(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)として、前記ポリオレフィンを含むポリマーに加えられる成分が、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アイオノマーおよび/またはポリオレフィン系ホットメルト接着剤である、請求項1に記載の複合繊維。
前記複合繊維が芯鞘型または海島型複合繊維であって、前記芯層または島層がエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから形成され、前記鞘層または海層がポリオレフィンを含むポリマーから形成されている、請求項6に記載の複合繊維。
前記複合繊維が芯鞘型または海島型複合繊維であって、前記芯層または島層がポリオレフィンを含むポリマーから形成され、前記鞘層または海層がエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから形成されている、請求項6に記載の複合繊維。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示のポリオレフィン(芯)/エチレン−ビニルアルコール共重合体(鞘)からなる芯鞘型複合繊維または特許文献2に開示の水溶性ポリビニルアルコール(芯)/ポリエチレンまたはポリプロピレン(鞘)からなる芯鞘型複合繊維において、芯鞘を形成する成分のポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)とエチレン−ビニルアルコール共重合体またはポリビニルアルコールとは相溶性が悪いためか、芯鞘型複合繊維における芯層と鞘層との界面において剥離する現象が起こるケースがあり、剥離現象の解消が要望されている。
【0008】
特許文献3には、芯鞘型複合繊維における芯層と鞘層との界面剥離を解消するために、二つのポリマーから形成される複合流がノズルから吐出前に「揺らぎ形成層」を通過することが開示されているが、エチレン−ビニルアルコール系共重合体とポリオレフィンのような異質ポリマーの組み合わせに対しては界面剥離を抑えるには十分ではない。
【0009】
本発明者らは、上記の先行技術の現状に鑑みて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体とポリオレフィンからなる芯鞘型などの複合繊維における界面剥離の抑制を解決すべき技術課題であると設定した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題のもとに鋭意検討した結果、本発明に到達した。
本発明第1の構成は、一方の成分がエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから構成され、他方の成分は、ポリオレフィンを含むポリマーから構成される複合繊維であって、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーにポリオレフィンに対して接着性を与えるポリマー成分(A)および/または前記ポリオレフィンを含むポリマーにエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)が加えられている複合繊維である。
【0011】
本発明において、「接着性を与えるポリマー成分」とは、形成された複合繊維の断面を観察して、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含む一方の成分とポリオレフィンを含む他方の成分とが接する境界面における接着程度によって決定され、その決定方法は、後述の実施例に記載している。この決定方法により良好な接着性を与えると評価された場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含む成分および/またはポリオレフィンを含む成分に加えられた「ポリマー成分」は接着性を与えるポリマー成分であると判断することができる。
【0012】
ポリオレフィンに対して接着性を与えるポリマー成分(A)として、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーに加えられる成分が、ポリオレフィンおよび/または変性ポリオレフィンであることが好ましい。
【0013】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)として、ポリオレフィンを含むポリマーに加えられる成分が、エチレンービニルアルコール系共重合体、アイオノマーおよび/またはポリオレフィン系ホットメルト接着剤であることが好ましい。
【0014】
前記ポリオレフィン系ホットメルト接着剤が、変性ポリオレフィンであることが好ましい。
【0015】
前記変性ポリオレフィンが無水マレイン酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。
【0016】
前記ポリオレフィン系ホットメルト接着剤が、熱可塑性エラストマー(例えば、ポリオレフィン系エラストマー)であることが好ましい。
【0017】
前記複合繊維が、芯鞘型複合繊維、海島型複合繊維、分割型複合繊維またはサイドバイサイド型複合繊維であってもよい。
【0018】
前記複合繊維が芯鞘型または海島型複合繊維であって、前記芯層または島層がエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから形成され、前記鞘層または海層がポリオレフィンを含むポリマーから形成されていることが好ましい。
【0019】
前記複合繊維が芯鞘型または海島型複合繊維であって、前記芯層または島層がポリオレフィンを含むポリマーから形成され、前記鞘層または海層がエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから形成されていることが好ましい。
【0020】
本発明第2の構成は、前記複合繊維の製造方法であって、紡糸原糸を製造する工程(S1)と、ついで加熱処理を行う工程(S2)とから構成される、複合繊維を製造する方法である。
【0021】
上記の製造方法において、前記加熱処理は、前記複合繊維を構成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとポリオレフィンを含むポリマーの二成分のいずれか一方の成分の融点以上の温度で加熱することが好ましい。
【0022】
なお、請求の範囲および/または明細書に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明第1の構成により、一方の成分はエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから構成され、他方の成分は、ポリオレフィンを含むポリマーから構成される複合繊維において、前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーに、ポリオレフィンに対して接着性を与えるポリマー成分(A)および/または前記ポリオレフィンを含むポリマーに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)が加えられることにより、層間の剥離性が改良される。
【0024】
本発明第2の構成により、複合繊維の製造方法が紡糸原糸を製造する工程(S1)と、ついで加熱処理を行う工程(S2)とから構成されることにより、紡糸時に内在した複合繊維(紡糸原糸)における層間剥離性の問題が加熱処理により抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(複合繊維)
本発明の複合繊維は、一方の成分はエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーから構成されるポリマー層(以下、EVOH層と略称することがある)と、他方の成分は、ポリオレフィンを含むポリマーから構成されるポリオレフィン層から構成される複合繊維である。
ここでいう複合繊維とは、上記のような非相溶性の2種類のポリマーを複合紡糸して製造される繊維であり、複合紡糸の形式としては、芯鞘型、海島型、分割型、サイドバイサイド型などが挙げられ、それぞれの型における2成分の配置例を
図1A〜Dに示した。
【0027】
本発明において芯鞘型複合繊維は、
図1Aに示されているように、EVOH層とポリオレフィン層のいずれか一方が芯層を形成し、前記芯層を取り巻くように他方が鞘層を形成した構造を有している。
本発明において海島型複合繊維とは、
図1Bに示されているように、EVOH層とポリオレフィン層のいずれか一方を海成分とし、他方を島成分(島数2以上)とした構造を有している。
本発明において分割型複合繊維とは、
図1Cに示されているように、EVOH層とポリレフィン層とが交互に配置された断面構造を有している。なお、分割型としては、断面を輪切りにしてEVOH層とポリオレフィン層とを交互に配置することもできる。
本発明においてサイドバイサイド型繊複合繊維とは、
図1Dに示されているように、EVOH層とポリオレフィン層とが貼り合わされた断面構造を有している。
【0028】
(エチレン−ビニルアルコール系共重合体)
本発明においてEVOH層は少なくともエチレン−ビニルアルコール系共重合体を含んでいる。本発明において用いられるエチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものが好ましく、その中でも、エチレン−ビニルアルコール系共重合体分子中のエチレン含有率は好適には5〜70モル%である。エチレン−ビニルアルコールが備える親水性を維持するとともに溶融紡糸を行うという観点からは、エチレン含有率は好適には20〜65モル%であるものが好ましい。また、滞留樹脂の劣化による溶融紡糸上のトラブルを抑制しながら親水性を維持するという観点からは、エチレン含有率はより好適には25〜60モル%であり、さらに好適には27〜55モル%であり、最適には32〜51モル%である。さらに、ビニルエステル成分のケン化度は好ましくは80%以上であり、親水性と溶融紡糸性という観点からは、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。エチレン含有率が70モル%を超える場合は、得られる繊維の親水性が不足する虞がある。また、ケン化度が80%未満では、親水性、熱安定性、耐熱性が悪くなる虞がある。
エチレンと共重合するビニルエステルとしては、酢酸ビニルエステルが特に好適であるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も併用することもできる。また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、エポキシ化合物により変性され、低融点化されたものであってもよい。
【0029】
(ポリオレフィン)
本発明において用いられるポリオレフィンとしては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)あるいはこれらの共重合体などが挙げられる。具体的には、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレンとポリエチレンとの二元共重合体等のポリオレフィンを例示できる。これらのポリオレフィンは単独でまたは二種以上組み合わせても用いてもよい。
【0030】
(複合繊維におけるEVOH層とポリオレフィン層の構成割合)
本発明の複合繊維において、EVOH層とポリオレフィン層の配置、構成割合は適宜に設定される。
図1A〜
図1Dに示される芯鞘型、海島型、分割型、サイドバイサイド型において、EVOH層とポリオレフィン層のいずれが一方の成分で、いずれが他方の成分であってもよい。
また、本発明の複合繊維を製造するにあたり、紡糸後、必要に応じて適宜延伸を行ってもよい。通常、繊維径が1〜100μm、好ましくは5〜60μmの範囲にある。
【0031】
(添加物)
本発明の複合繊維には、必要に応じて銅化合物等の安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、抗菌剤、消臭剤などを重合時または溶融時に添加することができる。特に溶融成形時の熱劣化を抑制するために、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に微量の酸、金属塩を添加する事が好ましい。酸としては、酢酸などの脂肪酸、金属塩としてはリン酸、酢酸等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の塩等が例示される。
【0032】
[ポリオレフィンに対して接着性を与えるポリマー成分(A)]
エチレン−ビニルアルコール系共重合体に混合溶融されて、ポリオレフィン層に対して接着性を与えるポリマー成分(A)としては、(1)ポリオレフィンおよび/または(2)変性ポリオレフィンが挙げられる。
【0033】
(ポリマー成分(A)としてのポリオレフィン)
エチレン−ビニルアルコール系共重合体に混合されるポリオレフィンとしては、上記のポリオレフィンのなかから適宜選択されるが、ポリオレフィン層に含まれるポリオレフィンと同種のものを混合するのが好ましい。混合量は、ポリオレフィン層に対する接着性を向上させるとともにエチレン−ビニルアルコール系共重合体の果たすべき機能を発揮させる観点から、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、10〜80質量%の範囲であることが好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%がさらに好ましい。
【0034】
(ポリマー成分(A)としての変性ポリオレフィン)
エチレン−ビニルアルコール系共重合体に混合される変性ポリオレフィンとしては、極性基によって変性されたポリオレフィンが好ましい。例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのα−オレフィンを単独または共重合して得た重合体にカルボニル基またはカルボキシル基を導入したもの;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル等の上記α−オレフィンとエチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体のランダム共重合体、ポリオレフィンに対し、エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合してなる変性ポリオレフィン(無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなど)などが挙げられる。
なかでもポリオレフィンに対し、エチレン性不飽和カルボン酸またはその誘導体をグラフト重合してなる変性ポリオレフィン(無水マレイン酸グラフトポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンなど)が好ましい。添加量は、用途などに応じて任意に設定できる。
【0035】
[エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)]
ポリオレフィンに混合溶融されて、エチレン−ビニルアルコール系共重合体層に対して接着性を与える成分としては、(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体、(2)アイオノマー、(3)変性ポリオレフィンおよび/または(4)ポリオレフィン系ホットメルト接着剤が挙げられる。
【0036】
(ポリマー成分(B)としてのエチレン−ビニルアルコール系共重合体)
ポリオレフィンに混合されるエチレン−ビニルアルコール系共重合体としては、上記のエチレン−ビニルアルコール系共重合体層に含まれるエチレン−ビニルアルコール系共重合体と同種のものであってもよく、エチレン含有率が70〜95モル%であるエチレン−ビニルアルコール系共重合体であってもよく、エチレン−酢酸ビニル共重合体であってもよい。混合量は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体層に対する接着性を向上させるとともにポリオレフィンの果たすべき機能を発揮させる観点から、ポリオレフィンに対して、好ましくは、10〜80質量%、より好ましくは、20〜70質量%、さらに好ましくは30〜60質量%の範囲である。
【0037】
(ポリマー成分(B)としてのアイオノマー)
エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)として、アイオノマーが挙げられる。これらに、前記の粘着付与剤が加えられることが好ましい。
本発明に用いられるアイオノマーとしては、オレフィン−不飽和カルボン酸2元共重合体、オレフィン−不飽和カルボン酸−不飽和カルボン酸エステル3元共重合体、不飽和カルボン酸無水物含有ポリマー、不飽和ジカルボン酸含有ポリマー及び不飽和ジカルボン酸ハーフエステル含有ポリマーよりなる群から選択された1種又は2種以上からなる酸含量0.5〜30質量%、好ましくは1.0〜25質量%有するポリマーを、周期率表第IA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVA、IVB、VA、VB、VIA、VIB、VIIB及びVIIIBから選択される1種又は2種以上の金属カチオンで中和度5〜90mol%の範囲で中和されたアイオノマーを挙げることができ、その1種又は2種以上を使用することができる。具体的には、60モル%Zn(亜鉛中和度)−ポリエチレンメタアクリル酸共重合体,40モル%Mg(マグネシウム中和度)−ポリエチレン−メタアクリル酸共重合体、40モル%Mg(マグネシウム中和度)−ポリエチレン−メタクリル酸−イソブチレンアクリレート三元共重合体等が挙げられる。
これらの成分はエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、10〜80質量%の範囲が好ましく、20〜70質量%の範囲がより好ましく、30〜60質量%の範囲がさらに好ましい。
【0038】
(ポリマー成分(B)としてのポリオレフィン系ホットメルト接着剤)
本発明で用いられるポリオレフィン系ホットメルト接着剤としては、例えば、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸−無水マレイン酸共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン、無水マレイン酸グラフトエチレン−酢酸ビニル共重合体、無水マレイン酸グラフトポリエチレン等のポリオレフィン系ホットメルト系接着剤が挙げられる。添加量は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して、10〜80質量%の範囲が好ましく、20〜70質量%の範囲がより好ましく、30〜60質量%の範囲がさらに好ましい。
また、ポリオレフィン系ホットメルト接着剤として、エチレン−プロピレン共重合体及びそのエラストマー、エチレン−α−オレフィン共重合体や、スチレン系エラストマーであるスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)及びその水素化物、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)などのポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーを用いてもよい。
【0039】
(粘着付与剤)
変性ポリオレフィンまたはポリオレフィン系ホットメルト接着剤には、さらに粘着付与剤を加えることが、加熱処理時に変性ポリオレフィンやポリオレフィン系ホットメルト樹脂がポリオレフィンに対する接着力を発揮する上で好ましい。粘着付与樹脂としては種々のものがあるが、例えば、石油樹脂(脂肪族系、脂環族系、芳香族系等)、テルペン樹脂(α−ピネン、β−ピネン、リモネンなどの重合体)、芳香族炭化水素変性テルペン樹脂、ロジン系樹脂(ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン、ロジンエステル等)、テルペンフェノール樹脂などが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上をあわせて用いることができる。粘着性付与剤の添加量としては、変性ポリオレフィンやポリオレフィン系ホットメルト接着剤100質量%に対して1〜50質量%の範囲で適宜選択される。
【0040】
(複合繊維の製造)
本発明の複合繊維は、種々公知の製造方法で製造し得る。具体的には、前記ポリオレフィンと前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体とを、それぞれ別個の押出機で溶融した後、芯鞘型、海島型、分割型、サイドバイサイド型の構造を有するノズルを備えた紡糸用ダイに供給して、口金パック内で溶融ポリマーの濾過、整流及び芯鞘構造、海島構造等の複合流の形成を行い、溶融紡糸した後冷却し、必要に応じて延伸して複合繊維とする方法が挙げられる。融点の異なる2種のポリマー成分が合流するノズルの温度は、前記ポリオレフィンおよび前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体の融点よりも高い温度であることが好ましい。
また、本発明の複合繊維は、用途に応じて長繊維の状態でも使用し得るが、単独で、あるいは、他の繊維と混合して用いる場合は、通常、0.1〜100mm、好ましくは1〜80mmの長さにカットして用いることもできる。
【0041】
以上のように、(1)ポリオレフィンは所定量エチレン−ビニルアルコール系共重合体に混合溶融されてノズルから吐出され、相手方のポリオレフィンと複合されて、層間剥離の改良された複合繊維を得る。また、(2)上記のエチレン−ビニルアルコール系共重合体、アイオノマー、変性ポリオレフィンまたはポリオレフィン系ホットメルト接着剤は、所定量、ポリオレフィンに混合溶融されてノズルから吐出され、相手方のエチレンービニルアルコール系共重合体と複合されて、層間剥離の改良された複合繊維を得ることが可能となった。
さらにまた、上記の(1)と(2)を組み合わせて、ポリオレフィン、変性ポリオレフィンを所定量エチレン−ビニルアルコール系共重合体に混合溶融し、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アイオノマーポリオレフィン系ホットメルト接着剤をポリオレフィンに混合溶融して複合紡糸を行い、それぞれ相手方に対する接着性成分が混合されたポリマーを溶融押し出して、複合繊維を構成してもよい。
【0042】
(複合繊維形成後の熱処理)
前記のように、ポリオレフィンに対して接着性を与えるポリマー成分(A)やエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)を加えたポリマー組成物を溶融紡糸して形成された繊維をそのまま用いることもできるが、複合繊維が紡糸された後で、加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理を行うことで、層間剥離性をさらに向上させることができる。加熱処理は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマー成分とポリオレフィンを含むポリマー成分のどちらか一方の、すなわち、軟化点(好ましくは融点)の低い方の成分の軟化点以上(好ましくは融点以上)の温度で処理することにより、より低温で変形するポリマー成分の変形・溶融により、層間剥離性を改良することができる。
【0043】
例えば、一方の成分(芯層または島層など)がポリエチレン(114〜126℃)を含むポリマー成分で形成され、他方の成分(鞘層または海層など)がエチレン−ビニルアルコール系共重合体(融点:160〜185℃)を含むポリマー成分で形成されている場合、鞘層または海層のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の表面は軟化することなく芯層または島層のポリエチレンの変形により層間剥離性が改良される。
また、一方の成分(芯層または島層など)がエチレン−ビニルアルコール系共重合体で形成され、他方の成分(鞘層または海層など)がポリプロピレン(150〜170℃)で形成されている場合、エチレン−ビニルアルコール系共重合体として変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(特開2007−191713)(融点:100〜140℃)または水分、グリセリン等の可塑剤を加えたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を用いることにより、鞘層または海層のポリプロピレンの表面は軟化することなく、芯層または島層のエチレン−ビニルアルコール系共重合体の変形により層間剥離性が改良される。
【0044】
上記のような加熱処理は、複合繊維の加熱を、加熱ローラー、熱処理炉、熱処理浴、マイクロウェーブ等により行うことができる。処理時間は、0.1秒〜60分の範囲で適宜設定され、1秒から10分の範囲が好ましい。
【0045】
一方、ポリオレフィンに対して接着性を与えるポリマー成分(A)を含まないポリマーとエチレン−ビニルアルコール系共重合体に対して接着性を与えるポリマー成分(B)を含まないポリマーとを同時に組み合わせて得られる複合繊維は、層間剥離が認められ、加熱処理による層間剥離の改良も認められなかった。
【0046】
(複合繊維の使用形態)
本発明により層間剥離性の改良された複合繊維の使用形態は特に限定されない。例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、カットファイバ−、紡績糸、布帛(織編物、不織布等)等のあらゆる形態で使用できる。熱可塑性樹脂の補強材として用いる場合には、フィラメント糸として用いてもよいが、0.1〜7mmにカットして熱可塑性樹脂中に分散されて用いてもよい。複合繊維の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、通常0.1〜100質量部、好ましくは0.1〜50質量部の量である。
【0047】
上記の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(低密度、高密度、直鎖状低密度)、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレン−(ブテン−1)ランダム共重合体、プロピレン−(4−メチルペンテン−1)ランダム共重合体、ポリブテン、エチレン−ビニルアルコール系共重合体などのポリビニルアルコール系樹脂、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリウレタンエラストマ−、エチレン−プロピレン−ブタジエンゴム、アクリルゴムなどが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何等限定されるものではない。なお本発明における繊維径、鞘/芯比率、接着等の測定・評価は以下の方法により行った。なお、この測定・評価は、海/島型等の複合繊維の測定・評価にも適用される。
【0049】
(繊維径)
溶融紡糸して得られた繊維をランダムに300本選び、任意の位置で安全カミソリにより繊維を切断し、その繊維断面の直径をキーエンス社製VHXにより測定し、平均繊維径とした。
【0050】
(鞘/芯比率)
繊維径を測定した際に切断した繊維断面より、鞘成分、芯成分おのおのの面積を算出し、鞘/芯比率を算出した。
【0051】
(接着性の評価)
繊維径を測定した際に切断した繊維断面を100本観察して接着性を評価した。鞘成分と芯成分とが接する界面の全周囲のうち80%以上の長さで接着が確認されるものをA判定とし、5割以上から8割未満が接着しているものをB判定とし、5割未満をC判定とした。
A:良好
B:一部接着しているが不十分
C:接着無し
【0052】
[実施例1]
(a1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとしてエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと略称することがある)(株式会社クラレ製、エチレン含有率44モル%、けん化度99%、融点165℃)ペレットと、(b1)ポリオレフィンを含むポリマーとして、高密度ポリエチレン(以下HDPEと略称することがある)(株式会社プライムポリマー製、HZ−120YK、融点125℃)ペレットと無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(三井化学株式会社製、アドマー(商品名)NE827 融点120℃)ペレットとを、ペレットのままブレンド(無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂の配合率:50質量%)した混合物と、をそれぞれ用意した。(a1)と(b1)とをそれぞれ別々の溶融押出機中で溶融させて、(b1)が鞘になり、(a1)が芯になるように、ノズル部(
図1A型)で合流させ、270℃で紡糸し、鞘/芯比率が60/40(質量%)の繊維を得た(孔径 0.4mmφ、孔数 500個)。得られた繊維を熱処理炉中で140℃で15分熱処理した。得られた繊維の断面観察を行った結果を表1に示す。
【0053】
[実施例2]
(a2)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとしてEVOH(株式会社クラレ製、エチレン含有率44モル%、けん化度99%、融点165℃)ペレットと、(b2)ポリオレフィンを含むポリマーとして、HDPE(株式会社プライムポリマー製、HZ−120YK、融点125℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物(東ソー株式会社製、メルセンH6410(商品名)、融点100℃)とをペレットのままブレンド(エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物の配合率:50質量%)した混合物、とをそれぞれ用意した。(a2)と(b2)とをそれぞれ別々の溶融押出機中で溶融させて、(b2)が鞘になり、(a2)が芯になるように、ノズル部(
図1A型)で合流させ、270℃で紡糸し、鞘/芯比率が60/40(質量%)の繊維を得た(孔径 0.4mmφ、孔数 500個)。得られた繊維を140℃で15分熱処理した。得られた繊維の断面観察を行った結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
(a3)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとしてEVOH(株式会社クラレ製、エチレン含有率44モル%、けん化度99%、融点165℃)と、(b3)ポリオレフィンを含むポリマーとして、HDPE(株式会社プライムポリマー製、HZ−120YK、融点125℃)とアイオノマー(三井・デュポンポリケミカル株式会社製、ハイミラン1702(商品名)、融点90℃)とをペレットのままブレンド(アイオノマーの配合率:50質量%)した混合物、とをそれぞれ用意した。(a)と(b)とを、それぞれ別々の溶融押出機中で溶融させて、(b3)が鞘になり、(a3)が芯になるように、ノズル部(
図1A型)で合流させ、270℃で紡糸し、鞘/芯比率が60/40(質量%)の繊維を得た(孔径 0.4mmφ、孔数 500個)。得られた繊維を140℃で15分熱処理した。得られた繊維の断面観察を行った結果を表1に示す。
【0055】
[実施例4]
(a4)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとしてEVOH(株式会社クラレ製、エチレン含有率44モル%、けん化度99%、融点165℃)と、(b4)ポリオレフィンを含むポリマーとして、HDPE(株式会社プライムポリマー製、HZ−120YK、融点125℃)とポリアミド系エラストマー(宇部興産株式会社製、XPA 9040X1、融点135℃)とをペレットのままブレンド(ポリアミドエラストマーの配合率:50質量%)した混合物、とをそれぞれ用意した。(a4)と(b4)とをそれぞれ別々の溶融押出機中で溶融させて、(b4)が鞘になり、(a4)が芯になるように、ノズル部(
図1A型)で合流させ、270℃で紡糸し、鞘/芯比率が60/40(質量%)の繊維を得た(孔径 0.4mmφ、孔数 500個)。得られた繊維を140℃で15分熱処理した。得られた繊維の断面観察を行った結果を表1に示す。
【0056】
[実施例5]
(a5)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとして、EVOH(株式会社クラレ製、エチレン含有率44モル%、けん化度99%、融点165℃)とエチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物(東ソー株式会社製、メルセンH6410(商品名)、融点100℃)とをペレットのままブレンド(エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物配合率50質量%)した混合物と、(b5)ポリオレフィンを含むポリマーとして、HDPE(株式会社プライムポリマー製、HZ−120YK、融点125℃)と無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(三井化学株式会社製、アドマー(商品名)NE827、融点120℃)とをペレットのままブレンド(変性ポリエチレン樹脂配合量:50質量%)した混合物、と、をそれぞれ用意した。(a5)と(b5)とを別々の溶融押出機中で溶融させて、(b5)が鞘になり、(a5)が芯になるように、ノズル部(
図1A型)で合流させ、270℃で紡糸し、鞘/芯比率が60/40(質量%)の繊維を得た(孔径 0.4mmφ、孔数 500個)。得られた繊維を140℃で15分熱処理した。得られた繊維の断面観察を行った結果を表1に示す。
【0057】
[実施例6]
実施例1における鞘成分を芯成分に、芯成分を鞘成分となるようにする以外は、実施例1と同条件で紡糸し、得られた繊維を180℃で15分熱処理して、複合繊維を製造した。得られた繊維の断面観察結果を表1に示す。
【0058】
[比較例1]
(a−R1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体を含むポリマーとしてEVOH(株式会社クラレ製、エチレン含有率44モル%、けん化度99%、融点165℃)を、(b−R1)ポリオレフィンを含むポリマーとして、HDPE(株式会社プライムポリマー製、HZ−120YK、融点125℃)とをそれぞれ用意した。(a−R1)と(b−R1)とをそれぞれ別々の溶融押出機中で溶融させて、(b−R1)が鞘になり、(a−R1)が芯になるように、ノズル部(
図1A型)で合流させ、270℃で紡糸し、鞘/芯比率が60/40(質量%)の繊維を得た(孔径 0.4mmφ、孔数 500個)。得られた繊維を140℃で15分熱処理した。得られた繊維の断面観察を行った結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
繊維断面の観察の結果、実施例は比較例に比べ良好な接着性が認められた。改質剤の配合により鞘/芯界面における接着性が改善されることが実施例と比較例1を比較することで認められた。特に、実施例1〜4と比較例1と比較すると、ポリオレフィンを含むポリマーのみを改質するだけでも接着性改善効果が認められた。