(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子光学系MEMSデバイスの上に電荷排出塗膜をプロセス室で堆積させる方法であって、前記電子光学系MEMSデバイスは、複数の小型レンズであって、前記小型レンズのそれぞれが電子を選択的に操作するのに用いられる複数の小型レンズを備え、
前記電子光学系MEMSデバイス上に1層以上の絶縁層を堆積させること、
前記電子光学系MEMSデバイス上の前記絶縁層の最上層の上に1層以上の注入層を堆積させること、
前記電子光学系MEMSデバイス上の前記電荷排出塗膜の目標抵抗率に基づき、1層以上の別の絶縁層及び1層以上の別の注入層を交互に堆積させること、を含み、
前記電荷排出塗膜は、絶縁材料及び前記絶縁材料内に埋入された少なくとも1種の注入材料を含み、前記注入材料は少なくとも1種のナノクラスターを含み、
前記電荷排出塗膜は、フレンケル・プール型の導電機構を有する、方法。
前記絶縁層を堆積させることは第1前駆体及び第2前駆体の使用を伴い、前記1層以上の注入層を堆積させることは第3前駆体及び第4前駆体を伴い、前記第1前駆体と前記第2前駆体の少なくとも一方は前記第3前駆体と前記第4前駆体の少なくとも一方と異なる、請求項9に記載の方法。
前記絶縁層の層数に対する前記注入層の層数の比によって前記電荷排出塗膜の抵抗率を決定し、前記比に基づいて前記絶縁層及び少なくとも1層の前記注入層を堆積させる、請求項8に記載の方法。
電子線を生成するように構成された電子線放出器と、前記電子線放出器からの前記電子線によって照射されるデジタル・パターン生成器(DPG)と、を含むシステムであって、
前記DPGは、
前記電子線から電子を受け取り、前記電子線由来の前記電子の少なくとも一部を吸収または反射する複数の小型レンズと、
前記小型レンズのそれぞれの側壁に形成された塗膜であって、前記塗膜に接触する任意の前記電子を排出する塗膜と、を備え、
前記塗膜は、絶縁材料及び前記絶縁材料内に埋入された少なくとも1種の注入材料を含み、前記注入材料は少なくとも1種のナノクラスターを含み、
前記塗膜は、フレンケル・プール型の導電機構を有する、システム。
前記注入材料は、金属もしくは金属酸化物、炭化物、窒化物、またはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)もしくはイリジウム(Ir)のうちの少なくとも1種の元素形態、のうちの少なくとも1種のクラスターを含む、請求項14に記載のシステム。
前記小型レンズのそれぞれは前記DPGに設けられた穴であり、前記小型レンズのそれぞれは、前記電子の少なくとも一部を選択的に吸収または反射するように構成されている、請求項14に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、例示的な電子光学系MEMS素子100を示す図である。概して、MEMS電子光学系MEMS素子100は、電子ミラーの配列として動作させるのに用いられる様々な形状を備える。例えば、電子光学系MEMS素子100は、大量生産用途の電子線リソグラフィに使用され得る反射型電子線リソグラフィ(reflective electron beam lithography:REBL)プロセスの一部であってよい。電子光学系MEMS素子100は、電子線の反射部または吸収部に用いられる形状をとってもよい。このようにして、電子光学系MEMS素子100を電子(例えば、デバイスの背面から照射され、電子デバイスの前面から出る電子)の伝達に用いてもよい。
【0014】
図1に示すように、電子光学系MEMS素子100は、複数層の材料で構成されてよい。ある実施形態では、電子光学系(または電気光学系)MEMS素子100は、注入層及び絶縁層を含んでよい。例えば、電子光学系MEMS素子100は、注入層140、141、142、143、144及び絶縁層130、131、132、133を含んでよい。ある実施形態では、注入層は、電極として機能し得る。例えば、注入層140は底面電極とみなしてよく、注入層141、142、143は、それぞれ下部電極、中間電極、上部電極とみなしてよく、注入層144は表面電極とみなしてよい。ある実施形態では、各注入層を窒化チタン(TiN)として構成してよい。各注入層の厚さを変化させてもよい。ある実施形態では、底面電極及び表面電極を、下部電極、中間電極及び上部電極よりも大きく、または厚くしてよい。例えば、底面電極及び表面電極の厚さをそれぞれ300nmとしてよく、下部電極、中間電極及び上部電極の厚さをそれぞれ60nmとしてよい。絶縁層130、131、132、133は、酸化ケイ素(例えば、SiO
2)で構成されてよい。図示の通り、各電極層(または注入層)の間に絶縁層を配置してよい。ある実施形態では、絶縁層は誘電体層である。ある実施形態または代替的実施形態では、各絶縁層の厚さを、任意の注入層よりもそれぞれ厚くしてよい。例えば、各絶縁層の厚さを750〜900nmの間としてよい。
【0015】
電子光学系MEMS素子100は、様々なMEMS形状を備えてよい。例えば、電子光学系MEMS素子100は、切り替え可能または設定可能な電子ミラーとして動作し得る小型レンズ(すなわち、穴またはウェル)110、120、130を備えてよい。例えば、小型レンズ110、120、130のそれぞれを個別に構成または切り替えて、電子線の一部を吸収または反射するようにしてよい。ある実施形態では、小型レンズ110、120、130は、電極(例えば、電極140、141、142、143、144)の利用に基づいて電子線の一部を吸収または反射するように構成されてよい。例えば、小型レンズ110、120、130のそれぞれを、2つの状態(例えば、吸収または反射)を有する電子ミラーとして動作させてよい。ある実施形態では、小型レンズの各電極に正電位が印加された場合(すなわち、電子ミラーがオフになる)には、電子線の一部を吸収するように小型レンズのそれぞれを構成してよい。さらに、小型レンズの各電極に負電位が印加された場合(すなわち、電子ミラーがオンになる)には、電子線の一部を反射するように小型レンズのそれぞれを構成してよい。
【0016】
ある実施形態では、電子光学系MEMS素子100は、前述したREBLツール向けのデジタル・パターン生成器(digital pattern generator:DPG)であってよい。このようにして、上記DPGの小型レンズを用いて、小型レンズに入射する電子線由来の電子をそれぞれ吸収または反射するようにしてよい。従って、電子光学系MEMS素子100は、設定可能な電子ミラーの2次元配列とみなすことができる。上記の電子光学系MEMS素子100では3つの小型レンズ(例えば、小型レンズ110、120、130)を示しているが、電子光学系MEMS素子100は、任意の数の小型レンズまたは他の電子光学系MEMSの形状を備えてよい。例えば、電子光学系MEMS素子100は、248×4096からなる小型レンズの2次元配列を備えてよい。
【0017】
このようにして、電子光学系MEMS素子は、複数の小型レンズを備えることができる。各小型レンズは、小型レンズに入射した電子線由来の電子を反射し、あるいは小型レンズに入射した電子線由来の電子を吸収するように構成または切り替えてよい。ある実施形態では、電子光学系MEMS素子は、REBLプロセスに用いられるDPGであってよい。小型レンズは、電子光学系MEMS素子内のウェルまたは穴であってよい。例えば、電子光学系MEMS素子は、複数の注入層及び絶縁層を備えてよい。小型レンズは、かかる注入層及び絶縁層の開口であってよい。
【0018】
図2は、電子光学系MEMS素子の例示的な小型レンズを示す図である。概して、小型レンズ(例えば、小型レンズ110、120または130)は、REBLプロセスに用いられるDPGなどの電子光学系MEMS素子(例えば、電子光学系MEMS素子100)の一部であってよい。
【0019】
図2に示すように、小型レンズは、電子光学系素子内の穴またはウェルであってよい。このようにして、小型レンズは、注入層(例えば、注入層140、141、142、143、144)及び絶縁層(例えば、絶縁層130、131、132、133)を含む側壁210、220を備えてよい。
【0020】
図3は、ある実施形態に係り、電子光学系MEMSの小型レンズの側壁での電子の帯電例を示す図である。概して、電子線由来の電子は、小型レンズ(例えば、小型レンズ110、120または130)に入射し、小型レンズの側壁に侵入し得るが、電子電荷の増大によって電子光学系MEMS素子(例えば、DPG)の一部をなす小型レンズの動作が妨げられる恐れがある。
【0021】
図3に示すように、REBLプロセスの一部をなす電子線由来の電子は、小型レンズに入射し得る。ある実施形態では、電子線由来の電子は、側壁(例えば、側壁210及び/または220)の一部に侵入し得る。このように電子が侵入すると、静電気が帯電し、小型レンズの意図された動作(例えば、電子を反射または吸収するように小型レンズを構成すること)を妨げる恐れがある。例えば、電子310は、絶縁層(例えば、SiO
2誘電体層)を含む側壁の各部に侵入し得る。
【0022】
図4は、ある実施形態に係り、電荷排出塗膜を側壁に塗布した例示的な小型レンズを示す図である。概して、電荷排出塗膜を用いることにより、小型レンズ(例えば、小型レンズ110、120及び/または130)の側壁(例えば、側壁210及び/または220)に留まった電子(例えば、電子310)を排出または放電することができる。
【0023】
図4に示すように、小型レンズ110の内面(例えば、側壁及び底面)に電荷排出塗膜410を塗布してよい。ある実施形態では、電荷排出塗膜410の抵抗は、電子による蓄積電荷を排出する程度には低くなり得るものの、電極すなわち小型レンズの注入層を短絡させる程低いとは限らない。さらに、電荷排出塗膜410の抵抗は、小型レンズの各種電極に印加された所定電圧に影響を及ぼし、あるいはその電圧を変化させる程低いとは限らない。さらに、電子光学系MEMS素子に設けられた小型レンズの表面または表面方向(例えば、側壁)の全てに、電荷排出塗膜410を均一に塗布してよい。このように電荷排出塗膜410を均一に塗布することにより、各小型レンズの性能を同一に保つことが可能となり、さらに、各小型レンズ内の静電界を均一に保つことができる。
【0024】
このようにして、電子光学系MEMS素子の各部に電荷排出塗膜を塗布してよい。ある実施形態では、電子線の各部(例えば、放出電子)を操作するのに用いられるデバイスの形状部に電荷排出塗膜を塗布してよい。例えば、DPGを構成する各小型レンズの側壁に電荷排出塗膜を塗布してよい。電荷排出塗膜は、小型レンズの動作(例えば、電子線の各部の操作)を妨げ得る静電帯電を除去することができる。電荷排出塗膜が内面に塗布された小型レンズに関する別の詳細事項は、2009年7月27日に出願され、米国特許第8,253,119号として発行された、「Well−based dynamic pattern generator」と題する米国特許出願第12/510,049号に開示されており、ここに本明細書の一部を構成するものとして、この出願を援用する。
【0025】
図5は、ある実施形態に係る電荷排出塗膜の例示的な構成を示す図である。概して、電荷排出塗膜(例えば、電荷排出塗膜410)は、ナノクラスターベースの注入層及び絶縁層を含む複数の材料層で構成されてよい。
【0026】
図5に示すように、電荷排出塗膜410は、複数の層を含んでよい。ある実施形態では、注入層は、絶縁材料内に埋入された導電材料のナノクラスターを含んでよい。例えば、導電材料は金属酸化物であってよく、絶縁層は高絶縁耐力を有する絶縁膜であってよい。例示的な導電材料または導電層(例えば、ナノクラスター)としては、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)及びイリジウム(Ir)、並びにこれらの酸化物、炭化物及び/または窒化物のそれぞれを挙げることができるが、これらに限定されることはない。以下、亜酸化モリブデン(MoO
3−x)に言及して考察するが、当業者は、他の導電材料(上述した金属、酸化物、炭化物及び窒化物など)を以下の考察の各部において用いてもよいことを理解するであろう。
【0027】
ある実施形態では、絶縁層または絶縁材料は、高絶縁耐力を有する絶縁体であってよい。例えば、上記絶縁体は、25MV/以上の絶縁耐力を有し得る。こうした絶縁層または絶縁材料の例としては、酸化アルミニウム(Al
2O
3)及び酸化ケイ素(SiO
2)などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0028】
このようにして、ある実施形態では、電荷排出塗膜410は、亜酸化モリブデン(MoO
3−x)のナノクラスターを酸化アルミニウム(Al
2O
3)の層に埋入させた複数の層で構成され得る。電荷排出塗膜410は、中程度の抵抗率(すなわち、半導電性材料から絶縁材料の間の抵抗率)を有する薄膜であってよい。ある実施形態では、こうした中程度の抵抗率は、10
4〜10
9Ω・mで規定されてよい。抵抗率が中程度であるため、導電性塗膜または半導電性塗膜とは異なり、電荷排出塗膜410は、関連する電子光学系MEMS素子(例えば、小型レンズ)を加熱して損傷を与えることもなく、電子光学系MEMS素子に関連する電極を短絡させることもない。さらに、ある実施形態では、上記の電荷排出塗膜は、酸化アルミニウムの各層に埋入された亜酸化モリブデンのナノクラスターを含むことにより、導電性塗膜または半導電性塗膜とは異なり、長期安定性を大幅に向上させることができる。例えば、電荷排出塗膜は、250MV/mまでの電界を受け得る。
【0029】
図5に戻ると、電荷排出塗膜410は、絶縁層510、520、540、550及び少なくとも1層の注入層530を備えてよい。ある実施形態では、注入層530は、1種以上のナノクラスター560を含んでよい。例えば、注入層530に用いられるモリブデンは、ナノクラスター560に凝集し、あるいはナノクラスター560を形成し得る。ある実施形態では、このモリブデンベースのナノクラスターの大きさは、1〜3nmとなり得る。このようにモリブデンがナノクラスターに凝集するのは、金属材料の表面エネルギーが酸化材料の表面エネルギーよりも高いことに起因するものであり、これによって酸化物表面に島(すなわち、ナノクラスター)が形成されやすくなる。さらに、ある実施形態では、電荷排出塗膜410の厚さは、20〜100nmの範囲であってよい。しかしながら、電荷排出塗膜410に任意の厚さを用いてもよい。
図5の電荷排出塗膜410は、4層の絶縁層(例えば、510、520、540、550)及び1層の注入層(例えば、530)を示しているが、任意の数の絶縁層及び注入層を用いてもよい。
【0030】
先に開示したように、電荷排出塗膜410は、導電性ナノクラスターを高絶縁耐力の絶縁層に埋入させた複数の層を備えてよい。ナノクラスター(例えば、酸化モリブデン)は導電性であり、酸化アルミニウム絶縁層は、酸素空孔によってより深い準位(例えば、伝導帯から2eV下)が形成された高バンドギャップの絶縁体であることから、電荷排出塗膜410の導電率は、絶縁層の伝導帯に自由電子を供与する導電性ナノクラスターによるものである。ある実施形態では、電荷排出塗膜410の導電機構は、フレンケル・プール(Frenkel−Poole:FP)型の放出である。このFP放出機構により、先に開示したように、絶縁材料(例えば、電荷排出塗膜410の絶縁層)に電気を通して電子を排出させることが可能となり得る。FP放出機構により、以下の方法によって絶縁層を介した電子の排出が可能となり得る。電子は、一般に局在準位に捕捉され得るが、不規則な熱変動によって電子に十分なエネルギーが与えられ得るため、局在準位から逸脱して伝導帯に遷移する(その後、続いて排出される)。FP放出機構の下では、電界が大きくなると、電子は、伝導帯に移るのと同程度の熱エネルギーを必要とし得ない。
【0031】
このようにして、電荷排出塗膜410の導電機構または電気輸送機構は、モリブデンベースのナノクラスターに基づくものとすることができる。酸化モリブデンベースのナノクラスターにおける酸素空孔は、酸化アルミニウム絶縁層に添加する不純物として機能し得る。さらに、絶縁層によって注入層内のナノクラスターが酸化・還元されるのを防ぐことが可能となり、膜全体でキャリア密度が維持される。ある実施形態では、絶縁層の空孔準位がバンドギャップ中により深く存在し、ドナーからキャリアが供与されないため、絶縁層によって注入層内のナノクラスターを電気的破壊(例えば、酸化または還元)から保護することができる。
【0032】
ある実施形態では、電荷排出塗膜410の抵抗率を、10
4〜10
9Ω・mに合わせてよい。電荷排出塗膜410の抵抗率は、注入層及び絶縁層に基づくものとすることができる。例えば、電荷排出塗膜410の抵抗率は、注入層と絶縁層の層数比に基づくものとすることができる。従って、電荷排出塗膜410の電気的特性及び物理的特性は、注入層と絶縁層の層数または割合に基づいて変化し得る。電荷排出塗膜410を堆積させるときに(例えば、電子光学系MEMS素子の小型レンズ上に)、注入層と絶縁層を交互に層形成するか、あるいは注入層と絶縁層のどちらかに層を変えることにより、注入層と絶縁層の割合を制御することができる。
【0033】
このようにして、電荷排出塗膜410は、低抵抗率の別の材料(例えば、注入ナノクラスター)を封入する高絶縁耐力かつ高抵抗率の材料(例えば、絶縁体)としてよい。被封入材料の抵抗率が低くなると封入材料にキャリアが供与され得るが、それによって封入材料の抵抗率が低下する。電荷排出塗膜全般に関する別の詳細事項については、2011年1月21日に出願された「Microchannel plate detector and methods for their fabrication」と題する米国特許出願第13/011,645号、2012年6月15日に出願された「Tunable Resistance Coatings」と題する米国特許出願第13/525,067号、及び2013年3月14日に出願された「Tunable Resistance Coatings」と題する米国特許出願第13/804,660号に開示されており、ここに本明細書の一部を構成するものとして、これら出願の全てを援用する。
【0034】
図6は、電荷排出塗膜を成膜する方法600のフローチャートを示す図である。概して、方法600により、電子光学系MEMS素子(例えば、電子光学系MEMS素子100)を構成する小型レンズ(例えば、小型レンズ110、120及び/または130)の側壁(例えば、側壁210、220)に電荷排出塗膜(例えば、電荷排出塗膜410)を堆積させることができる。
【0035】
ある実施形態では、原子層堆積(atomic layer deposition:ALD)プロセスによって電荷排出塗膜を堆積させてよい。原子層堆積プロセスは、化学気相法を順次用いることに基づくものであってよい。例えば、電荷排出塗膜を堆積させるための原子層堆積プロセスには、少なくとも2つの化学物質を使用してよい。かかる化学物質を前駆体と呼ぶことができる。連続した自己制限的プロセス(例えば、反応性の表面部位を飽和させる程度に前駆体の暴露が十分である限りは、サイクルまたはシーケンスごとに堆積させる材料の量が前駆体の暴露によらず一定である)により、1回ずつ個別に前駆体を表面と反応させてよい。電荷排出塗膜の絶縁層及び注入層は、少なくとも2種類の化学物質で構成される種々の組み合わせを用いてもよい。前駆体を表面に繰り返し暴露することによって、電荷排出塗膜の絶縁層及び注入層を堆積させてよい。
【0036】
図6に示すように、方法600は、工程610で基板表面を洗浄する。例えば、電子光学系MEMS素子(例えば、電子光学系MEMS素子100)の表面を洗浄してよい。ある実施形態では、この洗浄により、小型レンズ(例えば、小型レンズ110)の側壁(例えば、側壁210、220)も洗浄してよい。基板表面の洗浄は、一定期間(例えば、5分間)、アセトンに浸した状態で超音波を加え、その後、別の期間(例えば、30秒間)、20psiの超高純度窒素でフラッシングを実施することによって行ってよい。代替の洗浄方法は、電子光学系MEMS素子100の表面を数分間から数時間オゾンに暴露するものである。次に、工程620では、小型レンズの側壁に堆積させる塗膜の目標抵抗率を決定してよい。例えば、電荷排出塗膜の抵抗率を決定してよい。次に、工程630では、この目標抵抗率に基づいて絶縁層を堆積させてよい。ある実施形態では、絶縁層は、酸化アルミニウム(Al
2O
3)材料であってよい。原子層堆積プロセスにおいて2種類の前駆体に交互に暴露させて、この酸化アルミニウム層を堆積させてよい。例えば、第1前駆体にトリメチルアルミニウム(trimethylaluminum:TMA)を使用し、第2前駆体にH
2Oを使用してよい。この原子層堆積プロセスでは、第1前駆体であるトリメチルアルミニウムをプロセス室に導入してよく、次いで、プロセス室をパージまたは排気して、任意のガス状副生物と共に未反応の第1前駆体を全て除去してよい。次に、第2前駆体であるH
2Oをプロセス室に導入して、第1前駆体と反応させてよい。次に、プロセス室をパージまたは排気して、プロセス室に残留している任意のガス状副生物と共に未反応の第2前駆体を除去してよい。
【0037】
さらに、工程640では、上記の目標抵抗率に基づいて注入層(例えば、ナノクラスター層)を堆積させてよい。ある実施形態では、注入層の材料を亜酸化モリブデン(MoO
3−x)としてよい(式中、0<x≦1)。この亜酸化モリブデン層も、原子層堆積プロセスにより、別の2種類の前駆体に交互に暴露して堆積させてよい。例えば、第3前駆体にSi
2H
6を使用し、第4前駆体にMoF
6を使用してよい。この原子層堆積プロセスでは、第1前駆体であるSi
2H
6をプロセス室に導入してよく、次いで、プロセス室をパージまたは排気して、任意のガス状副生物と共に未反応の第3前駆体を全て除去してよい。次に、第4前駆体であるMoF
6をプロセス室に導入して、第3前駆体と反応させてよい。次に、プロセス室をパージまたは排気して、プロセス室に残留している任意のガス状副生物と共に未反応の第4前駆体を除去してよい。ある実施形態では、Si
2H
6は、吸着したMoF
6を金属モリブデン(Mo)に還元する役割を果たし得る。その上、先に開示したように、モリブデンはナノクラスターに凝集し得るが、さらにモリブデンが部分的に酸化されて、亜酸化モリブデンのナノクラスターを形成し得る。
【0038】
ステップ650では、方法600は、絶縁層の堆積(例えば、工程630に関して記載した)と、注入層の堆積(例えば、工程640に関して記載した)とを交互に行ってよい。ある実施形態では、電荷排出塗膜の目標抵抗率に加えて電荷排出塗膜の目標厚に基づき、層を交互に堆積させてよい。例えば、原子層堆積プロセスにおいて堆積させる層に基づいて抵抗率を合わせ、または設定してよい。このようにして、電荷排出塗膜の抵抗率を、電荷排出塗膜自体の組成(例えば、絶縁層と注入層の比)に基づくものとすることができる。各層は、原子層堆積プロセスにおいて制御されるため、電荷排出塗膜の抵抗率は、電荷排出塗膜中の絶縁成分と注入成分の前駆体比を調整することによって制御することができる。ある実施形態では、前駆体比は、%C=C/(I+C)×100%と定義され得る。式中、Cは、電荷排出塗膜の堆積中に行われた注入層(例えば、Mo)の原子層堆積サイクル数であり、Iは、電荷排出塗膜の堆積中に行われた絶縁層(例えば、Al
2O
3)の原子層堆積サイクル数である。最後に、工程660では、方法600は、電子光学系MEMS素子のボンド・パッドから電荷排出塗膜を除去してよい。例えば、堆積させた電荷排出塗膜と共に小型レンズを覆いつつ、電子光学系MEMS素子のボンド・パッドを露出して、そのボンド・パッドに堆積させた電荷排出塗膜を除去(例えば、エッチング)してよい。さらに、ある実施形態では、電荷排出塗膜を小型レンズの側壁に堆積させた後に熱アニール・プロセスも行ってよい。
【0039】
このようにして、原子層堆積プロセスを用いて、電子光学系MEMS素子に電荷排出塗膜を均一に塗布することができる。電荷排出塗膜は、原子層堆積プロセスにおいて、第1群の前駆体を交互に暴露して絶縁層を形成し、次いで、第2群の前駆体を交互に暴露して注入層を形成することによって塗布することができる。ある実施形態では、目標抵抗率を達成するために、原子層堆積プロセスによって絶縁層及び注入層を堆積させてよい。例えば、ある実施形態では、注入層が10%の前駆体比を達成するのに、原子層堆積プロセスを用いてもよい。かかる状況では、原子層堆積プロセスを用いて、9層の絶縁層(例えば、Al
2O
3)を形成しまたは堆積させ、次いで1層の注入層(例えば、MoO
3−x)を形成してよく、または堆積させてよい。原子層堆積を再度用いて、別の9層の絶縁層を堆積させ、次いで別の1層の注入層を堆積させてよい。電荷排出塗膜の目標厚を達成するまで、上記プロセスを繰り返してよい。しかしながら、ある実施形態では、電荷排出塗膜の表層及び底層を絶縁層とする必要がある。従って、電荷排出塗膜の構成が、最初に9層の絶縁層、次に1層の注入層、次に別の9層の絶縁層、別の1層の注入層、さらに、少なくとも1層のさらなる注入層となるように、電荷排出塗膜を成膜してよい。なお、具体的な層数の絶縁層及び注入層について説明したが、任意の層数の絶縁層及び注入層を用いてもよい。例えば、絶縁層及び注入層の層数は、電荷排出塗膜の目標抵抗率及び目標厚に基づいて変化し得る。
【0040】
ある実施形態では、電荷排出塗膜の抵抗率は、前駆体比が増加するにつれて減少し得る。つまり、より多くの注入層を電荷排出塗膜中に用いると、電荷排出塗膜の材料自体の導電率も上昇する。ある実施形態では、抵抗率は、前駆体比に対して指数関数的に低下し得る。
【0041】
ある実施形態では、絶縁層及び注入層は、同一のプロセス室において、さらに同様のプロセス条件の下で堆積される。例えば、絶縁層及び注入層を堆積させる際の堆積温度は同一であってよく、それにより、電荷排出塗膜を形成するために絶縁層及び注入層を個別に堆積させる作業が簡単になる。さらに、ALDプロセスは、いくつかの固有の利点を伴って、正確に制御された方法で複雑な層を成長させる技法となり得る。ALDプロセスのこうした利点は、前駆体蒸気と固体表面の間で自己制限的な化学反応が2段階で進行することに基づくものといえる。2段階で進行する2つの反応は個別に行われるため、ガス相の各前駆体は混合することができない。従って、これにより、非自己制限的な化学気相成長の原因となる粒状の汚染物質を形成し得るガス相反応が生じないようにすることができる。自己制限的であるというALDプロセスの様相から、ピンホールのない連続膜として電荷排出塗膜を形成し、段差被覆性を改善し、高アスペクト比の構造体に均一に堆積させる(すなわち、小型レンズの側壁に均一に堆積させる)ことができる。また、大面積基板向けに、あるいは多数の基板をバッチ処理で行うように、ALDプロセスを拡張してよい。さらに、堆積させた層の厚さは反応サイクル数に依存しているため、絶縁層及び注入層のそれぞれの厚さを正確に制御することができる。
【0042】
先に開示したように、母材材料(例えば、絶縁層)として酸化アルミニウムを選択してよい。なぜなら、酸化アルミニウムは、バルクで1GV/mという非常に高い絶縁耐力を有し、薄膜では厚さが1nmに近づくにつれて3GV/mまでになるからである。トリメチルアルミニウム(TMA)及びH
2Oを用いた酸化アルミニウムの原子層堆積(以下でさらに詳しく述べる)は、よく知られた、広い温度範囲にわたって実施可能なプロセスであり、揮発性の前駆体を使用し、優れた自己制限的な挙動を呈する。同様に、Si
2H
6及びMoF
6を伴うモリブデンの原子層堆積(ALD)も、やはり広い温度範囲にわたって実施可能な好ましいプロセスであり、高蒸気圧の前駆体を利用し、サイクルごとに高成長が得られる。Al
2O
3のALDプロセスとMoのALDプロセスをサブナノメーター規模でブレンドすることにより、得られる材料(例えば、電荷排出塗膜)の抵抗率を、広範囲な値にわたって調整してよい。これらのプロセスは共に、今後の規模拡大及び商業化に適用可能である。
【0043】
先に開示したように、堆積の前に、アセトンに浸した状態で超音波により基板を5分間洗浄し、その後、20psiの超高純度(99.999%)窒素でフラッシングを30秒間実施する。Al
2O
3のALDは、TMAとH
2Oに交互に暴露して行ってよい。MoのALDは、Si
2H
6とMoF
6への交互の暴露を利用して行ってよい。ここで、Si
2H
6は、吸着したMoF
6を金属Moに還元する役割を果たし得る。全ての前駆体は、室温で維持される。鋼鉄製貯蔵器内にTMA及びH
2Oを保持してよく、他方、圧縮ガス用の圧力調整弁付きレクチャーボトル内にSi
2H
6及びMoF
6を保持してよい。200℃の温度で、膜を堆積させてよい。Al
2O
3のALDプロセスとMoのALDプロセスを交互に実施することにより、中程度の抵抗率を有する膜を調製してよい。膜の組成、従って抵抗率は、先に開示したように、膜中の絶縁成分及び注入成分の前駆体比を調整することによって制御することができる。ある実施形態では、膜厚は、20〜100nmであってよい。シート抵抗の測定を容易にするために、金の「櫛形構造体」を備えた試片にALD膜を堆積させてよい。この構造体は、高絶縁膜のシート抵抗を測定するための矩形部を多数備えた交差指状電極である。隣接する各櫛は2マイクロメートルの間隔を有してよく、それによって櫛形構造体は1/100,000平方メートルと等価である。長期絶縁耐力の測定は、ピコ電流計及びPCにインターフェースされたプログラマブル電源を含む装置を用いて行ってよい。試片にはワイヤーボンディングを行ってよく、例示的な電子光学系MEMSの動作環境を例示的にシミュレートするために10
−3トルの真空中で試験を実施し、あるいは酸素及び水の影響を観測するために空気中で試験を実施してよい。櫛に印加される典型的なバイアスは50Vであってよく、これは25MV/mの電界に相当する。温度依存性の電流−電圧(IV)測定は、空気中で温度制御式ヒーターを用いてプローブ・ステーション上で行ってよい。測定位置から5mm程度の所に熱結合センサを配置してよい。電気的測定は全て、面内の2箇所で行ってよい。なぜなら、膜の高抵抗(例えば、100MΩ)が接点及び配線の抵抗よりも支配的となり得るためである。
【0044】
図6Bは、Moが8%の前駆体比で調製され、25MV/mで維持された40nmの膜662(すなわち、電荷排出塗膜)のシート抵抗を、二元酸化物の均一膜661のシート抵抗と比較して示す図である。二元酸化物の均一膜661の抵抗率は、40時間未満の間に3桁にわたって低下しているが、MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜662の抵抗率は、試験の87時間にわたってほぼ一定(例えば、3%未満の低下)のままである。この速度の場合、我々の膜の抵抗率が半分低下するのに要する時間は3ヶ月であると見積もられるが、これは、典型的なREBLの利用または用途でのニーズを上回っている。
図6Cは、MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜の抵抗率を、Mo(例えば、Moベースの層)の割合に応じて片対数目盛上に示す図である。図示の通り、データは直線を形成しているため、電荷排出塗膜中のMoの割合に対し、指数関数的に抵抗率が低下することを示している。このことは、MoO
3−x層が連続シートを形成しない(その代わり、前述したようにナノクラスターを形成する)ことを示唆している。というのも、上記により、Moの割合と抵抗率とが1次の逆数関係となるためである。
【0045】
図6Dは、MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜と二元酸化物の均一膜の主要な相違点を示す図である。後者は非晶質かつ単一相であるため、二元酸化膜は形状が欠如し得る。それに対し、モリブデンの電子散乱断面積がより大きいため、MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜は、Al
2O
3より暗く現れているMoO
3−xを含む各相に分離され得る。連続膜を形成する代わりに、Moは、前述した1〜3nm程度のナノクラスターに凝集する。ある実施形態では、こうした凝集は、金属が酸化物よりも高い表面エネルギーを有し、酸化物表面に島(例えば、ナノクラスター)を形成する傾向にあることに起因し得る。これとは別に、Mo種は全て、+4及び+6の酸化状態が混在しており、いずれも金属状態ではない。しかしながら、ある実施形態では、一部のMo種は金属状態で存在し得る。ある実施形態では、金属の島が最初に形成され、その後、例えばH
2O暴露によってMoO
3−xに酸化される。MoO
3−xは、酸素の空孔型欠陥によって導電性酸化物となる。これに対して、酸化アルミニウムは、酸素の空孔型欠陥によってより深い準位(伝導帯から2eV下)が形成された高バンドギャップの絶縁体であり、これらの欠陥準位は、室温で酸化アルミニウムに自由キャリアを提供するには深すぎる。従って、MoO
3−xナノクラスターは、複合膜に自由キャリアを提供する役割を担い得る。さらに、Al
2O
3は、全ての天然由来材料の中で最も絶縁耐力が高いもののうちの1つであり、複合膜の高絶縁耐力を担い得る。
【0046】
別の電気的試験により、電荷排出塗膜が有する電気的特性の背後にある、先に開示した機構が説明される。
図6Eは、8%のMo(例えば、前駆体比)で調製され、厚さが37〜90nmの範囲にわたるMoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜のIV曲線を並べて示す図である。これらのIV曲線は、片対数目盛上にJ/E対√Eを、両対数目盛上にJ対Eをそれぞれプロットしている。片対数目盛上にプロットされたデータは電界が高くなると直線を形成し、両対数目盛上のデータは、Eに対して非2次の依存性を示している。こうしたデータは、空間電荷制限(Space−Charge Limited:SCL)放出ではなくFP放出を示しており、このFP放出は、MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜において支配的な導電機構である。Eが高いところでの傾きの値の差異は、より薄い膜で支配的となる表面効果及び界面効果に起因し得る。FP効果の式を用いて、ln(J/E)対1/Tを異なるEについてプロットすることにより求めた有効不純物障壁の高さを
図8Aに示す。
図8Bに示す右側のIV曲線にプロットされた曲線の傾きは、有効障壁の高さであり、これは、電界が低いときには0.32eV程度であり、電界が高くなると0.29eV以下に低くなる。このデータは、MoO
3−xに存在する酸素空孔のイオン化エネルギー(0.27eV)に対応している。しかしながら、イオン化エネルギーは、xに応じて変化する。例えば、純粋なMoO
2は半金属であり、その価電子帯は部分的に満たされているのみである。従って、ALDプロセスにおいて前駆体比は正確かつ再現性良く制御されるため、MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜の導電率を改変することができる。さらに、Al
2O
3の母材または相は十分堅固であり、それによってMoOベースのナノクラスターを強電界または高電界の下で酸化及び/または還元から保護するため、この導電率は安定を維持する。
【0047】
従って、非晶質のAl
2O
3母材で構成される各層に埋入させたMoナノクラスターの電気伝導機構については、その全体像が以下のように明らかになった。基本的な電気伝導機構は、Al
2O
3母材で構成される各層への不純物として機能するMoO
3−xナノクラスター内の酸素空孔に伴うFP放出である。電界が低い側では、これらのキャリアがAl
2O
3の伝導帯に移るイオン化エネルギーは、0.32eVとなり得る。Al
2O
3母材で構成される各層は、さらなる酸化及び還元からMoO
3−xを保護する役割も果たしており、強電界または高電界の下で電荷排出塗膜内のキャリア密度を維持する。MoO
3−xの含有量がより多い(例えば、前駆体比がより大きい)電荷排出塗膜では、ナノクラスターの隣接する各層を共により近接させてよい。内部クラスターの距離が短くなると、隣接する欠陥部位間の電位が一体化し、
図6Fに示すように、隣接するナノクラスター間の障壁が効果的に低くなり得る。
【0048】
MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜を用いることにより、電子光学系MEMSデバイスから電荷が有効に排出されることが分かる。例えば、Mo前駆体を10%とした14nm層のMoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜を電子光学系MEMSデバイスに塗布してよく、この塗布によって大幅な性能向上が得られる。
図6Gは、二元酸化物の均一膜でコーティングした電子光学系MEMSデバイスから得た画像と、その代わりにMoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜でコーティングした電子光学系MEMSデバイスから得た画像とを示す図である。MoO
3−x/Al
2O
3電荷排出塗膜では、二元酸化物の均一膜でコーティングされた電子光学系MEMSデバイスと比較した場合に、電子光学系MEMSデバイスの効率が40%から60%に増加し、コントラストが10:1から50:1に向上した。さらに、電子光学系MEMSデバイスの寿命は、数桁のオーダーで向上した(例えば、数日から3ヶ月)。
【0049】
図7Aは、原子層堆積プロセスを用いて電荷排出塗膜を堆積させた後の例示的な電子光学系MEMSデバイス700を示す図である。概して、電子光学系MEMSデバイス700は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)回路に集積された小型レンズを含むデジタル・パターン生成器であってよい。電子光学系MEMSデバイス700をプロセス室内に置き、そこで原子層堆積プロセスを用いて、電子光学系MEMSデバイス700の全表面領域に均一層を堆積させてよい。
【0050】
図7Aに示すように、電子光学系MEMSデバイス700は、小型レンズ110、120、130を備えたDPGであってよい。ある実施形態では、このDPGは、248×4096からなる小型レンズの2次元配列を備えてよい。さらに、これらの小型レンズは、電子光学系MEMSデバイスの電極及び各絶縁層(例えば、層130、131、132、133、140、141、142、143、144)を通る円筒形の穴またはウェルであってよい。電子光学系MEMSデバイス700は、ボンド・パッド720、730も備えてよい。ある実施形態では、それぞれの小型レンズの電極及び/またはCMOS回路にこれらのボンド・パッドを結合または接続してよい。このようにして、電子光学系MEMSデバイス700は、CMOSボンド・パッド(例えば、ボンド・パッド720)及び電極ボンド・パッド(例えば、ボンド・パッド730)を備えてよい。ある実施形態では、先に開示したように、電子光学系MEMSデバイス700に原子層堆積プロセスを施してよい。例えば、原子層堆積プロセスによって複数層の材料を均一に堆積させて、電荷排出塗膜710を形成してよい。図示の通り、小型レンズ(例えば、小型レンズ110、120、130)の側壁及び底面と共に、電子光学系MEMSデバイス700の他の表面(ボンド・パッド720、730など)にも電荷排出塗膜710を被覆してよい。
【0051】
図7Bは、堆積させた電荷排出塗膜の各部を除去した後の電子光学系MEMSデバイス750を示す図である。概して、電子光学系MEMSデバイス750にエッチングまたは他のプロセスを施して、電子光学系MEMSデバイスのボンド・パッドまたは他の構成要素から電荷排出塗膜を除去してよい。電子光学系MEMSデバイスはプロセス室にあってよく、そこで電子光学系MEMSデバイスに堆積させた電荷排出塗膜の各部を除去してよい。
【0052】
図7Bに示すように、ボンド・パッド720、730の表面から電荷排出塗膜710の各部を除去してよい。同実施形態または代替的実施形態では、小型レンズの底面から電荷排出塗膜710を除去してよい。しかしながら、小型レンズの側壁を被覆している電荷排出塗膜710は、完全な形で残すことができる。ある実施形態では、ボンド・パッド720、730及び他のこうした構成要素を覆う電荷排出塗膜710の各部を、エッチング(イオンエッチング・プロセスまたはアルゴンエッチング・プロセスなど)によって除去してよい。このようにして、電荷排出塗膜710の各部を除去することができる一方、電荷排出塗膜710の他の各部を完全な形で残すことができる。
【0053】
ある実施形態では、本明細書で開示した電荷排出塗膜を、さらに他のREBL用途に利用してよい。例えば、電子銃のセラミック部品を電荷排出塗膜によって被覆してよい。電子銃または柱状セラミックの尖端にはアークが発生し得る。しかしながら、こうしたセラミック材料の尖端を電荷排出塗膜で被覆することによって平滑化してよく、それによってアークの発生を低減し、REBLツールをより良く利用できるようになる。
【0054】
上記を通じてなされた説明では、本開示の実施形態を完全に理解できるように、多くの具体的な詳細事項を記載している。しかしながら、当業者にとっては、これらの具体的な詳細事項がなくても実施形態を実施することができることは明白であろう。別の事例では、周知の構造及びデバイスをブロック図の形態に示して、説明を容易にしている。好ましい実施形態の説明は、本明細書に添付された特許請求の範囲を限定することを意図するものではない。さらに、本明細書に開示された方法では、種々の工程を開示し、実施形態の代表的な機能を説明している。これらの工程は単なる例示であり、決して限定を意味するものではない。本開示または実施形態の範囲から逸脱せずに、他の工程及び機能を検討することができる。