(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、二次電池電極用スラリー組成物を調製する際に用いることができる。そして、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、二次電池の電極を形成する際に用いることができる。さらに、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を用いたことを特徴とする。なお、本発明の二次電池用バインダー組成物は、多孔膜用スラリー組成物を調製する際にも用いることができる。
【0018】
(二次電池用バインダー組成物)
本発明の二次電池用バインダー組成物は、水系媒体を分散媒とした水系バインダー組成物であり、粒子状重合体と、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと、水とを含む。そして、本発明の二次電池用バインダー組成物は、粒子状重合体100質量部当たり、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを0.01質量部以上0.19質量部以下含むことを特徴とする。
【0019】
<粒子状重合体>
粒子状重合体は、本発明の二次電池用バインダー組成物と電極活物質とを含む二次電池電極用スラリー組成物を用いて集電体上に電極合材層を形成することにより作製した二次電池用電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、電極合材層における粒子状重合体は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも粒子状の形状を維持し、電極活物質同士または電極活物質と集電体とを結着させ、電極活物質が集電体から脱落するのを防ぐ。また、粒子状重合体は、電極合材層に含まれる電極活物質以外の粒子をも結着し、電極合材層の強度を維持する役割も果たしている。
【0020】
ここで、粒子状重合体としては、上述した性状を有し、かつ、分散媒としての水系媒体中において粒子状態で存在する重合体であれば、任意の重合体を使用することができる。粒子状重合体としては、特に限定されず、アクリル系重合体、共役ジエン系重合体を好適に用いることができる。
そして、粒子状重合体は、例えば、単量体と、重合開始剤などの添加剤と、重合溶媒とを含む単量体組成物を重合して得られる。そして、通常、粒子状重合体は、単量体組成物中に含まれていた単量体に由来する構造単位を当該単量体組成物中の各単量体の存在比率と同様の比率で含有している。
【0021】
[アクリル系重合体]
ここで、粒子状重合体として好ましいアクリル系重合体について説明する。アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の構造単位を含む重合体である。そしてアクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と、任意に、カルボキシル基含有単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、その他の単量体を含む単量体組成物を重合して得られる。
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
以下、アクリル系重合体の調製に用いられる(メタ)アクリル酸エステル単量体、カルボキシル基含有単量体、α,β−不飽和ニトリル単量体、およびその他の単量体について詳述する。
【0022】
−(メタ)アクリル酸エステル単量体−
アクリル系重合体の調製に用いる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、n−ブチルアクリレートおよび/またはt−ブチルアクリレートが好ましい。
そして、アクリル系重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体が占める割合が、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、99.5質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
−カルボキシル基含有単量体−
アクリル系重合体の調製に用いるカルボキシル基含有単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸(2−エチルアクリル酸)、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸などのカルボン酸単量体;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノ−n−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノ−n−ブチルなどのブテンジオン酸モノアルキルエステル単量体;などのエチレン性不飽和カルボン酸化合物が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、またはイタコン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
そして、アクリル系重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したカルボキシル基含有単量体が占める割合が、0.5質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
−α,β−不飽和ニトリル単量体−
アクリル系重合体の調製に用いるα,β−不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、アクリロニトリルが好ましい。
そして、アクリル系重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したα,β−不飽和ニトリル単量体が占める割合が、0.5質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0025】
−その他の単量体−
その他の単量体としては、上述した単量体と共重合可能な単量体が挙げられる。具体的には、任意の単量体としては、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有単量体;アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の硫酸エステル基含有単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;アリルグリシジルエーテル、アリル(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミドなどの架橋性単量体(架橋可能な単量体);スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有単量体;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
そして、アクリル系重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したその他の単量体が占める割合が、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0026】
アクリル系重合体の製造方法は特に限定はされず、上述した単量体を含む単量体組成物を、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などの方法で重合して得られる。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。なお、アクリル系重合体の調製に用いる単量体組成物に含まれる添加剤や重合溶媒は、特に限定されず、既知のものを使用することができる。
【0027】
[共役ジエン系重合体]
次に、粒子状重合体として好ましい共役ジエン系重合体について説明する。共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体由来の構造単位を含む重合体であり、それらの水素添加物も含まれる。
共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの脂肪族共役ジエン重合体;スチレン−ブタジエン系重合体(SBR)などの芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体;アクリロニトリル−ブタジエン系重合体(NBR)などのシアン化ビニル−共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。これらの中でも、本発明のバインダー組成物を用いて形成される電極合材層と集電体の密着性を向上させる観点からは、スチレン−ブタジエン系重合体(SBR)などの芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体が好ましい。そして例えば芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体は、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン単量体と、任意に、カルボキシル基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、その他の単量体を含む単量体組成物を重合して得られる。
以下、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いられる芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン単量体、カルボキシル基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、およびその他の単量体について詳述する。
【0028】
−芳香族ビニル単量体−
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる、芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、スチレンが好ましい。
そして、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述した芳香族ビニル単量体が占める割合が、40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
−脂肪族共役ジエン単量体−
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる、脂肪族共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。
そして、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述した脂肪族共役ジエン単量体が占める割合が、10質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
−カルボキシル基含有単量体−
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる、カルボキシル基含有単量体としては、アクリル系重合体と同様に上述したエチレン性不飽和カルボン酸化合物を用いることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、イタコン酸が好ましい。
そして、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したカルボキシル基含有単量体が占める割合が、0.5質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
−ヒドロキシル基含有単量体−
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる、ヒドロキシル基含有単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、2−ヒドロキシエチルアクリレートが好ましい。
そして、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したヒドロキシル基含有単量体が占める割合が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
−その他の単量体−
その他の単量体としては、上述した単量体と共重合可能な単量体が挙げられる。具体的には、その他の単量体としては、上述のアクリル系重合体において、その他の単量体として使用可能なものとして挙げたものから、芳香族ビニル単量体、脂肪族共役ジエン単量体、ヒドロキシル基含有単量体に該当するものを除いたもの、並びに、α,β−不飽和ニトリル単量体が使用可能である。これらその他の単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
そして、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体の調製に用いる単量体組成物が含む単量体は、上述したその他の単量体が占める割合が、0.5質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0033】
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体などの共役ジエン系重合体の製造方法は特に限定はされず、上述した単量体を含む単量体組成物を、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などの方法で重合して得られる。重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などの付加重合を用いることができる。なお、共役ジエン系重合体の調製に用いる単量体組成物に含まれる添加剤や重合溶媒は、特に限定されず、既知のものを使用することができる。
【0034】
<ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン>
本発明の二次電池用バインダー組成物は、粒子状重合体を含むバインダー組成物に対してポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを少量添加することで、このバインダー組成物を用いて二次電池用電極および二次電池を作製した際に、ピール強度に優れる二次電池用電極および優れた電気的特性を有する二次電池が得られるという新たな知見に基づいてなされたものである。
ここで、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンは、シリコン系化合物の一種であり、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化1】
上記(1)式中、R
1は水素原子、アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、またはエーテル基を示し、R
2は任意のポリエーテル基を示し、xおよびyはそれぞれ任意の正の整数を示す。
【0035】
なお、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの粘度は、0.1mPa・s以上であることが好ましく、1mPa・s以上であることがより好ましく、10mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以下であることがより好ましく、2.5mPa・s以下であることがさらに好ましい。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの粘度を上記範囲内とすれば、ピール強度および電気的特性をさらに向上させることができるからである。ここで、本明細書において、「ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの粘度」とは、濃度2.0質量%のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン水溶液の粘度を指す。
また、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの表面張力は、10mN/m以上であることが好ましく、15mN/m以上であることがより好ましく、20mN/m以上であることがさらに好ましく、40mN/m以下であることが好ましく、30mN/m以下であることがより好ましく、24mN/m以下であることがさらに好ましい。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの表面張力を上記範囲内とすれば、ピール強度および電気的特性をさらに向上させることができるからである。ここで、本明細書において、「ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの表面張力」とは、濃度10.0質量%のポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン水溶液の表面張力を指す。
【0036】
ここで、上述したようなポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの具体例としては、特に限定されることなく、BYK−1770、BYK−1785、BYK−1610(いずれもビックケミー・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0037】
そして、本発明のバインダー組成物において、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの配合量は、粒子状重合体100質量部当たり、0.01質量部以上であることが必要であり、0.02質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、また、0.19質量部以下であることが必要であり、0.1質量部以下であることが好ましく、0.08質量部以下であることがより好ましい。粒子状重合体100質量部当たりのポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの配合量を0.19質量部以下と少量にしなければ、電極のピール強度および二次電池の電気的特性を向上させることができない。一方で、粒子状重合体100質量部当たりのポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの配合量を0.01質量部以上としなければ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加による効果が十分に得られない。
【0038】
<カルボジイミド基を有する架橋剤>
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、カルボジイミド基を有する架橋剤をさらに含んでいてもよい。特に、粒子状重合体として共役ジエン重合体を用いたバインダー組成物にカルボジイミド基を有する架橋剤を添加した場合には、このバインダー組成物を用いて二次電池用電極および二次電池を作製した際に、ピール強度および電極水抜け性に優れる二次電池用電極および優れた電気的特性を有する二次電池が得られる。
【0039】
なお、カルボジイミド基を有する架橋剤は、上述の粒子状重合体と加熱などにより架橋構造を形成すると推察される。具体的には、カルボジイミド基を有する架橋剤は、上述した粒子状重合体が有するカルボキシル基や水酸基などの官能基と反応して架橋構造を形成すると推察される。そして、この架橋構造の形成により、粒子状重合体として共役ジエン重合体を用いたバインダー組成物では、電極のピール強度および電極水抜け性、並びに、二次電池の電気的特性が向上すると推察される。
【0040】
ここで、カルボジイミド基を有する架橋剤としては、分子中に一般式(2):−N=C=N−・・・(2)で表されるカルボジイミド基を有し、粒子状重合体間に架橋構造を形成し得る架橋性化合物であれば特に限定されない。そして、このようなカルボジイミド基を有する架橋剤としては、例えば、カルボジイミド基を2つ以上有する化合物、具体的には、一般式(3):−N=C=N−R
3・・・(3)(一般式(3)中、R
3は2価の有機基を示す。)で表される繰返し単位を有するポリカルボジイミドおよび/または変性ポリカルボジイミドが好適に挙げられる。なお、本明細書において変性ポリカルボジイミドとは、ポリカルボジイミドに対して、後述する反応性化合物を反応させることによって得られる樹脂をいう。
【0041】
なお、ポリカルボジイミドの合成法は特に限定されるものではないが、例えば、有機ポリイソシアネートを、イソシアネート基のカルボジイミド化反応を促進する触媒(以下「カルボジイミド化触媒」という。)の存在下で反応させることにより、ポリカルボジイミドを合成することができる。また、一般式(3)で表される繰り返し単位を有するポリカルボジイミドは、有機ポリイソシアネートを反応させて得たオリゴマー(カルボジイミドオリゴマー)と、当該オリゴマーと共重合可能な単量体とを共重合させることによっても合成することができる。
また、変性ポリカルボジイミドは、一般式(3)で表される繰返し単位を有するポリカルボジイミドの少なくとも1種に、反応性化合物の少なくとも1種を、適当な触媒の存在下あるいは不存在下で、適宜温度で反応(以下、「変性反応」という。)させることによって合成することができる。なお、反応性化合物としては、例えば特開2005−49370号公報に記載のものが挙げられる。中でも、トリメリット酸無水物、ニコチン酸が好ましい。
【0042】
そして、上述したようなカルボジイミド基を有する架橋剤は、水溶性であることが好ましい。なお、バインダー組成物が後述するような水溶性重合体を含む場合には、カルボジイミド基を有する架橋剤は、当該水溶性重合体間、および/または、水溶性重合体と粒子状重合体との間にも架橋構造を形成し得る。
このようなカルボジイミド基を有する架橋剤の具体例としては、特に限定されることなく、SV−02(日清紡ケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0043】
本発明のバインダー組成物において、カルボジイミド基を有する架橋剤の配合量は、粒子状重合体100質量部当たり、0.001質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、100質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることがさらに好ましい。カルボジイミド基を有する架橋剤の配合量が上記範囲内であれば、適度な密度で架橋構造を形成し、電極および二次電池の性能を十分に向上させることができる。
【0044】
<水溶性重合体>
ここで、本発明の二次電池用バインダー組成物は、水溶性重合体をさらに含むことが好ましい。そして、水溶性重合体としては、その分子構造中に水酸基とカルボキシル基との少なくとも一方を有し、かつ、水溶性の重合体として使用されうる化合物を用いることが好ましい。水溶性重合体を含んだバインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物は、貯蔵安定性に優れ、また、集電体上などに塗布される際の作業性が良好となる。
ここで本発明において重合体が「水溶性」であるとは、イオン交換水100質量部当たり水溶性重合体1質量部(固形分相当)を添加し攪拌して得られる混合物を、温度20℃以上70℃以下の範囲内で、かつ、pH3以上12以下(pH調整にはNaOH水溶液及び/またはHCl水溶液を使用)の範囲内である条件のうち少なくとも一条件に調整し、250メッシュのスクリーンを通過させた際に、スクリーンを通過せずにスクリーン上に残る残渣の固形分の質量が、添加した重合体の固形分に対して50質量%を超えないことをいう。なお、上記重合体と水との混合物が、静置した場合に二相に分離するエマルジョン状態であっても、上記定義を満たせば、その重合体は水溶性であるとする。
【0045】
水溶性重合体としては、特に限定されないが、例えばカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、これらの塩、などを用いることができる。そして、ポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アルギン酸などが挙げられる。これら水溶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、バインダー組成物を含むスラリー組成物の、集電体上などに塗布する際の作業性を更に向上させる観点からは、水溶性重合体としては、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、またはこれらの塩が好ましく、カルボキシメチルセルロースまたはその塩(以下「カルボキシメチルセルロース(塩)」と略記することがある)がさらに好ましい。水溶性重合体としてカルボキシメチルセルロース(塩)を用いることで、ピール強度および電極水抜け性に優れた電極が得られ、また、サイクル特性に優れた二次電池が得られる。
【0046】
本発明のバインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物において、水溶性重合体の配合量は、電極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましい。水溶性重合体の配合量を上記の範囲内とすることにより、スラリー組成物の高せん段時における粘度を適度な大きさとして、スラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。
【0047】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物は、上記成分の他に、導電助剤、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
<二次電池用バインダー組成物の調製>
本発明のバインダー組成物は、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と水系媒体とを混合することにより、バインダー組成物を調製することができる。
なお、粒子状重合体は、水系溶媒中で単量体組成物を重合して調製した場合には、水分散体の状態でそのまま混合することができる。また、粒子状重合体を水分散体の状態で混合する場合には、水分散体中の水を上記水系媒体として使用してもよい。
【0049】
(二次電池電極用スラリー組成物)
本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、粒子状重合体と、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと、水とを含む。そして、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを、粒子状重合体100質量部当たり、0.01質量部以上0.19質量部以下含むことを特徴とする。
ここで、本発明の二次電池電極用スラリー組成物に含まれる粒子状重合体、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、および水は、それぞれ上述した本発明の二次電池用バインダー組成物に含まれるものと同じ成分であり、それら各成分の好適な存在比は、バインダー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。従って、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、本発明の二次電池用バインダー組成物を用いて調整することもできる。
そして、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、本発明のバインダー組成物と同じ成分を同じ配合割合で使用しているので、このスラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、二次電池用バインダー組成物に関して説明したのと同様に、電極のピール強度を優れたものとすることができる。また、当該電極合材層を備える二次電池用電極を使用すれば、優れた電気的特性を有する二次電池が得られる。
【0050】
<電極活物質>
電極活物質は、二次電池の電極(正極、負極)において電子の受け渡しをする物質である。以下、リチウムイオン二次電池の電極において使用する電極活物質(正極活物質、負極活物質)を例に挙げて説明する。
【0051】
[正極活物質]
本発明のスラリー組成物に配合する正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。
具体的には、正極活物質としては、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
【0052】
ここで、遷移金属酸化物としては、例えばMnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、非晶質MoO
3、非晶質V
2O
5、非晶質V
6O
13等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeSなどが挙げられる。
リチウムと遷移金属との複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0053】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(Co Mn Ni)O
2)、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、LiMaO
2とLi
2MbO
3との固溶体などが挙げられる。なお、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物としては、Li[Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3]O
2、Li[Ni
1/3Co
1/3Mn
1/3]O
2などが挙げられる。また、LiMaO
2とLi
2MbO
3との固溶体としては、例えば、xLiMaO
2・(1−x)Li
2MbO
3などが挙げられる。ここで、xは0<x<1を満たす数を表し、Maは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、Mbは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。このような固溶体としては、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2などが挙げられる。
なお、本明細書において、「平均酸化状態」とは、前記「1種類以上の遷移金属」の平均の酸化状態を示し、遷移金属のモル量と原子価とから算出される。例えば、「1種類以上の遷移金属」が、50mol%のNi
2+と50mol%のMn
4+から構成される場合には、「1種類以上の遷移金属」の平均酸化状態は、(0.5)×(2+)+(0.5)×(4+)=3+となる。
【0054】
スピネル型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)や、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)のMnの一部を他の遷移金属で置換した化合物が挙げられる。具体例としては、LiNi
0.5Mn
1.5O
4などのLi
s[Mn
2−tMc
t]O
4が挙げられる。ここで、Mcは平均酸化状態が4+である1種類以上の遷移金属を表す。Mcの具体例としては、Ni、Co、Fe、Cu、Cr等が挙げられる。また、tは0<t<1を満たす数を表し、sは0≦s≦1を満たす数を表す。なお、正極活物質としては、Li
1+xMn
2−xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物なども用いることができる。
【0055】
オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としては、例えば、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)などのLi
yMdPO
4で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物が挙げられる。ここで、Mdは平均酸化状態が3+である1種類以上の遷移金属を表し、例えばMn、Fe、Co等が挙げられる。また、yは0≦y≦2を満たす数を表す。さらに、Li
yMdPO
4で表されるオリビン型リン酸リチウム化合物は、Mdが他の金属で一部置換されていてもよい。置換しうる金属としては、例えば、Cu、Mg、Zn、V、Ca、Sr、Ba、Ti、Al、Si、BおよびMoなどが挙げられる。
【0056】
[負極活物質]
また、負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0057】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0058】
炭素質材料は、炭素前駆体を2000℃以下で熱処理して炭素化させることによって得られる、黒鉛化度の低い(即ち、結晶性の低い)材料である。なお、炭素化させる際の熱処理温度の下限は特に限定されないが、例えば500℃以上とすることができる。
そして、炭素質材料としては、例えば、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0059】
黒鉛質材料は、易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られる、黒鉛に近い高い結晶性を有する材料である。なお、熱処理温度の上限は、特に限定されないが、例えば5000℃以下とすることができる。
そして、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0060】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0061】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO
x、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
ケイ素を含む合金としては、例えば、ケイ素と、アルミニウムと、鉄などの遷移金属とを含み、さらにスズおよびイットリウム等の希土類元素を含む合金組成物が挙げられる。
【0063】
SiO
xは、SiOおよびSiO
2の少なくとも一方と、Siとを含有する化合物であり、xは、通常、0.01以上2未満である。そして、SiO
xは、例えば、一酸化ケイ素(SiO)の不均化反応を利用して形成することができる。具体的には、SiO
xは、SiOを、任意にポリビニルアルコールなどのポリマーの存在下で熱処理し、ケイ素と二酸化ケイ素とを生成させることにより、調製することができる。なお、熱処理は、SiOと、任意にポリマーとを粉砕混合した後、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、900℃以上、好ましくは1000℃以上の温度で行うことができる。
【0064】
Si含有材料と導電性カーボンとの複合化物としては、例えば、SiOと、ポリビニルアルコールなどのポリマーと、任意に炭素材料との粉砕混合物を、例えば有機物ガスおよび/または蒸気を含む雰囲気下で熱処理してなる化合物を挙げることができる。また、SiOの粒子に対して、有機物ガスなどを用いた化学的蒸着法によって表面をコーティングする方法、SiOの粒子と黒鉛または人造黒鉛をメカノケミカル法によって複合粒子化(造粒化)する方法などの公知の方法でも得ることができる。
【0065】
<粒子状重合体>
本発明の二次電池電極用スラリー組成物に配合する粒子状重合体としては、本発明の二次電池用バインダー組成物に配合される粒子状重合体と同様のものを用いることができる。
【0066】
そして、本発明のスラリー組成物において、粒子状重合体の配合量は、電極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましく、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましく、2.5質量部以下であることがさらに好ましい。粒子状重合体の配合量を電極活物質100質量部当たり0.1質量部以上とすることにより、電極合材層を構成する成分同士および電極合材層と集電体とを良好に結着させることができるからである。また、粒子状重合体の配合量を電極活物質100質量部当たり10質量部以下とすることにより、本発明のスラリー組成物を用いて作製した二次電池用電極において粒子状重合体によりイオンの移動が阻害されるのを抑制し、二次電池の内部抵抗を小さくできるからである。
【0067】
<ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン>
本発明の二次電池電極用スラリー組成物に配合するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとしては、本発明の二次電池用バインダー組成物に配合されるポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと同様のものを用いることができる。
【0068】
そして、本発明のスラリー組成物においても、本発明のバインダー組成物と同様の理由により、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの配合量は、粒子状重合体100質量部当たり、0.01質量部以上0.19質量部以下とする必要があり、0.02質量部以上であることが好ましく、0.03質量部以上であることがより好ましく、また、0.1質量部以下であることが好ましく、0.08質量部以下であることがより好ましい。
【0069】
<カルボジイミド基を有する架橋剤>
ここで、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、カルボジイミド基を有する架橋剤をさらに含むことが好ましい。特に、粒子状重合体として共役ジエン重合体を用いたスラリー組成物にカルボジイミド基を有する架橋剤を添加した場合には、このスラリー組成物を用いて二次電池用電極および二次電池を作製した際に、ピール強度および電極水抜け性に優れる二次電池用電極および優れた電気的特性を有する二次電池が得られる。
【0070】
ここで、本発明の二次電池電極用スラリー組成物に配合するカルボジイミド基を有する架橋剤としては、本発明の二次電池用バインダー組成物に配合し得るカルボジイミド基を有する架橋剤と同様のものを用いることができる。
【0071】
そして、本発明のスラリー組成物においても、本発明のバインダー組成物と同様の理由により、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの配合量は、粒子状重合体100質量部当たり、0.001質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましく、100質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることがさらに好ましい。
【0072】
<水溶性重合体>
また、本発明の二次電池電極用スラリー組成物は、水溶性重合体をさらに含むことが好ましい。
【0073】
ここで、本発明の二次電池電極用スラリー組成物に配合する水溶性重合体としては、本発明の二次電池用バインダー組成物に配合し得る水溶性重合体と同様のものを用いることができる。
【0074】
そして、本発明のスラリー組成物は、電極活物質100質量部当たり、水溶性重合体を好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、特に好ましくは0.5質量部以上含有し、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下含有する。水溶性重合体の配合量を上記の範囲内とすることにより、スラリー組成物の高せん段時における粘度を適度な大きさとして、スラリー組成物を集電体上などに塗布する際の作業性を良好とすることができる。
【0075】
<その他の成分>
また、本発明のスラリー組成物は、上記成分の他に、導電助剤、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0076】
<二次電池電極用スラリー組成物の調製>
本発明のスラリー組成物は、上記各成分を分散媒としての水系媒体中に分散させることにより調製してもよいし、本発明のバインダー組成物を予め準備しておき、水系媒体の存在下で、バインダー組成物と、電極活物質と、任意に、カルボジイミド基を有する架橋剤、水溶性重合体およびその他の成分とを混合することにより調製してもよい。なお、カルボジイミド基を有する架橋剤、水溶性重合体およびその他の成分は、予めバインダー組成物中に含有させておくこともできる。そして、カルボジイミド基を有する架橋剤は比較的粘度の低いバインダー組成物の調製時に入れ、水溶性重合体およびその他の成分は比較的粘度の高いスラリー組成物の調製段階で入れることが、混合容易性の観点から好ましい。
【0077】
ここで、混合は、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて行うことができる。そして、混合は、通常、室温〜80℃の範囲で、10分〜数時間行うことができる。
【0078】
なお、水系媒体としては、通常は水を用いるが、任意の化合物の水溶液や、少量の有機媒体と水との混合溶液などを用いてもよい。なお、バインダー組成物を予め準備しておく場合には、水系媒体として使用される水には、バインダー組成物が含有していた水も含まれ得る。
【0079】
(二次電池用電極)
本発明の二次電池電極用スラリー組成物(負極用スラリー組成物および正極用スラリー組成物)は、二次電池用電極(負極および正極)の作製に用いることができる。
ここで、本発明の二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、上述した粒子状重合体と、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンと、水とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記二次電池電極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の二次電池用電極は、本発明の二次電池電極用スラリー組成物を使用しているので、電極のピール強度を優れたものとすることができる。また、本発明の二次電池用電極を使用すれば、優れた電気的特性を有する二次電池が得られる。
【0080】
<二次電池用電極の作製方法>
なお、本発明の二次電池用電極は、例えば、上述した二次電池電極用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布された二次電池電極用スラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て作製される。
【0081】
[塗布工程]
上記二次電池電極用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0082】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては、銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0083】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上の電極用スラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用電極を得ることができる。
【0084】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
さらに、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0085】
(二次電池)
本発明の二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを備え、正極および負極の少なくとも一方として、本発明の二次電池用電極を用いたものである。そして、本発明の二次電池は、本発明の二次電池用電極を備えているので、優れた電気的特性を有する。
なお、以下では、一例として二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0086】
<電極>
上述のように、本発明の二次電池用電極が、正極および負極の少なくとも一方として用いられる。即ち、リチウムイオン二次電池の正極が本発明の電極であり負極が他の既知の負極であってもよく、リチウムイオン二次電池の負極が本発明の電極であり正極が他の既知の正極であってもよく、そして、リチウムイオン二次電池の正極および負極の両方が本発明の電極であってもよい。
【0087】
<セパレータ>
セパレータとしては、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系の樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)からなる微多孔膜が好ましい。
【0088】
<電解液>
電解液としては、溶媒に電解質を溶解した電解液を用いることができる。
ここで、溶媒としては、電解質を溶解可能な有機溶媒を用いることができる。具体的には、溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のアルキルカーボネート系溶媒に、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、酢酸メチル、ジメトキシエタン、ジオキソラン、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル等の粘度調整溶媒を添加したものを用いることができる。
電解質としては、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらのリチウム塩の中でも、有機溶媒に溶解しやすく、高い解離度を示すという点より、電解質としてはLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましい。
【0089】
<二次電池の作製方法>
リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより作製することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電などの発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。リチウムイオン二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0090】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの粘度および表面張力、電極のピール強度および水抜け性、電極上へのリチウム析出量、並びに、二次電池の低温出力特性およびサイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0091】
<粘度>
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの粘度は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが固形分濃度2.0質量%となるようにイオン交換水を添加して調製し、25℃の環境下で、B型粘度計(東機産業株式会社製「RB−80L」)のローターNo.1を用いて60rpmで測定した。
【0092】
<表面張力>
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの表面張力は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが固形分濃度10.0質量%となるようにイオン交換水を添加して調製し、25℃の環境下で、自動表面張力計(共和界面科学株式会社製「DY−300」)を用い、白金プレート法により測定した。
【0093】
<ピール強度>
作製したリチウムイオン二次電池用負極を長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、負極合材層を有する面を下にして負極合材層表面にセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を貼り付け、集電体の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、以下の基準により評価した。ピール強度の値が大きいほど、負極合材層と集電体の密着性に優れることを示す。
A:ピール強度が20N/m以上
B:ピール強度が15N/m以上20N/m未満
C:ピール強度が10N/m以上15N/m未満
D:ピール強度が10N/m未満
【0094】
<電極水抜け性>
作製したリチウムイオン二次電池用負極から集電体部分を取り除いた電極合材層を、長さ70mm、幅40mmの長方形に切り出して試料とし、試料をカールフィッシャー法用のサンプル瓶に入れ、露点温度−60℃〜−50℃の環境下で12時間放置し、続いて60℃、真空の環境下で12時間放置した。その後、常圧に戻し、サンプル瓶の上部に蓋をし、200℃の環境下で、カールフィッシャー法により水分量を測定した。
【0095】
<リチウム析出量>
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、−15℃の環境下で、4.2V、1C、1時間の充電の操作を行った。その後、室温アルゴン環境下で、負極を取り出し、リチウム金属が析出している面積の負極全面積に対する割合(%)を測定し、以下の基準で評価した。リチウム金属が析出している面積が小さいほど、低温受け入れ特性に優れていることを示す。
A:面積割合が0%以上10%未満
B:面積割合が10%以上20%未満
C:面積割合が20%以上30%未満
D:面積割合が30%以上
【0096】
<低温出力特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、0.1C、5時間の充電の操作を行い、その時の電圧V´0を測定した。その後、−15℃環境下で、2Cの放電レートにて放電の操作を行い、放電開始20秒後の電圧V´1を測定した。低温特性は、ΔV´=V´0−V´1で示す電圧変化にて以下の基準で評価した。電圧変化の値が小さいほど、低温出力特性に優れることを示す。
A:ΔV´が0.8V未満
B:ΔV´が0.8V以上0.9V未満
C:ΔV´が0.9V以上1.0V未満
D:ΔV´が1.0V以上
【0097】
<サイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、0.1Cの充電、3.0V、0.1Cの放電にて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、45℃環境下で充放電の操作を繰り返し、100サイクル後の容量C2を測定した。高温サイクル特性は、ΔC=(C2/C0)×100(%)で示す容量維持率にて以下の基準で評価した。容量維持率の値が高いほど、サイクル特性に優れ、寿命特性に優れることを示す。
A:ΔCが90%以上
B:ΔCが80%以上90%未満
C:ΔCが70%以上80%未満
D:ΔCが70%未満
【0098】
(実施例1)
<粒子状重合体の調製>
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3−ブタジエン33.0部、カルボキシル基含有単量体としてのイタコン酸1.0部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン65.0部、ヒドロキシル基含有単量体としての2−ヒドロキシエチルアクリレート1.0部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部および重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、75℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し、反応を停止して、粒子状重合体(SBR)を含む混合物を得た。上記粒子状重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状重合体を含む水分散液を得た。
【0099】
<ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの用意>
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとして、ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK−1770」を用意した。そして、このポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの粘度および表面張力を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
<カルボジイミド基を有する架橋剤の用意>
カルボジイミド基を有する架橋剤として、日清紡ケミカル株式会社製「SV−02」を用意した。
【0101】
<水溶性重合体の用意>
水溶性重合体として、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(以下、「CMC−Na」と略記することがある)を負極活物質100部当たり1.0部配合した水溶液(日本製紙株式会社製「MAC−350HC」)を準備した。
【0102】
<二次電池用バインダー組成物の調製>
容器に上記粒子状重合体(SBR)を固形分相当で100部、ジオクチルコハク酸ナトリウム0.25部を混合し、その後、イオン交換水を混合した。さらに、この混合物に対し、上記カルボジイミド基を有する架橋剤5.0部及び上記ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン0.05部を添加し、固形分濃度30%の二次電池用バインダー組成物を得た。
【0103】
<負極用スラリー組成物の調製>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積5.5m
2/gの天然黒鉛(体積平均粒子径:15.6μm)100部、水溶性重合体としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(日本製紙株式会社製「MAC−350HC」)の2%水溶液を固形分相当で1.0部を投入し、イオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。上記混合液に、上記二次電池用バインダー組成物を固形分相当量で2.0部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度48%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
【0104】
<二次電池用負極の作製>
上記負極用スラリー組成物を、コンマコーター(登録商標)を用いて、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmのプレス後の負極を得た。
そして、得られた負極のピール強度および水抜け性を評価した。結果を表1に示す。
【0105】
<正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質として体積平均粒子径12μmのLiCoO
2を100部、導電材としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製「HS−100」)を2部、バインダーとしてPVDF(株式会社クレハ製、ポリフッ化ビニリデン、#7208)を固形分相当で2部と、N−メチルピロリドンとを混合し全固形分濃度が70%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
【0106】
<二次電池用正極の作製>
上記正極用スラリー組成物を、コンマコーターを用いて、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極を得た。
【0107】
<リチウムイオン二次電池の作製>
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード2500、セルガード社製)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。また、電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。上記二次電池用正極を、4.6cm×4.6cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように配置した。正極の正極合材層の面上に、上記正方形のセパレータを配置した。さらに、上記二次電池用負極を、5cm×5cmの正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/ビニレンカーボネート=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF
6)を空気が残らないように注入し、さらに、アルミ包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を作製した。
そして、得られたリチウムイオン二次電池について、リチウム析出量、低温出力特性およびサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例2)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加量を、粒子状重合体100部当たり0.03部とした以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例3)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加量を、粒子状重合体100部当たり0.08部とした以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例4)
カルボジイミド基を有する架橋剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0111】
(実施例5)
カルボジイミド基を有する架橋剤の添加量を、粒子状重合体100部当たり3.0部とした以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0112】
(実施例6)
カルボジイミド基を有する架橋剤の添加量を、粒子状重合体100部当たり7.0部とした以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
(実施例7)
水溶性重合体として、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(MAC−350HC)に替えて酸含有共重合体(シグマアルドリッチ社製、ポリアクリル酸(重量平均分子量=約125万。以下、PAAと略記することがある。))を負極活物質100部当たり1.0部配合した以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0114】
(実施例8)
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのブチルアクリレート96.0部、カルボキシル基含有単量体としてのメタクリル酸2.0部、(メタ)アクリロニトリル単量体としてのアクリロニトリル2.0部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.3部、イオン交換水150部、および重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.3部を入れ、十分に撹拌した後、70℃に加温して重合を開始した以外はSBRと同様にして重合した粒子状重合体(アクリル系重合体)を固形分相当で1.0部使用し、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとして、ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK−1785」を粒子状重合体100部当たり0.05部添加した以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0115】
(実施例9)
水溶性重合体として、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(MAC−350HC)に替えて酸含有共重合体(シグマアルドリッチ社製、ポリアクリル酸(重量平均分子量=約125万))を負極活物質100部当たり1.0部配合した以外は実施例8と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0116】
(実施例10)
カルボジイミド基を有する架橋剤を添加しなかった以外は実施例8と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0117】
(実施例11)
カルボジイミド基を有する架橋剤を添加しなかった以外は実施例9と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例12)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンとして、ビックケミー・ジャパン株式会社製「BYK−1610」を粒子状重合体100部当たり0.05部添加した以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0119】
(比較例1)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを添加しなかった以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0120】
(比較例2)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加量を、粒子状重合体100部当たり0.2部とした以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(比較例3)
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンおよびカルボジイミド基を有する架橋剤を添加しなかった以外は実施例1と同様にして二次電池用バインダー組成物、二次電池負極用スラリー組成物、二次電池正極用スラリー組成物、二次電池用負極、二次電池用正極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1より、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを所定量添加した実施例1〜12では、ピール強度および水抜け性に優れる電極が得られるとともに、低温出力特性、およびサイクル特性に優れ、かつ、負極のリチウム析出量を抑制することのできるリチウムイオン二次電池が得られることが分かる。
特に、表1の実施例1および4〜6より、粒子状重合体として共役ジエン系重合体を用いた場合には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンに加えてカルボジイミド基を有する架橋剤を所定量添加することにより、ピール強度および水抜け性により優れる電極が得られるとともに、低温出力特性、およびサイクル特性により優れ、かつ、負極のリチウム析出量をより抑制することのできるリチウムイオン二次電池が得られることが分かる。
一方、表1より、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの添加量が所定の範囲から外れた比較例2や、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを添加しない比較例1および3では、ピール強度または水抜け性に優れる電極が得られず、低温出力特性および、サイクル特性に優れ、かつ、負極のリチウム析出量を抑制することのできるようなリチウムイオン二次電池が得られないことが分かる。
さらに、表1の実施例8〜11より、粒子状重合体としてアクリル系重合体を用いた場合には、カルボジイミド基を有する架橋剤を添加しない方が、所定量添加する場合よりも、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られることが分かる。