特許第6578089号(P6578089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6578089ウェーハ保持用キャリア並びにそれを用いたウェーハの両面研磨方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578089
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】ウェーハ保持用キャリア並びにそれを用いたウェーハの両面研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/28 20120101AFI20190909BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190909BHJP
【FI】
   B24B37/28
   H01L21/304 622G
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-146580(P2014-146580)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-22542(P2016-22542A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2016年7月21日
【審判番号】不服2018-9132(P2018-9132/J1)
【審判請求日】2018年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390004581
【氏名又は名称】三益半導体工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇章
【合議体】
【審判長】 刈間 宏信
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−81057(JP,A)
【文献】 実開平4−35867(JP,U)
【文献】 特開2004−283929(JP,A)
【文献】 特開2009−190159(JP,A)
【文献】 特開平10−180623(JP,A)
【文献】 特開2000−84835(JP,A)
【文献】 特開2001−47359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/28
B24B41/06
B24B7/00-7/30
H01L21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面研磨装置において、研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に配置され、ウェーハを収容して保持するためのウェーハ保持孔と、研磨剤を通過させるための複数の研磨剤通過孔とを有するウェーハ保持用キャリアであって、
前記研磨剤通過孔の直径が10〜20mmであり、
隣合う前記研磨剤通過孔同士の間隔が、前記研磨剤通過孔の直径の1〜2倍の範囲であり、
前記研磨剤通過孔と隣合う前記ウェーハ保持孔との距離が、前記研磨剤通過孔の直径の1〜2倍の範囲であり、
前記ウェーハ保持用キャリアがチタン製であることを特徴とするウェーハ保持用キャリア。
【請求項2】
ウェーハを両面研磨する方法であって、
研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に、請求項1に記載の前記ウェーハ保持用キャリアを配置し、該ウェーハ保持用キャリアに形成された前記ウェーハ保持孔に前記ウェーハを保持して両面研磨することを特徴とするウェーハの両面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ保持用キャリア並びにそれを用いたウェーハの両面研磨方法、及び、ウェーハ保持用キャリアの評価方法並びに設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェーハの両面を同時に研磨する際、ウェーハ保持用キャリアによってウェーハを保持している。
図1は、従来から用いられている一般的な両面研磨装置10によるウェーハWの両面研磨を説明する概略図である。図1に示すように、ウェーハWより薄い厚みに形成されている、ウェーハ保持用キャリア101によってウェーハWが保持されている。
【0003】
ウェーハ保持用キャリア101は、サンギア4とインターナルギア6とに噛合され、サンギア4とインターナルギア6の回転によって自転公転させる。そして、研磨面に研磨剤供給装置12から、研磨剤11を供給しながら上定盤7と下定盤8とを互いに逆回転させることにより、上下定盤7、8に貼付された研磨布3でウェーハWの両面を同時に研磨する。
【0004】
両面研磨の際に、研磨布3とウェーハ保持用キャリア101とウェーハWの間に研磨剤11が十分に供給されないと、摩擦熱により研磨布3の目詰りが蓄積するなどしてウェーハWに外周ダレが生じる。特に下定盤8側は、上定盤7から研磨剤11が供給されるため、さらに供給量が少なくなる。
そこで、図2や、特許文献1に記載されているように、ウェーハ保持用キャリアにウェーハ保持孔5以外に、色々な研磨剤通過孔9を設けることで、研磨剤の供給量を増やし、両面研磨後のウェーハの平坦度が良くなるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−283929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ウェーハ保持孔と研磨剤通過孔の配置によってはキャリア面内強度にばらつきが生じ、その結果ウェーハ平坦度が悪化してしまうことがある。
これは、研磨剤通過孔の面積を最大限大きくすることで、研磨剤の供給が不足する点については改善されるが、一方でウェーハ保持用キャリアの強度が低下してしまうからである。
【0007】
ウェーハ保持用キャリアの強度が低下すると、ウェーハを両面研磨する際に、図3に示すように、ウェーハ保持用キャリア101に局所的な歪みが発生することがある。歪んだウェーハ保持用キャリアを使うと、ウェーハ保持用キャリア101と共にウェーハWの外周部が研磨布3と当たり、ウェーハWに外周ダレが発生する。このような場合、ウェーハ保持用キャリア101もインサート樹脂2とともに局所的に厚さが極端に薄くなり、ウェーハ保持孔5の周辺部分に厚さのバラツキが生じる。
【0008】
さらに、このように、ウェーハ保持孔の周辺部分に厚さのバラツキが生じたウェーハ保持用キャリアは、その後の両面研磨において、歪みが発生していなくても、図4に示すように、ウェーハの端部が研磨されやすくなって外周ダレが発生してしまう。
【0009】
このように、ウェーハ保持用キャリアに局所的な歪みが生じた状態や、ウェーハ保持孔の周辺部分に厚さのバラツキが生じたウェーハ保持用キャリアを使用した場合には、平坦度が高いウェーハWを製造することが困難になるという問題があった。
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に供給することができるウェーハ保持用キャリア並びにそれを用いたウェーハの両面研磨方法及びウェーハ保持用キャリアの評価方法並びに設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば、両面研磨装置において、研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に配置され、ウェーハを収容して保持するためのウェーハ保持孔と、研磨剤を通過させるための複数の研磨剤通過孔とを有するウェーハ保持用キャリアであって、
前記研磨剤通過孔の直径が10〜20mmであり、
隣合う前記研磨剤通過孔同士の間隔が、前記研磨剤通過孔の直径の1〜2倍の範囲であることを特徴とするウェーハ保持用キャリアを提供する。
【0012】
このようなウェーハ保持用キャリアであれば、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に供給することができるウェーハ保持用キャリアとすることができる。
【0013】
このとき、前記研磨剤通過孔と隣合う前記ウェーハ保持孔との距離が、前記研磨剤通過孔の直径の1〜2倍の範囲であることが好ましい。
このようなものであれば、より確実に両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えることができるものとなる。
【0014】
また本発明によれば、ウェーハを両面研磨する方法であって、
研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に、上記本発明のウェーハ保持用キャリアを配置し、該ウェーハ保持用キャリアに形成された前記ウェーハ保持孔に前記ウェーハを保持して両面研磨することを特徴とするウェーハの両面研磨方法が提供される。
【0015】
このような両面研磨方法であれば、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に供給することができる本発明のウェーハ保持用キャリアを用いるので、平坦度の高いウェーハを得ることができる。
【0016】
また、本発明によれば、両面研磨装置において、研磨布が貼付された上定盤と下定盤との間に配置され、ウェーハを収容して保持するためのウェーハ保持孔と、研磨剤を通過させるための複数の研磨剤通過孔とを有するウェーハ保持用キャリアの評価方法であって、
前記ウェーハ保持用キャリアの前記ウェーハ保持孔に、前記ウェーハ保持用キャリアの水平方向に力が掛かった際に、前記ウェーハ保持用キャリアが該ウェーハ保持用キャリアの垂直方向へ変位する量を、有限要素法を用いた応力解析により評価することを特徴とするウェーハ保持用キャリアの評価方法を提供する。
【0017】
このようなウェーハ保持用キャリアの評価方法であれば、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を評価することができ、ウェーハ保持用キャリアの適否を正確に評価することができる。
【0018】
また、本発明によれば、ウェーハ保持用キャリアの設計方法であって、上記記載の本発明の評価方法を用いて、
前記研磨剤通過孔の直径と、前記ウェーハ保持用キャリアが前記変位する量の関係を求め、前記研磨剤通過孔の直径を前記求めた変位する量が極小値をとる範囲の長さに設計し、
該直径の範囲内において、隣合う前記研磨剤通過孔同士の間隔と、前記ウェーハ保持用キャリアが前記変位する量との関係を求め、隣合う前記研磨剤通過孔同士の間隔を前記求めた変位する量が極小値をとる範囲の距離に設計することを特徴とするウェーハ保持キャリアの設計方法を提供する。
【0019】
このようなウェーハ保持用キャリアの設計方法であれば、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に供給することができるウェーハ保持用キャリアを設計することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のウェーハ保持用キャリアは、両面研磨時に局所的な歪みの発生が抑えられたものとするこができる。また、このような本発明のウェーハ保持用キャリアを用いることによって、ウェーハを高平坦度で両面研磨することができる。さらに本発明のウェーハ保持用キャリアの評価方法により、正確にウェーハ保持用キャリアの変位量を評価して、高平坦度なウェーハを両面研磨することができるウェーハ保持用キャリアを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一般的な両面研磨装置の一例を示した概略図である。
図2】従来のウェーハ保持用キャリアの一例を示した概略図である。
図3】ウェーハ保持用キャリアに局所的に歪みが発生し、ウェーハに外周ダレが発生している様子を示す概略図である。
図4】一部が薄くなったウェーハ保持用キャリアを用いて、ウェーハの両面研磨を行う様子を示す概略図である。
図5】本発明のウェーハ保持用キャリアの一例を示した概略図である。
図6】従来のウェーハ保持用キャリアのウェーハ保持部への力の掛かり方の一例を示した概略図である。
図7】研磨剤通過孔の直径とウェーハ保持用キャリアの変位量の関係を示す概略図である。
図8】研磨剤通過孔同士の間隔とウェーハ保持用キャリアの変位量の関係を示す図である。
図9】研磨剤通過孔の直径と研磨剤通過孔同士の間隔の比とウェーハ保持用キャリアの変位量の関係を示す図である。
図10】本発明のウェーハ保持用キャリアの一例を示した概略図である。
図11】実施例2におけるSFQRmaxの測定結果を示す図である(保持孔との距離15mm)。
図12】実施例2におけるESFQRmaxの測定結果を示す図である(保持孔との距離15mm)。
図13】実施例2におけるSFQRmaxの測定結果を示す図である(保持孔との距離22mm)。
図14】実施例2におけるESFQRmaxの測定結果を示す図である(保持孔との距離22mm)。
図15】比較例1におけるSFQRmaxの測定結果の概略図である。
図16】比較例1におけるESFQRmaxの測定結果を示す図である。
図17】ウェーハ保持用キャリアの変位量とSFQRmaxの関係を示す図である。
図18】ウェーハ保持用キャリアの変位量とESFQRmaxの関係を示す図である。
図19】ウェーハ保持孔周辺部における厚さを測定する箇所を示す図である。
図20】比較例2における保持孔周辺部の厚さのバラツキとSFQRmaxの関係を示す図である。
図21】比較例2における保持孔周辺部の厚さのバラツキとESFQRmaxの関係を示す図である。
図22】比較例3におけるウェーハ保持孔周辺部の厚さの測定結果を示す図である。
図23】実施例3においてウェーハ保持孔周辺部の厚さの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記したように、ウェーハ保持用キャリアを用いたウェーハの両面研磨において、ウェーハの外周にダレが発生するなど、研磨されたウェーハの平坦度が悪化するという問題があった。
そこで本発明者は、このような問題の発生する原因について調査するための実験を行い、検討を重ねた。その結果、両面研磨時に、ウェーハ保持用キャリアに局所的な変位が生じることで、ウェーハの外周ダレが生じるということを知見した。また、変位量が小さいウェーハ保持用キャリアを用いることで、平坦度の高い両面研磨ができることが明らかになった。
【0023】
図5に示すように、本発明のウェーハ保持用キャリア1aには、ウェーハを保持するためのウェーハ保持孔5と、研磨面に研磨剤を供給するための研磨剤通過孔9が形成されている。
【0024】
そして、ウェーハ保持用キャリア1aは、図1に示すような、両面研磨装置10においてウェーハWを両面研磨する際に用いられる。両面研磨装置10は、上下に相対向して設けられた上定盤7と下定盤8を備えており、各定盤には、それぞれ研磨布3が貼付されている。上定盤7と下定盤8の間の中心部にはサンギア4が、周縁部にはインターナルギア6が設けられている。
【0025】
そして、サンギア4及びインターナルギア6の各歯部にはウェーハ保持用キャリア1aの外周歯が噛合しており、上定盤7及び下定盤8が不図示の駆動源によって回転されるのに伴い、ウェーハ保持用キャリア1aは自転しつつサンギア4の周りを公転する。このとき、ウェーハ保持用キャリア1aのウェーハ保持孔5で保持されたウェーハWは、上下の研磨布3により両面を同時に研磨される。ウェーハWの研磨時には、研磨剤供給装置12から研磨剤11がウェーハWの研磨面に供給される。
【0026】
ここで、本発明のウェーハ保持用キャリア1aは、研磨剤通過孔9の直径が10〜20mmであり、隣合う研磨剤通過孔同士の間隔が、研磨剤通過孔9の直径の1〜2倍の範囲となるようにする。
これにより、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に通過させて、下定盤8上に供給することができる。
【0027】
また、このとき、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5との距離が、研磨剤通過孔9の直径の1〜2倍の範囲であることが好ましい。これにより、より確実にウェーハ保持用キャリアの変位を抑制することができる。
【0028】
なお、ウェーハ保持用キャリア1aの素材は特に限定されないが、例えば、Ti(チタン)製または、ガラスエポキシ製とすることもできる。従来用いられているすべての材質を用いることができる。
【0029】
次に、本発明のウェーハの両面研磨方法について以下に説明する。
本発明のウェーハの両面研磨方法では、上述したような本発明のウェーハ保持用キャリア1aを、両面研磨装置10に配置する。
【0030】
次に、ウェーハ保持用キャリア1aのウェーハ保持孔5にウェーハWを挿入し、保持する。
次に、研磨布3でウェーハWの上下表面を挟み込み、その研磨面に研磨剤11を供給しながら上下定盤を回転させて、ウェーハWの両面研磨を行う。
このようにしてウェーハWを両面研磨すれば、両面研磨時のウェーハ保持用キャリア1aの変位量を抑えつつ、研磨剤11を十分に供給することができる本発明のウェーハ保持用キャリア1aを用いるので、ウェーハ外周部にダレの発生を抑制して、平坦度の高いウェーハを得ることができる。
【0031】
次に、本発明のウェーハ保持用キャリアの評価方法について説明する。
本発明のウェーハ保持用キャリアの評価方法では、両面研磨装置10において、研磨布3が貼付された上定盤7と下定盤8との間に配置され、ウェーハWを収容して保持するためのウェーハ保持孔5と、研磨剤11を通過させるための複数の研磨剤通過孔9とを有するウェーハ保持用キャリアの評価を行う。
【0032】
そして、ウェーハ保持用キャリアのウェーハ保持孔5に、ウェーハ保持用キャリアの水平方向に力が掛かった際に、前記ウェーハ保持用キャリアが該ウェーハ保持用キャリアの垂直方向へ変位する量を、有限要素法を用いた応力解析により評価する。
このとき、図6に示すような方向に、ウェーハ保持孔5のウェーハWと接する面に力Fが掛かるとすることができる。この際に、ウェーハ保持孔5にかかる力Fの大きさを例えば、それぞれ1000Nとすることができる。
【0033】
なお、有限要素法を用いた応力解析は、例えば、シミュレーション解析により行うことができる。
ここで、有限要素法とは、複雑な形状や性質を持つ物体を、単純な形状や性質の小部分(要素)に分割して、そのひとつひとつの要素の特性を数学的な方程式を用いて、近似的に表現した後、この単純な方程式を組み合わせ、すべての方程式が成立する解を求めることによって、全体の挙動を予想するものである。なお、物体全体の挙動とは、例えば、変形や応力分布のことを指す。
【0034】
このようなウェーハ保持用キャリアの評価方法であれば、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの垂直方向の変位量を評価することができる。
【0035】
次に、本発明のウェーハ保持用キャリアの設計方法について説明する。
まず、上述した本発明のウェーハ保持用キャリアの評価方法によって、研磨剤通過孔の直径とウェーハ保持用キャリアが変位する量の関係を求める。
そして、研磨剤通過孔の直径を、求めたウェーハ保持用キャリアの変位する量が極小値をとる範囲の長さに設計する。
ここで、極小値をとる範囲の長さとは、極小値を含み、変位量が問題とならない値(ほぼ同等とみなすことができる値)となる範囲のことである。具体的には、例えば後述する実施例1で求めた図7の場合であれば、極小値をとる範囲の長さを、研磨剤通過孔の直径が10〜20mmの範囲とすることができる。
【0036】
そして次に、変位する量が極小値をとる範囲の長さの研磨剤通過孔の直径の範囲内において、隣合う前記研磨剤通過孔同士の間隔と、ウェーハ保持用キャリアが変位する量との関係を求める。
そして、隣合う前記研磨剤通過孔同士の間隔を前記求めた変位する量が極小値をとる範囲の距離に設計する。
ここで、極小値をとる範囲の距離は、上記と同様の定義であり、具体的には、例えば後述する実施例1で求めた図9の場合であれば、研磨剤通過孔の直径の1〜2倍、ここでは研磨剤通過孔が15mmであるので、研磨剤通過孔同士の間隔が15〜30mmの範囲とすることができる。
【0037】
このようにして設計することで、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に供給することができる。従って、高平坦度の両面研磨をすることが可能なウェーハ保持用キャリアを設計することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
両面研磨装置を用いてウェーハの両面研磨を行った際に、ウェーハ保持用キャリアが変位する量を、有限要素法を用いたシミュレーションを行うことにより評価し、さらに、ウェーハ保持用キャリアの設計を行った。
【0040】
なお、有限要素法を用いたシミュレーションには、ムラタソフトウェア株式会社製ソフトのFemtetを用いて算出した。
【0041】
まず、Femtetを立上げ、解析項目として応力解析を選択し、3Dキャドで作成したウェーハ保持用キャリアの図面をFemtetに入力した。
解析メッシュサイズの設定で5mmを選択し、材質の選択画面から適用材質としてTi(チタン)を選択した。すると、Femtetの既存情報からポアソン比0.32、ヤング率1.157E11等が抽出された。
【0042】
境界条件として、ウェーハ保持孔のウェーハと接する面に、図6に示すような方向で、大きさ1000Nの力Fを掛けた際のシミュレーションを行った。
その際に、図5に示すようなウェーハ保持用キャリア1aの研磨剤通過孔9の直径を、5mmから40mmまで変化させた。このときの研磨剤通過孔9同士の間隔、及び、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5の距離は、研磨剤通過孔9の直径と同じ距離に設定した。
また、図2に示すような、直径が50mmと135mmの研磨剤通過孔9を有するウェーハ保持用キャリア101についても上記と同様にしてシミュレーションを行い、評価を行った。
これらのシミュレーションした結果を表1及び表2さらに、図7に示した。
【0043】
なお、表1及び表2において、モデルにはシミュレーションを行った研磨剤通過孔を配置したウェーハ保持用キャリアを示した。また、最小変位量とは、キャリアの裏面側へ飛び出した最大部分の変位量のことを示し、最大変位量とは、キャリアの表面側へ飛び出した最大部分の変位量のことを示す。そして、変位量とは、最小変位量と最大変位量の絶対値の和を示すものとする。そして、各シミュレーションした各ウェーハ保持用キャリアの変位量を示す度合を示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
表1、表2及び、図7に示したように、研磨剤通過孔の直径が10mmから20mmの間の範囲の長さで、ウェーハ保持用キャリアの変位量が極小値をとることが分かる。
そして、研磨剤通過孔の直径が15mmのときに、ウェーハ保持用キャリアの変位量が最も小さく、31.4μmであった。そこで、研磨剤通過孔の直径を15mmとして設計をする。
【0047】
次に、研磨剤通過孔の直径が15mmの場合に、研磨剤通過孔同士の間隔を10mmから40mmまでの間で変化させた際の、ウェーハ保持用キャリアの変位量を、上記と同様にしてシュミレーションを行って、ウェーハ保持用キャリアの評価を行った。このときのシュミレーションの結果を表3、表4及び、図8図9に示した。
また、図8には、研磨剤通過孔の直径が30mmの際のウェーハ保持用キャリアの変位量の結果についても示した。
【0048】
また、表3、表4において、モデルにはシミュレーションを行った研磨剤通過孔を配置したウェーハ保持用キャリアを示した。また、上記と同様、最小変位量とは、キャリアの裏面側へ飛び出した最大部分の変位量のことを示し、最大変位量とは、キャリアの表面側へ飛び出した最大部分の変位量のことを示す。そして、変位量とは、最小変位量と最大変位量の絶対値の和を示すものとする。そして、各シミュレーションした各ウェーハ保持用キャリアの変位量を示す度合を示した。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
表3、表4及び、図8に示したように、研磨剤通過孔同士の間隔が15mmから30mmの範囲の距離で、ウェーハ保持用キャリアの変位量が極小値をとることが分かった。
つまり、図9に示したように、研磨剤通過孔同士の距離が、研磨剤通過孔の直径の1〜2倍の範囲の距離で、ウェーハ保持用キャリアの変位量が極小値をとることが分かった。
そして、研磨剤通過孔同士の間隔が22mmのときに、ウェーハ保持用キャリアの変位量が最も小さく31.1μmであった。
【0052】
また、図8に示したように、研磨剤通過孔の直径が30mmでは、研磨剤通過孔同士の距離が30mmで最も変位量が小さくなるが、研磨剤通過孔の直径が15mmのときに比べて変位量が大きいことが分かる。
【0053】
上記の結果を踏まえて、図5に示すような、研磨剤通過孔9の直径が15mm、研磨剤通過孔9同士、及び、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5の距離が15mmであるウェーハ保持用キャリア1aと、図10に示すような研磨剤通過孔9の直径が15mm、研磨剤通過孔9同士、及び、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5の距離が22mmであるウェーハ保持用キャリア1bの設計を行った。
【0054】
このようにして、両面研磨時のウェーハ保持用キャリアの変位量を抑えつつ、研磨剤を十分に供給することができるウェーハ保持用キャリアを設計することができた。
【0055】
(実施例2、比較例1)
実施例1で設計した、研磨剤通過孔9の直径が15mm、研磨剤通過孔9同士の間隔、及び、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5の距離が15mmのウェーハ保持用キャリア1aと、研磨剤通過孔9の直径が15mm、研磨剤通過孔9同士の間隔、及び、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5の距離が22mmのウェーハ保持用キャリア1bを用いて直径300mmのウェーハWを各45枚ずつ両面研磨を行った(実施例2)。
また、図2に示すようなウェーハ保持用キャリア101についても同様にウェーハWを各45枚両面研磨を行った(比較例1)。
【0056】
ウェーハWの両面研磨には、スピードファム(株)製の両面研磨装置を使用し、研磨布には厚さt=1.3mmのウレタンパッドを用い、研磨液にはコロイダルシリカを用いた。
研磨する際の両面研磨装置の条件は、上定盤の回転数を−5〜−15rpmとし、下定盤の回転数を10〜25rpmとし、サンギアの回転数を10〜20rpmとし、インターナルギアの回転数を0〜10rpmとし、研磨圧を100〜150g/cmとして両面研磨を行った。
【0057】
上記のような条件で両面研磨されたウェーハWの表面の平坦度を平坦度測定器(WaferSight)にて、ウェーハ表面の平坦度としてSFQRmax(M49モード @26×8/0×0mm E・E=2mm)とESFQRmax(Length35mm Wedges72 E・E=1mm)を測定した。
【0058】
なお、SFQR(site front least squares range)やESFQR(edge site front least squares range)とは、ウェーハ裏面を平面に矯正した状態で、設定されたサイト内でデータを最小二乗法にて算出したサイト内平面を基準平面とし、各サイト毎のこの平面からの最大、最小の位置変位の差を示す。
また、SFQRmaxあるいはESFQRmaxとは、各サイト毎のその差のうち最大のものを示す。
【0059】
上記のようにして行った、実施例2のウェーハ保持用キャリア1aのSFQRmaxと、ESFQRmaxの測定結果をそれぞれ図11図12に示し、ウェーハ保持用キャリア1bの測定結果をそれぞれ図13図14に示した。
同様に、比較例1のSFQRmaxと、ESFQRmaxの測定結果をそれぞれ図15図16に示した。
また、表5、表6に、実施例2、比較例1のそれぞれのSFQRmax及びESFQRmaxの平均値、最大値、最小値をそれぞれ示した。
さらに、このときのSFQRmaxとESFQRmaxの平均値とキャリア変位量との関係を図17及び図18に示した。
【0060】
なお、図表で示すSFQRmaxの値は、比較例1のSFQRmaxの平均値を1として規格化したものを用いた。
同様に、ESFQRmaxの値も、比較例1のESFQRmaxの平均値を1として規格化したものを用いた。
【0061】
【表5】
【0062】
【表6】
【0063】
その結果、実施例2では、比較例1と比べて、SFQRmaxとESFQRmaxの両方の値が小さく、平坦度が良く両面研磨が行われたことが分かった。
また、図17及び図18の結果から、ウェーハ保持用キャリアの変位量が小さい方が、SFQRmax及びESFQRmaxが小さくなることが分かった。
【0064】
(比較例2)
ウェーハ保持孔の周辺の厚さのバラツキが異なるウェーハ保持用キャリアを用意して、それぞれのウェーハ保持用キャリアを用いて、ウェーハを両面研磨した後の、ウェーハの平坦度を測定した。
【0065】
ウェーハ保持用キャリアには、図2に示すような直径が50mm、135mmの研磨剤通過孔9を有する、チタン製のウェーハ保持用キャリア101を5枚用意した。
ウェーハ保持用キャリア101はそれぞれウェーハ保持孔5の周辺の厚さのバラツキが異なるものである。
【0066】
ウェーハ保持孔5の周辺の厚さの測定は、ウェーハ保持用キャリア101を水平な測定台の上に置き、キーエンス製レーザ変位計LK−G15を用いて行った。
測定位置は、図19のようにウェーハ保持孔5から5〜7mmの位置である、ウェーハ保持孔5の周辺のa〜hの8ポイントとして、厚さの測定を行った。
そして、このときのウェーハ保持孔の周辺の厚さの測定結果の最大値と最小値の差分を厚さのバラツキとした。
【0067】
そして、これらのウェーハ保持用キャリア101を用いて直径300mmのウェーハをそれぞれ15枚ずつ両面研磨を行った。
【0068】
ウェーハを両面研磨する際の条件は、実施例2と同様にして行い、両面研磨されたウェーハの表面の平坦度も実施例2と同様にして測定した。
測定結果から、ウェーハ保持孔周辺部の厚さのバラツキと、SFQRmaxの平均値との関係を図20に示した。同様に、ウェーハ保持孔周辺部の厚さのバラツキと、平坦度ESFQRmaxの平均値との関係を図21に示した。
【0069】
図20図21から、ウェーハ保持孔周辺部の厚さのバラツキが大きいウェーハ保持用キャリアを用いて両面研磨を行うと、SFQRmax、ESFQRmaxはともに大きく、バラツキが小さいウェーハ保持用キャリアを用いて研磨を行うとSFQRmax、ESFQRmaxはともに小さいということが分かった。
【0070】
(実施例3、比較例3)
図5に示すような、研磨剤通過孔9の直径が15mm、研磨剤通過孔9同士の間隔、及び、研磨剤通過孔9と隣合うウェーハ保持孔5の距離が15mmのチタン製のウェーハ保持用キャリア1aを用いて、両面研磨装置でウェーハを両面研磨した。そして両面研磨終了後に、ウェーハ保持用キャリア1aのウェーハ保持孔5の周辺の厚さの測定を行った(実施例3)。
また、同様に、図2に示すような50mmと135mmの研磨剤通過孔9を有する、チタン製のウェーハ保持用キャリア101を両面研磨加工で使用後に、ウェーハ保持孔5の周辺の厚さの測定を行った(比較例3)。
【0071】
両面研磨加工は、実施例2と同様の条件で行い、ウェーハを両面研磨した。
また、厚さの測定は、比較例2と同様に行い、図19に示すようにウェーハ保持孔の周辺のa〜hの8ポイントについて測定を行った。
【0072】
測定は、それぞれのウェーハ保持用キャリアを70000分以上使用した後に行った。
70000分使用後の比較例3でのウェーハ保持孔周辺部の厚さは図22に示すようになった。
また、実施例3でのウェーハ保持孔の周辺の厚さは図23に示ようになった。
【0073】
その結果、図22に示した比較例3では、測定位置b、fのようにウェーハ保持孔の周辺の厚さが局所的に薄くなっている部分が見られることが分かった。
一方で、図23に示した実施例3では、ウェーハ保持孔の周辺の厚さが全体的に均一であることが分かった。
【0074】
これは、前述の表1で示したように、ウェーハ保持用キャリア101の変位量が246.6μmであるのに対して、ウェーハ保持用キャリア1aの変位量は31.4μmと、両面研磨時の変位量が小さいためである。
【0075】
このように、実施例3のウェーハ保持用キャリア1aは両面研磨時の変位量が小さいため、両面研磨加工で使用した後のウェーハ保持孔の周辺の厚さのバラツキが小さい。
そのため、比較例2での結果から分かるように、ウェーハ保持孔の周辺の厚さのバラツキが小さくなり、本発明のウェーハ保持用キャリアを用いて両面研磨を行えば、SFQRmax、ESFQRmaxがともに小さい、平坦度が高いウェーハを得られるということが分かった。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0077】
1a、1b、101…ウェーハ保持用キャリア、 2…インサート樹脂、3…研磨布、
4…サンギア、 5…ウェーハ保持孔、 6…インターナルギア、 7…上定盤、
8…下定盤、 9…研磨剤通過孔、 10…両面研磨装置、 11…研磨剤、
12…研磨剤供給装置、 F…力、 W…ウェーハ。
図1
図2
図3
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図5
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