(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
小麦ふすま100質量部と原料油脂100〜2000質量部とを混合し、その混合物を、該混合物の品温0〜40℃で0.5〜3時間振盪又は撹拌した後に遠心分離し、その遠心分離後の上清を回収する工程を有し、
前記原料油脂が、中鎖脂肪酸トリグリセリドである、食用油脂の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年、健康意識の高まりから、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の栄養素に富む小麦ふすまの需要が増してきており、それに伴い、小麦ふすまの有効利用に関する技術が種々提案されている。例えば特許文献1及び2には、食用油脂が保存中に酸化して過酸化物価(POV)が上昇する不都合を防止し得るPOV上昇抑制剤として、小麦ふすまの各種溶媒による抽出物を有効成分とする組成物が記載されている。特許文献1及び2には、この抽出物の抽出方法として、n−ヘキサン、オリーブ油等の抽出溶媒の沸騰下で窒素気流中30分〜5時間程度抽出する方法、あるいは、オリーブ油等の食用油脂中に小麦ふすまを浸漬し、その状態で室温から200℃で窒素気流中数時間から10日間程度抽出する方法が記載されている。
【0003】
また、合成されたアルキルレゾルシノール及びその誘導体や、小麦、ライ麦等の穀類の種皮やカシューナッツ等のナッツ類の種皮から抽出されたアルキルレゾルシノール含有抽出物が、抗肥満作用、抗酸化作用、抗免疫作用等を有することが知られている。特許文献1及び2にはアルキルレゾルシノールについては記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる小麦ふすまは、小麦粒の外皮部を主体とするものである。小麦ふすまとしては、一般的な小麦粉の製造過程で生じる、小麦粒から胚乳を除去した残部、あるいはこの残部からさらに胚芽を除去したもの等を用いることができ、基本的に組成や製造過程を問わない。また、小麦ふすまの原料となる小麦の種類は特に制限されない。
【0009】
本発明で用いる原料油脂としては、一般に食品に使用される食用油脂を特に制限なく用いることができる。また、本発明で用いる原料油脂は、室温(10〜40℃)で液状であることが望ましいが、常温で固型でも融解して使用することは可能である。原料油脂としては例えば、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、太白ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米油、米糠油、小麦胚芽油、パーム油、パームオレイン、パームステアリン、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明で用いる原料油脂は、炭素数2〜4個の短鎖脂肪酸(低級脂肪酸)、炭素数5〜12個の中鎖脂肪酸、炭素数が12個を超える長鎖脂肪酸(高級脂肪酸)の何れであっても良く、また、これら各種脂肪酸とグリセリンとを常法によりエステル化反応に付して得られる、トリグリセリドであっても良い。脂肪酸トリグリセリドの一例として、MCT(Medium Chain Triglycerides)とも呼ばれる中鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる。MCTは、ヤシ油分解脂肪酸等の炭素数が8〜10の飽和脂肪酸から構成される単酸基もしくは混酸基トリグリセリドであり、例えばカプリル酸/カプリン酸=60/40〜75/25(質量比)のトリグリセリドである。本発明で用いる原料油脂として特に好ましいものは、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、大豆油、菜種油であり、これらは常温で液状であり且つ食用として広く使用されているため、本発明で好ましく用いられる。
【0010】
本発明の食用油脂の製造方法においては、先ず、小麦ふすまと原料油脂とを混合し、その混合物を、該混合物の品温0〜40℃で0.5〜3時間振盪又は撹拌する。振盪・撹拌時の混合物の品温が0℃未満又は振盪・撹拌時間が0.5時間未満では、アルキルレゾルシノールを効率良く抽出することができず、該混合物の品温が40℃を超える又は振盪・撹拌時間が3時間を超えると、油脂の酸化に起因する過酸化物価(POV)が上昇し、食用油脂の変色、異臭等の不都合を招くおそれがある。振盪・撹拌時の混合物の品温は好ましくは15〜25℃、振盪時間は好ましくは0.5〜1時間である。尚、振盪及び撹拌の両方を実施しても良く、その場合、実施順序は特に制限されず、また、両操作の合計実施時間が0.5〜3時間となるようにする。
【0011】
振盪は例えば、回転振盪方式、往復振盪方式、8の字振盪方式等の、公知の振盪装置を用いて実施することができる。撹拌は例えば、攪拌羽根が取り付けられた撹拌軸をモーターで回転させる方式等の、公知の撹拌装置を用いて実施することができる。振盪又は撹拌の際に使用する原料油脂の量は、特に制限されないが、小麦ふすま100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部、さらに好ましくは300〜1000質量部である。
【0012】
小麦ふすまと原料油脂との混合物を振盪又は撹拌した後は、該混合物を遠心分離し、その遠心分離後の上清を回収する。この回収した上清が、製造目的物である食用油脂である。混合物の遠心分離は公知の遠心分離器を用いて実施することができる。遠心分離の条件に特に制限はないが、遠心分離をより確実に実施する観点から、遠心力は好ましくは150〜15000G、さらに好ましくは500〜4000G、遠心分離時間は好ましくは0.5〜60分間、さらに好ましくは3〜20分間である。
【0013】
遠心分離後の上清、即ち、本発明の製造方法の実施によって得られた食用油脂には、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールが含有されている。下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールは、抗肥満作用、抗酸化作用、抗免疫作用等を有しており、これを含む食用油脂は機能性食材として有用である。
【0015】
前記一般式(I)におけるR
1に関し、炭素原子数15〜25の飽和アルキル基としては、代表例として、n−ペンタデシル、n−ヘプタデシル、n−ノナデシル、n−ヘンイコシル、n−トリコシル、n−ペンタコシル、n−ヘプタコシル等の直鎖状のものが挙げられ、これらの他に、分岐状又は環状のものでも良い。これらの中でも、炭素原子数15〜23の飽和アルキル基が好ましい。
【0016】
また、前記一般式(I)におけるR
1に関し、炭素原子数15〜25の不飽和アルキル基としては、前記の炭素原子数15〜25の飽和アルキル基に対応するものが挙げられる。不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数及び位置に特に制限はない。
【0017】
また、前記一般式(I)におけるR
2は水素原子であることが好ましく、また、R
1はR
2に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0018】
前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの具体例としては、以下のものが挙げられる。
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)
1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)
【0019】
前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの好ましい一例として、下記6種類のアルキルレゾルシノールを含有するものが挙げられる。
1)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数15の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR15ともいう)。
2)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数17の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR17ともいう)。
3)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数19の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR19ともいう)。
4)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数21の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR21ともいう)。
5)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数23の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR23ともいう)。
6)前記一般式(I)におけるR
1が炭素原子数25の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR25ともいう)。
【0020】
AR15として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数15の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタデシルベンゼン(C15:0)が挙げられる。
AR17として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数17の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘプタデシルベンゼン(C17:0)が挙げられる。
AR19として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数19の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ノナデシルベンゼン(C19:0)が挙げられる。
AR21として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数21の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ヘンイコシルベンゼン(C21:0)が挙げられる。
AR23として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数23の飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−トリコシルベンゼン(C23:0)が挙げられる。
AR25として特に好ましいものは、R
1が炭素原子数25飽和アルキル基、R
2が水素原子であるものであり、具体的には、1,3−ジヒドロキシ−5−n−ペンタコシルベンゼン(C25:0)が挙げられる。
【0021】
本発明の製造方法の実施によって得られた食用油脂、即ち前記混合物の遠心分離後の上清には、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールが高含有されている。この上清中におけるこの特定アルキルレゾルシノールの含有量は、抽出に用いる原料油脂の種類等にもよるが、通常70ppm以上である。従って、本発明の製造方法の実施によって得られた食用油脂は、この特定アルキルレゾルシノールを効率的に吸収し得る食品素材として有用である。本発明の製造方法の実施によって得られた食用油脂は、幅広い食品用途に用いることができ、例えば、フライ食品、クリーム、ドレッシング、パン、ケーキ、菓子類等に好適である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例により制限されるものではない。
尚、実施例3〜6は参考例である。
【0023】
〔実施例1〜6、比較例1〜12及び参考例1〜6〕
容量50mlのガラス管に小麦ふすま(商品名:ウィートブランM、日清製粉株式会社製)を秤量し、さらに該ガラス管に該小麦ふすまの質量の5倍量の抽出溶媒を添加して混合物を調製した。抽出溶媒として、MCT(ココナードMT、花王株式会社製)、大豆油若しくは菜種油(以上、原料油脂)又はエタノールを用いた。そして、品温22±5℃の混合物が入ったガラス管を、万能シェーカー(AS−1N、アズワン株式会社製)を用いて、室温22±5℃の環境下で上下方向又は水平方向に218回(往復回数)/分の速度で所定時間振盪させた後、遠心分離器(Allegra X-30R centrifuge、Beckman coulter製)を用いて1200Gで10分間遠心分離し、その遠心分離後の上清を回収した。
【0024】
〔評価試験〕
前記各実施例、比較例及び参考例の遠心分離後の上清(食用油脂)について、下記方法によりアルキルレゾルシノール濃度を測定すると共に、基準油脂分析試験法(酢酸-イソオクタン法)に準じて過酸化物価(POV)を測定した。それらの結果を下記表1に示す。
【0025】
<アルキルレゾルシノール含有量の測定方法>
比色法により食用油脂中のアルキルレゾルシノール濃度を測定した。標準物質として、アルキル基(前記一般式(I)におけるR
1)の炭素原子数が21である5-n-heneicosylresorcinolを用いた。小麦には複数種のアルキルレゾルシノールが含まれているが、その中でもアルキル基の炭素原子数が21のものが最も含有量が多いとされている。また、Fast Blue B salt(Sigma Aldrich,D-9805, Dye content 〜95%)を1%酢酸で 溶解して0.05%溶液を調製し、これをメタノールで6倍希釈したものをFast Blue B working solutionとした。
メタノールで濃度1mg/1mLに調製した標準物質を試験管に1〜10μl採取し、さらにその試験管にFast Blue B working Solutionを2mL加えてVortexでよく撹拌した後、暗所で1時間放置した。その後、波長520nmで試験管の内容物の吸光度を測定して検量線を作成した。
そして、測定対象物(食用油脂)を試験管に10μl採取し、さらにその試験管にFast Blue B working Solutionを2mL加えてVortexでよく撹拌した後、暗所で1時間放置した。その後、波長520nmで試験管の内容物の吸光度を測定し、その測定値に基づき前記検量線を用いて、測定対象物中のアルキルレゾルシノール濃度を算出した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示す通り、実施例1〜6の製造方法によれば、アルキルレゾルシノール濃度の高い食用油脂が得られる。比較例2の製造方法は、アルキルレゾルシノール濃度の高い食用油脂が得られるものの、該食用油脂はPOV濃度も高いため、好ましくない。即ち、MCTを抽出溶媒(原料油脂)として用いた場合、振盪時間を15時間とするのは、POV濃度が高くなるため好ましくない。表1に示す結果から、アルキルレゾルシノール濃度が高く且つPOV濃度が低い食用油脂を得るためには、小麦ふすまと原料油脂との混合物を室温下で0.5〜3時間程度振盪させるのが良いことがわかる。