【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、その要旨を越えない限り、かかる実施例に限定されるものではない。
【0043】
〔実施例1〕
<長鎖アルキルエーテル化フラーレン誘導体の調製>
原料であるフラーレン(C
60)(商品名:nanom purple ST)はフロンテイアカーボン社から、購入・準備した。
【0044】
第一工程のポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)の合成は、特開2005−251505号公報の実施例中の参考例1に準じて次のように行った。
【0045】
フラーレン(C
60)5gを60%発煙硫酸75mLと、窒素雰囲気下、60℃で、撹拌しながら、3日間反応させた。次に、氷浴したジエチルエーテル500mL中に、得られた反応物を滴下して、沈降物を得た。得られた沈降物を遠心分離にて分離し、合計約1000mLの無水ジエチルエーテルを数回に分けて、分離物を洗浄し、さらに、約300mLジエチルエーテル /アセトニトリル=2/1混合溶媒で洗浄し、真空乾燥して試料(CS)を得た。収量5.3gであった。
【0046】
得られた試料(CS)の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)は、特開2005−251505号公報の
図1の赤外吸収スペクトル(IR)スペクトルと良い一致がみられ、ポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)であることを確認した。
【0047】
つぎに、第二工程のオクチルエーテル化フラーレン(OctC
60)の合成を次のように行った。
上記得られたポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)1gをオクチルアルコール10mLと窒素雰囲気下、80℃で、撹拌しながら3日間反応させた。反応物を約500mLの水で洗浄し、洗浄水がpH6.5になるまで生成物の硫酸を除去した。次に、クーゲルロール装置(80℃、10mmHg以下)を用いて減圧留去を行い、未反応オクチルアルコールを除去した。
【0048】
さらに、ジエチルエーテル/メタノール=40/60混合溶媒を展開液として、シリカゲルカラムクロマトグラフィ処理を行い、オクチルエーテル化フラーレン(OctC
60)を得た。
【0049】
上記得られたオクチルエーテル化フラーレン(OctC
60)の構造については、これを赤外吸収スペクトル測定(IRスペクトル)、核磁気共鳴測定(
1H NMRスペクトル)から同定を行い、また、元素分析測定と熱重量分析より見積もった含有水分量から構造式をC
60〔O(CH
2)
7CH
3〕
7(OH)
3・3H
2Oと決定し、オクチルエーテル化フラーレン(OctC
60)であることを確認した。
【0050】
なお、上記赤外吸収スペクトル測定は、JASCO社製のFT/IR−300Eを用いてKBr法により測定したもので、その結果を
図1に示す。
図1において、2900cm
-1付近にC−H伸縮振動に帰属される強い吸収が、1100cm
-1付近にC−O伸縮振動に帰属される強い吸収が観察され、これらによりオクチルエーテル基の存在が示唆された。また、3400cm
-1付近にO−H伸縮振動に帰属されるブロードな吸収も見られたことから、水酸基の存在も示唆された。
【0051】
また、上記核磁気共鳴測定は、JEOL社製のJNM−EX270を用いて、270MHz, CDCl
3中で行い、その測定結果を
図2に示す。
図2において、オクチルエーテル基(CH
a3-(CH
b2)
6-(CH
c2)-O-)の3種類のプロトンと一致する吸収(H
a = 0.8ppm, H
b=1.2ppm, H
c=4.1ppm; H
a:H
b:H
c = 3:12:2)がそれぞれ観察されたことから、オクチルエーテル基の導入が確認された。なお、水および水酸基に由来するプロトンは1.7 ppm付近に観察された。
【0052】
さらに、上記元素分析測定は、J−Science Lab社製、Micro Corder JM10を用いて測定し、その結果を下記表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
構造式をC
60[O(CH
2)
7CH
3]y(OH)z・mH
2Oとすると、上記表1の元素分析値と計算値とからy、z、mは7,3,3となり、OctC
60の構造式はC
60[O(CH
2)
7CH
3]
7(OH)
3・3H
2Oであることが分かる。
【0055】
<樹脂組成物の調製>
オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)を含有する樹脂組成物であるオクチルエーテル化フラーレン誘導体・ポリプロピレンナノコンポジット(OctC
60/PP)の作製を次のように行った。
【0056】
上記得られたオクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の5mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgのポリプロピレン(PP)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに、150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状試料1を得た。
【0057】
耐熱性測定(TGA測定)は、熱重量測定装置(島津製作所社製、DTA―50)を用いて行った。TGA測定は、試料重量約4mg、測定温度30〜600℃、昇温温度10℃/分、空気雰囲気下で行い、上記固形状試料1の重量が10重量%(10wt%)減少したときの温度(10wt%重量減少時温度)を求めた。この10wt%重量減少時温度を指標として耐熱性を評価した。後記の表2、および
図3にその結果を示した。
上記固形状試料1の10wt%重量減少時温度は282℃であった。
【0058】
〔実施例2〕
実施例1と同様に、オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の10mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgのポリプロピレン(PP)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状試料2を得た。実施例1と同様にして上記固形状試料2の耐熱性を評価した。
上記固形状試料2の10wt%重量減少時温度は289℃であった。
【0059】
〔実施例3〕
実施例1と同様に、オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の30mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgのポリプロピレン(PP)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状試料3を得た。実施例1と同様にして上記固形状試料3の耐熱性を評価した。
上記固形状試料3の10wt%重量減少時温度は307℃であった。
【0060】
〔実施例4〕
実施例1と同様にして、ブチルエーテル化フラーレン誘導体(ButC
60)の合成を次のように行った。
第一工程においては、実施例1と同様にして、ポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)を合成した。
第二工程において、ポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)1gをブチルアルコール10mLと窒素雰囲気下で、80℃で、撹拌しながら3日間反応させた。反応物を約500mLの水で洗浄し、洗浄水がpH6.5になるまで生成物の硫酸を除去した。次に、酢酸エチルを展開液として、シリカゲルカラムクロマトグラフィ処理を行い、ブチルエーテル化フラーレン誘導体(ButC
60)を得た。
【0061】
次に、実施例1と同様に、ブチルエーテル化フラーレン誘導体(ButC
60)の10mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgのポリプロピレン(PP)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状試料4を得た。実施例1と同様にして上記固形状試料4の耐熱性を評価した。
上記固形状試料4の10wt%重量減少時温度は270℃であった。
【0062】
〔比較例1〕
オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)を全く加えなかった以外は、実施例1と同様にして固体状比較試料1を作成した。実施例1と同様にして固体状比較試料1の耐熱性を評価した。
上記固体状比較試料1の10wt%重量減少時温度は259℃であった。
【0063】
〔比較例2〕
オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の代わりにフラーレン(C
60)を加えた以外は、実施例1と同様にして固体状比較試料2を作成した。実施例1と同様にして固体状比較試料2の耐熱性を評価した。
上記固体状比較試料2の10wt%重量減少時温度は259℃であった。
【0064】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして、エチルエーテル化フラーレン誘導体(EtoC
60)の合成を次のように行った。
第一工程においては、実施例1と同様にして、ポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)を合成した。
第二工程において、ポリシクロ硫酸化フラーレン(CS)1gをエチルアルコール10mLと窒素雰囲気下で、80℃で、撹拌しながら3日間反応させた。反応物を約500mLの水で洗浄し、洗浄水がpH6.5になるまで生成物の硫酸を除去した。次に、酢酸エチルを展開液として、シリカゲルカラムクロマトグラフィ処理を行い、エチルエーテル化フラーレン誘導体(EtoC
60)を得た。
【0065】
つぎに、実施例1と同様に、エチルエーテル化フラーレン誘導体(EtoC
60)の10mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgのポリプロピレン(PP)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状比較試料3を得た。実施例1と同様にして固体状比較試料3の耐熱性を評価した。
上記固体状比較試料3の10wt%重量減少時温度は262℃であった。
【0066】
【表2】
【0067】
上記表2の結果から分かるように、実施例1〜4においては、フラーレン誘導体を添加しない樹脂のみからなる比較例1(ブランク)との耐熱性差が10℃以上あり、明らかに耐熱性が向上していることが分かった。これに対し、未処理のフラーレンを添加している比較例2、および、エチルエーテル化フラーレン誘導体を添加している比較例3は、ブランクとの耐熱性差が0〜3℃であり、ほとんど耐熱性が向上していないことが分かった。
【0068】
そして、フラーレン含有量(1.0wt%)および樹脂(PP)が同じである実施例2,4、および比較例3を比較すると、エーテル結合しているアルキル基が、炭素数2のエチル基であると(比較例3)、耐熱性の向上が殆ど見られないのに対し、実施例2,4では高い耐熱性の向上を示していた。このことから、フラーレン誘導体にエーテル結合しているアルキル基が炭素数4以上の長鎖アルキル基であることによって、フラーレン誘導体の樹脂への相溶性が向上し、これによって、優れた耐熱性を有する樹脂組成物が得られることが分かった。
【0069】
また、上記と異なる樹脂についても同様の効果を示すかを確認するべく、ポリプロピレン(PP)に代えて、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を用い、上記と同様の実験を行った。その結果を後記の表3に示した。
【0070】
〔実施例5〕
実施例1と同様に、オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の5mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状試料5を得た。実施例1と同様にして上記固形状試料5の耐熱性を評価した。
上記固形状試料5の20wt%重量減少時温度は397℃であった。
【0071】
〔実施例6〕
実施例1と同様に、オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の30mgをo−キシレン0.5mLに溶解し、1000mgの直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に添加し、150℃で溶解混合し、さらに150〜170℃のホットプレート上でo−キシレンを蒸発除去し、固形状試料6を得た。実施例1と同様にして上記固形状試料6の耐熱性を評価した。
上記固形状試料6の20wt%重量減少時温度は397℃であった。
【0072】
〔比較例4〕
オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)を全く加えなかった以外は、実施例5と同様にして固形状比較試料4を作成した。実施例5と同様にして固形状比較試料4の耐熱性を評価した。
上記固形状比較試料4の20wt%重量減少時温度は349℃であった。
【0073】
〔比較例5〕
オクチルエーテル化フラーレン誘導体(OctC
60)の代わりにフラーレン(C
60)を加えた以外は、実施例5と同様にして固体状比較試料5を作成した。実施例5と同様にして固体状比較試料5の耐熱性を評価した。
上記固体状比較試料5の20wt%重量減少時温度は350℃であった。
【0074】
【表3】
【0075】
上記表3の結果から分かるように、実施例5および6において、フラーレン誘導体を添加しない樹脂のみからなる比較例4(ブランク)との耐熱性差が40℃以上あり、実施例1〜4と同様に、明らかに耐熱性が向上していることが分かった。これに対し、未処理のフラーレンを添加している比較例5は、ブランクとの耐熱性差が1℃であり、ほとんど耐熱性が向上していないことが分かった。
【0076】
上記のように、実施例1〜4のポリプロピレン(PP)を、実施例5および6の直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)に代えたとしても、実施例1〜4と同様に耐熱性の向上が見られ、他の樹脂においても、同様の傾向を示すことが分かった。