(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態に関して以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0018】
〔1.非水電解液二次電池用多孔質層〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用多孔質層(以下では、単に「多孔質層」とも称する)は、樹脂を含む塊状領域と、樹脂を含む鎖状領域とを有する。本明細書において、多孔質層とは、内部に多数の細孔を有し、これら細孔が連結された構造となっており、一方の面から他方の面へと気体または液体が通過可能となった層である。
【0019】
多孔質層が塊状領域および鎖状領域を有するか否かは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって得られた画像から判断することができる。
図1は、後述の実施例1において得られた多孔質層の断面のSEM画像を示す図である。
図1では、ポリオレフィン多孔質フィルム2上に多孔質層1が積層されている。なお、前記断面は、多孔質層の厚み方向に平行な断面である。
図1から分かるように、多孔質層1は、塊状領域11と鎖状領域12とを有する。
【0020】
塊状領域11は、樹脂を含む塊状の領域である。塊状領域11が存在することにより、多孔質層の空隙が適切に確保される。それゆえ、当該多孔質層を備える積層セパレータは、優れた透気度およびイオン透過性を示す。塊状領域11は不定形であり、球状であってもよい。塊状領域11は単一の粒子からなる構造であってもよく、複数の粒子が凝集した構造であってもよい。
【0021】
鎖状領域12は、樹脂を含む鎖状の領域である。すなわち、鎖状領域12は、塊状領域11に比べて細長く伸長する領域である。鎖状領域12は、塊状領域11を連結するものであり、直線状であってもよく、分岐していてもよい。
【0022】
塊状領域11および鎖状領域12はそれぞれ、通常、樹脂を50体積%以上含み、好ましくは90体積%以上含み、より好ましくは95体積%以上含む。塊状領域11および鎖状領域12はそれぞれ、樹脂からなってもよい。
【0023】
塊状領域11および鎖状領域12は、それぞれ別々の樹脂を含んでいてもよく、同一の樹脂を含んでいてもよい。塊状領域11および鎖状領域12が同一の樹脂を含んでいれば、塊状領域11と鎖状領域12とがよく連結するため、多孔質層の形状をさらに安定させることができる。また、鎖状領域12は、塊状領域11から一体として伸長していることが好ましく、また、鎖状領域12が複数の塊状領域11を連結するものであることが好ましい。これにより、多孔質層の形状をさらに安定させることができる。
【0024】
前記樹脂は、耐熱性樹脂であることが好ましい。耐熱性樹脂としては、全芳香族ポリアミドおよび半芳香族ポリアミド等の芳香族ポリアミド、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリウレタン、並びにメラミン樹脂などが挙げられる。
【0025】
中でも、前記樹脂は、全芳香族ポリアミドおよび半芳香族ポリアミド等の芳香族ポリアミドであることが好ましい。なお、本明細書では、全芳香族ポリアミドおよび半芳香族ポリアミド等の芳香族ポリアミドをアラミド樹脂とも称する。アラミド樹脂としては、例えば、パラアラミドおよびメタアラミドが挙げられ、パラアラミドがより好ましい。
【0026】
前記パラアラミドの調製方法としては、特に限定されないが、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮合重合法が挙げられる。その場合、得られるパラアラミドは、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。当該パラアラミドとしては、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。このうち、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)がより好ましい。
【0027】
また、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(以下、PPTAと称する)の溶液を調製する具体的な方法として、例えば、以下の(1)〜(4)に示す方法が挙げられる。(1)乾燥したフラスコにN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと称する)を仕込み、続いて200℃で2時間乾燥した塩化カルシウムを添加した後、100℃に昇温することによって前記塩化カルシウムを完全に溶解させる。
(2)(1)にて得られた溶液の温度を室温に戻し、続いてパラフェニレンジアミン(以下、PPDと略す)を添加した後、前記PPDを完全に溶解させる。
(3)(2)にて得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド(以下、TPCと称する)を10分割して約5分間おきに添加する。
(4)(3)にて得られた溶液の温度を20±2℃に保ったまま1時間熟成し、その後、減圧下にて30分間撹拌して気泡を抜くことにより、PPTAの溶液を得る。
【0028】
また、PPTAの粒子を含む溶液を調製する具体的な方法として、例えば、前記の(1)〜(4)で得られたPPTAの溶液を、40℃で1時間、300rpmで撹拌することによってPPTAの粒子を析出させる方法が挙げられる。
【0029】
また、前記メタアラミドの調製方法としては、特に限定されないが、メタ配向芳香族ジアミンとメタ配向芳香族ジカルボン酸ハライドまたはパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮合重合法、および、メタ配向芳香族ジアミンまたはパラ配向芳香族ジアミンとメタ配向芳香族ジカルボン酸ハライドとの縮合重合法が挙げられる。その場合、得られるメタアラミドは、アミド結合が芳香族環のメタ位またはそれに準じた配向位で結合される繰り返し単位を含むものである。メタアラミドとしては、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(メタフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等が挙げられる。
【0030】
なお、前記多孔質層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、及びエチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリクロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フッ化ビニル共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体およびエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素樹脂;前記含フッ素樹脂の中でも、ガラス転移温度が23℃以下である含フッ素ゴム;ポリアミド系樹脂;芳香族ポリエステル(例えばポリアリレート)および液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂;スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド等の、融点またはガラス転移温度が180℃以上の樹脂;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等を含んでいてもよい。
【0031】
多孔質層の膜厚は、0.5〜15μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。多孔質層の膜厚が0.5μm以上であれば、電池の内部短絡を十分に防止することができ、また、多孔質層における電解液の保持量を維持できる。一方、多孔質層の膜厚が15μm以下であれば、イオンの透過抵抗の増加を抑制するとともに、充放電サイクルを繰り返した場合の正極の劣化、並びにレート特性およびサイクル特性の低下を防ぐことができる。また、正極および負極間の距離の増加を抑えることにより非水電解液二次電池の大型化を防ぐことができる。
【0032】
多孔質層の目付は、電極との接着性およびイオン透過性の観点から、固形分で0.5〜20g/m
2であることが好ましく、0.5〜10g/m
2であることがより好ましく、0.5g/m
2〜7g/m
2であることがさらに好ましい。
【0033】
<多孔質層の製造方法>
前記多孔質層の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、上述の樹脂が溶媒に溶解した溶液を得る。続いて、当該溶液を加熱、冷却または貧溶媒を添加することにより、前記樹脂の一部を析出させた懸濁液を得る。ここで得られた樹脂の析出物を、本明細書では、「フィラー」とも称する。当該懸濁液を、多孔質層を形成するための塗工液として用いてもよいし、当該懸濁液に、上記樹脂の溶液を追加することによって塗工液を調製してもよい。得られた塗工液を基材に塗布した後、さらに多くの貧溶媒を加えることによって、溶液中に残存する溶解樹脂をさらに析出させる。主に、前記フィラーから塊状領域が形成され、溶液に残っていた、塗布した後に析出させた樹脂から鎖状領域が形成される。その後、溶媒および貧溶媒を乾燥等によって除去することにより、多孔質層は形成される。
【0034】
なお、前記基材には、後述するポリオレフィン多孔質フィルムまたは電極等を使用することができる。前記溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびN,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0035】
塗工液を基材に塗工する方法としては、ナイフ、ブレード、バー、グラビアおよびダイ等を用いた公知の塗工方法を用いることができる。溶媒の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられるが、溶媒を十分に除去することができるのであれば如何なる方法でもよい。前記貧溶媒としては、水、アルコールまたはアセトン等の低沸点の溶媒が挙げられる。
【0036】
本発明の一実施形態における多孔質層は、前記塊状領域および前記鎖状領域とは異なるフィラーを含んでもよい。当該フィラーは、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物の何れかから選ばれるものであってもよい。
【0037】
上記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0038】
上記の無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、具体的に例示すると、アルミナ、ベーマイト、シリカ、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、または炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。当該フィラーは、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0039】
〔2.非水電解液二次電池用積層セパレータ〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータ(以下では、単に「積層セパレータ」とも称する)は、ポリオレフィン多孔質フィルムと、前記ポリオレフィン多孔質フィルムの少なくとも一方の面に積層された上述の多孔質層とを含む。当該多孔質層は、積層セパレータの最外層として、電極と接する層となり得る。当該多孔質層は、ポリオレフィン多孔質フィルムの片面に積層されていてもよく、両面に積層されていてもよい。
【0040】
<ポリオレフィン多孔質フィルム>
ポリオレフィン多孔質フィルムは、積層セパレータの基材となり得る。ポリオレフィン多孔質フィルムは、その内部に連結した細孔を多数有しており、一方の面から他方の面に気体および液体を通過させることが可能である。
【0041】
ここで、「ポリオレフィン多孔質フィルム」とは、ポリオレフィン系樹脂を主成分とする多孔質フィルムである。また、「ポリオレフィン系樹脂を主成分とする」とは、多孔質フィルムに占めるポリオレフィン系樹脂の割合が、多孔質フィルムを構成する材料全体の50体積%以上、好ましくは90体積%以上であり、より好ましくは95体積%以上であることを意味する。
【0042】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂である、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、または1−ヘキセン等の単量体が(共)重合されてなる単独重合体または共重合体が挙げられる。単独重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブテン等が挙げられる。共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体等が挙げられる。このうち、過大電流が流れることをより低温で阻止(シャットダウン)することができるため、ポリエチレンがより好ましい。
【0043】
ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚は、4〜40μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚が4μm以上であれば、電池の内部短絡を十分に防止することができる。一方、ポリオレフィン多孔質フィルムの膜厚が40μm以下であれば、イオンの透過抵抗の増加を抑制するとともに、充放電サイクルを繰り返すことによる正極の劣化、並びにレート特性およびサイクル特性の低下を防ぐことができる。また、正極および負極間の距離の増加に伴う当該非水電解液二次電池自体の大型化を防ぐことができる。
【0044】
ポリオレフィン多孔質フィルムの空隙率は、20〜80体積%であることが好ましく、30〜75体積%であることがより好ましい。当該空隙率が当該範囲であれば、電解液の保持量を高めるとともに、過大電流が流れることをより低温で確実に阻止(シャットダウン)することができる。また、当該空隙率が20体積%以上であれば、ポリオレフィン多孔質フィルムの抵抗を抑えることができる。また、当該空隙率が80体積%以下であれば、ポリオレフィン多孔質フィルムの機械的強度の観点から好ましい。
【0045】
<ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法>
ポリオレフィン多孔質フィルムの製造方法としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂に孔形成剤を加えてフィルムに成形した後、孔形成剤を適当な溶媒で除去する方法が挙げられる。
【0046】
具体的には、例えば、超高分子量ポリエチレンと、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィンとを含むポリオレフィン系樹脂を用いる場合には、製造コストの観点から、以下に示す方法によってポリオレフィン多孔質フィルムを製造することが好ましい。(1)超高分子量ポリエチレン100質量部と、重量平均分子量が1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200質量部と、孔形成剤100〜400質量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程、
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を圧延することにより、圧延シートを成形する工程、
(3)工程(2)で得られた圧延シートから孔形成剤を除去する工程、
(4)工程(3)で得られたシートを延伸することにより、ポリオレフィン多孔質フィルムを得る工程。
【0047】
前記孔形成剤としては、無機充填剤および可塑剤等が挙げられる。前記無機充填剤としては、無機フィラー等が挙げられる。前記可塑剤としては、流動パラフィン等の低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0048】
<非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用積層セパレータの製造方法としては、例えば、上述の「多孔質層の製造方法」において、前記塗工液を塗布する基材として、上述のポリオレフィン多孔質フィルムを使用する方法が挙げられる。
【0049】
〔3.非水電解液二次電池用部材、非水電解液二次電池〕
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池用部材は、正極と、上述の多孔質層または積層セパレータと、負極とがこの順で配置されてなる。また、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池は、上述の多孔質層または積層セパレータを含む。前記非水電解液二次電池は、通常、負極と正極とが、上述の多孔質層または積層セパレータを介して対向した構造体を有する。前記非水電解液二次電池では、当該構造体に電解液が含浸された電池要素が、外装材内に封入されている。例えば、前記非水電解液二次電池は、リチウムイオンのドープ・脱ドープにより起電力を得るリチウムイオン二次電池である。
【0050】
<正極>
正極としては、例えば、正極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える正極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0051】
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。当該材料としては、例えば、V、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属を少なくとも1種類含んでいるリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0052】
前記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料等が挙げられる。
【0053】
前記結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−トリクロロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−フッ化ビニルの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、およびポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、並びに、スチレンブタジエンゴムが挙げられる。なお、結着剤は、増粘剤としての機能も有している。
【0054】
正極集電体としては、例えば、Al、Ni、ステンレス等の導電体が挙げられる。中でも、薄膜に加工し易く、安価であることから、Alがより好ましい。
【0055】
シート状の正極の製造方法としては、例えば、正極合剤となる正極活物質、導電剤および結着剤を正極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて正極活物質、導電剤および結着剤をペースト状にして正極合剤を得た後、当該正極合剤を正極集電体に塗工し、これを乾燥して得られたシート状の正極合剤を加圧することにより、正極集電体に固着する方法等が挙げられる。
【0056】
<負極>
負極としては、例えば、負極活物質およびバインダー樹脂を含む活物質層が集電体上に成形された構造を備える負極シートを使用することができる。なお、前記活物質層は、更に導電剤を含んでもよい。
【0057】
前記負極活物質としては、例えば、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金等が挙げられる。当該材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維および有機高分子化合物焼成体等の炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物および硫化物等のカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化するアルミニウム(Al)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ビスマス(Bi)およびシリコン(Si)などの金属、アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg
2Si、NiSi
2)、リチウム窒素化合物(Li
3-xM
xN(M:遷移金属))等が挙げられる。
【0058】
負極集電体としては、例えば、Cu、Ni、ステンレス等が挙げられる。中でも、特にリチウムイオン二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工し易いことから、Cuがより好ましい。
【0059】
シート状の負極の製造方法としては、例えば、負極合剤となる負極活物質を負極集電体上で加圧成型する方法;適当な有機溶剤を用いて負極活物質をペースト状にして負極合剤を得た後、当該負極合剤を負極集電体に塗工し、これを乾燥して得られたシート状の負極合剤を加圧することにより、負極集電体に固着する方法等が挙げられる。前記ペーストには、好ましくは前記導電剤および前記結着剤が含まれる。
【0060】
<非水電解液>
非水電解液としては、例えば、リチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
2B
10Cl
10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4等が挙げられる。前記リチウム塩のうち、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2およびLiC(CF
3SO
2)
3からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩がより好ましい。
【0061】
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドン等のカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトン等の含硫黄化合物;並びに、前記有機溶媒にフッ素基が導入されてなる含フッ素有機溶媒等が挙げられる。前記有機溶媒のうち、カーボネート類がより好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒、または、環状カーボネートとエーテル類との混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートとの混合溶媒としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒がさらに好ましい。当該混合溶媒は、作動温度範囲が広く、かつ、負極活物質として天然黒鉛または人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合においても難分解性を示す。
【0062】
<非水電解液二次電池用部材および非水電解液二次電池の製造方法>
前記非水電解液二次電池用部材の製造方法としては、例えば、前記正極と、上述の多孔質層または積層セパレータと、負極とをこの順で配置する方法が挙げられる。
【0063】
また、前記非水電解液二次電池の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、非水電解液二次電池の筐体となる容器に当該非水電解液二次電池用部材を入れる。次いで、当該容器内を非水電解液で満たした後、減圧しつつ容器を密閉する。これにより、非水電解液二次電池を製造することができる。
【0064】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
<測定および評価方法>
以下の実施例において、積層多孔質フィルム(積層セパレータ)の各物性を、以下の方法で測定および評価した。
【0067】
(1)樹脂形状の確認
実施例で得られた積層多孔質フィルムに対して、イオンミリング法によるCP(クロスセクションポリッシャ)加工を行った。これにより得られた平坦な断面を、日本電子製 電界放出形走査電子顕微鏡JSM−7600Fを用い、加速電圧0.5kVでSEM観察(反射電子像)を行った。これにより、10000倍の電子顕微鏡写真(SEM画像)を得た。なお、実施例1から得られたSEM画像を
図1に示す。
【0068】
得られたSEM画像から、樹脂が塊状領域と鎖状領域とを含むか否かの確認を行った。
【0069】
(2)寸法保持率
耐熱性の指標として、寸法保持率を求めた。まず、積層多孔質フィルムから、5cm角の正方形の試験片を切り出した。当該試験片の中央に4cm角で正方形の罫書き線を描いた。この試験片を紙2枚の間に挟み、150℃のオーブン内で1時間保持した。その後、試験片を取り出して正方形の罫書き線の寸法を測定した。得られた寸法から、寸法保持率を計算した。寸法保持率の計算方法は次の通りである。なお、幅方向(TD)とは、機械方向に直交する方向を意味する。
幅方向(TD)の加熱前の罫書き線の長さ:W1
幅方向(TD)の加熱後の罫書き線の長さ:W2
幅方向(TD)の寸法保持率(%)=W2/W1×100。
【0070】
(3)ガーレ法による透気度(秒/100cc)
積層多孔質フィルムの透気度は、JIS P 8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレ式デンソメータで測定した。
【0071】
<アラミドフィラー製造例>
(アラミド重合液)
攪拌翼、温度計、窒素流入管および粉体添加口を有する、500mLのセパラブルフラスコを使用して、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。具体的には、十分に乾燥させた前記フラスコに、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)440gを仕込み、続いて200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末30.2gを添加した。その後、100℃に昇温して塩化カルシウム粉末を完全に溶解させた。得られた溶液を室温に戻して、続いてパラフェニレンジアミン13.2gを添加した後、パラフェニレンジアミンを完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド23.47gを4分割して約10分おきに添加した。その後、150rpmで攪拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成することによって、アラミド重合液を得た。
【0072】
(アラミドフィラーを含む溶液作製方法)
得られたアラミド重合液を、40℃で1時間、300rpmで攪拌することで、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)を析出させた。これにより、アラミドフィラーを含む溶液を得た。
【0073】
〔実施例1〕
前記製造例で得られたアラミドフィラーを含む溶液を塗工液とし、ポリエチレンからなる多孔質フィルム(厚さ12μm、空隙率41%)上に、ドクターブレード法により塗布した。得られた塗布物である積層体を、50℃、相対湿度70%の空気中に1分間置いた。このとき、塗工液中に残存して溶解していた少量のポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)が析出することにより、鎖状領域が形成された。その後、得られた塗布膜をイオン交換水に浸漬させることによって、洗浄した。その後、70℃のオーブンで乾燥させることによって、本多孔質層と、ポリエチレンからなる多孔質フィルムと、が積層された積層多孔質フィルム(1)を得た。積層多孔質フィルム(1)における本多孔質層の目付は3.0g/m
2であった。積層多孔質フィルム(1)の各物性を表1に示す。
【0074】
〔実施例2〕
前記製造例で得られたアラミド重合液100質量部に対して、アラミド10質量部と、メラミン樹脂粒子(日本触媒製、品番エポスターS6)90質量部とを加え、さらに固形分濃度が20重量%となるようにNMPを加えた。得られた混合物を、自転・公転ミキサー「あわとり練太郎」(株式会社シンキー製;登録商標)を用いて、室温下、2000rpm、30秒の条件で2回攪拌しながら混合することにより、塗料を得た。前記製造例で得られたアラミドフィラーを含む溶液に代えて、前記塗料を塗工液として用いた以外は、実施例1と同様の条件で、積層多孔質フィルム(2)を得た。積層多孔質フィルム(2)における本多孔質層の目付は4.1g/m
2であった。積層多孔質フィルム(2)の各物性を表1に示す。
【0075】
〔比較例1〕
前記製造例で得られたアラミドフィラーを含む溶液に代えて、前記製造例で得られたアラミド重合液を塗工液として用いた以外は、実施例1と同様の条件で、積層多孔質フィルム(3)を得た。積層多孔質フィルム(3)における本多孔質層の目付は1.9g/m
2であった。積層多孔質フィルム(3)の各物性を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1の記載から、実施例1、2にて製造された積層多孔質フィルムは、透気度が低く、イオン透過性に優れていることが分かった。また、実施例1、2にて製造された積層多孔質フィルムは、寸法保持率が高く、優れた耐熱性が維持されていることが分かった。一方、比較例1にて製造された積層多孔質フィルムは、透気度が高かった。
【0078】
また、
図1から、多孔質層1は、塊状領域11と鎖状領域12とを有することが分かる。なお、実施例2の多孔質層も実施例1の多孔質層と同様の構造を有していた。一方、比較例1の多孔質層はこのような構造を有していなかった。