(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プロペンのフッ化物が、ペンタフルオロプロペンの各種異性体、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の冷凍機用混合組成物。
前記脂肪酸(a1)が、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜12の脂肪酸である請求項1〜4のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、シリコーンゴム、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、及びフッ素ゴム(FKM)のいずれかから選択されるゴム部材が設けられた冷凍機に使用される請求項1〜7のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
冷凍機潤滑油が、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜8のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
前記冷媒が、さらに飽和フッ化炭化水素化合物を含み、前記飽和フッ化炭化水素化合物が1,1−ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの中から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3、及び5〜9のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、給湯機、床暖房から選択される冷凍機システム、給湯システム、又は暖房システムに用いられる請求項1〜10のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のポリオールエステル系の冷凍機油は、冷凍機に使用される各種ゴム部材を膨潤させ、冷媒漏れや潤滑油漏れを引き起こすおそれがある。また、ポリオールエステル系の冷凍機油は、不飽和フッ化炭化水素冷媒との相溶性が十分でないものもある。すなわち、従来のポリオールエステル系の冷凍機油では、不飽和フッ化炭化水素冷媒との相溶性を良好にしつつ、各種ゴム部材の膨潤を適切に抑制することは難しかった。
【0007】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、不飽和フッ化炭化水素冷媒と冷凍機潤滑油との相溶性を損なうことなく、冷凍機に使用されるゴム部材の膨潤を適切に抑制できる冷凍機潤滑油、及び冷凍機潤滑油と不飽和フッ化炭化水素冷媒からなる冷凍機用混合組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、特定構造のポリオールエステル系の冷凍機油が、不飽和フッ化炭化水素冷媒との相溶性を損なうことなく、ゴム膨潤を適切に抑制できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の(1)〜(15)を提供する。
(1)下記の分子式(1)
C
pF
rH
s・・・(1)
[式中、pは2〜6、rは1〜11、sは1〜11の整数であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含む冷媒と、
炭素数9〜16の脂肪酸であって炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上である脂肪酸(a1)と、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールであるポリオール(a2)とのポリオールエステル(A)を主成分として含有する冷凍機潤滑油と
を含む冷凍機用混合組成物。
(2)前記不飽和フッ化炭化水素化合物が、プロペンのフッ化物である上記(1)に記載の冷凍機用混合組成物。
(3)前記プロペンのフッ化物が、ペンタフルオロプロペンの各種異性体、3,3,3−トリフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、及び2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種である上記(2)に記載の冷凍機用混合組成物。
(4)前記冷媒が、前記不飽和フッ化炭化水素化合物のみからなる上記(1)〜(3)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(5)前記脂肪酸(a1)が、炭素数9の脂肪酸のみからなる上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(6)前記脂肪酸(a1)が、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜12の脂肪酸である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(7)前記炭素数9〜16の脂肪酸が、分岐脂肪酸を含む上記(1)〜(6)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(8)水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、シリコーンゴム、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、及びフッ素ゴム(FKM)のいずれかから選択されるゴム部材が設けられた冷凍機に使用される上記(1)〜(7)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(9)冷凍機潤滑油が、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む上記(1)〜(8)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(10)前記冷媒が、さらに飽和フッ化炭化水素化合物を含み、前記飽和フッ化炭化水素化合物が1,1−ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンの中から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(3)、(5)〜(9)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(11)カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、給湯機、床暖房から選択される冷凍機システム、給湯システム、又は暖房システムに用いられる上記(1)〜(10)のいずれかに記載の冷凍機用混合組成物。
(12)システム内の水分含有量が300質量ppm以下で、残存空気分圧が10kPa以下である上記(11)に記載の冷凍機用混合組成物。
(13)下記の分子式(1)
C
pF
rH
s・・・(1)
[式中、pは2〜6、rは1〜11、sは1〜11の整数であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含む冷媒に使用される冷凍機潤滑油であって、
炭素数9〜16の脂肪酸であって炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上である脂肪酸(a1)と、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールであるポリオール(a2)とのポリオールエステル(A)を主成分として含有する冷凍機潤滑油。
(14)下記の分子式(1)
C
pF
rH
s・・・(1)
[式中、pは2〜6、rは1〜11、sは1〜11の整数であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含む冷媒を使用する冷凍機において、
炭素数9〜16の脂肪酸であって炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上である脂肪酸(a1)と、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールであるポリオール(a2)とのポリオールエステル(A)を主成分として含有する冷凍機潤滑油を使用する潤滑方法。
(15)下記の分子式(1)
C
pF
rH
s・・・(1)
[式中、pは2〜6、rは1〜11、sは1〜11の整数であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含む冷媒と、
炭素数9〜16の脂肪酸であって炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上である脂肪酸(a1)と、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールであるポリオール(a2)とのポリオールエステル(A)を主成分として含有する冷凍機潤滑油とを備える冷凍機。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、不飽和フッ化炭化水素冷媒と冷凍機潤滑油との相溶性を損なうことなく、冷凍機潤滑油や冷凍機用混合組成物によるゴム膨潤を適切に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明に係る冷凍機潤滑油は、以下の冷媒に対して使用されるものである。また、本発明に係る冷凍機用混合組成物は、冷凍機潤滑油と冷媒を含むものである。以下、冷媒及び冷凍機潤滑油についてより詳細に説明する。
<冷媒>
本発明に係る冷媒は、下記の分子式(1)
C
pF
rH
s ・・・(1)
[式中、pは2〜6、rは1〜11、sは1〜11の整数であり、分子中に炭素−炭素不飽和結合を1以上有する。]
で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含むものである。
【0011】
前記分子式(1)は、分子中の元素の種類と数を表すものであり、式(1)は、炭素原子Cの数pが2〜6の不飽和フッ化炭化水素化合物を表している。炭素数が2〜6の不飽和フッ化炭化水素化合物であれば、冷媒として要求される沸点、凝固点、蒸発潜熱などの物理的、化学的性質を有することができる。
該分子式(1)において、C
pで表されるp個の炭素原子の結合形態は、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合等の不飽和結合などがある。炭素−炭素の不飽和結合は、安定性の点から、炭素−炭素二重結合であることが好ましく、不飽和フッ化炭化水素化合物は、分子中に炭素−炭素二重結合等の不飽和結合を1以上有し、その数は1であるものが好ましい。すなわち、C
pで表されるp個の炭素原子の結合形態の少なくとも1つは、炭素−炭素二重結合であることがより好ましい。
【0012】
上記の不飽和フッ化炭化水素化合物として好ましくは、例えば、炭素数2〜6の直鎖状又は分岐状の鎖状オレフィンや炭素数4〜6の環状オレフィンのフッ化物を挙げることができる。
具体的には、1〜3個のフッ素原子が導入されたエチレンのフッ化物、1〜5個のフッ素原子が導入されたプロペンのフッ化物、1〜7個のフッ素原子が導入されたブテンのフッ化物、1〜9個のフッ素原子が導入されたペンテンのフッ化物、1〜11個のフッ素原子が導入されたヘキセンのフッ化物、1〜5個のフッ素原子が導入されたシクロブテンのフッ化物、1〜7個のフッ素原子が導入されたシクロペンテンのフッ化物、1〜9個のフッ素原子が導入されたシクロヘキセンのフッ化物などが挙げられる。
【0013】
これらの不飽和フッ化炭化水素化合物の中では、プロペンのフッ化物が好ましく、フッ素原子が3〜5個導入されたプロペンがより好ましく、具体的には、ペンタフルオロプロペンの各種異性体、3,3,3−トリフルオロプロペン、HFO1234zeで代表される1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、HFO1234yfで代表される2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが好ましい具体例として挙げられる。
これらの中では、フッ素原子が4個導入されたプロペンがより好ましく、HFO1234yfで代表される2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが特に好ましい。
本発明においては、この不飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
[その他成分]
本発明では、冷媒は、不飽和フッ化炭化水素化合物に加えて、他の化合物を必要に応じて含む混合冷媒であってもよく、例えば飽和フッ化炭化水素化合物を含んでもよい。
飽和フッ化炭化水素化合物としては、炭素数2〜4のアルカンのフッ化物が好ましく、エタンのフッ化物である1,1−ジフルオロエタン(R152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(R143a)、1,1,2−トリフルオロエタン(R143)等のトリフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(R134)等のテフラフルオロエタン、1,1,1,2,2−ペンタフルオロエタン(R125)等のペンタフルオロエタンが挙げられる。これらの飽和フッ化炭化水素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0015】
また、冷媒は、二酸化炭素を含んでもよく、その場合、冷媒は、不飽和フッ化炭化水素化合物と、二酸化炭素と、その他の第3成分とを含むことが好ましい。具体的には、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO1234ze)と、二酸化炭素(R744)と、ジフルオロメタン(R32)、1,1‐ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2‐テトラフルオロエタン(R134a)、プロピレン、プロパンおよびそれらの混合物から選択される第三成分とを含むことが好ましい。
【0016】
また、冷媒が分子式(1)で表される不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含むとは、冷媒全量に基づき50質量%以上含むことを意味し、その含有量は、冷媒全量に基づき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であるが、飽和フッ化炭化水素化合物等の他の成分は配合されないほうが好ましく、冷媒は、不飽和フッ化炭化水素化合物のみからなるほうがよい。
【0017】
<冷凍機潤滑油>
本発明の冷凍機潤滑油は、ポリオールエステル(A)を主成分として含有するものである。以下、ポリオールエステル(A)についてより詳細に説明する。
【0018】
[ポリオールエステル(A)]
ポリオールエステル(A)は、炭素数9〜16の脂肪酸であり、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上である脂肪酸(a1)と、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールであるポリオール(a2)とのポリオールエステルである。より具体的には、ポリオールエステル(A)は、上記脂肪酸(a1)が、炭素数9の脂肪酸のみからなるものであり、又は炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜16の脂肪酸であるものである。
冷凍機潤滑油は、上記ポリオールエステル(A)を使用することで、不飽和フッ化炭化水素化合物を主成分として含む冷媒に対する相溶性が良好になり、また、ゴム膨潤を抑制しやすくなる。また、相溶性をより向上させる観点から、脂肪酸(a1)が炭素数9の脂肪酸のみからなることが好ましく、相溶性及びゴム膨潤の抑制効果をバランス良く向上するためには、炭素数10〜16の脂肪酸を含むことが好ましい。
【0019】
脂肪酸(a1)において、炭素数9の脂肪酸としては、n−ノナン酸等の直鎖脂肪酸、分岐状のノナン酸等の分岐脂肪酸が挙げられる。これらの中では、不飽和フッ化炭化水素化合物との相溶性を良好にしつつも、ゴム膨潤を適切に抑制できる観点から、分岐脂肪酸が好ましく、分岐脂肪酸の中でも、3,5,5−トリメチルヘキサン酸がより好ましい。
また、脂肪酸(a1)における炭素数10〜16の脂肪酸としては、n−デカン酸、n−ウンデカン酸、ラウリル酸(n−ドデカン酸)、n−トリデカン酸、ミリスチン酸(n−テトラデカン酸)、n−ペンタデカン酸、パルミチン酸(n−ヘキサデカン酸)等の直鎖脂肪酸;ネオデカン酸等で代表される分岐状のデカン酸、分岐状のウンデカン酸、2−ブチルオクタン酸等で代表される分岐状のドデカン酸、分岐状のトリデカン酸、分岐状のテトラデカン酸、分岐状のペンタデカン酸、イソパルミチン酸等で代表される分岐状のヘキサデカン酸等の分岐脂肪酸が挙げられる。
炭素数10〜16の脂肪酸としては、上記した相溶性及びゴム膨潤の抑制効果を適切に向上させる観点から分岐脂肪酸が好ましい。なかでも上記した相溶性及びゴム膨潤の抑制効果をより発揮しやすい点からはネオデカン酸がより好ましい。また、相溶性及びゴム膨潤の抑制効果に加えて、粘度特性も良好にできる観点からは、2−ブチルオクタン酸、イソパルミチン酸等がより好ましく、これらの中では2−ブチルオクタン酸がさらに好ましい。
【0020】
上記したように、脂肪酸(a1)、すなわち、上記炭素数9の脂肪酸及び/又は炭素数10〜16の脂肪酸は、分岐脂肪酸を含んでいることが好ましいが、例えば、脂肪酸(a1)に含有される炭素数9の脂肪酸は、炭素数9の脂肪酸全量のうち、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上の分岐脂肪酸を含むが、全てが分岐脂肪酸であることが特に好ましい。同様に、脂肪酸(a1)に含有される炭素数10〜16の脂肪酸は、炭素数10〜16の脂肪酸全量のうち、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上の分岐脂肪酸を含むが、全てが分岐脂肪酸であることが特に好ましい。
【0021】
また、脂肪酸(a1)が、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜16の脂肪酸からなるものである場合には、炭素数9の脂肪酸は、粘度特性を良好にしつつ、相溶性及びゴム膨潤の抑制効果をバランス良く向上できる点から、脂肪酸(a1)全量に対して好ましくは60モル%以上である。
また、脂肪酸(a1)が炭素数13〜16の脂肪酸を含む場合、炭素数13〜16の脂肪酸は、脂肪酸(a1)全量に対して30モル%以下であることが好ましく、1〜25モル%であることがより好ましい。このように、比較的炭素数の大きい脂肪酸を使用する場合には、その使用量を抑えることで、ゴム膨潤を適切に抑制しつつ上記した相溶性を良好にしやすくなる。
さらに、脂肪酸(a1)が炭素数10〜12の脂肪酸を含む場合、炭素数10〜12の脂肪酸は、脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以下であればよいが、10〜40モル%程度であることが好ましい。
また、脂肪酸(a1)は、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜12の脂肪酸であることが好ましい。このように、脂肪酸(a1)に含有される炭素数10〜16の脂肪酸が、炭素数が比較的小さいものであると、相溶性、ゴム膨潤の抑制効果をバランス良く向上させることができる。
【0022】
ポリオールエステル(A)は、ポリオール(a2)としてペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールが単独で使用されるエステルであってもよいし、これら2種のポリオールのエステルの混合物であってもよいが、相溶性を向上させる観点からは、ペンタエリスリトールを含むことが好ましく、ペンタエリスリトール単独であることがより好ましい。また、ゴム膨潤を適切に抑制する観点から、ポリオールエステル(A)はジペンタエリスリトールのエステルを含むことが好ましい。
上記2種のポリオールのエステルの混合物である場合、ペンタエリスリトールのエステルは、モル基準で、ジペンタエリスリトールのエステルよりも多いことが好ましく、ジペンタエリスリトールのエステルに対するペンタエリスリトールのエステルのモル比(ペンタエリスリトール/ジペンタエリスリトール)は、95/5〜60/40であることがより好ましい。
【0023】
脂肪酸(a1)が、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜16の脂肪酸である場合には、脂肪酸(a1)は2種以上の脂肪酸を含むことになる。この場合、ポリオールエステル(A)は、一種の脂肪酸とポリオールのエステルを二種以上混合したものでもよいが、低温特性や冷媒との相溶性に優れるため、二種以上の混合脂肪酸とポリオールのエステルがより好ましい。
なお、ポリオールエステル(A)は、ポリオールの全ての水酸基がエステル化されずに残った部分エステルであっても良く、全ての水酸基がエステル化された完全エステルであっても良く、また部分エステルと完全エステルの混合物であっても良いが、完全エステルであることが好ましい。
【0024】
ポリオールエステル(A)は、40℃動粘度が30〜500mm
2/sであることが好ましく、40〜200mm
2/sであることがより好ましい。100℃動粘度は、特に限定されないが、5〜50mm
2/sであることが好ましく、8〜25mm
2/sであることがより好ましい。
また、粘度指数は、粘度特性を良好にする観点から、特に限定されないが、40以上であることが好ましく、60以上であることがより好ましく、80以上であることが特に好ましい。粘度指数の上限は、特に限定されないが、通常、200以下程度となる。
【0025】
ポリオールエステル(A)の水酸基価は、5mgKOH/g以下であることが好ましい。水酸基価を5mgKOH/g以下とすることで、ポリオールエステル(A)の分解が適切に抑制され、冷凍機潤滑油の安定性を良好にできる。上記観点から、ポリオールエステル(A)の水酸基価は、好ましくは4mgKOH/g以下、さらに好ましくは3.5mgKOH/g以下である。なお、水酸基価は、JIS K0070に準じ、中和滴定法により測定するものである。
また、ポリオールエステル(A)は、その分解を抑制して、冷凍機油組成物の安定性を高める観点から、酸価が0.1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.05mgKOH/g以下であることがより好ましい。なお、酸価はJIS K 2501に規定される「潤滑油中和試験方法」に準拠し、指示薬法により測定するものある。
【0026】
また、冷凍機潤滑油が、ポリオールエステル(A)を主成分として含有するとは、冷凍機潤滑油全量に基づき、ポリオールエステル(A)を50質量%以上含むことを意味し、その含有量は、冷凍機潤滑油全量に基づき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
冷凍機潤滑油は、基油として上記ポリオールエステル(A)のみを含有していてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオールエステル(A)以外の基油を含有していてもよい。ポリオールエステル(A)以外の基油としては、ポリオールエステル(A)以外のポリエステル類、ポリオキシアルキレングリコール類、ポリビニルエーテル類、ポリ(オキシ)アルキレングリコール又はそのモノエーテルとポリビニルエーテルとの共重合体、ポリカーボネート類、α−オレフィンオリゴマーの水素化物、さらには鉱油、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物などを挙げることができる。
ポリオールエステル(A)以外のポリエステル類としては、2〜20価の多価アルコール、好ましくは2〜10価の多価アルコールと、脂肪酸とのポリオールエステルが挙げられる。
【0027】
[添加剤]
本発明の冷凍機潤滑油は、基油以外にも、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤、消泡剤などの中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有してもよい。
極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
【0028】
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩が挙げられる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3〜60のカルボン酸、さらには炭素数3〜30、特に12〜30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12〜30の脂肪酸及び炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
さらに、上記以外の極圧剤として、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
上記極圧剤の配合量は、潤滑性及び安定性の点から、冷凍機潤滑油全量に基づき、通常0.001〜5質量%、特に0.005〜3質量%が好ましい。
極圧剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0029】
油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、冷凍機潤滑油全量に基づき、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0030】
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤の配合量は、効果及び経済性などの点から、冷凍機潤滑油全量に基づき、通常0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%である。
【0031】
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができる。中でも相溶性の点でフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドが好ましい。
このアルキルグリシジルエーテルのアルキル基、及びアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよく、炭素数は通常3〜30、好ましくは4〜24、特に6〜16のものである。また、α−オレフィンオキシドは全炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、特に6〜16のものを使用する。本発明においては、上記酸捕捉剤は1種を用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果及びスラッジ発生の抑制の点から、冷凍機潤滑油全量に対して、通常0.005〜5質量%、特に0.05〜3質量%が好ましい。
本発明においては、この酸捕捉剤を配合することにより、冷凍機油組成物の安定性を向上させることができる。また、前記極圧剤及び酸化防止剤を併用することにより、さらに安定性を向上させる効果が発揮される。
消泡剤としては、例えば、シリコーン油やフッ素化シリコーン油などを挙げることができる。
本発明の冷凍機潤滑油には、さらに本発明の目的を阻害しない範囲で、他の公知の各種添加剤を配合することができる。
【0032】
上記の冷凍機潤滑油は、冷媒と混合され冷凍機用混合組成物として冷凍機において使用されるものである。冷凍機用混合組成物において、冷凍機潤滑油に対する冷媒の質量比(冷媒/冷凍機潤滑油)は、99/1〜10/90であることが好ましく、95/5〜30/70の範囲にあることがより好ましく、95/5〜40/60の範囲にあることがさらに好ましい。
質量比が上記範囲であることで、冷凍能力及び潤滑性能をバランスよく良好にすることができる。
【0033】
[潤滑方法及び冷凍機]
本発明の潤滑方法は、上記冷媒を使用する冷凍機において、上記の冷凍機潤滑油を使用する潤滑方法である。
冷凍機は、上記冷媒と冷媒に混合される冷凍機潤滑油を備え、冷凍機を構成するいずれかの装置に、冷凍機用混合組成物又は冷凍機潤滑油に接触するゴム部材が設けられるものである。このゴム部材には冷凍機用混合組成物や冷凍機潤滑油が接触するが、本発明の冷凍機潤滑油はゴムに対する膨潤を抑制できるものである。したがって、本発明の冷凍機は、ゴム膨潤に起因する冷凍機潤滑油漏れや冷媒漏れを抑止することができる。
また、本発明の冷凍機は、少なくとも圧縮機を備える圧縮型冷凍機であり、上記したゴム部材は、圧縮機に設けられるゴム部材であることが好ましい。
【0034】
上記ゴム部材としては、特に限定されないが、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、シリコーンゴム、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタンゴム(U)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、フッ素ゴム(FKM)等が挙げられるが、これらの中では、水素添加ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体を使用することが好ましい。
【0035】
冷凍機は、例えば、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)及び蒸発器、あるいは圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器及び蒸発器を備え、これらにより冷凍サイクルを構成する。冷凍機潤滑油と混合して使用される冷媒は、冷凍サイクルにおいて循環して、熱の吸収と放出を繰り返すものである。冷凍機潤滑油は、冷凍機、例えば圧縮機の摺動部分等を潤滑するものである。
【0036】
本発明の冷凍機は、例えばカーエアコン、ガスヒートポンプ(GHP)、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、給湯機、床暖房などの冷凍機システム、給湯システム、並びに暖房システムに適用することができ、電動カーエアコン、開放型カーエアコン等のカーエアコンに好ましく用いることができ、開放型カーエアコンに特に好適である。
上記冷凍機が適用される各システムにおいて、システム系内の水分含有量は300質量ppm以下であるとともに、残存空気分圧が10kPa以下であることが好ましい。また、水分含有量は、200質量ppm以下であることがより好ましく、残存空気分圧は5kPa以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、本発明における各物性の評価は、以下の方法で行った。
[評価方法]
(1)40℃動粘度、100℃動粘度
JIS K2283に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
(2)粘度指数
粘度指数は、JIS K 2283に準拠して算出した。
(3)相溶性試験
二層分離温度測定管(内容積10mL)に、冷凍機潤滑油と冷媒とを充填し、恒温槽内に保持した。恒温槽の温度を室温(25℃)より、温度を1℃/minの割合で80℃まで上げ、高温側の二層分離温度を測定した。なお、80℃まで二層分離しなかったものは、表において“80<”と示し、冷媒と冷凍機潤滑油が相溶しなかったものは“不溶”と示す。
また、恒温槽の温度を室温(25℃)より、温度を1℃/minの割合で−50℃まで下げ、低温側の二層分離温度を測定した。なお、−50℃まで二層分離しなかったものは、表において“−50>”と示し、冷媒と冷凍機潤滑油が相溶しなかったものは“不溶”と示す。
なお、相溶性試験は、各冷凍機用混合組成物全量に対する、冷媒の割合が、5質量%、10質量%、15質量%、20質量%、30質量%である場合それぞれについて実施した。
(4)ゴム適合性試験
オートクレーブ試験にて、10mm×10mm、厚さ2mmのゴムサンプルを冷凍機用混合組成物に浸漬して、冷凍機用混合組成物のゴム膨潤性を評価した。本試験では、冷凍機潤滑油と冷媒の質量比が20:8.5である冷凍機用混合組成物を使用した。
ゴムサンプル:HNBR、CR、EPDM
試験温度 :175℃、試験時間:24時間
評価項目 :重量変化率(%)、体積変化率(%)
【0038】
実施例1〜15、比較例1〜19
表1に示すカルボン酸と、多価アルコールのポリオールエステルを冷凍機潤滑油とした。また、冷媒にR1234yfを使用して、冷凍機潤滑油と冷媒からなる冷凍機用混合組成物を作製し、相溶性試験、ゴム適合性試験を実施した。さらに、ポリオールエステル(冷凍機潤滑油)の動粘度、粘度指数についても測定した。結果を表2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1における各略号は、以下の通りである。
nC6 :n−ヘキサン酸
nC7 :n−ヘプタン酸
分岐C8 :2−エチルヘキサン酸
分岐C9 :3,5,5−トリメチルヘキサン酸
neoC10:ネオデカン酸
分岐C12 :2−ブチルオクタン酸
分岐C16 :イソパルミチン酸
C18T :リノール酸
C18’ :オレイン酸
分岐C18 :イソステアリン酸
分岐C24 :イソテトラコサン酸
C24 :テトラコサン酸
PE :ペンタエリスリトール
DPE :ジペンタエリスリトール
【0041】
【表2】
【0042】
以上の実施例1〜15に示すように、炭素数9の脂肪酸のみからなる脂肪酸(a1)、又は、炭素数9の脂肪酸が脂肪酸(a1)全量に対して50モル%以上であるとともに、その残分が炭素数10〜16の脂肪酸である脂肪酸(a1)と、ペンタエリスリトール及び/又はジペンタエリスリトールであるポリオール(a2)とのポリオールエステル(A)を基油として使用することで、不飽和フッ化炭化水素冷媒との相溶性を良好にしつつも、ゴム膨潤を適切に抑制することができた。
一方で、各比較例で示すように、脂肪酸(a1)として炭素数8以下の脂肪酸、又は炭素数17以上の脂肪酸を使用すると、相溶性が低下し、また、ゴム膨潤を十分に抑制できず、不飽和フッ化炭化水素冷媒用の冷凍機潤滑油として十分な性能を発揮することができなかった。