(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記信号処理装置は前記測定プローブの出力を処理することで該ワークの実側面形状を求める処理部を備え、前記回転機構は前記ワークの相対的な回転角度を出力するロータリーエンコーダを備え、
該処理部は、該回転機構の回転開始位置をそれぞれ異ならせた状態を初期状態とする複数の実側面形状を求め、該複数の実側面形状同士の演算を行うことで、該回転機構に起因する測定誤差を低減することを特徴とする請求項8に記載の測定プローブシステム。
前記回転機構による回転に従って前記測定プローブを前記軸方向に移動可能に支持するプローブ支持機構を備え、該プローブ支持機構は前記測定プローブの該軸方向における位置を出力するリニアエンコーダを備え、
前記処理部は、前記実側面形状を求める際に、前記測定プローブ、該リニアエンコーダ、及び前記ロータリーエンコーダの出力応答特性を校正することを特徴とする請求項9に記載の測定プローブシステム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1〜
図4を参照して、本発明の第1実施形態の一例を詳細に説明する。
【0017】
最初に、測定プローブシステムの概略について説明する。
【0018】
測定プローブシステム100は、
図1に示す如く、ベース106と、回転機構108と、測定プローブ124と、プローブ支持機構142と、信号処理装置168と、を備える。
【0019】
なお、本実施形態では、測定対象となるワークがボールねじ102とされている。ボールねじ102は、例えば、
図3(A)に示す如く、ナットNTに固定された直動ステージのスライダなど(図示せず)を、ボールBLを介して高精度に移動させるために用いられている。ボールねじ102の側面には、
図3(A)に示す如く、一定のリードピッチとなるように、スパイラル状のねじ溝102A(ボールBLの転動面)が設けられている(即ち、ワークの側面形状は、ねじ溝102Aとされている)。ねじ溝102Aは、
図3(A)に示す如く、例えば、ボールBLの隙間の調整を容易とするために、断面が2つの円CSの円弧(ねじ溝上面102Bの断面形状、ねじ溝下面102Cの断面形状)を重ね合わせたゴシックアーチ形状とされている。ボールBLは、ねじ溝上面102Bの1点とねじ溝下面102Cの1点の合計2点の接触点TPでねじ溝102Aに接触する。この円CSに対して、実際のねじ溝102Aには、
図3(B)に示す如く、加工した際に溝径むらEGが生じる。このため、ねじ溝102Aは、
図3(C)に示す如く、相応のリードむら(接触点TPの酔歩など)を生じさせる。従って、ボールねじ102には、その母材の形状誤差(外径誤差、軸心誤差、真円誤差など)に加え、更にねじ溝102Aの形状誤差(リードピッチ誤差、リードむらなど)が相応に生じている。
【0020】
前記ベース106は、
図1に示す如く、回転機構108と、プローブ支持機構142と、を支持する土台である。同時に、ベース106は、ボールねじ102を支持している。
【0021】
前記回転機構108は、
図1に示す如く、ボールねじ102を回転させる機構である。つまり、回転機構108は、ボールねじ102の測定プローブ124に対する相対的な回転を可能としている。回転機構108は、コラム110と、ガイド112と、駆動源(モータ)118と、ロータリーエンコーダ120と、を備える(つまり、回転機構108は、ボールねじ102の相対的な回転角度を出力するロータリーエンコーダ120を備えている)。コラム110は、ベース106に立設されており、ガイド112を支持している。ガイド112は、一方のワーク支持部材114を、ベース106に直接配置されたもう一方のワーク支持部材114に対して接近・離間可能に支持している。ワーク支持部材114は、回転軸104を介して、ボールねじ102を回転可能に支持している。つまり、ガイド112に支持されるワーク支持部材114を移動させることで、2つのワーク支持部材114で様々な長さのボールねじ102を回転可能に支持することができる。
【0022】
図1に示す如く、回転軸104は、ボールねじ102に脱着可能に取り付けられている(即ち、回転軸104の軸心Oは、ボールねじ102の軸心となる)。そして、回転軸104は、タイミングベルト116を介して、駆動源118で回転駆動される。また、回転軸104は、ロータリーエンコーダ120に直結されている(なお、回転軸104はボールねじ102に一体的に固定されていてもよい)。ロータリーエンコーダ120は、表示装置122に接続されている。このため、表示装置122の表示部122Aにおいて、ボールねじ102の回転角度を確認することができる。なお、駆動源118と表示装置122とは、信号処理装置168に接続されている。
【0023】
前記測定プローブ124は、
図1に示す如く、ボールねじ102のねじ溝(側面)102Aに対峙して配置され、回転機構108によって回転可能とされたボールねじ102の側面形状(ねじ溝102A)を接触して測定することが可能とされている。測定プローブ124については、詳しく後述する。
【0024】
前記プローブ支持機構142は、
図1に示す如く、測定プローブ124をボールねじ102の側面に対峙可能に支持する機構である。プローブ支持機構142は、調整ステージ144と、コラム146と、Zステージ148と、リニアエンコーダ150と、バランス機構158と、を備える。調整ステージ144は、回転軸104の軸心Oに対する測定プローブ124の位置決めを行うために、ベース106上でX方向に移動可能とされている(X方向だけでなく、X方向と直交するY方向にも移動可能とされていてもよい)。コラム146は、調整ステージ144に立設されており、Zステージ148を支持している。Zステージ148は、測定プローブ124をZ方向に移動可能に支持している。なお、コラム146には、リニアエンコーダ150が配置されている。即ち、プローブ支持機構142は、回転機構108による回転に従って測定プローブ124を軸方向(Z方向)に移動可能に支持している。そして、プローブ支持機構142は、測定プローブ124の軸方向(Z方向)における位置を出力するリニアエンコーダ150を備えている。
【0025】
図1に示す如く、リニアエンコーダ150は、検出ヘッド152とリニアスケール154とを備える。検出ヘッド152は測定プローブ124に固定されており、リニアスケール154はコラム146に固定されている。リニアエンコーダ150には、表示装置156が接続されている。このため、表示装置156の表示部156Aにおいて、測定プローブ124のZ方向の位置を確認することが可能とされている。なお、
図1に示す如く、調整ステージ144と表示装置156とは、信号処理装置168に接続されている。
【0026】
図1に示す如く、バランス機構158は、測定プローブ124の移動を小さな力で実現するための機構である。つまり、バランス機構158により、駆動源118は小さなトルクで測定プローブ124を移動させることができるとともに、測定プローブ124のZ方向の測定力を小さくすることができる。バランス機構158は、ワイヤ160と2つの滑車162、164とバランサ166とを備える。ワイヤ160は、測定プローブ124とほぼ同等の重さとされたバランサ166と、測定プローブ124と、を連結している。2つの滑車162、164は、コラム146に回転可能に固定されており、ワイヤ160を移動可能に支持している。しかし、このようなバランス機構は、必ずしも必要ではない。
【0027】
前記信号処理装置168は、
図1に示す如く、測定プローブ124の外部に配置されており、各種の初期値を記憶しておく記憶部と、記憶部に記憶された各種初期値を読み出し演算処理を行う処理部と、を備える。具体的に、処理部は、ボールねじ102の設計データを記憶部から読み出し、ねじ溝120Aの形状を示す座標を求める。また、処理部は、駆動源118を制御し、ボールねじ102を回転させる。そして、処理部は、ロータリーエンコーダ120から出力されるボールねじ102の回転角度と、リニアエンコーダ150から出力される測定プローブ124のZ方向の位置とを関連付けて、測定プローブ124の出力を処理する。つまり、処理部は、測定プローブ124の出力を処理することでボールねじ102の実側面形状(ねじ溝102Aの実形状)を求めることができる。言い換えれば、信号処理装置168は、回転機構108を制御し、且つ測定プローブ124の出力を処理する。なお、信号処理装置168には、キーボードやマウスなどの入力装置が接続されており、適宜指令の入力、初期値の設定、処理方法の選択・決定が可能とされている。
【0028】
次に、測定プローブ124について、主に
図2(A)〜(C)を用いて説明する。
【0029】
測定プローブ124は、
図2(A)、(B)に示す如く、スタイラス126と、径方向変位機構127と、軸方向変位機構131と、センサ135、136と、を備えている。スタイラス126は、ねじ溝102Aに接触する先端部126Aと、先端部126Aを支持するロッド部126Bと、を有する。先端部126Aは、球形状であり、ボールBLとほぼ同一の大きさとされ、ねじ溝102Aと2点(接触点TP)で接触する。このため、ボールBLのサイズに応じて先端部126Aの大きさが変更されることとなる。ロッド部126Bは、棒状部材であり、径方向変位機構127に支持されている。
【0030】
径方向変位機構127は、
図2(A)に示す如く、スタイラス126をボールねじ102の軸心Oに向かうX方向に変位可能に支持している。具体的には、径方向変位機構127は、
図2(B)に示す如く、スタイラス126に一体的に設けられた径方向変位部材128と、径方向変位部材128に接続され、スタイラス126の(X方向)変位に対応して変形する2つの第1ヒンジ部材129と(第1ヒンジ部材129は2つ以上であればよい)、2つの第1ヒンジ部材129を介して径方向変位部材128を支持する径方向ハウジング130と、を備える。径方向変位部材128は、棒状部材であり、その両端付近が第1ヒンジ部材129に支持されている。
【0031】
第1ヒンジ部材129は、
図2(C)に示す如く、円板形状の部材である。第1ヒンジ部材129は、中心部129Aと、リム部129Bと、周辺部129Cと、を備える。中心部129Aは、径方向変位部材128を支持している。リム部129Bは、切り欠きにより2つの折り返し部TR1、TR2を軸Qに対称に備えている。リム部129Bの一端は中心部129Aに接続され、もう一端は周辺部129Cに接続されている。リム部129Bは、周方向に等間隔に3つ配置されている。周辺部129Cは、リム部129Bを介して中心部129Aを支持している。周辺部129Cは、円筒形状の径方向ハウジング130に支持されている。このため、先端部126AにX方向から外力が加わると、2つの折り返し部TR1、TR2で弾性変形する。その際には、径方向変位部材128と一体化されたスタイラス126が軸P周りに回転することなく、一定のばね定数でX方向に変位することとなる。
【0032】
軸方向変位機構131は、
図2(B)に示す如く、スタイラス126をボールねじ102の軸心Oの軸方向(Z方向)に変位可能に支持している。具体的には、軸方向変位機構131は、
図2(B)に示す如く、径方向ハウジング130を支持する軸方向変位部材132と、軸方向変位部材132に接続され、スタイラス126の(Z方向)変位に対応して変形する2つの第2ヒンジ部材133(第2ヒンジ部材133も2つ以上であればよい)と、2つの第2ヒンジ部材133を介して軸方向変位部材132を支持する軸方向ハウジング134と、を備える。軸方向変位部材132は、棒状部材であり、その両端付近が第2ヒンジ部材133に支持されている。
【0033】
第2ヒンジ部材133は、第1ヒンジ部材129と同様の円板形状の部材である。このため、第2ヒンジ部材133の説明は省略する。軸方向ハウジング134は、円筒形状の部材であり、第2ヒンジ部材133を支持している。なお、軸方向ハウジング134は、径方向ハウジング130の位置が変化しても、径方向ハウジング130との非接触状態を保持可能な開口部134A、134Bを備えている。本実施形態では、軸方向ハウジング134が、測定プローブ124のケーシング125と一体とされている。
【0034】
センサ135、136はそれぞれ、
図2(A)に示す如く、径方向変位機構127と軸方向変位機構131とによるスタイラス126のX方向変位とZ方向変位とを検出することが可能とされている。センサ135は、径方向変位部材128の反スタイラス側端部に設けられた基準部材135Aと、基準部材135Aに対峙して径方向ハウジング130に固定された検出部材135Bとを備える。センサ135は、例えば、光の反射を利用した三角測距方式で、検出部材135Bから光を基準部材135Aに対して照射し、反射された光の位置の変化を検出することで、X方向における基準部材135Aの位置を検出する構成とされている。センサ136は、センサ135と同様の構成であり、軸方向変位部材132の端部に設けられた基準部材136Aと、基準部材136Aに対峙して軸方向ハウジング134に固定された検出部材136Bとを備える。なお、センサとしては、リニアエンコーダや差動トランスや静電容量センサなどを用いてもよい。センサ135、136の出力は、信号処理装置168に入力され、スタイラス126の変位として処理される。
【0035】
次に、測定プローブ124によるねじ溝102Aの測定手順について説明する。
【0036】
まず、測定対象であるボールねじ102を回転軸104で、ワーク支持部材114に回転可能に取り付ける。このとき、回転軸104の軸心Oがボールねじ102の中心軸となるべく同一となるように調整する。次に、プローブ支持機構142により、測定プローブ124の高さをボールねじ102の測定開始位置の高さに合わせ、測定プローブ124の軸Pが軸心Oと交差するように調整する。そして、ねじ溝102Aの位置が測定プローブ124の軸P上に来るように、回転機構108でボールねじ102を調整する。そして、測定プローブ124のスタイラス126の先端部126Aがねじ溝102Aと適切に接触するように、プローブ支持機構142の調整ステージ144で、測定プローブ124のX方向の位置調整を行う。
【0037】
次に、入力装置(図示せず)からの指令により、信号処理装置168で、ねじ溝102Aの測定プログラムを開始させる。これにより、ボールねじ102を一定速度で回転させる。すると、スタイラス126の先端部126Aが接触しているねじ溝102AのZ方向の位置が変化し、測定プローブ124の高さが変化していく。そして、測定プローブ124、リニアエンコーダ150、ロータリーエンコーダ120から、リアルタイムで検出信号を出力させ、それらの出力を信号処理装置168で処理する。なお、この処理は、制御と同時でもよいし、制御終了後に処理を行ってもよい。
【0038】
そして、測定プログラムの終了あるいは、入力装置からの指令により、ボールねじ102の測定を終了させる。
【0039】
ここで、
図4(A)の比較例で示す如く、測定プローブにおいて第1ヒンジ部材HGによりスタイラスSTがX方向のみに移動可能となっているとする。このとき、
図4(B)に示す如く、ボールねじWが回転してねじ溝にX方向への変位ΔXだけでなく、Z方向への変位ΔZを含む変位ΔRRが生じた際には、スタイラスSTの先端部がねじ溝に2点接触せずに、1点接触となるおそれが出てくる。このときには、スタイラスSTのX方向への移動量は、本来検出すべき変位ΔXではなく、変位ΔX1(>ΔX)となる。つまり、このような測定プローブでは、本来検出すべき変位ΔXを正確に測定することが困難となる。
【0040】
なお、特許文献1の
図7には、
図4(A)、(B)に示すようなスタイラスSTの動きを可能とする構成が記載されている。即ち、特許文献1では、スタイラスSTのX方向への移動並びに検出を可能としているが、X方向への移動はあくまでもスタイラスSTを支持する測定プローブが行うようになっている。つまり、特許文献1では、第1ヒンジ部材HGが測定プローブの外側にあるといえる。このため、上述の正確な測定という観点から、特許文献1の構成は、
図4(A)、(B)の構成の作用効果をも奏さないと言える。
【0041】
これに対して、本実施形態では、測定プローブ124自体がスタイラス126をX方向及びZ方向の2方向に移動可能に支持する径方向変位機構127及び軸方向変位機構131を備えている。つまり、スタイラス126の2方向への高い応答速度を実現でき、測定プローブ124においてねじ溝102Aの微細な形状変化に追従することができる。このため、
図4(B)のような変位ΔRRが生じても、スタイラス126は2点接触を保つことが可能となり、測定プローブ124は高精度な測定を実現することが可能である。
【0042】
しかも、本実施形態では、測定プローブ124が、X方向とZ方向それぞれに対して、個別に変位を検出するセンサ135、136を備えている。このため、X方向とZ方向の変位を高精度に測定することができる。なお、これに限らず、X方向とZ方向の両方の変位を同時に検出するセンサを用いてもよい。
【0043】
また、本実施形態では、径方向変位機構127がスタイラス126を支持し、軸方向変位機構131がその径方向変位機構127を支持する構成となっている。このため、ボールねじ102のX方向への微細な形状変化に、より高速応答することができる。同時に、スタイラス126がねじ溝102Aに対峙してX方向に向いている関係上、結果的に、構成を簡素化でき、測定プローブ124をコンパクトにまとめることが可能である。なお、これに限らず、軸方向変位機構がスタイラスを支持し、径方向変位機構がその軸方向変位機構を支持する構成であってもよい。また、軸方向変位機構と径方向変位機構とは、本実施形態のような限定された構成ではなく、径方向変位機構がスタイラスをボールねじの軸心Oに向かうX方向に変位可能に支持する機構であり、軸方向変位機構がスタイラスをボールねじの軸心Oの軸方向(Z方向)に変位可能に支持する機構であればよい。
【0044】
また、本実施形態では、測定プローブシステム100がボールねじ102の測定プローブ124に対する相対的な回転を可能とする回転機構108と、回転機構108を制御し、且つ測定プローブ124の出力を処理する信号処理装置168とを備える。このため、仮に、リニアエンコーダ150及びロータリーエンコーダ120の出力を利用しなくても、ボールねじ102の回転に伴うねじ溝120Aの概略的なX方向及びZ方向への形状変化を判別することが可能である。勿論、リニアエンコーダ150及びロータリーエンコーダ120の出力を利用することで、本実施形態では、ねじ溝102Aの設計形状からの誤差を明確化でき、ねじ溝102Aの比較的周期の長い誤差や接触点のばらつき(酔歩やリードむら)などを測定することが可能である。
【0045】
即ち、本実施形態では、相対的に回転可能とされたボールねじ102のねじ溝102Aの所定の位置を高精度に測定することが可能である。
【0046】
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。即ち本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでもない。
【0047】
例えば、第1実施形態では、測定プローブ124のX方向及びZ方向への測定力が第1ヒンジ部材129及び第2ヒンジ部材133のばね定数で変位に伴い増大する構成であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図5、
図6(A)〜(D)に示す第2実施形態の如くであってもよい。第2実施形態では、第1実施形態の測定プローブに緩衝機構が新たに備えられただけである。このため、緩衝機構に係る構成以外は、基本的に符号上位1桁を変更しただけとして説明は省略する。
【0048】
本実施形態では、緩衝機構237は、第1ヒンジ部材229、第2ヒンジ部材233の変形量に対応して増大する復元力をそれぞれ低減可能とする機構である。具体的には、
図5に示す如く、緩衝機構237は、2つの磁性構造体238、239から構成されている。磁性構造体238は、支持部238Aと、磁性部材238Bと、永久磁石238C、238D、238Eと、を備える。磁性構造体239も、支持部239Aと、磁性部材239Bと、永久磁石239C、239D、239Eと、を備える。
【0049】
図5に示す如く、支持部238Aは、径方向変位部材228の側面に固定され、径方向ハウジング230との非接触状態を保つように、径方向ハウジング230の開口部230Aから外部に突出している。支持部238Aの先端には、磁性部材238Bが固定されている。一方、支持部239Aは、支持部238Aの固定されている径方向変位部材228の反対側面に対称に固定され、径方向ハウジング230との非接触状態を保つように、径方向ハウジング230の開口部230Bから外部に突出している。支持部239Aの先端にも、磁性部材239Bが固定されている。
【0050】
図5に示す如く、磁性部材238B、239Bはそれぞれ、例えば直方体形状とされている。永久磁石238C、238D、238E、239C、239D、239Eは、板状に成形されており、軸方向ハウジング234と一体とされたケーシング225に固定されている。ここで、第1ヒンジ部材229、第2ヒンジ部材233が変形していない初期状態における磁性部材238B、239Bの中心位置(
図6(A)、(D)の黒丸に相当)に対して、X方向、Z方向それぞれで、磁気的な吸着力が0に相殺されるように、永久磁石238C、238D、238E、239C、239D、239Eは配置されている。ここで、永久磁石238C、238D、239C、239Dの磁力が全て等しく、且つ永久磁石238E、239Eの磁力が永久磁石238Cの磁力の2倍と等しいとする。その場合には、X方向では、永久磁石238Cと磁性部材238Bとの距離が、永久磁石238Dと磁性部材238Bとの距離、永久磁石239Cと磁性部材239Bとの距離、永久磁石239Dと磁性部材239Bとの距離それぞれと等しくなる。同時に、Z方向では、永久磁石238Eと磁性部材238Bとの距離が、永久磁石239Eと磁性部材239Bとの距離と等しくなる。
【0051】
ここで、
図6(A)に、緩衝機構237の構成に対応する磁性部材MBと永久磁石MU、MD、MR、MLとの関係を簡略的に示す。
図6(A)では、磁性部材MBが磁性部材238B、239B、永久磁石MUが永久磁石238E、永久磁石MDが永久磁石239E、永久磁石MRが永久磁石238D、239D、永久磁石MLが永久磁石238C、239Cそれぞれに相当する。
【0052】
ここで、
図6(B)、(C)におけるX、Z=0の状態では、磁性部材MBは、永久磁石MU、MD、MR、MLから等しい距離に配置される。即ち、永久磁石MU、MD、MR、MLによる力F2、F4、F1、F3(実線矢印)の影響は完全に相殺されている。一方、
図6(A)で示す破線位置から実線位置に磁性部材MBが変位すると、永久磁石MU、MD、MR、MLがない場合には、磁性部材MBには、第1、第2ヒンジ部材(229、233)により元に戻ろうとして力F6(実線矢印)が生じる。しかし、磁性部材MBが変位すると、磁性部材MBは、いずれかの永久磁石(
図6(A)では永久磁石MU、ML)に近づく。このため、力F6とは反対方向に力F6を低減する力F5が生じる。結果的には、
図6(D)に示す実線で示した変位領域ARにスタイラス126が移動した際に、緩衝機構237が作動することとなる。
【0053】
なお、
図6(B)において、実線GX1は永久磁石MLの磁力によって、実線GX5は永久磁石MRの磁力によって、破線GX2は永久磁石ML、MRの磁力の合力によって、実線GX3は第1ヒンジ部材(229)のばね力によって、実線GX4は永久磁石ML、MRの磁力と第1ヒンジ部材(229)のばね力との合力によって、X方向で磁性部材MBにかかる力をそれぞれ示している。同様に、
図6(C)において、実線GZ1は永久磁石MUの磁力によって、実線GZ5は永久磁石MDの磁力によって、破線GZ2は永久磁石MU、MDの磁力の合力によって、実線GZ3は第2ヒンジ部材(233)のばね力によって、実線GZ4は永久磁石MU、MDの磁力と第2ヒンジ部材(233)のばね力の合力によって、Z方向で磁性部材MBにかかる力をそれぞれ示している。なお、スタイラス226はねじ溝102Aの測定時には、ゼロでない測定力でねじ溝102Aに接触する。このため、測定時の最初の状態のスタイラス226の位置PIは、
図6(B)に示す如くX方向でオフセット値を有し、
図6(C)に示す如くZ方向でオフセット値を有さない状態となる。
【0054】
従って、本実施形態では、緩衝機構237により、変位が増大しても、測定力を急激に大きくすることはない。このため、スタイラス226の変位量の変動が大きくても、精度を低下させることなく測定を行うことが可能である。なお、これに限らず、緩衝機構がX方向とZ方向のそれぞれに分離され、径方向変位部材と軸方向変位部材の変位を径方向ハウジングと軸方向ハウジングのそれぞれに対して緩衝する構成であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、測定プローブにおけるスタイラスの変位を2方向に絶えず許容していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図7に示す第3実施形態の如くであってもよい。第3実施形態では、第1実施形態の測定プローブにクランプ機構が新たに備えられただけである。このため、クランプ機構に係る構成以外は、基本的に符号上位1桁を変更しただけとして説明は省略する。
【0056】
本実施形態では、
図7に示す如く、径方向変位機構327が、径方向変位部材328を径方向ハウジング330に対して一時的にクランプするクランプ機構337を備えている。具体的には、径方向変位部材328には、凹部328Aが設けられている。径方向ハウジング330に雌ねじが設けられ、そこにボルトBTが螺合し凹部328Aに係止することでクランプ機構337が構成されている(ボルトBTの螺合状態の変更は手動でもよいし、電動でもよい)。
【0057】
このように、本実施形態では、スタイラス326のX方向への変位を完全に停止させる(クランプする)ことで、測定プローブ324がZ方向のみの変位を高精度に測定することが可能である。例えば、
図7に示すように、ワークが円筒カム302であり、カム溝302Aのカム溝上面302BのZ方向への変位のみを高精度に測定したいといった場合に適用させることができる。このとき、このクランプ行為自体は一時的なので、クランプ状態を適宜解除しスタイラス326を2方向で変位可能とすることが可能である。なお、これに限らず、クランプするのが軸方向変位部材であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、測定プローブには1つの先端部だけが備えられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図8に示す第4実施形態の如くであってもよい。第4実施形態では、第1実施形態の1つのスタイラスに対して2つの先端部が備えられただけである。このため、スタイラスに係る構成以外は、基本的に符号上位1桁を変更しただけとして説明は省略する。
【0059】
本実施形態では、先端部426A、426AAが2つとされ、互いの先端部426A、426AAの位置が相対的に調整可能とされている。具体的には、スタイラス426は、先端部426A、426AAと、ロッド部426B、426BBと、固定部426Cと、可変部426CCと、を備える。先端部426Aは、ロッド部426Bの先端に固定されている。そして、ロッド部426Bの後端は固定部426Cに固定され、図示せぬ径方向変位部材に支持されている。一方、先端部426AAは、ロッド部426BBの先端に固定されている。そして、ロッド部426BBの後端は可変部426CCに固定されている。可変部426CCは、2方向に位置調整可能とするボルトBT1、BT2(手動でも電動でもよい)を介して固定部426Cに支持されている。即ち、先端部426Aに対する先端部426AAの位置は、Z方向へ調整可能とされている。
【0060】
このため、本実施形態では、
図8に示す如く、2つの先端部426A、426AAでねじ溝402Aのねじ溝上面402B、ねじ溝下面402Cに接触するように調整できる。これにより、例えば、ボールBL(
図3(A))と同等の大きさの先端部を備えるスタイラスに変更することなく、ねじ溝402Aを正確に測定することが可能である。なお、これに限らず、先端部は、ワークに応じて、3つ以上とされていてもよい。
【0061】
また、第1実施形態では、ねじ溝102Aの測定を1回だけ行うことを示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図9(A)〜(C3)、
図10(A)〜(E)に示す第5実施形態の如くであってもよい。第5実施形態では、第1実施形態の測定プローブシステムと構成がほぼ同一で、ねじ溝102Aの測定について新たな処理を行うようにしただけである。このため、構成については、符号を同一として説明は省略する。なお、
図10(A)〜(E)において、符号EEは回転むらを、符号FGはねじ溝102Aの形状を、符号REは回転機構108の回転精度を、それぞれ示している。また、
図10(A)〜(E)においては、ねじ溝102Aの形状と回転機構108の回転精度とは便宜上、分離して示す。
【0062】
本実施形態では、
図9(C)に示す如く、処理部が、回転機構108の回転開始位置をそれぞれ異ならせた状態を初期状態とする複数のねじ溝102Aの実形状を求める。そして、処理部が複数のねじ溝102Aの実形状同士の演算を行うことで、回転機構108に起因する測定誤差を低減することができる。例えば、測定を開始する前のボールねじ102の事前回転角度θiを0度、120度、240度として予め回転させておく(
図9(C1)〜(C3)のそれぞれの右図)。つまり、測定初期条件を一定の位相間隔(120度)でずらしている(位相差法とも称する)。その状態から、ねじ溝102Aの測定を開始させて、Z方向への変位を求める(
図9(C1)〜(C3)のそれぞれの左図)。すると、測定対象としてのねじ溝102Aの場所を同一とした場合に、
図10(A)〜(C)に示す如く、回転機構108の回転精度に基づくZ方向への異なる変位結果(リードむらEL)をそれぞれ得ることができる。即ち、本実施形態では、これら3つの変位結果(
図10(A)〜(C))を、例えば、処理部で加算(
図10(D))して平均を求める(
図10(E))ことで、回転むらEEに起因する測定誤差を低減することが可能である。即ち、本実施形態では、より高精度な測定を実現することが可能である。なお、これに限らず、2つの測定、あるいは、4つ以上の測定を行い、位相差法を適用してもよい。
【0063】
また、第1実施形態では、測定プローブの出力とリニアエンコーダおよびロータリーエンコーダの応答特性について特に考慮していなかったが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図11(A)〜(C4)に示す第6実施形態の如くであってもよい。第6実施形態では、第1実施形態の測定プローブシステムと構成がほぼ同一で、ねじ溝102Aの測定について新たな処理を行うようにしただけである。このため、構成については、符号を同一として説明は省略する。
【0064】
本実施形態では、処理部が、ねじ溝102Aの実形状である実側面形状を求める際に、測定プローブ124、リニアエンコーダ150、及びロータリーエンコーダ120の出力応答特性を校正している。実際にこの校正する際には、
図11(A)、(B)に示す如く、JISやISOで規定されている真円度測定機用のフリックスタンダード(倍率校正器)103をワークとして用いる。
【0065】
本実施形態では、測定形状を求める際には、出力指令を処理部が出した際に、その応答速度が各構成要素で異なる。即ち、
図11(C1)〜(C4)それぞれに示す如く、測定プローブ124から出力されるX方向の変位ΔXは時間遅れTSで、Z方向の変位ΔZは時間遅れTTで、それぞれ処理部で処理可能となる。また、ロータリーエンコーダ120から出力される回転角度の変位θは時間遅れTREで、リニアエンコーダ150から出力されるZ方向の変位Zは時間遅れTLEで、それぞれ処理部で処理可能となる。
【0066】
このため、本実施形態では、これらの時間遅れTS、TT、TRE、TLEを考慮して、測定プローブ124、リニアエンコーダ150、及びロータリーエンコーダ120の出力応答特性を校正した上で、ねじ溝102Aの実形状である実側面形状を求めることで、上記実施形態よりも更に高精度に測定を行うことが可能となる。
【0067】
また、上記実施形態では、回転機構で、ワークが回転する構成とされていたが、本発明はこれに限定されず、ボールねじが固定され、測定プローブがボールねじの周りで回転する構成となっていてもよい。即ち、ワークが測定プローブに対して相対的に回転可能とされていればよい。