(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578863
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】イオン化合物のイオン変換方法及びイオン変換装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/02 20060101AFI20190912BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20190912BHJP
G01N 27/62 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
G01N30/02 B
G01N30/72 C
G01N27/62 X
G01N30/02 E
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-194743(P2015-194743)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-67661(P2017-67661A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】多田 芳光
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−514525(JP,A)
【文献】
特許第4122228(JP,B2)
【文献】
特開平11−023465(JP,A)
【文献】
特開平06−194357(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/024518(WO,A1)
【文献】
特開2006−145382(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/108545(WO,A1)
【文献】
イオン液体とその対イオン、不純物のIC-MSによる測定,ダイオネクス アプリケーション レポート,2011年 2月,URL,http://tools.thermofisher.com/content/sfs/brochures/DG0150-JA.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを変換する方法であって、
イオン化合物AB(式中、Aはカチオン、Bはアニオン)を塩変換器により変換してDC(式中、CはOH−イオン、Dは金属−金属配位子錯イオンのうち陽イオンのもの、アルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオン)を得ることを特徴とするイオン変換方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンを変換する方法において、
イオン化合物ABをイオン交換媒体により変換して、ACとした後に塩変換器により変換してDCを得る方法。
【請求項3】
前記イオン交換媒体及び/または前記塩変換器がイオン交換カラムまたはイオン交換膜である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
イオンを検出器で検出する装置であって、
イオン化合物AB(式中、Aはカチオン、Bはアニオン)をDC(式中、CはOH−イオン、Dは金属−金属配位子錯イオンのうち陽イオンのもの、アルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン又はスルホニウムイオン)に変換する手段及び質量検出器を備えたことを特徴とするイオン検出装置。
【請求項5】
イオン化合物ABをDCに変換する手段が、
イオン化合物ABを変換して、ACとするイオン交換媒体及びACをDCに変換する塩変換器を含むことを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記イオン交換媒体及び/または前記塩変換器がイオン交換カラムまたはイオン交換膜である請求項4又は5に記載のイオン検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化合物のイオン変換方法およびイオン変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフィーはイオン成分を分析する方法として各種公定法に採用され、多くの場合、サプレッサー方式による電気伝導度検出法に基づく分析装置として広く利用されている。
【0003】
その分析装置は、電解質を含む溶離液及び分離媒体を使用したクロマトグラフィーによる分離工程、溶離液の電解質に由来した電気伝導度を抑制するサプレッション工程、分離、溶出したイオン成分を電気伝導度検出器により検出する検出工程により構成されている。
【0004】
有機酸などの弱酸性イオンの分析のための対策として、サプレッサーから溶出した液を第1電気伝導検出器へ導入して強酸性イオンを検出した後、弱酸性イオンを含む流出液からアルカリ金属イオンを対イオンとする陽イオン交換樹脂を含む塩変換器へ通じ、対イオンを水素イオンからアルカリ金属イオンへ変換してから第2の電気伝導度検出器へ導入し、弱酸性のイオン成分を高感度に検出する方法が開示されている(特許文献1および特許文献2)。
【0005】
サプレッサー方式による電気伝導度検出法では、通常、サプレッション工程において、対イオンの変換が行われる。例えば、陰イオン分析では、溶離液の電解質として使用される水酸化ナトリウムは水へ、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムは炭酸へ変換され、測定対象であるイオン化合物AXはHXへ変換される。その結果、溶離液の導電率は低下し、変換後生成したイオン化合物HXの導電率が増加することから、ノイズレベルの低下およびシグナル強度の増大という両面での変化により高感度なイオン成分の検出が可能となる。しかしながら、イオン化合物HXはその解離特性(pKa)に基づき、濃度により解離状態が変動することから、イオン種によっては検量線に曲がりが生じ、その定量精度に影響を与えることが知られている。特に弱酸性,弱塩基性のイオン成分においてはこの傾向が顕著に現れ、同時に検出感度の低下も引き起こす課題があった(非特許文献1)。
【0006】
サプレッサー法−電気伝導度検出法以外の検出法として、吸光光度検出法、電気化学検出法、蛍光検出法なども利用されている。これらの検出方法は、濃度変化による解離状態の影響を受けにくいため、検量線の直線性に優れ、定量精度も高い。しかしながら、検出原理に合致した特定のイオン種を選択的に検出する方法であり、一般的に利用されるには課題があった。
【0007】
一方、分析対象イオンに対し塩変換処理後、吸光度検出を行う方法が森らにより開示されている(特許文献3および4)。この方法では水を溶離液とするイオン排除クロマトグラフィーによりイオン成分を分離後、カラムからの流出液をUVの吸収を有するイオンを固定化したイオン交換樹脂へ導入し、分析対象イオンあるいはその対イオンをUVの吸収を有する塩へ変換後、吸光度検出を行っている。この方法は、分離可能なイオン化合物に対し、吸光度検出法を幅広く適用できる利点を有するが溶離液が水に限定されることから、水のみで分離できるカラムを用いたクロマトグラフィーへの適用に限定されており、一般的なイオン分析に利用されているイオン交換クロマトグラフィーへの適用には課題があった。
【0008】
近年では、定性能を有する高感度な検出方法として、質量分析計を用いた検出方法もHPLCに多く利用されているが、溶離液や試料中のマトリックスに起因した検出ノイズによる妨害のため、無機イオンの検出においては、適用できる分子量の制限を受け、ナトリウムイオンや塩化物イオンのような低分子量のイオン検出の検出には適していないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表平7−505960号公報
【特許文献2】特許第4122228号公報
【特許文献3】特許第3924618号公報
【特許文献4】特許第3924622号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】岡田ら, クロマトグラフィーによるイオン性化学種の分離分析、2002、pp.69−104、135−151
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、イオン化合物を構成するイオン成分を変換し、最終的に質量検出器にて検出可能なイオン種へ変換する方法及びその分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の[1]から[4]である。
[1]
イオンを変換する方法であって、
イオン化合物AB(式中、AとBの一方はカチオン、他方はアニオン)を塩変換器により変換してDC(式中、Dは質量検出器で検出可能なイオン)を得ることを特徴とするイオン変換方法。
[2]
[1]に記載のイオンを変換する方法において、
イオン化合物ABをイオン交換媒体により変換して、AC(式中、CはH+イオン又はOH−イオンを表す)とした後に塩変換器により変換してDCを得る方法。
[3]
前記イオン交換媒体及び/または前記塩変換器がイオン交換カラムまたはイオン交換膜である[1]または[2]に記載の方法。
[4]
イオンを検出器で検出する装置であって、
イオン化合物AB(式中、AとBの一方はカチオン、他方はアニオン)をDC(式中、Dは質量検出器で検出可能なイオン)に変換する手段及び質量検出器を備えたことを特徴とするイオン検出装置。
[5]
イオン化合物ABをDCに変換する手段が、
イオン化合物ABを変換して、AC(式中、CはH+イオン又はOH−イオンを表す)とするイオン交換媒体及びACをDCに変換する塩変換器を含むことを特徴とする[4]に記載の装置。
[6]
前記イオン交換媒体及び/または前記塩変換器がイオン交換カラムまたはイオン交換膜である[4]又は[5]に記載のイオン検出装置。
【0013】
本発明において、イオン化合物ABとは、特に限定されるものではないが塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、りん酸2水素カリウム等などを例示できる。
【0014】
本発明で用いられるイオン交換媒体とは、イオン化合物ABをACへ一次変換する工程の際に使用する。具体的には、陰イオン分析においては、強塩基陽イオン交換カラム、弱塩基性陰イオン交換カラム、陽イオン分析では、強酸性陽イオン交換カラム、弱酸性陽イオン交換カラムを例示することができる。またその他に、陰イオン交換基と陽イオン交換基を併せ持つ両性イオン交換カラム、逆相クロマトクロマトグラフィー用分離カラム、親水性相互作用クロマトグラフィー用分離カラムなどを例示することができる。
【0015】
また一次変換とは、後述する塩変換器により更にイオンを変化させる工程を区別するために本発明では定義している。また公知の方法によって前記一次変換前に他の変換工程を有することを妨げるものではない。
【0016】
本発明で用いられる塩変換器とは、質量検出可能なイオンDが固定化されておりイオン化合物ACをDCへ変換する際に使用する。ここで質量検出可能なイオンDはテトラブチルアンモニウムイオンやピリジウムイオン等の、イオンBと対になるイオンを例示することができるが、この限りではない。また、一次変換の後に例えばイオン化合物ACのうち、イオンAを他のイオンに変換し、前記他のイオンを最終的に質量検出可能なイオンDに変換する場合にも使用することもできる。
【0017】
本発明の方法によってイオン化合物ABからDCに変換されたイオンDは、質量検出器へ導かれ、イオンDの分子量に応じたm/zを設定することにより、イオンDを検出することができる。つまり、質量検出器で検出されたイオンDのピーク面積あるいはピーク高さから、間接的にイオンAの定量値が算出され、濃度の分析結果を得ることができる。
【0018】
以下本発明をイオンクロマトグラフィーシステムに適用した場合を例にして
図1に基づいて説明する。
【0019】
分析のため、オートサンプラ3より注入された試料中の各イオン成分は、溶離液1とともに分離媒体5へ導入され、前記各イオン成分はイオンクロマトグラフィー原理により分離される。
【0020】
本願発明において溶離液1は電解質を含む溶離液を分離媒体5へ通液することにより、分離媒体5へ導入された分析対象である各イオン成分は、前記分離媒体5との相互作用の違いにより、前記分離媒体5内での移動速度に差が生じることになる。その結果、前記各イオン成分は、分離媒体5によって分離され、前記イオン成分のうち、移動速度の早い順に分離媒体出口より流出する。その際、前記分離媒体5から流出する流出液には、溶離液1由来の電解質およびイオンA及びBが含まれる。
【0021】
ここで使用される分離媒体とは、具体的には、陰イオン分析においては、強塩基陽イオン交換カラム、弱塩基性陰イオン交換カラム、陽イオン分析では、強酸性陽イオン交換カラム、弱酸性陽イオン交換カラムを例示することができる。またその他に、陰イオン交換基と陽イオン交換基を併せ持つ両性イオン交換カラム、逆相クロマトクロマトグラフィー用分離カラム、親水性相互作用クロマトグラフィー用分離カラムなどを例示することができる。
【0022】
イオン交換媒体6はイオン化合物ABをACへ一次変換する工程の際に使用する。その際、イオン交換媒体6内で、イオン交換媒体6から流出する液体に存在する溶離液由来の電解質が、質量検出の妨害とならないようにすることができる。具体的には、溶離液の解離度が極めて小さく、前記溶離液と同一物質である水へ変換される。
【0023】
この「電解質を含む溶離液」の「電解質」の意味は、水へ変換可能な電解質を意味し、例えば溶離液の電解質に水酸化ナトリウムを使用した場合、陽イオン交換樹脂の水素イオンにより、H
+とNa
+がイオン交換してH
++OH
−=H
2Oで水に変換する事を意味する。また溶離液の電解質としてHClを使用する場合、陰イオン交換樹脂の水酸化物イオンにより、OH
−とCl
−がイオン交換してH
++OH
−=H
2Oで水に変換する事を意味する。
【0024】
塩変換器7では、イオンAを質量検出可能なイオン種へ変換する際に使用する。この塩変換器7は、質量検出可能なイオン種が固定されており、具体的にはイオンAがイオンDに変換される。つまり、本発明において塩変換器は、一次変換によって得られたイオン化合物ACが質量検出可能なイオンDによって変換され、質量検出可能なDCに変換することができる。また、最終的に質量検出可能なイオンに変換されれば何度塩変換器によってイオン化合物中のイオンが変換されてもよく、特に制限はない。塩変換器によって変換された後、塩変換器から流出したイオン種は、質量検出器8へ導かれ、イオン種の分子量に適応したm/zを設定することにより、検出される。検出されたイオン種のピーク高さあるいはピーク面積から、イオン種はイオンAとして定量値が算出され、イオン成分の濃度の分析結果を得ることができる。また、この様にイオンAを質量分析可能なイオン種に変換する前に、イオンBをイオンCに変換する際にも塩変換器を使用することができる。
【0025】
また、本発明を採用した分析装置は、使用する試料溶液中の異なる複数の分析対象イオンを同時に分析する方法に適用することが可能となる。具体的には実施例にて後述するが、例えば試料中のイオン成分ごとの前記分離媒体5との相互作用の違いにより、前記分離媒体5内で、試料中のイオン成分ごとの移動速度に差が生じさせる。次いで、試料中のイオン成分ごとに移動速度に差を生じさせたまま例えばNO3及びClを同時に一次変換し、塩変換器でイオンAを検出可能なイオンDへ変換することができる。その結果、各イオン成分を移動速度の差によって分離させたまま、検出器で各イオン成分を検出することができる。
【0026】
本発明において一次変換及び/又は塩変換器について何種類使用しても制限はない。例えばNaClをイオン化合物として用いた場合、一次変換によってNaOHに変換後、次いで塩変換器を3種類採用することによって塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウムに変換し、前記カリウムイオンを質量検出器等の検出器で検出可能なイオン種に変換することによって検出器で検出することができる。
【発明の効果】
【0027】
直接検出によっても各陽イオンの質量検出が可能であることを示唆した。
具体的には、ナトリウムイオンやカリウムイオンのような低分子量のイオン検出や、試料溶液中の異なる複数の分析対象イオンを同時に分析することが可能となった。
【0028】
従来使用されているサプレッサー法−電気伝導度検出に基づくイオンクロマトグラフィー法では、イオン成分の解離特性により、検出感度、定量精度に問題がみられるケースがあるが、本発明による質量検出法によれば、すべて同じイオン種として、そのm/zにより検出されることから、検出感度が向上し、高精度の定量分析結果が得られる効果が期待できる。
【0029】
このように水に変換可能な電解質を用いたイオンクロマトグラフィーによりイオンの分離・検出が可能なことから、イオン交換カラムをはじめとする各種の分離カラムを用いたイオンの分析に適用可能である。また、電解質濃度を自在に調整して分離を制御することにより、環境試料、化学品、食品、医薬品など幅広い実試料のイオン分析に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明を実施する装置の模式的な流れ図である。
【
図2】実施例1において得られたMSクロマトグラムを示す図である。
【
図3】実施例2において得られたMSクロマトグラムを示す図である。
【
図4】比較例1において得られたMSクロマトグラムを示す図である。
【
図5】比較例2において得られたMSクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に本発明の様態を実施するために単純化した装置構成を示す。
図1において1は溶離液を示す。溶離液に使用する電解質は、イオン交換媒体6へ通液することにより水へ変換可能なものを用いる。
【0032】
陰イオン分析であれば、水酸化物イオンを対イオンとするアルカリ水溶液を使用することが可能であり、具体的には、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化アンモニウム,水酸化リチウム,水酸化テトラアルキルアンモニウム等の電解質を例示することができる。陽イオン分析では、水へ変換可能な水素イオンを対イオンとする酸水溶液を使用することが可能であり、具体的には、塩酸、硝酸、硫酸、りん酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の電解質を例示することができる。溶離液1の電解質の濃度は、0.01mmol/L以上500mmol/L以下の濃度であることが好ましく、さらには、0.1mmol/L以上200mmol/L以下が好ましい。溶離液1は単一の組成のもの、あるいは2種類以上の濃度が異なる組成のものを段階的あるいは連続的に混合したものを使用することができる。また、溶離液1には、水溶性の有機溶媒を含有していてもよく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、アセトニトリルなどを例示することができる。
【0033】
溶離液1は送液ポンプ2により送液され、オートサンプラ3を経て、カラムオーブン4の中の分離媒体5へ導入される。分離媒体5には、電解質を利用するクロマトグラフィー用の分離カラムを使用することができる。具体的には、陰イオン分析においては、強塩基性陰イオン交換カラム,弱塩基性陰イオン交換カラム、陽イオン分析では、強酸性陽イオン交換カラム,弱酸性陽イオン交換カラムを例示することができ、その他に、陰イオン交換基と陽イオン交換基を併せ持つ両性イオン交換カラム、逆相クロマトグラフィー用分離カラム、親水性相互作用クロマトグラフィー用分離カラムなどを例示することができる。分析のため、オートサンプラ3より注入された試料は、溶離液1とともに分離媒体5へ導入される。導入された各イオン成分はイオンクロマトグラフィー原理より分離される。
【0034】
イオン交換媒体6は、溶離液由来のイオン成分が塩変換器を通過したとしても検出器で検出した際に影響を与えないようにするために使用する。従って、溶離液がH2O等の検出に影響を与えない溶離液を使用した場合にはこの限りではない。
【0035】
また、イオン交換樹脂を充てんしたカラムタイプのものあるいはイオン交換膜を使用した膜タイプのものを使用することができる。具体的には、陰イオン分析では、溶離液に含まれる陽イオンを水素イオンへ変換することができる水素イオン型の陽イオン交換樹脂を充填したカラムあるいは水素イオンを供給し、陽イオンを除くことが可能である陽イオン交換膜を有する膜型サプレッサーを例示することができる。陽イオン分析では、溶離液に含まれる陰イオンを水酸化物イオンへ変換することができる水酸化物イオン型の陰イオン交換樹脂を充填したカラムあるいは水酸化物イオンを供給し、陰イオンを除くことが可能である陽イオン交換膜を有する膜型サプレッサーを例示することができる。
【0036】
次に塩変換を行うための塩変換器7は、分離媒体5内で、試料中のイオン成分ごとの移動速度に差が生じさせたイオン成分を質量検出器等の検出器で検出可能なイオン種に変換することによって検出器で検出することができる。また塩変換器に使用する材としては、イオン交換樹脂を充てんしたカラムまたはイオン交換膜を使用することが可能である。具体的には、イオン交換樹脂であれば、質量検出器により検出可能なイオン種を対イオンとするものであり、ヨウ化物型陰イオン交換樹脂、臭素酸イオン型陰イオン交換樹脂、ヨウ素酸型陰イオン交換樹脂、脂肪族及び/または芳香族の官能基を有するスルホン酸イオン型陰イオン交換樹脂、金属−金属配位子錯イオン型陰イオン交換樹脂、アルキルアンモニウムイオン型陽イオン交換樹脂、ピリジニウムイオン型陽イオン交換樹脂、スルホニウムイオン型陽イオン交換樹脂、金属−金属配位子錯イオン型陽イオン交換樹脂などを例示することができる。
【0037】
使用方法として、イオン交換媒体6から流出したイオン成分を塩変換器内で直接イオン交換反応により、質量検出可能なイオン種への変換が困難な場合、塩変換器の前に、予備的な塩変換器を接続して使用することができる。予備的な塩変換器としてイオン交換媒体を含むイオン交換樹脂を充填したカラムまたはイオン交換膜を使用することができ、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、塩変換器を複数個使用することも可能である。
【0038】
また、溶離液中のイオン成分の変換を行なうイオン交換媒体6の機能とイオン成分を質量検出器等の検出器で検出可能なイオン種に変換する機能を兼ねた塩変換器を採用することも可能である。
【0039】
質量検出器8は、m/zは50〜1000の範囲で設定可能なものを使用することができる。
【0040】
この質量検出器8には、データ処理機9は具備されており、質量検出器8で検出された各m/zの強度のデータが処理されてクロマトグラムとして出力される。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を更に詳細に説明するために実施例を記載するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例では、塩変換処理を利用した分析例を示す。
【0042】
実施例1
図1のシステムにより、陽イオン分析を行った。1の溶離液には、2mmol/Lメタンスルホン酸を用い、流速0.2mL/minで送液した。2の送液ポンプには、DP−8020型ポンプ(東ソー(株)製)、3のオートサンプラには、AS−8020型オートサンプラ(東ソー(株)製)、4のカラムオーブンには、CO−8020C型カラムオーブン(東ソー(株)製)を使用した。
5の分離カラムにTSKgel SuperIC−Cation HSII(内径4.6mm,長さ5cm)を使用し、6のイオン交換媒体として、水酸化物イオンを対イオンとする強塩基性イオン交換樹脂(TSKgel Suppress IC−C,東ソー(株)製)を内径4.6mm,長さ5cmのカラムに充てんしたものを使用した。7の塩変換器には水酸化物イオンを対イオンとする強塩基性交換樹脂(TSKgel Suppress IC−C,東ソー(株)製)の対イオンを1−エチルピリジニウムイオンとし、内径4.6mm,長さ1cmのカラムに充填したものを使用した。
【0043】
8の質量検出器には高速液体クロマトグラフ質量分析計LCMS−8030((株)島津製作所製)を使用し、9のデータ処理機として、専用ワークステーションLabSolution LCMSを使用し、機器制御およびクロマトグラムに関するデータ収集・解析を実施した。
【0044】
測定温度は25℃とし、質量検出ではESIのポジティブモードにて、−4.5kVのインタフェース電圧、DL温度250℃、ヒートブロック温度400℃にてイオン化し、プリカーサイオンのm/zを108.15,プロダクトイオンのm/zを108.15に設定し、MRMモードにて検出を行った。
【0045】
試料として塩化ナトリウム、塩化カリウムの混合液(濃度はそれぞれナトリウムイオン、カリウムイオンとして各10mg/L)をオートサンプラより20μL注入して得られたMSクロマトグラムを
図2に示す。
【0046】
質量検出器においてナトリウムイオン,カリウムイオンに由来したピークが観測された。イオン交換媒体から溶出した直後は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウムとして存在して各イオンが、塩変換器により、それぞれ水酸化1−エチルピリジニウムへ変換され、分離された各陽イオンに由来した1−エチルピリジニウムイオンが質量検出器において検出されたことを示す。
実施例2
図1のシステムを用いて、塩変換器としてテトラブチルアンモニウムイオンを対イオンとするイオン交換樹脂(TSKgel Suppress IC−A,東ソー(株)製)を内径4.6mm,長さ1cmのカラムに充填したカラムを使用した。
【0047】
質量検出ではESIのポジティブモードにて、−4.5kVのインタフェース電圧、DL温度250℃、ヒートブロック温度400℃にてイオン化し、プリカーサイオンのm/zを242.45,プロダクトイオンのm/zを242.45に設定し、MRMモードにて検出を行った。
その他は実施例1記載の条件と同様にして陰イオン分析を行い、得られたMSクロマトグラムを
図3に示す。
【0048】
1つの塩変換器のみの使用においても、実施例3と同様に、分離された各陰イオンに由来したテトラブチルアンモニウムイオンが質量検出器において検出されたことを示す。
【0049】
比較例1
図1のシステムを用い、塩変換器を使用することなく、質量検出を行った。
質量検出ではESIのポジティブモードにて、4.5kVのインタフェース電圧、DL温度250℃、ヒートブロック温度400℃にてイオン化し、ナトリウムイオンの直接検出用としてプリカーサイオンのm/zを23.00,プロダクトイオンのm/zを23.00に設定し、カリウムイオンの直接検出用としてプリカーサイオンのm/zを39.10,プロダクトイオンのm/zを39.10に設定し、MRMモードにて検出を行った。試料として塩化ナトリウム、塩化カリウムの混合液(濃度はそれぞれナトリウムイオン、カリウムイオンとして各10mg/L)をオートサンプラより20μL注入した。
その他は実施例1記載の条件と同様にして陽イオンの分析を行い、得られたMSクロマトグラムを
図4および
図5に示す。
その結果、
図4ではナトリウムイオンが他のイオン成分に変換されることなく、ナトリウムイオンそのもののピークが質量検出によって直接検出された。実施例1と比較してノイズが大きく検出感度の低いクロマトグラムとなった。
また、
図5ではカリウムイオンも他のイオン成分に変換されることなくカリウムそのもののピークが質量検出によって検出された。ナトリウムイオンはカリウムイオン等と比較して質量数が小さいため、質量検出器で直接検出した場合、実施例1の結果と比較して検出感度が低い結果となった。つまり、ナトリウムイオン等の質量数が小さいイオンを検出したい場合には、質量数がより大きい他のイオン種に変換することで質量分析法においてより十分な感度が得られることが示された。
【符号の説明】
【0050】
1 溶離液
2 送液ポンプ
3 オートサンプラ
4 カラムオーブン
5 分離媒体
6 イオン交換媒体
7 塩変換器
8 質量検出器
9 データ処理機
10 ナトリウムイオン由来のピーク
11 カリウムイオン由来のピーク