特許第6576257号(P6576257)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576257
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】荷電粒子検出器、及び荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20190909BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20190909BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20190909BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20190909BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   H01J37/244
   H01J37/28 B
   H01J49/06
   C09K11/00 E
   C09K11/62CQF
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-15025(P2016-15025)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-135039(P2017-135039A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】今村 伸
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 卓
(72)【発明者】
【氏名】土屋 朋信
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−032029(JP,A)
【文献】 特開2005−298603(JP,A)
【文献】 特開2009−080124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/244
C09K 11/00
C09K 11/62
H01J 37/28
H01J 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaInNを含む層と、GaN層が積層された積層構造を含む発光部を備えた荷電粒子検出器であって、
前記積層構造の荷電粒子入射面側に、前記GaInNを含む層と接する導電層を備えたことを特徴とする荷電粒子検出器。
【請求項2】
請求項1において、
前記GaInNを含む層の厚さaと、GaN層の厚さbの関係は、b/a≧6であることを特徴とする荷電粒子検出器。
【請求項3】
請求項1において、
前記発光部は、厚さが荷電粒子線の侵入距離の5分の1から5分の3の範囲にあることを特徴とする荷電粒子検出器。
【請求項4】
請求項1において、
前記GaInNを含む層の層数は、5〜25の範囲にあることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記発光部は、基板上に形成されると共に、当該基板と前記発光部との間、或いは基板に、連続的に形成されたピッチ10〜2000nm、高さ10〜20000nmの突起状の構造物が形成されていることを特徴とする荷電粒子検出器。
【請求項6】
荷電粒子源から放出された荷電粒子線の照射に基づいて得られる荷電粒子を検出する検出器を備えた荷電粒子線装置において、
前記検出器は、GaInNを含む層と、GaN層が積層された積層構造を含む発光部を備え、前記積層構造の荷電粒子入射面側に、前記GaInNを含む層と接する導電層を備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
質量分離されたイオンを検出する検出器を備えた質量分析装置において、
前記検出器GaInNを含む層と、GaN層が積層された積層構造を含む発光部を備え、前記積層構造の荷電粒子入射面側に、前記GaInNを含む層と接する導電層を備えたことを特徴とする質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子検出器、及び荷電粒子線装置に係り、特に、量子井戸構造を備えた荷電粒子検出器、及び当該荷電粒子検出器を備えた荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子ビーム等の荷電粒子ビームを照射することによって得られる荷電粒子を検出する荷電粒子線装置には、荷電粒子を検出するための検出器が備えられている。例えば電子ビームを試料に走査することによって、試料から放出された電子を検出する場合、電子検出器に10kV程度の正電圧を印加することによって、電子を検出器のシンチレータに導く。電子の衝突によってシンチレータにて発生した光はライトガイドに導かれ、光電管などの受光素子によって電気信号に変換され、画像信号や波形信号となる。
【0003】
特許文献1には、基板上に形成されたInGaN/GaN量子井戸層を含む発光体を有するシンチレータが開示されている。また、InGaN/GaN量子井戸層上には、当該InGaN/GaN量子井戸層を含む窒化物半導体層の構成材料よりもバンドキャップエネルギが大きいキャップ層と、更にその上層にAlで構成されるメタルバック層を設けることが説明されている。
【0004】
特許文献2には、GaInNとGaNが交互に積層された多層構造上に、GaNの層を成長させたキャップ層を設け、更にその上層に電子入射時の帯電防止のためのAl薄膜を蒸着することが説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−298603号公報(対応米国特許USP7,910,895)
【特許文献2】特開2014−32029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シンチレータに入射する電子は負の電荷を持っている。このような電子がシンチレータ内に残っていると、その後に入射する電子と反発し、電子の入射量を低下させてしまう。また、残留電子には、シンチレータに入射した後、少し時間をおいて発光するものがあり、発光速度低下の原因となる。特許文献1、2に記載されているように、量子井戸層の上層に形成されたキャップ層が、残留電子を量子井戸層内に残留させる要因となることが、発明者らの検討で明らかになった。
【0007】
以下に、高い発光出力を獲得しつつ、シンチレータに入射する荷電粒子を速やかに排除することを目的とする荷電粒子検出器、及び荷電粒子線装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための一態様として、以下に、GaInNを含む層と、GaN層が積層された積層構造を含む発光部を備えた荷電粒子検出器であって、前記積層構造の荷電粒子入射面側に、前記GaInNを含む層と接する導電層を備えた荷電粒子検出器を提案する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、高い発光出力を獲得しつつ、シンチレータに入射する荷電粒子を速やかに排除することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電子顕微鏡の基本構成を示す図。
図2】シンチレータの構成を示す図。
図3】シンチレータの発光スペクトルを示す図。
図4】量子井戸層の時間変化に対する発光強度の変化を示す図。
図5】シンチレータの構造毎の発光スペクトルを示す図。
図6】シンチレータの発光強度の時間変化を示す図。
図7】量子井戸層と隔壁層の比率と発光強度の関係を示す図。
図8】質量分析装置の構成を示す図。
図9】量子井戸構造3の厚さと発光強度との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面等を用いて、シンチレータを検出素子とする検出器を備えた荷電粒子線装置について説明する。以下、電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡の例について説明するが、これに限られることなく、以下に説明する実施例は、イオンビームを用いた走査イオン顕微鏡などの他の荷電粒子線装置への適用も可能である。また、走査電子顕微鏡を用いた半導体パターンの計測装置、検査装置、観察装置等にも適用可能である。
【0012】
本明細書でのシンチレータとは、荷電粒子線を入射して発光する素子を指すものとする。本明細書におけるシンチレータは、実施例に示されたものに限定されず、様々な形状や構造をとることができる。
【0013】
図1は、電子顕微鏡の基本構成を示す図である。電子源9から放出された一次電子線12が試料8に照射され、二次電子や反射電子等の二次粒子14が放出される。この二次粒子14を引き込み、シンチレータSに入射させる。シンチレータSに二次粒子14が入射するとシンチレータSで発光が起こる。シンチレータSの発光は、ライトガイド11により導光され、受光素子7で電気信号に変換する。以下、シンチレータS、ライトガイド11、受光素子7を合わせて検出系と呼ぶこともある。
【0014】
受光素子7で得られた信号を電子線照射位置と対応付けて画像に変換し表示する。一次電子線12を試料に集束して照射するための電子光学系、すなわち偏向器やレンズ、絞り、対物レンズ等は図示を省略している。電子光学系は電子光学鏡筒10に設置されている。また、試料8は試料ステージに載置されることで移動可能な状態となっており、試料8と試料ステージは試料室13に配置される。試料室6は、一般的には電子線照射の時には真空状態に保たれている。また、電子顕微鏡には図示しないが全体および各部品の動作を制御する制御部や、画像を表示する表示部、ユーザが電子顕微鏡の動作指示を入力する入力部等が接続されている。
【0015】
この電子顕微鏡は構成の一つの例であり、シンチレータ、ライトガイド、受光素子を備えた電子顕微鏡であれば、他の構成でも適用が可能である。また、二次粒子7には、透過電子、走査透過電子等も含まれる。また、簡単のため、検出器は1つのみ示しているが、反射電子検出用検出器と二次電子検出用検出器を別々に設けてもよいし、方位角または仰角を弁別して検出するために複数の検出器を備えていてもよい。
【0016】
以下、シンチレータの具体的構成について説明する。図2は実施例1のシンチレータSを示す模式図である。シンチレータ発光部1の材料はGaNを含む量子井戸構造による発光素子を用いる。
【0017】
実施例1のシンチレータ発光部1の構造及び作製方法として、サファイア基板6上にGaNバッファ層4を成長させ、その上にGa1−x−yAlInN(但し0≦x<1、0≦y<1)を含む層を、組成を変えて多数の層を成長させ、量子井戸構造3を形成した。その上に直接Al層2(導電層)を形成した。このAl層2は、荷電粒子線装置内において、検出対象となる荷電粒子が入射する側に形成される。
【0018】
サファイア基板は2インチφの円盤状であり、バッファ層の厚さcは3〜10μmの範囲の厚さに成長させた。量子井戸構造3はGa1−yInNの組成を持つ量子井戸層21とGaNの組成を持つ隔壁層22が交互に2周期〜30周期の範囲で重なったものであり、その厚さは20nm〜1000nmの範囲であり、この構造上に、Al層2を40〜200nmの厚さの範囲で蒸着により形成し、電子入射時の帯電防止とした。これから所定のサイズに切り出したものをシンチレータとして用いた。上述のようなシンチレータの発光スペクトルの一例を図3に示す。
【0019】
これらの量子井戸層、及び障壁層は、厚さ及び組成はすべて同じでなくてもかまわない。また、発光部1と、サファイア基板6の界面5は、平面でもよいし、凹凸のある構造でもかまわない。例えば、構造ピッチ10〜1000nmかつ構造高さ10〜10000nmの突起状構造が連続的に形成されている構造が形成されていれば、発光の取り出しによる発光出力向上に効果的である。
【0020】
本実施例の構成では、Al層の直下の位置に量子井戸層21がある。Al層に接する層は、Ga1−yInN(但し0<y<1)の組成を持ち、GaNよりバンドギャップエネルギが小さい量子井戸層21である。この層はInを含むことで、電導率がGaN層より高くなっており、さらに、バンドギャップが小さいため、電子が流れ込みやすくなっている。このため、量子井戸構造3に入射された電子が、直ちにAl層に移動することができる。Al層は導体で設置されており、電子はシンチレータ発光部1に留まることなく排除される。
【0021】
量子井戸構造3に入射した電子が直ちに排除されない場合、残留した電子はマイナスのチャージとなり、その後に入射する電子への斥力として働き、電子の入射量を減らし、発光出力の低下を招く。また、残留した電子には、入射後に少し時間をおいて発光する遅延発光を生じさせるものがあり、発光の高速性を損ねる原因となる。
【0022】
上記構成によれば、入射後の電子が直ちに排除されることにより、発光出力の増加と、発光の高速化を得ることができる。
【0023】
図4に、入射後の発光出力の変化を、ns単位の極めて高速に評価した結果を示す。図4(a)は、GaInNa層にAl層を直接接触させた場合の時間変化に対する発光強度の変化を示す図である。一方、図4(b)は、GaNなどのバンドギャップが大きい層上にAl層を形成した場合の発光強度の変化を示す図である。図4(b)では、発光が立ち上がった後、数十nsに渡り発光が残る様子がわかる。これは、残留した電子が、数十nsの遅延発光の要因となり、このような発光となる。このような発光は、高速性を損ない、装置の特性を低下させることになる。一方、図4(a)では、発光が立ち上がった後、10ns以下で発光が消えることがわかる。これは、残留した電子が直ちに排除されていることが一つの要因である。
【0024】
図5は、GaInNa層にAl層を直接接触させたシンチレータの発光スペクトル(実施例)と、GaN層にAl層を形成したシンチレータの発光スペクトル(比較例)を示す図である。比較例は、サファイア基板6上に成長させたGaNバッファ層4の厚さが2.5μm以下のものである。
【0025】
主な発光は350nm〜450nmの間にピークがある。ここでは、波長460nm以上の発光に注目する。460nm以上の範囲では、発光を100倍に拡大して図5に示している。比較例では、460nm〜700nmの範囲において、発光が見られる。実施例では、前記範囲での発光はほとんど見られていない。
【0026】
電子線は、例えば10kVで加速された場合、本実施例の材料には、およそ1μm程度の深さまで侵入すると考えられる。このとき、量子井戸構造3の厚さを突き抜けて、バッファ層4に侵入する。ここで、バッファ層のGaNに不純物や、結晶の欠陥が多く含まれていれば、電子線により発光が生じる。比較では、バッファ層が薄いため、電子線が到達する深さにおいて、GaN結晶に多くの不純物や欠陥が含まれており、460nm〜700nmの範囲での発光が生じると考えられる。
【0027】
実施例では、バッファ層の厚さを3μm以上とし、また、バッファ層の成長温度を1000℃以上とした。これにより、電子線が侵入する深さのバッファ層は、結晶性が良好となり、不純物や欠陥が少なくなっている。これにより、460nm〜700nmの範囲の発光がほとんど見られない結果となっている。
【0028】
この460nm〜700nmの範囲の発光は、量子井戸層の再結合による発光ではないため、発光の応答時間が長い。このため、この範囲の発光があるものは、発光の減衰時間が長くなる。図6に、秒単位での発光の変化を示す。これは、電子線の入射の後に、発光が減衰していく様子を比較したものである。比較例では、5秒後で、1/100程度までして減衰していないが、実施例では、2秒後で1/100000程度まで減衰している。
【0029】
発光の減衰時間が長いと、電子の入射間隔を短くすることができず、高速に測定を行うことができない。実施例では減衰時間が十分短く、高速な測定が可能である。
【0030】
このように、本実施例における光の応答特性は、比較例に比べ大幅に高速となっていることが示された。このシンチレータを有する検出器を用いた構成により、高速なスキャンが可能な、高性能な荷電粒子線検出器を得た。
【0031】
なお、図2に例示したシンチレータを以下に示すような条件で作成することがより望ましい。より好適な条件を見出すために障壁層22の厚さbと、量子井戸層21の厚さaの比率b/aを変化させて作製した。作製範囲はb/aが1.5〜10の範囲であり、量子井戸層21の厚さaが2〜4nmの範囲である。
【0032】
量子井戸層21は、一般的に4nm以下の厚さで量子効果が大きくなり、発光波長の短波長へのシフトや、発光効率の増加が見込める。しかし、このとき、障壁層22の厚さが薄いと、結晶性が低下し発光強度が減少する場合がある。また、電子線の侵入距離に比べ、量子井戸構造3の厚さが薄すぎると、電子線が十分利用されず発光強度が減少する場合がある。これらの効果において、もっとも発光強度が強くなる範囲を新たに見出した。
【0033】
図7は、比率b/aと発光強度との関係を示す図である。この図より、比率b/aが5程度まで発光強度も増加していくが、比率b/aが6以上で発光強度はほぼ最大化することがわかった。即ち、比率b/aを6以上とすることで、強い発光強度と高速応答を両立するシンチレータとすることができる。
【0034】
高発光強度と高速応答の両立を実現するシンチレータによれば、高速なスキャンに対応することが可能となり、高速走査によっても十分なS/Nを獲得できる荷電粒子線装置の提供が可能となる。
【0035】
また、量子井戸層21の層数と、量子井戸構造3の全体厚との関係において、新たな効果を見出した。図9に、本実施例における、量子井戸構造3の全体厚に対する発光強度の変化を示す。この図は、荷電粒子線として、10kVで加速された電子線を照射した例である。量子井戸構造3の全体厚が、200nm〜600nmで発光強度が最大となることがわかる。さらに、この層厚と発光強度の関係は、10kVで加速された電子線を用いる場合には、量子井戸層22の層数が、5層〜25層と変化させても、ほぼ同様の特性となることがわかった。
【0036】
これは、量子井戸層22の層数がある程度変化しても、発光強度は量子井戸構造3の全体厚による効果が大きいことを示している。また、量子井戸構造3の全体厚と発光強度の関係は、照射する荷電粒子線の加速電圧に依存して変化することがわかった。荷電粒子線が照射された物質内に進入する距離は、加速電圧によって変化する。前記したように、10kVで加速された電子線の侵入距離は、本実施例ではおよそ1μm程度である。このことから、発光強度はどの深さまでの電子線により発光が生じるかが重要な要素となっており、発光が生じる量子井戸構造3の深さは、電子線の侵入距離の5分の1から、5分の3程度の深さがあればよいということがわかる。
【0037】
また、量子井戸層22の層数が少ないほうが、構成する結晶の乱れが少なくなり、不要な発光の要因となる結晶欠陥が減少し、発光特性に有利である。そのため、量子井戸構造3を荷電粒子線の侵入距離の2分の1以上に保っていれば、量子井戸層22の層数はある程度自由度があり、特にある範囲で少なくしたほうが、発光特性がよいことが示されている。本実施例の検討により、その層数の範囲は、5〜25層であることがわかった。
【0038】
上記説明は主に、シンチレータを走査電子顕微鏡等の検出器に適用した例を説明したものであるが、質量分析装置の検出器として、上述のようなシンチレータを採用するようにしても良い。図8は質量分析器の構成を説明する図である。質量分析装置はイオンを電磁気的作用により質量分離し、測定対象イオンの質量/電荷比を計測する。質量分離部には、QMS型、iontrap型、 時間飛行(TOF)型、FT−ICR型、Orbitrap型、或いはそれら複合型等があるが、図8に例示する質量分析装置は、質量分離部にて質量選択されたイオンを、コンバージョンダイノードと呼ばれる変換電極に衝突させ、荷電粒子に変換、発生した荷電粒子をシンチレータにて検出し、発光した光を検出することで信号出力を得る。図8に例示する質量分析装置のシンチレータとして、上述のシンチレータを適用することによって、高速且つ高感度分析が可能な質量分析装置の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 シンチレータ発光部
2 Al層
3 量子井戸構造
4 バッファ層
5 発光部-基板界面
6 基板
7 受光素子
8 試料
9 電子源
10 電子光学鏡筒
11 ライトガイド
12 一次電子線
13 試料室
14 二次電子線
21 量子井戸層
22 隔壁層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9