【0011】
本発明の軟磁性膜は、原子比における組成式が、(Co
aFe
1−a)
100−b−cNb
bM
c、0.50≦a≦0.90、3≦b≦14、3≦c≦19、16≦b+c≦24、Mは、Mo、CrおよびWからなる群から選ばれる1種以上の元素、残部が不可避的不純物からなり、100℃におけるBsが0.50T以上であることに特徴を有する。
そして、本発明の軟磁性膜は、垂直磁気記録媒体の使用環境である、室温(25℃)より高い、100℃という温度で、Bsの低下を抑制して、Bsを0.50T以上とすることにより、垂直磁気記録媒体の軟磁性膜としての機能を十分に果たすことができる。
本発明の上記原子比における組成式中のa、即ちCoの含有比率を0.50以上とするのは、100℃におけるBsの低下を抑制し、Bsを0.50T以上にするためである。また、組成式中のaを0.90以下にすることで、軟磁気特性の低下を抑制することができる。このため、本発明では、組成式中のaを0.50≦a≦0.90の範囲にする。中でも、上記と同様の理由から、0.55≦a≦0.70の範囲が好ましい。
【0020】
また、上述の加圧焼結における焼結温度は、800℃以上にすることで、高融点金属であるNbやM元素を含有する粉末の焼結を進行させることができ、空孔の発生を抑制することができる。また、焼結温度を1400℃以下にすることで、合金粉末の溶解を防止できる。このため、本発明では、焼結温度を800〜1400℃とすることが好ましい。尚、空孔の形成を最小限に低減した上で、Nbを含有する金属間化合物相の成長を抑制するためには、900〜1300℃の温度で焼結することがより好ましい。
また、上述の加圧焼結における加圧圧力は、100MPa以上にすることで、焼結の進行を助長し、空孔の発生を抑制することができる。また、加圧圧力を200MPa以下にすることで、焼結時にスパッタリングターゲットへの残留応力の導入が抑制され、焼結後の割れの発生を抑制することができる。このため、本発明では、加圧圧力を100〜200MPaとすることが好ましい。尚、より空孔の形成を最小限に低減し、残留応力の導入をさらに抑制するためには、120〜160MPaの加圧圧力で焼結することがより好ましい。
また、上述の加圧焼結における焼結時間は、1時間以上にすることで、焼結の進行を助長し、空孔の発生を抑制することができる。また、焼結時間を10時間以下とすることで、製造効率を悪化させないで、Nbを含有する金属間化合物相の成長を抑制して製造できる。このため、本発明では、焼結時間を1〜10時間とすることが好ましい。尚、空孔の形成を最小限に低減し、Nbを含有する金属間化合物相の成長をさらに抑制するためには、1〜3時間の焼結時間で焼結することがより好ましい。
【実施例】
【0021】
(本発明例1)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.70Fe
0.30)
82Nb
9W
9の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製し、250μmの篩で分級し、粗粒を除去した。
そして、得られたガスアトマイズ粉末を軟鋼製のカプセルに充填し、脱気封止した後、温度950℃、圧力122MPa、保持時間1時間の条件で熱間静水圧プレスによって加圧焼結し、焼結体を作製した。得られた焼結体に機械加工を施し、直径180mm×厚さ5mmの軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを得た。
【0022】
上記で作製した軟磁性膜形成用スパッタリングターゲットを、キヤノンアネルバ製のDCマグネトロンスパッタ装置(C−3010)のチャンバー内に配置し、チャンバ内の真空到達度が2×10
−5Pa以下となるまで排気を行なった後、寸法75mm×25mmのガラス基板上に、Arガス圧0.6Pa、投入電力1000Wの条件で、膜厚300nmの軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0023】
(本発明例2)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.55Fe
0.45)
82Nb
9Mo
9の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、本発明例1と同様の条件で軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。
そして、上記で作製した軟磁性膜形成用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の条件で軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0024】
(本発明例3)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.70Fe
0.30)
82Nb
9Cr
9の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、本発明例1と同様の条件で軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。
そして、上記で作製した軟磁性膜形成用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の条件で軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0025】
(本発明例4)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.70Fe
0.30)
83Nb
14W
3の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、本発明例1と同様の条件で軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。
そして、上記で作製した軟磁性膜形成用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の条件で軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0026】
(比較例1)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.35Fe
0.65)
81.5Ta
18.5の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、本発明例1と同様の条件で軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。
そして、上記で作製した軟磁性膜形成用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の条件で軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0027】
(比較例2)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.35Fe
0.65)
82Nb
9W
9の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、本発明例1と同様の条件で軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。
そして、上記で作製した軟磁性膜形成用スパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の条件で軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0028】
(比較例3)
まず、純度99.9%以上の原料を用いて、原子比における組成式で、(Co
0.34Fe
0.66)
67Cr
20B
13の合金組成となる合金溶湯を真空溶解し、Arガスによるガスアトマイズ法によってガスアトマイズ粉末を作製する以外は、本発明例1と同様の条件で軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを作製した。
そして、上記で作製した軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットを用いて、実施例1と同様の条件で軟磁性膜をスパッタリング成膜した。
【0029】
上記で成膜した各軟磁性膜の試料を、さらに寸法6mm×7mmに加工した後、東英工業株式会社製の振動試料型磁力計(VSM−5−20)を使用し、面内方向に最大磁場80kA/mを印加したまま、昇温速度0.2℃/secで、室温(25℃)から410℃まで加熱し、Bsを測定した。
代表例として、本発明例1および比較例2の測定結果を
図1に示す。また、各軟磁性膜の25℃および100℃におけるBsの測定結果と、100℃におけるBsの25℃におけるBsからの低下率を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1より、本発明の範囲外の比較例となる軟磁性膜は、100℃におけるBsが0.50T未満であった。これに対し、本発明の軟磁性膜は、100℃におけるBsが0.50T以上であり、Bsの高温特性に優れた軟磁性膜であることが確認できた。
また、本発明の範囲外の比較例となる軟磁性膜は、いずれも25℃から100℃におけるBsの低下値が0.10Tを超え、低下率は26%以上であり、大幅な低下であった。これに対し、本発明の軟磁性膜は、25℃から100℃におけるBsの低下値は0.10T未満、低下率は11%以下であり、Bsの高温特性に優れた軟磁性膜であることが確認できた。
そして、本発明の軟磁性膜は、本発明の軟磁性膜形成用のスパッタリングターゲットにより形成可能であることが確認され、本発明の有効性が確認できた。