(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2において、前記シート材は発泡プラスチック製であり、上下方向の長さが50〜200cmであり、幅が5〜200cmであり、厚さが0.5〜5cmであることを特徴とする生物処理用担体。
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記シート材の上辺部を挟持した第1の板状体と、下辺部を挟持した第2の板状体とを有することを特徴とする生物処理用担体。
請求項5において、複数枚の前記生物処理用担体が、シート面同士の間に間隔をあけて配列された配列体を有した担体ユニットとして設置されていることを特徴とする生物処理槽。
請求項6において、配列体に沿って遮流板を設置する構成、及び前記配列体の遮流板を有しない面を槽体の内壁面に沿わせる構成の少なくとも一方の構成を備えたことを特徴とする生物処理槽。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シート状担体は、微生物付着の安定性は高いが、過剰付着しやすいので、下部から曝気して過剰付着を防止しつつ運転する必要がある。しかしこのとき曝気による水流によりシートが伸びきって破損する恐れがある。また、槽内全体の対流によってもシートが伸びきって破損する恐れがある。
【0006】
本発明は、微生物保持に有用な可撓性のシート状担体の強度を向上させることができ、曝気洗浄する場合でも破損せず安定して微生物を保持できる生物処理用担体と、この生物処理用担体を備えた生物処理槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生物処理用担体は、生物処理槽内に上下方向に配置される可撓性樹脂製のシート材を有する生物処理用担体であって、該シート材は、該生物処理槽内に配置された状態において上位となる上辺部と、下位となる下辺部と、該上辺部と下辺部とを結ぶ1対の側辺部とを有する生物処理用担体において、該シート材の該側辺部が補強材で補強されていることを特徴とするものである。
【0008】
補強材はシート材より引張強度が大きい素材、例えば布であり、前記シート材の側辺部に縫着されていることが好ましい。
【0009】
シート材は発泡プラスチック製であり、上下方向の長さが50〜200cmであり、幅が5〜200cmであり、厚さが0.5〜5cmであることが好ましい。
【0010】
本発明の生物処理槽は、槽体と、該槽体内に、前記シート材のシート面が略鉛直方向となるように配置された本発明の生物処理用担体とを有する。
【0011】
この生物処理槽では、複数枚の前記生物処理用担体が、シート面同士の間に間隔をあけて配列された配列体を有した担体ユニットとして設置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生物処理用担体は、シート材の側辺部が補強材で補強されているので、曝気による水流や槽内の水流によって大きな応力がシート材に生じても、シート材が破損することが防止される。また、シート材の過剰なたわみも防止される。
【0013】
このシート材を複数枚並列配置してユニット化したものを生物処理槽内に設けることにより、シート状担体を容易に最適な充填率となるように生物処理槽内に設けることができる。
【0014】
本発明の可撓性のシート状担体を発泡プラスチック製、望ましくは軟質ポリウレタンフォームにすると、水に入れたときに吸水して膨張するので適度な撓み性を持ち、また生物処理槽に流入する水の流れや曝気による上向流により適度に揺れる揺動性固定床が形成される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1,2を参照して実施の形態に係る生物処理用担体について説明する。
図1(a)はシート材1を示すものである。このシート材1は発泡プラスチックなどの多孔質シートにて構成されており、シート面が長方形状又は正方形状のものである。シート材の好ましい材料等については後述する。
【0017】
このシート材1は、生物処理槽内においてシート面が鉛直方向となるように設置される。生物処理槽内に鉛直に配置した姿勢とした状態において、シート材1は上辺部1a、下辺部1b及び一対の側辺部1c,1cを有する。(b)に示す生物処理用担体2は、このシート材1の各側辺部1cに補強材3を設けたものである。補強材3としてはシート材よりも引張強度の大きい素材、例えば布が好適であり、布としては耐水性に優れるポリエチレン系の織布、繊維を軟質塩化ビニルでコーティングした繊維による布、ゴアテックス(登録商標)などが好適であるが、これに限定されない。
【0018】
補強材3は、例えば
図1(c)のように側辺部1cの端面を回り込むようにコ字状に折り返されてもよく、
図1(d)のように2葉の補強材3をシート材1の表側及び裏側に配置されてもよい。この実施の形態では、補強材3は縫合糸4による縫合によってシート材1に固着されているが、接着剤など他の固着手段によってシート材1に固着されてもよい。縫合糸は生物分解に強いポリフェニレンサルファイドが好適であるが、これに限定されない。
【0019】
本発明では、
図2(a)の生物処理用担体2Aのように、この生物処理用担体2のシート材1の上辺部及び下辺部にも補強材5を設けるのが好ましい。補強材5の素材は補強材3と同じであっても構わないし、別の素材を用いても構わない。補強材5は、コ字状に折り返されてシート材1の表裏両面に配置され、縫合糸6によってシート材1に縫合されている。ただし、
図1(d)と同様に2葉の補強材5をシート材1の表裏に配置して縫合してもよい。また、縫合以外の固着手段を採用してもよい。
【0020】
本発明では、
図2(b),(c)の生物処理用担体2Bのように、上辺部及び下辺部に板状体7を取り付けるのが好ましい。2枚の板状体7,7で補強材5を挟み、ボルト・ナット等の連結手段8によって板状体7,7を連結する。これにより、水流の応力の負荷が上辺部又は下辺部に局部的にかかることを防止できる。
【0021】
板状体7は補強材5を短手方向に横断し、補強材5の両端側から側方に延出している。固着手段8は、この延出した部分に設けられている。
【0022】
図3の通り、補強材5の両端側からそれぞれ側方に延出した部分を上向きL字形断面形状のL字形支持部材11bに載置すると共に、スペーサ11c,11dを介在させる。担体2B間にはスペーサ11cを介在させて一定間隔とする。
図4(c)のようにL字形支持部材11bに対し下向きL字形断面形状のL字形支持部材11aを係合させ、L字形支持部材11a,11b同士をボルトで固定する。
【0023】
図4に担体ユニットの一例を示す。この担体ユニット10は、4本(2対)の支柱12と、支柱12,12間に跨がっている遮流板13とを有する。支柱12は、遮流板13の一対の側辺部に沿って鉛直上下方向に延在している。遮流板13はビス留め等によって支柱12に固着されているが、この固着はビス留めに限定されない。L字形支持部材11a,11bは遮流板13と垂直方向に延在する。L字形支持部材11bの両端は支柱12,12に溶接されている。
【0024】
なお、
図4の担体ユニット10では、遮流板13は生物処理用担体2Bの配列体を挟むように、生物処理用担体2Bと平行に2枚設けられているが、遮流板13は1枚のみ設けられてもよく、生物処理用担体2Bの配列体を四方から囲むように4枚設けられてもよく、三方から囲むように3枚設けられてもよい。また、遮流板3は全く設けられなくてもよい。
図4において、積層されたシート材のうち両端のシート材の外側のシート面を担体ユニットのシート面と称し、積層された各シート材の側辺部により形成される面を担体ユニットの側端面と称す。
【0025】
図5に、担体ユニットが槽体20内に設置された生物処理槽の一例を示す。
【0026】
図5(a)の生物処理槽21では、
図4に示す担体ユニット10が槽体20内に配置されている。
図5(b)の生物処理槽22では、1枚の遮流板13を有する担体ユニット10Bが設置されている。遮流板13が省略された面は、槽体20の内壁面に対面している。
図5(c)の生物処理槽23では、四方に遮流板13が設けられた担体ユニット10Cが設置されている。
図5(d)の生物処理槽24では、三方に遮流板13が設けられた担体ユニット10Dが設置されている。なお、担体ユニット10Dは、遮流板13が設けられていない面が槽体20の内壁面に対面するように設置されている。各担体ユニット10B,10C,10Dは遮流板13の枚数が異なる他は担体ユニット10と同一構造を有する。
【0027】
図5(e)の生物処理槽25では、2個の担体ユニット10,10が設置されている。担体ユニット10,10は、遮流板13を有しない面を対面させ、且つ互いの遮流板13が略面一状となるように配置されている。
図5(e)の左側の担体ユニット10の遮流板13を有しない面は槽体20の左側の内壁面に対面している。右側の担体ユニット10の遮流板13を有しない面は槽体20の右側の内壁面に対面している。
【0028】
なお、
図5において、各担体ユニットの下側に散気管等の曝気手段が設けられている。該曝気手段の曝気空気量は、0.05m
3/m
2/min以上、特に0.05〜5m
3/m
2/minであることが好ましい。担体ユニットを高さ方向に複数段積層する場合は、最下段の担体ユニットの下方に曝気手段を設ける。
【0029】
発泡プラスチック製シート材1としては、発泡セルの分布が均一なものが好ましい。また、発泡セル数及び発泡セルの孔径は、汚泥が付着し易く、剥れ易い、程度な値に制御することが好ましい。発泡セルが多すぎたり、セル径が大きすぎたりすると、シートの機械的強度が小さくなるため、セル数/25mm(25mmの長さの範囲に存在するセル数)として、125個/25mm以下、特に100個/25mm以下であることが好ましい。逆に、発泡セルが少な過ぎたり、セル径が小さすぎたりすると、多孔質担体としての機能を十分に得ることができないことから、多孔質担体の機能を十分に発揮させるために、このセル数/25mmは5個/25mm以上、特に25個/25mm以上であることが好ましい。また、このような発泡セル数を実現すると共に、汚泥の付着性と剥離性を良好なものとするために、発泡セルの平均孔径は0.05〜10mm、特に0.1〜5mm、とりわけ0.25〜1mmの範囲であることが好ましい。
【0030】
なお、このセル数/25mmについては、走査型電子顕微鏡により撮影したシートの写真を用い、長さ方向の直線25mmに対して交差する発泡セル数を計測する作業を複数箇所について行い、計測結果の平均値を算出して求めることができる。発泡セルの孔径についても同様に計測することができる。
【0031】
このような担体を構成する発泡プラスチックとしては特に制限はないが、吸水により膨張して水流や曝気による上向流で適度にたわんで揺動することから、軟質ポリウレタンフォームであることが好ましい。
【0032】
シート材1は、微小動物の産卵、生育(細菌も含む)に適した広い見掛け表面積(この「見掛け表面積」とは発泡プラスチックシートの多孔質の発泡セル内表面積を含まないシート状担体の表出外表面積をさす)であることが好ましく、従って、その寸法は、この揺動性担体を設ける生物処理槽の深さ方向(以下、この方向を「長手方向」と称す場合がある。)となる長辺の長さL
1が500〜200cmで、この長辺に直交する短手方向の短辺の長さL
2が5〜200cmで、厚みdが0.5〜5cmであることが好ましい。また、取り扱い性、生物処理槽への適用性の面から、L
2:L
1の長さ比は、L
2:L
1=1:1〜80程度であることが好ましい。また、L
1を50〜100cmとして2〜4段を高さ方向に重ねても良い。なお、L
1が過度に長い場合、曝気を行ったときにシート材1が持ち上がり破損するおそれがある。
【0033】
L
1,L
2は、担体の見掛け表面積に影響し、この見掛け表面積については、大きいほど保持する細菌・微小動物の生育数が多くなるため好ましい。ただし、短手方向の長さL
2については、上述の如く、5〜200cm、特に5〜100cmとすることが好ましい。なお、L
2に対して、生物処理槽の幅が大きい場合には、
図5(e)のように生物処理槽内に設ける担体ユニットの数を増やして短絡流を防止することが好ましい。
【0034】
厚みdが大きすぎると、例えば発泡プラスチック製の場合、担体内部の通水性が低下するため、内部で菌体が腐敗するという問題が生じやすくなる。そのため、シート材1の厚みdは、必要な強度を確保した上で薄くすることが好ましく、上記のように0.5〜5cmとすることが好ましい。
【0035】
また、担体が破損する原因として、曝気による水流や槽内全体の水流によるシート面への応力が挙げられる。これを防止するため、担体ユニットのシート面の近傍にシート材に略平行となるように遮流板13を設置し、応力による破損を防止する。なお、
図5(b),(d)に示すようにユニットを水槽壁面に近接して設置する場合、壁面側は遮流板13が不要となる。
【0036】
また、槽内全体の水流により、担体下方からの曝気空気が担体短手方向から逃げる場合がある。これを防止するため、
図5(c),(d)のように、担体ユニットのシート面だけでなく担体ユニットの側端面にもシート材1と垂直方向の遮流板13を設け、曝気空気の逃げを防止しても良い。
【0037】
この場合も
図5(d)のように、担体ユニットの側端面を水槽壁面付近に設置する場合、壁面側は遮流板13が不要となる。また、
図5(e)のように、担体ユニットを短手方向に複数並べて両壁面に近傍するように設置すると、遮流板13の設置は担体ユニットのシート面側のみで良いので、遮流板13の枚数を節約できる。
【0038】
上述のような本発明の生物処理用担体は、シート材の側辺部が補強材で補強されているので、曝気による水流や槽内全体の水流によって大きな応力がシート材に生じても、シート材が破損することが防止される。また、シート材の過剰なたわみも防止される。
【0039】
このシート材を複数枚並列配置してユニット化したものを生物処理槽内に設けることにより、シート状担体を最適な充填率や配置となるように生物処理槽内に設ける作業を容易にすることができる。
【0040】
本発明の可撓性のシート状担体を発泡プラスチック製、望ましくは軟質ポリウレタンフォームにすると、水に入れたときに吸水して膨張するので適度な撓み性を持ち、また生物処理槽に流入する水の流れや曝気による上向流により適度に揺れる揺動性固定床が形成される。そのため、可撓性シート状担体を用いた有機性排水の生物処理において、曝気や対流による破損を防止して安定的な処理が可能になる。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
軟質ポリウレタンフォームよりなるシート材1(長さL
1=100cm×幅L
2=40cm×厚みd=0.8cm/1枚;発泡セルの平均孔径0.1mm;セル数50個/25mm)5枚を底面積78cm×63cm、高さ180cm(脚部含む)のユニット(SUS製枠)に設置した。担体同士の間隔は2.5cmである。シート材1は、
図1,2に示すように補強し、
図2〜4のようにして遮流板13,13を有した担体ユニット10を構成した。補強材3の材質はポリエステル繊維を軟質塩化ビニルでコーティングした繊維による織布、折り返し後の幅は2.5cmである。
【0042】
この担体ユニット10を1000cm×1300cm×深さ4000cmの槽体内に
図5(a)のように設置した。そして、BOD容積負荷1kg/m
3/dとなるようにBOD1000mg/Lの食品排水を連続通水すると共に、ユニット底面積に対し0.5m/minとなるように底部から曝気したが、いずれのシート材1も1年以上破断せず、撓みすぎによる形状変化も見られなかった。
【0043】
[比較例1]
シート材1の両側辺部を補強しないこと以外は実施例1と同様の条件で1年間運転した。その結果、シート材1は破断はしなかったが、担体がたわみ、担体同士が接触し、一部の担体が嫌気化し、臭気が発生した。
【0044】
[比較例2]
遮流板13,13をユニットから外したこと以外は比較例1と同様の条件で運転した。その結果、運転開始3ヵ月後に3枚の担体が破断した。
【0045】
[比較例3]
担体長さL
1を250cmとしたこと以外は比較例1と同様の条件で運転した。その結果、運転開始1ヵ月後にすべての担体が破断した。