特許第6577026号(P6577026)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6577026光学薄膜製造方法、光学フィルム製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6577026
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】光学薄膜製造方法、光学フィルム製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20190909BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20190909BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20190909BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   C23C14/24 U
   C23C14/08 D
   G02B5/26
   G02B5/28
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-520818(P2017-520818)
(86)(22)【出願日】2016年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2016065790
(87)【国際公開番号】WO2016190429
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2017年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-107323(P2015-107323)
(32)【優先日】2015年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100102875
【弁理士】
【氏名又は名称】石島 茂男
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 英樹
(72)【発明者】
【氏名】東出 公輔
(72)【発明者】
【氏名】廣野 貴啓
(72)【発明者】
【氏名】倉内 利春
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昌敏
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 玄
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−256943(JP,A)
【文献】 特開平06−212403(JP,A)
【文献】 特開昭51−037957(JP,A)
【文献】 特開2001−107232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物を含有する前記金属材料の薄膜である光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学薄膜製造方法であって、
異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、
前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率のうち少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、
前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、
形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度と前記膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値を求める算出工程と、
を有し、
前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、
前記光学薄膜形成工程で前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法。
【請求項2】
真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物を含有する前記金属材料の薄膜である光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学薄膜製造方法であって、
異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、
前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率のうち少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、
前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、
形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値と前記膜厚値とを求める算出工程と、
を有し、
前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、
前記光学薄膜形成工程では前記算出工程で求めた前記膜厚値の前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法。
【請求項3】
前記光学薄膜を被蒸着基材の表面に形成する請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の光学薄膜製造方法であって、
前記被蒸着基材をプラズマに接触させ、前記被蒸着基材の表面処理を行う表面処理工程を有し、
前記光学薄膜形成工程では、前記表面処理が行われた前記被蒸着基材の表面に前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法。
【請求項4】
真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、金属In又は金属Snのいずれか一方から成り、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物から成る光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学フィルム製造方法であって、
異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、
前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率の少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、
前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、
形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度と前記膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値を求める算出工程と、
を有し、
前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、
前記光学薄膜形成工程でフィルム状の被蒸着基材上に前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法。
【請求項5】
真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、金属In又は金属Snのいずれか一方から成り、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物から成る光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学フィルム製造方法であって、
異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、
前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率の少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、
前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、
形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値と前記膜厚値とを求める算出工程と、
を有し、
前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、
前記光学薄膜形成工程ではフィルム状の被蒸着基材上に前記算出工程で求めた前記膜厚値の前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法。
【請求項6】
前記被蒸着基材をプラズマに接触させ、前記被蒸着基材の表面処理を行う表面処理工程を有する請求項4又は請求項5のいずれか1項記載の光学フィルム製造方法であって、
前記光学薄膜形成工程では、前記表面処理が行われた前記被蒸着基材の表面に前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学薄膜を製造する製造方法と、光学フィルムを製造する製造方法に関し、特に、所望の光学特性を有する光学薄膜と、その光学薄膜を有する光学フィルムを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅を照らす太陽光は、窓ガラスを通過して住宅の内部を照らしており、太陽光は暖かく、また、明るいことから一般に好ましいものとして認識されている。
しかしながら、太陽光には紫外線や赤外線が含まれており、近年ではその害が注目され、窓ガラスを太陽光が通過する際に、特定の波長の光を除去する技術が求められている。
【0003】
例えば、柔軟な樹脂フィルム上に、除外したい波長の光を減少させる光学薄膜を有する光学フィルムを窓ガラスに貼付する対策があるが、従来技術の光学フィルムは、可視光にも大きな影響があり、光学フィルムを透過した太陽光は変色するという不都合がある。
【0004】
また、所望の光学特性を有する光学フィルムを得ようとすると、光学薄膜の膜厚値が大きく変わる。光学薄膜の抵抗値が小さくなると、波長の長い光である電波の透過を阻害し吸収してしまうので、たとえばミリ波帯の無線通信にとって不都合である。
【0005】
基材フィルムに光学薄膜を形成する技術としては、例えば下記特許文献1,2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−115260号公報
【特許文献2】特開2001−123269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その課題は、所望の膜厚値と光学特性とを有する光学フィルムを得られる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物を含有する前記金属材料の薄膜である光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学薄膜製造方法であって、異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率のうち少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度と前記膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値を求める算出工程と、を有し、前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程で前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法である。
また、本発明は、真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物を含有する前記金属材料の薄膜である光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学薄膜製造方法であって、異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率のうち少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値と前記膜厚値とを求める算出工程と、を有し、前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程では前記算出工程で求めた前記膜厚値の前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法である。
また、本発明は、前記光学薄膜を被蒸着基材の表面に形成する光学薄膜製造方法であって、前記被蒸着基材をプラズマに接触させ、前記被蒸着基材の表面処理を行う表面処理工程を有し、前記光学薄膜形成工程では、前記表面処理が行われた前記被蒸着基材の表面に前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法である。
また、本発明は、真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、金属In又は金属Snのいずれか一方から成り、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物から成る光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学フィルム製造方法であって、異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率の少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度と前記膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値を求める算出工程と、を有し、前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程でフィルム状の被蒸着基材上に前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法である。
また、本発明は、真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定流量値で酸素ガスを供給し、金属In又は金属Snのいずれか一方から成り、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物から成る光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学フィルム製造方法であって、異なる値の複数の試験流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率の少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験流量値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験流量値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の算出流量値と前記膜厚値とを求める算出工程と、を有し、前記算出工程で求めた前記算出流量値を前記設定流量値として設定し、前記光学薄膜形成工程ではフィルム状の被蒸着基材上に前記算出工程で求めた前記膜厚値の前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法である。
また、本発明は、前記被蒸着基材をプラズマに接触させ、前記被蒸着基材の表面処理を行う表面処理工程を有する光学フィルム製造方法であって、前記光学薄膜形成工程では、前記表面処理が行われた前記被蒸着基材の表面に前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法である。
本発明には、真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定分圧値で酸素ガスを含有させ、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物を含有する前記金属材料の薄膜である光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学薄膜製造方法であって、異なる値の複数の試験分圧値を前記設定分圧値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度または透過率の少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、を有し、前記光学特性から前記設定分圧値を設定する光学薄膜製造方法も含まれる。
また、本発明には、前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験分圧値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験分圧値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、少なくとも形成する前記光学薄膜の算出分圧値を求める算出工程と、を有し、前記算出工程で求めた前記算出分圧値を前記光学薄膜形成工程に前記設定分圧値として設定し、前記光学薄膜形成工程では、前記算出工程で求めた膜厚値の前記光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する上記光学薄膜製造方法も含まれる。
また、前記算出工程では、形成する前記光学薄膜の光学濃度と色度と膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の前記算出分圧値を求める上記光学薄膜製造方法も本発明に含まれる。
また、本発明には、前記算出工程では、形成する前記光学薄膜の光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の前記算出分圧値と前記膜厚値とを求め、前記光学薄膜工程では前記算出工程で求めた前記膜厚値の前記光学薄膜を形成する上記光学薄膜製造方法も含まれる。
また、本発明には、前記光学薄膜形成工程では、前記算出分圧値を前記設定分圧値に設定することで、前記真空槽内に供給する前記酸素ガスを設定された設定流量値で供給する上記光学薄膜製造方法も含まれる。
また、本発明には、前記光学薄膜を被蒸着基材の表面に形成する光学薄膜製造方法であって、前記被蒸着基材をプラズマに接触させ、前記被蒸着基材の表面処理を行う表面処理工程を有し、前記光学薄膜形成工程では、前記表面処理が行われた前記被蒸着基材の表面に前記光学薄膜を形成する光学薄膜製造方法も含まれる。
また、本発明には、真空槽内に形成された真空雰囲気に、設定された設定分圧値で酸素ガスを含有させ、金属In又は金属Snのいずれか一方からなり、蒸発源に配置された金属材料を加熱して蒸発させ、発生した前記金属材料の蒸気を前記真空雰囲気中に放出させ、前記蒸気から、前記金属材料の酸化物から成る光学薄膜を形成する光学薄膜形成工程を有する光学フィルム製造方法であって、異なる値の複数の試験分圧値を前記設定分圧値として設定し、前記光学薄膜形成工程によって複数の前記光学薄膜を形成する測定対象形成工程と、前記測定対象形成工程で形成された各前記光学薄膜の光学濃度又は透過率の少なくとも一方を含む光学特性を測定する測定工程と、を有し、フィルム状の被蒸着基材上に前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法も含まれる。
また、本発明には、前記測定対象形成工程で形成された複数の前記光学薄膜の前記試験分圧値と膜厚値と、測定された前記光学特性とから、前記試験分圧値と前記膜厚値と前記光学特性との間の対応関係を求める解析工程と、形成する前記光学薄膜の、前記測定工程で測定された前記光学特性に含まれる前記光学濃度と色度とを前記対応関係に照合し、少なくとも形成する前記光学薄膜の算出分圧値を求める算出工程と、を有し、前記算出工程で求めた前記算出分圧値を前記設定分圧値として設定し、前記光学薄膜形成工程で前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法も含まれる。
また、本発明には、前記算出工程では、形成する前記光学薄膜の光学濃度と色度と膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の前記算出分圧値を求める光学フィルム製造方法も含まれる。
また、前記算出工程では、形成する前記光学薄膜の光学濃度と色度と膜厚値とを前記対応関係に照合し、形成する前記光学薄膜の前記算出分圧値と前記膜厚値とを求め、前記光学薄膜形成工程では前記算出工程で求めた前記膜厚値の前記光学薄膜を形成する上記光学フィルム製造方法も本発明に含まれる。
また、本発明には、前記光学薄膜形成工程では、前記算出分圧値を前記設定分圧値に設定することで、前記真空槽内に供給する前記酸素ガスを設定された設定流量値で供給する上記光学フィルム製造方法も含まれる。
また、本発明には、前記被蒸着基材をプラズマに接触させ、前記被蒸着基材の表面処理を行う表面処理工程を有する光学フィルム製造方法であって、前記光学薄膜形成工程では、前記表面処理が行われた前記被蒸着基材の表面に前記光学薄膜を形成する光学フィルム製造方法も含まれる。
【0009】
本願発明は上記のように構成されており、λは波長、T(λ)は波長帯に於ける透過光量、I(λ)は波長帯に於ける入射光量とすると、光学濃度OD(λ)は、下記式で表すことができる。
【0010】
OD(λ)=Log10(T(λ)/I(λ))=Log10T(λ)−Log10I(λ)
目で感じる色は、明るさと色の性質とによって決まるが、明るさを無視した色の性質は色度と呼ばれており、色度を表わすためには、複数の表色系が用いられており、各表色系では、明るさと色度の表現方法が異なっている。
【0011】
例えば、L***表色系では、明るさ(明度)はL*の値で表され、色度はa*の値とb*の値とのうち、いずれか一方又は両方で表される。
【0012】
*は、その値が正方向に大きくなると赤色が強くなり、負方向に大きくなると緑色が強くなる色度であり、b*は、その値が正方向に大きくなると黄色が強くなり、負方向に大きくなると青色が強くなる色度である。
光学濃度と色度とを色特性と呼ぶと、光学薄膜の色特性を含む特性を、光学特性と呼ぶものとする。
【発明の効果】
【0013】
所望の光学特性の光学薄膜と光学フィルムとを得ることができる。
酸素ガスの流量もしくは酸素の分圧値を制御することで、膜厚値を変更せずに、光学濃度の値を変更することができる。
またプラズマ処理を制御することで、光学濃度の値を変更せずに、膜厚値を変更することができる。
また酸素の流量もしくは分圧値、およびプラズマ処理を同時に制御することで光学濃度と膜厚値を任意の値に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に用いる蒸着装置
図2】その蒸着装置によって光学薄膜を形成する工程を説明するための図
図3】(a):被蒸着基材 (b):光学薄膜と光学フィルム (c):窓ガラス
図4】In光学薄膜の酸素ガス分圧値と光学濃度との関係を示すグラフ
図5】(a)〜(e):In光学薄膜の表面の電子顕微鏡写真
図6】Sn光学薄膜の酸素ガス分圧値と光学濃度との関係を示すグラフ
図7】(a)〜(e):Sn光学薄膜の表面の電子顕微鏡写真
図8】In光学薄膜の表面処理と光学濃度との関係を示すグラフ
図9】(a)〜(d):In光学薄膜の表面処理に関連する電子顕微鏡写真
図10】Sn光学薄膜の表面処理と光学濃度との関係を示すグラフ
図11】(a)〜(d):Sn光学薄膜の表面処理に関連する電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0015】
<蒸着装置>
図1の符号20は、本発明の光学薄膜と本発明の光学フィルムを製造する蒸着装置である。
この蒸着装置20は真空槽21を有している。符号48は真空排気装置、符号47は排気配管である。
【0016】
真空槽21の内部には、水平に配置された回転軸33が設けられており、この回転軸33には、円筒形状の主回転ドラム22が、その中心軸線を回転軸33と一致させて回転軸33に取り付けられている。
【0017】
主回転ドラム22が位置する付近には、区分け板38が設けられ、真空槽21の内部は、主回転ドラム22と区分け板38とによって、準備室36と成膜室37とに区分けされている。ここでは、真空槽21の内部のうち、準備室36は主回転ドラム22よりも上方側の部分であり、成膜室37は、主回転ドラム22よりも下方側の部分である。
【0018】
真空槽21の外部には、主モータ(不図示)が配置されており、主モータが起動され、回転軸33が回転すると、主回転ドラム22は、回転軸33と同じ回転速度で回転するようになっている。主回転ドラム22が一方向に回転すると、主回転ドラム22の円周部(円周部とは、円柱形状の主回転ドラム22の側面を意味する)は、準備室36の内部と成膜室37の内部とを交互に通過する。
準備室36の内部には、送り出し軸24と、巻き取り軸25とが設けられている。
【0019】
図3(a)の符号10は、この蒸着装置20によって、光学薄膜を形成する対象である被蒸着基材である。本例では、被蒸着基材10は、樹脂から成り、柔軟性を有するフィルムであり、例えばPETフィルムを用いることができる。
【0020】
準備室36の内部では、送り出し軸24と主回転ドラム22との間の位置に、表面処理装置26が配置されており、図2に示すように、長尺の被蒸着基材10を巻き取った原反ロール34を送り出し軸24に装着し、原反ロール34から被蒸着基材10の端部を引き出し、被蒸着基材10に、補助回転軸39接触させて方向を変更させ、表面処理装置26の内部を通過させた後、引き出した被蒸着基材10の端部を、準備室36から成膜室37に移動させた後、準備室36に戻すと、被蒸着基材10は、成膜室37の内部で、主回転ドラム22に掛け渡され、主回転ドラム22の円周部に接触する。
【0021】
次いで、準備室36に戻った被蒸着基材10の端部を巻き取り軸25に装着された巻き取りリール35に固定する。
巻き取り軸25には、巻き取り用モータが取り付けられ、送り出し軸24には送り出し用モータが取り付けられている。主モータと巻き取り用モータと送り出し用モータとを動作させ、巻き取り軸25と、主回転ドラム22と、送り出し軸24とを回転させると、原反ロール34から被蒸着基材10が引き出され、準備室36から成膜室37に移動した後、準備室36に戻って巻き取りリール35に巻き取られる。
【0022】
被蒸着基材10が走行する際には、補助回転軸39は被蒸着基材10と接触しながら回転する。
成膜室37には、蒸気を生成する金属材料が配置された蒸発装置27が設けられている。金属材料は、インジウム金属(In)、又は、すず金属(Sn)である。
【0023】
蒸発装置27には加熱装置19が設けられ、加熱装置19が加熱電源46によって通電されると、加熱装置19が動作して金属材料が加熱される。
準備室36と成膜室37とには、それぞれ真空排気装置31,48が接続されている。
【0024】
各真空排気装置31,48を動作させ、準備室36の内部と成膜室37の内部とをそれぞれ真空排気すると、準備室36内部と成膜室37の内部とに、それぞれ真空雰囲気が形成される。
【0025】
真空雰囲気中で金属材料が加熱されると金属材料が蒸発し、放出口41から成膜室37の真空雰囲気中に金属材料の蒸気が放出される。
【0026】
成膜室37には酸素ガスが充填された酸素ガス導入装置23が接続されており、成膜室37の内部に設けられたガス導入孔42から成膜室37の内部に酸素ガスを導入できるようにされている。
【0027】
酸素ガス導入装置23からガス導入口42に流される酸素ガスの流路(配管)の途中には、流量制御装置43が設けられており、流量制御装置43を動作させることで、酸素ガス導入装置23から成膜室37に導入される酸素ガスの流量を制御できるようになっている。
成膜室37には、分圧測定装置28が設けられており、成膜室37内に形成された真空雰囲気中の酸素ガスの分圧値が測定される。
【0028】
成膜室37は、真空排気されながら酸素ガスが導入されており、真空排気速度を一定値に維持し、真空雰囲気中の酸素ガスの分圧値を測定しながら、導入する酸素ガスの流量を変化させることができるので、成膜室37の内部の真空雰囲気には、所望の分圧値の酸素ガスを含有させることができる。
【0029】
また、予め真空排気速度と酸素ガスを導入する流量と成膜室37の内部の酸素ガス分圧値の関係を測定しておくと、測定結果から導入する酸素ガスの流量を制御することによって、成膜室37の内部を所望の酸素ガス分圧にすることができる。
【0030】
被蒸着基材10が成膜室37の酸素ガスを含有する真空雰囲気中を走行するときには、被蒸着基材10の表面18が放出口41と対面し、裏面が主回転ドラム22に接触しながら走行するようになっており、放出口41から金属材料の蒸気が放出されると、被蒸着基材10の表面18の対面する部分に蒸気が到達し、金属材料の一部は真空雰囲気中の酸素ガスと反応し、生成された金属酸化物が含有された金属材料の薄膜である光学薄膜が、被蒸着基材10の表面18に形成される。
【0031】
図3(b)の符号11は、被蒸着基材10の表面18に形成された光学薄膜である。
被蒸着基材10の放出口41と対面する部分の走行速度と、蒸気の放出速度(放出量/単位時間)とが一定値であれば、被蒸着基材10には、長さ方向に亘って一定の膜厚値の光学薄膜11が形成される。
【0032】
逆に、被蒸着基材10の走行速度と蒸気の放出速度の少なくとも一方を変えることで、形成する光学薄膜11の膜厚値を変えることができる。
【0033】
この蒸着装置20には、蒸着装置20内の各装置の動作を制御する主制御装置40が設けられている。
【0034】
主制御装置40には、加熱電源46と、各軸24,25、33を回転させる各モータと、流量制御装置43と、分圧測定装置28と、真空排気装置31,48とが接続され、主制御装置40と、主制御装置40に接続された各装置との間では、制御のための信号が入出力できるようになっている。
【0035】
主制御装置40が流量制御装置43を制御すると、ガス導入口42から成膜室37に導入される酸素ガスの流量が増減され、主制御装置40が加熱電源46を制御すると、加熱電源46から加熱装置19に投入される投入電力が増減され、また、主制御装置40が各モータを制御すると、各軸24,25、33を所望の回転速度で回転させることができる。
【0036】
主制御装置40は、光学薄膜11を形成するための、真空雰囲気中の酸素ガスの分圧値や、光学薄膜11の膜厚値等の値を設定することができるようになっている。
【0037】
分圧測定装置28が測定した酸素ガスの分圧値は、主制御装置40に出力されており、主制御装置40は、分圧測定装置28から入力された分圧値を、基準値として設定された分圧値と比較し、入力された分圧値が基準値として設定された分圧値に一致するように流量制御装置43を制御して酸素ガスの導入量を変更すると、成膜室37の真空雰囲気に含有される酸素ガスの分圧値は、基準値として設定された分圧値に等しくなる。
【0038】
なお、準備室36と成膜室37とのうち、いずれか一方の内部に導入されたガスの一部は、他方の内部に移動する。
【0039】
<光学薄膜形成工程>
次に、上記蒸着装置20を用いて光学薄膜11を形成する光学薄膜形成工程について説明する。
【0040】
この蒸着装置20によって形成される光学薄膜11の膜厚値と、放出口41と対面する位置での被蒸着基材10の走行速度と、放出口41から放出される蒸気の放出速度との間の関係は予め求められており、走行速度は主回転ドラム22の回転速度に対応し、蒸気の放出速度は加熱装置19への投入電力に対応しているから、主回転ドラム22の回転速度と加熱装置19への投入電力とを制御することで、所望の膜厚値の光学薄膜11を、被蒸着基材10上に形成することができる。
【0041】
ここでは、主制御装置40は、膜厚値が設定されると、その膜厚値に対する主回転ドラム22の回転速度の値と加熱装置19への投入電力の値とを求め、主モータと加熱電源46とを制御して、設定された膜厚値の光学薄膜11を被蒸着基材10上に形成できるようになっている。
【0042】
予め、主制御装置40によって、真空排気装置31,48が起動され、準備室36と成膜室37とは真空排気され、真空雰囲気が形成されており、先ず、主制御装置40に、膜厚値と分圧値とを設定すると、主制御装置40により、成膜室37には、酸素ガスを含有する真空雰囲気が形成され、設定された分圧値で維持され、原反ロール34から引き出された被蒸着基材10の表面18に、放出口41と対面する位置で、金属材料の蒸気が到達すると、金属材料の酸化物を含有し、設定された膜厚値の金属材料から成る光学薄膜11が形成され、その被蒸着基材10と光学薄膜11とから成る光学フィルム12が巻き取りリール35に巻き取られる。
【0043】
光学薄膜11は、被蒸着基材10に密着して形成されているが、被蒸着基材10上に光学薄膜11とは異なる薄膜が形成されていてもよい。
【0044】
<測定対象形成工程>
測定対象物を形成する測定対象形成工程について説明する。
【0045】
光学薄膜11を形成する際の酸素ガスの分圧値と、形成する光学薄膜11の膜厚値のいずれかが異なれば、得られた光学薄膜11の後述する光学特性は異なるものとすると、分圧値と膜厚値とで、光学特性を異ならせるための一組の形成条件が構成される。
【0046】
従って、主制御装置40を、分圧値と膜厚値のいずれかが異なる複数の形成条件で動作させて、複数の光学薄膜11を形成すると、光学特性が異なる複数の光学薄膜11を得ることができる。
【0047】
このような複数の異なる形成条件が、予め用意されており、最初の測定対象物である光学薄膜11を形成するために、先ず、用意された複数の形成条件の中から一の形成条件を最初の形成条件として選択し、その形成条件に含まれる分圧値と膜厚値とを主制御装置40に設定し、設定された分圧値と膜厚値とで光学薄膜形成工程を行い、最初の形成条件で最初の測定対象物である光学薄膜11を形成する。
【0048】
次に、二番目に選択した形成条件で、最初の形成条件とは光学特性が異なる二番目の測定対象物である光学薄膜11を形成する。
このように複数の形成条件で、少なくとも膜厚値又は光学特性が異なる複数の測定対象物である光学薄膜11を形成する。各測定対象物である光学薄膜11は真空槽21の内部から取り出しておく。
各形成条件で測定対象物である光学薄膜11を形成する際に、後述する表面処理工程により、被蒸着基材10のプラズマで処理された表面に、形成条件で光学薄膜11を形成させてもよい。
【0049】
<測定工程>
次に、測定工程による光学特性の測定を説明する。
【0050】
例えばL***表色系において、a* とb* の少なくともいずれか一方の色度の値と、光学濃度の値(OD値)とから表される色の特性を光学特性とすると、測定対象形成工程で形成した各光学薄膜11の光学特性を、光学濃度測定装置(伊原電子工業(株)、製品名Ihac-T5)と、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製、製品名CM−5)(測定波長360nm〜740nm)とによって測定した光学特性を、光学薄膜11を形成した分圧値と、その光学薄膜11の膜厚値とに対応付けて記録する。
【0051】
ここで、形成された光学薄膜11の膜厚値を膜厚測定装置によって測定した測定結果は、主制御装置40に設定された膜厚値と等しいものとするが、仮に、測定結果の値と、設定された膜厚値とが大きく異なる場合は、測定結果の膜厚値を光学特性と分圧値と対応付けて記録してもよい。
【0052】
ここでは、透過a* と透過b* の両方を測定してa* の測定結果の値と、b* の測定結果の値を色度とし、光学濃度の測定結果の値と色度とを光学特性に含めて、分圧値と膜厚値とに対応付けたが、a* とb* のいずれか一方を測定して測定結果の値を色度とし、その色度と光学濃度とを光学特性に含めて分圧値と膜厚値とに対応付けして記録してもよい。
このように、測定対象形成工程で得られた各光学薄膜11には、測定工程で光学特性が測定され、分圧値と膜厚値と光学特性とが対応付けられて記録される。
【0053】
<解析工程>
解析工程では、各光学薄膜11毎に、対応付けられた分圧値と膜厚値と光学特性に基づき、対応付けられた光学特性に含まれる色度の値と光学濃度の値とから、膜厚値と分圧値とが求められる対応関係か、又は、対応付けられた光学特性に含まれる色度の値と光学濃度の値と、膜厚値とから、分圧値を求めることができる対応関係とを求める。
【0054】
対応関係は、例えば、光学特性と膜厚値とから、分圧値を算出できる近似的な関数でもよいし、また、例えば、分圧値と膜厚値と光学特性とをデータベースとして記録し、データベースに該当するデータの無い光学特性は、補完法によって、分圧値と膜厚値とを求められる対応関係であってもよい。
解析工程で求められた対応関係は、主制御装置40に記憶される。
【0055】
<算出工程>
所望の光学フィルム12を製造するために、先ず、形成すべき光学薄膜11の色合いと膜厚値とが特定された場合は、色合いを、対応関係に含まれる色度と光学濃度とに変換し、変換によって得られた色度と光学濃度とを含む光学特性と特定された膜厚値とを主制御装置40に入力すると、主制御装置40は、記憶する対応関係から、分圧値を求める、特定された膜厚値と求めた分圧値とを形成条件にする。
【0056】
他方、色合いが特定され、膜厚値が特定されていない場合は、色合いを色度と光学濃度とに変換し、色度と光学濃度とを対応関係に照合し、膜厚値と分圧値とを求める。膜厚値と分圧値との組み合わせが複数求められた場合は、一つの組の膜厚値と分圧値とを形成条件として決定する。分圧値は、それを達成するための酸素ガスの流量値に置き換えてもよい。
【0057】
<光学薄膜形成工程、光学フィルム形成工程>
主制御装置40には、算出工程で決定された形成条件に含まれる分圧値または酸素流量値と膜厚値が設定されており、光学薄膜形成工程により、設定された分圧値または酸素流量値で酸素ガスを含有する真空雰囲気中で、設定された膜厚の金属から成る光学薄膜11が被蒸着基材10上に形成され、光学フィルム12が得られる。
【0058】
解析工程で求めた対応関係の光学特性が、後述する表面処理工程で表面処理がされた被蒸着基材10の表面に形成された光学薄膜11の測定値であった場合は、光学薄膜形成工程では、同じ条件の表面処理工程で表面処理がされた被蒸着基材10の表面に光学薄膜11を形成して、光学フィルム12を製造する。
【0059】
このように製造された光学フィルム12が巻き取られた巻き取りリール35は、準備室36から大気中に取り出され、所望形状に切断され、板ガラス等に貼付される。
【0060】
<測定例>
次に、光学特性を測定した結果について説明する。
【0061】
下記表1は、金属Inを金属材料にした光学薄膜11の光学特性の測定結果であり、下記表2は、金属Snを金属材料にした光学薄膜11の光学特性の測定結果である。
【0062】
表1、2には、酸素ガスの分圧値と、その分圧値で形成した光学薄膜11の透過L***表色系のL*の測定値、a*の測定値、b*の測定値、光学濃度の測定値(OD値)とが光学特性として記載されている。同じ分圧値の光学薄膜11と光学特性は、下記表1では、記号A1〜A5のうちの同じ記号を付して区別してある。また、下記表2でも、記号B1〜B5のうちの同じ記号を付して区別してある。
【0063】
記号A1〜A5は、分圧値が、1.0×10-5Pa未満、5×10-5Pa、3×10-4Pa、2×10-3Pa、1×10-2Paの区分であり、記号B1〜B5は、1.0×10-5Pa未満、1.2×10-4Pa、1.0×10-3Pa、4.1×10-3Pa、8.0×10-3Paの区分である。
表1,2中、「酸素ガスの分圧値(Pa)」の値は、分圧測定装置28((株)アルバック社製、商品名「Qulee」)で測定した値である。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
図4図6は、表1、2の測定結果にそれぞれ基づき、光学薄膜11のL***表色系の色度b*の測定値と光学濃度との間の関係を示したグラフであり、横軸が、b*の値を示し、縦軸が光学濃度の値を示している。図4,6に記載された曲線は、同じ分圧値の測定値を結んだ曲線であり、各曲線の分圧値は、分圧値を示す記号A1〜A5と記号B1〜B5とが曲線を区別するための符号にされて記載されている。
【0067】
図4図6の両方の各曲線A1〜A5、B1〜B5とも、光学濃度が増加するとb*の値が小さくなり、光学濃度が減少するとb*の値が大きくなっている。
膜厚値が増加すると光学濃度は増加し、膜厚値が減少すると光学濃度も減少するから、b*の値を増加させるためには膜厚値を減少させ、b*の値を減少させるためには膜厚値を増加させればよい。
【0068】
他方、光学濃度が一定値のときに、分圧値を1.0×10-5Pa未満の値から増加させた場合は、b*の測定値は、増加し、図4図6では記号A3の曲線の分圧値と記号B2の曲線の分圧値のところで最大値になり、その分圧値よりも大きい範囲では、分圧値の増加によってb*の測定値は減少する。従って分圧値を変化させることで、光学濃度を一定の値に維持しながら、b*の値を変化させることができる。
【0069】
なお、表1では、投入電力は一定であり、被蒸着基材10の搬送速度を異ならせることで、形成される光学薄膜11の膜厚値が異なるようにされている。
表2では、分圧値が1.0×10-5Pa未満のときに、投入電力と搬送速度の両方が変化されているのに対し、分圧値が1.0×10-5Pa以上の時は、表1と同様に、投入電力の値が一定にされ、搬送速度が異なる値にされて膜厚値が異なる光学薄膜11が形成されている。
【0070】
図5(a)〜(e)は、それぞれ記号A1〜A5に分類された分圧値の光学薄膜11の電子顕微鏡写真であり、特に、表1の記号A1〜A5に分類された光学薄膜11のうち、測定結果の光学濃度が1.0付近の光学薄膜11の表面の電子顕微鏡写真である。
【0071】
図7(a)〜(e)は、それぞれ記号B1〜B5に分類された分圧値の光学薄膜11の電子顕微鏡写真であり、特に、表2の記号B1〜B5に分類された光学薄膜11のうち、測定結果の光学濃度が0.85付近の光学薄膜11の電子顕微鏡写真である。
【0072】
図4,6のグラフから分かるように、分圧値が1.0×10-5Pa以下のときは、搬送速度を低下させて光学薄膜11の膜厚値を増加させても光学濃度が増加しにくかったが、その理由は、真空雰囲気中の酸素分圧が低い状態では、金属材料の蒸気は被蒸着基材10の表面上で移動し易く、粒径が大きくなる。その場合は高さの高い粒子が形成され、粒子同士の隙間が大きくなるから光学濃度が低下したものと推測される(図5(a)、図7(a))。
【0073】
それに対し、真空雰囲気中に酸素分圧を増加させた状態では、金属材料が被蒸着基材10上で移動しにくく、図5(b)〜(e)、図7(b)〜(e)に示されているように、粒径が小さくなる。その場合は高さが低い粒子が形成され、粒子と粒子との間の隙間が小さくなるから光学濃度の値が増加したものと推定される。
【0074】
<表面処理工程>
蒸着装置20では、原反ロール34から引き出された被蒸着基材10は、表面処理装置26の内部を通過した後、主回転ドラム22と接触して成膜室37内を走行するようになっている。
【0075】
表面処理装置26には、表面処理ガス導入装置29と表面処理用電源44とが接続されている。表面処理ガス導入装置29と表面処理用電源44とは、主制御装置40に接続されており、主制御装置40の制御によって流量制御装置32で流量制御されながら、表面処理ガス導入装置29から表面処理装置26に表面処理ガスが導入され、表面処理用電源44から表面処理装置26に電力が供給されるようにされている。
【0076】
表面処理装置26に、表面処理用電源44から電力が供給されると、供給された電力により、表面処理装置26の内部で、表面処理ガス導入装置29から導入された表面処理ガスのプラズマが形成される。
表面処理ガスのプラズマが形成された表面処理装置26の内部を被蒸着基材10が通過すると、被蒸着基材10の表面がプラズマに曝され、表面が改質する。
【0077】
このようにプラズマ処理がされた被蒸着基材10の表面に、分圧値で酸素ガスを含有する真空雰囲気中で金属材料の蒸気が到達すると、プラズマ処理をしなかった場合に比べて光学濃度の値が大きくなる。
【0078】
上記光学薄膜形成工程では、表面処理装置26を動作させておらず、表1,2の測定値は、表面処理装置26が動作しなかったときに形成された光学薄膜11の測定結果である。
【0079】
それに対し表面処理を行った光学薄膜11の光学特性と、表面処理を行わなかった場合の光学薄膜11の光学特性とを測定した。インジウム酸化物を含有するインジウム薄膜から成る光学薄膜11の測定結果を下記表3に示し、すず酸化物を含有するすず薄膜から成る光学薄膜11の測定結果を下記表4に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
図8の符号Cは、表3の光学薄膜29番〜35番の測定値から得られた曲線であり、表面処理を行わなかった光学薄膜29番〜32番の測定値と、表面処理を行った光学薄膜33番〜35番とも、その曲線C上又は近傍に位置している。
【0083】
従って、インジウム酸化物を含有するインジウム薄膜については、b*の値と光学濃度の値とは、表面処理の有無に拘わらず、一定関係が維持されていると言える。
【0084】
他方、表3中で、形成条件は一致する二個の光学薄膜32番、33番のうち、表面処理を行っていない光学薄膜32番と表面処理を行った光学薄膜33番とを、図8の上で比較すると光学濃度の値が大きく異なっており、表面処理を行えば、光学濃度の値を大きくすることができることが分かる。
【0085】
図9(a)、(b)は、それぞれ、表面処理を行わない光学薄膜29番の表面と、表面処理を行った光学薄膜35番の表面の顕微鏡写真であり、また、同図(c)、(d)は、それぞれ、表面処理を行わない光学薄膜32番の表面と、表面処理を行った光学薄膜33番の表面の顕微鏡写真である。表面処理を行わない場合には粒子間の隙間が大きいことが分かる。
【0086】
図10の符号Dは、表4の光学薄膜36番〜43番の測定値から得られた曲線であり、各光学薄膜36番〜43番の測定値は、同じ曲線Dの近傍に位置していおり、従って、すず酸化物を含有するすず薄膜についても、b*の値と光学濃度の値とは、表面処理の有無に拘わらず、一定関係が維持されていると言える。
【0087】
他方、形成条件が一致する二個の光学薄膜39番、43番の測定値から、表面処理を行えば、光学濃度の値を増加させることができる。
【0088】
図11(a)、(b)は、表面処理を行った光学薄膜39番の表面と、表面処理を行っていない光学薄膜42番の表面の顕微鏡写真であり、また、同図(c)、(d)は、それぞれ、表面処理を行わない光学薄膜44番の表面と、表面処理を行った光学薄膜45番の表面の顕微鏡写真である。
表面処理を行わない場合には粒子間の隙間が大きくなっている。
【0089】
これらの写真から、金属材料の酸化物を含有する金属材料薄膜を真空雰囲気中で形成する際に、真空雰囲気中の酸素ガス分圧を制御することで、金属残量の酸化物を含有する金属材料薄膜の粒子の大きさを変えることができることが分かる。その結果、本発明では、粒子間の隙間の大きさを変え、金属材料の酸化物を含有する金属材料薄膜の光学的特性を制御することが可能である。特に、金属材料の酸化物を含有する金属材料薄膜の膜厚が小さいときに、その金属材料薄膜を形成する真空雰囲気中の酸素ガス分圧を制御することで、光学濃度を制御することができる。
【0090】
<光学薄膜の抵抗値>
図3(c)は、本発明の光学フィルム12を、接着剤層13によって、板ガラス14に貼付した窓ガラス15を示している。光学フィルム12が貼付された窓ガラス15では、光学フィルム12の導電性が高いと、電波が窓ガラス15を透過できなくなり、無線通信等に不都合が生じる。従って、光学フィルム12の光学薄膜11の抵抗値は大きい方が望ましい。
酸素ガスの分圧値が減少すると抵抗値は減少し、分圧値が増加すると抵抗値も増加する。
【0091】
他方、膜厚値が増加すると抵抗値は減少し、膜厚値が減少すると抵抗値が増加するから、抵抗値と膜厚値と分圧値と光学特性との対応関係を予め求めておき、主制御装置40に光学薄膜11の形成条件を設定するときに、膜厚値と光学特性と抵抗値とを設定し、所望の光学特性と抵抗値を有する光学薄膜11を形成することができる。また、光学特性と抵抗値とを設定し、所望の光学特性と抵抗値と膜厚値とを有する光学薄膜11を形成することもできる。
【0092】
同じ膜厚値の光学薄膜11でも、表面処理を行うと光学濃度の値が増加するので、表面処理を行って、抵抗値を小さくせずに光学濃度の値を増加させることもできる。
【0093】
<その他>
以上は、柔軟性を有する樹脂フィルムから成る被蒸着基材10の表面に、光学薄膜11を形成したが、光学薄膜11は、板状のガラスの表面や、板状の樹脂の表面に形成することもできる。
【0094】
以上の製造方法は、分圧測定装置28と流量制御装置43とで、分圧測定装置28が測定した分圧値を、設定された分圧値に等しくなるように制御したが、他の装置、例えば成膜室37を真空排気する真空排気装置48の排気速度と流量制御装置43の導入量の両方を制御してもよい。また、流量制御装置43を使用しても良い。
【0095】
また、分圧値に加え、全圧値も測定し、全圧値が所定範囲内に含まれるように、真空排気装置48を制御してもよい。
要するに、真空雰囲気中に含有される酸素ガスの分圧値を所望の値に制御することができればよい。
【0096】
なお、上記例では、L***表色系を用いたが、XYZ表色系や、RGB表色系等、他の表色系を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0097】
20……蒸着装置
21……真空槽
36……準備室
37……成膜室
40……主制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11