(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576358
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】セパレータの製造方法、その方法で形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 2/16 20060101AFI20190909BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20190909BHJP
H01G 11/52 20130101ALN20190909BHJP
【FI】
H01M2/16 L
H01M2/16 P
H01M2/16 M
H01G11/84
!H01G11/52
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-557114(P2016-557114)
(86)(22)【出願日】2015年4月1日
(65)【公表番号】特表2017-517834(P2017-517834A)
(43)【公表日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】KR2015003260
(87)【国際公開番号】WO2015152636
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2017年6月12日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0038729
(32)【優先日】2014年4月1日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジュ‐ソン
(72)【発明者】
【氏名】ジン,スン‐ミ
【審査官】
式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/099149(WO,A1)
【文献】
特表2009−518809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータの製造方法であって、
破砕された無機物粒子、バインダー高分子、及び水系媒質を含む水系スラリーを準備する段階と、
キャピラリー数を4.2〜65とした前記水系スラリーを調製する段階と、
前記キャピラリー数が、下記数式1によって決められるものであり、
キャピラリー数(Ca)=(μ×U)/σ (数式1)
〔上記式中、
μは粘度(kgf・s/m2)であって、0.005〜0.05(kgf・s/m2)であり、
Uはコーティング速度(m/s)であって、1.5〜2.0(m/s)であり、
σは表面張力(kgf/m)であって、0.0015〜0.005(kgf/m)である。〕
前記水系スラリーを多孔性高分子基材の少なくとも一面上に塗布して有機−無機複合多孔性コーティング層を形成する段階とを含んでなり、
前記有機−無機複合多孔性コーティング層において、前記無機物粒子が充填され、互いに接触した状態で前記バインダー高分子によって相互結着し、これにより前記無機物粒子の間にインタースティシャル・ボリウムを形成することを含んでなり、
前記多孔性高分子基材は、多孔性高分子フィルム基材又は多孔性高分子不織布基材であり、
前記多孔性高分子基材の厚さは5〜50μmであり、
前記多孔性高分子基材の気孔サイズが0.01〜50μmであり、及び
前記多孔性高分子基材の気孔度が10〜95%であることを特徴とする、セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記水系媒質が、水、又はアルコールと水との混合媒であることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項3】
前記多孔性高分子フィルム基材が、ポリオレフィン系多孔性高分子フィルム基材であることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系多孔性高分子フィルム基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン及びポリペンテンからなる群より選択された一種以上の高分子で形成されたことを特徴とする、請求項3に記載のセパレータの製造方法。
【請求項5】
前記有機−無機複合多孔性コーティング層を形成する段階がスロットコーティング方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項6】
前記有機−無機複合多孔性コーティング層を形成する段階が、ディップコーティング方法で行われることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項7】
前記無機物粒子の平均粒径が、0.001〜10μmであることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項8】
前記無機物粒子が、誘電率が5以上である無機物粒子、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子及びこれらの混合物からなる群より選択された無機物粒子であることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項9】
前記誘電率が5以上である無機物粒子が、BaTiO3, Pb(Zr,Ti)O3(PZT)、Pb1-xLaxZr1-yTiyO3(PLZT,0<x<1,0<y<1)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3(PMN−PT)、ハフニア(HfO2)、SrTiO3、SnO2、CeO2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO2、SiO2、Y2O3、Al2O3、ベーマイト(γ−AlO(OH))、SiC及びTiO2からなる群より選択された何れか一種の無機物粒子又はこれらの二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項8に記載のセパレータの製造方法。
【請求項10】
前記リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子が、リチウムホスフェート(Li3PO4)、リチウムチタンホスフェート(LixTiy(PO4)3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(LixAlyTiz(PO4)3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、(LiAlTiP)xOy系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(LixLayTiO3、0<x<2、0<y<3)、リチウムゲルマニウムチオホスフェート(LixGeyPzSw、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、リチウムナイトライド(LixNy、0<x<4、0<y<2)、SiS2系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)及びP2S5系ガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)からなる群より選択された何れか一種の無機物粒子又はこれらの二種以上の混合物であることを特徴とする、請求項8に記載のセパレータの製造方法。
【請求項11】
前記無機物粒子とバインダー高分子との重量比が、50:50〜99:1であることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【請求項12】
前記バインダー高分子が、スチレンブタジエンゴム(SBR)系、及びアクリレート系からなる群より選択された一種又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載のセパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池のような電気化学素子のセパレータ製造方法、その方法で形成されたセパレータ、及びそれを含む電気化学素子に関する。
【0002】
本出願は、2014年4月1日出願の韓国特許出願第10−2014−0038729号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書に開示された内容は、すべて本出願に援用される。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー貯蔵に関する関心が高まりつつある。携帯電話、カムコーダー、及びノートブックパソコン、延いては、電気自動車のエネルギーにまで適用分野が拡がり、電気化学素子の研究及び開発に対する努力がだんだん具体化している。
【0004】
電気化学素子は、このような面から最も注目されている分野であって、その中でも、充放電が可能な二次電池の開発は、関心の焦点となっている。最近は、このような電池の開発に際し、容量密度及び比エネルギーを向上させるために、新しい電極と電池の設計に関する研究開発へ進みつつある。
【0005】
現在、適用されている二次電池のうち、1990年代初めに開発されたリチウム二次電池は、水溶性電解液を用いるNi−MH、Ni−Cd、硫酸−鉛電池などの在来式電池に比べ、作動電圧が高く、エネルギー密度が遥かに高いという長所から脚光を浴びている。しかし、このようなリチウムイオン電池は、有機電解液を用いるに伴う発火及び爆発などの安全問題が存在し、製造がややこしいという短所がある。最近のリチウムイオン高分子電池は、このようなリチウムイオン電池の弱点を改善して次世代電池の一つとして挙げられているが、未だに電池の容量がリチウムイオン電池に比べ相対的に低く、特に、低温における放電容量が不十分であり、これに対する改善が至急に求められている。
【0006】
上記のような電気化学素子は多くのメーカにおいて生産中であるが、それらの安全性特性は相異なる様相を呈している。電気化学素子の安全性の評価及び安全性の確保は最も重要に考慮すべき事項である。特に、電気化学素子の誤作動によりユーザが傷害を被ることはあってはならなく、故に、安全規格は電気化学素子内の発火及び発煙などを厳格に規制している。電気化学素子が過熱し、熱暴走が起きるか又は分離膜が貫通される場合は、爆発が起きる恐れが大きい。特に、電気化学素子の分離膜として通常使用されるポリオレフィン系多孔性高分子基材は、材料的特性と延伸を含む製造工程上の特性により、100℃以上の温度で甚だしい熱収縮挙動を見せ、カソードとアノードとの間の短絡を起こすという問題点がある。
【0007】
このような電気化学素子の安全性問題を解決するため、多数の気孔を有する多孔性高分子基材の少なくとも一面に、過量の無機物粒子とバインダー高分子との混合物をコーティングして多孔性有機−無機コーティング層を形成したセパレータが提案された。多孔性有機−無機コーティング層に含有された無機物粒子は耐熱性に優れているため、電気化学素子が過熱する場合でもカソードとアノードとの短絡を防止する。
【0008】
このような多孔性有機−無機コーティング層を形成したセパレータは、多孔性高分子基材に有機−無機コーティング層をディップコーティングによって形成する工程を経て製造されることが一般的である。しかし、前記製造方法は、有機溶媒に基づくスラリーを用いるため、電気化学素子の製造過程における安全性が問題となる恐れがあり、また環境親和性及び経済性が低いという問題がある。
【0009】
かかる有機溶媒に基づくスラリーに対し、水系スラリーは、安全かつ環境に優しくて経済性を有するが、高い表面張力を有するため、ポリオレフィン系基材への低い濡れ性(wetting)の問題からセパレータコーティング用に適用しにくいという不具合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、多孔性高分子基材にスラリーでコーティングして有機−無機複合多孔性コーティング層を形成したセパレータを製造する工程において、所定の物性を有する水系スラリーを用いることで多孔性高分子基材との濡れ性を確保することができるセパレータの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記製造方法によって得られたセパレータを提供することを他の目的とする。
また、本発明は、前記セパレータを備える電気化学素子を提供することをさらに他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を達成するため、本発明は、
無機物粒子、バインダー高分子及び水系媒質を含む水系スラリーを準備する段階と、
前記水系スラリーを多孔性高分子基材の少なくとも一面上に塗布して有機−無機複合多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、
前記水系スラリーのキャピラリー数 (Capillary number, Ca)が0.3〜65であるセパレータの製造方法を提供する:
前記キャピラリー数は、下記の数式1によって決められる:
<数式1>
キャピラリー数(Ca)=(μ×U)/σ
式中、
μ=粘度(kgf・s/m
2)
U=コーティング速度(m/s)
σ=表面張力(kgf/m)である。
【0012】
一態様によれば、前記製造方法によって得られたセパレータを提供する。
一態様によれば、カソード、アノード、及び前記カソードとアノードとの間に介した前記セパレータを備える電気化学素子を提供する。
一具現例によれば、前記電気化学素子は、リチウム二次電池であり得る。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、水系スラリーを用いて多孔性高分子基材の表面上に有機−無機複合コーティング層を形成できるセパレータの製造方法を提供することで工程上の安全性及び経済性などを確保することができ、かくして得られたセパレータを備える電気化学素子の安全性を改善させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の望ましい実施例を詳しく説明する。これに先立ち、本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0015】
一態様によるセパレータの製造方法は、無機物粒子、バインダー高分子、及び水系媒質を含む水系スラリーを準備した後、これを多孔性高分子基材の少なくとも一面上に塗布して有機−無機複合多孔性コーティング層を形成する段階;を含む。
前記水系スラリーのキャピラリー数(Capillary number)は、下記の数式1によって決められる。
<数式1>
キャピラリー数(Ca)=(μ×U)/σ
式中、μは粘度(kgf・s/m
2)であり、Uはコーティング速度(m/s)であり、σは表面張力(kgf/m)である。
【0016】
前記キャピラリー数は、前記水系スラリーの濡れ性を決定する要素であって、これを適切に制御することで、前記多孔性高分子基材と前記水系スラリーの湿潤性を確保して容易なコーティング性を確保することができる。
【0017】
このようなキャピラリー数は、前記水系スラリーの粘度、コーティング速度及び表面張力によって決定され、前記粘度は、前記水系スラリーの固形分の含量及び供給温度によって変わり得る。前記コーティング速度は、前記水系スラリーを基材上に塗布する速度をいい、このようなコーティング速度によって前記水系スラリーの基材への湿潤性が変わり得る。前記表面張力の場合、低い値を有すれば、湿潤性が確保されてスラリーの塗布にさらに有利となるため、添加剤などによってこの値を最小化することができる。
【0018】
前記キャピラリー数による水系スラリーの適切な濡れ性を確保するために、前記数式1によって決められる値が、0.3〜65の範囲、例えば、0.5〜45の範囲を有することができる。このような範囲で低い表面張力を有する多孔性高分子基材との湿潤性を確保して容易なコーティング性を得ることができる。
【0019】
前記水系スラリーの粘度は、適切な範囲に調節できることから、ここで、増粘剤を用いることができる。このような増粘剤としては、前記水系スラリーの粘度を調節できる物質であれば、特に制限されず、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化でん粉、リン酸化でん粉、カゼイン及びこれらの塩などが挙げられる。これらは、一種を単独で用いても、二種以上を任意の組合せ及び割合で併用しても良い。
【0020】
前記増粘剤を用いる場合、水系スラリーに対する増粘剤の割合は、通常、無機物に対し0.1質量%以上、望ましくは0.5質量%以上、より望ましくは0.6質量%以上であり、また、上限は、通常5質量%以下、望ましくは3質量%以下、より望ましくは2質量%以下の範囲である。この範囲を下回れば、著しく塗布性が低下する場合があり、上回れば、スラリー内の無機物粒子またはバインダーの含量が低下する恐れがある。
【0021】
前記水系スラリーの粘度は、供給温度によっても変わり得るため、温度が低くなれば粘度が増加し、温度が高くなれば粘度が減少する。したがって、適切な供給温度を選択することで、前記水系スラリーの粘度を適切に制御することができる。このような供給温度範囲としては、10〜50℃を例示することができる。
【0022】
このように、増粘剤によって調節された前記水系スラリーの粘度は、0.005〜0.05kgf・s/m
2の範囲、例えば、0.01〜0.25kgf・s/m
2の範囲を有することができる。
【0023】
前記水系スラリーのコーティング速度は、前記多孔性高分子基材に対する水系スラリーの塗布が容易に行われる範囲、即ち、濡れ性が確保される範囲で適切に調節することができる。このようなコーティング速度は、工程上における機械的制御、例えば、ローラーの速度または張力などの変数によって決定され、10〜100m/s、例えば、30〜70m/sの範囲を有することができる。 前記範囲から外れれば、前記水系スラリーの塗布性が低下するか工程時間が長くなり、経済性が低下するなどの問題が発生する。
【0024】
前記水系スラリーの表面張力は、低い表面エネルギーを有する多孔性高分子基材との濡れ性の確保のために重要な要素となり、なるべく低い表面張力を与えることが望ましい。このためには、前記水系スラリーに添加剤を加えて表面張力の低下を誘導することができ、このような添加剤には乳化剤などがある。
【0025】
具体的に、親水性界面活性剤、例えば、ポリオキシエチレン(10)−水素化キャスターオイル、ポリオキシエチレン(40)−水素化キャスターオイル、ポリオキシエチレン(60)−水素化キャスターオイル、シロキシサン、ポリソルベート60、ポリソルベート80及びポリソルベート20からなる群より選択された一種以上の親水性界面活性剤を含む。このような添加剤は、前記水系スラリーの重量を基準で約0.1〜3.0重量%の含量で添加することができる。
このような添加剤によって、前記水系スラリーの表面張力は0.0015〜0.007kgf/mの範囲に調節され得る。
【0026】
前記水系スラリーに用いられる水系媒質は、水、またはアルコールと水との混合媒を用いることができる。前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、ペンタノールなどを用いることができるが、これらに限定されることではない。
前記水系スラリーを用いてコーティングされる多孔性高分子基材としては、多孔性高分子フィルム基材または多孔性高分子不織布基材が挙げられる。
【0027】
前記多孔性高分子フィルム基材としては、よく知られているように、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンからなる多孔性高分子フィルムからなるセパレータを用いることができ、このようなポリオレフィン多孔性高分子フィルム基材は、例えば、80〜130℃の温度でシャットダウン機能を発現する。
【0028】
このようなポリオレフィン多孔性高分子フィルムは、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンのようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリペンテンなどのポリオレフィン系高分子をそれぞれ単独でまたはこれらの二種以上を混合した高分子で形成することができる。また、前記多孔性高分子フィルム基材は、ポリオレフィンの他にポリエステルなどの多様な高分子を用いて多孔性高分子フィルムを製造することもできる。また、前記多孔性高分子フィルム基材は、二層以上のフィルム層を積層した構造に形成することができ、各フィルム層は、前述のポリオレフィン、ポリエステルなどの高分子を単独でまたはこれらの二種以上を混合した高分子から形成することもできる。
【0029】
前記多孔性高分子不織布基材は、前述のポリオレフィン系高分子またはこれよりも耐熱性の高いポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリエステルなどの高分子を用いた繊維で製造することができる。このような多孔性高分子不織布基材の製造時においても、単一繊維または二種以上の繊維を混合して製造することができる。
前記多孔性高分子フィルム基材の材質や形態は、目的によって多様に選択することができる。
【0030】
前記多孔性高分子基材の厚さは特に制限されないが、望ましくは、1〜100μm、さらに望ましくは5〜50μmであり、多孔性高分子基材に存在する気孔サイズ及び気孔度も特に制限されないが、それぞれ0.01〜50μm及び10〜95%であることが望ましい。
【0031】
前記水系スラリーを前記多孔性高分子基材にコーティングする方法は特に限定されないが、スロットコーティングやディップコーティング方法を用いることが望ましい。スロットコーティングとは、スロットダイを介して供給されたコーティング液が基材の前面に塗布される方式であって、定量ポンプから供給される流量によって多孔性コーティング層の厚さを調節することができる。また、ディップコーティングとは、コーティング液が満たされているタンクに基材を浸漬してコーティングする方法であって、コーティング液の濃度及びコーティング液タンクから基材を取り出す速度によって多孔性コーティング層の厚さの調節が可能であり、より正確なコーティング厚さの制御のために浸漬後、メイヤーバーなどで後計量することができ、後にオーブンで乾燥して多孔性高分子基材の両面に多孔性コーティング層を形成する。
【0032】
無機物粒子が分散し、バインダー高分子が水系溶媒に溶解または分散しているスラリーにおいて、前記無機物粒子は、電気化学的に安定さえすれば特に制限されない。即ち、本発明において使用可能な無機物粒子は、適用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li
+基準で0〜5V)で酸化及び/または還元反応が起こらないものであれば、特に制限されない。特に、無機物粒子として誘電率の高い無機物粒子を用いる場合、液体電解質内の電解質塩、例えば、リチウム塩の解離度増加に寄与して電解液のイオン伝導度を向上させることができる。
【0033】
上述の理由から、前記無機物粒子は誘電率定数〔誘電率、誘電定数〕が5以上、または10以上の高誘電率無機物粒子を含むことが望ましい。誘電率定数が5以上の無機物粒子の非制限的な例としては、BaTiO
3、Pb(Zr、Ti)O
3(PZT)、Pb
1-xLa
xZr
1-yTi
yO
3(PLZT、0<x<1、0<y<1)、Pb(Mg
1/3Nb
2/3)O
3−PbTiO
3(PMN‐PT)、ハフニア(HfO
2)、SrTiO
3、SnO
2、CeO
2、MgO、NiO、CaO、ZnO、ZrO
2、Y
2O
3、Al
2O
3、ベーマイト(γ−AlO(OH))、 TiO
2、SiCまたはこれらの混合物などが挙げられる。
【0034】
また、無機物粒子としては、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子、即ち、リチウム元素を含有するものの、リチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有する無機物粒子を使用することができる。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子の非制限的な例としては、リチウムホスフェート(Li
3PO
4)、リチウムチタンホスフェート(Li
xTi
y(PO
4)
3、0<x<2、0<y<3)、リチウムアルミニウムチタンホスフェート(Li
xAl
yTi
z(PO
4)
3、0<x<2、0<y<1、0<z<3)、14Li
2O‐9Al
2O
3‐38TiO
2‐39P
2O
5などのような(LiAlTiP)
xO
y系ガラス(0<x<4、0<y<13)、リチウムランタンチタネート(Li
xLa
yTiO
3、0<x<2、0<y<3)、Li
3.25Ge
0.25P
0.75S
4などのようなリチウムゲルマニウムチオホスフェート(Li
xGe
yP
zS
w、0<x<4、0<y<1、0<z<1、0<w<5)、Li
3Nなどのようなリチウムナイトライド(Li
xN
y、0<x<4、0<y<2)、Li
3PO
4‐Li
2S‐SiS
2などのようなSiS
2系ガラス(Li
xSi
yS
z、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI‐Li
2S‐P
2S
5などのようなP
2S
5系ガラス(Li
xP
yS
z、0<x<3、0<y<3、0<z<7)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0035】
また、無機物粒子の平均粒径は特に制限されないが、均一な厚さの多孔性コーティング層の形成及び適切な孔隙率のために、0.001〜10μm範囲であることが望ましい。0.001μm未満の場合、分散性が低下され得、10μmを超える場合、形成される多孔性コーティング層の厚さが増加し得る。
【0036】
前記バインダー高分子は、ガラス転移温度(glass transition temperature,T
g)が−200〜200℃である高分子を用いることが望ましい。これは、最終的に形成される多孔性コーティング層の柔軟性及び弾性などのような機械的物性を向上させることができるためである。
【0037】
また、バインダー高分子は、イオン伝導能力を必ずしも有する必要はないが、イオン伝導能力を有する高分子を用いる場合、電気化学素子の性能をさらに向上させることができる。したがって、バインダー高分子は、可能な限り誘電率定数の高いものが望ましい。実際に、電解液における塩の解離度は、電解液溶媒の誘電率定数に依存するため、バインダー高分子の誘電率定数が高いほど電解質における塩の解離度を向上させることができる。このようなバインダー高分子の誘電率定数は1.0〜100(測定周波数=1kHz)の範囲のものを用いることができ、特に、10以上のものが望ましい。
【0038】
このようなバインダー高分子の非制限的な例には、スチレンブタジエンゴム(styrene−butadiene rubber,SBR)系、アクリレート(acrylate)系などが挙げられる。
【0039】
無機物粒子とバインダー高分子との重量比は、例えば、50:50〜99:1の範囲が望ましく、より望ましくは60:40〜99:1,さらに望ましくは70:30〜95:5である。バインダー高分子に対する無機物粒子の含量比が50:50未満の場合、高分子の含量が多くなり、形成される多孔性コーティング層の気孔サイズ及び気孔度が減少し得る。無機物粒子の含量が99 重量部を超過する場合、バインダー高分子の含量が少ないため、形成される多孔性コーティング層の耐剥離性が弱化する恐れがある。
【0040】
バインダー高分子は、溶媒にエマルジョン(emulsion)状態で分散し得、均一な混合及び溶媒の除去を容易にするために使用可能な溶媒の非制限的な例としては、水(water)、メタノール(methanol)、エタノール(ethanol)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0041】
無機物粒子が分散し、バインダー高分子が溶媒に溶解されているスラリーは、バインダー高分子を溶媒に溶解した後、無機物粒子を添加し、これを分散することで製造することができる。無機物粒子は、適正サイズに破砕した状態で添加することができるが、バインダー高分子の溶液に無機物粒子を添加した後、無機物粒子をボールミル法などを用いて破砕しながら分散させることが望ましい。
【0042】
前記方法で製造された有機−無機複合多孔性コーティング層は、多孔性高分子基材に対する湿潤性が改善し、より連結性を改善させることができる。前記有機−無機複合多孔性コーティング層において、無機物粒子は充填され、互いに接触した状態で前記バインダー高分子によって相互結着し、これにより無機物粒子の間にインタースティシャル・ボリウム(interstitial volume)が形成され、前記無機物粒子間のインタースティシャル・ボリウムは、空き空間となり気孔を形成する。
【0043】
即ち、バインダー高分子は、無機物粒子が相互結着した状態を維持するようにこれらを互いに付着、例えば、バインダー高分子が無機物粒子同士を連結及び固定している。また、前記有機−無機複合多孔性コーティング層の気孔は、無機物粒子間のインタースティシャル・ボリウムが空き空間となることによって形成された気孔であり、これは無機物粒子による充填構造(closed packed or densely packed)にて実質的に面接触する無機物粒子によって限定される空間である。
【0044】
上述の方法によって製造されたセパレータを、カソードとアノードとの間に介してラミネートして電気化学素子を製造することができる。電気化学素子は、電気化学反応をする全ての素子を含み、具体的な例には、全種類の一次、二次電池、燃料電池、太陽電池またはスーパーキャパシタ素子のようなキャパシタ(capacitor)などがある。特に、前記二次電池のうち、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池またはリチウムイオンポリマー二次電池などを含むリチウム二次電池が望ましい。
【0045】
本発明セパレータとともに適用されるカソードとアノードの両電極としては特に制限されず、当業界に知られた通常の方法によって電極活物質を電極電流集電体に結着した形態で製造することができる。前記電極活物質のうち、カソード活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子のカソードに使用可能な通常のカソード活物質を使用することができ、特に、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウム鉄酸化物またはこれらを組み合わせたリチウム複合酸化物を用いることが望ましい。アノード活物質の非制限的な例としては、従来の電気化学素子のアノードに使用可能な通常のアノード活物質を用いることができ、特に、リチウム金属またはリチウム合金、炭素、石油コーク(petroleum coke)、活性化炭素(activated carbon)、グラファイト(graphite)またはその他の炭素類などのようなリチウム吸着物質などが望ましい。カソード電流集電体の非制限的な例としては、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの組合せによって製造されるホイルなどがあり、アノード電流集電体の非制限的な例としては、銅、金、ニッケルまたは銅合金またはこれらの組合せによって製造されるホイルなどが挙げられる。
【0046】
本発明の電気化学素子において使用可能な電解液は、A
+B
-のような構造の塩であって、A
+は、Li
+、Na
+、K
+のようなアルカリ金属の陽イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含み、B
-は、PF
6-、BF
4-、Cl
-、Br
-、I
-、ClO
4-、AsF
6-、CH
3CO
2-、CF
3SO
3-、N(CF
3SO
2)
2-、C(CF
2SO
2)
3-のような陰イオンまたはこれらの組合せからなるイオンを含む塩が、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラハイドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ガンマブチロラクトンまたはこれらの混合物からなる有機溶媒に溶解または解離したものがあるが、これらに限定されることではない。
【0047】
電解液の注入は最終製品の製造工程及び要求物性に応じて、電池の製造工程中の適切な段階で行われ得る。即ち、電池の組立ての前または電池の組立ての最終段階などで適用され得る。
【0048】
以下、本発明を具体的な実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は多くの他の形態に変形されることができ、本発明の範囲が後述する実施例に限定されると解釈されてはならない。本発明の実施例は当業界で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0049】
実施例1
(参考例)
無機物として、粒度500nmサイズのベーマイト(γ−AlO(OH))(Nabaltec社、Apyral AOH60)、バインダー高分子として、スチレンブタジエンゴム(SBR)(JSR社、TRD102A)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)(Daicel Chemical Industry社、1220)を、90:6:4の割合で混合し、水に50℃で約3時間以上溶解し、その後、12時間以上ボールミル(ball mill)法を用いて無機物粒子を破砕及び分散して固形分30%水準の水系スラリーを製造した。製造したスラリーの表面張力を低めるために、乳化剤(Dow Corning社、67additive)をスラリー重量の0.1%で追加した。製造されたスラリーの粘度は0.007kgf・s/m
2であり、表面張力は0.0025kgf/mであった。
【0050】
これを厚さ12μmの多孔性膜(SK innovation社、512GK)にスロットダイ方式で速度0.2m/secでコーティングした後、80℃の温度に調節されたオーブンを通過させてスラリーに含まれた溶媒を乾燥し、多孔性コーティング層の厚さが4μmに制御されたセパレータを製造した。前記条件におけるキャピラリー数は、0.56であった。製造されたセパレータは、幅方向に偏差1μm以下の均一な厚さを確保することができた。
【0051】
実施例2
前記実施例1でコーティング速度を1.5m/secに変更したことを除いては、前記実施例1と同様の過程を行いスラリー及びセパレータを製造した。前記条件におけるキャピラリー数は4.2であり、製造されたセパレータは幅方向に偏差1μm以下の均一な厚さを確保することができた。
【0052】
実施例3
前記実施例2でスラリーの組成を85:10:5に変更したことを除いては、前記実施例2と同様の過程を行いスラリー及びセパレータを製造した。前記条件におけるキャピラリー数は24.0であり、製造されたセパレータは幅方向に偏差1μm以下の均一な厚さを確保することができた。
【0053】
比較例1
前記実施例1で乳化剤を使わないことを除いては、前記実施例1と同様の過程を行いスラリー及びセパレータを製造した。前記条件におけるキャピラリー数は0.23であった。コーティング工程でリビュレット(rivulet)現象が発生し、基材の幅全面に均一な多孔性コーティング層を形成することができなかった。