(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量が、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0.1〜50質量部である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
[熱硬化性樹脂組成物]
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)重量平均分子量が2000〜17000であるポリフェニレンエーテル樹脂(以下、単に「(A)ポリフェニレンエーテル樹脂」又は「(A)成分」ともいう)、(B)分子中にN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物(以下、「(B)成分」ともいう)、(C)硬化剤(以下、「(C)成分」ともいう)及び(D)1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(以下、「(D)エポキシ樹脂」又は「(D)成分」ともいう)を含有するものである。
【0023】
<(A)ポリフェニレンエーテル樹脂>
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、重量平均分子量が2000〜17000であるポリフェニレンエーテル樹脂であれば、特に制限なく用いることができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂を必須成分とすることにより、高耐熱性及び良好な成形性を確保しつつ、低い比誘電率及び誘電正接を付与することができる。
【0024】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の重量平均分子量は、耐熱性、誘電特性、成形性及び難燃性の観点から、2000〜17000であり、好ましくは2200〜16500、より好ましくは2400〜16000である。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、この(A)ポリフェニレンエーテル樹脂を必須成分とすることにより、高耐熱性及び良好な成形性を確保しつつ、低い比誘電率、低い誘電正接を付与することができる。一方、重量平均分子量が2000未満では機械強度が弱くなるため耐熱性が低下する。この耐熱性の低下は、プリント配線板においては、リフロー実装時のクラック、デラミネーション等の原因となる。また、重量平均分子量が17000を超えると、樹脂の粘度が高くなりすぎ、銅張積層板、及びプリント配線板のプレス成形時に十分な樹脂流動が得られず、成形不具合の原因になり得る。
また、特に優れた成形性を得る観点からは、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは2000〜15000、より好ましくは2200〜10000、更に好ましくは2300〜5000である。
また、特に優れた誘電特性を得る観点からは、(A)ポリフェニレンエーテル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは3000〜17000、より好ましくは8000〜16500、更に好ましくは13000〜16500である。
なお、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値から求めることができ、具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0025】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、下記一般式(1)で表される構造単位を有するものが挙げられる。
【0027】
一般式(1)中、R
1〜R
4は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示し、炭素数1〜3のアルキルであってもよく、メチル基又はエチル基であってもよい。
一般式(1)で表される構造単位は、耐熱性、誘電特性、成形性及び難燃性の観点並びに入手容易性の観点から、下記一般式(1’)で表される構造単位が好ましい。
【0029】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂1分子中における、前記一般式(1’)で表される構造単位の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは実質的に100質量%である。
【0030】
(A)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、市販品を用いてもよい。市販品の(A)ポリフェニレンエーテル樹脂としては、「SA90」、「SA120」等(SABICジャパン合同会社製)が、商業的に入手可能である。
【0031】
<(B)分子中にN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物>
(B)成分としては、分子中にN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、1分子中に1個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物、1分子中に2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物等が挙げられる。
【0032】
1分子中に1個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物としては、例えば、N−フェニルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド等が挙げられる。
1分子中に2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物としては、例えば、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、ポリ(マレイミドフェニル)メタン、ビス(4−マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4−マレイミドフェニル)スルホン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレンビスマレイミド、m−フェニレンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン等が挙げられる。
これらの中でも、反応率が高く、より高耐熱性化できる観点から、ビス(4−マレイミドフェニル)メタン、m−フェニレンビスマレイミド及びビス(4−マレイミドフェニル)スルホンが好ましく、安価である点から、m−フェニレンビスマレイミド及びビス(4−マレイミドフェニル)メタンがより好ましく、溶剤への溶解性の点から、ビス(4−マレイミドフェニル)メタンが更に好ましい。
これらの(B)成分は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
(B)成分は、(b−1)前記1分子中に少なくとも2個のN−置換マレイミド基を有するマレイミド化合物(以下、「(b−1)マレイミド化合物」ともいう)と、(b−2)下記一般式(2)で表される酸性置換基を有するアミン化合物(以下、「(b−2)アミノ化合物」ともいう)とを反応させて得られた、酸性置換基と不飽和マレイミド基とを有する化合物であることが好ましい。
【0035】
一般式(2)中、R
5は各々独立に、水酸基、カルボキシ基及びスルホン酸基から選ばれる酸性置換基を示し、R
6は各々独立に、水素原子、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、xは1〜5の整数、yは0〜4の整数で、かつxとyの和は5である。
【0036】
(b−2)アミノ化合物としては、例えば、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、o−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、o−アミノ安息香酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、m−アミノベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、3,5−ジヒドロキシアニリン、3,5−ジカルボキシアニリン等が挙げられる。これらの中でも、溶解性及び合成の収率の点から、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸及び3,5−ジヒドロキシアニリンが好ましく、耐熱性の点から、o−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール等のアミノフェノール類がより好ましく、誘電特性の点から、p−アミノフェノールが更に好ましい。
これらの(b−2)アミノ化合物は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
(b−1)マレイミド化合物と(b−2)アミノ化合物との使用量比は、(b−1)マレイミド化合物のマレイミド基当量と(b−2)アミン化合物の−NH
2基換算の当量との当量比が次式:
1.0<(マレイミド基当量)/(−NH
2基換算の当量)≦10.0
に示す範囲であることが好ましく、該当量比が2.0〜10.0の範囲であることがより好ましく、4.0〜9.0の範囲であることが更に好ましく、6.0〜8.5の範囲であることが特に好ましい。該当量比を上記範囲内とすることにより、溶剤への溶解性が不足したり、ゲル化を起こしたり、熱硬化性樹脂の耐熱性が低下することがない。
【0038】
(b−1)マレイミド化合物と(b−2)アミノ化合物との反応で使用される有機溶媒は特に制限されないが、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノ−ル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の窒素含有溶媒;ジメチルスルホキシド等の硫黄含有溶媒などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用できる。
これらの有機溶媒の中でも、溶解性の点から、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル及びメチルセロソルブが好ましく、低毒性である点から、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましく、揮発性が高くプリプレグの製造時に残溶媒として残りにくい点から、プロピレングリコールモノメチルエーテルが更に好ましい。
有機溶媒の使用量は、(b−1)マレイミド化合物と(b−2)アミン化合物の総和100質量部当たり、10〜1000質量部とすることが好ましく、30〜500質量部とすることがより好ましく、50〜200質量部とすることが更に好ましい。有機溶媒の使用量を10質量部以上とすることにより、溶解性が十分となり、1000質量部以下とすることにより、反応時間が長すぎることがなくなる。
【0039】
(b−1)マレイミド化合物と(b−2)アミノ化合物との反応温度は、50〜200℃であることが好ましく、100〜160℃であることがより好ましい。また、反応時間は0.1〜10時間であることが好ましく、1〜8時間であることがより好ましい。
この反応には、任意に反応触媒を使用することができる。反応触媒は特に制限されないが、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等のアミン類;メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン等のリン系触媒などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0040】
(b−1)マレイミド化合物と(b−2)アミノ化合物とを反応して得られる(B)成分としては、例えば、下記一般式(3)で表される酸性置換基と不飽和マレイミド基とを有する化合物及び下記一般式(4)で表される酸性置換基と不飽和マレイミド基を有する化合物から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0042】
一般式(3)中、R
5、R
6、x及びyは一般式(2)と同じものを示し、R
7は各々独立に、水素原子、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。
【0044】
一般式(4)中、R
5、R
6、x及びyは一般式(2)と同じものを示し、R
8及びR
9は各々独立に、水素原子、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示し、Aはアルキレン基、アルキリデン基、エーテル基、スルフォニル基又は下記式(5)で表される2価の基を示す。
【0046】
<(C)硬化剤>
(C)硬化剤としては、本発明の熱硬化性樹脂組成物中に含まれる熱硬化性樹脂を硬化できるものであれば、特に制限なく用いることができ、耐熱性、誘電特性、成形性及び難燃性の観点からは、(c−1)下記一般式(6)で表される6−置換グアナミン化合物又はジシアンジアミドが好ましい。
【0048】
一般式(6)中、R
10はフェニル基、メチル基、ブチル基、アリル基、メトキシ基又はベンジルオキシ基を示す。
【0049】
一般式(6)で表される6−置換グアナミン化合物としては、例えば、ベンゾグアナミンと称される2,4−ジアミノ−6−フェニル−s−トリアジン、アセトグアナミンと称される2,4−ジアミノ−6−メチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンが挙げられる。これらの中でも、反応率が高く、より高耐熱性化及び低誘電率化できる点から、ベンゾグアナミン及び2,4−ジアミノ−6−ビニル−s−トリアジンが好ましく、安価であること及び溶媒への溶解性の点から、ベンゾグアナミンがより好ましい。また、ワニスの保存安定性に優れ、高耐熱性化及び低誘電率化でき、安価である点から、ジシアンジアミドが特に好ましい。また、一般式(6)で表される6−置換グアナミン化合物とジシアンジアミドとを併用してもよい。
これらの(c−1)成分は、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0050】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(C)硬化剤として(c−2)エポキシ樹脂の硬化剤を含有していてもよい。
(c−2)エポキシ樹脂の硬化剤としては、無水マレイン酸、無水マレイン酸共重合体等の酸無水物;ジアミノジフェニルメタン等のアミン化合物;フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール化合物などが挙げられる。
これらの中でも、耐熱性が良好となる点から、無水マレイン酸共重合体が好ましく、低誘電率化できる点から、スチレン、エチレン、プロピレン、イソブチレン等の炭素原子及び水素原子から構成される重合体モノマーと無水マレイン酸の共重合樹脂がより好ましく、溶剤への溶解性及び配合される樹脂との相溶性の点から、スチレンと無水マレイン酸との共重合樹脂、又はイソブチレンと無水マレイン酸との共重合樹脂が更に好ましい。
【0051】
<(D)1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂>
(D)成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ビフェニル系、ノボラック系、多官能フェノール系、ナフタレン系、脂環式系及びアルコール系等のグリシジルエーテル、グリシジルアミン系並びにグリシジルエステル系が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
これらの中でも、誘電特性、耐熱性、耐湿性及び銅箔接着性の点から、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及びクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、誘電特性及び高いガラス転移温度を有する点から、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましく、耐湿耐熱性の点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が更に好ましい。
【0052】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中の(A)成分の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0.1〜50質量部とすることが好ましく、0.2〜30質量部とすることがより好ましく、0.5〜20質量部とすることが更に好ましく、0.7〜15質量部とすることが特に好ましい。(A)成分の含有量を0.1質量部以上とすることにより、低い比誘電率及び低い誘電正接を得られ、また50質量部以下とすることにより、成形性が低下することがない。
ここで、本明細書において、「固形分換算」とは、有機溶剤等の揮発性成分を除いた不揮発分のみを基準とすることを意味する。つまり、固形分換算100質量部とは、不揮発分100質量部相当を意味する。
【0053】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中の(B)〜(D)成分の含有量は、次の範囲とすることが好ましい。
(B)成分の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、1〜98.9質量部とすることが好ましく、20〜85質量部とすることがより好ましく、40〜75質量部とすることが更に好ましい。(B)成分の含有量を1質量部以上とすることにより、難燃性、接着性及び誘電特性が向上し、また98.9質量以下とすることにより耐熱性が低下することがない。
(C)成分の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0.1〜50質量部とすることが好ましく、0.5〜50質量部とすることがより好ましく、0.5〜30質量部とすることが更に好ましい。(C)成分の含有量を0.1質量部以上とすることにより、溶解性及び誘電特性が向上し、また50質量部以下とすることにより、難燃性が低下することがない。
(C−1)成分の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0.1〜30質量部とすることが好ましく、0.5〜20質量部とすることがより好ましく、0.5〜10質量部とすることが更に好ましい。(C−1)成分の含有量を0.1質量部以上とすることにより、溶解性及び誘電特性が向上し、また50質量部以下とすることにより、難燃性が低下することがない。
(C−2)成分の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0〜40質量部とすることが好ましく、5〜30質量部とすることがより好ましく、5〜20質量部とすることが更に好ましい。(C−2)成分を用いることで、優れた耐熱性及び誘電特性が得られる傾向にあり、(C−2)成分の含有量を40質量部以下とすることにより、成形性、接着性及び難燃性が低下することがない。
(D)成分の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0.5〜80質量部とすることが好ましく、10〜60質量部とすることがより好ましく、20〜40質量部とすることが更に好ましい。(D)成分の含有量を0.5質量部以上とすることにより、耐熱性、難燃性、またプリプレグとして使用する際に成形性が向上し、また80質量部以下とすることにより、誘電特性が低下することがない。
【0054】
<(E)エポキシ樹脂の硬化促進剤>
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、(E)成分として、エポキシ樹脂の硬化促進剤を含有させることができる。
エポキシ樹脂の硬化促進剤の例としては、イミダゾール類及びその誘導体、第三級アミン類及び第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0055】
<(F)無機充填材>
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、任意に(F)無機充填材を含有させることができる。(F)無機充填材としては、シリカ、マイカ、タルク、ガラスの短繊維又は微粉末及び中空ガラス、三酸化アンチモン、炭酸カルシウム、石英粉末、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、誘電特性、耐熱性及び難燃性の点から、シリカ、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムが好ましく、安価であることから、シリカ及び水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0056】
本発明の熱硬化性樹脂組成物中の(F)無機充填材の含有量は、固形分換算の(B)〜(D)成分の総和100質量部に対して、0〜300質量部とすることが好ましく、20〜200質量部とすることがより好ましく、20〜150質量部とすることが更に好ましい。(F)無機充填材を用いることで、熱膨張率を低減できる傾向にあり、(F)成分の含有量を300質量部以下とすることにより、成形性及び接着性が低下することがない。
【0057】
<その他の成分>
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、任意に公知の熱可塑性樹脂、エラストマー、難燃剤、有機充填材等を含有させることができる。
【0058】
熱可塑性樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、(A)成分以外のポリフェニレンエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、キシレン樹脂、石油樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0059】
エラストマーとしては、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリル、エポキシ変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、フェノール変性ポリブタジエン、カルボキシ変性ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
【0060】
難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、ホスファゼン、赤リン等のリン系難燃剤;三酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の無機物の難燃剤などが挙げられる。これらの中でも、環境負荷低減の点から、リン系難燃剤、無機物の難燃剤が好ましい。また、経済性、難燃性、耐熱性等の両立の点から、リン系難燃剤と水酸化アルミニウム等の無機物の難燃剤とを併用することが好ましい。
【0061】
有機充填材としては、シリコーンパウダー、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、(A)成分以外のポリフェニレンエーテル等の有機物粉末が挙げられる。
【0062】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、希釈溶剤として有機溶剤を任意に使用することができる。有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;メチルセロソルブ等のアルコール系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶剤などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用できる。
【0063】
さらに、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系、スチレン化フェノール等の酸化防止剤、ベンゾフェノン類、ベンジルケタール類、チオキサントン系等の光重合開始剤、スチルベン誘導体等の蛍光増白剤、尿素シラン等の尿素化合物、シランカップリング剤等の密着性向上剤などを含有させることができる。
【0064】
[プリプレグ]
本発明のプリプレグは、上記本発明の熱硬化性樹脂組成物を、基材に含浸又は塗工し、加熱乾燥して得られるものである。
すなわち、本発明の熱硬化性樹脂組成物を、基材に含浸又は塗工した後、加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させて本発明のプリプレグを製造するこができる。
以下、本発明のプリプレグについて詳述する。
【0065】
本発明のプリプレグに用いられる基材には、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている周知のものが使用できる。
その材質の例としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等の無機物の繊維;ポリイミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン等の有機物の繊維並びにそれらの混合物が挙げられる。
これらの基材は、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット及びサーフェシングマットの形状を有する。これらの材質及び形状は、目的とする成形物の用途及び性能により選択され、必要により、単独又は2種類以上の材質及び形状を組み合わせることができる。
基材の厚さは、特に制限されないが、例えば、約0.03〜0.5mmのものを使用することができ、シランカップリング剤等で表面処理したもの又は機械的に開繊処理を施したものが、耐熱性、耐湿性及び加工性の面から好適である。
該基材に対する樹脂組成物の付着量が、乾燥後のプリプレグの樹脂含有率で、20〜90質量%となるように、基材に含浸又は塗工した後、通常、100〜200℃の温度で1〜30分加熱乾燥し、半硬化(Bステージ化)させて、本発明のプリプレグを得ることができる。
【0066】
[積層板]
本発明の積層板は、上記本発明のプリプレグを用いてなる積層板である。
すなわち、本発明の積層板は、上記本発明のプリプレグを積層成形して得られるものであり、本発明のプリプレグを、例えば、1〜20枚重ね、その片面又は両面に銅箔を配置した構成で積層成形したものである。成形条件は、例えば、電気絶縁材料用積層板及び多層板手法が適用でき、例えば、多段プレス、多段真空プレス、連続成形、オートクレーブ成形機を使用し、温度100〜250℃、圧力0.2〜10MPa、加熱時間0.1〜5時間の範囲で成形することができる。また、本発明のプリプレグと内層用配線板を組み合わせ、積層成形して、多層板を製造することもできる。
【0067】
[プリント配線板]
本発明のプリント配線板は、上記本発明の積層板を回路加工してなるものである。
例えば、本発明の積層板の導体層を通常のエッチング法によって配線加工し回路基板を得ることができる。そして、前述のプリプレグを介して配線加工した積層板を複数積層し、加熱プレス加工することによって一括して多層化する。その後、ドリル加工、レーザー加工によるスルーホール又はブラインドビアホールの形成と、メッキ又は導電性ペーストによる層間配線の形成を経てプリント配線板を製造することができる。
【実施例】
【0068】
次に、下記の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0069】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレン:Standard Polystyrene(PStQuick E,F[東ソー株式会社製、商品名])を用いて3次式で近似した。GPCの条件は、以下に示す。
装置:HLC−8320GPC[東ソー株式会社製、商品名]
カラム:本カラム:TSkgel SuperHZ2000+3000(4.6×150mm)[東ソー株式会社製、商品名]
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperHZ−L(4.6×20mm)[東ソー株式会社製、商品名]
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:5mg/1.5ml
注入量:10μl
流量:0.35ml/分
【0070】
また、以下の実施例で得られた銅張積層板は、以下の方法で性能を測定及び評価した。
【0071】
(1)ガラス転移温度(Tg)の測定
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた5mm×5mmの評価基板を作製し、TMA試験装置(デュポン社製、商品名:TMA2940)を用いて、圧縮法で熱機械分析をおこなった。評価基板を前記装置にZ方向に装着後、荷重5g、昇温速度10℃/分の測定条件にて連続して2回測定した。2回目の測定における熱膨張曲線の異なる接線の交点で示されるTgを求めた。
(2)銅付耐熱性(T−288)の評価
銅張積層板から5mm×5mmの評価基板を作製し、IPC TM650で定められた試験法に準じて、TMA試験装置(デュポン社製、商品名:TMA2940)を用い、288℃で評価基板の膨れが発生するまでの時間を測定することにより評価した。
(3)誘電特性(比誘電率及び誘電正接)
得られた銅張積層板を用いてネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード社製、商品名:8722C)で、トリプレート構造直線線路共振器法により1GHzにおける銅張積層板の比誘電率及び誘電正接の測定を実施した。試験片サイズは厚さ0.8mm×縦200mm×横50mmで、1枚の銅張積層板の片面の中心にエッチングにより幅1.0mmの直線線路(ライン長さ200mm)を形成し、裏面は全面に銅を残しグランド層とした。もう1枚は片面を全面エッチングし、裏面はグランド層とした。次いで、2枚の銅張積層板のグランド層を外側にして重ね合わせストリップ線路とした。測定は25℃で行った。
(4)難燃性の評価
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板から、長さ127mm、幅12.7mmに切り出した試験片を作製し、UL94の試験法(V法)に準じて評価した。
(5)エッチング後の基材外観(成形性)の評価
銅張積層板を銅エッチング液に浸漬することにより銅箔を取り除いた50cm×50cmの評価基板を作製し、10倍の拡大鏡を用いて、ボイド(空隙)、異物、凝集物、分離の有無の評価を行った。評価結果は、以下のように分類した。
「異常なし」:ボイド(空隙)、異物、凝集物、分離がいずれも確認されなかったことを意味する。
「ボイド」:ボイド(空隙)が確認されたことを意味する。
「樹脂分離」:樹脂中の充填材が均一分散を保てなくなった状態が確認されたことを意味する。
「かすれ」:ボイドが密集し、かすれた外観が確認されたことを意味する。
【0072】
(製造例1:(B−1)マレイミド化合物の製造)
温度計、撹拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積2リットルの反応容器に、ビス(4−マレイミドフェニル)エーテルを1000g、p−アミノフェノールを80g、N,N−ジメチルアセトアミドを850g入れ[(マレイミド基当量)/(−NH
2基換算の当量)=8.0]、100℃で2時間反応させて(B−1)マレイミド化合物の溶液を得た。
【0073】
(実施例1)
(A)成分として、(A−1)ポリフェニレンエーテル樹脂(SABICジャパン合同会社製、重量平均分子量が2400)、(B)成分として、製造例1で得られた(B−1)マレイミド化合物、(C−1)成分として、ジシアンジアミド(関東化学株式会社製)、(C−2)成分として、スチレンと無水マレイン酸の共重合樹脂(サートマー社製、商品名:SMA−EF−40)、(D)成分として、(D−1)クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名:N−695)及び(D−2)ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名:HP−7200H)、(F)成分として、オリゴマ処理溶融シリカ(株式会社アドマテックス製、商品名:SC2050−KC)、難燃剤として、リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名:PX−200)、希釈溶剤にメチルエチルケトンを使用して、表1に示す配合割合(質量部)で混合して、固形分63質量%の均一なワニスを得た。
作製したワニスを厚さ0.1mmのEガラスクロスに含浸後、160℃で5分間加熱、乾燥して熱硬化性樹脂組成物を固形分換算で45質量%含有するプリプレグを得た。
このプリプレグを8枚重ね、厚さ18μmの電解銅箔を上下に配置し、圧力4.0MPa、温度185℃で60分間プレスを行って、銅張積層板を得た。
【0074】
(実施例2〜4、比較例1〜5)
実施例1において、原料組成を表1に示す組成に変更した以外は、実施例1と同様にして、銅張積層板を得た。
【0075】
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られた銅張積層板の評価結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から明らかなように、本発明の実施例では、重量平均分子量が2000〜17000の(A)ポリフェニレンエーテル樹脂を使用することで、比較例よりも耐熱性、誘電特性、成形性及び難燃性が高度に両立した積層板を得ることができた。