特許第6576664号(P6576664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6576664エッジ検出偏り補正値計算方法、エッジ検出偏り補正方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576664
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】エッジ検出偏り補正値計算方法、エッジ検出偏り補正方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20190909BHJP
   G06T 7/187 20170101ALN20190909BHJP
【FI】
   G01B11/00 H
   !G06T7/187
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-70758(P2015-70758)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191579(P2016-191579A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2018年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博行
(72)【発明者】
【氏名】高田 彰
(72)【発明者】
【氏名】海江田 誠
(72)【発明者】
【氏名】張 玉武
(72)【発明者】
【氏名】小松 浩一
(72)【発明者】
【氏名】浅野 秀光
(72)【発明者】
【氏名】花村 尚史
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓甫
(72)【発明者】
【氏名】徳原 功
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−002664(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0183200(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャンする方向において明暗の変化の向きが反対の、互いに向かい合った1組のエッジ間の距離を画像測定機により測定し、エッジ部分の明暗の変化について予め定められた正負の方向に応じて、前記1組のエッジ間が明領域である場合と暗領域である場合とで正負の符号が同じになるように測定値と真値との差をとることで、前記明領域及び前記暗領域のそれぞれの偏り補正値を計算するエッジ検出偏り補正値計算方法。
【請求項2】
前記1組のエッジを、互いに直交する方向に更に1組備え、前記偏り補正値を各方向について計算することを特徴とする請求項1に記載のエッジ検出偏り補正値計算方法。
【請求項3】
前記画像測定機の撮像視野に対応する明暗2色の長方形が縦横交互に複数配された市松模様の校正用チャートを用いて、各エッジ部分を当該画像測定機でスキャンすることにより、前記長方形ごとに、前記長方形に含まれる互いに向かい合ったエッジ間の距離を直交する各方向についてそれぞれ測定して各方向の前記偏り補正値を計算することを特徴とする請求項に記載のエッジ検出偏り補正値計算方法。
【請求項4】
前記距離の測定及び前記偏り補正値の計算を、前記画像測定機の光学設定ごとに行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正値計算方法。
【請求項5】
画像測定機による測定対象物のスキャンにより検出されたエッジ検出点における互いに直交する各方向の検出点補正値を、請求項1から4のいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正値計算方法により計算された前記偏り補正値を用いて計算する検出点補正値計算ステップと、
前記各方向の前記検出点補正値に基づき前記エッジ検出点の補正量を特定する補正量特定ステップと、
前記補正量を用いて前記エッジ検出点を補正する検出点補正ステップと、
を実行するエッジ検出偏り補正方法。
【請求項6】
前記検出点補正値計算ステップは、前記画像測定機の撮像視野に対応する明暗2色の長方形が縦横交互に複数配された市松模様の校正用チャートを用い、各エッジ部分を当該画像測定機でスキャンして前記長方形に含まれる互いに向かい合ったエッジ間の距離を直交する各方向についてそれぞれ測定することにより予め計算された各方向の前記偏り補正値が、前記複数の前記長方形ごとに記録された補正値テーブルを参照し、前記エッジ検出点の近傍の1以上の前記長方形の前記偏り補正値を、各方向についてそれぞれ内挿することによって、前記エッジ検出点における各方向の検出点補正値を計算することを特徴とする請求項に記載のエッジ検出偏り補正方法。
【請求項7】
前記補正値テーブルは、前記画像測定機の光学設定ごとに用意され、
前記検出点補正値計算ステップは、エッジ検出偏り補正を実行する際の光学設定に対応する前記補正値テーブルを参照する
ことを特徴とする請求項に記載のエッジ検出偏り補正方法。
【請求項8】
前記補正量特定ステップは、前記偏り補正値を得た測定の際のスキャン方向に対する前記エッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きに応じて、各方向の前記検出点補正値のいずれか一方を補正量として特定することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正方法。
【請求項9】
前記補正量特定ステップは、前記偏り補正値を得た測定の際のスキャン方向に対する前記エッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きに応じて、各方向の前記検出点補正値を按分して求めた値を補正量として特定することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正方法。
【請求項10】
前記検出点補正ステップは、前記エッジ検出点の座標に、前記補正量特定ステップで特定された前記補正量を、前記偏り補正値を得た測定の際のスキャン方向に対する前記エッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きを考慮して加算又は減算することにより、前記エッジ検出点を補正することを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正方法。
【請求項11】
前記検出点補正ステップは、前記エッジ検出点の座標を(x、y)、エッジ部分において暗から明に変化する方向が正方向として定義されているときの前記補正量をdL、x軸方向に対する前記エッジ検出点を検出する際のスキャンの方向の傾きをθとした場合、補正後の座標(Tx、Ty)を、前記エッジ検出点を検出する際のスキャンの方向でのエッジ部分の明暗の変化の向きが暗から明方向のときには、
Tx=X+dL・cosθ
Ty=Y+dL・sinθ
により求め、明暗の変化の向きが明から暗方向のときには、
Tx=X−dL・cosθ
Ty=Y−dL・sinθ
により求める
ことを特徴とする請求項10に記載のエッジ検出偏り補正方法。
【請求項12】
コンピュータに請求項1からのいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正値計算方法を実行させるためのプログラム。
【請求項13】
コンピュータに請求項から11のいずれか1項に記載のエッジ検出偏り補正方法を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像測定機においてエッジ検出の際に生じた検出偏りを補正するエッジ検出偏り補正値計算方法、エッジ検出偏り補正方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像測定機は、測定対象であるワークを対物レンズを介してCCDカメラで撮像し、この撮像された画像から明暗の境界であるエッジを複数箇所で検出することでワークの形状や寸法等の測定を行う。エッジの検出は一般に、検出範囲を示すエッジ検出ツールを利用者の操作により撮像されたワーク画像に重ねて表示させることにより行う。ツールは、ワーク形状や測定内容にあわせて様々な形状のものが用意されている。例えば図11(a)に示すような直線状のものや、図11(b)に示すような長方形のものなどがあり、いずれの場合もワーク画像21上にツール22を表示させ、矢印方向に画像情報を探索することによりエッジ23を検出する。具体的には、ツール上のグレースケールを読み取り、明暗の境界を所定のアルゴリズムにより特定して、特定した明暗の境界をエッジとして検出する。
【0003】
しかし画像測定機では、レンズの収差やカメラの傾きなどに起因して、CCDカメラで撮像された画像データに歪みなどの誤差が含まれ、この誤差の存在によりエッジの位置の検出精度が劣化する。そこで、このような誤差を補正するため、画像データに対して例えば特許文献1、2に示されるような画面内補正処理が施されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−4391号公報
【特許文献2】特許第5412757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
画面内補正処理を施すことにより、レンズの収差やカメラの傾きなどに起因する画像データの誤差は補正されるが、補正後の画像データを用いても、検出されるエッジの位置にはエッジ検出アルゴリズムなどに起因する多少の誤差が残存する。そして、その誤差の大きさは、照明の種類、解像度、レンズの種類・個体差などの光学設定や、撮像視野内におけるエッジの検出位置の違いにより異なる。
【0006】
本発明は、エッジ検出誤差を補正するための偏り補正値を予め用意しておくためのエッジ検出偏り補正値計算方法、用意した偏り補正値を補正対象のエッジ検出点の位置の補正に適用するためのエッジ検出偏り補正方法、およびそれらの方法を実行するプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエッジ検出偏り補正値計算方法は、スキャンする方向において明暗の変化の向きが反対の、互いに向かい合った1組のエッジ間の距離を画像測定機により測定し、測定値と真値との差に基づき偏り補正値を計算する。例えば、ワークの明の領域からスキャンしたとき、明の領域から暗の領域に変化するエッジと暗の領域から明の領域に変化するエッジとの間の距離を画像測定機により測定し、この測定値と真値との差をとることにより偏り補正値を得る。この方法によれば、容易に偏り補正値を得ることができる。
【0008】
適用するエッジ検出アルゴリズムによっては、エッジ間が暗の領域である場合にはエッジ間の距離が真値よりも広がって測定され、明の領域である場合には真値よりも狭まって測定される。この場合、エッジ部分における明暗の変化について正負の方向を予め定義しておくことで、定義した正負の方向に対して、偏り補正値が各領域の幅をそれと同じ方向に補正するものであるか逆方向に補正するものであるかにより偏り補正値の符号を特定することができる。そのため、このように符号が特定された偏り補正値により、エッジ部分の明暗の変化について定義した正負の方向を基準として適切な方向に補正を施すことができる。例えば、エッジ部分において暗から明に変化する方向を正方向とすると、広がった暗の領域の幅を狭める方向も狭まった明の領域を広げる方向も共に負の方向となり、したがって偏り補正値は共に負の値となる。一方、エッジ部分において明から暗に変化する方向を正方向とすると、偏り補正値は共に正の値となる。つまり、偏り補正値の符号はエッジ間が暗の領域であっても明の領域であっても同じになる。そのため、偏り補正値を求めるために、測定値と真値との差をとる際には、エッジ間が暗の領域である場合と明の領域である場合とで偏り補正値の符号が同じになるように立式すればよい。
【0009】
互いに向かい合った1組のエッジを、互いに直交する方向に更に1組備え、偏り補正値を各方向について計算するようにしてもよい。これにより、互いに直交する各方向の間で偏り補正値に差が生じる場合にも適切に補正を施すことができる。
【0010】
画像測定機の撮像視野に対応する、明暗2色の長方形が縦横交互に複数配された市松模様の校正用チャートを用いて、各エッジ部分を当該画像測定機でスキャンすることにより、当該長方形ごとに、当該長方形に含まれる互いに向かい合ったエッジ間の距離を直交する各方向についてそれぞれ測定して各方向の偏り補正値を計算するようにしてもよい。ここで、長方形とは四隅が直角の四角形を意味し、正方形を含む。これにより、撮像視野内の長方形の領域ごとに互いに直交する各方向の偏り補正値が得られるため、測定位置によって誤差の程度が異なっていても撮像視野全域において高精度に偏り補正をすることができる。
【0011】
画像測定機において生じるエッジ検出位置の誤差は、適用する照明の種類、解像度、レンズの種類・個体差などの光学設定によって異なることから、エッジ間の距離の測定及びそれに基づく偏り補正値の計算・収集を画像測定機の光学設定ごとに行ってもよい。これにより、幅広い測定条件の下で高精度に偏り補正をすることができる。
【0012】
本発明のエッジ検出偏り補正方法は、画像測定機による測定対象物のスキャンにより検出されたエッジ検出点における補正値である検出点補正値を、予め当該画像測定機による測定により得られた偏り補正値を用いて互いに直交する各方向について計算する検出点補正値計算ステップと、各方向の検出点補正値に基づきエッジ検出点の補正量を特定する補正量特定ステップと、特定した補正量を用いてエッジ検出点を補正する検出点補正ステップと、を実行する。
【0013】
検出点補正値計算ステップは、画像測定機の撮像視野に対応する明暗2色の長方形が縦横交互に複数配された市松模様の校正用チャートを用いて、各エッジ部分を当該画像測定機でスキャンして当該長方形に含まれる互いに向かい合ったエッジ間の距離を直交する各方向についてそれぞれ測定することにより予め計算された各方向の偏り補正値が、当該複数の当該長方形ごとに記録された補正値テーブルを参照し、エッジ検出点の近傍の1以上の当該長方形の偏り補正値を、各方向についてそれぞれ内挿することによって、エッジ検出点における各方向の検出点補正値を計算してもよい。このように、撮像視野内の長方形の領域ごとに計算された互いに直交する各方向の偏り補正値を用い、かつ、エッジ検出点の近傍の1以上の長方形の偏り補正値を、各方向についてそれぞれ内挿してエッジ検出点における各方向の検出点補正値を計算することで、エッジ検出点が、撮像視野内のどの位置にあっても、また、補正値テーブルに偏り補正値が記録されている各長方形を代表する各位置からずれた位置にあっても、適切な検出点補正値を得ることができ、よって撮像視野全域において高精度に偏り補正をすることができる。更に、補正値テーブルを画像測定機の光学設定ごとに用意しておき、エッジ検出偏り補正を実行する際の光学設定に対応する補正値テーブルを参照するようにすることで、幅広い測定条件の下で高精度に偏り補正をすることができる。
【0014】
補正量特定ステップは、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きに応じて、各方向の検出点補正値のいずれか一方を補正量として特定するようにしてもよい。具体的には、例えば、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの各方向をx方向、y方向とし、エッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きがx方向に対して±45度以内ならばx方向の検出点補正値を、±45度から90度であればy方向の検出点補正値を、補正量として特定する。このようにエッジ検出点を検出する際のスキャンが傾いている方向に近い方向の検出点補正値を補正量として特定することで、適切な補正量を偏り補正に反映することができる。
【0015】
補正量特定ステップは、偏り補正値を得た測定の際のスキャン方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きに応じて、各方向の前記検出点補正値を按分して求めた値を補正量として特定するようにしてもよい。このように各方向の検出点補正値をスキャン方向の傾きに応じて按分した値を補正量として特定することで、より適切な補正量を偏り補正に反映することができる。
【0016】
検出点補正ステップは、エッジ検出点の座標に、補正量特定ステップで特定された補正量を、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きを考慮して加算又は減算することにより、エッジ検出点を補正するようにしてもよい。これにより、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向に対してエッジ検出点を検出する際のスキャン方向が傾いていたとしても、傾きを加味して補正量をエッジ検出点の各座標の補正に反映することで、適切に偏り補正を施すことができる。具体的には、例えば、エッジ検出点の座標を(X、Y)、エッジ部分において暗から明に変化する方向が正方向として定義されているときの補正量をdL、x軸方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャンの方向の傾きをθとした場合、補正後の座標(T、T)を、エッジ検出点を検出する際のスキャンの方向でのエッジ部分の明暗の変化の向きが暗から明方向のときには、
=X+dL・cosθ
=Y+dL・sinθ
により求め、明暗の変化の向きが明から暗方向のときには、
=X−dL・cosθ
=Y−dL・sinθ
により求める。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の方法が実行される画像測定機の一例を示す図である。
図2】エッジ間の距離の測定方法を説明する図である。
図3】偏り補正値の計算方法及び符号について説明する図である。
図4】互いに直交する2組のエッジの位置関係の一例を示す図である。
図5】校正用チャートの一例を示す図である。
図6】本発明のエッジ検出偏り補正方法の処理フローを示す図である。
図7】検出点補正値を計算する方法を説明する図である。
図8】補正量を特定する方法を説明する図である。
図9】補正量を特定する別の方法を説明する図である。
図10】エッジ検出点の補正方法を説明する図である。
図11】ワーク画像、ツール、エッジの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、画像測定機による測定対象物の測定に先立ち、以下説明するエッジ検出偏り補正値計算方法により、当該画像測定機によるエッジ位置の検出偏りを校正用チャート等を用いて偏り補正値として把握した上で、以下説明するエッジ検出偏り補正方法により、測定対象物について測定されたエッジ位置を、事前に把握した偏り補正値に基づき補正するものである。
【0019】
図1に本発明のエッジ検出偏り補正値計算方法及びエッジ検出偏り補正方法が実行される画像測定機の一例を示す。画像測定装置1は、ステージ100と、筐体110と、コンピュータシステム140とを備える。ステージ100は、その上面が水平面と一致するように配置され、当該上面にワーク(測定対象物)Wが載置される。ステージ100は、ハンドル101及び102の回転操作により、X軸方向及びY軸方向に移動可能とされる。筐体110は、透過照明や落射照明などの照明装置を含む光学系120と撮像素子130を内包するとともに、ハンドル112の回転操作により筐体110自身を光学系120及び撮像素子130とともにZ軸方向に移動可能とする。コンピュータシステム140は、例えばコンピュータ本体141、キーボード142、マウス143、及び表示手段144を備える。本発明のエッジ検出偏り補正値計算方法及びエッジ検出偏り補正方法は、例えば、コンピュータで実行可能なプログラムとして記述され、コンピュータシステム140上で実行される。
【0020】
〔エッジ検出偏り補正値計算方法〕
本発明のエッジ検出偏り補正値計算方法は、スキャンする方向において明暗の変化の向きが反対の、互いに向かい合った1組のエッジ間の距離を画像測定機により測定し、測定値と真値との差をとることにより偏り補正値を得る。ここで、真値とはマイクロメータ等の接触式の測定工具による測定値や、寸法が正確に表現された校正用チャートを構成する各長方形の寸法などを意味する。
【0021】
エッジ間の距離の測定方法の一例を図2を参照しつつ説明する。エッジ間の距離は、本来は線と線との距離であるが、各エッジが平行でない場合、両方の線に下ろすことができる垂線が存在しなくなるため、距離を測れない。そこで、線と点の距離を測定する。すなわち、まず図2(a)に示すように一方のエッジについて、ツール内で複数のエッジ点を検出し、これらの検出点を疑似的に結ぶ直線を最小二乗法などにより求める。この線に対して他方のエッジのツール内の例えば中間点から垂線をおろし、この垂線の長さh1を求める。続いて、図2(b)に示すように線と点の関係を逆にして同様な方法により垂線の長さh2を求め、h1とh2の平均をとることにより当該エッジ間の距離とする。これは、いずれか一方のエッジだけで距離を求めた場合、複数のエッジ検出点を疑似的に結んだ直線が傾いていると幅の測定値として正確性に欠くためである。
【0022】
偏り補正値の計算方法について、エッジを境界として明暗が繰り返し変化する図3に示すチャートを参照しつつ説明する。紙面上左から右にスキャンする場合、エッジ11で明の領域から暗の領域に変化しており、エッジ11と向かい合ったエッジ12では、反対に暗の領域から明の領域に変化している。この1組のエッジ間の距離を画像測定機により測定して、測定値と真値との差をとり、これに基づき得られた値をエッジ11とエッジ12に挟まれた暗の領域を代表する偏り補正値とする。また、エッジ12と向かい合ったエッジ13では、更に反対に明の領域から暗の領域に変化している。この1組のエッジ間の距離を画像測定機により測定して、測定値と真値との差をとり、これに基づき得られた値をエッジ12とエッジ13に挟まれた明の領域を代表する偏り補正値とする。
【0023】
図3に示す例では、エッジ間が暗の領域の場合にはエッジ間の距離が真値よりも広がって測定され、明の領域の場合には真値よりも狭まって測定されている。このような現象の発生は主に画像測定機のエッジ検出アルゴリズムに起因する。この場合、例えば測定値から真値を引く形で差をとって偏り補正値を計算すると、エッジ間が暗の領域である場合には正の値になり、明の領域である場合は負の値になる。このように偏り補正値の符号が異なることは、エッジ間の距離を単に補正するという観点からは適切である。しかし、本発明における補正の対象は明暗を画するエッジの位置であり、エッジ間の距離が伸縮するのは、あくまで領域を挟む両側のエッジの位置の補正により付随的に生じるものである。このように補正の対象がエッジの位置であると捉えると、エッジ部分における明暗の変化について正負の方向を予め定義しておくことで、定義した正負の方向に対して、偏り補正値がエッジの位置をそれと同じ方向に補正するものであるか逆方向に補正するものであるかにより偏り補正値の符号を特定することができる。そのため、このように符号が特定された偏り補正値により、エッジ部分の明暗の変化について定義した正負の方向を基準として適切な方向に補正を施すことができる。例えば、エッジ部分において暗から明に変化する方向を正方向とすると、広がった暗の領域の幅を狭める方向も狭まった明の領域を広げる方向も共に負方向となり、したがって偏り補正値は共に負の値となる。一方、エッジ部分において明から暗に変化する方向を正方向とすると、偏り補正値は共に正の値となる。つまり、偏り補正値の符号はエッジ間が暗の領域であっても明の領域であっても同じになる。そのため、偏り補正値を求めるために測定値と真値との差をとる際には、エッジ間が暗の領域である場合と明の領域である場合とで偏り補正値の符号が同じになるように立式すればよい。なお、暗の領域の広がり及び明の領域の狭まりは、領域を挟む両側のエッジのズレにより生じているため、エッジごとの偏り補正値は、測定値と真値との差の1/2となる。そのため例えば、エッジ部分において暗から明に変化する方向を正方向とすると、暗の領域の偏り補正値は、広がった暗の領域の幅を狭める方向、すなわち明から暗の方向となるため負の値となり、したがって(真値−測定値)/2により求められる。また、明の領域の偏り補正値は、狭まった明の領域を広げる方向、すなわち明から暗の方向となるため同様に負の値となり、したがって(測定値−真値)/2により求められる。
【0024】
エッジ間の距離の測定及び偏り補正値の計算は、1組のエッジに対してのみ行うのではなく、図4に示すようにそれと互いに直交する1組のエッジに対しても行うことで補正の精度を高めることができる。
【0025】
画像測定機において生じるエッジ検出位置の誤差は、検出するエッジが画像測定機の撮像視野内のどこに位置しているかにより異なる。そのため、撮像視野をできるだけ細分化し、細分化された領域ごとに偏り補正値を用意しておくことが望ましい。そこで例えば、画像測定機の撮像視野に対応する、図5に示すような明暗2色の長方形を縦横交互に複数配した市松模様の校正用チャートを用いて、各エッジ部分を当該画像測定機でスキャンすることにより、当該長方形ごとに、当該長方形に含まれる互いに向かい合ったエッジ間の距離を互いに直交する各方向についてそれぞれ測定して各方向の偏り補正値を計算するようにしてもよい。校正用チャートは、例えば、透過照明・落射照明問わずに適用が可能な、透明なガラス板に不透明な素材で模様がプリントされたものが好適である。市松模様を構成する長方形は四隅が直角の四角形を意味するが、校正の作業性の観点から一般的には正方形のものが用いられる。また、計算結果として得られた各長方形の各方向の偏り補正値は偏り補正時に利用するため、例えば補正値テーブルに撮像視野内のどこに位置する長方形であるかという位置情報とともに記録しておく。各長方形の位置情報として記録する位置は各長方形内の任意の位置で構わないが、当該長方形を代表する値であるため、例えば、対角線の交点など中心部とするのが望ましい。これにより、撮像視野内の各長方形ごとに各方向の偏り補正値が得られるため、測定位置によって誤差の程度が異なっていても撮像視野全域において高精度に偏り補正をすることができる。
【0026】
また、画像測定機において生じるエッジ検出位置の誤差は、適用する照明の種類(例えば、透過照明や落射照明)、解像度モード(例えば、通常モードや高解像度モード)、レンズの種類・個体差などの光学設定により異なる。そのため、エッジ間の距離の測定及びそれに基づく偏り補正値の計算・収集を画像測定機の光学設定ごとに行っておくことで、幅広い測定条件の下で高精度に偏り補正をすることができる。
【0027】
〔エッジ検出偏り補正方法〕
図6に本発明のエッジ検出偏り補正方法の処理フローを示す。本発明のエッジ検出偏り補正方法は、画像測定機による画像測定機による測定対象物のエッジ部分のスキャンにより検出されたエッジ検出点における補正値である互いに直交する各方向の検出点補正値を、予め当該画像測定機による測定により得た偏り補正値を用いて計算する検出点補正値計算ステップ(S1)と、各方向の検出点補正値に基づきエッジ検出点の補正に用いる補正量を特定する補正量特定ステップ(S2)と、特定した補正量を用いてエッジ検出点を補正する検出点補正ステップ(S3)とを実行する。
【0028】
検出点補正値計算ステップ(S1)は、画像測定機の撮像視野に対応する明暗2色の長方形が縦横交互に複数配された市松模様の校正用チャートを用いて、各エッジ部分を当該画像測定機でスキャンして当該長方形に含まれる互いに向かい合ったエッジ間の距離を直交する各方向についてそれぞれ測定することにより予め計算された各方向の偏り補正値が、当該複数の当該長方形ごとに記録された補正値テーブルを参照し、エッジ検出点の近傍の1以上の当該長方形の偏り補正値を、各方向についてそれぞれ内挿することによって、エッジ検出点における各方向の検出点補正値を計算してもよい。計算方法について、図7を参照して説明する。ここで、補正値テーブルには、各長方形の各方向の偏り補正値が、撮像視野内のどこに位置する長方形であるかという位置情報とともに記録されているものとする。また、各長方形の位置情報として記録された位置は各長方形の中心にあたる座標とする。内挿の方法は任意であり、例えば、補正前のエッジ検出点の位置座標が(X、Y)であり、エッジ検出点の近傍の4つの長方形につき偏り補正値が登録されている位置座標がそれぞれ(X、Y)、(X、Y)、(X、Y)、(X、Y)であるとき、これら4点にそれぞれ登録されたx方向、y方向の偏り補正値(dx1、dy1)、(dx2、dy1)、(dx1、dy2)、(dx2、dy2)について、(X、Y)からの距離の近さの重み付きで線形補間することにより、検出点補正値(dx、dy)を得る。このように、撮像視野内の各長方形領域ごとに予め計算された各方向の偏り補正値を用い、かつ、エッジ検出点の近傍の1以上の長方形の偏り補正値から内挿によりエッジ検出点における各方向の検出点補正値を計算することで、エッジ検出点が、撮像視野内のどの位置にあっても、また、補正値テーブルに偏り補正値が記録されている各長方形を代表する各位置からずれた位置にあっても、適切な検出点補正値を得ることができ、よって撮像視野全域において高精度に偏り補正をすることができる。更に、補正値テーブルを画像測定機の光学設定ごとに用意しておき、エッジ検出偏り補正を実行する際の光学設定に対応する補正値テーブルを参照するようにすることで、幅広い測定条件の下で高精度に偏り補正をすることができる。
【0029】
補正量特定ステップ(S2)は、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きに応じて、各方向の検出点補正値のいずれか一方を補正量として特定するようにしてもよい。特定方法について、図8を参照して説明する。例えば、エッジ検出点の座標が、補正前のエッジ14a上の(X、Y)であり、x方向の検出点補正値がdx、これと直交するy方向の検出点補正値がdyであるとする。また、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向は、dxを得た測定の際のx方向とdyを得た測定の際のy方向のいずれを選択してもよいが、ここではx方向であるとする。このとき、x方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きをθとすると、θが−45度〜+45度のときは補正量dLとしてdxを適用し、+45度〜+90度、又は−45度〜−90度のときは補正量dLとしてdyを適用する。このようにエッジ検出点を検出する際のスキャンが傾いている方向に近い方向の検出点補正値を補正量として特定することで、適切な補正量を偏り補正に反映することができる。
【0030】
また、補正量特定ステップ(S2)は、偏り補正値を得た測定の際のスキャン方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きに応じて、各方向の前記検出点補正値を按分して求めた値を補正量として特定するようにしてもよい。特定方法について、図9を参照して説明する。例えば、エッジ検出点の座標が、補正前のエッジ14a上の(X、Y)であり、x方向の検出点補正値がdx、これと直交するy方向の検出点補正値がdyであるとする。また、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向は、dxを得た測定の際のx方向とdyを得た測定の際のy方向のいずれを選択してもよいが、ここではx方向であるとする。このとき、x方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きをθとし、補正量dLを、θ=0のときにdx、θ=±90度のときに±dyとなる、補正前のエッジ検出点の座標(X、Y)を中心として描かれる楕円形の軌跡として定義することにより、dLにdx、dyの値が傾きθに応じて按分されるようにする。すなわち、
dL=dx・dy/√{(dy・cosθ)+(dx・sinθ)}
により補正量dLを特定できる。このように各方向の検出点補正値をスキャン方向の傾きに応じて按分した値を補正量として特定することで、より適切な補正量を偏り補正に反映することができる。
【0031】
検出点補正ステップ(S3)は、エッジ検出点の座標に、補正量特定ステップ(S2)で特定した補正量を、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャン方向の傾きを考慮して加算又は減算することにより、エッジ検出点を補正するようにしてもよい。これにより、偏り補正値を得た測定の際のスキャンの方向に対してエッジ検出点を検出する際のスキャン方向が傾いていたとしても、傾きを加味して補正量をエッジ検出点の各座標の補正に反映することで、適切に偏り補正を施すことができる。補正方法について、図10を参照して説明する。例えば、補正前のエッジ14a上のエッジ検出点の座標を(X、Y)、エッジ部分において暗から明に変化する方向が正方向として定義されているときの補正量をdL、x軸方向に対するエッジ検出点を検出する際のスキャンの方向の傾きをθとした場合、補正後のエッジ14b上の座標(T、T)を、エッジ検出点を検出する際のスキャンの方向でのエッジ部分の明暗の変化の向きが暗から明方向(図10のケース)のときには、
=X+dL・cosθ
=Y+dL・sinθ
により求め、明暗の変化の向きが明から暗方向のときには、
=X−dL・cosθ
=Y−dL・sinθ
により求める。
【0032】
従来から行われている画面内補正と本発明のエッジ検出偏り補正は、それぞれ別の目的で行うものであるため、両方実施するかいずれか一方だけを実施するかは任意である。また、両方実施する場合の順序も任意である。
【0033】
本発明のエッジ検出偏り補正値計算方法及びエッジ検出偏り補正方法の各処理は、必要に応じ併合・分割しても構わない。また、本発明において表現されている技術的思想の範囲内で適宜変更が可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含む。
【0034】
コンピュータに本発明のエッジ検出偏り補正値計算方法及びエッジ検出偏り補正方法を実行させる場合、方法を構成する各処理内容はプログラムによって記述される。そのプログラムは、例えば、ハードディスク装置に格納されており、実行時には、必要なプログラムやデータがRAM(Random Access Memory)に読み込まれて、そのプログラムがCPUにより実行されることにより、コンピュータ上で各処理内容が実現される。
【符号の説明】
【0035】
11、12、13、14a、14b、23…エッジ
21…ワーク画像
22…ツール
100…ステージ
101、102、112…ハンドル
110…筐体
120…光学系
130…撮像素子
140…コンピュータシステム
141…コンピュータ本体
142…キーボード
143…マウス
144…表示手段
図1
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