特許第6579010号(P6579010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579010複合酸化物触媒および共役ジエンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579010
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】複合酸化物触媒および共役ジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/887 20060101AFI20190912BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20190912BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20190912BHJP
   C07C 5/48 20060101ALI20190912BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
   B01J23/887 Z
   B01J35/10 301G
   C07C11/167
   C07C5/48
   !C07B61/00 300
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-58927(P2016-58927)
(22)【出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2017-170336(P2017-170336A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2018年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
(72)【発明者】
【氏名】崔 永樹
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/051090(WO,A1)
【文献】 特表2015−527192(JP,A)
【文献】 特開2013−146655(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161702(WO,A1)
【文献】 特開2014−198334(JP,A)
【文献】 特開2017−149655(JP,A)
【文献】 特開2017−149654(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0238939(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0151292(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0126774(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07B31/00−61/00,63/00−63/04
C07C1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4以上のモノオレフィンを酸素含有ガスにより気相接触酸化脱水素反応させて対応する共役ジエンを製造する際に用いる複合酸化物触媒であって、
該複合酸化物触媒がモリブデンの酸化物、ビスマスの酸化物、コバルトの酸化物、ニッケルの酸化物、鉄の酸化物及びシリカを含下記組成式(1)で表される複合酸化物触媒であり、
比表面積が5m/g〜25m/gであり、細孔容積が0.20ml/g〜0.50ml/gであり、かつ、細孔径分布において細孔径が0.1μm〜1.0μmに存在する細孔により占められる細孔容積は全細孔容積のうちの50%〜68%、及び細孔径が0.1μm未満に存在する細孔により占められる細孔容積は全細孔容積のうちの27%〜50%である複合酸化物触媒。
MoBiCoNiFeSi (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.5〜7、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜5、f=0〜2、g=0〜3、h=1〜48の範囲にあり、またiは他の元素の酸化状態を満足させる数値である。)
【請求項2】
前記炭素数4以上のモノオレフィンがn−ブテンであり、前記共役ジエンがブタジエンである請求項1に記載の複合酸化物触媒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合金属酸化物触媒を使用して、炭素数4以上のモノオレフィンと酸素を含む原料混合ガスから接触気相酸化脱水素反応により共役ジエンを製造する共役ジエンの製造方法。
【請求項4】
前記炭素数4以上のモノオレフィンがn−ブテンであり、前記共役ジエンがブタジエンである請求項に記載の共役ジエンの製造方法。
【請求項5】
前記n−ブテンの空間速度が100h−1〜400h−1の範囲である請求項に記載の共役ジエンの製造方法。
【請求項6】
前記原料混合ガス中のn−ブテンの含有量が6体積%〜12体積%の範囲である、請求項又はに記載の共役ジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数4以上のモノオレフィンを酸素含有ガスにより気相接触酸化脱水素反応させて対応する共役ジエンを製造する際に用いる複合酸化物触媒と、この複合酸化物触媒を用いた共役ジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素数4以上のモノオレフィンを酸素含有ガスとの気相接触酸化脱水素反応により共役ジエンを製造するために用いる触媒については種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、モリブデン、鉄、ニッケル又はコバルトの少なくとも一つ、及びシリカを含む複合金属酸化物触媒の製造方法が開示され、当該触媒はブテンからブタジエンを製造する反応に用い得ることが記載されている。特許文献2には、モリブデン、ビスマスを主成分とする、ブタジエン製造用の複合金属酸化物触媒が開示されている。特許文献3には、マクロ孔の細孔容積が全体の細孔容積の80%以上を占め、モリブデンを必須成分とする、ブタジエン製造用の複合金属酸化物成型触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−220335号公報
【特許文献2】特開2011−178719号公報
【特許文献3】国際公開WO2013/161702号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来知られた複合酸化物触媒は、炭素数4以上のモノオレフィンの気相接触酸化脱水素反応で共役ジエンを製造するための工業触媒として必ずしも反応効率が十分ではなく、さらなる改良が望まれていた。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、本発明は炭素数4以上のモノオレフィンを原料として酸素含有ガスとの気相接触酸化脱水素反応により共役ジエンを製造する際に用いる複合酸化物触媒として、原料が触媒と接触する時間が短い条件下でも原料の転化率に優れ、且つ所望とする共役ジエンの選択率を高く維持し、収率の向上が可能となる複合酸化物触媒であり、また、長期間安定的に気相接触酸化脱水素反応を行える強度に優れた複合酸化物触媒と、この複合酸化物触媒を用いた共役ジエンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定元素の酸化物を含み、比表面積及び細孔容積が特定範囲内であり、細孔径が特定範囲にある細孔により占められる細孔容積が全細孔容積に対し特定範囲の複合酸化物触媒であれば、これを炭素数4以上のモノオレフィンの気相接触酸化脱水素反応に使用した場合、酸化反応時間が短い条件下でも原料の転化率に優れ、生成する共役ジエンの選択率を高く維持することができ、収率の向上が可能で、且つ、高転化率の反応条件下においても高選択率を維持し、高収率で共役ジエンの製造が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] 炭素数4以上のモノオレフィンを酸素含有ガスにより気相接触酸化脱水素反応させて対応する共役ジエンを製造する際に用いる複合酸化物触媒であって、
該複合酸化物触媒がモリブデンの酸化物、ビスマスの酸化物、コバルトの酸化物、ニッケルの酸化物、鉄の酸化物及びシリカを含み、比表面積が5m/g〜25m/gであり、細孔容積が0.20ml/g〜0.50ml/gであり、かつ、細孔径分布において細孔径が0.1μm〜1.0μmに存在する細孔により占められる細孔容積は全細孔容積のうちの50%〜68%、及び細孔径が0.1μm未満に存在する細孔により占められる細孔容積は全細孔容積のうちの27%〜50%である複合酸化物触媒。
【0010】
[2] 前記複合酸化物触媒が下記組成式(1)で表される[1]に記載の複合酸化物触媒。
MoBiCoNiFeSi (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.5〜7、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜5、f=0〜2、g=0〜3、h=1〜48の範囲にあり、またiは他の元素の酸化状態を満足させる数値である。)
【0011】
[3] 前記炭素数4以上のモノオレフィンがn−ブテンであり、前記共役ジエンがブタジエンである[1]又は[2]に記載の複合酸化物触媒。
【0012】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の複合金属酸化物触媒を使用して、炭素数4以上のモノオレフィンと酸素を含む原料混合ガスから接触気相酸化脱水素反応により共役ジエンを製造する共役ジエンの製造方法。
【0013】
[5] 前記炭素数4以上のモノオレフィンがn−ブテンであり、前記共役ジエンがブタジエンである[4]に記載の共役ジエンの製造方法。
【0014】
[6] 前記n−ブテンの空間速度が100h−1〜400h−1の範囲である[5]に記載の共役ジエンの製造方法。
【0015】
[7] 前記原料混合ガス中のn−ブテンの含有量が6体積%〜12体積%の範囲である、[5]又は[6]に記載の共役ジエンの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の複合酸化物触媒を用いて、炭素数4以上のモノオレフィンの気相接触酸化脱水素反応を行うと、モノオレフィンの転化率に優れ、高選択率で共役ジエンを製造することができる。更に、本発明の複合酸化物触媒は、機械的強度が大きく、粉化が少ないことより、反応器に該複合酸化物触媒を充填し、気相接触酸化脱水素反応を開始した当初より、長期間にわたり、安定して効率よく共役ジエンを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0018】
[複合酸化物触媒]
本発明の複合酸化物触媒はモリブデンの酸化物、ビスマスの酸化物、コバルトの酸化物、ニッケルの酸化物、鉄の酸化物及びシリカを含む。
【0019】
本発明の複合酸化物触媒は下記組成式(1)で表されることが好ましい。
MoBiCoNiFeSi (1)
(式中、Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。また、a〜jはそれぞれの元素の原子比を表し、a=12のとき、b=0.5〜7、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=0.05〜5、f=0〜2、g=0〜3、h=1〜48の範囲にあり、またiは他の元素の酸化状態を満足させる数値である。)
【0020】
上記組成式(1)の複合酸化物触媒とすることで、より高収率で共役ジエンを製造することができる。
【0021】
<比表面積>
本発明の複合酸化物触媒の比表面積は5m/g〜25m/gである。複合酸化物触媒の比表面積は好ましくは7m/g〜20m/gであり、より好ましくは8m/g〜18m/gである。上記範囲よりも比表面積が大きすぎると、触媒の活性成分に覆われていない担体部分が多くなり、目的生成物の選択率が低くなり、収率が低下する場合があり、比表面積が小さすぎると触媒の活性成分の分散性が低下し、目的生成物の収率が低下する可能性がある。なお、ここでいう比表面積は複合酸化物触媒単位重量あたりの表面積であり、窒素吸着によるBET法により測定される。
【0022】
<細孔容積>
本発明の複合酸化物触媒の細孔容積は0.20ml/g〜0.50ml/gである。複合酸化物触媒の細孔容積は好ましくは0.21ml/g〜0.44ml/gであり、更に好ましくは0.22ml/g〜0.39ml/gである。上記範囲よりも細孔容積が大きすぎると触媒の密度が小さくなり触媒を取扱う際に高い粉化率となる場合があり、細孔容積が小さすぎると原料の反応する場が少なくなり転化率が低下し、低収率となる可能性がある。なお、細孔容積は水銀圧入法によるポロシメーターで測定される。
【0023】
<細孔径分布>
本発明の複合酸化物触媒の細孔径分布において、細孔径(細孔の直径)が0.1μm〜1.0μmに存在する細孔により占められる細孔容積は全細孔容積のうちの50%〜68%であり、好ましくは51%〜67%であり、より好ましくは52%〜66%である。細孔径が0.1μm〜1.0μmに存在する細孔により占められる細孔容積の割合が小さすぎると触媒の活性が低下し、原料の転化率が上昇しない場合があり、触媒の活性を補てんするために気相接触酸化脱水素反応温度を上昇させると、目的生成物の収率が低下する可能性がある。該割合が大きすぎると触媒の強度が低下し、粉化率が上昇する可能性がある。
【0024】
本発明の複合酸化物触媒の細孔径分布において、細孔径(細孔の直径)が0.1μm未満に存在する細孔により占められる細孔容積は全細孔容積のうちの27%〜50%であり、好ましくは28%〜46%であり、より好ましくは29%〜42%である。細孔径が0.1μm未満に存在する細孔により占められる細孔容積の割合が小さすぎると触媒の強度が低下し、粉化率が上昇する場合があり、大きすぎると生成した目的生成物が更に反応しやすくなり、選択率が低下し、収率が低下する場合がある。
なお、細孔径分布は水銀圧入法によりポロシメーターで測定される。
以下において、全細孔容積に対する、細孔径が0.1μm〜1.0μmに存在する細孔により占められる細孔容積の割合を「0.1〜1.0μm細孔容積割合」と称し、同じく、細孔径が0.1μm未満に存在する細孔により占められる細孔容積の割合を「0.1μm未満細孔容積割合」と称す場合がある。
【0025】
<複合酸化物触媒の製造方法>
以下に本発明に好適な複合酸化物触媒の製造方法について説明する。
本発明の複合酸化物触媒の製造方法としては、該複合酸化物触媒を構成する各成分元素の供給源化合物を水系内で一体化して加熱する工程を経て製造する方法が好ましい。例えば、モリブデン化合物、シリカ、更に鉄化合物、ニッケル化合物及びコバルト化合物等を含む原料化合物水溶液、又は該原料化合物水溶液を更に乾燥して得た乾燥物を加熱処理して触媒前駆体を製造する前工程と、該触媒前駆体、モリブデン化合物及びビスマス化合物等を水性溶媒とともに一体化し、乾燥、焼成する後工程とを経て製造されたものが好ましい。
【0026】
(各成分元素の供給源化合物)
本発明の複合酸化物触媒の製造にあたり、モリブデン(Mo)の供給源化合物としては、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ここで、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸は、モリブデンの供給源化合物であると共に、組成式(1)におけるYであるリン(P)の供給源化合物でもある。即ち、複合酸化物触媒の製造に用いる各元素の供給源化合物とは、各元素のそれぞれについてのそれぞれの化合物のみを意味するのではなく、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸のような複数の元素を共に含む化合物を包含するものである。
【0027】
ビスマス(Bi)の供給源化合物としては、塩化ビスマス、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ビスマスの供給源化合物量は、前記組成式(1)において、a=12のとき、b=0.5〜7となるように添加することが好ましく、より好ましくはb=0.5〜4.4となるように添加する。bが前記範囲内であることにより原料の転化率に優れ、高選択率で目的生成物を製造することができる複合酸化物触媒とすることができる。
また、前記組成式(1)において、ビスマスの供給源化合物量とケイ素(Si)の供給源化合物の比(b/h比)は、0.01〜5とすることが好ましく、0.02〜3とすることがより好ましく、0.05〜1とすることが更に好ましい。b/h比が前記範囲内にあることにより、より高収率で目的生成物を製造することができる複合酸化物触媒とすることができる。
【0028】
コバルト(Co)の供給源化合物としては、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、炭酸コバルト、酢酸コバルト等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。コバルトの供給源化合物は、前記組成式(1)において、a=12のとき、c=0.1〜10となるように添加することが好ましく、より好ましくはc=0.5〜8、更に好ましくはc=1〜5となるように添加する。
【0029】
ニッケル(Ni)の供給源化合物としては、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、炭酸ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ニッケルの供給源化合物は、前記組成式(1)において、a=12のとき、d=0.1〜10なるように添加することが好ましく、より好ましくはd=0.5〜8、更に好ましくはd=1〜5となるように添加する。
【0030】
鉄(Fe)の供給源化合物としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、酢酸第二鉄等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。鉄の供給源化合物は、前記組成式(1)において、a=12のとき、e=0.05〜5となるように添加することが好ましく、より好ましくはe=0.1〜4、更に好ましくはe=0.3〜2となるように添加する。
【0031】
ケイ素(Si)の供給源化合物としては、シリカ、粒状シリカ、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。容易に触媒の比表面積、細孔容積、細孔容積の分布を制御できることから、熱分解シリカであるヒュームドシリカが好ましい。
【0032】
得られる複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布を制御するための好ましいケイ素の供給源化合物の物性については後述する。
【0033】
ケイ素の供給源化合物は、前記組成式(1)において、a=12のとき、h=1〜48となるように添加することが好ましく、より好ましくはh=5〜30、更に好ましくはh=10〜25となるように添加する。hが小さすぎると複合酸化物触媒の活性成分の分散性が低下する傾向にあり、hが大きすぎると複合酸化物触媒の活性成分の割合が少なくなり、十分な触媒性能が得られない可能性がある。
【0034】
Xはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びタリウム(Tl)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、ナトリウム(Na)、カリウム(K)及びセシウム(Cs)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、ナトリウム(Na)及び/又はカリウム(K)であることが更に好ましい。Xを含むことで、目的生成物の選択性が向上する。
【0035】
Xの供給源化合物は、前記組成式(1)において、a=12のときに、f=0〜2となるように添加することが好ましいが、より好ましくはf=0.1〜1.5、更に好ましくはf=0.2〜1.2となるように添加する。fが小さすぎると、目的生成物の選択率が低下する傾向にあり、fが大きすぎると触媒の活性が低下する可能性がある。
【0036】
Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であれば特に限定されないが、ホウ素(B)、リン(P)及び砒素(As)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、ホウ素(B)であることが更に好ましい。
【0037】
Yの供給源化合物は、前記組成式(1)において、a=12のときに、g=0〜3となるように添加することが好ましいが、より好ましくはg=0.1〜2.0、更に好ましくはg=0.2〜1.0となるように添加する。
【0038】
上記X,Yの供給源化合物としては、各々の元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アセチルアセテート、アルコキシド等が挙げられ、その具体例としては、下記のようなものが挙げられる。
【0039】
ナトリウム(Na)の供給源化合物としては、硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
カリウム(K)の供給源化合物としては、硝酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。
ルビジウム(Rb)の供給源化合物としては、硝酸ルビジウム、硫酸ルビジウム、塩化ルビジウム、炭酸ルビジウム、酢酸ルビジウム等が挙げられる。
セシウム(Cs)の供給源化合物としては、硝酸セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウム、炭酸セシウム、酢酸セシウム等が挙げられる。
タリウム(Tl)の供給源化合物としては、硝酸第一タリウム、塩化第一タリウム、炭酸タリウム、酢酸第一タリウム等が挙げられる。
また、X成分(Na,K,Rb,Cs,Tlの1種又は2種以上)は、これを固溶させた、ビスマス(Bi)とX成分との複合炭酸塩化合物として供給することもできる。
例えば、X成分としてナトリウム(Na)を用いる場合、炭酸ナトリウム又は重炭酸ナトリウムの水溶液等に、硝酸ビスマス等の水溶性ビスマス化合物の水溶液を滴下混合し、得られた沈殿を水洗、乾燥することによって製造されたBiとNaとの複合炭酸塩化合物として添加することもできる。
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
ホウ素(B)の供給源化合物としては、ホウ砂、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸等が挙げられる。
リン(P)の供給源化合物としては、リンモリブデン酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸、五酸化リン等が挙げられる。
砒素(As)の供給源化合物としては、ジアルセノ十八モリブデン酸アンモニウム、ジアルセノ十八タングステン酸アンモニウム等が挙げられる。
タングステン(W)の供給源化合物としては、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、タングステン酸、リンタングステン酸等が挙げられる。
これらはいずれも、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
(一体化及び加熱工程)
本発明の複合酸化物触媒は、各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化及び加熱を含む工程を経て製造されることが好ましい。各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化とは、各成分元素の供給源化合物の水溶液あるいは水分散液を一括に、あるいは段階的に混合又は熟成処理、混合及び熟成処理を行うことをいう。即ち、(イ)上記の各供給源化合物を一括して混合する方法、(ロ)上記の各供給源化合物を一括して混合し、そして熟成処理する方法、(ハ)上記の各供給源化合物を段階的に混合する方法、(ニ)上記の各供給源化合物を段階的に混合・熟成処理を繰り返す方法、及び(イ)〜(ニ)を組み合わせる方法のいずれもが、各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化という概念に含まれる。ここで、熟成とは、工業原料もしくは半製品を、一定時間、一定温度等の特定条件のもとに処理して、必要とする物理性、化学性の取得、上昇あるいは所定反応の進行等を図る操作をいい、本発明における一定時間とは、通常30分〜12時間の範囲であり、一定温度とは通常室温〜水溶液又は水分散液の沸点範囲をいう。
【0042】
また、上記加熱とは、上記各成分元素の供給源化合物それぞれの酸化物及び/又は複合酸化物の形成、並びに/あるいは一体化により生じた複合化合物の酸化物及び/又は複合酸化物の形成、並びに/あるいは生成最終複合酸化物の形成のための熱処理をいう。そして、加熱は必ずしも1回とは限られない。即ち、この加熱は上記(イ)〜(ニ)で示される一体化の各段階で任意で行うことができ、また一体化後に必要に応じて追加して行ってもよい。この加熱温度は、通常200℃〜600℃の範囲である。
【0043】
さらに、上記の一体化及び加熱においては、これら以外に、例えば、乾燥、粉砕等をその前後や途中に実施してもよい。
【0044】
また、上記のようにして複合酸化物触媒を製造する場合、ケイ素の供給源化合物として、熱分解シリカを用いることが好ましい。この好適なケイ素の供給源化合物については後述する。
また、ビスマスの供給源化合物として、(1)酸化ビスマスまたは次炭酸ビスマスのいずれか一方、(2)所要のNaの少なくとも一部を固溶した次炭酸ビスマス、(3)成分の少なくとも一部を含むBiとXとの複合炭酸塩化合物、あるいは(4)所要のNaおよびX成分のそれぞれ少なくとも一部を含むBiとNaとXとの複合炭酸塩化合物を組み合わせて用いることにより、容易に触媒比表面積、細孔容積、細孔径分布を制御した工業的に優れた触媒を製造できる。上記複合酸化物触媒を、各成分元素の供給源化合物の水性系での一体化及び加熱を含む工程を経て製造する場合、その一部としてモリブデン、鉄、ニッケル又はコバルトの少なくとも一つ、及びシリカを一部として含む原料塩水溶液を乾燥して得た乾燥物を加熱処理して触媒前駆体粉末を製造する前工程を経た後、触媒前駆体粉末とビスマス化合物とを水性溶媒とともに一体化し、乾燥、焼成する後工程を経て調製することが好ましい。
【0045】
上記の原料塩水溶液又はこれを乾燥して得た顆粒あるいはケーキ状のものは空気中で200℃〜400℃、好ましくは250℃〜350℃の温度域で短時間の熱処理を行う。その際の炉の形式及びその方法については特に限定はなく、例えば、通常の箱型加熱炉、トンネル型加熱炉等を用いて乾燥物を固定した状態で加熱してもよいし、また、ロータリーキルン等を用いて乾燥物を流動させながら加熱してもよい。
【0046】
得られたスラリーは充分に撹拌した後、乾燥する。このようにして得られた乾燥品を、押出成型、打錠成型、造粒成型あるいは担持成型等の方法により所望の形状に賦形する。
次に、得られた成型体を、好ましくは450℃〜650℃の温度条件にて30分〜10時間程度の最終熱処理に付すことで、本発明の複合酸化物触媒を得ることができる。
【0047】
(成型条件)
上記の各成型方法による成型時の条件等は、得られる複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布に影響を与えるため、目的とする比表面積、細孔容積、細孔径分布の複合酸化物触媒が得られるように適宜調整する。
【0048】
この観点から、成型方法が押出成型の場合、押出圧力は10kgf/cm〜25kgf/cmが好ましく、15kgf/cm〜20kgf/cmがより好ましい。該押出圧力範囲内で押出成型を行うことにより、適度な比表面積を有する複合酸化物触媒とすることが可能となり、更に、良好な細孔容積及び細孔径分布を有する複合酸化物触媒とすることができる。
【0049】
また、成型方法が打錠成型の場合、打錠成型の圧力は15kgf/cm〜35kgf/cmが好ましく、20kgf/cm〜25kgf/cmがより好ましい。該圧力範囲内で打錠成型を行うことにより、適度な比表面積を有する複合酸化物触媒とすることが可能となり、更に、良好な細孔容積及び細孔径分布を有する複合酸化物触媒とすることができる。
【0050】
前記成型の際、製造される複合酸化物触媒の強度を上昇させ、触媒の粉化率を低減する効果があるものとして一般に知られているガラス繊維などの無機繊維、各種ウィスカーなどを成型前の粉体等に添加してもよい。また、触媒物性を再現よく制御するために、硝酸アンモニウム、セルロース、デンプン、ポリビニルアルコール、ステアリン酸など一般に粉体結合剤として知られている添加物を使用することもできる。
【0051】
(粉化率)
複合酸化物触媒の強度が低いと触媒を取り扱う際、特に反応器に充填する際に触媒に粉化や割れが生じ、差圧(反応管入口と出口の圧力差)が大きくなる場合がある。差圧が大きくなると、n−ブテン等の原料と酸素含有ガスを含む原料混合ガスを複合酸化物触媒が充填された反応器に送風するコンプレッサー等に多大な負荷がかかる。
【0052】
また、気相接触酸化脱水素反応が進むにつれ、複合酸化物触媒の粉化が生じる場合には、時間と共に差圧が上昇することになり、コンプレッサーのフィード能力の限界を超え、原料混合ガスを反応管に送り込めなくなる場合がある。更には、粉化と共に、複合酸化物触媒の活性成分が剥離してしまう場合があり、必要とされる触媒性能が発現しなくなることもある。
【0053】
これらの理由で本発明の複合酸化物触媒の粉化率は2.0%以下であることが好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。
【0054】
触媒の粉化を抑制するためには、複合酸化物触媒の製造時にガラス繊維を添加したり、成型時の圧力を上げたりすることで対応可能であるが、このようにすることで、細孔容積に影響を与えて触媒性能が低下する可能性もあるので注意が必要である。なお粉化率とは、複合酸化物触媒を1mの高さより落下させたときの微粒が生じた割合を表し、具体的には後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0055】
(ケイ素の供給源化合物)
本発明の複合酸化物触媒の製造に当たり、前述の上記のケイ素の供給源化合物は、水等の媒体に添加して分散処理を施した分散液として用いることが好ましい。該分散液とすることにより、複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布を良好に制御することが可能となる。
【0056】
ケイ素の供給源化合物の分散液の調製方法は、例えば、ケイ素の供給源化合物を水等の媒体に添加・混合し、懸濁状態とした後に、媒体の流動、衝突、圧力差、超音波等の分散原理を利用し、ケイ素の供給源化合物を媒体中に微分散させて分散液とする方法が挙げられる。ケイ素の供給源化合物を媒体中に微分散させて分散液とする分散装置としては、例えばホモジナイザー、ホモミキサー、高剪断ブレンダー、ビーズミル、超音波分散装置が挙げられ、中でも、微分散させたケイ素の供給源化合物の粒径分布がシャープとなることより、ホモジナイザー、ホモミキサーが好ましく、ホモジナイザーがより好ましい。
【0057】
ケイ素の供給源化合物を使用するに当たり、適度な比表面積を有する供給源化合物を選択することが重要である。該供給源化合物の比表面積は通常60m/g〜300m/gであることが好ましく、60m/g〜250m/gであることがより好ましく、60m/g〜200m/gであることが更に好ましく、60m/g〜190m/gであることが特に好ましい。適度な比表面積の供給源化合物を選択することにより、得られる複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布を良好に制御することが可能となる。
ここで、ケイ素の供給源化合物の比表面積は窒素吸着によるBET1点法により触媒単位重量あたりの表面積を測定して求めた。具体的には、ケイ素の供給源化合物を250℃で15分間、窒素ガス送風状態で処理したサンプルを、測定装置:マックソーブHM Model−1201(株式会社マウンテック製)を用いて、BET1点法(吸着ガス:窒素)にて比表面積を測定した値である。
【0058】
また、ケイ素の供給源化合物の体積平均粒径は0.05μm〜3μmが好ましく、0.05μm〜1μmがより好ましく、0.05μm〜0.5μmがさらに好ましく、0.05μ〜0.3μmがその中でも好ましく、0.05μm〜0.25μmが特に好ましい。該体積平均粒径が上記範囲内であることにより、得られる複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布のなかでもとりわけ、細孔径分布を良好に制御することが可能となる。
【0059】
また、ケイ素の供給源化合物における1μm以上の粒径の粒子全体に対する割合(以下、この割合を「1μm以上の粒子割合」と称す場合がある。)は、5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、1重量%以下がさらに好ましく、0.8重量%以下が特に好ましい。1μm以上の粒子割合が上記上限以下であることにより、得られる複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔径分布のなかでもとりわけ、細孔径分布を良好に制御することが可能となる。
【0060】
なお、上記ケイ素の供給源化合物の体積平均粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法により測定することができ、体積基準50%径を体積平均粒径とする。ケイ素の供給源化合物を分散液で使用する場合は該分散液を測定サンプルとして、体積平均粒径を測定し、ケイ素の供給源化合物を固体で使用する場合はケイ素の供給源化合物を水に投入後、均一なケイ素の供給源化合物の濃度とした液をサンプルとして体積平均粒径を測定する。
【0061】
前記ケイ素の供給源化合物の分散液中のケイ素の供給源化合物濃度は1重量%〜50重量%が好ましく、10重量%〜30重量%がより好ましい。この濃度が1重量%より小さいと、水等の媒体量が多大となり、乾燥工程において経済的に不利となる場合がある。一方、50重量%より大きいと、分散液の流動性は極めて悪くなり他の触媒成分との混合操作が困難となる場合がある。
【0062】
触媒調製の際に、ケイ素源化合物の比表面積もしくはその使用量によって活性成分の高分散そして単位シリカ当たりの活性成分の含有量を増やすことによって高活性の触媒が得られる。さらに、上記比表面積をもつケイ素の供給源化合物を使用することにより、0.1〜1.0μm容積割合が増加し、目的とする生成物の選択性の低下を抑制することができ、高い転化率条件でも収率の向上を図ることができる。
【0063】
以上のようにして、高い転化率条件で、目的とする生成物を高い収率で与える本発明の複合酸化物触媒を製造することができる。
【0064】
[共役ジエンの製造方法]
上記のようにして製造された本発明の複合酸化物触媒は、炭素数4以上のモノオレフィンの気相接触酸化脱水素反応で共役ジエンを製造する反応、好ましくは、n−ブテンの気相接触酸化脱水素反応でブタジエンを製造する反応に使用される。
【0065】
n−ブテンからブタジエンを製造する気相接触酸化脱水素反応は、原料混合ガス組成として好ましくは6〜12体積%のn−ブテン、5〜18体積%の分子状酸素、0〜40体積%の水蒸気及び20〜80体積%の不活性ガス(例えば窒素、炭酸ガス等)からなる原料混合ガスを前記のようにして製造した複合酸化物触媒に300℃〜450℃の温度範囲及び常圧〜150kPaG(ゲージ圧)の圧力下で接触させることにより行うことができる。
具体的には、上記の原料混合ガスを本発明の複合酸化物触媒を充填した反応管に所定の反応条件で流通させて反応を行う。
【0066】
上記原料混合ガス中のn−ブテンのより好ましい含有量は6体積%〜10体積%の範囲であり、かつ、n−ブテンの空間速度は50h−1〜500h−1の範囲が好ましく、100h−1〜400h−1の範囲であることがより好ましい。空間速度が低い条件、すなわち、n−ブテンの負荷が低い条件では副生成物が多くなり、生成目的物の収率が低下する原因になる。また、空間速度が高い条件、すなわち、n−ブテンの負荷が高い条件では転化率が低くなり、原料であるn−ブテンの未反応量が多くなって生産量及びコスト面から好ましくない。原料混合ガス中のn−ブテンの含有量は、高いほど時間当たりの生産量が増加し工業的に有利となるが、n−ブテンの含有量が高すぎると触媒への炭素分(コーク)が蓄積しやすくなる傾向にあり、長期の安定運転や触媒寿命に影響を与えることがある。本発明の複合酸化物触媒は、原料混合ガス中のn−ブテンの含有量が前記範囲であっても、触媒への炭素分の蓄積を防ぎ長期にわたり安定的に酸化脱水素反応させることができる。
【0067】
なお、空間速度とは次式で示される値である。
空間速度SV(h−1)=反応器に供給するn−ブテンの体積流量(0℃、1気圧条件)/反応器に充填された複合金属酸化物触媒の体積(反応性の無い固形物は含まない)
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
(1)比表面積の測定
複合酸化物触媒の比表面積は、窒素吸着によるBET1点法により触媒単位重量あたりの表面積を測定して求めた。具体的には、複合酸化物触媒を250℃で15分間、窒素ガス送風状態で処理したサンプルを、測定装置:マックソーブHM Model−1201(株式会社マウンテック製)を用いて、BET1点法(吸着ガス:窒素)にて比表面積を測定した。
【0070】
(2)細孔容積の測定及び細孔容積の割合の算出
複合酸化物触媒の細孔容積は、ポロシメーター(水銀圧入法)により複合酸化物触媒単位重量あたりの細孔直径と細孔容積及びその分布を測定して求めた。具体的には複合酸化物触媒をオートポアIV 9520型(マイクロメトリックス社製)を用いて、減圧下(50μmHg以下)で10分間処理した後、水銀圧入退出曲線を測定し、細孔分布を求めた。
【0071】
(3)複合酸化物触媒の粉化率の測定
複合酸化物触媒を目開き2.36mmの篩により篩別し、篩上のものを粉化率測定サンプルとした。アクリル製の高さ1mの円筒(φ66mm)の上部に漏斗(円錐上部口径150mm、円錐下部口径25mm)を挿入し、円筒下部に受け皿を設置した。該粉化率測定サンプル約20gを精秤し、漏斗の円錐上部より投入し、該円筒を介して該受け皿に落下させた。落下した該粉化率測定サンプルを該受け皿より回収し、目開き2.36mmの篩により篩別した微粒の重量(粉化重量)を測定し、以下の式から触媒粉化率を算出した。
触媒粉化率(%)=(粉化重量/粉化率測定サンプル重量)×100
【0072】
(4)シリカの体積平均粒径、粒径分布、比表面積の測定
レーザー回折散乱式粒度分布測定器であるWet unit LMS−2000s(株式会社セイシン企業製)により、シリカの体積基準粒径分布を測定し、50%径をシリカの体積平均粒径とした。なお、測定は湿式法により行った。
また、比表面積は、窒素吸着によるBET1点法により触媒単位重量あたりの表面積を測定して求めた。具体的には、ケイ素の供給源化合物を250℃で15分間、窒素ガス送風状態で処理したサンプルを、測定装置:マックソーブHM Model−1201(株式会社マウンテック製)を用いて、BET1点法(吸着ガス:窒素)にて比表面積を測定した。
【0073】
[実施例1(1−1〜1−3)]
<複合酸化物触媒の調製>
容器に温水700mlを入れ、更にパラモリブデン酸アンモニウム110.2gを加えて溶解させ、溶液とした。次いで、該溶液にヒュームドシリカの水分散液448.9gを加えて、撹拌し、懸濁液とした(以下、「懸濁液A」と称する)。該ヒュームドシリカ水分散液は、ヒュームドシリカ5kg(比表面積92.6m/g)をイオン交換水22.5Lに加えてヒュームドシリカ懸濁液とした後に、該ヒュームドシリカ懸濁液を、ホモジナイザーであるULTRA−TURRAX T115KT(IKA社製)により、30分間分散処理を行い、均一なヒュームドシリカ水分散液としたものである。なお、ヒュームドシリカ水分散液中のシリカの体積平均粒径は0.247μmであり、1μm以上の粒子割合は0.75重量%であった。
【0074】
別の容器に純水120mlを入れ、更に硝酸第二鉄15.1g、硝酸コバルト65.7g及び硝酸ニッケル52.5gを加えて、加温して溶解させた(以下、「溶液B」と称する)。溶液Bを懸濁液Aに添加し、均一になるように攪拌し、加熱乾燥し、固形物を得た。次いで該固形物を空気雰囲気で300℃、1時間熱処理した(以下、「固形分M」と称する)。
【0075】
更に、別の容器に純水120ml、アンモニア水10mlを入れ、パラモリブデン酸アンモニウム16.1gを加えて溶解し、「溶液C」とした。次いで、溶液Cにホウ砂1.4g及び硝酸カリウム0.39gを加えて溶解し、「溶液D」とした。前記熱処理した固形物Mの126gを溶液Dに添加し、均一になるように混合した。次いでNaを0.53重量%固溶した次炭酸ビスマス14.6gを加えて30分間混合した後、水分を除去するため加熱乾燥し、乾燥品を得た。該乾燥品を粉砕し、得られた粉体を、高さ方向の圧縮強度が20kgf〜25kgfとなるように円柱状に打錠成型し、成型体(外径:5mm、高さ3mm)とした。なお、該圧縮強度は木屋式強度測定機により測定したものである。
該成型体を空気雰囲気下、515℃で2時間焼成して複合酸化物触媒を得た。
上記のように調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔容積割合、組成比は表1に示す通りである。また、この複合酸化物触媒の粉化率は表2に示す通りであった。
【0076】
<n−ブテンの気相接触酸化脱水素反応>
得られた複合酸化物触媒を粉砕し、目開き1mmの篩により粗粒を除き、目開き0.5mmの篩により微粒を除いたものをn−ブテンの気相接触酸化脱水素反応用の触媒として使用した。該触媒0.41gを内径6mmのパイレックス製反応管に入れ、電気ヒーターで反応器の温調を行い、表2に示す所定の反応温度に加温した。n−ブテン7体積%、スチーム10体積%、酸素10体積%、窒素73体積%の原料混合ガスを圧力50kPaGで反応管内に導入し、n−ブテンの気相接触酸化脱水素反応を実施した。この時、n−ブテンの空間速度は340h−1であった。反応結果は表2にまとめた。
【0077】
なお、n−ブテンの原料ガスとしては、重油留分を流動接触分解する際に得られる炭素数が4の炭化水素を多く含むガスとして、表3に示される成分組成のガス(FCC−C4)を使用し、反応においては原料ガスに含まれる1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテンの合計をn−ブテンとして表している。
【0078】
ここで、n−ブテン転化率、ブタジエン選択率、ブタジエン収率の定義は、下記の通りであり、反応管出口ガスのガスクロマトグラフィー分析より求めた。
・n−ブテン転化率(モル%)=(反応した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数/供給した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)×100
・ブタジエン選択率(モル%)=(生成したブタジエンのモル数/反応した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)×100
・ブタジエン収率(モル%)=(生成したブタジエンのモル数/供給した1−ブテン+シス−2−ブテン+トランス−2−ブテンのモル数)×100
【0079】
[比較例1(1−1〜1−3)]
ケイ素の供給源化合物として、比表面積が56m/gであるヒュームドシリカを使用した以外は、実施例1と同様にして、複合酸化物触媒を得た。なお、ヒュームドシリカ水分散液中のシリカの体積平均粒径は0.244μmであり、1μm以上の粒子割合は0%であった。得られた複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔容積の割合、組成比を表1に示し、粉化率を表2に示した。
また、該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でn−ブテンの気相触媒酸化脱水素反応を行った結果を表2に示した。
【0080】
[実施例2(2−1〜2−3)]
ヒュームドシリカ水分散液の使用量を変えてモリブテン12に対するシリカの原子比を16.8とした以外は、実施例1と同様にして複合酸化物触媒を得た。得られた複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔容積割合、組成比を表1に、粉化率を表2に示した。なお、用いたヒュームドシリカ水分散液中のシリカの体積平均粒径は0.247μmであり、1μm以上の粒子割合は0.75重量%であった。
また、該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でn−ブテンの気相触媒酸化脱水素反応を行った結果を表2に示した。
【0081】
[比較例2(2−1〜2−3)]
容器に温水710mlを入れ、更にパラモリブデン酸アンモニウム54.9gを加えて溶解させ、更に硝酸第二鉄8.2g、硝酸コバルト26.7g及び硝酸ニッケル40.0gを加えて、加温して溶解させ溶液とした(以下、「溶液a」と称する)。次いで、該溶液aを攪拌しながらヒュームドシリカ(比表面積92.6m/g)73.6gを加えて、懸濁液とした(以下、「懸濁液b」と称する)。懸濁液bを均一になるように攪拌し、加熱乾燥し、固形物を得た(以下、「固形物m」と称する)。次いで該固形物を空気雰囲気で300℃、1時間熱処理した。なお、ヒュームドシリカ粉末のシリカの体積平均粒径は33.939μmであり、1μm以上の粒子割合は96.94重量%であった。
【0082】
別の容器に純水120ml、アンモニア水10mlを入れ、パラモリブデン酸アンモニウム38.1gを加えて溶解し、次いで、ホウ砂1.28g及び硝酸カリウム0.33gを加えて溶解し、溶液とした(以下「溶液c」と称する)。前記熱処理した固形物mの84gを溶液cに添加し、均一になるように混合した。次いでNaを0.53重量%固溶した次炭酸ビスマス40.0gを加えて30分間混合した後、水分を除去するため加熱乾燥し、乾燥品を得た。該乾燥品を粉砕し、得られた粉体を、高さ方向の圧縮強度が20kgf〜25kgfとなるように円柱状に打錠成型し、成形品(外径:5mm、内径:2mm、高さ3mm)とした。なお、該圧縮強度は木屋式強度測定機により測定したものである。
該成形品を空気雰囲気下、515℃で2時間焼成して複合酸化物触媒を得た。
上記のように調製した複合酸化物触媒の比表面積、細孔容積、細孔容積割合、組成比を表1に、粉化率を表2に示した。
また、該複合酸化物触媒を用いて実施例1と同様の条件でn−ブテンの気相触媒酸化脱水素反応を行った結果を表2に示した。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
本発明の複合酸化物触媒は、実施例において示されているように、n−ブテンの気相接触酸化脱水素反応に用いた場合、n−ブテンの転化率に優れ、且つ所望とするブタジエンの選択率が高く維持され、収率の向上が可能となっている。加えて、粉化率が小さいことより、長期間、気相接触酸化脱水素反応を行っても、差圧の上昇等の不具合が起こらず安定的な運転が可能となることが分かる。