特許第6576931号(P6576931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6576931
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】共重合体および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20190909BHJP
   C08F 230/02 20060101ALI20190909BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C08F220/18
   C08F230/02
   C08J5/18
【請求項の数】9
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-542604(P2016-542604)
(86)(22)【出願日】2015年8月12日
(86)【国際出願番号】JP2015072846
(87)【国際公開番号】WO2016024614
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-164605(P2014-164605)
(32)【優先日】2014年8月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達
(72)【発明者】
【氏名】中原 淳裕
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宙
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−170036(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103073963(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00−220/70
C08F 230/02−230/10
C08J 5/00− 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来する構造単位(I)と、
メタクリル酸、アクリル酸、式(2a)で示されるラジカル重合性単量体、および式(2b)で示されるラジカル重合性単量体からなる群より選ばれる少なくとも一つのラジカル重合性単量体(2)に由来する構造単位(II)と、
メタクリル酸メチルに由来する構造単位(III)とを含有し、
構造単位(III)の含有量が共重合体の質量に対して50質量%以上80質量%以下であり、且つ
式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来するリン原子の含有量が共重合体の質量に対して1.0質量%以上2.0質量%未満である、共重合体。


(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)


(式(2a)中、R5は、多環脂肪族炭化水素基またはアルキル置換単環脂肪族炭化水素基を表す。)


(式(2b)中、R9は−CH2CHR1011、−CHR10−CHR1112または−CR101113を表わし、R10、R11およびR13はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、R12は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
【請求項2】
式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来する構造単位(I)と、
メタクリル酸、アクリル酸、式(2a)で示されるラジカル重合性単量体、および式(2b)で示されるラジカル重合性単量体からなる群より選ばれる少なくとも一つのラジカル重合性単量体(2)に由来する構造単位(II)と、
メタクリル酸メチルに由来する構造単位(III)とを含有し、
構造単位(II)が少なくとも式(2a)で示されるラジカル重合性単量体に由来する構造単位を含有しており、且つ
式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来するリン原子の含有量が共重合体の質量に対して1.0質量%以上2.0質量%未満である、共重合体。


(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)


(式(2a)中、R5は、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデカニル基、ジシクロペンタジエニル基、アダマンチル基、または4−t−ブチルシクロヘキシル基を表す。)


(式(2b)中、R9は−CH2CHR1011、−CHR10−CHR1112または−CR101113を表わし、R10、R11およびR13はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、R12は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
【請求項3】
式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来する構造単位(I)と、
メタクリル酸、アクリル酸、式(2a)で示されるラジカル重合性単量体、および式(2b)で示されるラジカル重合性単量体からなる群より選ばれる少なくとも一つのラジカル重合性単量体(2)に由来する構造単位(II)と、
メタクリル酸メチルに由来する構造単位(III)とを含有し
(1)で示されるホスホネート系単量体に由来するリン原子の含有量が共重合体の質量に対して1.0質量%以上2.0質量%未満であり、且つ
ガラス転移温度が115℃以上である、共重合体。


(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)


(式(2a)中、R5は、多環脂肪族炭化水素基またはアルキル置換単環脂肪族炭化水素基を表す。)


(式(2b)中、R9は−CH2CHR1011、−CHR10−CHR1112または−CR101113を表わし、R10、R11およびR13はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、R12は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
【請求項4】
構造単位(II)が少なくともメタクリル酸またはアクリル酸に由来する構造単位を含有しており、
メタクリル酸またはアクリル酸に由来する構造単位の合計含有量が共重合体の質量に対して1〜12質量%である請求項1〜3のいずれかひとつに記載の共重合体。
【請求項5】
構造単位(II)の含有量が共重合体の質量に対して5質量%以上30質量%以下である請求項1〜のいずれかひとつに記載の共重合体。
【請求項6】
重量平均分子量が15万以上である請求項1〜のいずれかひとつに記載の共重合体。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかひとつに記載の共重合体を含有する成形体。
【請求項8】
2mm以上の厚さを有する請求項に記載の成形体。
【請求項9】
0.1mm以上100mm未満の厚さを有する請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性および耐燃性に優れ、且つ高いガラス転移温度を有する共重合体、およびかかる共重合体を含有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
透明性に優れる樹脂は、光学材料、照明材料、看板、装飾部材等の用途に用いられている。これらの用途において難燃性を求められることがある。
樹脂の難燃性を高める方法として、樹脂に塩基性炭酸マグネシウムなどの無機化合物を配合した樹脂組成物が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、かかる樹脂組成物は、通常、透明性が低いため、光学材料などの高い透明性を求められる用途には適さない。
【0003】
難燃性を高める別の方法として、リン酸エステルや含ハロゲン縮合リン酸エステルを配合した樹脂組成物が知られている(例えば特許文献2、3、4参照)。しかしながら、これら樹脂組成物は、使用経過に伴って、配合したリン酸エステルや含ハロゲン縮合リン酸エステルが表面に滲出(bleed out)を起こして、表面白化や難燃性低下を引き起こすことがある。また、含ハロゲン縮合リン酸エステルを配合した樹脂組成物は、燃焼時に毒性や金属腐食性を有するハロゲンガスを発生するおそれがある。
【0004】
また、ホスホネート系単量体やリン酸エステル系単量体を(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合してなる共重合体が提案されている(特許文献5および6、非特許文献1および2参照)。しかしながら、これら共重合体の難燃性を高めるためには、ホスホネート系単量体やリン酸エステル系単量体の共重合比率を増やす必要があり、この結果、得られる共重合体のガラス転移温度が低下するため、高温下で使用する用途には適さないものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−141759号公報
【特許文献2】特開昭59−41349号公報
【特許文献3】特開平9−302191号公報
【特許文献4】特開平9−169882号公報
【特許文献5】特開平10−77308号公報
【特許文献6】特開2003−137915号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Polymer Degradation and Stability, Vol. 70, 2000, p425-436.
【非特許文献2】Polymer Degradation and Stability, Vol. 74, 2001, p441-447.
【非特許文献3】Journal of Polymer Science: Part A: Polymer Chemistry, 1988, Vol. 26, p1791-1807.
【非特許文献4】Polymer Degradation and Stability, 2002, Vol. 77, p227-233.
【非特許文献5】Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry, 2011, Vol. 49, 2008-2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、透明性および耐燃性に優れ、且つ高いガラス転移温度を有する共重合体を安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために検討した結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0009】
〔1〕式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来する構造単位(I)と、
メタクリル酸、アクリル酸、式(2a)で示されるラジカル重合性単量体、および式(2b)で示されるラジカル重合性単量体からなる群より選ばれる少なくとも一つのラジカル重合性単量体(2)に由来する構造単位(II)と、
メタクリル酸メチルに由来する構造単位(III)とを含有し、且つ
式(1)で示されるホスホネート系単量体に由来するリン原子の含有量が共重合体の質量に対して1.0質量%以上2.0質量%未満である、共重合体。
【0010】
【化1】
(式(1)中、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3およびR4はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
【0011】
【化2】
(式(2a)中、R5は、多環脂肪族炭化水素基またはアルキル置換単環脂肪族炭化水素基を表す。)
【0012】
【化3】
(式(2b)中、R9は−CH2CHR1011、−CHR10−CHR1112または−CR101113表わし、R10、R11およびR13はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基を表し、R12は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。)
【0013】
〔2〕構造単位(II)が少なくともメタクリル酸またはアクリル酸に由来する構造単位を含有しており、
メタクリル酸またはアクリル酸に由来する構造単位の合計含有量が共重合体の質量に対して1〜12質量%である〔1〕に記載の共重合体。
〔3〕構造単位(III)の含有量が共重合体の質量に対して50質量%以上80質量%以下である〔1〕または〔2〕に記載の共重合体。
〔4〕構造単位(II)の含有量が共重合体の質量に対して5質量%以上30質量%以下である〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の共重合体。
【0014】
〔5〕構造単位(II)が少なくとも式(2a)で示されるラジカル重合性単量体に由来する構造単位を含有しており、
式(2a)中のR5が、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデカニル基、ジシクロペンタジエニル基、アダマンチル基、または4−t−ブチルシクロヘキシル基である〔1〕〜〔4〕のいずれかひとつに記載の共重合体。
〔6〕ガラス転移温度が115℃以上である〔1〕〜〔5〕のいずれかひとつに記載の共重合体。
〔7〕重量平均分子量が15万以上である〔1〕〜〔6〕のいずれかひとつに記載の共重合体。
【0015】
〔8〕前記〔1〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載の共重合体を含有する成形体。
〔9〕2mm以上の厚さを有する〔8〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明の共重合体および成形体は、透明性および耐燃性に優れるとともに、高いガラス転移温度を有するので、耐熱性を要する分野においても用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の共重合体は、構造単位(I)、構造単位(II)および構造単位(III)を含有するものである。
【0018】
構造単位(I)は式(1)で示されるホスホネート系単量体(以下、「ホスホネート系単量体(1)」ということがある。)に由来するものである。
式(1)中のR1は、水素原子またはメチル基を表す。
式(1)中のR2は、炭素数1〜4のアルキレン基を表す。アルキレン基は2価の炭化水素基である。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基(別名:ジメチレン基)、トリメチレン基、プロピレン基(別名:プロパン−1,2−ジイル基)、テトラメチレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ブタン−1,3−ジイル基などが挙げられる。これらのうち経済性の観点からメチレン基またはエチレン基が好ましい。
【0019】
式(1)中のR3およびR4は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
【0020】
ホスホネート系単量体(1)の具体例としては、ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート、ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート、ジエチル1−メタクリロイルオキシエチルホスホネート、ジメチル3−メタクリロイルオキシプロピルホスホネート、ジメチル2−メタクリロイルオキシプロピルホスホネート、ジメチル4−メタクリロイルオキシブチルホスホネート、ジメチル3−メタクリロイルオキシブチルホスホネート、ジメチル2−メタクリロイルオキシブチルホスホネート;ジエチルアクリロイルオキシメチルホスホネート、ジエチル2−アクリロイルオキシエチルホスホネート、ジメチル3−アクリロイルオキシプロピルホスホネート、ジメチル2−アクリロイルオキシプロピルホスホネート、ジメチル4−アクリロイルオキシブチルホスホネート、ジメチル3−アクリロイルオキシブチルホスホネート、ジメチル2−アクリロイルオキシブチルホスホネートなどが挙げられる。これらのうち、共重合体の耐燃性を高める観点から、ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネートおよびジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネートが好ましい。これらホスホネート系単量体(1)は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
本発明の共重合体に含まれる構造単位(I)の量は、耐燃性と耐熱性が両立されるという観点から、共重合体に含まれる全構造単位のモル数に対して、好ましくは3.6モル%以上15モル%未満、より好ましくは4.0モル%以上10モル%以下である。構造単位(I)の含有量が増加すると共重合体の耐燃性は高まる傾向にあるが、構造単位(I)の含有量が減少すると該共重合体のガラス転移温度は上昇する傾向がある。当然だが、ホスホネート系単量体(1)を2種以上組み合わせて用いる場合、上記したホスホネート系単量体(1)に由来する構造単位(I)の含有量は、かかる2種以上のホスホネート系単量体(1)に由来する構造単位の含有量の合計である。
【0022】
本発明の共重合体は、ホスホネート系単量体(1)に由来するリン原子の含有量が、共重合体の質量に対して、好ましくは1.0質量%以上2.0質量%未満、より好ましくは1.20質量%以上1.98質量%以下である。
【0023】
構造単位(II)は、メタクリル酸、アクリル酸、式(2a)で示されるラジカル重合性単量体(以下、「ラジカル重合性単量体(2a)」ということがある。)、および式(2b)で示されるラジカル重合性単量体(以下、「ラジカル重合性単量体(2b)」ということがある。)からなる群から選ばれる少なくとも一つのラジカル重合性単量体(2)に由来するものである。
【0024】
式(2a)中、R5は、多環脂肪族炭化水素基またはアルキル置換単環脂肪族炭化水素基を表す。アルキル置換単環脂肪族炭化水素基におけるアルキル基は、メチル基、イソプロピル基、t−ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
多環脂肪族炭化水素基としては、例えば、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデカニル基、ジシクロペンタジエニル基、アダマンチル基、フェンキル基、デカリン基などが挙げられる。これらのうち、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデカニル基、ジシクロペンタジエニル基、アダマンチル基が好ましい。
アルキル置換単環脂肪族炭化水素基としては、例えば、4−メチルシクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、4−イソプロピルシクロヘキシル基、2−イソプロピルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、2−t−ブチルシクロヘキシル基などが挙げられる。これらのうち4−t−ブチルシクロヘキシル基が好ましい。
【0025】
ラジカル重合性単量体(2a)の具体例としては、メタクリル酸4−メチルシクロヘキシル、メタクリル酸2−メチルシクロヘキシル、メタクリル酸4−イソプロピルシクロヘキシル、メタクリル酸2−イソプロピルシクロヘキシル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸2−t−ブチルシクロヘキシルなどのメタクリル酸アルキル置換単環脂肪族炭化水素エステル;メタクリル酸2−ノルボルニル、メタクリル酸2−メチル−2−ノルボルニル、メタクリル酸2−エチル−2−ノルボルニル、メタクリル酸2−イソボルニル、メタクリル酸2−メチル−2−イソボルニル、メタクリル酸2−エチル−2−イソボルニル、メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル、メタクリル酸8−メチル−8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル、メタクリル酸8−エチル−8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル、メタクリル酸2−アダマンチル、メタクリル酸2−メチル−2−アダマンチル、メタクリル酸2−エチル−2−アダマンチル、メタクリル酸1−アダマンチル、メタクリル酸2−フェンキル、メタクリル酸2−メチル−2−フェンキル、メタクリル酸2−エチル−2−フェンキル、メタクリル酸デカリン−1−イル、メタクリル酸デカリン−2−イルなどのメタクリル酸多環脂肪族炭化水素エステル;などが挙げられる。これらのうち、メタクリル酸2−ノルボルニル、メタクリル酸2−イソボルニル、メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル、メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエニル、メタクリル酸2−アダマンチル、メタクリル酸1−アダマンチル、メタクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシルが好ましく、入手の容易さの観点からメタクリル酸2−イソボルニルまたはメタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルがより好ましい。
【0026】
式(2b)中、R9は、−CH2CHR1011、−CHR10−CHR1112または−CR101113表わし、R10、R11およびR13は、それぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基を表し、R12は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表わす。該アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0027】
ラジカル重合性単量体(2b)の具体例としては、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸1−メチルブチル、メタクリル酸2−メチルブチル、メタクリル酸1,1−ジメチルプロピル、メタクリル酸1,3−ジメチルブチル、メタクリル酸2−エチルブチル、メタクリル酸2−メチルペンチルなどが挙げられる。これらのうち、入手の容易性、耐熱性が高いという観点から、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸t−ブチルが好ましく、メタクリル酸t−ブチルがより好ましい。
【0028】
これらラジカル重合性単量体(2)は1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ラジカル重合性単量体(2a)または(2b)は、燃焼時にエステル結合が分解してメタクリル酸またはアクリル酸に変換されやすい単量体であることが好ましい。メタクリル酸またはアクリル酸は、共重合体の吸水性を若干悪化させる傾向があるが、共重合体の耐熱性を高くする傾向がある。ラジカル重合性単量体(2a)は、共重合体の吸水性を低くする傾向がある。また、ラジカル重合性単量体(2a)は共重合体のガラス転移温度を高める傾向があり、ラジカル重合性単量体(2b)は共重合体のガラス転移温度を低下させない傾向がある。メタクリル酸またはアクリル酸とラジカル重合性単量体(2a)とを組み合わせて用いた場合は、得られる共重合体は、低い吸水性と高い耐熱性を併せ持つ傾向があるので好ましい。
【0030】
本発明の共重合体に含まれる構造単位(II)は、その下限量が、共重合体の質量に対して、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは10質量%、特に好ましくは15質量%であり、その上限量が、共重合体の質量に対して、好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、さらに好ましくは30質量%である。構造単位(II)の含有量を高めると、共重合体のガラス転移温度が高まる傾向がある。当然だが、ラジカル重合性単量体(2)を2種以上組み合わせて用いる場合、構造単位(II)の含有量は、かかる2種以上のラジカル重合性単量体(2)に由来する構造単位の含有量の合計である。
【0031】
本発明に係る好ましい一実施態様の共重合体は、構造単位(II)が少なくともメタクリル酸またはアクリル酸に由来する構造単位を含有している。かかる共重合体において、メタクリル酸またはアクリル酸に由来する構造単位の合計含有量は、共重合体の質量に対して、好ましくは1〜12質量%、より好ましくは2〜8質量%である。
【0032】
本発明に係る好ましい別の一実施態様の共重合体は、構造単位(II)が少なくとも式(2a)で示されるラジカル重合性単量体に由来する構造単位を含有している。かかる共重合体において、式(2a)中のR5が、ノルボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデカニル基、ジシクロペンタジエニル基、アダマンチル基、または4−t−ブチルシクロヘキシル基であることが好ましい。
【0033】
本発明の共重合体に含まれる構造単位(III)は、メタクリル酸メチルに由来するものである。
本発明の共重合体に含まれる構造単位(III)は、透明性の観点からその下限量が、共重合体の質量に対して、好ましくは50質量%、より好ましくは55質量%、さらに好ましくは58質量%、最も好ましくは60質量%であり、耐燃性の観点からその上限量が、共重合体の質量に対して、好ましくは80質量%、より好ましくは75質量%、さらに好ましくは72質量%、最も好ましくは70質量%である。
【0034】
本発明の共重合体は、ホスホネート系単量体(1)、ラジカル重合性単量体(2)、メタクリル酸メチル以外のラジカル重合性単量体(以下、「ラジカル重合性単量体(4)」と称する。)に由来する構造単位(IV)をさらに有していてもよい。ラジカル重合性単量体(4)としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどのビニル芳香族炭化水素;ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロヘプセン、ビニルノルボルネンなどのビニル脂環式炭化水素;無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシルなどのメタクリル酸C2以上アルキルエステル;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロへプチルなどの(メタ)アクリル酸無置換単環脂肪族炭化水素エステル;
【0035】
メタクリル酸フェニル、アクリル酸フェニルなどの(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;2−ビニルフラン、2−イソプロペニルフラン、2−ビニルベンゾフラン、2−イソプロペニルベンゾフラン、2−ビニルジベンゾフラン、2−ビニルチオフェン、2−イソプロペニルチオフェン、2−ビニルジベンゾチオフェン、2−ビニルピロール、N−ビニルインドール、N−ビニルカルバゾール、2−ビニルオキサゾール、2−イソプロペニルオキサゾール、2−ビニルベンゾオキサゾール、3−ビニルイソオキサゾール、3−イソプロペニルイソオキサゾール、2−ビニルチアゾール、2−ビニルイミダゾール、4(5)−ビニルイミダゾール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルイミダゾリン、2−ビニルベンズイミダゾール、5(6)−ビニルベンズイミダゾール、5−イソプロペニルピラゾール、2−イソプロペニル1,3,4−オキサジアゾール、ビニルテトラゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−イソプロペニルピリジン、3−ビニルピリジン、3−イソプロペニルピリジン、2−ビニルキノリン、2−イソプロペニルキノリン、4−ビニルキノリン、4−ビニルピリミジン、2,4−ジメチル−6−ビニル−S−トリアジン、3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、4−メチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、4−デシル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オンなどのエチレン性不飽和ヘテロ環式化合物;ジメチルメタクリロイルオキシメチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシ−1−メチルエチルホスフェートなどのエチレン性不飽和基を有するリン酸エステル;5−メチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、4,5−ジメチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、5,5−ジメチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、5−エチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン、5−デシル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オンなどが挙げられる。これらのうちメタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルがより好ましい。
これらラジカル重合性単量体(4)は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、「(メタ)アクリル」は「メタクリルまたはアクリル」を意味する。
【0036】
本発明の共重合体に含まれる構造単位(IV)の量は、耐熱性と耐燃性とのバランスから、共重合体の質量に対して、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。当然だが、ラジカル重合性単量体(4)を2種以上組み合わせて用いる場合、構造単位(IV)の含有量は、かかる2種以上のラジカル重合性単量体(4)に由来する構造単位の含有量の合計である。
【0037】
本発明の共重合体は、構造単位(IV)が、多官能重合性単量体に由来する構造単位(IV-1)を含むものであってもよい。多官能重合性単量体としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート;m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、1,2−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ジイソプロペニルベンゼン、1,4−ジイソプロペニルベンゼン、1,3−ジビニルナフタレン、1,8−ジビニルナフタレン、1,4−ジビニルナフタレン、1,5−ジビニルナフタレン、2,3−ジビニルナフタレン、2,7−ジビニルナフタレン、2,6−ジビニルナフタレン、4,4’−ジビニルビフェニル、4,3’−ジビニルビフェニル、4,2’−ジビニルビフェニル、3,2’−ジビニルビフェニル、3,3’−ジビニルビフェニル、2,2’−ジビニルビフェニル、2,4−ジビニルビフェニル、1,2−ジビニル−3,4−ジメチルベンゼン、1,3−ジビニル−4,5,8−トリブチルナフタレン、2,2’−ジビニル−4−エチル−4’−プロピルビフェニル、1,2,4−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルベンゼン、1,2,4−トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、1,3,5−トリビニルナフタレン、3,5,4’−トリビニルビフェニルなどの多官能ビニル芳香族化合物などが挙げられる。これらのうち、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。これら多官能重合性単量体は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、「(メタ)アクリレート」は「メタクリレートまたはアクリレート」を意味する。
【0038】
本発明の共重合体に含まれる構造単位(IV-1)の量は、耐熱性と耐燃性とのバランスから、共重合体の質量に対して、好ましくは0.001質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。当然だが、多官能重合性単量体を2種以上組み合わせて用いる場合、構造単位(IV-1)の含有量は、かかる2種以上の多官能重合性単量体に由来する構造単位の含有量の合計である。
【0039】
本発明の共重合体に含まれる各々の構造単位の量は、1H−NMR測定により定量することができる。また、1H−NMR測定においてピークが重なるなどにより定量が困難となれば、熱分解ガスクロマトグラフィー測定を用いて定量することもできる。
【0040】
共重合体の具体例としては、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/アクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/アクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸2−イソボルニル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/メタクリル酸/ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸メチル/メタクリル酸t−ブチル/メタクリル酸/ジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート/アクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
【0041】
本発明の共重合体は、ガラス転移温度が、好ましくは110〜180℃、より好ましくは120〜165℃である。ガラス転移温度が低すぎると共重合体の耐熱性が不足し、ガラス転移温度が高すぎると共重合体が脆くなる。なおガラス転移温度はJIS K7121に準拠して測定した値である。すなわち、本発明の共重合体を230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にて示差走査熱量測定法にてDSC曲線を測定し、2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明のガラス転移温度とした。
【0042】
本発明の共重合体は、重量平均分子量の下限が、好ましくは10万、より好ましくは15万、さらに好ましくは30万である。重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、成形性の観点から、好ましくは500万、より好ましくは300万である。重量平均分子量がこの範囲にあると、共重合体の耐衝撃性や靭性などが良好である。
【0043】
本発明の共重合体は、重量平均分子量/数平均分子量の比(以下、この比を「分子量分布」ということがある。)が、好ましくは1.1〜10.0、より好ましくは1.5〜5.0、特に好ましくは1.6〜3.0である。分子量分布がこの範囲にあると、共重合体の成形性や、該共重合体から得られる成形体の耐衝撃性や靭性などが良好である。
なお、重量平均分子量および分子量分布は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算の値である。
かかる重量平均分子量および分子量分布は、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量などを調整することによって制御できる。
【0044】
本発明の共重合体は、前記構造単位の含有量に対応する割合のホスホネート系単量体(1)、ラジカル重合性単量体(2)およびメタクリル酸メチル並びに必要に応じてラジカル重合性単量体(4)を共重合させることによって得られる。共重合方法に特に制限はなく、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法または溶液重合法などが挙げられる。また、セルキャスト重合法などのような反応成形法は、成形時に共重合体に掛かる熱を減らすことができ、イエロインデックスの小さい成形体を得ることができるので好ましい。共重合は重合開始剤の存在下に所定温度にて開始させることができる。また、必要に応じて連鎖移動剤を用いて、得られる共重合体の重量平均分子量などを調節することができる。
【0045】
本発明の共重合体を得るための原料であるホスホネート系単量体(1)、ラジカル重合性単量体(2)およびメタクリル酸メチル並びに必要に応じてラジカル重合性単量体(4)は、光路長3.2mmにおけるイエロインデックスが2以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましい。かかるイエロインデックスが小さいと、得られる共重合体の着色を抑制でき、例えば得られる共重合体の厚さ3.2mmの試験片のイエロインデックスを2.0以下とすることもできる。
なお、上記したイエロインデックスは、JIS Z8722に準拠して測定した値を元にJIS K7373に準拠して算出した黄色度の値である。
【0046】
本発明の共重合体を製造する際に用いる重合開始剤は、反応性ラジカルを発生するものであれば特に限定されない。例えば、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート 、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエ−ト、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエ−ト、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、ベンゾイルパーオキシド 、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの過硫酸塩が挙げられる。これらのうち、アゾ化合物が好ましい。これら重合開始剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、重合開始剤の添加量や添加方法などは、目的に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。例えば、重合開始剤の量は、全単量体100質量部に対して、0.0001〜0.2質量部の範囲が好ましく、0.001〜0.1質量部の範囲がより好ましい。当然だが、重合開始剤を2種以上組み合わせて用いる場合、上記の重合開始剤の量は、かかる2種以上の重合開始剤の量の合計である。
【0047】
本発明の共重合体を製造する際に用いる連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、1,4−ブタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、エチレングリコールビスチオプロピオネート、ブタンジオールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオプロピオネート、ヘキサンジオールビスチオグリコレート、ヘキサンジオールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス−(β−チオプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなどのアルキルメルカプタン類;α−メチルスチレンダイマー;テルピノレンなどが挙げられる。これらのうちn−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンなどの単官能アルキルメルカプタンが好ましい。これら連鎖移動剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。連鎖移動剤の使用量は、全単量体100質量部に対して、好ましくは0.01〜1質量部、より好ましくは0.02〜0.8質量部、さらに好ましくは0.03〜0.6質量部である。当然だが、連鎖移動剤を2種以上組み合わせて用いる場合、上記した連鎖移動剤の使用量は、かかる2種以上の連鎖移動剤の使用量の合計である。
【0048】
ホスホネート系単量体(1)、ラジカル重合性単量体(2)、およびメタクリル酸メチル並びに任意成分であるラジカル重合性単量体(4)の共重合においては、共重合体の製造に必要な物質全てを混合して反応器に供してもよいし、共重合体の製造に必要な物質を別々に反応器に供してもよいが、共重合体の製造に必要な物質全てを混合して反応器に供することが好ましい。かかる混合は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0049】
共重合を行う際の温度は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは20〜180℃である。また、共重合を行う時間は、反応規模に依存するが、経済性の観点から、好ましくは0.1〜20時間、より好ましくは0.5〜10時間である。また、共重合は窒素ガスなど不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
【0050】
共重合終了後、公知の方法に従って、未反応の単量体および溶剤を除去することができる。また、共重合体を成形しやすくするために、公知の方法にて、粉粒化、ペレット化などしてもよい。
【0051】
本発明においては、共重合体に必要に応じて各種の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、耐衝撃性改質剤、有機色素、光拡散剤、艶消し剤、蛍光体、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、無機充填剤、繊維などが挙げられる。このような各種添加剤の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜に決定することができる。各添加剤の配合量は、それぞれ、共重合体および必要に応じて加える他の重合体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0052】
酸化防止剤は、酸素存在下においてそれ単体で樹脂の酸化劣化防止に効果を有するものである。例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。これらの酸化防止剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中、着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン系酸化防止剤やヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。
リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、その割合は特に制限されないが、リン系酸化防止剤/ヒンダードフェノール系酸化防止剤の質量比で、好ましくは1/5〜2/1、より好ましくは1/2〜1/1である。
【0053】
リン系酸化防止剤としては、2,2−メチレンビス(4,6−ジt−ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジt−ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRUGAFOS168)、3,9−ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP−36)などが挙げられる。
【0054】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)などが挙げられる。
【0055】
熱劣化防止剤は、実質上無酸素の状態下で高熱にさらされたときに生じるポリマーラジカルを捕捉することによって共重合体の熱劣化を防止できるものである。
該熱劣化防止剤としては、2−t−ブチル−6−(3’−t−ブチル−5’−メチル−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、2,4−ジ−t−アミル−6−(3’,5’−ジ−t−アミル−2’−ヒドロキシ−α−メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)などが挙げられる。
【0056】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われるものである。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、または波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが100dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0057】
ベンゾトリアゾール類は紫外線被照による着色などの光学特性低下を抑制する効果が高いので、本発明のフィルムを光学用途に適用する場合に用いる紫外線吸収剤として好ましい。ベンゾトリアゾール類としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−t−オクチルフェノール](ADEKA社製;LA−31)などが好ましい。
【0058】
また、波長380〜450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、得られるフィルムの変色を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などが挙げられる。
これら紫外線吸収剤の中、紫外線被照による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0059】
また、波長380nm付近の波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6−トリス(2−ヒドロキシ−4−ヘキシルオキシ−3−メチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(ADEKA社製;LA−F70)などが挙げられる。
【0060】
なお、紫外線吸収剤のモル吸光係数の最大値εmaxは、次のようにして測定する。シクロヘキサン1Lに紫外線吸収剤10.00mgを添加し、目視による観察で未溶解物がないように溶解させる。この溶液を1cm×1cm×3cmの石英ガラスセルに注入し、日立製作所社製U−3410型分光光度計を用いて、波長380〜450nm、光路長1cmでの吸光度を測定する。紫外線吸収剤の分子量(MUV)と、測定された吸光度の最大値(Amax)とから次式により計算し、モル吸光係数の最大値εmaxを算出する。
【0061】
εmax=[Amax/(10×10-3)]×MUV
【0062】
光安定剤は、主に光による酸化で生成するラジカルを捕捉する機能を有すると言われる化合物である。好適な光安定剤としては、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類が挙げられる。
【0063】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、硬化油などが挙げられる。
【0064】
離型剤は、成形体の金型からの離型を容易にする機能を有する化合物である。離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。本発明においては、離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類/グリセリン脂肪酸モノエステルの質量比が、好ましくは2.5/1〜3.5/1、より好ましくは2.8/1〜3.2/1である。
【0065】
高分子加工助剤は、共重合体を成形する際、厚さ精度および薄膜化に効果を発揮する化合物である。高分子加工助剤は、通常、乳化重合法によって製造することができる、0.05〜0.5μmの粒子径を有する重合体粒子である。
該重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に5dl/g未満の極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。高分子加工助剤は、それ全体として、極限粘度が3〜6dl/gであることが好ましい。
【0066】
耐衝撃性改質剤としては、アクリル系ゴムもしくはジエン系ゴムをコア層成分として含むコアシェル型改質剤;ゴム粒子を複数包含した改質剤などが挙げられる。
【0067】
有機色素としては、共重合体に対しては有害とされている紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物が好ましく用いられる。
光拡散剤や艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウムなどが挙げられる。
蛍光体として、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、蛍光漂白剤などが挙げられる。
【0068】
帯電防止剤としては、例えば、ステアロアミドプロピルジメチル−β−ヒドロキシエチルアンモニウムニトレートなどが挙げられる。
【0069】
難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA、デカブロモジフェニルオキシド、臭素化ポリカーボネート等の有機ハロゲン系難燃剤;酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、ホウ酸亜鉛、リン酸、無水オルトリン酸、トリクレジルホスフェート、ヒドロキシメチルジエチルホスホネート、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリル)−1,1’−ビフェニルを主成分とするビフェニル−4,4’−ジオール/フェノール/ホスホリル=トリクロライドの反応生成物(例えばADEKA社製 FP800)等の非ハロゲン系難燃剤などが挙げられる。
【0070】
可塑剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリエチルフェニルフォスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、モノフェニルジクレジルフォスフェート、ジフェニルモノキシレニルフォスフェート、モノフェニルジキシレニルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等の燐酸トリエステル系可塑剤;フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル系可塑剤;オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪酸一塩基酸エステル系可塑剤;二価アルコールエステル系可塑剤;オキシ酸エステル系可塑剤等が挙げられる。
【0071】
また、可塑剤として、スクアラン(別名:2,6,10,15,19,23−ヘキサメチルテトラコサン、C3062、Mw=422.8)、流動パラフィン(ホワイトオイル、JIS−K−2231に規定されるISO VG10、ISO VG15、ISO VG32、ISO VG68、ISO VG100、ISO VG8及びISO VG21等)、ポリイソブテン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン等が挙げられる。これらのうち、スクアラン、流動パラフィン及びポリイソブテンが、好ましい。
【0072】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。
繊維としては、ガラス繊維、カーボン繊維などが挙げられる。
【0073】
本発明の成形体は、本発明の共重合体を含有するものであり、好ましくは本発明の共重合体を70質量%以上含有するものである。本発明の成形体は、その製法において特に限定されず、例えばTダイ法(ラミネート法、共押出法など)、インフレーション法(共押出法など)、圧縮成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、真空成形法、射出成形法(インサート法、二色法、プレス法、コアバック法、サンドイッチ法など)などの溶融成形法ならびに溶液キャスト法などによって成形して本発明の共重合体を得ることができる。また、本発明の成形体は、セルキャスト重合法などのような反応成形法、すなわち、単量体混合物の重合反応と成形とを同時に行って得ることができる。これら成形方法のうち、生産性の高さ、コストなどの点から、Tダイ法、インフレーション法、射出成形法、セルキャスト重合法が好ましい。また、本発明の成形体の厚さに制限はないが、前述の方法により、例えば2mm以上の厚さのものも得ることができる。
【0074】
また、本発明の成形体を得るにあたり、成形は、複数回行なってもよい。例えば、本発明の共重合体を成形してペレット状の成形体を得たのち、かかるペレット状の成形体をさらに成形して所望の形状の成形体とすることができる。
【0075】
本発明の成形体の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の共重合体に他の重合体を混合して成形してもよい。かかる他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリノルボルネンなどのポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂などのスチレン系樹脂;メチルメタクリレート系重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマーなどのポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SISなどのスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDMなどのオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
【0076】
また、本発明の成形体の製造においては、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、各種の添加剤を加えてもよい。
【0077】
本発明の成形体は、積層体の製造に用いてもよい。積層体は、本発明の成形体のみを積層したものであってもよいし、本発明の成形体と他の素材とを積層したものであってもよい。
積層体の作製法は、特に制限されない。例えば、2種以上の重合体を同時に押出成形する方法(共押出法);2以上の成形体を熱、超音波、高周波などで融着させる方法(融着法);2以上の成形体を紫外線硬化性接着剤、熱硬化性接着剤、放射線硬化性接着剤などで接着する方法(接着法);シートやフィルムなどを金型内にセットしそこに溶融した重合体を流し込んで成形する方法(インサート成形法);他の基材を化学蒸着または物理蒸着によって堆積させる方法(蒸着法);他の基材を含む塗料を塗布して膜を形成する方法(塗布法)等が挙げられる。また、融着法または接着法においては、融着させる面もしくは接着する面を、融着または接着の前に、公知のプライマーで表面処理してもよいし、コロナ放電処理、プラズマ処理などしてもよい。
【0078】
本発明の成形体と積層させる他の素材は、特に制限されず、積層体の用途に応じて適宜選定することができる。積層体を光学部品とする場合における他の素材は、特に制限されないが、例えば、ハードコート材、反射防止材、液晶、環状オレフィン系開環重合体もしくはその水素添加物、環状オレフィン系付加重合体、脂肪族系オレフィン樹脂、アクリル系重合体、ポリカーボネート系樹脂、液晶ポリマー、ソーダガラス、石英ガラスなどが挙げられる。
【0079】
本発明の成形体または該成形体を含む積層体には、その表面に印刷を施したり、切削加工やエンボス加工などによって表面を賦形したりすることができる。印刷や賦形をした後にインサート成形法などで他の素材と積層させると印刷や賦形によって形成された文字、模様、凹凸などが本発明の成形体と他の素材との間に封入される。本発明の成形体は透明性に優れるので封入された文字、模様、凹凸などを鮮明に観察することができる。
【0080】
本発明の成形体は、フィルムまたはシートであることが好ましい。一般にフィルムは厚さ0.005mm以上0.25mm以下の平面状成形体を指し、シートは厚さ0.25mm超の平面状成形体を指す。
【0081】
本発明の成形体は、その厚さが、好ましくは0.1mm以上100mm未満、より好ましくは0.5mm以上50mm未満、さらに好ましくは0.8mm以上30mm未満、最も好ましくは1mm以上10mm未満である。
【0082】
本発明の共重合体および成形体は、透明性、耐燃性、耐熱性に優れるので、光学分野、食品分野、医療分野、自動車分野、電気・電子分野などの多岐の分野で利用することができ、例えば、光学機器(顕微鏡、双眼鏡、カメラなど)用の各種光学部材(ファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなど)、表示機器(テレビ、タッチパネル、パソコン、携帯端末など)用の各種光学部材(導光フィルム・シート、位相差フィルム・シート、偏光フィルム・シート、偏光板保護フィルム・シート、光拡散フィルム・シート、プリズムフィルム・シート、反射フィルム・シート、反射防止フィルム・シート、視野角拡大フィルム・シート、防眩フィルム・シート、輝度向上フィルム・シート、前面板など)、光スイッチ、光コネクターなどの光学部材;照明カバーなどの照明部材などに有用である。また、家屋用部品(屋根、窓、雨どい、壁など)、再帰反射フィルム・シート、農業用フィルム・シート、看板(ガソリンスタンド看板、表示板、店舗看板など)、装飾部材、防音壁などの屋外で使用される用途に有用である。さらに、駅構内やビル、住宅などの屋内向けの看板、建材などに有用である。
【0083】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。また、本発明は、以上までに述べた、特性値、形態、製法、用途などの技術的特徴を表す事項を、任意に組み合わせて成るすべての態様を包含している。
【0084】
共重合体および成形体の物性値等は以下の方法によって測定した。
【0085】
[共重合体の構成単位組成分析]
装置:核磁気共鳴装置(Bruker社製 ULTRA SHIELD 400 PLUS)
溶媒: 重クロロホルム
測定核種: 1
測定温度: 室温
積算回数: 64回
【0086】
[重量平均分子量、分子量分布]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定に基づき、ポリスチレン換算値で共重合体の重量平均分子量および分子量分布を決定した。ここでは、GPC装置として、東ソー株式会社製のHLC−8320(品番)を用い、カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel SuperMultipore HZM−Mの2本とSuperHZ4000の1本を直列に繋いだものを用いた。
溶離剤: テトラヒドロフラン
溶離剤流量: 0.35ml/分
カラム温度: 40℃
検量線: 標準ポリスチレン10点を用いて作成
【0087】
[全光線透過率]
樹脂ペレットを、230℃にて熱プレス成形し、厚さ3.2mmのシート状の成形体を得た。JIS K7361−1に準じて、村上色彩研究所製、HR−100(品番)を用いて、光路長3.2mmにおける全光線透過率を測定した。
【0088】
〔ヘイズ]
厚さ3.2mmの試験片を用いて、JISK7136に準拠して、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM−150)を用いて光路長3.2mmにおけるヘイズ(H)を測定した。
【0089】
[イエロインデックス]
厚さ3.2mmの試験片を用いて、日本電色工業株式会社製の測色色差計ZE−2000を用い、JIS Z8722に準拠して光路長3.2mmで測定した値を元にJIS K7373に準拠して算出した黄色度の値をイエロインデックス(YI)とした。
【0090】
[ガラス転移温度]
樹脂ペレットを、JIS K7121に準拠して、230℃まで一度昇温し、次いで室温まで冷却し、その後室温から230℃までを10℃/分で昇温させる条件にて示差走査熱量測定法にてDSC曲線を測定した。2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を本発明におけるガラス転移温度として採用した。ここでは、測定装置として島津製作所製DSC−50(品番)を用いた。
【0091】
[吸水率]
長さ50mm×幅50mm×厚さ3.2mmの試験片を、50℃、667Pa(5mmHg)の環境下において3日間、乾燥させて、絶乾試験片を得た。絶乾試験片の質量W0を測定した。その後、絶乾試験片を温度23℃の水の中に浸漬させ2ヶ月間放置した。水から引き上げ後、試験片の質量W1を測定した。下式により飽和吸水率(%)を算出した。
飽和吸水率={(W1−W0)/W0}×100
【0092】
[耐燃性]
JIS K6911(1995) 5.24 耐燃性 A法に準拠して、耐燃性の評価を行った。樹脂ペレットを、長さ約127mm、幅及び厚さそれぞれ12.7±0.5mmに成形して試験片を用意する。試験片の一端(自由端)から25mm及び100mmの箇所に標線を付けた。バーナーを傾斜角30度の支持台に載せ、鉛直線に対し30度傾斜した状態に保持した。空気の流れを感じない室内で、試験片の長さ方向が水平に、幅方向が水平に対して45°の角度に、試験片下端がバーナー青色炎の先端高さとなるように、一方の端をつかみ具を具備した実験用スタンドに保持した。試験片の自由端の下端に、バーナー青色炎の先端を30度の角度を保持して30秒間接触させ、炎を取り去ると同時にストップウオッチを始動させた。炎は試験片から450mm以上離しておき、試験片の炎が消えたときストップウオッチを止め、その時間を秒単位で読み取り、燃焼時間とした。このとき、試験片の炎が180秒間以上消えない場合は「可燃性」とした。消火後、試験片の燃焼した長さを下端で測り、燃焼距離をミリメートル(mm)単位で測定した。燃焼距離が25mm以下の場合は「不燃性」、25mmを超え100mm以下の場合は「自消性」とした。
【0093】
ホスホネート系単量体(1)として、ジエチルメタクリロイルオキシメチルホスホネート(式(A)参照、以下、「DEMMPO」と表記する。)、およびジエチル2−メタクリロイルオキシエチルホスホネート(式(B)参照、以下、「DEMEPO」と表記する。)を用意した。DEMMPOは非特許文献1に記載の方法にて合成した。DEMEPOは非特許文献3に記載の方法にて合成した。
【0094】
【化4】
【0095】
【化5】
【0096】
ラジカル重合性単量体(2)としては、メタクリル酸(以下、「MAA」と表記する。)、メタクリル酸t−ブチル(以下、「tBMA」と表記する。)、メタクリル酸8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル(式(C)参照、以下、「TCDMA」と表記する。)、およびメタクリル酸2−イソボルニル(式(D)参照、以下、「IBMA」と表記する。)を用意した。
【0097】
【化6】
【0098】
【化7】
【0099】
ラジカル重合性単量体(3)として、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と表記する。)を用意した。
【0100】
ラジカル重合性単量体(4)として、アクリル酸メチル(以下、「MA」と表記する。)、スチレン(以下、「St」と表記する。)、および5−メチル−3−メチリデンジヒドロフラン−2(3H)−オン(式(E)参照、以下、「MMBL」と表記する。)を用意した。MMBLは、非特許文献5に記載の方法にて合成した。
【0101】
【化8】
【0102】
実施例1
15質量部のDEMMPO、15質量部のTCDMA、6質量部のMAA、62質量部のMMA、および2質量部のMAを混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物に0.1質量部の重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)を加え、溶解させて原料液を得た。
かかる原料液を、撥水処理したガラス板(厚さ10mm、30cm角)2枚と塩化ビニル樹脂製ガスケットより構成されるガラスセルに注入し、10mmHgにて3分間脱気した。このガラスセルを70℃にて2時間、次いで120℃にて2時間保持して単量体混合物を重合させた。次いでガラス板を取り除き、厚さ3.2mmのシート状成形体を得た。得られたシート状成形体から長さ127mm×幅13mm×厚さ3.2mmの試験片を切り出して、耐燃性、透明性および吸水性の評価を行った。
得られたシート状成形体は、非常に高い分子量の重合体で構成されているため溶媒に溶解せず、膨潤するのみであった。そのため、GPCによる分子量の測定はできなかった。推定重量平均分子量は100万g/mol以上である。ホスホネート系単量体(1)であるDEMMPO由来の構造単位(mol%)およびリン原子の含有量(質量%)は、膨潤した状態で1H−NMR測定することにより算出した。結果を表1に示す。
【0103】
実施例2、5〜11および比較例1〜6
表1または2に示す処方に変えた以外は実施例1と同じ手法によって、厚さ3.2mmのシート状の成形体を得た。これらの試験片の評価を実施例1と同じ手法で実施した。結果を表1または表2に示す。
【0104】
実施例3
10質量部のDEMMPO、15質量部のTCDMA、6質量部のMAA、および69質量部のMMAを混合して単量体混合物を得た。この単量体混合物に0.1質量部の重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)および0.1質量部の連鎖移動剤(n−オクチルメルカプタン)を加え、溶解させて原料液を得た。
100質量部のイオン交換水、0.03質量部の硫酸ナトリウムおよび0.46質量部の懸濁分散剤を混ぜ合わせて混合液を得た。
耐圧重合槽に、420質量部の前記混合液と210質量部の前記原料液を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後、3時間経過時に、温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状の微粒子が分散した分散液を得た。
得られた分散液を濾過し、微粒子をイオン交換水で洗浄したのち、80℃で4時間、100Paで減圧乾燥し、ビーズ状の共重合体を得た。
得られた共重合体を230℃に制御された二軸押出機に供給して、未反応単量体などの揮発成分を分離除去し、次いで樹脂成分を押出成形してストランドにした。該ストランドをペレタイザーでカットし、ペレット状の成形体とした。
【0105】
得られたペレット状の成形体のガラス転移温度を測定した。また、かかるペレット状の成形体を、230℃にて熱プレス成形し、厚さ3.2mmのシート状の成形体を得た。得られたシート状の成形体から長さ127mm×幅13mm×厚さ3.2mmの試験片を切り出して、耐燃性、透明性および吸水性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
実施例4
表1に示す処方に変えた以外は実施例3と同じ手法によって、ペレット状の成形体を得た。これらのペレット状の成形体の各種物性測定および試験片の評価を実施例1と同じ手法で実施した。結果を表1に示す。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
以上のとおり、本発明の共重合体は、優れた透明性および耐燃性、ならびに高いガラス転移温度を有する。