(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体3〜5.1質量部と、(C)離型剤0.05〜3質量部と、を含有し、前記(C)離型剤は、第3級アルキル基を有するフェノール系化合物を含み、
高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸およびジアミンを反応させて得られるカルボン酸アミド系ワックスと、
(P)カルボキシル基、酸無水物基、オキサゾリン基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基、又はイソシアナート基を有し、かつ、ポリオレフィン構造部位を原料単量体重量基準で85%以上含有するポリオレフィンと
を含有しない、管状流路形成用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
前記(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が、α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体である請求項1に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
前記フェノール系化合物は、フェノール性水酸基が結合する炭素原子に対し、オルト位の2個の炭素原子及びメタ位の2個の炭素原子の内の2個以上の炭素原子に、第3級アルキル基が結合している少なくとも1個の構造を有する請求項1又は2に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
前記フェノール系化合物は、フェノール性水酸基が結合する炭素原子に対し、オルト位の2個の炭素原子の両方に、第3級アルキル基が結合している少なくとも1個の構造を有する請求項1から3のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
射出成形等の成形方法でPAS樹脂組成物を成形する場合、得られる成形体には高い離型性が求められる。特に、管状流路を有する成形体の場合には、金型からの取り出しがより困難になりやすいため、要求される離型性のレベルはより高くなりやすい。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、優れた離型性をその成形体に付与できる管状流路形成用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、及び当該ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなり、管状流路を有する成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、離型剤として、第3級アルキル基を有するフェノール系化合物を含有するポリアリーレンサルファイド樹脂組成物により、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) (A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と、(C)離型剤と、を含有し、前記(C)離型剤は、第3級アルキル基を有するフェノール系化合物を含む、管状流路形成用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0009】
(2) 前記(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が、α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体である(1)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0010】
(3) 前記フェノール系化合物は、フェノール性水酸基が結合する炭素原子に対し、オルト位の2個の炭素原子及びメタ位の2個の炭素原子の内の2個以上の炭素原子に第3級アルキル基が結合している少なくとも1個の構造を有する(1)又は(2)に記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0011】
(4) 前記フェノール系化合物は、フェノール性水酸基が結合する炭素原子に対し、オルト位の2個の炭素原子の両方に第3級アルキル基が結合している少なくとも1個の構造を有する(1)から(3)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0012】
(5) 更に、(D)無機充填材を含む(1)から(4)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0013】
(6) 前記管状流路が分岐を有する(1)から(5)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【0014】
(7) (1)から(5)のいずれかに記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなり、管状流路を有する成形体。
【0015】
(8) 前記管状流路が分岐を有する(7)に記載の成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた離型性をその成形体に付与できる管状流路形成用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、及び当該ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなり、管状流路を有する成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0019】
<樹脂組成物>
本発明に係る管状流路形成用ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と、(C)離型剤と、を含有し、前記(C)離型剤は、第3級アルキル基を有するフェノール系化合物を含む。本発明に係る樹脂組成物を用いた場合、得られる成形体の離型性が向上しているため、長期連続成形を行っても、離型不良が生じるまでの成形回数を顕著に増大させることができる。よって、本発明に係る樹脂組成物によれば、長期にわたって、高品質の成形体を効率よく製造することができる。
【0020】
本明細書において、管状流路とは、内部を流体が通過するための管状構造を有する流路であって、少なくとも1個の流入口と少なくとも1個の流出口とを有するものをいう。管状流路は、直線状でも、曲線状でもよく、分岐を有してもよい。管状流路の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形、多角形等のいずれの形状であってもよい。管状流路の内壁面及び/又は外壁面には、凹凸があってもよく、例えば、ネジが切られていてもよい。本発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物によれば、このような凹凸を有する管状流路を形成する場合でも、成形時の離型性に優れ、所望の形状を有する管状流路を効果的に形成することができる。管状流路中を流れる流体としては、特に限定されないが、例えば、水等の水性液体が挙げられる。
以下、本発明に係る樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0021】
[(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂]
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂としては、特に限定されず、従来公知のポリアリーレンサルファイド樹脂を使用することができる。(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂としては、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂が好ましく用いられる。(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0022】
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、310℃で測定した、剪断速度1216/秒での溶融粘度が600Pa・s以下であることが好ましく、中でも8〜300Pa・sの範囲であることが、機械的物性と流動性とのバランスが優れやすい点で、特に好ましい。上記範囲内では、溶融粘度が過小となりにくいことから、得られる成形体の機械的強度が十分となりやすいため好ましい。また、上記範囲内では、溶融粘度が過大となりにくいことから、射出成形時に樹脂組成物の流動性が悪くなりにくく、成形作業が困難になる恐れが低いため好ましい。
【0023】
[(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体]
(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、特に限定されない。(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。本発明に係る樹脂組成物が(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体を含有するため、得られる成形体は耐衝撃性が向上しやすい。
【0024】
(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体が挙げられ、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体を含んでもよい。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0025】
α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α−オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα−オレフィン由来の構成単位を含むことで、得られる成形体には可撓性が付与されやすい。可撓性の付与により成形体が軟らかくなることは、耐衝撃性の改善に寄与する。
【0026】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位を含むことで、樹脂組成物中における、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の分散性が向上する効果が得られやすい。(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の分散性が向上すると、得られる成形体の機械的物性が向上する傾向があるため好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。
【0028】
α−オレフィン由来の構成単位とα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むオレフィン系共重合体、及び、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むオレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることができる。共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。上記共重合体の種類は、1種でも2種以上でもよい。上記共重合体としては、ランダム共重合体及びブロック共重合体が好ましく、1種若しくは2種以上のランダム共重合体、1種若しくは2種以上のブロック共重合体、又は1種若しくは2種以上のランダム共重合体と1種若しくは2種以上のブロック共重合体との組み合わせが、より好ましい。
【0029】
本発明に用いるオレフィン系共重合体は、本発明の効果を害さない範囲で、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0030】
より具体的には、(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
【0031】
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が好ましく、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
【0032】
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができる。
【0033】
(B)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.5〜50質量部であり、より好ましくは1〜20質量部であり、更に好ましくは3〜15質量部である。上記含有量が上記範囲内であると、樹脂組成物の成形時の流動性が低下しにくく、得られる成形体の耐衝撃性が低下しにくい。
【0034】
[(C)離型剤]
(C)離型剤は、第3級アルキル基を有するフェノール系化合物を含む限り、特に限定されない。(C)離型剤及び第3級アルキル基を有するフェノール系化合物の各々は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0035】
本明細書において、第3級アルキル基とは、メチル基の3個の水素原子全てが有機基で置換された基をいう。第3級アルキル基における上記有機基は、互いに同じでも異なっていてもよい。上記有機基としては、特に限定されず、例えば、置換基を有し又は有しない1価炭化水素基が挙げられ、離型性、取り扱い性等の観点から、置換基を有し又は有しないアルキル基が好ましい。上記1価炭化水素基の炭素数は、離型性、取り扱い性等の観点から、1〜20が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜6が更により好ましい。上記有機基は、全てメチル基であることが特に好ましい。上記置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0036】
本明細書において、フェノール系化合物とは、フェノール性水酸基を有する化合物をいう。フェノール系化合物において、フェノール性水酸基の数は、特に限定されず、離型性等の観点から、1〜10個が好ましく、1〜7個がより好ましく、1〜5個が更により好ましい。
【0037】
第3級アルキル基を有するフェノール系化合物は、フェノール性水酸基1個当たり、2個以上の第3級アルキル基を有することが好ましい。この場合、特に、離型性等の観点から、第3級アルキル基を有するフェノール系化合物は、フェノール性水酸基が結合する炭素原子に対し、好ましくはオルト位の2個の炭素原子及びメタ位の2個の炭素原子の内の2個以上の炭素原子に、より好ましくはオルト位の2個の炭素原子及びメタ位の2個の炭素原子の内の、オルト位の2個の炭素原子の少なくとも一方を含む2個以上の炭素原子に、更により好ましくはオルト位の2個の炭素原子の両方に、第3級アルキル基が結合している少なくとも1個の構造を有する。
【0038】
第3級アルキル基を有するフェノール系化合物としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ステアリル−β−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ジステアリル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート、ジステアリル(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチル)ベンジルマロネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、ビス〔3,3−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルブチルフェニル)ブチリックアシド〕グリコールエステル、4,4’−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2,4,6−トリメチルベンゼン、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス〔(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、2−オクチルチオ−4,6−ジ(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4,4’−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキシルジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−オクチルチオ−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
【0039】
(C)離型剤の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、好ましくは0.05〜5質量部であり、より好ましくは0.1〜3質量部である。上記含有量が上記範囲内であると、得られる成形体の離型性がより向上しやすい。
【0040】
[(D)無機充填材]
本発明に係る樹脂組成物は、(D)無機充填材を含んでもよい。本発明に係る樹脂組成物に(D)無機充填材を添加すると、得られる成形体の機械的強度が向上しやすい。(D)無機充填材は、特に限定されず、従来公知のものが挙げられる。(D)無機充填材の形状は、特に限定されず、繊維状であっても、球状、粉粒状、板状、鱗片状、不定形状等の非繊維状であってもよいが、繊維状であることが好ましい。(D)無機充填材としては、例えば、ガラス繊維、球状シリカ、ガラスビーズ等が挙げられ、中でも、ガラス繊維が好ましい。(D)無機充填材は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0041】
(D)無機充填材の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、好ましくは5〜300質量部であり、より好ましくは10〜100質量部である。上記含有量が上記範囲内であると、成形時の流動性を良好に維持したままで、本発明に係る樹脂組成物に(D)無機充填材を添加することによる効果を得やすい点で好ましい。
【0042】
[その他の成分]
本発明に係る樹脂組成物は、上記成分の他に、本発明の効果を大きく害さない範囲において、所望の物性付与のために、エポキシ基非含有オレフィン系化合物(エチレン−オクテン共重合体等)、バリ止め剤、有機充填材、難燃剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、カーボンブラック、離型剤、可塑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等の添加剤やその他の樹脂等の高分子を含有したものであってもよい。また、本発明に係る樹脂組成物は、離型性向上のため、滑剤、シリコーンオイル等を添加剤として、含有してもよい。
【0043】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明に係る樹脂組成物の製造方法は、この樹脂組成物中の成分を均一に混合できるものであれば特に限定されず、従来知られる樹脂組成物の製造方法から適宜選択することができる。例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出した後、得られた樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工する方法が挙げられる。
【0044】
<成形体>
本発明に係る成形体は、本発明に係るポリアリーレンサルファイド樹脂組成物からなり、管状流路を有する。上記管状流路は、分岐を有してもよい。管状流路の詳細については、上記の通りである。成形体としては、例えば、管状流路を有する水回り品が挙げられ、パイプ、バルブ等が挙げられる。本発明に係る成形体は、水回り品として使用される場合、耐衝撃性を有していることが好ましい。
【0045】
本発明に係る成形体の製造方法としては、特に限定されず、本発明に係る樹脂組成物を溶融状態で射出成形用金型内に射出して、成形体を製造する方法が挙げられる。射出成形の条件は特に限定されず、ポリアリーレンサルファイド樹脂の物性等に応じて、適宜、好ましい条件を設定することができる。また、トランスファ成形、圧縮成形等を用いる方法も本発明に係る成形体を製造する有効な方法である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<樹脂組成物の調製>
下記の原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機に投入し、溶融混練して、ペレット化した熱可塑性樹脂組成物を得た。各成分の配合量(質量部)は表1に示した通りである。
・ポリフェニレンサルファイド樹脂
A−1:フォートロンKPS W214A(製品名)、溶融粘度:130Pa・s(剪断速度:1216/秒、温度:310℃)、(株)クレハ製
・エポキシ基含有オレフィン系共重合体
B−1:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、ボンドファースト2C(製品名)、グリシジルメタクリレート由来の構成単位含有量:6質量%、住友化学(株)製
・離型剤
C−1:テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、IRGANOX 1010(製品名)、BASFジャパン(株)製
・無機充填材
D−1:ガラス繊維(チョップドストランド)、T−747(製品名)、日本電気硝子(株)製
【0048】
[溶融粘度]
東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1216/秒での溶融粘度を測定した。
【0049】
<離型性の評価>
射出成形機で下記の条件で特定の成形体を連続成形(100ショット)し、各ショットにおける離型抵抗値を測定した。具体的には、
図1に示す円筒形状の製品を成形し、離型は、円筒型成形体の下部をスリーブにより突き出して行った。離型抵抗は、離形時にスリーブにかかる応力を離型抵抗値として測定した。本発明において、離型低抗値は小さい方が離型しやすい。離型抵抗値を測定するための圧力センサは、日本キスラー(株)製9221Aを使用した。またセンサで測定したデータは(株)キーエンス製RZ3−55Rを使って変換し、モニタした。
射出成形機:FANUC ROBOSHOT α−50C
シリンダー温度:320℃
保圧力:800kg/cm
2
保圧時間:15秒
冷却時間:15秒
金型温度:145℃
【0050】
<耐衝撃性の評価>
調製した樹脂組成物について、射出成形にて、シリンダー温度320℃、金型温度150℃でシャルピー衝撃試験片を作製し、ISO179/1eAに定められている評価基準に従い、23℃の条件で評価した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
*100ショット後の相対離型抵抗値。比較例1における100ショット後の離型抵抗値を100とした。
【0052】
表1から分かる通り、(C)離型剤を含有する樹脂組成物を用いた実施例では、耐衝撃性を維持しつつ、優れた離型性が得られた。これに対し、(C)離型剤を含有しない樹脂組成物を用いた比較例では、耐衝撃性を維持したものの、離型性に劣っていた。