【文献】
畑田実香 ほか,スクリーン印刷電極を用いる糖化アルブミン計測用酵素センサの開発,電気化学会第82回大会講演要旨集,2015年 3月 9日,1M32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示の糖化タンパク測定方法は、FAODの力価測定に、電気的測定法等公知の方法を用いており、いずれも感度、データの安定性が不十分であり、実用化が困難であった。一方特許文献3のバイオセンサを用いた測定方法は、グルコース等の血液成分の測定に関するものであり、糖化タンパク質の測定への応用は未知である。
【0008】
本発明は、このような問題を解決し、簡便かつ安価に試料中の糖化タンパク質濃度を高感度測定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく、鋭意検討したところ、プロテアーゼを接触させ、糖化タンパク質から分解生成物質を生成せしめた試料に、電子メディエータとくし型電極を組み合わせて反応させることにより、驚くべきことに簡便かつ安価に試料中の糖化タンパク質濃度を高感度定量できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は以下に関する。
[1]試料中の糖化タンパク質の測定方法であって、(1)プロテアーゼにより糖化タンパク質から分解生成物質を生成せしめた試料と、酸化還元酵素と、を、電子メディエータの存在下で反応させ、還元された電子メディエータを生成せしめる工程と、(2)工程(1)における反応の状態を、くし型電極を使用して電気化学的方式で検出する工程と、を含む測定方法。
【0011】
[2]酸化還元酵素と電子メディエータを含む組成物がくし型電極上に配置されている、[1]に記載の測定方法。
【0012】
[3]酸化還元酵素がフルクトシルアミノ酸オキシダーゼである、[1]又は[2]に記載の測定方法。
【0013】
[4]電子メディエータがヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物である、[1]から[3]のいずれかに記載の測定方法。
【0014】
[5]電気化学的方式が定電位電流測定方式である、[1]から[4]のいずれかに記載の測定方法。
【0015】
[6]糖化タンパク質が糖化アルブミンである、[1]から[5]のいずれかに記載の測定方法。
【0016】
[7]くし型電極は、総面積が1.8mm
2〜4mm
2であり、電極間距離が50μm未満であり、作用極の電極幅が5μm〜50μmであり、かつ対極の電極幅が5μm〜100μmである、[1]から[6]のいずれかに記載の測定方法。
【0017】
[8]上記(1)工程におけるフルクトシルアミノ酸オキシダーゼの濃度が12U/mL以上である、[3]に記載の測定方法。
【0018】
[9]上記(1)工程におけるヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物の濃度が300mmol/L以上である、[4]に記載の測定方法。
【0019】
[10]試料中の糖化タンパク質の測定用バイオセンサであって、(1)電子メディエータ及び酸化還元酵素を含む組成物と、(2)くし型電極と、を備え、プロテアーゼにより糖化タンパク質から生成せしめた分解生成物質を酸化還元酵素と反応させる、バイオセンサ。
【0020】
[11]試料中の糖化アルブミンの測定用バイオセンサであって、(1)300mmol/L以上のヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物及び12U/mL以上のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを含む組成物と、(2)総面積が1.8mm
2〜4mm
2であり、電極間距離が50μm未満であり、作用極の電極幅が5μm〜50μmであり、かつ対極の電極幅が5μm〜100μmであるくし型電極と、を備え、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼとヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を含む組成物がくし型電極に配置されており、プロテアーゼを接触させた糖化タンパク質から生成せしめた分解生成物質がフルクトシルアミノ酸オキシダーゼと反応させられる、バイオセンサ。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、プロテアーゼにより糖化タンパク質から分解生成物質を生成せしめた試料に、電子メディエータとくし型電極を組み合わせて反応させることによって、簡便かつ安価に試料中の糖化タンパク質濃度を高感度定量することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)につき具体的に説明する。ただし、以下の本実施の形態が、本発明を限定すべきものであると理解するべきではない。
【0024】
本実施の形態は、試料中の糖化タンパク質の測定方法であって、
(1)プロテアーゼにより糖化タンパク質から分解生成物質を生成せしめた試料と、酸化還元酵素と、を、電子メディエータの存在下で反応させ、還元された電子メディエータを生成せしめる工程と、
(2)工程(1)における反応の状態を、くし型電極を使用して電気化学的方式で検出する工程と、
を含む測定方法である。
【0025】
本実施の形態に係る方法で測定される糖化タンパク質は、タンパク質の糖化物であれば特に限定されない。例えばタンパク質に含まれるアミノ基と糖とがメイラード反応によってシッフ塩基を形成しアマドリ転位した物質が好ましいが、これに限定されない。具体的には、糖化アルブミンが一例として挙げられる。
【0026】
「プロテアーゼにより糖化タンパク質から分解生成物質を生成せしめた試料」とは、プロテアーゼと、試料が含んでいる可能性のある糖化タンパク質とを接触させ、糖化タンパク質の分解生成物質を生成せしめる行為を行った試料をいうが、実際に分解生成物質が生成されたがどうかは問わない。試料は糖化タンパク質を含む可能性のある試料であるが、測定の結果、試料が糖化タンパク質を含んでいないことが明らかになる場合もある。
【0027】
プロテアーゼは、糖化タンパク質を酸化還元酵素の基質に分解できれば特に限定されないが、例えばトリプシン(Trypsin)、キモトリプシン(Chymotrypsin)等の動物由来のプロテアーゼ、パパイン(Papain)、ブロメライン(Bromelain)等の植物由来のプロテアーゼ、微生物由来のプロテアーゼ等が挙げられる。
【0028】
微生物由来のプロテアーゼの例としては、オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ社製)等に代表されるバチルス(Bacillus)属由来プロテアーゼ、プロテアーゼタイプ−XIII(シグマ社製)等に代表されるアスペルギルス(Aspergillus)由来プロテアーゼ、PD酵素(キッコーマン社製)等に代表されるペニシリウム(Penicillium)由来プロテアーゼ、プロナーゼ(Pronase)等に代表されるストレプトマイセス(Streptomyces)由来プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼLys−c(シグマ社製)等に代表されるリソバクター(Lysobacter)由来プロテアーゼ、プロテイナーゼA(ProteinaseA;シグマ社製) 等に代表される酵母(Yeast)由来プロテアーゼ、プロテイナーゼK(Proteinase K;シグマ社製)等に代表されるトリチラチウム(Tritirachium)由来プロテアーゼ、アミノペプチダーゼT(AminopeptidaseT;ベーリンガー・マンハイム社製)等に代表されるサーマス(Thermus)由来プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼAsp−N(EndoproteinaseAsp−N;和光純薬社製)等に代表されるシュードモナス(Pseudomonus)由来、リジルエンドペプチダーゼ(Lysylendopeptidase和光純薬社製)等に代表されるアクロモバクター(Achromobacter)由来プロテアーゼが挙げられる。これらの具体的な例は1例に過ぎず、なんら限定されるものではない。好ましくはオリエンターゼ22BF(エイチビィアイ社製)である。
【0029】
本実施の形態における電子メディエータとしては特に限定されないが、例えばフェリシアン化カリウム、m−PMS(1−methoxy−5−methylphenazinium methyl sulfate)やヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を用いることができる。好ましくはヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物である。
【0030】
上記(1)工程における電子メディエータの濃度は、糖化タンパク質を測定できれば特に限定されないが、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物の場合は例えば300mmol/L以上である。300mmol/Lを下回ると、測定に必要な電流が得られない場合がある。
【0031】
本実施の形態における酸化還元酵素としては、特に限定されないが、例えば、濃度を測定しようとする糖化タンパク質のプロテアーゼ分解生成物質を基質とするフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)である。具体的には、ギベレラ(Gibberella)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ(Candida)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フサリウム(Fusarium)属、アクレモニウム(Acremonium)属又はデバリオマイセス(Debaryomyces)属由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが用いられるが、これに限定されない。上記(1)工程におけるFAODの濃度は、糖化タンパク質を測定できれば特に限定されないが、例えば12U/mL以上、好ましくは60U/mL以上である。12U/mLを下回ると、測定に必要な電流が得られない場合がある。
【0032】
本実施の形態に係る方法におけるくし型電極は、それぞれ交互に配置された作用極と対極を備える。くし型電極の形状は、糖化タンパク質を測定できれば特に限定されないが、例えば総面積が1.8mm
2〜4mm
2であり、電極間距離が50μm未満であり、作用極の電極幅が5μm〜50μmであり、かつ対極の電極幅が5μm〜100μmである。
【0033】
本実施の形態におけるくし型電極の製造方法としては、以下の4つの態様を挙げることができる。
(1)電気絶縁性の基板上に貴金属の膜を形成し、その上にスクリーン印刷法によりレジストをくし型形状に印刷して、レジストで覆われていない部分の貴金属の膜をエッチングする。その後、レジストを除去することにより、くし型電極を形成する。
(2)電気絶縁性の基板上に貴金属の膜を形成し、その上にレジストを塗布又は貼付し、フォトマスクを介して露光を行なってくし型電極を形成する部分のレジストを硬化させる。その後、くし型電極を形成する部分以外のレジスト及び貴金属の膜をエッチングし、さらに、くし型電極を形成する部分のレジストを除去することにより、くし型電極を形成する。
(3)電気絶縁性の基板上に、製造すべきくし型電極パターンを抜いたテンプレートを重ね、テンプレートを介して電気絶縁性の基板上に貴金属の膜を形成した後、テンプレートを除去することにより、くし型電極を形成する。
(4)電気絶縁性の基板上に、スクリーン印刷法により、くし型電極を形成しない部分にレジストを印刷し、電気絶縁性の基板及びレジスト上に貴金属の膜を形成する。その後、レジスト及びレジスト上に形成された貴金属の膜を除去することにより、くし型電極を形成する。
電気絶縁性の基板の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、及びエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。貴金属としては、例えば、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、及びこれらの混合物が挙げられる。ただし、くし型電極の製造方法は、上記に限定されない。
【0034】
本実施の形態に係る方法における電気化学方式としては、公知の方法を用いればよい。例えば定電位法等が用いられるが、これに限定されない。
【0035】
定電位法による糖化タンパク質の測定原理の一例は、以下のとおりである。まず試料中に含まれる糖化タンパク質にプロテアーゼを接触させ、糖化タンパク質の分解生成物質を生成せしめる。次に、生成した糖化タンパク質の分解生成物質を、酸化還元酵素で酸化する。分解生成物質の酸化反応により、その酸化反応の電子受容体としての電子メディエータが還元される。くし型電極に定電位を印加すると、還元された電子メディエータが再酸化され、応答電流が得られる。当該応答電流の強さは、糖化タンパク質の濃度と相関するため、応答電流の値を測定することにより、糖化タンパク質の濃度を測定することが可能となる。
【0036】
本実施の形態における方法においては、電子メディエータと共に酸化還元酵素をくし型電極上に配置する場合があるが、これに限定されない。電子メディエータと酸化還元酵素をくし型電極上に配置する方法としては、公知の方法を用いればよい。例えば、電子メディエータと酸化還元酵素の混合液をくし型電極上に滴下した後、乾燥させて配置させる、乾燥等が用いられるが、これに限定されない。
【0037】
また、本実施の形態は、試料中の糖化タンパク質の測定用バイオセンサであって、
(1)電子メディエータ及び酸化還元酵素を含む組成物と、
(2)くし型電極と、
を備え、プロテアーゼにより糖化タンパク質から生成せしめた分解生成物質を酸化還元酵素と反応させる、バイオセンサである。
【0038】
本実施の形態に係るバイオセンサで測定される糖化タンパク質は、タンパク質に含まれるアミノ基と糖とがメイラード反応によってシッフ塩基を形成しアマドリ転位した物質であれば、特に限定されないが、例えば糖化アルブミンである。
【0039】
「プロテアーゼにより糖化タンパク質から分解生成物質を生成せしめた試料」とは、プロテアーゼと、試料が含んでいる可能性のある糖化タンパク質とを接触させ、糖化タンパク質の分解生成物質を生成せしめる行為を行った試料をいうが、実際に分解生成物質が生成されたかどうかは問わない。
【0040】
試料は糖化タンパク質を含む可能性のある試料であるが、測定の結果、試料が糖化タンパク質を含んでいないことが明らかになる場合もある。プロテアーゼは、糖化タンパク質を酸化還元酵素の基質に分解できれば特に限定されないが、例えばトリプシン(Trypsin)、キモトリプシン(Chymotrypsin)等の動物由来のプロテアーゼ、パパイン(Papain)、ブロメライン(Bromelain)等の植物由来のプロテアーゼ、微生物由来のプロテアーゼ等が挙げられる。
【0041】
微生物由来のプロテアーゼの例としては、オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ社製)等に代表されるバチルス(Bacillus)属由来プロテアーゼ、プロテアーゼタイプ−XIII(シグマ社製)等に代表されるアスペルギルス(Aspergillus)由来プロテアーゼ、PD酵素(キッコーマン社製)等に代表されるペニシリウム(Penicillium)由来プロテアーゼ、プロナーゼ(Pronase)等に代表されるストレプトマイセス(Streptomyces)由来プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼLys−c(シグマ社製)等に代表されるリソバクター(Lysobacter)由来プロテアーゼ、プロテイナーゼA(ProteinaseA;シグマ社製) 等に代表される酵母(Yeast)由来プロテアーゼ、プロテイナーゼK(Proteinase K;シグマ社製)等に代表されるトリチラチウム(Tritirachium)由来プロテアーゼ、アミノペプチダーゼT(AminopeptidaseT;ベーリンガー・マンハイム社製)等に代表されるサーマス(Thermus)由来プロテアーゼ、エンドプロテイナーゼAsp−N(EndoproteinaseAsp−N;和光純薬社製)等に代表されるシュードモナス(Pseudomonas)由来、リジルエンドペプチダーゼ(Lysylendopeptidase和光純薬社製)等に代表されるアクロモバクター(Achromobacter)由来プロテアーゼが挙げられる。これらの具体的な例は1例に過ぎず、なんら限定されるものではない。好ましくはオリエンターゼ22BF(エイチビィアイ社製)である。
【0042】
本実施の形態に係るバイオセンサにおける電子メディエータとしては特に限定されないが、例えばフェリシアン化カリウム、m−PMS(1−methoxy−5−methylphenazinium methyl sulfate)やヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を用いることができる。好ましくはヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物である。
【0043】
電子メディエータの濃度は、糖化タンパク質を測定できれば特に限定されないが、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物の場合、バイオセンサに試料溶液を加えたときに、例えば300mmol/L以上となるよう設定される。300mmol/Lを下回ると、測定に必要な電流が得られない場合がある。
【0044】
本実施の形態に係るバイオセンサにおける酸化還元酵素としては、特に限定されないが、例えば、濃度を測定しようとする糖化タンパク質のプロテアーゼ分解生成物質を基質とするフルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)である。具体的には、ギベレラ(Gibberella)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、カンジダ(Candida)属、ペニシリウム(Penicillium)属、フサリウム(Fusarium)属、アクレモニウム(Acremonium)属又はデバリオマイセス(Debaryomyces)属由来のフルクトシルアミノ酸オキシダーゼが用いられるが、これに限定されない。FAODの濃度は、糖化タンパク質を測定できれば特に限定されないが、バイオセンサに試料溶液を加えたときに、例えば12U/mL以上となるよう設定される。12U/mLを下回ると、測定に必要な電流が得られない場合がある。
【0045】
本実施の形態に係るバイオセンサにおけるくし型電極は、それぞれ交互に配置された作用極と対極を備える。くし型電極の形状は、糖化タンパク質を測定できれば特に限定されないが、例えば総面積が1.8mm
2〜4mm
2であり、電極間距離が50μm未満であり、作用極の電極幅が5μm〜50μmであり、かつ対極の電極幅が5μm〜100μmである。
【0046】
また本実施の形態に係るバイオセンサにおけるくし型電極の製造方法としては、以下の4つの態様を挙げることができる。
(1)電気絶縁性の基板上に貴金属の膜を形成し、その上にスクリーン印刷法によりレジストをくし型形状に印刷して、レジストで覆われていない部分の貴金属の膜をエッチングする。その後、レジストを除去することにより、くし型電極を形成する。
(2)電気絶縁性の基板上に貴金属の膜を形成し、その上にレジストを塗布又は貼付し、フォトマスクを介して露光を行なってくし型電極を形成する部分のレジストを硬化させる。その後、くし型電極を形成する部分以外のレジスト及び貴金属の膜をエッチングし、さらに、くし型電極を形成する部分のレジストを除去することにより、くし型電極を形成する。
(3)電気絶縁性の基板上に、製造すべきくし型電極パターンを抜いたテンプレートを重ね、テンプレートを介して電気絶縁性の基板上に貴金属の膜を形成した後、テンプレートを除去することにより、くし型電極を形成する。
(4)電気絶縁性の基板上に、スクリーン印刷法により、くし型電極を形成しない部分にレジストを印刷し、電気絶縁性の基板及びレジスト上に貴金属の膜を形成する。その後、レジスト及びレジスト上に形成された貴金属の膜を除去することにより、くし型電極を形成する。
電気絶縁性の基板の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、及びエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。貴金属としては、例えば、金、白金、銀、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、及びこれらの混合物が挙げられる。ただし、くし型電極の製造方法は、上記に限定されない。
【0047】
本実施の形態に係るバイオセンサは、電気化学方式で、糖化タンパク質の分解生成物質と酸化還元酵素との反応の状態を検出する。電気化学方式としては、公知の方法を用いればよい。例えば定電位法等が用いられるが、これに限定されない。
【0048】
定電位法による糖化タンパク質の測定原理の一例は、以下のとおりである。まず試料中に含まれる糖化タンパク質にプロテアーゼを接触させ、糖化タンパク質の分解生成物質を生成せしめる。次に、生成した糖化タンパク質の分解生成物質を、バイオセンサの酸化還元酵素で酸化する。分解生成物質の酸化反応により、その酸化反応の電子受容体としての電子メディエータが還元される。くし型電極に定電位を印加すると、還元された電子メディエータが再酸化され、応答電流が得られる。当該応答電流の強さは、糖化タンパク質の濃度と相関するため、応答電流の値を測定することにより、糖化タンパク質の濃度を測定することが可能となる。
【0049】
本実施の形態に係るバイオセンサにおいては、電子メディエータと共に酸化還元酵素をくし電極上に配置する場合があるが、これに限定されない。電子メディエータと酸化還元酵素をくし型電極上に配置する方法としては、公知の方法を用いればよい。例えば、電子メディエータと酸化還元酵素の混合液をくし型電極上に滴下した後、乾燥させて配置させる、乾燥等が用いられるが、これに限定されない。
【0050】
さらに、本実施の形態は、試料中の糖化アルブミンの測定用バイオセンサであって、
(1)試料溶液を加えられたときに300mmol/L以上となるよう設定されたヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物及び試料溶液を加えられたときに12U/mL以上となるよう設定されたフルクトシルアミノ酸オキシダーゼを含む組成物と、
(2)総面積が1.8mm
2〜4mm
2であり、電極間距離が50μm未満であり、作用極の電極幅が5μm〜50μmであり、かつ対極の電極幅が5μm〜100μmであるくし型電極と、
を備え、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼとヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を含む組成物がくし型電極に配置されており、プロテアーゼにより糖化タンパク質から生成せしめた分解生成物質をフルクトシルアミノ酸オキシダーゼと反応させる、バイオセンサであり得る。
【実施例】
【0051】
以下、試料中の糖化アルブミン濃度(GA)を、フルクトシルアミノ酸オキシダーゼ(FAOD)を利用して測定した実施例について説明するが、測定対象の試料や用いる酵素等がこれらに限られないことは、もちろんである。糖化アルブミン測定は以下の原理に基づいている。まず試料中に含まれるGAをプロテアーゼにより消化し、リジン残基のε位のアミノ基が糖化された構造である、フルクトシルリジン(ε−FK)を遊離させる。遊離のε−FKをFAODにより酸化する。ε−FKの酸化反応により、その酸化反応の電子受容体としての人工電子受容体(メディエータ)が還元される。くし型電極に定電位を印加すると、還元されたメディエータが再酸化され、応答電流が得られる。当該応答電流の強さは、GAの濃度と相関するため、応答電流の値を測定することにより、GAの濃度を測定することが可能となる。以下の実施例では、ε−FKの合成基質としてα位のアミノ基がベンジルオキシカルボニル基でマスクされた、ベンジルオキシカルボニル−フルクトシルリジン(Z−FK)を用いた。
【0052】
(実施例1)FAOD濃度の最適化
<試薬(終濃度)>
・10mmol/L リン酸カリウム緩衝液(PPB) (pH8.0)
・FAOD(1.2〜240U/mL)
・ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(100mmol/L)
<基質(終濃度)>
・Z−FK溶液(0〜500μmol/L)
<使用電極>
・くし型電極(国際公開第2014/112569号に記載の田中貴金属社開発のくし型電極)
【0053】
FAODを40mmol/L PPBに4.8、9.6、24、48、96、192、240、480、640、960U/mLになるように溶解した。ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を400mmol/Lになるように精製水に溶解した。Z−FKを100、200、600、1000μmol/Lになるように精製水に溶解した。
【0054】
FAOD溶液3μL、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物水溶液3μLを混合した後に、Z−FK水溶液又は精製水を6μLと混合した。この時、FAODの終濃度は1.2、2.4、6、9、12、24、48、60、120、160、240U/mLとなり、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物の終濃度は100mmol/Lとなり、Z−FKの終濃度は0、50、100、300、500μmol/Lとなる。上記混合液をくし型電極の作用極及び対極上に3μL滴下した。室温で60秒反応させた後、100mV印加して定電位測定をおこない、5秒後の電流値をそれぞれ比較した。感度(電流値/Z−FK濃度)と、FAOD濃度との関係を解析した結果、
図1に示すように、FAOD濃度依存的に感度の上昇が観察された。観察の結果、FAODを終濃度で12U/mL以上含ませると感度が安定し、60U/mL以上含ませると、反応効率が十分良いと考えられた。
【0055】
(実施例2)メディエータ濃度の最適化
<試薬(終濃度)>
・10mmol/L リン酸カリウム緩衝液(PPB) (pH8.0)
・FAOD (12U/mL)
・ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(1〜400mmol/L)
<基質(終濃度)>
・Z−FK溶液(0〜500μmol/L)
<使用電極>
・くし型電極(国際公開第2014/112569号に記載の田中貴金属社開発のくし型電極)
FAODを120mmol/L PPBに144U/mLになるように溶解した。ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を4、40、200、400、600、800、1200、1600mmol/Lになるように精製水に溶解した。Z−FKを75、150、450、750μmol/Lになるように精製水に溶解した。
【0056】
FAOD溶液1μL、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物水溶液3μLを混合した後に、Z−FK水溶液又は精製水8μLと混合した。この時、FAODの終濃度は12U/mLとなり、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物の終濃度は1、10、50、100、150、300、400mmol/Lとなり、Z−FKの終濃度は0、50、100、300、500μmol/Lとなる。上記混合液をくし型電極の作用極及び対極上に3μL滴下し、室温で60秒反応させた後、100mV印加して定電位測定をおこない、5秒後の電流値をそれぞれ比較した。感度(電流値/Z−FK濃度)と、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物濃度との関係を解析した結果、
図2に示すように、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物の濃度依存的に、感度の上昇が観察された。観察の結果、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を終濃度で300mmol/L以上含ませることが好ましいことが判明した。
【0057】
(実施例3)カーボン印刷電極とくし型電極の比較
<試薬(終濃度)>
・10mmol/L リン酸カリウム緩衝液(PPB) (pH8.0)
・FAOD (60U/mL)
・ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(300mmol/L)
<基質(終濃度)>
・Z−FK水溶液(0〜500μmol/L)
<使用電極>
・くし型電極(国際公開第2014/112569号に記載の田中貴金属社開発のくし型電極)
・カーボン印刷電極(バイオデバイステクノロジー社製)
【0058】
FAODを120mmol/L PPBに720U/mLになるように溶解した。ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を1200mmol/Lになるように精製水に溶解した。Z−FKを75、150、450、750μmol/Lになるように精製水に溶解した。
【0059】
FAOD溶液1μL、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物水溶液3μLを混合した後に、Z−FK水溶液を8μL混合した。くし型電極とカーボン印刷電極のそれぞれに3μL滴下して、60秒反応させ、100mV印加して定電位測定をおこない、5秒後(くし型電極)、20秒後(カーボン印刷電極)の電流値を比較した。Z−FK濃度と、電流値と、の相関を解析した結果、
図3に示すカーボン印刷電極と比較して、
図4に示すくし型電極におけるZ−FK測定時の検量線の傾きが約7倍になった。また、くし型電極を用いた場合の方が観察される電流密度が高かった。即ち、観察される電流値を作用極の面積で除した値;電流密度をくし型電極とカーボン印刷電極とで比較すると、例えば、今回の計測の最高濃度であるZ−FK濃度500μmol/Lにおいて、それぞれ、1.91μA/mm
2及び119nA/mm
2となり、くし型電極で観察される電流密度はカーボン印刷電極で観察される電流密度の約16倍であった。このように、くし型電極を適用することで高感度化が達成されることが判明した。
【0060】
(実施例4)くし型電極への試薬の配置
<試薬(終濃度)>
・10mmol/L リン酸カリウム緩衝液(PPB) (pH8.0)
・FAOD (60U/mL)
・ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(300mmol/L)
・スクロース(0.25%)和光純薬工業製
<基質(終濃度)>
・Z−FK水溶液(0〜500μmol/L)
<使用電極>
・くし型電極(国際公開第2014/112569号に記載の田中貴金属社開発のくし型電極)
・カーボン印刷電極(バイオデバイステクノロジー社製)
【0061】
FAODを120mmol/L PPBに720U/mLになるように溶解した。ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を1200mmol/Lになるように精製水に溶解した。スクロースを0.375%になるように精製水に溶解した。Z−FKを終濃度50、100、300、500μmol/Lになるように精製水に溶解した。FAOD溶液1μL、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物水溶液3μL、及びスクロース8μLを混合した後に、カバー付きのくし型電極及びカーボン印刷電極にそれぞれ0.8μLと1.3μL吸引させ、25℃の恒温インキュベータで30分乾燥させてFAODを配置したセンサを作製した。作製したFAODが配置されたセンサに、Z−FK溶液をそれぞれ0.8μLと1.3μL吸引させた。60秒反応させた後、100mV印加して定電位測定をおこない、それぞれ、5秒後(くし型電極)、20秒後(カーボン印刷電極)の電流値を比較した。Z−FK濃度と電流値の相関を解析した結果、
図5に示すとおり、カーボン印刷電極と比較して、くし型電極を用いた時に、Z−FK測定時の検量線の傾きが約6倍になった。また、くし型電極を用いた場合の方が観察される電流密度が高かった。即ち、観察される電流値を作用極の面積で除した値;電流密度をくし型電極とカーボン印刷電極とで比較すると、例えば、今回の計測の最高濃度であるZ−FK濃度500μmol/Lにおいて、それぞれ、1.44μA/mm
2及び114nA/mm
2となり、くし型電極で観察される電流密度はカーボン印刷電極で観察される電流密度の約13倍であった。くし型電極の適用によって高感度に測定可能なセンサを作製することができた。
【0062】
(実施例5)糖化アルブミンのプロテアーゼ消化物の測定
<サンプル>
・糖化アルブミン(Low/High)
<試薬1(終濃度)>
・オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ社製) (50mg/mL)
<試薬2(終濃度)>
・10mmol/L リン酸カリウム緩衝液(PPB) (pH8.0)
・FAOD (60U/mL)
・ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物(300mmol/L)
・スクロース(0.25%) 和光純薬工業社製
<使用電極>
・くし型電極(国際公開第2014/112569号に記載の田中貴金属社開発のくし型電極)
・カーボン印刷電極(バイオデバイステクノロジー社製)
【0063】
オリエンターゼ22BF(エイチビィアイ社製)を50mg/mLになるように精製水に溶解した。また、糖化アルブミン(Low/High)と、オリエンターゼ22BF溶液と、を1:1の容量比で混合して、37℃、1時間反応させ、糖化アルブミンのプロテアーゼ消化物を作製した。さらに、FAODを120mmol/L PPBに720U/mLになるように溶解し、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物を1200mmol/Lになるように精製水に溶解し、スクロースを0.375%になるように精製水に溶解し、Z−FKを終濃度50、100、300、500μmol/Lになるように精製水に溶解した。
【0064】
FAOD溶液1μL、ヘキサアンミンルテニウム(III)塩化物水溶液3μL、及びスクロース8μLを混合した後に、カバー付きのくし型電極及びカーボン印刷電極にそれぞれ0.8μLと1.3μL吸引させ、25℃の恒温インキュベータで30分乾燥させてFAOD配置センサを作製した。FAODが配置されたセンサにプロテアーゼ消化物を、それぞれ0.8μL(くし型電極)、1.3μL(カーボン印刷電極)吸引させた後に、60秒反応させ、100mV印加して定電位測定をおこない、それぞれ、5秒後(くし型電極)、20秒後(カーボン印刷電極)の電流値を比較した。糖化アルブミン(Low/High)測定時の電流値の差を解析した結果、カーボン印刷電極では、
図6に示すとおり、20秒後の電流値の差異が21nAであったが、くし型電極では、
図7に示すとおり、5秒後の電流値の差異が104nAであった。従来のカーボン印刷電極と比較して、糖化アルブミン測定時においても、くし型電極の適用によって高感度に測定することができることが示された。