(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属材料により構成される高融点部材と、該高融点部材の金属材料よりも低い融点の金属材料により構成される低融点部材とを備え、前記高融点及び低融点部材を重ねた状態で、前記高融点及び低融点部材の重なり領域が、それらの一部分を溶融させることによって接合されている、異種金属接合体の製造方法において、
前記高融点及び低融点部材を重ねて配置するステップと、
接合工具を所定の回転速度R(rpm)にて回転させ、かつ前記接合工具を、前記高融点及び低融点部材の重なり方向における前記高融点部材の重なり領域の外面から所定の挿入量S分挿入しながら、前記接合工具を、前記高融点部材の重なり領域の外面に沿って所定の移動速度V(mm/min)にて移動させることによって、前記高融点及び低融点部材の重なり領域を接合するステップであって、前記所定の移動速度V(mm/min)に対する前記所定の回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.8以上かつ3.0以下とし、前記高融点部材の重なり領域における前記重なり方向の厚さThに対する前記接合工具の挿入量Sの比率S/Thを75%以上かつ95%以下とするステップと
を含む異種金属接合体の製造方法。
前記接合するステップにて、少なくとも前記高融点及び低融点部材の溶融した金属材料から成る反応層が、前記高融点及び低融点部材の重なり領域間に形成され、前記低融点部材の重なり領域が、前記高融点部材の重なり領域に食い込む突起部を有すると共に前記高融点部材の重なり領域の外面から露出しないように形成される、請求項1に記載の異種金属接合体の製造方法。
前記接合するステップにて、前記低融点部材の重なり領域に溶融部が生じ、前記低融点部材の重なり領域における前記重なり方向の厚さTlに対する前記低融点部材の重なり領域の溶融部における前記重なり方向の溶融深さPの比率P/Tlが2.5%以上かつ37.5%以下となる、請求項1又は2に記載の異種金属接合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の接合方法においては、高融点及び低融点部材の溶融領域が、高融点及び低融点部材への少ない入熱のために縮小すると、高融点及び低融点部材が反応層のみによって接合されるか、又は反応層が安定的に形成されないおそれがある。その一方で、上述の接合方法において、高融点及び低融点部材の流動領域が、高融点及び低融点部材への過剰な入熱のために拡大すると、特に高融点部材が破れることによって高融点及び低融点部材の接合界面が高融点部材の破れた部分から露出するおそれがあり、かつ低融点部材の溶融した金属材料が流出するおそれがある。この場合、異種金属接触腐食が発生して、高融点及び低融点部材の接合強度が低下するおそれがある。すなわち、上述の接合方法においては、高融点及び低融点部材の接合強度が安定しないという問題がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決すべく成されたものであり、本発明の目的は、融点の異なる異種金属材料から成る部材の接合強度を安定化できる異種金属接合体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するために、本発明の一態様に係る異種金属接合体の製造方法によれば、金属材料により構成される高融点部材と、該高融点部材の金属材料よりも低い融点の金属材料により構成される低融点部材とを備え、前記高融点及び低融点部材を重ねた状態で、前記高融点及び低融点部材の重なり領域が、それらの一部分を溶融させることによって接合されている、異種金属接合体の製造方法において、前記高融点及び低融点部材を重ねて配置するステップと、接合工具を所定の回転速度R(rpm)にて回転させ、かつ前記接合工具を、前記高融点及び低融点部材の重なり方向における前記高融点部材の重なり領域の外面から所定の挿入量S分挿入しながら、前記接合工具を、前記高融点部材の重なり領域の外面に沿って所定の移動速度V(mm/min)にて移動させることによって、前記高融点及び低融点部材の重なり領域を接合するステップであって、前記所定の移動速度V(mm/min)に対する前記所定の回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.8以上かつ3.0以下とし、前記高融点部材の重なり領域における前記重なり方向の厚さThに対する前記接合工具の挿入量Sの比率S/Thを75%以上かつ95%以下とするステップとを含む。さらには、前記接合するステップにて、少なくとも前記高融点及び低融点部材の溶融した金属材料から成る反応層が、前記高融点及び低融点部材の重なり領域間に形成され、前記低融点部材の重なり領域が、前記高融点部材の重なり領域に食い込む突起部を有すると共に前記高融点部材の重なり領域の外面から露出しないように形成される。そのため、接合工具の移動速度V(mm/min)に対する接合工具の回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.8以上とし、かつ高融点部材の重なり領域の厚さThに対する接合工具の挿入量Sの比率S/Thを75%以上とすることによって、低融点部材に十分な入熱が成されて、低融点部材の一部分の金属材料が確実に溶融し、かつ高融点及び低融点部材の溶融した金属材料が混ざり、その結果、反応層を確実に形成できる。その一方で、上記比率R/Vを3.0以下し、かつ上記比率S/Thを95%以下とすることによって、低融点部材の重なり領域を、高融点部材の重なり領域に食い込む突起部を確実に有するように形成できる。また、上記比率R/Vを3.0以下し、かつ上記比率S/Thを95%以下とすることによって、接合工具の挿入側に位置する高融点部材が破れると共に高融点及び低融点部材の接合界面が高融点部材の破れた部分から露出することを防止できるので、異種金属接触腐食が発生することを防止できる。その結果、高融点及び低融点部材の接合強度が低下することを防止できる。よって、融点の異なる異種金属材料から成る部材の接合強度を安定化できる。
【0007】
本発明の一態様に係る異種金属接合体の製造方法によれば、前記接合するステップにて、前記低融点部材の重なり領域に溶融部が生じ、前記低融点部材の重なり領域における前記重なり方向の厚さTlに対する前記低融点部材の重なり領域の溶融部における前記重なり方向の溶融深さPの比率P/Tlが2.5%以上かつ37.5%以下となる。そのため、低融点部材の重なり領域における厚さTlに対する低融点部材の重なり領域の溶融深さPの比率P/Tlが2.5%以上となる条件では、反応層を確実に形成することができる。その一方で、上記比率P/Tlが37.5%以下となる条件では、低融点部材の重なり領域を、高融点部材の重なり領域に食い込む突起部を確実に有するように形成することができる。また、上記比率P/Tlが37.5%以下となる条件では、低融点部材の溶融した金属材料が流出することを確実に防止できるので、異種金属接触腐食が発生することを防止することができる。その結果、高融点及び低融点部材の接合強度が低下することを防止できる。
【0008】
課題を解決するために、本発明の一態様に係る異種金属接合体によれば、金属材料により構成される高融点部材と、該高融点部材の金属材料よりも低い融点の金属材料により構成される低融点部材とを備え、前記高融点及び低融点部材を重ねた状態で、前記高融点及び低融点部材の重なり領域が、それらの一部分を溶融させることによって接合されている、異種金属接合体において、前記高融点及び低融点部材の重なり領域間に、少なくとも前記高融点及び低融点部材の溶融した金属材料から成る反応層が設けられており、前記低融点部材の重なり領域が、前記高融点部材の重なり領域に食い込む突起部を有すると共に前記高融点部材の重なり領域の外面から露出しないように形成されている。そのため、反応層と高融点部材の重なり領域に食い込むように形成される低融点部材の重なり領域の突起部とによって、高融点及び低融点部材を確実に接合できる。また、低融点部材の重なり領域が高融点部材の重なり領域の外面から露出しないように形成されるので、高融点及び低融点部材の接合界面が露出することを防止できる。その結果、異種金属接触腐食が発生することを防止できるので、高融点及び低融点部材の接合強度が低下することを防止できる。よって、融点の異なる異種金属材料から成る部材の接合強度を安定化できる。
【0009】
本発明の一態様に係る異種金属接合体によれば、前記高融点部材の金属材料が鉄系又は鋼系材料となっており、かつ前記低融点部材の金属材料がアルミニウム系材料となっている。そのため、高融点及び低融点部材が、それぞれ、接合、特に摩擦撹拌接合に適した鉄系又は鋼系材料及びアルミニウム系材料により構成されるので、接合体の接合強度を安定化できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様に係る異種金属接合体及びその製造方法によれば、融点の異なる異種金属材料から成る部材の接合強度を安定化できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る異種金属接合体及びその製造方法を以下に説明する。
【0013】
本実施形態に係る異種金属接合体(以下、単に「接合体」という)について説明する。
図1及び
図2に示すように、接合体は、互いに重なって配置された高融点及び低融点部材1,2を有している。高融点及び低融点部材1,2は、それぞれ、互いに融点の異なる異種金属材料によって構成されており、高融点部材1の金属材料の融点は低融点部材2の金属材料の融点よりも高くなっている。
【0014】
特に、高融点部材1の金属材料は鉄系又は鋼系材料であると好ましく、かつ低融点部材2の金属材料はアルミニウム系材料であると好ましい。あくまでも一例であるが、鉄系材料は、鋳鉄等であるとよく、鋼系材料は、普通鋼、特殊鋼、鋳鋼、鍛鋼等であるとよく、アルミニウム系材料は、アルミニウム又はその合金等であるとよい。しかしながら、本発明の高融点及び低融点部材の金属材料は、これに限定されず、高融点部材の金属材料の融点が低融点部材の金属材料の融点よりも高くなっていれば、高融点及び低融点部材の金属材料は、各別に、銅又はその合金、マグネシウム又はその合金、チタン又はその合金、鉄系材料、鋼系材料、アルミニウム系材料等から選択可能である。
【0015】
このような高融点及び低融点部材1,2は、それぞれ、互いに重なって配置された重なり領域3,4を有している。高融点部材1の重なり領域(以下、「高融点側重なり領域」という)3及び低融点部材2の重なり領域(以下、「低融点側重なり領域」という)4は、略板状に形成されており、高融点及び低融点部材1,2の重なり方向(以下、単に「重なり方向」という)は、それらの厚さ方向に略一致している。
【0016】
高融点側重なり領域3は、低融点側重なり領域4を向く重なり面3aと、該重なり面3aに対向する外面3bとを有しており、重なり面3a及び外面3bは互いに対して略平行になっている。しかしながら、本発明の高融点側重なり領域は、これに限定されず、高融点側重なり領域の重なり面及び外面は互いに対して非平行であってもよい。このような高融点側重なり領域3は厚さThを有しており、かかる厚さThは、接合開始前の高融点側重なり領域における後述する接合工具(以下、単に「工具」という)Wの挿入予定箇所の厚さとして定義されるとよい。
【0017】
また、低融点側重なり領域4もまた、高融点側重なり領域3を向く重なり面4aと、該重なり面4aに対向する外面4bとを有しており、重なり面4a及び外面4bは互いに対して略平行になっている。しかしながら、本発明の低融点側重なり領域は、これに限定されず、低融点側重なり領域の重なり面及び外面は互いに対して非平行であってもよい。このような低融点側重なり領域4は厚さTlを有しており、かかる厚さTlは、接合開始前の低融点側重なり領域における工具Wの挿入予定箇所の厚さとして定義されるとよい。
【0018】
図1に示すように、高融点側及び低融点側重なり領域3,4は、それらの一部分を溶融させることによって接合されている。高融点側及び低融点側重なり領域3,4が接合された状態(以下、「接合状態」という)では、高融点側重なり領域3が、その重なり面3aにて突出する凸部(以下、「反応凸部」という)3cを有するように変形し、低融点側重なり領域4は、このような反応凸部3cに対応して窪んだ凹部(以下、「反応凹部」という)4cを有するように変形している。また、高融点側及び低融点側重なり領域3,4が接合される過程では、低融点側重なり領域の少なくとも一部(以下、「溶融部」という)Mが溶融する。なお、
図1では、低融点側重なり領域4における溶融部Mとそれ以外の部分との境界を二点破線によって示す。低融点側重なり領域4の溶融部Mは重なり方向の最大深さ(以下、「溶融深さ」という)Pを有しており、低融点側重なり領域4の厚さTlに対する溶融深さPの比率P/Tlは2.5%以上かつ37.5%であると好ましい。
【0019】
さらに、接合状態では、高融点側重なり領域3の反応凸部3cと低融点側重なり領域4の反応凹部4cとの間に、少なくとも高融点側及び低融点側領域3,4の溶融した金属材料から成る反応層5が形成されている。高融点側重なり領域3の反応凸部3cと低融点側重なり領域4の反応凹部4cとは、かかる反応層5を介して接合されている。なお、反応層5は、高融点側及び低融点側領域3,4の溶融した金属材料から成ると好ましいが、反応層5は、高融点側及び低融点側領域3,4の溶融した金属材料、並びにその他の不純物から構成されてもよい。
【0020】
接合状態では、低融点側重なり領域4は、高融点側重なり領域3に食い込む突起部4dを有すると共に高融点側重なり領域3の外面3bから露出しないように形成されている。具体的には、突起部4dは、低融点側重なり領域4の重なり面4aから高融点側重なり領域3に向かって突出するように形成されている。かかる突起部4dは、接合体の断面視にて、低融点側重なり領域4の反応凹部4cに対して反応凹部4cの幅方向両側にそれぞれ隣接するように位置している。高融点側重なり領域3には、このような突起部4dに対応して食い込み部分3dが形成されている。高融点側及び低融点側重なり領域3,4はまた、食い込み部分3d及び突起部4dの係合によって機械的に接合されている。あくまでも一例であるが、高融点側及び低融点側重なり領域3,4の接合強度Fは、約5.0kN以上であると好ましく、約5.5kN以上であるとより好ましく、さらには、約6.0kN以上であるとより好ましい。
【0021】
本実施形態に係る接合体の製造方法について説明する。最初に、かかる製造方法に用いられる工具について説明する。
図3に示すように、工具Wは、その先端側に位置すると共に略円柱形状に形成されるプローブ部w1を有しており、プローブw1は直径D1を有している。また、工具Wは、その基端側に位置すると共に略円柱形状に形成されるショルダー部w2を有しており、ショルダー部w2は直径D2を有しており、かかるショルダー部w2の直径D2はプローブ部w1の直径D1よりも大きくなっている。プローブ部w1は、ショルダー部w2の先端から突出しており、プローブ部w1は、その基端から先端までの長さLを有している。なお、プローブ部w1の長さLと高融点側重なり領域3の厚さThとの関係について、Th−0.6(mm)≦L≦Th−0.05(mm)であると好ましい。かかる長さLの上限値は、後述する工具Wの挿入量Sをプローブ部w1の長さLに近付けるように工具Wを高融点側重なり領域3に挿入した際に、高融点側重なり領域3の外面3bに対する工具Wの挿入角度が浅い状態にて、高融点側重なり領域3が工具Wによって破れることを防止するように定められている。長さLの下限値は、工具Wによって接合界面を撹拌することを可能にするように定められている。L<Th−0.6(mm)である場合、工具Wによって接合界面を十分に撹拌できなくなるためである。また、工具Wの長手方向に延びる軸線w3は、プローブ部w1及びショルダー部w2の中心軸線と略一致しており、工具Wは、かかる軸線w3を中心に回転可能に構成されている。このような工具Wは、以下に述べる方法によって接合体を製造するために十分な耐熱性、強度、靱性、耐摩耗性等を有する材料を用いて作製されるとよい。あくまでも一例であるが、工具Wに用いられる材料は、工具鋼、セラミックス、PCBN(多結晶の立方晶窒化ホウ素)、W−Re合金、Co合金、超硬合金(WC−Co合金)、PCBN/W−Re複合材料、Ir合金等から選択可能である。
【0022】
次に、接合体の製造方法を具体的に説明する。
図2に示すように、高融点及び低融点部材1,2を、高融点側及び低融点側重なり領域3,4を重ねるように配置する。工具Wを軸線w3中心に所定の回転速度R(rpm)にて回転させ、かつ工具Wを、高融点側重なり領域3の外面3bから挿入量(すなわち、重なり方向の深さ)S分挿入しながら、工具Wを、高融点側重なり領域3の外面3bに沿って所定の移動速度V(mm/min)にて移動させる。このような工具Wの操作によって、高融点側及び低融点側重なり領域3,4が接合されることとなる。工具Wの操作条件については、移動速度V(mm/min)に対する回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.8以上かつ3.0以下とし、かつ高融点側重なり領域3の厚さThに対する挿入量Sの比率S/Thを75%以上かつ95%以下とする。
【0023】
このような工具Wの操作条件においては、高融点側重なり領域3の反応凸部3cと低融点側重なり領域4の反応凹部4cとの間に反応層5を確実に形成することができ、かつ低融点側重なり領域4を、高融点側重なり領域3に食い込む突起部4dを有すると共に高融点側重なり領域3の外面3bから露出しないように確実に形成することができる。なお、反応層5は、工具Wのプローブ部w1の挿入位置に対応して位置することとなる。さらに工具Wの操作条件においては、低融点側重なり領域4の厚さTlに対する溶融深さPの比率P/Tlを2.5%以上かつ37.5%とすることができる。
【0024】
以上、本実施形態に係る接合体によれば、反応層5と高融点側重なり領域3に食い込むように形成される低融点側重なり領域4の突起部4dとによって、高融点及び低融点部材を確実に接合できる。また、低融点側重なり領域4が高融点側重なり領域3の外面3bから露出しないように形成されるので、高融点及び低融点部材1,2の接合界面が露出することを防止できる。その結果、異種金属接触腐食が発生することを防止できるので、高融点及び低融点部材1,2の接合強度Fが低下することを防止できる。よって、融点の異なる異種金属材料から成る部材1,2の接合強度Fを安定化できる。
【0025】
本実施形態に係る接合体によれば、高融点及び低融点部材1,2が、それぞれ、接合、特に、摩擦撹拌接合に適した鉄系又は鋼系材料及びアルミニウム系材料により構成される場合には、接合体の接合強度Fを安定化できる。
【0026】
また、本実施形態に係る接合体の製造方法によれば、工具Wの移動速度V(mm/min)に対する工具Wの回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.8以上とし、かつ高融点側重なり領域3の厚さThに対する工具Wの挿入量Sの比率S/Thを75%以上とすることによって、低融点部材2の一部分の金属材料が確実に溶融し、かつ高融点及び低融点部材1,2の溶融した金属材料が混ざり、その結果、反応層5を確実に形成できる。その一方で、上記比率R/Vを3.0以下とし、かつ上記比率S/Thを95%以下とすることによって、低融点側重なり領域4を、高融点側重なり領域3に食い込む突起部4dを確実に有するように形成できる。また、上記比率R/Vを3.0以下とし、かつ上記比率S/Thを95%以下とすることによって、工具Wの挿入側に位置する高融点部材1が破れると共に高融点及び低融点部材1,2の接合界面が高融点部材1の破れた部分から露出することを防止できるので、異種金属接触腐食が発生することを防止できる。その結果、高融点及び低融点部材1,2の接合強度Fが低下することを防止できる。よって、融点の異なる異種金属材料から成る部材1,2の接合強度Fを安定化できる。
【0027】
本実施形態に係る接合体の製造方法によれば、低融点側重なり領域4における厚さTlに対する低融点側重なり領域4の溶融深さPの比率P/Tlが2.5%以上となる条件では、反応層5を確実に形成することができる。その一方で、上記比率P/Tlが37.5%以下となる条件では、低融点側重なり領域4を、高融点側重なり領域3に食い込む突起部4dを確実に有するように形成することができる。また、上記比率P/Tlが37.5%以下となる条件では、低融点部材2の溶融した金属材料が流出することを確実に防止できるので、異種金属接触腐食が発生することを防止することができる。その結果、高融点及び低融点部材1,2の接合強度Fが低下することを防止できる。
【0028】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【0029】
さらに、実施例1〜実施例3と比較例1〜比較例3とについて説明する。最初に、実施例1、比較例1、並びに実施例1及び比較例1の対比について述べる。
【0030】
[実施例1]
実施例1においては、本発明の実施形態と同様に接合体を製造した。具体的には、高融点部材1を、特殊鋼の一種である高張力鋼板から作製し、高融点側重ね領域3の厚さThを2.0mmとした。低融点部材2をアルミニウム合金から作製し、低融点側重ね領域4の厚さTlを4.0mmとした。工具Wは超硬合金製のものを用い、工具Wのプローブ部w1の直径D1を6mmとし、かかるプローブ部w1の長さLを1.4mmとし、工具Wのショルダー部w2の直径D2を12mmとした。表1に示すように、工具Wの移動速度V(mm/min)に対する工具Wの回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.80、2.10、2.25、2.50、2.75、及び3.00とした複数の条件にて、高融点側及び低融点側重なり領域3,4を接合した。各条件においては、工具Wの挿入量Sを1.6mmとした。すなわち、高融点側重なり領域3の厚さThに対する工具Wの挿入量Sの比率S/Thを80%とした。なお、複数の条件のそれぞれにおいて、2つの接合体を製造した。このように製造された各接合体において、低融点側重なり領域4の溶融深さP(mm)と、接合強度F(kN)とを測定した。
【0032】
[比較例1]
比較例1においては、次の条件を除いて、実施例1と同様の条件にて接合体を製造した。すなわち、実施例1と異なる条件として、表2に示すように、工具の移動速度V(mm/min)に対する工具の回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.30、1.40、1.50、1.60、1.70、3.30、3.50、3.70、及び4.20とした複数の条件にて、高融点側及び低融点側重なり領域を接合した。このように製造された各接合体において、低融点側重なり領域の溶融深さP(mm)と、接合強度F(kN)とを測定した。
【0034】
[実施例1と比較例1との対比]
表1、表2、及び
図4を参照して、実施例1及び比較例1の測定結果を対比する。なお、
図4においては、横軸は、工具の移動速度V(mm/min)に対する工具の回転速度R(rpm)の比率R/Vを示し、かつ縦軸は、接合体の接合強度F(kN)を示す。また、実施例1の測定値は十字印により示し、比較例1の測定値はX印により示す。
【0035】
表1及び
図4を参照すると、実施例1のように、上記比率R/Vを1.80以上かつ3.00以下とした場合、接合強度Fが5.2kN以上となった。さらに、各比率R/Vの最大及び最小接合強度Fの差が0.8kN以内となった。その一方で、表2及び
図4を参照すると、比較例1において、上記比率R/Vを1.80未満とした場合、高融点側及び低融点側重なり領域が接合されていないか、又は接合強度Fが4.5kN以下となった。さらに、各比率R/Vの最大及び最小接合強度Fの差が2.0kN以上となった。比較例1において、上記比率R/Vを、3.00を超えるようにした場合、接合強度Fが3.8kN以下となった。さらに、各比率R/Vの最大及び最小接合強度Fの差が1.0kN以上となった。
【0036】
そのため、実施例1の接合体の接合強度Fが比較例1の接合体の接合強度よりも安定することが確認できた。また、表1に示すように、実施例1の接合体においては、上記比率R/Vを1.80以上かつ3.00以下とした場合、低融点側重なり領域4の溶融深さPが0.1mm以上かつ1.5mm以下となることが確認できた。
【0037】
実施例2、比較例2、並びに実施例2及び比較例2の対比について述べる。
【0038】
[実施例2]
実施例2においては、次の条件を除いて、実施例1と同様の条件にて接合体を製造した。すなわち、実施例1と異なる条件として、表3に示すように、高融点側重なり領域3の厚さThに対する工具Wの挿入量Sの比率S/Thを75%以上かつ95%以下の範囲内で変化させた。なお、工具Wの移動速度V(mm/min)に対する工具Wの回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.80以上かつ3.00以下の範囲内とした。このように製造された各接合体において、接合状態を確認した。
【0040】
[比較例2]
比較例2においては、次の条件を除いて、実施例2と同様の条件にて接合体を製造した。すなわち、実施例2と異なる条件として、表4に示すように、高融点側重なり領域103の厚さThに対する工具の挿入量Sの比率S/Thを70%以下の範囲で変化させ、さらに、上記比率S/Thを100%以上の範囲で変化させた。このように製造された各接合体において、接合状態を確認した。
【0042】
[実施例2と比較例2との対比]
表3、表4、及び
図5〜
図8を参照して、実施例2及び比較例2の測定結果を対比する。表3を参照すると、実施例2のように、上記比率S/Thを75%以上かつ95%以下とした場合、高融点側及び低融点側重なり領域3,4が確実に接合されることができた。また、
図5に示すように、実施例2においては、低融点側重なり領域4に、高融点側重なり領域3に食い込む突起部4dが確実に形成され、高融点側重なり領域3が破れず、低融点側重なり領域4が高融点側重なり領域3の外面3bから露出しないことが確認できた。
図6に示すように、実施例2においては、高融点側重なり領域3の突出部分3dと低融点側重なり領域4の反応凹部4cとの間に反応層5が確実に形成されることが確認できた。その一方で、表4及び
図7を参照すると、比較例2のように、上記比率S/Thを75%未満とした場合、高融点側及び低融点側重なり領域103,104が接合できないことが確認できた。また、表4及び
図8を参照すると、比較例2のように、上記比率S/Thを、95%を超えるようにした場合、高融点側重なり領域103が破れて、低融点側重なり領域104が高融点側重なり領域103の外面103bから露出することが確認できた。そのため、実施例2のように、上記比率S/Thを75%以上かつ95%以下とした場合に、高融点側及び低融点側重なり領域3,4が確実に接合されることが確認できた。
【0043】
実施例3、比較例3、並びに実施例3及び比較例3の対比について述べる。
【0044】
[実施例3]
実施例3においては、次の条件を除いて、実施例1と同様の条件にて接合体を製造した。すなわち、実施例1と異なる条件として、表5に示すように、工具Wの移動速度V(mm/min)に対する工具Wの回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.80以上かつ3.00以下の範囲内で変化させ、このような変化によって、低融点側重なり領域4の厚さTlに対する溶融深さPの比率P/Tlを2.5%、7.5%、10.0%、15.0%、17.5%、20.0%、25.0%、30.0%、32.5%、35.0%、及び37.5%とする接合体を製造した。このように製造された各接合体において、接合強度F(kN)を測定した。
【0046】
[比較例3]
比較例3においては、次の条件を除いて、実施例3と同様の条件にて接合体を製造した。すなわち、実施例3と異なる条件として、表5に示すように、工具の移動速度V(mm/min)に対する工具の回転速度R(rpm)の比率R/Vを1.80未満の範囲で変化させ、このような変化によって、低融点側重なり領域の厚さTlに対する溶融深さPの比率P/Tlを2.5%未満とする接合体を製造した。また、表5に示すように、上記比率R/Vを、3.0を超える範囲で変化させ、このような変化によって、低融点側重なり領域の厚さTlに対する溶融深さPの比率P/Tlを40.0%、42.5%、45.0%、50.0%、52.5%、62.5%、及び65.0%とする接合体を製造した。このように製造された各接合体において、接合強度F(kN)を測定した。
【0048】
[実施例3と比較例3との対比]
表5、表6、及び
図9を参照して、実施例3及び比較例3の測定結果を対比する。なお、
図9においては、横軸は、低融点側重なり領域の厚さTlに対する溶融深さPの比率P/Tlを示し、かつ縦軸は、接合体の接合強度F(kN)を示す。また、実施例3の測定値は十字印により示し、比較例3の測定値はX印により示す。
【0049】
表5及び
図9を参照すると、実施例3のように、上記比率P/Tlが2.5%以上かつ37.5%以下である場合、接合強度Fが5.2kN以上となった。その一方で、表6及び
図9を参照すると、比較例3のように、上記比率P/Tlが2.5%未満である場合、接合強度Fが4.5kN以下となった。また、比較例3のように、上記比率P/Tlが37.5%を超える場合、接合強度Fが3.8kN以下となった。そのため、実施例3の接合体は比較例3の接合体と比較して十分な接合強度Fが得られることが確認できた。