特許第6578095号(P6578095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6578095天ぷら用揚げ油及び該天ぷら用揚げ油の製造方法
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  • 特許6578095-天ぷら用揚げ油及び該天ぷら用揚げ油の製造方法 図000005
  • 特許6578095-天ぷら用揚げ油及び該天ぷら用揚げ油の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578095
(24)【登録日】2019年8月30日
(45)【発行日】2019年9月18日
(54)【発明の名称】天ぷら用揚げ油及び該天ぷら用揚げ油の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20190909BHJP
【FI】
   A23D9/00 506
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-228196(P2014-228196)
(22)【出願日】2014年11月10日
(65)【公開番号】特開2015-142553(P2015-142553A)
(43)【公開日】2015年8月6日
【審査請求日】2017年8月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-265331(P2013-265331)
(32)【優先日】2013年12月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】村野 賢博
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
(72)【発明者】
【氏名】江尻 麗子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆英
【審査官】 木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−218380(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031332(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/031333(WO,A1)
【文献】 特開2012−019700(JP,A)
【文献】 特開2014−014317(JP,A)
【文献】 特開平05−316951(JP,A)
【文献】 特開2007−267603(JP,A)
【文献】 特開2004−168995(JP,A)
【文献】 特開2002−322490(JP,A)
【文献】 特開2015−000042(JP,A)
【文献】 特開2000−290683(JP,A)
【文献】 製品一覧|リョートーシュガーエステル|三菱化学フーズ,Internet Archive: Wayback Machine[online],2012年12月27日,[retrieved on 2019.02.15], Retrieved from the Internet,URL,https://web.archive.org/web/20121227134640/http://www.mfc.co.jp/product/nyuuka/ryoto_syuga/list.html
【文献】 食品用乳化剤−基礎と応用−,1997年 4月 1日,pp. 35-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂に0.02〜0.08質量%の乳化剤を配合してなり、
前記油脂はパームオレイン油を除く液状植物油のみからなり、
前記乳化剤が、HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、
ことを特徴とする天ぷら用揚げ油。
【請求項2】
ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の50〜70質量%が飽和脂肪酸である、請求項1に記載の天ぷら用揚げ油。
【請求項3】
油脂の精製工程の後に、精製油脂に0.02〜0.08質量%の乳化剤を添加する工程を含み、
前記油脂はパームオレイン油を除く液状植物油のみからなり、
前記乳化剤が、HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、
ことを特徴とする天ぷら用揚げ油の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天ぷら用揚げ油及び該天ぷら用揚げ油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の消費者の健康志向に伴い、食品中の油脂量を低減させることが課題の一つとされている。例えば、特許文献1には、炒め調理に使用される油脂組成物であって、炒め調理における調理対象物の吸油量を抑えることのでき、かつ、風味良好な油脂組成物が開示されている。
【0003】
しかし、フライ、天ぷら、から揚げ等のフライ調理品は、炒め調理の調理対象物と比して、衣部分が油分を吸収しやすい性質を有するため、良好な風味を保持しつつ、さらに効率よく吸油量を低減することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−218380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、加熱調理後の天ぷらに残存する油分を効率よく低減することができ、かつ、風味良好な天ぷら用揚げ油及び該天ぷら用揚げ油の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる天ぷら用揚げ油は、下記のとおりである。
(1)油脂に0.02〜0.08質量%の乳化剤を配合してなり、前記油脂はパームオレイン油を除く液状植物油のみからなり、前記乳化剤が、HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、ことを特徴とする天ぷら用揚げ油。
(2)ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の50〜70質量%が飽和脂肪酸である、(1)に記載の天ぷら用揚げ油。
【0007】
また、本発明の天ぷら用揚げ油の製造方法は、下記のとおりである。
(3)油脂の精製工程の後に、精製油脂に0.02〜0.08質量%の乳化剤を添加する工程を含み、前記油脂はパームオレイン油を除く液状植物油のみからなり、前記乳化剤が、HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つである、ことを特徴とする天ぷら用揚げ油の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の天ぷら用揚げ油及び天ぷら用揚げ油の製造方法によれば、特定の乳化剤を使用することで、従来よりも少ない乳化剤配合量で高効率に天ぷらに残存する油分を低減させることができる。また、乳化剤配合量が少ないことから、製造コストが低く、かつ、天ぷらに対して、油脂本来の風味に近い良好な風味を付与することができる。
【0009】
このような利点から、本発明の天ぷら用揚げ油は、特に天ぷら、から揚げなどのフライ調理品用の揚げ油として好適に用いることができる。また、炒め調理にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】加熱調理用油脂組成物中の乳化剤添加量と、該油脂組成物で調理した天ぷら衣の油分量との関係を示すグラフである。
図2】加熱調理用油脂組成物中の乳化剤添加量と、該油脂組成物で調理した天ぷら衣の油分割合との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の天ぷら用揚げ油は、油脂に0.02〜0.08質量%の乳化剤を配合してなり、前記油脂はパームオレイン油を除く液状植物油からなり、前記乳化剤が、HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする天ぷら用揚げ油である。
【0012】
天ぷら等のフライ調理品に含まれる油分を低減させる方法としては、(1)薄衣に仕上げて油分を吸収しやすい衣の付着量を少なくする、(2)衣部分の吸油分を抑える、(3)食材の吸油分を抑える、(4)揚げ後の脱油を促す(揚げあがった後に油分をきる)等の方法が挙げられる。天ぷら等のフライ調理品の油分の多くは、揚げダネ(衣内部の食材)よりも衣部分に多く含まれるため、上記のうち、特に(2)衣部分の吸油分を抑えることが、調理品の油分低減に有効といえる。
【0013】
発明者らは、フライ調理品の衣部分に吸油されにくく、かつ、油ぎれのよい油脂組成物を製造すべく、鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得て、本発明を完成させるにいたった。
油脂組成物に乳化剤を添加することにより、調理対象物(調理品)の吸油量を低減できることは、特許文献1等により知られている。原理的には、添加する乳化剤の量を増量することで、吸油量低減効果を高めることができると想定されるものの、原料コストの増大、油本来の風味の低下等の問題により大量に添加することは困難である。発明者らは、油脂成分にある種の乳化剤を添加した場合に、その添加量が0.02〜0.08質量%のとき、フライ調理時の天ぷらの吸油量を極小値とすることができることを見出した。本発明は、この知見に基づき、少量の乳化剤の添加で、効率よく調理品の吸油を低減することが可能な天ぷら用揚げ油を実現させたものである。
【0014】
天ぷら用揚げ油
以下、本発明の天ぷら用揚げ油について、その含有成分ごとに詳説する。
1.油脂
本発明の天ぷら用揚げ油は、油脂を主成分として製造される。一般に加熱調理用として使用される油脂としては、動植物油脂及びその水素添加油、分別油、エステル交換油等が知られるが、本発明の天ぷら用揚げ油の油脂としては、パームオレインを除く液状植物油及びその水素添加油、分別油を使用し、動物性油脂、固形油脂、及びこれらに由来する油、並びに液状植物油のエステル交換油は使用しないものとする。本発明において「液状植物油」とは、植物油のうち、20℃で液状の植物油を指し、例えば、大豆油、なたね油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、コーン油、綿実油、米油などが挙げられる。動物性油脂、固形油脂と比して、このような液状植物油を使用することで、後述の乳化剤の混合が容易になる、という利点を有する。
【0015】
本発明の天ぷら用揚げ油には、液状植物油の中でもパームオレインを配合しない。また、液状植物油のエステル交換油も配合しないものとする。パームオレイン及びエステル交換油は、通常、その製造または使用時において、後述の乳化剤またはこれに類似する化合物が一定量以上混合されることが知られ、本発明に規定する配合量の範囲内で乳化剤を混合することが困難となるためである。
【0016】
本発明の天ぷら用揚げ油において、上記のパームオレインを除く液状植物油からなる油脂は、乳化剤及び必要に応じて添加される他の添加剤を除く残部を構成するのが好ましい。
【0017】
2.乳化剤
天ぷら等のフライ調理品の調理時における乳化剤の作用は、以下の通りである。例えば、天ぷらを調理する際には、食材及びバッター(天ぷら粉と水とを混合したもの)を高温の油中(160〜200℃)で加熱する。バッターが高温の油と接触すると、油との接触面において水分が急激に蒸発、消失すると同時に、小麦粉を主成分としたバッター中の固形分が焼き固められる。この現象を繰り返し、徐々にバッター中の水分除去が進行し、間隙を有する形状で小麦粉が焼き固められた網目構造の衣が形成される。乳化剤は、気−液または液−液の界面張力に影響を与えるものであり、ある種の乳化剤は、衣の形成時に「油と固体」、「油と水」もしくは「油と気体(水蒸気)」の界面張力を変化させることで、衣の性質(形状、成分、物理的性状)を変化させる。
【0018】
種々の乳化剤の中で、本発明の天ぷら用揚げ油に添加可能な乳化剤は、HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステル、及びHLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルである。これらの乳化剤成分は、単独で使用してもよく、また混合して使用してもよい。これらの乳化剤成分は、食品添加物として市販されるものを適宜使用することができる。HLB値が3.5以下のポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、「SYグリスターPO−3S」(坂本薬品工業株式会社製)を、HLB値が2.0以下のショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、「リョートーシュガーエステルPOS−135」(三菱化学フーズ株式会社製)をそれぞれ使用できる。
なお、HLBとは、親水性疎水性バランス(Hydrophile Lipophile Balance)の略であって、乳化剤が親水性か親油性かを知る指標となるもので、0〜20の値をとる。HLB値が小さい程、親油性が強いことを示す。本発明において、HLB値の算出はアトラス法の算出法を用いる。アトラス法の算出法は、
HLB=20×(1−S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
からHLBの値を算出する方法を言う。
【0019】
乳化剤の配合量は、本発明の天ぷら用揚げ油に対し、0.02〜0.08質量%、好適には0.03〜0.07質量%、より好適には0.04〜0.07質量%とする。後述する通り、本発明で使用される乳化剤は、0.02〜0.08質量%の配合量で天ぷら用揚げ油に添加することで、加熱調理された天ぷらの吸油量を極小値とすることができる、という特徴を有する。
【0020】
ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は3.5以下とする。より好ましくは、3.5〜1.0である。ショ糖脂肪酸エステルのHLB値が3.5を超えると、所望の効果を得ることが困難となる。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの重合度、エステル化度又は構成脂肪酸の種類によって、特に限定されない。また、グリセリンの重合度、エステル化度及び構成脂肪酸の種類のうちの1つ以上が異なるものの混合物であってもよい。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、これら脂肪酸の混合脂肪酸、あるいはパーム油、菜種油、サフラワー油、大豆油等由来の混合脂肪酸が挙げられる。中でも、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0021】
ショ糖脂肪酸エステルは、エステル化度又は構成脂肪酸の種類によって、特に限定されない。また、エステル化度及び構成脂肪酸の種類の一方又は双方が異なるものの混合物であってもよい。ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の50〜70質量%、特に50〜60質量%が飽和脂肪酸であることが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、特に限定しないが、例えば、オレイン酸、エルカ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、これら脂肪酸の混合脂肪酸、あるいはパーム油、菜種油、サフラワー油、大豆油等由来の混合脂肪酸が挙げられる。中でも、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸が好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は2.0以下、好ましくは1.5以下である。ショ糖脂肪酸エステルのHLB値が2.0を超えると、所望の効果を得ることが困難となる。
【0022】
3.その他の成分
天ぷら用揚げ油中には、本発明の効果を損ねない程度に、その他の成分を加えることができる。これらの成分とは、例えば、一般的な油脂に用いられる成分(食品添加物など)である。これらの成分としては、例えば、酸化防止剤、結晶調整剤、食感改良剤、乳化剤等が挙げられ、脱臭後から充填前に添加されることが好ましい。
【0023】
酸化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、アスコルビン酸類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキンおよびそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類等が挙げられる。着色成分としては、例えば、カロテン、アスタキサンチン等が挙げられる。その他の吸油量の低減効果に影響を及ぼさない乳化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレート、ジアシルグリセロール、ワックス類、ステロールエステル類、リン脂質等から適宜選択される。
【0024】
天ぷら用揚げ油の製造方法>
本発明に係る天ぷら用揚げ油に使用される油脂は、一般の液状植物油と同様、植物の種子若しくは果実から搾油された粗油を出発原料として用い、順に、必要に応じて、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程を経て、さらに必要に応じて脱ろう工程を介した後、脱臭工程を経た精製により製造することができる。上記脱ガム工程、脱酸工程、および脱ろう工程は、採油される前の油糧原料に応じて変動し得る粗油の品質に応じて適宜選択される。
【0025】
このような製造方法において、本発明の製造方法では、油脂に、上記範囲の量の乳化剤を添加する工程を含む。乳化剤は、精製工程後の油脂を加熱した後、添加、溶解することにより配合されることが好ましい。なお、該製造方法は、必要に応じて、他の添加剤を添加する工程も含んでいてもよい。他の添加剤の添加工程は、油脂の精製工程後であるのが望ましく、その添加時の油脂温度等の条件は、添加剤の種類、目的によって適宜変更されるのが望ましい。
【0026】
本発明の天ぷら用揚げ油の製造方法によれば、従来よりも少ない乳化剤配合量で高効率に天ぷらに残存する油分を低減させることが可能な天ぷら用揚げ油を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0028】
<試験1:天ぷら衣の油分量測定試験>
下記の方法により、揚げダネを有しないバッターのみのモデル試験系を用いて、各種乳化剤を添加した加熱調理用油脂組成物で天ぷらの衣を作製し、衣に残存する油分量を測定した。
【0029】
1.サンプル調製
精製なたね油「日清キャノーラ油」(日清オイリオグループ株式会社製)に表1に示す各種乳化剤No.1〜8を、0質量%(無添加)、0.05質量%、0.1質量%、0.25質量%となるようにそれぞれ混合し、各種加熱調理用油脂組成物(フライ用油脂)を調製した。乳化剤は、油脂800gを入れて180℃に加熱した後、油脂に各規定量の乳化剤を添加、溶解した。
天ぷら粉「昭和天ぷら粉」(昭和産業株式会社製)38gと氷水62gとを混合し、バッターを作製した。
バッターを鉄製のカップ状容器に3.5gずつ量りとり、鉄製の鍋で180℃に加熱した各フライ用油脂に容器ごと5個ずつ投入し、3分間加熱した。投入後、バッターはカップから剥離して浮上し衣となり、鉄製のカップ状容器は沈殿する。1.5分経過後に衣を裏返して、3分経過した調理済み衣を網の上に移動させて5分間静置して油分をきり、これを測定用サンプルとした。
衣は、各フライ用油脂について、10個ずつ作製した。
【0030】
2.油分測定
上記測定用サンプル(加熱調理後の衣)は、重量を測定した後、減圧下で乾燥させて水分を除去した。その際、乾燥前後の重量を測定することで、水分量を算出した。
乾燥後のサンプルをヘキサンに浸漬し、衣が含有する油分をヘキサン画分に溶出させた(油分抽出)。該ヘキサン画分を回収し、ヘキサンを除去した後、残存した油分を秤量した。サンプル10個の平均値を油分量とした。また、油分の重量を乾燥前のサンプル重量で除した値を油分割合とした。各フライ用油脂使用時のサンプルの油分量及び油分割合を表1中に示す。
さらに、No.1とNo.3のフライ油脂について、油脂中の乳化剤添加量とサンプルの油分量との関係を図1のグラフに、油脂中の乳化剤添加量とサンプルの油分割合との関係を図2のグラフに示す。
【0031】
【表1】
【0032】
※1 商品名「リョートーシュガーエステルPOS−135」三菱化学フーズ株式会社製(HLB値 1.0、脂肪酸構成(重量割合):パルミチン酸30%、オレイン酸41%、ステアリン酸23%、他6%)
※2 ペンタオレイン酸テトラグリセリン、商品名「SYグリスターPO−3S」坂本薬品工業株式会社製(HLB値 3.0)
※3 商品名「サンソフト661AS」太陽化学株式会社製(HLB値 7.5)
※4 商品名「サンソフトNo.750」太陽化学株式会社製(HLB値 5.3)
※5 商品名「エマゾールL−120V」花王株式会社製(HLB値 16.7)
※6 商品名「リョートーシュガーエステルL−195」三菱化学フーズ株式会社製(HLB値 1.0)
※7 商品名「SYグリスターOE−750」坂本薬品工業株式会社製(HLB値 3.7)
※8 商品名「エマルジーMO」理研ビタミン株式会社製(HLB値 4.3、脂肪酸構成(質量割合):パルミチン酸34%、オレイン酸16%、リノール酸45%、他5%)
【0033】
3.測定結果の解析
図1及び表1に示す通り、加熱調理用油脂組成物にNo.1の乳化剤、すなわち、ショ糖脂肪酸エステル(HLB値 1.0)を添加した場合、その添加量が0.05質量%付近のときに、得られるサンプル(天ぷら衣)の油分量、油分割合が明確な極小値を示すことが判明した。また、表1の結果より、No.2及び6の乳化剤についても、同様の傾向が見られることが分かる。一方、No.3の乳化剤、すなわち、乳酸ステアリン酸モノグリセリンを添加した場合は、測定範囲において、油分量の極小値は観測できなかった。No.4、5、7及び8の乳化剤についても、測定範囲において、明確な油分量、油分割合の極小値は見られなかった。
以上の結果より、No.1、2及び6の乳化剤、すなわち、ショ糖脂肪酸エステル(HLB値 1.0)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB値 3.0)、及びショ糖ラウリン酸エステル(HLB値 1.0)については、加熱調理用油脂組成物への添加量が0.05質量%程度のときに、天ぷら等のフライ調理品の吸油量を効果的に低減できることが判明した。
【0034】
<試験2:天ぷらでの効果実証実験>
試験1で使用した乳化剤No.1を0.05質量%添加した加熱調理用油脂組成物を調製し、これを使用して実際に天ぷらを調理して、調理品の油分低減効果を確認した。
【0035】
1.サンプル調製
精製なたね油「日清キャノーラ油」(日清オイリオグループ株式会社製)に表2に示す各種乳化剤No.1を、0.05質量%となるようにそれぞれ混合し、実施例1及び2の加熱調理用油脂組成物(フライ用油脂)を調製した。乳化剤は、油脂800gを入れて180℃に加熱した後、油脂に乳化剤を0.05質量%添加、溶解した。一方、乳化剤を添加しないキャノーラ油を比較例1とした。
サツマイモを厚さ5mm、直径3.4cmの円柱状にカットし、揚げダネとした。天ぷら粉「昭和天ぷら粉」(昭和産業株式会社製)38gと氷水62gとを混合し、バッターを作製した。サツマイモをバッター液に浸し、バッターを付着させた。
鍋で180℃に加熱した各フライ用油脂に、バッターを付着させたサツマイモを5個ずつ投入し、3分間加熱調理した。その際、加熱調理開始1.5分後に、フライ用油脂中のサツマイモを一度裏返した。3分間加熱調理した後のフライ調理品を網の上に移動させて静置して油分をきり、5分後に回収し、これを測定用サンプルとした。
フライ調理品サンプルは、各フライ用油脂について、10個ずつ作製した。
【0036】
2.油分測定
上記サンプル(フライ調理品)は、重量を測定した後、減圧下で乾燥させて水分を除去した。その際、乾燥前後の重量を測定することで、水分量を算出した。
乾燥後のサンプルを30mLのヘキサンに浸漬し、サンプルが含有する油分をヘキサン画分に溶出させた(油分抽出)。該ヘキサン画分を回収し、ヘキサンを除去した後、残存した油分を秤量した。サンプル10個の平均値を油分量とした。また、油分の重量を乾燥前のサンプル重量で除した値を油分割合とした。各フライ用油脂使用時のサンプルの油分量及び油分割合を表2中に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
※9 商品名「リョートーシュガーエステルPOS−135」三菱化学フーズ株式会社製(HLB値 1.0、脂肪酸構成(重量割合):パルミチン酸30%、オレイン酸41%、ステアリン酸23%、他6%)
【0039】
表2に示す通り、実施例1の加熱調理用油脂組成物において、乳化剤を添加しない比較例と比して、得られたフライ調理品の油分が明確に低減していることが確認された。
【0040】
<試験3:天ぷらでの効果実証試験>
試験1で使用した乳化剤No.1を0質量%(無添加)、0.04質量%、0.06質量%、0.08質量%添加した加熱調理用油脂組成物を調製し、これを使用して実際に天ぷらを調理して、調理品の油分低減効果を確認した。
【0041】
1.サンプル調製
精製なたね油「日清キャノーラ油」(日清オイリオグループ株式会社製)に乳化剤No.1(ショ糖脂肪酸エステル、商品名「リョートーシュガーエステルPOS−135」三菱化学フーズ株式会社製(HLB値 1.0、脂肪酸構成(質量割合):パルミチン酸30%、オレイン酸41%、ステアリン酸23%))を、0.04質量%、0.06質量%、0.08質量%となるようにそれぞれ混合し、実施例1〜5の加熱調理用油脂組成物(フライ用油脂)を調製した。乳化剤は、油脂800gを加熱した後、溶解した。一方、乳化剤を添加しないキャノーラ油を比較例2とした。
サツマイモを厚さ5mm、直径3.4cmの円柱状にカットし、揚げダネとした。天ぷら粉「昭和天ぷら粉」(昭和産業株式会社製)38gと氷水62gとを混合し、バッターを作製した。サツマイモをバッター液に浸し、バッターを付着させた。
鍋で180℃に加熱した各フライ用油脂に、バッターを付着させたサツマイモを5個ずつ投入し、3分間加熱調理した。その際、加熱調理開始1.5分後に、フライ用油脂中のサツマイモを一度裏返した。3分間加熱調理した後のフライ調理品を網の上に移動させて静置して油分をきり、5分後に回収し、これを測定用サンプルとした。
フライ調理品サンプルは、各フライ用油脂について、10個ずつ作製した。
【0042】
2.油分測定
上記サンプル(フライ調理品)は、重量を測定した後、減圧下で乾燥させて水分を除去した。その際、乾燥前後の重量を測定することで、水分量を算出した。
乾燥後のサンプルを30mLのヘキサンに浸漬し、サンプルが含有する油分をヘキサン画分に溶出させた(油分抽出)。該ヘキサン画分を回収し、ヘキサンを除去した後、残存した油分を秤量した。サンプル10個の平均値を油分量とした。また、油分の重量を乾燥前のサンプル重量で除した値を油分割合とした。各フライ用油脂使用時のサンプルの油分量及び油分割合を表3中に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示す通り、実施例2〜4の加熱調理用油脂組成物において、乳化剤を添加しない比較例と比して、得られたフライ調理品の油分が明確に低減していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の天ぷら用揚げ油は、食品製造の分野において、特にフライ調理品の製造に使用するフライ用油脂として利用することが可能である。また、その他の加熱調理用油脂組成物を要する全ての食品の製造においても利用可能である。
図1
図2