試験(定量的評価)の結果を、
図14に示す。T3EG(TUEG
3)についての圧縮による自己修復試験(定量的評価)の結果を、
図15に示す。
【0084】
[評価]
以上の圧縮による自己修復試験によって示されたように、T3EGは圧力による自己修復性を持っていた。これによって、例えば、圧縮刺激で密封できる非加熱シーリング剤、損傷部位を圧縮処理で修復できるフィルム、圧縮刺激により疲労により生じたマイクロクラックを埋める自己修復性樹脂として使用できる。
【0085】
[圧縮による自己修復試験(定性的評価)]
T3EGの圧縮による自己修復を、定性的に示すために、次の試験を行った。
T3EGの約20mm×約10mm×約2mmの試験片を中央部で切断した(
図16の1)。次に、ピンセットを用いて、この切断面同士を強く圧着して、30秒間維持した(
図16の2)。切断面同士の圧縮(圧着)によって、切断面は接着して自己修復し、ピンセットでつまんでも一体の状態となっていた(
図16の3)。自己修復した試験片の一端をピンセットでつまんで持ち上げて、接着した切断面を挟んで下側にあたる部分を金属クリップで挟んで、そのクリップに300gの分銅を吊り下げた(
図16の4)。この状態でも、自己修復面の一体性は維持されていた(
図16の5)。
【0086】
[非線形クリープ応答試験]
T3EGは室温21℃ではガラス状の自立する固体であり、長時間静置しても流動しない。しかし1MPa以上の応力が加わると流動的に応答し、応力を取り除くと変形後の形状を維持したまま再び自立性を示すことを、以下の非線形クリープ応答試験によって確認した。
【0087】
[サンプルの調製]
ガラス状のT3EGサンプルをテフロンシート、ホットプレートを用いて180 ℃で加熱溶融させ、プレス機で押しつぶして厚さ0.6 mmのシートに加工した。得られたT3EGシートをホットプレートから取り外し直ちに室温まで冷却した後、幅6 mm × 長さ30 mmの短冊型試験片を調整した。
【0088】
[試験方法]
短冊形試験片に対して一定の応力(0.1、0.3、1、 3、 10 MPa)を加えながら、室温における試験片のひずみの時間変化を20分間記録し、ひずみの時間変化を示すカーブの初期の傾き、クリープ速度を評価した。
【0089】
[結果]
0.1 MPa, 3 MPaそれぞれにおけるクリープ速度は1.9 × 10
-3 mm/min 、0.21 mm/minであった。このクリープ速度の増加は1 MPa付近を閾値として非線形に増加する傾向が見られた。
【0090】
[その他のポリマーとの比較]
T2EGについても同様に実験を51℃で行ったところ、T3EGと同様に非線形応答を示した。一方TC8は非線型応答を示さなかった。
【0091】
T2EG(TUEG
2)、T3EG(TUEG
3)、及びTC8(TUC
8)についての非線形クリープ応答試験の結果を、それぞれ
図17、
図18、及び
図19に示す。これらはいずれもガラス状態にある(T=0.98Tg)。
図17のグラフの曲線(又は直線)は、上側からそれぞれ、10.0MPa、3.0MPa、1.0MPa、0.3MPa、0.1MPaの曲線(又は直線)を示す。
図18のグラフの曲線(又は直線)は、上側からそれぞれ、3.0MPa、1.0MPa、0.3MPa、0.1MPaの曲線(又は直線)を示す。
図19のグラフの曲線(又は直線)は、上側からそれぞれ、5.0MPa、3.0MPa、1.0MPa、0.3MPa、0.1MPaの曲線(又は直線)を示す。
【0092】
[クリープ速度]
上記実験によって得られた
図17〜
図19のクリープ試験の結果について、それぞれの曲線の初期の傾きをプロットして、
図20に示す。
図20は、応力によるクリープ速度の変化を示すグラフであり、横軸、縦軸はそれぞれ試験条件(応力)、変形速度(曲線の初期の傾き)である。
【0093】
[評価]
以上の非線形クリープ応答試験で示されたように、T3EGは固いのに、与えられた応力がある閾値を超えると外力に応答して塑性変形する粘土のような性質を持つ。これによって、例えば、材料に対して加えられた応力の蓄積を変形によって記録するセンサーとして利用できる。
【0094】
[応力緩和試験]
TUEG3(T3EG)は室温においてGPaオーダーの貯蔵弾性率を持つが、ひとたび変形が加わると即座に応力緩和が起きる。このことを以下の応力緩和試験によって確認した。この応力緩和試験によって確認された現象は、本来的にはクリープ試験で見ているものと等価であるが、評価方法が異なるものである。
【0095】
[サンプル調整]
ガラス状のT3EGサンプルをテフロンシート、ホットプレートを用いて180 ℃で加熱溶融させ、プレス機で押しつぶして厚さ0.6 mmのシートに加工した。得られたT3EGシートをホットプレートから取り外し直ちに室温まで冷却した後、幅6 mm × 長さ30 mmの短冊型試験片を調整した。
【0096】
[試験方法]
短冊形試験片に対して直ちに3%の引張ひずみを加えて、引き伸ばした状態で固定した。測定するポリマーのガラス転移点温度付近における試験片の初期応力σ
0に対する応力σ(t)の時間変化(σ/σ
0)を6分間記録した。
【0097】
[結果]
T3EGは10秒以内に応力の50%が減少し、16%で見かけ上の平衡に達した。
【0098】
[その他のポリマーとの比較]
T2EG(TUEG
2)について、51℃でT3EGと同様の実験を行った。T2EGはT3EGと同様に30秒以内に応力の50%が減少した。TC8(TUC
8)について、33℃でT3EGと同様の実験を行った。一方、TC8は50%の減衰に120秒以上かかり、6分後でも40%の応力が残存していた。
【0099】
T2EG(TUEG
2)、T3EG(TUEG
3)、及びTC8(TUC
8)についての応力緩和試験の結果を、
図21にまとめて示す。
図21のグラフ中の曲線は、上から順に、TC8(TUC
8)、T2EG(TUEG
2)、T3EG(TUEG
3)である。
図20及び
図21中の0.98Tgとは絶対温度で表記したTgの0.98倍の温度を意味し、これがそれぞれ上記51℃、33℃、21℃に相当する。
【0100】
[疲労耐性試験]
一般的なポリマーは一度降伏すると弾性率や強度などの機械的性質が損なわれることが知られている。以下の疲労耐性試験によって、T3EGはこのような変形が加わった後でも、その弾性率を維持することが確認した。
【0101】
[サンプルの調製]
「圧縮による自己修復試験」と同様の手順で幅6 mm × 長さ35 mmのダンベル試験片を調製した。
【0102】
[試験方法]
室温においてダンベル型試験片に対して1mm/minの変形速度で0.5%の引張ひずみを加えて変形を停止、30秒後に再び0.5%のひずみを加える操作を9回繰り返した。応力ひずみ曲線から、初期-9回目までのヤング率を見積もった。
【0103】
[結果]
1回目の変形から9回目までの変形、いずれの場合も 0.9-1.2 GPaの範囲のヤング率を示した。
【0104】
[評価]
一般に、高分子材料の疲労の蓄積は致命的な破壊につながる。しかし、以上の疲労耐性試験で示されたように、T3EGは疲労耐性機能を有する。これによって、単独あるいは他の材料との複合化により材料の長寿命化を可能となる。
【0105】
[非晶性]
表1に示したT2EG及びT3EGは、全く結晶性を示さないものであった。
図22及び
図23にT2EG及びT3EGのx線回折測定結果を示す。これらの図に示す通り、x線回折測定において非晶構造に特徴的なブロードなピークのみが観察された。