(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱手段は、前記蒸発源容器の前記第1壁部または前記第4壁部に対向する発熱部の出力密度が、前記蒸発源容器の前記第5壁部に対向する発熱部の出力密度よりも高い領域を有することを特徴とする請求項10に記載の蒸発源装置。
前記加熱手段は、前記蒸発源容器の前記面部の外周面に対向する発熱部の出力密度が、前記蒸発源容器の前記容器本体部に対向する発熱部の出力密度よりも高い領域を有することを特徴とする請求項19に記載の蒸発源装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0011】
本発明は、蒸着によって被蒸着体上に薄膜を形成するための蒸発源容器及びそれを備えた蒸発源装置に関する。本発明は、特に、被蒸着体である基板の表面に真空蒸着により所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属などの任意の材料を選択でき、また、蒸着材料としても、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選択できる。また、有機膜だけではなく金属膜を成膜することも可能である。本発明の技術は、具体的には、有機電子デバイス(例えば、有機EL表示装置、薄膜太陽電池)、光学部材などの製造装置に適用可能である。
【0012】
[実施例1]
<成膜装置の概略構成>
図1は、成膜装置の構成を示す模式図である。成膜装置は、真空チャンバ200を有する。真空チャンバ200の内部は、真空雰囲気か、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。被蒸着体である基板10は、搬送ロボット(不図示)によって真空チャンバ200内部に搬送されると真空チャンバ200内に設けられた基板保持ユニット(不図示)によって保持される。成膜時において、基板10は、マスク220上面に載置される。マスク220は、基板10上に形成する薄膜パターンに対応する開口パターン221を有するメタルマスクであり、真空チャンバ200内部において水平面に平行に設置されている。基板10は、基板保持ユニットによってマスク220の上面に載置されことで、真空チャンバ200内部において、水平面と平行に、かつ、下面がマスク220で覆われる態様で設置される。
【0013】
真空チャンバ200内部におけるマスク220の下方には、蒸発源装置300が設けられている。蒸発源装置300は、概略、蒸着材料を収容する蒸発源容器(坩堝)301(以下、容器301)と、容器301に収容された蒸発材料を加熱する加熱手段としてのヒータ302と、を備える。容器301内の蒸着材料は、ヒータ302の加熱によって容器301内で蒸発し、容器301上部に設けられたノズル303を介して容器301外へ噴出される。容器301外へ噴射した蒸着材料は、装置300上方に設置された基板10の表面に、マスク220に設けられた開口パターン221に対応して、蒸着する。
【0014】
蒸発源装置300は、その他、図示は省略しているが、ヒータ302による加熱効率を高めるためのリフレクタや伝熱部材、それらを含む蒸発源装置300の各構成全体を収容する枠体、シャッタ、蒸発レートモニタなどが備えられる場合がある。また、蒸発源装置300は、成膜を基板10全体に一様に行うため、真空チャンバ200内部を、固定載置された基板10に対して相対移動可能に構成される場合がある。
【0015】
<本実施例の蒸発源容器の特徴>
図2は、本実施例に係る蒸発源装置300の模式的断面図(端面図)である。
図2に示すように、蒸発源装置300は、概略、蒸発源容器301と、ヒータ302と、を備える。容器301は、収容する蒸着材料の物性等に応じて、例えばセラミックや金属、カーボン材料などから成形された有底筒状構成体である。容器301は、概略、底部311と、底部311から上方に延びて容器側壁をなす略円筒の筒状部321と、容器内部が開口部304でのみ開口するように筒状部321上方を塞ぐ上面部331と、で構成される。主として底部311と筒状部321とで構成される収容部に収容された蒸着物質は、ヒータ302の加熱によって蒸発すると、上面部331の中央に形成された開口部304を介して容器外部へ噴射される。
【0016】
容器301の構成は、本実施例のように円筒状の容器形状に限定されるものではない。例えば、角形の筒状部を有する角形容器でもよい。また、開口部304の配置や数も本実施例の構成に限定されるものではなく、上面部331の中央から外れた位置でもよいし、2箇所以上設けてもよい。
【0017】
なお、
図2で示す蒸発源容器301の開口部304は、
図1に示したノズル303を排した構成となっている。ノズル303のように容器301上面から突出するノズル形状部を備えた開口部は、蒸着材料の物性や蒸発源装置の装置構成等に応じて、必要な場合に適宜採用される。例えば、蒸発した蒸着物質を案内する(絞る)ための距離を、容器壁部の厚みよりも大きく取る必要がある場合や、他の部材を周りに配置するため、蒸着物質の案内距離に対して開口部周辺の容器壁部の厚みを小さくする必要がある場合などが考えられる。なお、本実施例では、
図1のノズル303のように、容器301上面から突出する構成部分を指してノズルと称しているが、
図2に示す開口部304のように突出部を有さない開口部の形状を指してノズルと称する場合もある。
【0018】
ヒータ302は、通電により発熱する一本の線状(ワイヤ状)の発熱体を容器301の筒状部321外周に複数回巻き回した構成となっている。なお、複数本の発熱体を巻き回す構成であってもよい。ヒータ302としては、発熱体としてステンレス鋼等の金属発熱抵抗体を用いたものでもよいし、カーボンヒータ等でもよい。本実施例におけるヒータ302は、発熱体を容器301の筒状部321外周の上下に均等な間隔で巻き回しており、単位面積当たりの発熱体の占める割合(ヒータ発熱部の出力密度)が上下にわたって均等となり、筒状部321外周における加熱され具合は上下で均一となっている。
【0019】
本実施例の蒸発源容器301の特徴部分について説明する。
図2に示すように、本実施例の容器301は、容器壁部の厚み(肉厚)が、上面部331及びこれと接続する筒状部321の上方部分321aが、筒状部321の下方部分321b及び底部311よりも厚い(大きい)ものとなっている。上面部331と上方部分321aは、略同程度の厚みを有し、下方部分321bと底部311は、略同程度の厚みを有している。なお、上方部分321aは、下方部分321bに対して容器内側に厚くなるように形成されており、筒状部321の外周面において上方部分321aと下方部分321bは同径となっている。このように容器301の壁部の厚みに違いを設けることによる技術的効果について、以下説明する。
【0020】
<蒸着材料の凝縮発生メカニズム及び本実施例の有利な点>
図3、
図4を参照し、本実施例のように容器壁部に厚みの違いを持たせなかった場合を比較例とし、本実施例の有利な点について、蒸着材料の凝縮発生メカニズムとともに説明する。
図3は、比較例(
図3(a))と本実施例(
図3(b))の構成の違いを示す模式的半断面図(端面図)と、容器温度における温度勾配と容器の肉厚とヒータによって加え
られる熱量との関係式(
図3(c))を示す図である。
図4は、蒸着材料の凝縮発生メカニズムと本実施例による凝縮抑制メカニズムについて説明する図である。
図4(a)は、蒸発源容器の開口部(ノズル)周辺部分における模式的断面図(端面図)、
図4(b)は、蒸発源容器の温度分布を比較例と本実施例とを比較して示す図、
図4(c)は、蒸着材料の蒸気の状態図を示す図である。
【0021】
図3(a)に示すように、比較例の蒸発源容器301cは、底部311c、筒状部321c、上面部331cのそれぞれの肉厚が同じ厚みで構成されている。これに対し、
図3(b)に示すように、本実施例の蒸発源容器301は、上面部331と筒状部321の上方部分321aが、筒状部321の下方部分321bと底部311に対して、肉厚が厚く構成されている。なお、ヒータ302は、巻き具合を、筒状部321の上方部分に対応する領域において密に、下方部分に対応する領域において疎にした構成となっている。
【0022】
以上のように構成された各蒸発源装置を用いて、蒸着材料の加熱蒸発を行ったときの蒸発源容器の温度分布と、材料蒸気の蒸気温度及び蒸気圧力を測定した結果を
図4に示す。
図4(b)のZ軸は、
図4(a)に示すように、容器を垂直に切った断面において容器上下方向(鉛直方向)に延びる軸に対応し、ノズル先端(あるいは開口部の外部側の開口縁)の高さ「1」近傍を原点とし、容器下方に向かったノズル先端からの距離を示している。
図4(a)、(b)に示すように、容器内部において蒸発した蒸着材料が多く存在する容器開口部直下の容器上方領域「2」と略同じ高さに位置する容器壁部B点において、容器温度が最も高くなっていることがわかる。そして容器壁部B点からノズル先端の高さ「1」と略同じ高さに位置するノズル壁部A点にかけて、容器開口部の表面から熱輻射により熱が奪われ、温度が徐々に低下していく温度勾配が形成されていることがわかる。この温度勾配が、比較例では、A点において凝縮点を下回ってしまう大きさとなっているため、気化した蒸着材料の一部がノズル開口付近において凝縮してしまう。一方、本実施例では、A点が凝縮点を下回らないような大きさの温度勾配に抑えられることで、ノズル開口付近における蒸着材料の凝縮の発生が抑制されている。
【0023】
図3(c)の式で示すように、本実施例の蒸発源装置の構成は、比較例と比べて、容器の厚さ(断面積A)を大きくとったことで、温度勾配(dT/dx)を小さくすることができている。
【0024】
以上の比較例と本実施例との間の温度勾配の違いを、蒸着材料の蒸気状態図上で示すと、
図4(c)のようになる。
図4(c)に示すように、蒸気温度は、開口部直下の材料蒸気が多く存在する高さ「2」における容器側壁からノズル先端(容器開口部)の高さ「1」にかけての温度勾配(T2→T1)が、比較例では大きくなっているのに対し、本実施例では小さくなっている。また、材料蒸気圧力は、比較例ではノズル開口付近において飽和蒸気圧以上になってしまっているのに対し、本実施例では飽和蒸気圧よりも小さく抑えることができている。
【0025】
すなわち、本実施例によれば、容器側壁において最も温度が高くなる部位からノズル先端にかけての温度勾配を小さくすることができ、よってノズル先端付近の領域における材料蒸気の飽和蒸気圧の低下量が小さくされ、蒸着材料の凝縮を抑制することができる。この本実施例の構成は、特に、飽和蒸気圧の温度変化が激しくなる高い圧力領域(高レート)において効果的に作用する。
また、容器上面部の厚みが増すことによって、開口部において、蒸発した蒸着物質を案内する(絞る)ための面の距離を(必然的に)長く取ることが可能となる。したがって、従来のように、開口部における案内面の長さを確保するために、開口部をノズル形状に成形したり、別体のノズルを開口部に追加したりする必要がなくなる。
【0026】
開口部を有する容器上面部及びこれに接続する容器側壁の上方部における肉厚を、下方部に対して、本実施例では1.2〜3倍の厚みとしている。しかしながら、どの程度の大きさとすべきかは、蒸発源装置や蒸発源容器の構成や寸法等の仕様、蒸着材料の物性、ヒータの加熱温度、等々によって種々異なる。すなわち、
図4に示した温度勾配の程度を測定するなどして、個々の装置に応じて適宜設定すべきものである。
【0027】
[実施例2]
実施例1のように厚みが変化する構成の容器は、厚みが大きい第1肉厚部分(上面部331と筒状部上方部分321a)と、厚みが小さい第2肉厚部分(筒状部下方部分321bと容器底部311)とを全て一体で成形することが可能であれば、真空環境における接触抵抗がなくなるため、熱の均一化に有利であり、好ましい。しかしながら、厚みが途中で変化する形状は、一体的な成形が難しい場合がある。そこで、製造のし易さの観点から、厚みが共通する構成ごとに別体で成形した後に一体化する構成を採用してもよい。
【0028】
図5(a)に示すように、実施例2の蒸発源装置300bの蒸発源容器301bは、第1肉厚部分と、第2肉厚部分とをそれぞれ別体で成形後、周縁部としての筒状部上方部分321aの下端と筒状部下方部分321bの上端とを接合することで第1肉厚部分と第2肉厚部分を一体化する構成である。少なくとも、温度勾配の低減において重要となる第1肉厚部分が一体に成形されることで、熱の均一化が図られ、実施例1と同様の効果を得ることが可能である。実施例2においてここで特に説明しない事項は、実施例1と同様である。
【0029】
[実施例3]
実施例2では、端面同士の接合によって第1肉厚部分と第2肉厚部分を接続する構成としていたが、より強固な接続構成として、嵌合部を設けてもよい。実施例3の蒸発源装置300cの蒸発源容器301cは、
図5(b)に示すように、容器側壁である筒状部341の上方部分341aが、周縁部として、上面部(面部)331の開口部304が開口する下面(蒸着材料を収容する容器内部側の面)の周縁から下方に突出するような構成となっている。すなわち、上面部331及び筒状部341の上方部分341aは、筒状部341の下方部分341bと底部311からなる蒸着材料の収容部に上方から覆いかぶさるキャップ状の構造体を構成している。また、筒状部341の上方部分341aの下端外周側に、筒状部341の下方部分341bの上端の外周と重なるように延在する嵌合部341cが設けられている。また、嵌合部341c内側の上方部分341a下端と下方部分341b上端との間には、シール部材としてのパッキン341dが上下に圧縮されるように配置されている。これにより封止性が高められ、蒸着材料の漏れを抑制することができる。
【0030】
なお、下方部分341bと嵌合部341cとが重なる部分における厚み(両者を合わせた肉厚)は、上方部分341aと略同じ厚みを有しており、この部分も、本発明における第1肉厚部分に含まれる。また、第1肉厚部分としての上方部分341aが、第2肉厚部分としての下方部分341bに対して容器外側に厚くなる嵌合構成としているが、容器内側に厚くなる嵌合構成としてもよい。すなわち、嵌合部341cが下方部分341b上端の内周面と重なる嵌合状態が形成されるように、嵌合部341cを上方部分341aの下端内周側から延在するように設けてもよい。この場合、パッキン341dは、嵌合部341c外側の上方部分341a下端と下方部分341b上端との間で上下に圧縮される配置構成となる。実施例3においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0031】
[実施例4]
蒸発源容器の分離構成は、上記以外にも種々採用し得る。実施例4の蒸発源容器301dは、
図6(a)に示すように、上面部331と、筒状部351及び底部311(容器本体部)とをそれぞれ別体で成形した後に、両者を一体化する構成となっている。ここで、
筒状部351の上端には、厚みが容器外側に大きくなるように外周が拡径し、上面部331下面の周縁と接続される接続部352が設けられている。上面部331(第1部分)と接続部352(第2部分の接続部)が第1肉厚部分を構成し、筒状部351の接続部352より下方の部分と底部311が第2肉厚部分(第2部分の本体部)を構成する。なお、接続部352は、厚みが容器内側に大きくなるように内周が縮径するように構成してもよく、また、内周と外周それぞれに広がる構成としてもよい。実施例4においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0032】
[実施例5]
蒸発源容器の分離構成は、上記以外にも種々採用し得る。実施例5の蒸発源容器301eは、
図6(b)に示すように、上面部361と、筒状部371及び底部311(容器本体部)とをそれぞれ別体で成形した後に、両者を一体化する構成となっている。ここで、上面部361の開口部304が開口する下面の周縁には、第1肉厚部分として筒状部371よりも大きい厚みを有して下方に突出し、筒状部371の上端と接続される接続部362が設けられている。上面部331と接続部362が第1肉厚部分を構成し、筒状部371と底部311が第2肉厚部分を構成する。本実施例では、接続部362の内径と筒状部371の内径が略一致し、接続部362が筒状部371に対して容器外側に大きくなる構成となっているが、これに限定されない。すなわち、接続部362の外径と筒状部371の外径が略一致し、接続部362が筒状部371に対して容器内側に大きくなる構成としてもよい。さらに、接続部362の内径が筒状部371の内径よりも小さく、かつ、接続部362の外径が筒状部371の外径よりも大きい構成としてもよい。実施例5においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0033】
[実施例6]
上記各実施例におけるヒータ302は、発熱体を容器301の筒状部321外周の上下に均等な間隔で巻き回しており、単位面積当たりの発熱体の占める割合が上下にわたって均等となり、容器外周にける加熱され具合(ヒータ発熱部の出力密度)は上下で均一となっている。これに対し、本実施例の蒸発源装置301fは、
図7(a)に示すように、ヒータ302aの巻き具合を、上面部331の外周面(開口部304から離れた面)及び筒状部321の上方部分に対向する領域においては、発熱部の出力密度を高めるべく密に、下方部分に対応する領域においては出力密度を抑えるべく疎にした構成となっている。なお、ヒータ302aの上方領域における出力密度を、上方領域の全ての範囲で、下方領域の出力密度よりも高くする必要はなく、本発明の効果が得られる範囲において、上方領域の一部に下方領域よりも高い出力密度の領域を有する構成としてもよい。蒸発源容器としては上記各実施例を適宜使用できる。なお、ヒータの構成は上記構成に限定されるものではなく、例えば、上面部331の外周面及び上方部分に対応する発熱部と下方部分に対応する発熱部の制御(個々の発熱量の大きさの制御)を別々に行うことが可能なヒータを用いてもよい。実施例6においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0034】
[
参考例]
参考例の蒸発源装置300gは、
図7(b)に示すように、ヒータとして実施例6のヒータ302aを用いるとともに、蒸発源容器301gが、上面部331のみが第1肉厚部分を構成し、筒状部381と底部311が第2肉厚部分を構成する。上方部分に対応する
領域において発熱部が密に構成されるヒータ302aを用いることで、上記各実施例のように筒状部381の上方部分を肉厚にしなくても、上面部331のみの厚肉化によって、上記各実施例と同様の効果を得ることができる。
参考例においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0035】
[実施例8]
上記各実施例の蒸発源装置では、蒸発源容器の出し入れのため、容器上方が開放される
ようにヒータが容器側面外周にのみ配置される構成となっている。これに対し、実施例8の蒸発源装置300hは、
図8(a)に示すように、上面部331の上面に対向する位置に配置される追加のヒータ302cを有している。実施例8においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0036】
[実施例9]
図8(b)に示すように、実施例9の蒸発源装置300iは、蒸発源容器301iが、上面部311上面の開口部304を囲むように突出成形されるノズル303を備え、かつ、ノズル303の周囲に冷却板305が設けられている。冷却板305は反射板としても良い。ノズル303は、天板部311等の第1肉厚部分よりも肉厚が小さく、ノズル303の厚みを小さくすることで、冷却板305の設置範囲を大きく取ることが可能となり、冷却板305による熱放出抑制効果を高めることが可能となる。実施例9においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0037】
[実施例10]
ノズルの形状は上記に限定されない。
図9(a)に示すように、実施例10の蒸発源装置300jの蒸発源容器301jの上面部331aに設けられたノズル303bは、先端に行くほど厚みが徐々に小さくなる形状となっている。また、厚みが徐々に小さくなるだけでなく、内径及び外径も先端に行くほど徐々に小さくなるテーパ形状となっている。実施例10においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0038】
[実施例11]
図9(b)に示すように、実施例11の蒸発源装置300kの蒸発源容器301kは、上面部331bと、筒状部321及び底部311(容器本体部)とをそれぞれ別体で成形した後に、両者を一体化する構成となっている。ここで、上面部331bの開口部304が開口する下面の周縁には、第1肉厚部分として筒状部321よりも大きい厚みを有して下方に突出し、筒状部321の上端と接続される接続部373が設けられている。接続部373は、筒状部321に近づくにつれて外周面が縮径するテーパ形状を有している。実施例11においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0039】
[実施例12]
図10に示すように、実施例12の蒸発源装置300lは、蒸発源容器301lが、開口部304及びノズル303を複数備える構成となっているとともに、容器301lの底面下方にもヒータ302dが設けられた構成となっている。また、ヒータの外側にはリフレクタ306が配置されている。各種構成は枠体400に収容されている。このような装置構成においても、上記各実施例と同様、第1肉厚部分と第2肉厚部分とから構成される蒸発源容器を用いることで、上記各実施例と同様の効果を得ることができる。実施例12においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0040】
[実施例13]
上記各実施例の蒸発源容器において、容器を2つの部分でそれぞれ別体に成形した後に両者を一体化する構成の場合には、開口部が設けられた上面部を含む方の部分を、他方の部分に対して熱伝導率のよい別材料で成形してもよい。実施例13においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0041】
[実施例14]
上記各実施例は、それぞれの構成を可能な限り互いに組み合わせることができる。
図11は、その一例である。実施例14の蒸発源装置300m、蒸発源容器301mにおいて、上記各実施例と共通する構成については同じ符号を付し、説明を省略する。実施例14においてここで特に説明しない事項は、上記実施例と同様である。
【0042】
[その他]
容器301の構成、容器301に用いられる材質、ヒータ302の構成などは、本実施例で示す構成に限定されるものではない。また、上記各実施例では、容器301において開口部304が設けられる壁部を指して上面部と称したが、容器301の配置の態様は、該上面部が上方となる配置に限定されるものではない。例えば、上記各実施例の容器301を横に倒した配置、すなわち、開口部304が容器側方の壁部に設けられるような構成が採用される場合もあり、開口部304が設けられる位置は、容器301の上方に限定されない。
【0043】
[実施例15]
<有機電子デバイスの製造方法の具体例>
上記各実施例における蒸発源容器を備える蒸発源装置を、有機電子デバイスの製造に用いた場合の一具体例を、実施例15として説明する。以下、有機電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図12(a)は有機EL表示装置60の全体図、
図12(b)は1画素の断面構造を表している。
【0044】
図12(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例にかかる有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0045】
図12(b)は、
図12(a)のA−B線における部分断面模式図である。画素62は、基板63上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施形態では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,66G,66Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層70が設けられている。
【0046】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板63を準備する。
第1電極64が形成された基板63の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
絶縁層69がパターニングされた基板63を第1の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて基板を保持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0047】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板63を第2の成膜装置に搬入し、基板保持ユニットにて保持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板63の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
電子輸送層67までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極68を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層70を成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0048】
絶縁層69がパターニングされた基板63を成膜装置に搬入してから保護層70の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
このようにして得られた有機EL表示装置は、発光素子ごとに発光層が精度よく形成される。