特許第6575477号(P6575477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6575477
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】抵抗率測定方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   H01L21/66 L
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-197437(P2016-197437)
(22)【出願日】2016年10月5日
(65)【公開番号】特開2018-60916(P2018-60916A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2018年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】久米 史高
【審査官】 平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−211113(JP,A)
【文献】 特開2004−241582(JP,A)
【文献】 特開2010−267760(JP,A)
【文献】 特開2004−063491(JP,A)
【文献】 特開2004−273524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物濃度1×1011atoms/cm以上3.4×1017atoms/cm以下のシリコンエピタキシャル層表面に接触した電極に逆バイアス電圧を印加して電圧毎の容量を測定し、前記逆バイアス電圧と前記容量の関係から不純物濃度と抵抗率を算出するC−V法の抵抗率測定方法において、
2×1013atoms/cm未満または3×1016atoms/cm超の不純物濃度を測定する際の初期印加電圧を、2×1013atoms/cm以上3×1016atoms/cm以下の不純物濃度を測定する際の初期印加電圧よりも絶対値を小さくし、
不純物濃度2×1013atoms/cm未満の前記シリコンエピタキシャル層を測定する際には、印加する前記逆バイアス電圧の絶対値を10V未満とし、
不純物濃度3×1016atoms/cm超の前記シリコンエピタキシャル層を測定する際には、印加する前記逆バイアス電圧の絶対値を7V未満にすることを特徴とする抵抗率測定方法。
【請求項2】
不純物濃度2×1013atoms/cm未満または3×1016atoms/cm超の前記シリコンエピタキシャル層を測定する際、前記逆バイアス電圧の初期印加電圧の絶対値を0.1V以上1V未満とすることを特徴とする請求項1に記載の抵抗率測定方法。
【請求項3】
前記逆バイアス電圧のステップ電圧の絶対値を漸増させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抵抗率測定方法。
【請求項4】
前記逆バイアス電圧の絶対値を等比数列に従って印加することを特徴とする請求項に記載の抵抗率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗率測定方法に関し、より詳しくは、C−V法による抵抗率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抵抗率を測定する方法としてC−V(Capacitance − Voltage)法が知られている。C−V法では、シリコンエピタキシャル層等の単結晶ウェーハの表面に例えば金(Au)電極あるいは水銀(Hg)電極を接触させてショットキー接合を形成し、電極に逆バイアス電圧を例えば1Vから連続的に変化させながら印加することにより単結晶ウェーハの内部に空乏層を拡げて容量を変化させる。
【0003】
そして、この逆バイアス電圧と容量の関係から所望深さにおける不純物ドーパント濃度を算出し、さらにASTM STANDARDS F723等の換算式を用いて、不純物ドーパント濃度を抵抗率に換算する。以下、ASTM STANDARDS F723の換算式を用いて不純物ドーパント濃度を抵抗率に換算することを単にASTM換算という。
【0004】
抵抗率1Ωcm以下のシリコンエピタキシャル層の不純物ドーパント濃度を高精度に測定するため、直径1.5mm以下の電極を形成し、印加する電圧を0.5V以下のステップ幅で変化させることが特許文献1に記載されている。特許文献1には明記されていないが、電極が水銀(Hg)であっても印加電圧を0.5V以下のステップ幅で変化させることにより、1.0V以上のステップ幅で変化させるよりも細かい範囲で印加電圧の変化量に対応した測定ができる。ただし、特許文献1には初期の印加電圧について何ら記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−211113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
C−V法による抵抗率測定方法の対象と成り得るシリコンエピタキシャル層の不純物濃度は、1×1011atoms/cm以上3.4×1017atoms/cm以下である。ASTM換算すると、1×1011atoms/cmはP型1.3×10Ωcm、N型4.3×10Ωcmに相当し、3.4×1017atoms/cmはP型8.6×10−2Ωcm、N型4×10−2Ωcmに相当する。
【0007】
不純物濃度1×1011atoms/cm未満のシリコンエピタキシャル層を得るには、ドーパントを流さずに例えば50μm以上気相成長する必要があり、商業ベースでの生産がまだ行われていない。また、不純物濃度3.4×1017atoms/cm超では空乏層が実質的に拡がらないので、C−V法による抵抗率測定を行うことができない。
【0008】
一方、C−V法による抵抗率測定を行うシリコンエピタキシャル層の不純物濃度は通常、2×1013atoms/cm以上3×1016atoms/cm以下である。ASTM換算すると、2×1013atoms/cmはP型653Ωcm、N型213Ωcmに相当し、3×1016atoms/cmはP型0.54Ωcm、N型0.21Ωcmに相当する。
【0009】
以下、不純物濃度2×1013atoms/cm以上3×1016atoms/cm以下を通常不純物濃度、不純物濃度1×1011atoms/cm以上2×1013atoms/cm未満を低不純物濃度、不純物濃度3×1016atoms/cm超3.4×1017atoms/cm以下を高不純物濃度と呼ぶことがある。
【0010】
近年、高抵抗率あるいは低抵抗率のシリコンエピタキシャル層が製造されるようになり、それに伴い、低不純物濃度あるいは高不純物濃度をC−V法で測定できる技術が求められている。
【0011】
例えば、抵抗率がN型1000Ωcm(不純物濃度4.25×1012atoms/cm)の場合、逆バイアス電圧を1V掛けると空乏層が約22μm拡がるので、C−V法の測定に最低必要なサンプルのシリコンエピタキシャル層厚さは22μmである。そして、逆バイアス電圧を例えば25Vまで掛けて抵抗率を求めるためには、90μm以上の厚いシリコンエピタキシャル層を準備する必要がある。
【0012】
逆に、抵抗率がP型0.3Ωcm以下(不純物濃度6×1016atoms/cm以上)のサンプルを水銀電極のC−V法で測定する場合、逆バイアス電圧を25V掛ける前にブレークダウン(Break Down)が発生し、安定した測定ができない。
【0013】
本発明は上記問題点を解決するために為されたものであり、低不純物濃度あるいは高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層の抵抗率をより確実に測定することができるC−V法による抵抗率測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、不純物濃度1×1011atoms/cm以上3.4×1017atoms/cm以下のシリコンエピタキシャル層表面に接触した電極に逆バイアス電圧を印加して電圧毎の容量を測定し、前記逆バイアス電圧と前記容量の関係から不純物濃度と抵抗率を算出するC−V法の抵抗率測定方法において、2×1013atoms/cm未満または3×1016atoms/cm超の不純物濃度を測定する際の初期印加電圧を、2×1013atoms/cm以上3×1016atoms/cm以下の不純物濃度を測定する際の初期印加電圧よりも絶対値を小さくすることを特徴とする抵抗率測定方法を提供する。
【0015】
このように、低不純物濃度あるいは高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層に対してC−V法の抵抗率測定を行う際、通常不純物濃度を測定する際よりも初期印加電圧の絶対値が小さいので、より表面側から測定を開始することができる。低不純物濃度のシリコンエピタキシャル層を測定する場合には、より表面側から測定を開始することで、C−V法の抵抗率測定に必要なシリコンエピタキシャル層の膜厚を薄くすることができ、サンプルが必要膜厚よりも薄いために発生し得る測定不能の事態を回避することができる。また、高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層を測定する場合には、逆バイアス電圧の印加電圧を低くすることで、ブレークダウンの発生を抑制することができる。
【0016】
このとき、不純物濃度2×1013atoms/cm未満または3×1016atoms/cm超の前記シリコンエピタキシャル層を測定する際、前記逆バイアス電圧の初期印加電圧の絶対値を0.1V以上1V未満とすることが望ましい。
【0017】
低不純物濃度あるいは高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層に対してC−V法の抵抗率測定を行う際に、逆バイアス電圧の初期印加電圧の絶対値として、このような範囲の値を好適に用いることができる。
【0018】
このとき、不純物濃度2×1013atoms/cm未満の前記シリコンエピタキシャル層を測定する際には、印加する前記逆バイアス電圧の絶対値を10V未満とすることが望ましく、不純物濃度3×1016atoms/cm超の前記シリコンエピタキシャル層を測定する際には、印加する前記逆バイアス電圧の絶対値を7V未満にすることが望ましい。
【0019】
低不純物濃度のシリコンエピタキシャル層を測定する場合には、印加する逆バイアス電圧の絶対値を10V未満とすることで、C−V法の抵抗率測定に必要なシリコンエピタキシャル層の膜厚をより効果的に薄くすることができる。また、高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層を測定する場合には、高不純物濃度のブレークダウンは印加電圧7V以上で発生しやすいので、印加する逆バイアス電圧の絶対値を7V未満とすることにより、ブレークダウンの発生をさらに抑制することができる。
【0020】
このとき、前記逆バイアス電圧のステップ電圧の絶対値を漸増させることが望ましい。
【0021】
このような逆バイアス電圧でC−V法の抵抗率測定を行うことで、低電圧側の印加電圧を細かいステップで高くすることができるので、その結果得られる容量も低電圧側で細かく得られ、不安定になり易い表面側の印加電圧と容量との関係を正確に求めることができる。
【0022】
このとき、前記逆バイアス電圧の絶対値を等比数列に従って印加することが望ましい。
【0023】
逆バイアス電圧のステップ電圧の絶対値を漸増させる方法として、このような方法を好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の抵抗率測定方法によると、低不純物濃度あるいは高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層に対してC−V法の抵抗率測定を行う際、通常不純物濃度を測定する際よりも初期印加電圧の絶対値が小さいので、より表面側から測定を開始することができる。低不純物濃度のシリコンエピタキシャル層を測定する場合には、より表面側から測定を開始することで、C−V法の抵抗率測定に必要なシリコンエピタキシャル層の膜厚を薄くすることができ、サンプルが必要膜厚よりも薄いために発生し得る測定不能の事態を回避することができる。また、高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層を測定する場合には、逆バイアス電圧の印加電圧を低くすることで、ブレークダウンの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の抵抗率測定方法の一例を示すグラフである。
図2】本発明の抵抗率測定方法の測定対象を示す概略図である。
図3】本発明の抵抗率測定方法に用いられるC−V法測定装置の一例を示す概略図である。
図4】シリコンエピタキシャル層に逆バイアス電圧を印加して形成される空乏層を模式的に示す概略図である。
図5】P型シリコンエピタキシャル層に逆バイアス電圧を印加して形成される空乏層を模式的に示す概略図である。
図6】N型シリコンエピタキシャル層に逆バイアス電圧を印加して形成される空乏層を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の抵抗率測定方法の一例を示すグラフであり、シリコンエピタキシャル層の不純物濃度に対する逆バイアス電圧の初期印加電圧と最大印加電圧の関係を示す。ここで、図1中の例えば1.E+11とは、1×1011atoms/cmのことである。また、初期印加電圧と最大印加電圧は、それらの絶対値である。
【0027】
図1において、不純物濃度2×1013atoms/cm以上3×1016atoms/cm以下の通常不純物濃度では、初期印加電圧の絶対値が1V、最大印加電圧の絶対値が25Vである。これに対し、不純物濃度1×1011atoms/cm以上2×1013atoms/cm未満の低不純物濃度では、初期印加電圧の絶対値が0.1V、最大印加電圧の絶対値が10Vである。また、不純物濃度3×1016atoms/cm超3.4×1017atoms/cm以下の高不純物濃度では、初期印加電圧の絶対値が0.1V、最大印加電圧の絶対値が7Vである。つまり、初期印加電圧の絶対値は、低不純物濃度および高不純物濃度が0.1Vであり、通常不純物濃度の1Vよりも小さい。
【0028】
図2は、本発明の抵抗率測定方法の測定対象を示す概略図であり、シリコン単結晶基板2上にシリコンエピタキシャル層3が気相成長されてシリコンエピタキシャルウェーハ1を形成する。シリコンエピタキシャル層3がP型の場合、HF処理等の前処理が無くても測定可能である。シリコンエピタキシャル層3がN型の場合、オゾンガス、オゾン水、過酸化水素水等による前処理を測定前に施し、シリコンエピタキシャル層3の表面に薄い酸化膜を形成しておく。
【0029】
図3は、本発明の抵抗率測定方法に用いられるC−V法測定装置の一例を示す概略図であり、電極として使用する水銀(Hg)を下方から上方向に導いてシリコンエピタキシャル層3に接触させる水銀プローバ10を用い、抵抗率を測定する。水銀(Hg)以外の電極として、金(Au)などを蒸着してシリコンエピタキシャル層3の表面に接触させてもよい。
【0030】
図3に示す水銀プローバ10において、シリコンエピタキシャルウェーハ1は、測定されるシリコンエピタキシャル層3の主表面を下向きにしてステージ11に保持され、水銀電極32の上方に載置される。抵抗率を測定する際、収納容器12に収納された水銀31は、導管13内を通って上昇し、シリコンエピタキシャル層3の主表面に接触することによりショットキー接合を形成して水銀電極32となる。
【0031】
図4は、シリコンエピタキシャル層3に逆バイアス電圧Vを印加して形成される空乏層33を模式的に示す概略図である。シリコンエピタキシャル層3の抵抗率を測定する際は、シリコンエピタキシャル層3の主表面に接触した水銀、金などの電極32に、LCRメータを用いて逆バイアス電圧Vを連続的に変化させながら印加し、シリコンエピタキシャル層3の内部に空乏層33を拡げて容量Cを変化させつつ、その容量CをLCRメータにより計測する。そして、パソコン(PC)にインストールされた解析ソフトを用いて、逆バイアス電圧Vと空乏層の容量Cの関係から抵抗率を算出する。
【0032】
図5は、P型シリコンエピタキシャル層3に逆バイアス電圧Vを印加して形成される空乏層33を模式的に示す概略図である。P型シリコンエピタキシャル層3に水銀(Hg)、サマリウム(Sm)などの電極32を接触させると空乏層33が形成される。そして、電極32に正電圧を、例えば初期印加電圧+0.1Vから最大印加電圧+10Vまで変化させながら印加すると、空乏層33がしだいに拡がるに伴い、空乏層33の形成する容量Cが小さくなる。
【0033】
図6は、N型シリコンエピタキシャル層3に逆バイアス電圧Vを印加して形成される空乏層33を模式的に示す概略図である。N型シリコンエピタキシャル層3に水銀(Hg)、金(Au)などの電極32を接触させると空乏層33が形成される。そして、電極32に負電圧を、例えば初期印加電圧−0.1Vから絶対値の最大となる最大印加電圧−10Vまで変化させながら印加すると、空乏層33がしだいに拡がるに伴い、空乏層33の形成する容量Cが小さくなる。
【0034】
印加電圧Vに対し、シリコンエピタキシャル層3の不純物濃度が低いほど空乏層33が拡がり易く、不純物濃度が高いほど空乏層33が拡がり難い。例えば、N型シリコンエピタキシャル層3に−1Vの逆バイアス電圧を印加するときに形成される空乏層33の幅は、通常不純物濃度1×1015atoms/cm(ASTM換算4.5Ωcm)が1.5μm、低不純物濃度5×1012atoms/cm(ASTM換算850Ωcm)が20.6μm、高不純物濃度1×1017atoms/cm(ASTM換算0.084Ωcm)が0.15μmである。
【0035】
このため、シリコンエピタキシャル層3が低不純物濃度で例えば5×1012atoms/cm(ASTM換算N型850Ωcm)の場合、初期印加電圧−1VでC−V法の抵抗率測定を行うためには、シリコンエピタキシャル層3の厚さが最低でも20.6μm必要となる。これに対し、初期印加電圧の絶対値を0.1V以上1V未満、例えば−0.1Vとすることにより、通常不純物濃度で用いた初期印加電圧よりも絶対値を小さくすると、−0.1Vで形成される空乏層33の幅が13.6μmに下がるので、測定に用いるシリコンエピタキシャル層3の厚さを薄くすることができる。初期印加電圧の絶対値を0.1V以上としたのは、0.1Vより小さくしても、空乏層33の幅が実質的に変化しないからである。
【0036】
低不純物濃度のシリコンエピタキシャル層3に印加する最大印加電圧は、通常不純物濃度に対する設定値25Vよりも低い、例えば10V未満にする。これは、不純物濃度が低いほど空乏層33が拡がり易いので、同じ層厚であれば、通常不純物濃度の測定に必要な印加電圧よりも絶対値の低い電圧で十分に測定可能である。
【0037】
また、N型シリコンエピタキシャル層3に逆バイアス電圧を印加する初期印加電圧を例えば−0.1Vにする場合、印加電圧の測定間隔であるステップ電圧を通常不純物濃度の測定時と同じ−1Vとすると、印加電圧は−0.1V、−1.1V、−2.1V、・・・となる。この時、仮に−0.1Vでの容量が正確に測定できなかった場合、次の電圧が−1.1Vになり、通常不純物濃度の印加電圧よりも低電圧側すなわち表面側の測定ができなくなってしまう。
【0038】
そこで、通常不純物濃度よりも初期印加電圧の絶対値を小さくするときは、逆バイアス電圧のステップ電圧の絶対値が漸増するように印加し、表面側ほど細かいステップ幅で測定する。その一例を表1に示す。空乏層幅は、N型シリコンエピタキシャル層3が5×1012atoms/cm(ASTM換算850Ωcm)の場合を例示する。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の例では、印加電圧を−0.1Vから−9.065Vまで、公比1.65の等比数列で変化させることによりステップ電圧の絶対値を漸増させて、低電圧側の印加電圧を細かいステップで高くするので、その結果得られる容量も低電圧側で細かく得られ、不安定になり易い表面側の印加電圧と容量との関係を正確に求めることができる。
【0041】
一方、シリコンエピタキシャル層3が高不純物濃度(不純物濃度3×1016atoms/cm超3.4×1017atoms/cm以下、ASTM換算P型0.086Ωcm以上0.54Ωcm未満)の場合、バイアス電圧の絶対値が7V以上でブレークダウン(Breakdown)が多発し、印加電圧に対する空乏層の容量を正確に測定できなくなり、ひいては正確な不純物濃度や抵抗率を算出することができなくなる。
【0042】
そこで、不純物濃度3×1016atoms/cm超3.4×1017atoms/cm以下のシリコンエピタキシャル層3を測定する際は、印加するバイアス電圧の絶対値を7V未満にする。ステップ電圧が1Vのままで、印加するバイアス電圧の絶対値を7V未満にすると、測定できる空乏層容量データ数が少なくなり、測定精度が低下する可能性があるので、ステップ電圧を例えば0.5V以下にして空乏層容量のデータ数を通常不純物濃度と同レベルに確保することが望ましい。
【0043】
このようにして測定される逆バイアス電圧Vと空乏層容量Cの関係をグラフにプロットすると、C−V特性が得られる。さらに、逆バイアス電圧Vと空乏層容量Cを例えば下記(1)式と(2)式に代入すると、シリコンエピタキシャル層3内の深さWならびに、深さWにおけるドーパント濃度N(W)を算出することができるので、深さ方向におけるドーパント濃度のプロファイルを得ることができる。

W=AεεSi/C ・・・(1)
N(W)=2/(qεεSi)*{d(C−2)/dV}−1・・・(2)
ここで、Aは電極面積、εは真空誘電率、εSiはSiの比誘電率、qは電子の電荷量である。
【0044】
深さ方向におけるドーパント濃度プロファイルの中で、測定深さを指定すると、その深さにおける不純物濃度が算出できる。また、得られた不純物濃度をASTM STANDARDS F723等の換算式により換算することにより、不純物濃度から抵抗率を算出することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
膜厚20μm、不純物濃度5×1012atoms/cmのN型シリコンエピタキシャル層3が気相成長された、直径200mm、N/N型シリコンエピタキシャルウェーハ1を準備し、HF処理を施した後に、シリコンエピタキシャル層3の表面に金を蒸着して電極32とした。
【0047】
次に、シリコンエピタキシャル層3表面に接触した電極32に、表1に従い、逆バイアス電圧Vを−0.1Vから−9.065Vまで、公比1.65の等比数列で印加させることによりステップ電圧の絶対値を漸増させると、深さ13.6μm〜18.9μmの領域で空乏層容量Cを測定することができた。
【0048】
得られた逆バイアス電圧Vと空乏層容量Cの関係を前記(1)式と(2)式に代入し、深さ15.2μmにおける不純物濃度を算出し、さらにASTM換算すると、850Ωcmであった。
【0049】
(比較例1)
実施例1と同様にして準備し、シリコンエピタキシャル層3表面に接触した金の電極32に、逆バイアス電圧Vを−1Vから−25Vまで、ステップ電圧−1V間隔で印加したところ、空乏層容量Cを全く測定することができなかった。
【0050】
(実施例2)
膜厚5μm、不純物濃度1×1017atoms/cmのP型シリコンエピタキシャル層3が気相成長された、直径200mm、P/P型シリコンエピタキシャルウェーハ1を準備した。
【0051】
次に、図3と同様の水銀プローバ10を用い、シリコンエピタキシャル層3表面に接触した水銀電極32に、逆バイアス電圧Vを0.25Vから5Vまで、ステップ電圧0.25Vで増加させると、深さ0.1μm〜0.27μmの領域で合計20データの空乏層容量Cを測定することができた。
【0052】
(比較例2)
実施例2と同様にして準備し、シリコンエピタキシャル層3表面に接触した水銀電極32に、逆バイアス電圧Vを1Vから25Vまで、ステップ電圧1V間隔で印加したところ、ステップ電圧7Vでブレークダウンした。その結果、深さ0.15μm〜0.3μmの領域で合計6データの空乏層容量Cを測定することしかできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の抵抗率測定方法によると、低不純物濃度あるいは高不純物濃度のシリコンエピタキシャル層に対してC−V法の抵抗率測定を行う際、通常不純物濃度を測定する際よりも初期印加電圧の絶対値が小さいので、より表面側から測定を開始することができ、逆バイアス電圧の印加電圧を低くすることができる。その結果、サンプルが必要膜厚よりも薄いために発生し得る測定不能の事態を回避したり、ブレークダウンの発生を抑制したりすることができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
1…シリコンエピタキシャルウェーハ、 2…シリコン単結晶基板、
3…シリコンエピタキシャル層、
10…水銀プローバ、 11…ステージ、 12…収納容器、 13…導管、
31…水銀、 32…水銀電極、電極、 33…空乏層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6