特許第6578698号(P6578698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578698
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】磁性微粒子の製造法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/36 20060101AFI20190912BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20190912BHJP
   B08B 3/08 20060101ALI20190912BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20190912BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20190912BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   H01F1/36
   B22F9/00 C
   B08B3/08 Z
   B08B3/12 Z
   H01F41/02 Z
   B22F1/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-64960(P2015-64960)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-184704(P2016-184704A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年2月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅士
【審査官】 木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−020409(JP,A)
【文献】 特開平09−017626(JP,A)
【文献】 特開平07−082302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/36
H01F 41/02
B08B 3/08
B08B 3/12
B22F 1/00
B22F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子上に磁性体を湿式方法にて導入することにより得られた粒子径が1から10μmの磁性微粒子を有機溶媒にて超音波をかけながら洗浄することを特徴とする、磁性微粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、有機溶媒が親水性有機溶媒である製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、有機溶媒がエタノールである製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性微粒子の製造方法に関し、特に微粒子上に磁性体を湿式方法にて導入した後に有機溶媒で洗浄することを特徴とする磁性微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微粒子を磁性化する際には、例えば高分子微粒子を多孔質にしてその孔に磁性体をイオン的もしくは物理的に吸着させる、もしくは高分子微粒子と磁性体を乾式回転方法によって物理的に高分子微粒子表面に磁性体をコーティングする方法が用いられていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、簡単な方法で表面が平滑な磁性微粒子を製造することができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の方法をとることで、上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)湿式方法にて得られた磁性微粒子を有機溶媒にて洗浄することを特徴とする、磁性微粒子の製造方法。
(2)(1)に記載の方法において、有機溶媒が親水性有機溶媒である製造方法。
(3)(1)又は(2)に記載の方法において、有機溶媒がエタノールである製造方法。
(4)(1)乃至(3)いずれかに記載の方法において、洗浄時に超音波をかける製造方法。
【0006】
以下に本発明を更に詳細に説明する。
【0007】
本発明の湿式方法にて得られた磁性微粒子とは、微粒子に磁性体を導入させて得られた磁性微粒子である。この際に、磁性体が均一に分散(コロイド状分散状態を含む)する溶媒を用いたものであり、水溶液、有機溶媒から適宜選択したものを用いればよい。
【0008】
本発明で用いられる微粒子とは、ガラス、金属、セラミツクス等の無機物であってもよく、また高分子ポリマー等の有機物であってもよい。またそれらの微粒子は磁性体を含むものであってもよい。微粒子の粒子径は0.1から50μmが好ましく、さらには1から10μmが好ましい。また微粒子は細孔を有しても有さなくてもよいが、細孔を有さない表面が平滑なものであっても本発明の方法は適用できる点に特徴がある。なお微粒子の表面とは、微粒子の外表面ばかりでなく、細孔を有する微粒子の場合は細孔内表面を含めてもよい。
【0009】
本発明の微粒子は金属酸化物で被覆されたものであってもよい。金属酸化物とは、FeO、Fe、Fe、CuO、CuO、AgO、AgO、Au、TiO、TiO、RuO、RuO等があげられ、特に酸化鉄が好ましい。
【0010】
また本発明の微粒子上にイオン性官能基があってもよい。イオン性官能基とは、アミノ基、イミノ基等のカチオン性官能基、スルホニル基、カルボキシル基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基等のアニオン性官能基があげられる。イオン性官能基は、微粒子が既にそのような官能基を表面に有している場合(例えばイオン性官能基を有する高分子ポリマー微粒子)は、それをそのまま利用すればよい。一方、そのような官能基を有していない微粒子の場合(例えばイオン性官能基を有さない高分子ポリマーやガラス、金属、セラミツクス等の微粒子)は、その微粒子表面に官能基を導入すればよい。その方法としては特に限定されるものではないが、例えば微粒子とイオン性化合物とを反応させ、微粒子表面上にイオン性官能基を導入すればよい。このとき用いられるイオン性化合物には特に限定はないが、例えばスルホン酸、カルボン酸などの酸性化合物もしくはアンモニウム塩、フェノール性水酸基塩、アルコール性水酸基塩などが好ましい。反応条件にも特に限定はなく、例えばイオン性化合物を含む溶液に高分子微粒子を分散・反応させることにより、イオン性官能基を導入すればよい。この際に水溶性の無機もしくは有機イオン性化合物を用いる場合には溶媒として水を用いることが好ましい。有機イオン性化合物が水および有機溶媒に溶解する場合には、どちらを用いても構わない。なお、イオン性官能基を導入したのちは、十分な洗浄を行い、過剰なイオン性化合物を除去することが好ましい。
【0011】
一方、本発明の磁性微粒子の製造に用いられる磁性体は、その組成に特に限定はなく、例えば、フェライト、マグネタイト、マグヘマイト等があげられる。その粒子径は1から100nmが好ましい。磁性体は細孔を有しても有さなくてもよい。磁性体の表面とは、微粒子の外表面ばかりでなく、細孔を有する磁性体の場合は細孔内表面を含めてもよい。磁性体表面には、イオン性官能基(アニオン性官能基、カチオン性官能基)、脂肪酸などがあってもよい。イオン性官能基(アニオン性官能基、カチオン性官能基)としては、前述と同様のものが例示される。
【0012】
本発明において、前述のような微粒子に磁性体が導入されるのは、磁性体表面にイオン性官能基がある場合には、そのイオン性官能基と微粒子を被覆している金属酸化物の電子の局在化又は電荷の偏りにより結合が生じると推測される。一方、磁性体表面にイオン性官能基がない場合や脂肪酸などがある場合は、物理的吸着により金属酸化物被覆微粒子と磁性体とが結合すると推測される。
【0013】
本発明の洗浄に用いる有機溶媒としては、エタノールやメタノールなどのアルコール類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ベンゼンやトルエンなどの芳香族炭化水素、ヘキサンやヘプタンなどの脂肪族炭化水素等があげられる。特にアルコール類、ケトン類、非プロトン性極性溶媒といった親水性有機溶媒が好ましく、その中でもアルコール類がより好ましい。
【0014】
洗浄方法としては特に限定されるものではないが、用いられる有機溶媒の沸点よりも低く、かつ磁性微粒子に悪影響を与えることのない温度で行えばよい。例えば、静置、分散、通液、加温、振動、撹拌および超音波照射などがあげられ、これらを二つ以上組み合わせてもよい。特に超音波照射は磁性微粒子表面が短時間で平滑になるので、好ましい方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、磁性微粒子表面の凹凸を簡便な方法で平滑化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例1で得られた磁性微粒子の電子顕微鏡写真である。
図2】実施例1で得られた磁性微粒子の電子顕微鏡写真である。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0018】
(比較例1)
ポリジビニルベンゼン微粒子5.0g(粒子径2.5μm、白色)、ポリビニルピロリドン1.2g、1N−塩酸水溶液6mLを純水160mLに回転数180rpmで分散させた。窒素雰囲気下、80℃に昇温した後に、尿素6g、塩化鉄(II)四水和物2g、塩化鉄(III)六水和物3gを添加し5時間反応させた。この微粒子分散液をろ過にて微粒子と反応液を分離した後に、再度微粒子を純水200mLに回転数180rpmで分散させた。窒素雰囲気下、80℃に昇温した後に、0.2N−水酸化ナトリウム水溶液を滴下し15時間反応させた。純水にて洗浄し、黄土色の酸化鉄被覆された微粒子5.75gを得た。
【0019】
得られた黄土色の酸化鉄被覆された微粒子1gを純水50mLに室温にて回転数100rpmで分散させた。この微粒子分散液に、表面にカチオン系分散剤を有する磁性体(材質:マグネタイト、粒子径:10nm、商品名:EMG607、フェローテック社製)1.0gを添加し、室温にて回転数100rpmで2時間反応させた。純水にて洗浄し、さらに50℃で15時間乾燥させることにより、褐色の磁性化された微粒子を1.93g得た。
【0020】
(実施例1)
比較例1にて得られた磁性化された微粒子0.5gをガラス容器に入れ99.5%エタノール50mLに分散させた後、超音波洗浄機(出力240W、周波数40kHz)に30分間投入した。99.5%エタノールにて洗浄し、さらに50℃で10時間乾燥させることにより、褐色の磁性化された微粒子を0.43g得た。
【0021】
(比較例2)
1,4−ジオキサン50mLに、ポリジビニルベンゼン微粒子1.0g(粒子径2.5μm、白色)を回転数100rpmにて分散させた。グリシジルメタクリレート1.35g、エチレングリコールジメタクリレート0.15g、V−65 0.03gを添加し、60℃に加熱し、この状態を維持したまま15時間反応させた。反応終了後、1,4−ジオキサンおよび純水にて洗浄した後に、純水50mLに回転数100rpmにて分散させた。この微粒子分散液に亜硫酸ナトリウム2.0gを添加し、60℃に加熱し、この状態を維持したまま15時間反応させた。反応終了後、純水にて洗浄し、表面がスルホン化された微粒子を得た。
【0022】
この微粒子1gを純水50mLに室温にて回転数100rpmで分散させた。この微粒子分散液に、表面にカチオン系分散剤を有する磁性体(材質:マグネタイト、粒子径:10nm、商品名:EMG607、フェローテック社製)0.5gを添加し、室温にて回転数100rpmで2時間反応させた。純水にて洗浄し、さらに50℃で15時間乾燥させることにより、褐色の磁性化された微粒子1.45gを得た。
【0023】
(実施例2)
比較例2にて得られた磁性化された微粒子0.5gをガラス容器に入れ99.5%エタノール50mLに分散させた後、超音波洗浄機(出力240W、周波数40kHz)に30分間投入した。99.5%エタノールにて洗浄し、さらに50℃で15時間乾燥させることにより、褐色の磁性化された微粒子を0.44g得た。
【0024】
(試験例1)
実施例1,2、比較例1,2にて得られた磁性化された微粒子をスラリー濃度0.05%の分散液とした。これら分散液2mLをプラスチック製セルに入れ、分光光度計にセットした。セル側面にネオジウム磁石を設置して吸光度の変化を測定し、初期吸光度の10分の1となるまでの時間を算出した。実施例1、比較例1、実施例2、比較例2にて得られた磁性微粒子の測定結果は、それぞれ80秒、80秒、125秒、125秒であった。実施例1と比較例1との比較、及び実施例2と比較例2との比較から、有機溶媒で洗浄しても磁気応答性は維持され、低下しないことが確認された。
【0025】
(試験例2)
実施例1および比較例1にて得られた磁性化された微粒子を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「TM−1000」Miniscope)にて5000倍の観測をした。比較例1にて得られた磁性微粒子は、表面上に突起物が見られるものが観測された(図1)。実施例1にて得られた磁性微粒子は突起物がほとんど無く、表面が平滑な球状物であるものが観測された(図2)。この結果から、有機溶媒で洗浄することにより、突起物が除去されて表面が平滑な磁性微粒子が得られることがわかる。しかも、突起物が除去されたということは、磁性体も除去され磁性体量が減少したわけだが、それにもかかわらず磁気応答性は維持され低下しないことが試験例1から明らかである。
図1
図2