【文献】
桑原 雅明 MASAAKI KUWABARA,無線電波測位手法における障害物を考慮した電波マップの構築 WiFi-Based Radio Map For Location Sensing With Guessing Barricades,マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム論文集 情報処理学会シンポジウムシリーズ Vol.2008 No.1 [CD−ROM] IPSJ Symposium Series,日本,社団法人情報処理学会 Information Processing Society of Japan,2008年 7月,第2008巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パラメタ更新部は、前記減衰パラメタについて、算出した計算値と前記記憶部に保持された設定値とを所定の割合で加算し、前記記憶部に保持された設定値を当該加算により得られた値に置き換えることで、前記減衰パラメタの設定値を更新する、
請求項2に記載の位置推定装置。
前記パラメタ更新部は、前記各無線基地局の前記各方位エリアにおいて、前記減衰パラメタの計算値を算出した際に得られた変曲点の位置に基づいて、前記1又は複数のブレークポイントそれぞれの位置を更新する、
請求項2又は3に記載の位置推定装置。
前記位置推定部は、前記移動端末について、当該移動端末から送信される無線信号が人体により遮蔽される角度範囲を仮定し、当該仮定した角度範囲に含まれる方向に存在する無線基地局についての、前記減衰パラメタを用いた無線信号の減衰に関する演算には、人体遮蔽による減衰の度合いを示す所定の減衰量を更に適用して、前記移動端末の位置を推定する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の位置推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、本実施形態において登場するデータを自然言語により説明しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメタ、マシン語等で指定される。
【0035】
§1 適用場面
まず、
図1を用いて、本発明が適用される場面について説明する。
図1は、本実施形態に係る位置推定装置1が用いられる場面の一例を示している。本実施形態では、位置推定の対象となる対象者は、移動端末2を所持して、屋外又は屋内等を移動している。
【0036】
移動端末2は、ビーコン信号等の無線信号を送信し、当該無線信号を受信可能な範囲に存在する複数の無線基地局3は、当該移動端末2から送信される当該無線信号を受信する。このとき、各無線基地局3は、当該移動端末2からの無線信号を受信したときの受信電力を測定する。
【0037】
本実施形態に係る位置推定装置1は、この移動端末2が送信した無線信号を複数の無線基地局3それぞれで受信したときの受信電力に基づいて、当該移動端末2の位置を推定する。そのため、本実施形態に係る位置推定装置1は、対象者の位置を特定する場面で広く利用可能である。
【0038】
ここで、
図2及び
図3を用いて、移動端末2及び無線基地局3の間の距離と受信電力との関係について説明する。
図2は、ある一方向において無線信号の減衰の仕方が変化する場面を模式的に例示している。また、
図3は、
図2の場面における移動端末2及び無線基地局3の間の距離と受信電力との関係を模式的に例示するグラフである。
【0039】
各無線基地局3は、例えば、建物の壁面、屋上等に設置されている。そうすると、移動端末2から送信される無線信号は、建物等に遮蔽されることなく無線基地局3に直接届く場合と、建物等に遮蔽されて無線基地局3に届く場合とがあり得る。ここでは、無線信号が遮蔽されることなく無線基地局3に直接届く通信を見通し(LOS:Line Of Sight)通信と称し、無線信号が建物等に遮蔽されて無線基地局3に届く通信を見通し外(NLOS:Non Line Of Sight)通信と称する。
【0040】
例えば、
図2では、距離エリアA1及びA2に存在する対象者の移動端末2と無線基地局3との間の通信は見通し通信である。この見通し通信では、移動端末2と無線基地局3との間の距離が大きくなると、反射波等の影響によって、無線信号の減衰が大きくなる。そのため、
図2で例示されるように、本実施形態では、見通し通信における無線信号の減衰は、近距離のエリア(距離エリアA1)と遠距離のエリア(距離エリアA2)とに分けて、取り扱われる。
【0041】
また、例えば、
図2では、距離エリアA3及びA4に存在する対象者の移動端末2と無線基地局3との間の通信は見通し外通信である。この見通し外通信では、移動端末2から送信される無線信号は、建物等により遮蔽される位置で大きく減衰する。例えば、
図2では、建物81及び82それぞれの位置(d
th,2、d
th,3)で、移動端末2から送信される無線信号は大きく減衰する。
【0042】
この見通し通信及び見通し外通信において、移動端末2が送信する無線信号の送信電力P
TXと各無線基地局3での受信電力P
RXとの関係は、一般的に、以下の数1に示す式で与えることができる。
【0043】
【数1】
なお、αは、電力係数であり、送信アンテナ利得、受信アンテナ利得、遮蔽の影響等により定まる値である。dは、移動端末2と無線基地局3との間の距離である。nは、距離減衰係数(Path Loss Exponent)であり、距離dの何乗に反比例して受信電力が減衰するかを規定する値である。
【0044】
ここで、数1の関係式において、電力係数α及び距離減衰係数nは、無線信号の減衰の度合い、換言すると、各無線基地局3までの距離dと無線信号の減衰量との関係、を規定するパラメタである。すなわち、電力係数α及び距離減衰係数nによれば、各無線基地局3までの距離d及び無線信号の送信電力P
TXに応じて、各無線基地局3における無線信号の受信電力P
RXを算出することができる。そのため、電力係数α及び距離減衰係数nの組は、本発明の「減衰パラメタ」に相当する。以下では、電力係数α及び距離減衰係数nの組を、減衰パラメタと称する。なお、送信電力P
TXと受信電力P
RXとの関係を与える上記数1の式は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。これに応じて、減衰パラメタも実施の形態に応じて適宜変更されてよい。
【0045】
減衰パラメタの値は、見通し通信及び見通し外通信それぞれで相違する。加えて、見通し通信については、ブレークポイントまでの距離を超えた通信か否かによって、減衰パラメタの値は相違する。また、見通し外通信については、遮蔽の影響を受ける回数に応じて、減衰パラメタの値は相違する。
【0046】
そこで、本実施形態では、これらを統合的に扱うため、
図2に例示されるように、各無線基地局3からの距離dに応じて距離エリアA
kを設定し、距離エリアA
k毎に減衰パラメタの値を設定する。
【0047】
具体的に、
図2の例では、無線基地局3からの距離dがd
th,k-1〜d
th,kまでの範囲を距離エリアA
k(k=1〜4)とし、距離エリアA
k(k=1〜4)毎に減衰パラメタ(α
k、n
k)が設定される(d
th,0=0、d
th,4=無限遠)。距離エリアA
kの範囲を定めるd
th,kの位置は、本発明の「ブレークポイントの位置」に相当する。
【0048】
図3に例示されるように、減衰パラメタ(α
k、n
k)の値が設定されると、位置推定装置1は、無線基地局3における受信電力P
RXから距離dを算出することができ、また、距離dから受信電力P
RXを算出することもできる。したがって、各距離エリアA
kの減衰パラメタ(α
k、n
k)が適切に設定されることで、位置推定装置1は、見通し通信及び見通し外通信の別、見通し通信における減衰の変化、見通し外通信における遮蔽回数等の複数の遮蔽条件に対応することができる。
【0049】
なお、
図3のグラフは、両対数グラフである。
図3では、距離d
th,2及びd
th,3に存在する建物81及び82の遮蔽の影響により、受信電力P
RXの値が、(d=d
th,2、d
th,3)の位置で不連続となるほどに低下している。ここで、
図3では、受信電力P
RXの値が距離dに対して単調減少となるように設定されている。しかしながら、このような例に限られなくてもよく、受信電力P
RXと距離dとの関係は実施の形態に応じて適宜設定されてよい。
【0050】
次に、
図4を用いて、減衰パラメタの設定を高次元(実空間)に拡張する。
図4は、本実施形態において、無線基地局3毎に設定される、方位エリアθ
jと距離エリアA
k(θ
j)との関係を模式的に例示する。上記
図2及び
図3の例では、一方向における無線信号の減衰について説明した。実空間では、上記のような無線信号の減衰が、移動端末2からの無線信号を各無線基地局3が受信する方向毎に相違して生じ得る。すなわち、無線基地局3からみて移動端末2が存在する方向の方位角度(以下、単に“角度”とも記載する)をθとすると、各無線基地局3(BS
i)では、角度θによって遮蔽条件が異なり得る。
【0051】
例えば、
図4の例では、無線基地局3は建物84の壁面に設定されている。そのため、建物84の存在する角度θ=180°〜360°の領域では、移動端末2と無線基地局3との間の通信は、建物84内の一部において見通し通信になり得るものの、殆どの領域において見通し外通信になる。
【0052】
また、例えば、建物83の存在する角度θ=135°〜180°の領域では、無線基地局3(BS
i)と建物83との間の領域(距離エリアA
1(θ
4)、A
2(θ
4))においては、移動端末2と無線基地局3との間の通信は見通し通信になる。一方、建物83よりも遠方の領域(距離エリアA
3(θ
4))においては、建物83の遮蔽の影響によって、移動端末2と無線基地局3との間の通信は見通し外通信になる。
【0053】
更に、例えば、角度θ=0°〜135°の領域及び角度θ=135°〜180°の建物83までの領域では、見通し通信が行われるが、上記反射波等の影響によって、無線基地局3(BS
i)から近距離の領域(距離エリアA
1(θ
1)、A
1(θ
2)、A
1(θ
3))と遠距離の領域(距離エリアA
2(θ
1)、A
2(θ
2)、A
2(θ
3))とで、無線信号の減衰の仕方が変化する。このように、各無線基地局3(BS
i)では、角度θによって遮蔽条件が異なり得る。
【0054】
そこで、本実施形態では、無線基地局3(BS
i)毎に、各無線基地局3(BS
i)を含む地図上の水平面エリアを、当該各無線基地局3(BS
i)を中心として周方向に複数の方位エリアθ
jに分割する。位置推定装置1は、各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
j毎に、当該各方位エリアθ
jを半径方向の1又は複数の距離エリアA
k(θ
j)に分割するための1又は複数のブレークポイントそれぞれの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))の情報(後述するブレークポイント情報)を保持する。また、位置推定装置1は、各無線基地局3(BS
i)における各方位エリアθ
jの距離エリアA
k(θ
j)毎に、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を保持する。
【0055】
この状態で、位置推定装置1は、各無線基地局3(BS
i)から、移動端末2からの無線信号を受信したときにおける受信電力の測定値を取得する。そして、位置推定装置1は、各無線基地局3(BS
i)の各距離エリアA
k(θ
j)に設定された減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))それぞれを用いて算出可能な、無線信号の送信電力に対する各無線基地局3(BS
i)における受信電力の示す減衰傾向が、各無線基地局3(BS
i)から取得した受信電力の測定値それぞれに表れる減衰傾向に適合する位置を地図上で探索することで、移動端末2の位置を推定する。
【0056】
このように、本実施形態では、各無線基地局3(BS
i)について各方位に分けて各距離エリアA
k(θ
j)が設定され、更に、距離エリアA
k(θ
j)毎に減衰パラメタ(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))が設定される。各減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))は、各距離エリアA
k(θ
j)に応じて適宜与えることができ、これによって、位置推定装置1は、各距離エリアA
k(θ
j)における無線信号の減衰を適切に扱うことができる。
【0057】
すなわち、本実施形態によれば、位置推定装置1は、各無線基地局3(BS
i)の各距離エリアA
k(θ
j)に設定された各減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))に基づいて、各無線基地局3(BS
i)が無線信号を受信する各方向及び距離に応じて無線信号の減衰の仕方を個別に規定することができる。したがって、本実施形態によれば、受信方向及び距離に応じて無線信号の減衰の仕方を個別に規定することができるため、無線信号の送信を行う移動端末の位置推定の精度を高めることができる。
【0058】
なお、
図4の例では、無線基地局3(BS
i)の周囲を8つの方位エリアθ
j(j=1〜8)に分割している。しかしながら、各無線基地局3(BS
i)に設定される方位エリアθ
jの数は、8つに限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてもよい。例えば、建物の通路などで利用する場合には、方位エリアθ
jの数は、2つであってもよい。また、方位エリアθ
jの数は、無線基地局3(BS
i)毎に相違してもよい。ここで、iは、設置される無線基地局3の番号を示す。jは、設定される方位エリアの番号を示し、jの範囲すなわち方位エリア数は無線基地局3(BS
i)毎に相違してもよい。kは、各方位エリアθ
jに設定される距離エリアの番号を示し、kの範囲すなわち距離エリア数は方位エリアθ
j毎に相違してよい。
【0059】
§2 構成例
[ハードウェア構成例]
次に、
図5〜
図8を用いて、各装置のハードウェア構成を説明する。
図5は、本実施形態に係る位置推定装置1のハードウェア構成を例示する。
図6は、本実施形態に係る位置推定装置1の保持する基地局情報121のデータ構成を例示する。
図7は、本実施形態に係る移動端末2のハードウェア構成を例示する。
図8は、本実施形態に係る無線基地局3のハードウェア構成を例示する。
【0060】
<位置推定装置>
まず、
図5及び
図6を用いて、位置推定装置1について説明する。
図5に例示されるように、位置推定装置1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及び、ROM(Read Only Memory)等を含む制御部11、制御部11で実行されるプログラム5、後述する基地局情報121等を記憶する記憶部12、ネットワークを介した通信を行うための通信インタフェース13、マウス、キーボード等の入力を行うための入力装置14、ディスプレイ、スピーカ等の出力を行うための出力装置15、及び記憶媒体6に記憶されたプログラムを読み込むためのドライブ16が電気的に接続されたコンピュータである。ただし、
図5では、通信インタフェースは、「通信I/F」と記載されている。
【0061】
なお、位置推定装置1の具体的なハードウェア構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換、及び追加が可能である。例えば、制御部11は、複数のプロセッサを含んでもよい。また、位置推定装置1は、例えば、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のサーバ装置等が用いられてもよい。更に、位置推定装置1は、1又は複数台のコンピュータにより実装されてもよい。
【0062】
本実施形態では、位置推定装置1の記憶部12には、各無線基地局3の設定を示す基地局情報121が記憶されている。基地局情報121は、無線基地局3(BS
i)毎に、各方位エリアθ
j内の距離エリアA
k(θ
j)の設定、及び距離エリアA
k(θ
j)内の減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を保持するために利用される。
【0063】
図6に例示されるように、本実施形態では、無線基地局3(BS
i)毎に1件の基地局情報121が保持される。各件の基地局情報121には、対象の無線基地局3(BS
i)を識別するための基地局ID(BS
i)、対象の無線基地局3(BS
i)の地図上での位置を特定するための位置情報(座標情報)、各方位エリアθ
jを1又は複数の距離エリアA
k(θ
j)に分割する1又は複数のブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))を示すブレークポイント情報、及び距離エリアA
k(θ
j)毎に設定される減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))が含まれる。
【0064】
無線基地局3(BS
i)の位置情報は、当該無線基地局3(BS
i)を設置した際にGPS(Global Positioning System)測定器等で測定した測定値であってもよいし、地図上から適宜読み取った座標値であってもよい。また、無線基地局3(BS
i)がGPSセンサを備える場合には、当該位置情報は、無線基地局3(BS
i)から送信される情報に含まれていてもよい。
【0065】
また、動作初期において、ブレークポイント情報の示す各ブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))及び減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))には、測定器等を用いて適宜実測した実測値、計算上の理論値等が設定されていてもよい。なお、本実施形態では、各ブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))は、各無線基地局3(BS
i)と各ブレークポイントとの間の距離で表される。ただし、各ブレークポイントの位置の表現方法は、このような例に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0066】
また、本実施形態では、記憶部12には、プログラム5が記憶されている。プログラム5は、位置推定装置1に後述する移動端末2の位置推定に関する各処理を実行させるためのプログラムであり、本発明の「位置推定プログラム」に相当する。このプログラム5は、記憶媒体6に記録されてもよい。
【0067】
記憶媒体6は、コンピュータその他装置、機械等が記録されたプログラム等の情報を読み取り可能なように、当該プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。記憶媒体6は、本発明の「記憶媒体」に相当する。
【0068】
なお、
図5は、記憶媒体6の一例として、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)等のディスク型の記憶媒体を例示している。しかしながら、記憶媒体6の種類は、ディスク型に限定される訳ではなく、ディスク型以外であってもよい。ディスク型以外の記憶媒体として、例えば、フラッシュメモリ等の半導体メモリを挙げることができる。
【0069】
<移動端末>
次に、
図7を用いて、移動端末2について説明する。
図7に例示されるように、移動端末2は、CPU、RAM、ROM等を含む制御部21、制御部21で実行するプログラム等を記憶する記憶部22、自装置の加速度を測定するための加速度センサ23、及び無線通信を行うための通信部24が電気的に接続された装置である。通信部24は、例えば、送信回路、アンテナ等で構成され、ビーコン信号等の無線信号を定期又は不定期に送信する。この通信部24は、専らデータの送信のみに利用されてもよい。
【0070】
なお、移動端末2の具体的なハードウェア構成に関して、上記位置推定装置1と同様に、実施の形態に応じて適宜構成要素の省略、置換、及び追加が可能である。例えば、加速度を測定しない場合には、加速度センサ23は省略されてもよい。この移動端末2には、例えば、提供されるサービス専用に設計された端末の他、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等が用いられてもよい。
【0071】
<無線基地局>
次に、
図8を用いて、無線基地局3について説明する。
図8に例示されるように、無線基地局3は、CPU、RAM、ROM等を含む制御部31、制御部31で実行するプログラム等を記憶する記憶部32、移動端末2等から受信した信号の受信電力を測定する受信電力測定部33、及び移動端末2からの無線信号を受信するための通信部34が電気的に接続された基地局装置である。
【0072】
受信電力測定部33は、通信部34が受信する無線信号の受信電力、例えば、受信信号強度(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を測定可能なように適宜構成される。また、通信部34は、例えば、受信回路、アンテナ等で構成され、移動端末2から送信された無線信号(データ)を受信する。更に、通信部34は、インターネット等のネットワークに有線で接続されてよく、移動端末2から受信したデータを有線又は無線で位置推定装置1に向けて送信する。
【0073】
なお、無線基地局3の具体的なハードウェア構成に関して、上記位置推定装置1及び移動端末2と同様に、実施形態に応じて適宜構成要素の省略、置換、及び追加が可能である。この無線基地局3には、例えば、提供されるサービス専用に設計された基地局装置の他、汎用の基地局装置等が利用されてもよい。
【0074】
[機能構成例]
次に、
図9を用いて、位置推定装置1の機能構成について説明する。
図9は、本実施形態に係る位置推定装置1の機能構成を例示する。本実施形態では、位置推定装置1の制御部11は、記憶部12に記憶されたプログラム5をRAMに展開する。そして、制御部11は、RAMに展開されたプログラム5をCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。これにより、位置推定装置1は、受信電力取得部111、位置推定部112、及びパラメタ更新部113を備えるコンピュータとして機能する。
【0075】
受信電力取得部111は、各無線基地局3(BS
i)から、移動端末2からの無線信号を受信したときにおける受信電力の測定値を取得する。そして、位置推定部112は、各無線基地局3(BS
i)の基地局情報121を参照して、各無線基地局3(BS
i)の各距離エリアA
k(θ
j)に設定された減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))それぞれを用いて算出可能な、無線信号の送信電力に対する各無線基地局3(BS
i)における受信電力の示す減衰傾向が、各無線基地局3(BS
i)から取得した受信電力の測定値それぞれに表れる減衰傾向に適合する位置を地図上で探索することで、移動端末2の位置を推定する。当該推定の方法については後述する。なお、地図は、公知の地図情報により与えられてよい。当該公知の地図情報、及び送信電力P
TXの値は、記憶部12に記憶されていてもよいし、ネットワーク等を介して他の情報処理装置から取得されてもよい。また、送信電力P
TXの値は、移動端末2が送信する無線信号に格納されていてもよい。
【0076】
また、パラメタ更新部113は、各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
j毎に、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))及びブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))を更新する。減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))及びブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))を更新する方法については後述する。
【0077】
なお、本実施形態では、これらの機能がいずれも汎用のCPUによって実現される例について説明している。しかしながら、これらの機能の一部又は全部が、1又は複数の専用のプロセッサにより実現されてもよい。また、位置推定装置1の機能構成に関して、実施形態に応じて、適宜、機能の省略、置換、及び追加が行われてもよい。例えば、減衰パラメタ及びブレークポイントそれぞれの位置の更新を行わない場合には、パラメタ更新部113は省略されてもよい。各機能に関しては後述する動作例で詳細に説明する。
【0078】
§3 動作例
次に、
図10を用いて、位置推定装置1の動作例を説明する。
図10は、本実施形態に係る位置推定装置1による移動端末2の位置推定に関する処理手順を例示する。なお、以下で説明する位置推定に関する処理手順は、本発明の「位置推定方法」に相当する。ただし、以下で説明する位置推定に関する処理手順は一例に過ぎず、各ステップの処理は可能な限り変更されてよい。また、以下で説明する処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が可能である。例えば、減衰パラメタ等の更新を行わない場合には、ステップS103及びS104の処理は省略されてもよい。
【0079】
<ステップS101>
ステップS101では、制御部11は、受信電力取得部111として機能し、各無線基地局3(BS
i)から移動端末2からの無線信号を受信したときにおける受信電力(例えば、受信信号強度)の測定値を取得する。
【0080】
移動端末2が無線信号を送信してから位置推定装置1が受信電力の測定値を取得するまでの過程は、例えば、以下のとおりである。すなわち、移動端末2の制御部21は、通信部24を制御して、ビーコン信号等の無線信号を定期又は不定期に送信する。当該無線信号が受信可能な範囲に設置されている複数の無線基地局3(BS
i)はそれぞれ、移動端末2からの無線信号を受信すると、制御部31により受信電力測定部33を制御し、当該無線信号を受信したときの受信電力を測定する。そして、無線基地局3(BS
i)の制御部31は、通信部34を制御して、測定した受信電力の測定値をネットワーク等を介して位置推定装置1に送信する。位置推定装置1は、この各無線基地局3(BS
i)から送信されてくるデータを受信することで、各無線基地局3(BS
i)における受信電力の測定値を取得することができる。
【0081】
ここで、本動作例では、説明の便宜のため、移動端末2が送信した無線信号をN台の無線基地局3(BS
i)(i=1〜N)が受信したとし、各無線基地局3(BS
i)が無線信号を受信したときにおける受信電力の測定値をP
RXme(BS
i)で表現する。各無線基地局3(BS
i)から受信電力の測定値P
RXme(BS
i)を取得すると、制御部11は、次のステップS102に処理を進める。
【0082】
なお、本ステップS101では、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)から受信電力の測定値を複数回取得し、その平均値を測定値P
RXme(BS
i)として取り扱ってもよい。また、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)から一時に取得した値を測定値P
RXme(BS
i)として取り扱ってもよい。
【0083】
<ステップS102>
次のステップS102では、制御部11は、位置推定部112として機能し、各無線基地局3(BS
i)の基地局情報121を参照して、各無線基地局3(BS
i)の各距離エリアA
k(θ
j)に設定された減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))それぞれを用いて算出可能な、無線信号の送信電力に対する各無線基地局3(BS
i)における受信電力の示す減衰傾向が、各無線基地局3(BS
i)から取得した受信電力の測定値P
RXme(BS
i)それぞれに表れる減衰傾向に適合する位置を地図上で探索することで、移動端末2の位置を推定する。
【0084】
上記数1の関係式、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))、送信電力P
TX、各無線基地局3(BS
i)における受信電力の測定値P
RXme(BS
i)を適宜用いることで、移動端末2の位置を推定することが可能である。そのため、移動端末2の位置を推定する方法は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。本実施形態では、制御部11は、例えば、後述する
図11に例示されるように移動端末2の位置を表現し、尤度及び最小二乗法のいずれかを用いた方法によって、移動端末2の位置を推定することができる。
【0085】
(移動端末の位置表現)
まず、
図11を用いて、位置推定を行う際の移動端末2の位置表現について説明する。
図11は、本実施形態に係る位置推定装置1における、移動端末2の位置を推定する際の地図の取扱いを模式的に例示する。
【0086】
制御部11は、本ステップS102の処理を行う際には、少なくとも各無線基地局3の配置されている周辺の地図情報(不図示)を保持する。地図情報は、公知のデータ形式で表現されていてよい。また、制御部11は、当該地図情報を、記憶部12から取得してもよいし、ネットワーク等を介して他の情報処理装置から取得してもよい。
【0087】
図11に例示されるように、移動端末2の位置は、座標u(u
x,u
y,u
z)で未知である。制御部11は、地図上の任意の位置(座標)から、上記数1の関係式、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))、送信電力P
TX、及び各無線基地局3(BS
i)における受信電力の測定値P
RXme(BS
i)の関係を数1の数式に基づいて総合的に評価し、適合する位置(座標)を探索することで、移動端末2の位置を推定することができる。ただし、当該探索の対象を地図上の任意の座標に拡げると、制御部11の探索範囲が莫大になってしまう。
【0088】
そこで、本実施形態では、制御部11は、地図情報により示される地
図7を水平面(XY平面)で網目状(メッシュ状)に区切ることで、当該地図上に複数の交点71(t)を得る。そして、制御部11は、各交点71の座標t(t
x,t
y,t
z)に移動端末2が存在すると仮定して、以下の2つの方法のうちのいずれかにより、移動端末2が各交点71に存在することの確からしさが最も高い交点71を特定することで、移動端末2の位置を推定する。
【0089】
すなわち、制御部11は、無線基地局3(BS
i)毎に、各交点71の属する距離エリアA
k(θ
j)を特定する。そして、制御部11は、以下の2つの方法のうちのいずれかにより、地
図7上の複数の交点71のうちから、無線基地局3(BS
i)毎に特定した各交点71の属する距離エリアA
k(θ
j)に設定された減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))それぞれを用いて算出可能な、無線信号の送信電力P
TXに対する各無線基地局3(BS
i)における受信電力の示す減衰傾向が、各無線基地局3(BS
i)から取得した受信電力の測定値P
RXme(BS
i)に表れる減衰傾向に最も適合する交点71を特定する。そして、制御部11は、特定した交点71の位置を移動端末2の位置として推定する。
【0090】
なお、
図11では、3台の無線基地局3(BS
i)(i=1〜3)が移動端末2からの無線信号を受信した場面を例示している。しかしながら、移動端末2からの無線信号を受信する無線基地局3(BS
i)の数は、3台に限定される訳ではなく、実施の形態に応じて適宜決定される。
【0091】
また、各無線基地局3(BS
i)の座標BS
i(b
i,x,b
i,y,b
i,z)は、上記各無線基地局3(BS
i)の基地局情報121に含まれる位置情報により特定される。更に、交点71のZ座標t
zは、地図情報により示される交点71の標高の値であってもよいし、地上高の値であってもよいし、標高に地上高を加えた値であってもよい。この場合、制御部11は、Z座標t
zに複数の値を採用することで、複数の高さ(標高、地上高、または標高及び地上高の和)を想定してもよい。また、想定する複数の高さごとに別々の減衰パラメタの設定値を用いてもよい。例えば、ビル内等の屋内における位置推定において、交点tが基地局と同じフロアにある(同じ地上高の)場合と異なるフロアにある(異なる地上高の)場合とで、別々の減衰パラメタを用いてもよい。
【0092】
(1)尤度を用いた位置推定
次に、上記位置表現を利用した上で、移動端末2が交点71に存在することの確からしさを尤度に基づいて算出し、移動端末2の位置を推定する方法について説明する。
【0093】
この方法では、まず、制御部11は、以下の数2の計算によって、各無線基地局3(BS
i)と各交点71(t)との間の距離d
i[m]を算出する。また、制御部11は、以下の数3の計算によって、各無線基地局3(BS
i)からみた各交点71(t)の角度θ(BS
i)を算出する。
【0095】
続いて、制御部11は、無線基地局3(BS
i)毎に、基地局情報121に含まれるブレークポイント情報、距離d
i、及び角度θ(BS
i)に基づいて、各交点71の属する距離エリアA
k(θ
j)を特定する。そして、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)の基地局情報121を参照し、特定した各交点71の属する距離エリアA
k(θ
j)に設定されている減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を無線基地局3(BS
i)毎に取得する。各値のjはθ(BS
i)が属する方位エリアの番号であり、各値のkは、距離d
iにより特定される距離エリアの番号である。
【0096】
移動端末2が各交点71に存在すると仮定した場合に、各無線基地局3(BS
i)における受信電力の平均値P
RXave(BS
i)[W]は、上記数1の計算式に、送信電力の値P
TX、距離d
i、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を代入することで、推測可能である。そこで、制御部11は、以下の数4の計算式に従って、送信電力の値P
TX、距離d
i、無線基地局3(BS
i)毎に特定した各交点71の属する距離エリアA
k(θ
j)に設定されている減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))それぞれを用いて、各交点71に移動端末2が存在すると仮定した場合の各無線基地局3(BS
i)における受信電力の計算値P
RXca(t、BS
i)をそれぞれ算出する。
【0098】
そして、制御部11は、算出した各無線基地局3(BS
i)における受信電力の計算値P
RXca(t、BS
i)それぞれと、各無線基地局3(BS
i)から取得した受信電力の測定値P
RXme(BS
i)とに基づいて、各交点71に移動端末2が存在することの確からしさを示す尤度(評価値)を算出する。当該各交点71の尤度を算出する方法は、実施の形態に応じて適宜選択可能である。
【0099】
例えば、一般的なマルチパス電波伝搬環境を想定する場合には、受信電力は指数分布で変動する。具体的には、受信電力の測定値P
RXme(BS
i)として、上記ステップS101で、各無線基地局3(BS
i)で測定された一時の値を利用するような場合がこのようなケースに当てはまる。このような場合、各無線基地局3(BS
i)における瞬時受信電力がP
RX(BS
i)[W]となる確率は、平均値P
RXave(BS
i)[W]の指数分布の確率密度関数に比例する。そのため、この場合には、制御部11は、移動端末2が交点71(t)に存在することの確からしさを示す尤度f(t)を、以下の数5に示す計算式によって、算出することができる。
【0101】
また、例えば、マルチパス電波伝搬環境を想定しない場合、又は短時間の電力平均を利用する場合には、各無線基地局3(BS
i)における瞬時受信電力(又は、短時間平均受信電力)がP
RX(BS
i)[W]となる確率は、平均値P
RXave(BS
i)[W]の正規分布に従うと仮定できる。具体的には、受信電力の測定値P
RXme(BS
i)として、上記ステップS101で、各無線基地局3(BS
i)で複数回測定した値の平均値又は中央値を利用するような場合がこのようなケースに当てはまる。このような場合には、制御部11は、上記仮定から、移動端末2が交点71(t)に存在することの確からしさを示す尤度f(t)を、以下の数6に示す計算式によって、算出することができる。
【0102】
【数6】
なお、σ
2は、推定分散値である。σ
2は、所定の一定値(固定の値)であってもよい。また、複数回の測定値P
RXme(BS
i)が取得できる場合には、制御部11は、測定値P
RXme(BS
i)の不偏分散を算出し、算出した不偏分散の値をσ
2として利用してもよい。この計算は、標本集団(複数回の測定値)から母集団(真の受信電力分布)の分散を推定する計算に相当する。
【0103】
制御部11は、上記数5及び数6のいずれかの計算に基づいて、移動端末2が交点71(t)に存在することの確からしさを示す尤度f(t)を算出することができる。なお、上記数5及び数6それぞれで算出される尤度f(t)の値は、コンピュータ上で扱うデータ型でその値を表現できないほど小さくなってしまう可能性がある。そこで、制御部11は、上記数5及び数6それぞれの代わりに、以下の数7及び数8で示される対数尤度LLF(t)を各交点71(t)の尤度として用いてもよい。
【0105】
上記計算に基づいて、制御部11は、地図上で探索対象とする領域に含まれる複数の交点71それぞれの尤度(f(t)又はLLF(t))を算出する。探索対象の領域は、移動端末2からの無線信号を受信した無線基地局3(BS
i)の位置から適宜決定されてよい。そして、制御部11は、当該複数の交点71のうちから最も尤度の高い交点71を特定し、特定した尤度の最も高い交点71を移動端末2の存在位置として推定する。または、制御部11は、尤度の値の高い上位複数の交点71を特定し、移動端末2は当該複数の交点71のいずれかに存在するとして、移動端末2の位置を推定する。以上のようにして、制御部11は、尤度に基づいて移動端末2の位置を推定することができる。
【0106】
なお、尤度の最も大きい交点71を特定する方法は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、尤度の最も大きい交点71を特定するのに、LMS(Least Mean Square)アルゴリズムが用いられてもよい。また、本実施形態では、地図をメッシュに区切ることで、計算量を低減している。しかしながら、メッシュの間隔が大きい(粗い)場合には、移動端末2の位置として推定した座標t(t
x,t
y,t
z)と本来の座標u(u
x,u
y,u
z)との間のずれが大きくなってしまう可能性がある。そこで、制御部11は、粗い精度のメッシュ(例えば、10m間隔)で尤度の高い複数の領域を探索領域として特定し、探索領域として特定した複数の領域それぞれで細かいメッシュ(例えば、1m間隔)で区切って、移動端末2の位置を推定してもよい。このようにメッシュの間隔を段階的に小さくすることで、移動端末2の位置を推定する処理の計算量を低減しつつ、本来の座標u(u
x,u
y,u
z)から誤差の少ない位置を移動端末2の存在する位置として推定することが可能になる。
【0107】
(2)最小二乗法を用いた位置推定
次に、移動端末2が交点71に存在することの確からしさを最小二乗法に基づいて算出し、移動端末2の位置を推定する方法について説明する。
【0108】
この方法では、まず、制御部11は、上記数2の計算により、各無線基地局3(BS
i)と各交点71(t)との間の距離d
i[m]を算出する。この距離d
i[m]は、本発明の「第1距離」に相当する。また、制御部11は、上記数3の計算により、数3の計算によって、各無線基地局3(BS
i)からみた各交点71(t)の角度θ(BS
i)を算出する。
【0109】
続いて、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)の基地局情報121を参照し、特定した各交点71の角度θ(BS
i)の方向に存在する各距離エリアA
k(θ
j)に設定されている減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を無線基地局3(BS
i)毎に取得する。各値のjは、θ(BS
i)が属する方位エリアの番号であり、各値のkは、距離d
iにより特定される距離エリアの番号である。
【0110】
次に、制御部11は、以下の数9の計算式に従って、送信電力の値P
TX、無線基地局3(BS
i)毎に特定した各交点71の属する距離エリアA
k(θ
j)に設定されている減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))、及び上記ステップS101で各無線基地局3(BS
i)から取得した受信電力の測定値P
RXme(BS
i)それぞれを用いて、各交点71(t)の属する距離エリアA
k(θ
j)に移動端末2が存在すると仮定した場合の各無線基地局3(BS
i)と移動端末2との間の距離d
k(BS
i,θ
j)を算出する。
【0111】
【数9】
なお、上記数9の式は、上記数4の式をdについて解いた式である。ここで、無線基地局3(BS
i)における受信電力の測定値P
RXme(BS
i)は、一時の値でもよいし、複数の測定値の平均値でもよい。
【0112】
制御部11は、各距離エリアA
k(θ
j)に設定された減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を利用して算出した距離d
k(BS
i,θ
j)について、当該各距離エリアA
k(θ
j)の範囲に含まれていないものを除外する。上記
図3で例示したように、受信電力P
RXが距離dに対して単調減少となるように減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))が設定されている場合には、距離d
k(BS
i,θ
j)は一意に算出される。制御部11は、このように一意に算出される距離d
k(BS
i,θ
j)を推定距離d(BS
i,θ
j)として採用する。当該d(BS
i,θ
j)は、本発明の「第2距離」に相当する。
【0113】
一方、受信電力P
RXが距離dに対して単調減少となるように減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))が設定されていない場合には、複数の距離d
k(BS
i,θ
j)が推定距離d(BS
i,θ
j)の候補として残存し得る。この場合、制御部11は、複数の距離d
k(BS
i,θ
j)の平均値、最小値、最大値、中央値等を推定距離d(BS
i,θ
j)として採用してよい。
【0114】
そして、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)に対して算出された距離d
iそれぞれと距離d(BS
i,θ
j)それぞれとの差分の総和を交点71(t)毎に算出する。例えば、制御部11は、以下の数10の計算に従って、当該差分の総和を平均二乗誤差の総和として算出することができる。また、制御部11は、以下の数11に従って、当該差分の総和を正規化平均二乗誤差の総和として算出することができる。
【0115】
【数10】
【数11】
なお、Dの値として、一般には、無線基地局3における受信電力P
RXme(BS
i)が測定値の一時の値の場合は、距離d
iの2乗の値、すなわち、D=d
i2の値を与えて正規化してもよい。また、受信電力P
RXme(BS
i)が複数の測定値の平均値の場合は、Dの値として、当該測定値の不偏分散の値を与えて正規化してもよい。
【0116】
制御部11は、地図上で探索対象とする領域に含まれる複数の交点71それぞれについて、上記数10及び数11のいずれかの計算に基づいて、距離d
iそれぞれと距離d(BS
i,θ
j)それぞれとの差分の総和を算出することができる。そして、制御部11は、当該複数の交点71のうち、算出された距離d
iと距離d(BS
i,θ
j)との差分の総和が最も小さい交点71を特定し、特定した距離d
iと距離d(BS
i,θ
j)との差分の総和が最も小さい交点71を移動端末2の存在位置として推定する。または、制御部11は、距離d
iと距離d(BS
i,θ
j)との差分の総和が小さい下位複数の交点71を特定し、移動端末2は当該複数の交点71のいずれかに存在するとして、移動端末2の位置を推定する。なお、探索対象の領域を決定する処理、及びメッシュの間隔を段階的に小さくしていく処理は、上記尤度を用いた位置推定方法と同様に、本最小二乗法を用いた位置推定方法でも利用することができる。
【0117】
(小括)
以上のように、制御部11は、尤度又は最小二乗法に基づいて、無線信号の減衰傾向を特定し、移動端末2の位置を推定することができる。ただし、移動端末2の位置を推定する方法は、上記のような方法に限定されなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。また、上記各計算式は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。上記のような移動端末2の位置を推定する処理が完了すると、制御部11は、次のステップS103に処理を進める。
【0118】
<ステップS103>
図10に戻り、次のステップS103では、制御部11は、上記ステップS102による移動端末2の位置の推定を所定回数以上実施したか否かを判定する。移動端末2の位置推定を所定回数以上実施していない場合には、制御部11は、ステップS101に処理を戻し、移動端末2の位置推定を繰り返す。一方、移動端末2の位置推定を所定回数以上実施している場合には、制御部11は、次のステップS104に処理を進める。
【0119】
本ステップS103の処理は、後述するステップS104の処理で減衰パラメタの設定値及び各ブレークポイントの位置を更新可能な程度に、ステップS102による移動端末2の位置推定の結果が集まったか否か判定する処理に相当する。そのため、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)の各方位エリアθ
jについて、減衰パラメタの設定値及び各ブレークポイントの位置を更新可能な程度に、位置推定の結果が集計された場合に、当該条件が満たされたとして、次のステップS104に処理を進めてもよい。そして、制御部11は、当該条件の満たされた無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
jについて、次のステップS104により、減衰パラメタの設定値及び各ブレークポイントの位置の更新処理を実行してもよい。
【0120】
また、制御部11は、時間に基づいて、当該条件が満たされているか否かを判定してもよい。すなわち、制御部11は、所定時間が経過したか否かによって、上記ステップS102による移動端末2の位置の推定を所定回数以上実施したか否かを判定してもよい。なお、上記所定回数及び所定時間は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。
【0121】
<ステップS104>
次のステップS104では、制御部11は、パラメタ更新部113として機能し、上記ステップS102で位置推定を行った結果を用いて、各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
j毎に減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))及び各ブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))を更新する。
【0122】
(減衰パラメタの更新)
まず、
図12を用いて、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))の更新について説明する。
図12は、距離をx座標とし、受信電力をy座標とした両対数グラフに、ある無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
jについて、上記ステップS102で推定した移動端末2の位置までの推定距離dとその位置推定の際に測定された受信電力P
RXとの組をプロットした結果を模式的に例示したものである。
【0123】
上記ステップS102の処理によって、移動端末2の位置を所定回数以上推定した場合には、
図12に例示されるように、その推定結果、すなわち、推定した移動端末2の位置までの距離d及び受信電力P
RXの組をプロットすることができる。ここで、当該プロットする際の推定位置までの距離dは、各無線基地局3(BS
i)から、上記ステップS102による推定の各回において推定した移動端末2の位置(交点71)までの距離(上記距離d
i)である。また、当該プロットの際の受信電力P
RXの値は、各回の推定に利用した受信電力の測定値P
RXme(BS
i)である。
【0124】
制御部11は、このようにプロット可能な推定結果に対して、所定のパラメタフィッティング方法によって、上記位置推定の逆演算を行う。すなわち、制御部11は、上記数1等の関係式に基づいて、上記ステップS102により得られた推定位置までの距離dと受信電力P
RXの測定値から減衰パラメタの値を計算する。なお、当該所定のパラメタフィッティング方法には、最小二乗法等の公知のパラメタフィッティング方法を用いることができる。
【0125】
図12に例示されるように、所定のパラメタフィッティングを実施することで、制御部11は、プロットされた推定結果の点の集合に近似可能な1又は複数本の一次関数の直線を求めることができる。これによって、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
j毎に、各回の推定位置までの距離dと当該各回の推定に利用した受信電力P
RXの測定値とに適合する減衰パラメタの計算値(α
k、
cv(BS
i,θ
j)、n
k、
cv(BS
i,θ
j))を算出することができる。そこで、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
j毎に算出した減衰パラメタの計算値(α
k、
cv(BS
i,θ
j)、n
k、
cv(BS
i,θ
j))に基づいて、当該各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
jに対して保持された減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を更新する。
【0126】
計算値(α
k、
cv(BS
i,θ
j)、n
k、
cv(BS
i,θ
j))に基づく減衰パラメタの更新は、任意の方法によって実施されてよい。例えば、制御部11は、本ステップS104の処理の前に記憶部12に格納されている設定値を当該計算値(α
k、
cv(BS
i,θ
j)、n
k、
cv(BS
i,θ
j))に置き換えることで、減衰パラメタの設定値の更新を行ってもよい。
【0127】
ただし、当該計算値(α
k、
cv(BS
i,θ
j)、n
k、
cv(BS
i,θ
j))は、本ステップS104の処理の前に記憶部12に格納されている設定値よりも、減衰パラメタの真の値に近いとは限らない。そこで、制御部11は、以下の数12の計算式に基づいて、前回の減衰パラメタの設定値を信頼する度合いを示す忘却係数(割合)ρを用いて、減衰パラメタの設定値の更新を行ってもよい。すなわち、制御部11は、減衰パラメタについて、算出した計算値と記憶部12に保持された設定値とを所定の割合ρで加算し、記憶部12に保持された設定値を当該加算により得られた値に置き換えることで、減衰パラメタの設定値を更新してもよい(すなわち、所定の割合による加重平均による更新)。
【0128】
【数12】
なお、α
k,next(BS
i,θ
j)及びn
k,next(BS
i,θ
j)は、本ステップS104による減衰パラメタの更新後の設定値を示す。また、α
k,previous(BS
i,θ
j)及びn
k,previous(BS
i,θ
j)は、本ステップS104の処理の前に記憶部12に格納されていた前回までの減衰パラメタの設定値を示す。ρは、1〜0の間で任意に設定されてよい。ρ=1の場合には、減衰パラメタの設定値の更新が行われないことになり、ρ=0の場合には、減衰パラメタの設定値が完全に置き換わることになる。
【0129】
(ブレークポイントの位置の更新)
次に、各ブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))の更新について説明する。
図12に例示されるように、所定のパラメタフィッティングを実施すると、グラフ中に1又は複数の変曲点が現れる場合がある。
図3でも例示されるように、この変曲点の位置は、各方位エリアθ
jにおける無線信号の減衰の仕方が変化する位置、すなわち、ブレークポイントの位置、に相当する。そこで、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)の方位エリアθ
jにおいて、減衰パラメタの計算値を算出した際に得られた上記変曲点の位置に基づいて、各ブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))を更新する。
【0130】
上記パラメタフィッティングの実施によって得られた変曲点の位置に基づいて、各ブレークポイントの位置を更新する方法は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、制御部11は、得られた変曲点から所定の距離の範囲に存在するブレークポイントを、当該変曲点に対応するブレークポイントとする。そして、制御部11は、当該変曲点に対応するブレークポイントの位置の値(d
th,k(BS
i,θ
j))を、当該変曲点の位置の値で置き換えることで、各ブレークポイントの位置を更新してもよい。
【0131】
また、例えば、制御部11は、当該変曲点に対応するブレークポイントの位置の値(d
th,k(BS
i,θ
j))を、当該変曲点の位置の方向に所定の距離だけ移動させた値で置き換えることで更新してもよい。
【0132】
また、例えば、制御部11は、当該変曲点に対応するブレークポイントの位置の値(d
th,k(BS
i,θ
j))を、d
th,k(BS
i,θ
j)と当該変曲点の位置との所定の割合による加重平均の値で置き換えることで更新してもよい。
【0133】
また、例えば、上記減衰パラメタの更新と同様に、制御部11は、変曲点の位置の値と当該変曲点に対応するブレークポイントの位置の値とを所定の割合ρで加算し、記憶部12に保持されたブレークポイントの位置の値を当該加算により得られた値に置き換えることで、各ブレークポイントの位置を更新してもよい(すなわち、所定の割合による加重平均による更新)。
【0134】
ここで、変曲点から所定の距離の範囲に複数のブレークポイントが複数個存在する場合には、制御部11は、当該変曲点に最も近いブレークポイントを当該変曲点に対応するブレークポイントとして取り扱ってよい。
【0135】
また、得られた変曲点から所定の距離の範囲にブレークポイントが存在しない場合、ブレークポイントを設定すべき位置にブレークポイントが設定されていない可能性がある。または、移動物体等の一時的な遮蔽物が存在していることで、一時的に変曲点が現れているに過ぎない可能性がある。そこで、制御部11は、本動作例に係る処理を繰り返す間に、対応するブレークポイントの存在しない変曲点が所定の距離範囲に現れる頻度(回数)を計算してもよい。
【0136】
そして、対応するブレークポイントの存在しない変曲点が所定の距離範囲に所定の頻度を超えて現れる場合には、制御部11は、ブレークポイントを設定すべき位置にブレークポイントが設定されていなかったとして、この変曲点の位置に新たなブレークポイントを設定してもよい。このとき、制御部11は、新たに形成された距離エリアA
k(θ
j)の減衰パラメタの設定値には、上記パラメタフィッティングにより得られた減衰パラメタの計算値を設定してよい。
【0137】
同様に、対応する変曲点の見つからないブレークポイントが存在する場合、ブレークポイントを設定すべきではない位置にブレークポイントが設定されている可能性がある。そこで、制御部11は、各ブレークポイントについて、対応する変曲点が見つからなかった頻度(回数)を計算してもよい。そして、制御部11は、対応する変曲点が見つからない頻度が所定の値を超える、換言すると、本ステップS104による更新頻度の低いブレークポイントを削除してもよい。なお、この場合、ブレークポイントの削除によって、隣接する2つの距離エリアが一つに統合される。このとき、制御部11は、いずれか一方の距離エリアに設定されている減衰パラメタの設定値を選択して、統合された距離エリアの減衰パラメタの設定値に設定してもよい。また、制御部11は、隣接する両距離エリアに設定されている減衰パラメタの設定値の平均値を統合された距離エリアの減衰パラメタの設定値に設定してもよい。また、制御部11は、所定数の移動端末が当該2つの距離エリア内に均一に分布していることを仮定し、距離減衰特性を統合前の減衰パラメタそれぞれでプロットし、そのあと全体に対して最小二乗法で計算した値を統合後の減衰パラメタの設定値に設定してもよい。
【0138】
このような処理によって、制御部11は、変曲点が頻繁に現れる位置に、換言すると、現実にブレークポイントとなるべき位置に、ブレークポイントを設定することができる。また、制御部11は、変曲点が現れない位置に、換言すると、本来はブレークポイントではない位置に設定されているブレークポイントを削除することができる。
【0139】
なお、このようなブレークポイントの増減の範囲が設定されていてもよい。例えば、制御部11は、ブレークポイントの位置の最小値d
th,min(ただし、d
th,0=0を除いた値)、最大値d
th,max(ただし、d
th,Nth=無限遠を除いた値、なお、N
thは、その方位エリアθ
jに設定されている距離エリアの数を示す)、最小距離比r
th(以下の数13を参照)、距離エリア数の最大値N
th,max等を満たすように、各ブレークポイントの位置の更新を行ってもよい。
【0141】
以上により、制御部11は、ステップS102による位置推定の結果を用いて、減衰パラメタの設定値及び各ブレークポイントの位置を更新することができる。本ステップS104による更新処理が完了すると、制御部11は、本動作例に係る処理を終了する。この場合、制御部11は、ステップS101から再び処理を繰り返して、移動端末2の位置推定を継続してもよい。このとき、制御部11は、位置推定を行った回数をリセットして、ステップS103における位置推定の回数のカウントを再び0から開始する。
【0142】
<作用・効果>
以上のように、本実施形態に係る位置推定装置1では、各無線基地局3(BS
i)について各方位に分けて各距離エリアA
k(θ
j)が設定される。加えて、各無線基地局3までの距離dと無線信号の減衰量との関係を規定する減衰パラメタ(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))が、距離エリアA
k(θ
j)毎に設定される。そして、本実施形態に係る位置推定装置1は、この距離エリアA
k(θ
j)毎に設定された減衰パラメタ(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))を用いて、上記ステップS102により移動端末2の位置を推定する。
【0143】
したがって、本実施形態によれば、位置推定装置1は、各無線基地局3(BS
i)の各距離エリアA
k(θ
j)に設定された各減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))に基づいて、各無線基地局3(BS
i)が無線信号を受信する各方向及び距離に応じて無線信号の減衰の仕方を個別に規定することができる。よって、本実施形態によれば、受信方向及び距離に応じて無線信号の減衰の仕方を個別に規定することができるため、無線信号の送信を行う移動端末の位置推定の精度を高めることができる。
【0144】
また、本実施形態に係る位置推定装置1は、上記ステップS104において、上記ステップS102による位置推定の結果を用いて、減衰パラメタの設定値(α
k(BS
i,θ
j)、n
k(BS
i,θ
j))及び各ブレークポイントの位置(d
th,k(BS
i,θ
j))を更新する。これによって、減衰パラメタ及び各ブレークポイントの位置を本実施形態の位置推定に適合するように修正することができ、上記ステップS102における移動端末2の位置推定の精度を高めることができる。なお、移動端末の存在分布に偏りがある等、一部の距離エリア内で十分な測定点数が得られなかったことに起因し、信頼できる十分な更新値が得られなかった場合は、位置推定装置1は、上記ステップS104の処理を省略し、設定値及びブレークポイントの位置を更新しなくともよい。
【0145】
§4 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。上記各計算式、計算順序等は、例示に過ぎず、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。
【0146】
<人体遮蔽>
例えば、上記移動端末2は、対象者によって所持される。そのため、移動端末2から発信される無線信号は、少なくとも一部の方向については、対象者の人体によって遮蔽される。そこで、上記ステップS102では、制御部11は、移動端末2について、当該移動端末2から送信される無線信号が人体により遮蔽される角度範囲を仮定し、当該仮定した角度範囲に含まれる方向に存在する無線基地局3についての、上記減衰パラメタを用いた無線信号の減衰に関する演算(例えば、上記数4及び数9の演算)には、人体遮蔽による減衰の度合いを示す所定の減衰量を更に適用して、移動端末2の位置を推定してもよい。これによって、人体遮蔽の有無を考慮し、上記ステップS102における位置推定の精度を高めることができる。
【0147】
図13及び
図14を用いて、当該人体遮蔽について詳細に説明する。
図13は、無線信号が人体により遮蔽されて減衰する場面を模式的に例示する。
図14は、無線信号が人体により遮蔽される角度範囲に含まれる方向に存在する無線基地局3を特定する場面を模式的に例示する。例えば、移動端末2が対象者の腰等に取り付けられている場面を想定すると、
図13に例示されるように、人体の存在する範囲の方向に発信される無線信号は人体によって遮蔽され、人体の存在しない範囲の方向に発信される無線信号は人体によって遮蔽されない。
【0148】
そこで、制御部11は、移動端末2から送信される無線信号が角度範囲Cで人体遮蔽されると仮定する。角度範囲Cの値は、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。そして、制御部11は、この角度範囲Cに含まれる方向に存在する無線基地局3についての演算には、人体遮蔽による減衰量βを更に適用する。例えば、制御部11は、上記ステップS102における数4及び数9の計算それぞれを以下の数14及び数15それぞれの計算に置き換えて、人体遮蔽による減衰量βを適用する。
【0149】
【数14】
【数15】
なお、人体遮蔽による減衰量βは、実施の形態に応じて適宜設定されてよい。例えば、減衰量βは、20dB(1/100倍)に設定されてよい。
【0150】
ここで、制御部11は、各無線基地局3について当該無線信号が人体遮蔽されているか否かを総当たりで決定してもよい。ただし、移動端末2からの無線信号を受信した無線基地局3の数が多い場合に、各無線基地局3について当該無線信号が人体遮蔽されているか否かを総当たりで決定すると、人体遮蔽されているか否かの組み合わせの数が膨大になってしまう。これによって、上記ステップS102における位置推定の計算量が増大してしまう可能性がある。
【0151】
これに対応すべく、制御部11は、
図14に例示されるように、人体遮蔽される無線基地局3を決定してもよい。すなわち、制御部11は、移動端末2からの無線信号を受信した無線基地局3のうち、注目する1台の無線基地局3aを選択する。そして、制御部11は、選択した無線基地局3aが人体遮蔽の角度範囲Cの端に位置すると仮定して、当該角度範囲Cに含まれる方向に位置する無線基地局3bを特定する。また、制御部11は、当該角度範囲Cに含まれる方向に位置しない無線基地局3cを特定する。制御部11は、このような人体遮蔽の有無の決定を各無線基地局3で実施する。すなわち、移動端末2からの無線信号を受信した無線基地局3をそれぞれ注目する無線基地局3aに選択していき、人体遮蔽される無線基地局3bと人体遮蔽されない無線基地局3cとのパターンをリスト化する。そして、制御部11は、当該リストに従って、各無線基地局3についての演算に人体遮蔽による減衰量βを適用するか否かを決定する。これによって、総当たりで人体遮蔽の有無を決定する場合に比べて、人体遮蔽されているか否かの組み合わせの数を減らすことができ、上記ステップS102における位置推定の計算量を低減することができる。
【0152】
<受信電力の測定値>
また、上記実施形態では、上記ステップS101における、各無線基地局3(BS
i)における受信電力の測定値P
RXme(BS
i)として、一時の値(瞬時値)及び短時間の平均値を例示した。しかしながら、測定値P
RXme(BS
i)は、このような例に限定されなくてもよく、短時間の観測区間の最大値又は中央値であってもよい。更に、制御部11は、各無線基地局3(BS
i)で測定される受信電力の値の変動が所定の値よりも大きい場合には、上記各値のうち観測区間の中央値を測定値P
RXme(BS
i)に採用してもよい。これによって、観測される異常値を効率的に排除することができる。なお、異常値とは、一時的に受信電力が落ち込んでしまった状態における測定値のことである。観測区間の中央値は、平均値に比べて、このような異常値の影響を受けにくいという性質を有する。そのため、上記のような場合には、観測区間の中央値を測定値P
RXme(BS
i)に採用してもよい。
【0153】
<無線信号の送信間隔>
また、上記実施形態では、移動端末2は、加速度センサ23を備えている。そのため、当該加速度センサ23の測定結果に基づいて、移動端末2の活動量を推定することができる。例えば、加速度の変動成分の絶対値の平均値(重力加速度を除いた加速度のノルムの平均値)は、歩行速度(移動速度)にほぼ比例することが一般的に知られている。そこで、移動端末2の制御部21は、この加速度センサ23の測定結果に基づいて、無線信号を送信する頻度を調節してもよい。
【0154】
具体的には、移動端末2の移動量が比較的に多い場合に、無線信号を送信する頻度が比較的に少ないと、位置推定装置1は、移動端末2の位置推定を、移動端末2の移動に追従して行うことができなくなってしまう可能性がある。一方、例えば、移動端末2が停まっている等、移動端末2の移動量が比較的に少ない場合に、無線信号を送信する頻度が比較的に高いと、位置推定にとって無駄な無線信号の送信が増えてしまい、移動端末2において無駄な電力消費が増えてしまう。
【0155】
そこで、移動端末2の制御部21は、この加速度センサ23の測定結果に基づいて、移動端末2の移動量を算出してもよい。例えば、上記のとおり、制御部21は、加速度センサ23により測定された加速度の変動成分の絶対値の平均値を計算することで、当該移動端末2の移動量を求めてもよい。そして、制御部21は、当該移動端末2の移動量に応じて、無線信号の送信頻度を決定してもよい。すなわち、制御部21は、移動端末2の移動量が多い場合に無線信号の送信頻度を高め、移動端末2の移動量が少ない場合に無線信号の送信頻度を低くするように、無線信号の送信頻度を制御してもよい。
【0156】
この場合、制御部21は、無線信号を送信する時間間隔が最大値Tmaxを超えないように、無線信号の送信頻度を制御してもよい。また、制御部21は、無線信号を送信する時間間隔が最小値Tminを下回らないように、無線信号の送信頻度を制御してもよい。更に、制御部21は、移動端末2の移動量が所定の値を超えた場合に、無線信号を1又は複数回送信するように、無線信号の送信頻度を制御してもよい。これによって、移動端末2の消費電力を抑えることができる。また、時間間隔ではなく移動量に基づいて無線信号の送信頻度が制御されるため、位置推定装置1が移動端末2の位置を推定する間隔で、移動端末2の移動量が大きく変動するのを抑えることができる。そのため、移動端末2の存在する範囲を限定することができ、位置推定装置1における位置推定の精度を高めることができる。
【0157】
なお、移動速度の推定方法は、上記の方法に限られなくてもよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、移動端末2の制御部21は、加速度センサ23の測定結果に基づいて対象者の状態(停止中、歩行中、走行中、自転車搭乗中、電車乗車中等の状態)を推定し、当該推定した対象者の状態に基づいて当該対象者の移動速度を推算してもよい。