(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備え、前記複数の流路に被処理水を通過させて前記被処理水内の異物を吸着除去する多孔質セラミックハニカム構造体からなる吸着部材であって、
前記流路は、被処理水流入側又は処理水流出側が交互に目封止されており、
前記隔壁は、
前記流路間を接続する連通孔を有し、
多孔質セラミックからなる基材と、
前記基材の表面及び連通孔内面の少なくとも一部に固定された金属酸化物の粒子とで構成されており、
前記金属酸化物の粒子が平均粒径0.1〜1μmのアルミナ粒子であり、
水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上であり、
水銀圧入法で測定した容積基準のメジアン細孔径(ただし、容積基準のメジアン細孔径は、前記隔壁の細孔径と累積細孔容積との関係を示す曲線において、全細孔容積の50%に相当する細孔容積での細孔径である。)が、表面積基準のメジアン細孔径(ただし、表面積基準のメジアン細孔径は、前記隔壁の細孔径と累積細孔表面積との関係を示す曲線において、全細孔表面積の50%に相当する細孔表面積での細孔径である。)の50〜1000倍
であることを特徴とする吸着部材。
多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備え、前記複数の流路に被処理水を通過させて前記被処理水内の異物を吸着除去する吸着部材を製造する方法であって、
セラミック原料を含む坏土を所定の成形体に押出成形し、前記成形体を乾燥及び焼成し、多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備えたセラミックハニカム構造体を形成する工程と、
前記セラミックハニカム構造体の流路端部に、交互に目封止部を形成する工程と、
前記セラミックハニカム構造体の前記隔壁に平均粒径0.1〜1μmのアルミナ粉末
をコーティングし、乾燥及び焼成する工程とを有し、
前記アルミナ粉末をコーティングし、乾燥及び焼成する工程により、前記隔壁を、前記流路間を接続する連通孔を有し、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上にすることを特徴とする吸着部材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
溶液中から不要な成分を除去し、より目的に適した溶液にする溶液処理システムが知られている。その中で、特に水を処理する水処理システムが多用されている。
【0003】
水処理システムでは、原水(被処理水)から被分離物質を除去する分離膜(逆浸透膜等)を用いているが、分離膜にファウリング(Fouling:目詰まり)が発生すると、被分離物質を原水から除去する分離性能が低下する。
【0004】
そこで、分離膜の交換寿命を延ばすために、分離膜の性能を劣化させる原因となる膜目詰まり物質(異物)を、分離膜の前段に設けた吸着部材にあらかじめ吸着させて原水から選択的に除去する方法が知られている。例えば、海水、河川、湖等の水を処理する場合、主な膜目詰まり物質としては溶存有機物が挙げられる。溶存有機物のうち、特に多糖類は粘性があり分離膜を目詰まりさせやすいため、あらかじめ除去することが求められている。
【0005】
特開2012-91151号は、外壁と、前記外壁の内側に設けられた複数の流路と、前記複数の流路を隔てる隔壁とを備え、前記隔壁は、隣り合う前記流路を連通する連通孔を有し、被処理水中の有機物を吸着する吸着構造体を開示しており、前記隔壁がアルミナ又はアルミナを含む複合酸化物からなる構成、及び前記隔壁の表面又は隔壁内の連通孔面にアルミナを含有する被膜を形成した構成を開示している。特開2012-91151号は、アルミナによって隔壁の一部を構成することにより、処理水中の溶存有機物を吸着・除去できると記載している。
【0006】
特開2016-198742号は、外壁と、前記外壁の内側に設けられた複数の流路と、前記複数の流路のそれぞれを互いに隔てる隔壁とを備え、前記隔壁は、隣り合う流路間を連通させる複数の連通孔を有しており、前記隔壁の少なくとも表面がアルミナで形成された多孔質セラミックハニカム構造体からなる吸着構造体を開示している。特開2016-198742号は、前記吸着構造体としては、コーディエライト等のセラミックからなる隔壁上にアルミナが形成されたものであっても、隔壁の全体がアルミナで形成されたものであってもよいと記載している。特開2016-198742号は、コーディエライト等のセラミック上にアルミナを形成する方法として、アルミナを含むスラリーを、コーディエライトからなるセラミック多孔体の内部に吸引して供給した後、乾燥して焼成する方法を記載している。
【0007】
しかしながら、特開2012-91151号及び特開2016-198742号に記載のコーディエライト等のセラミック上にアルミナが形成された吸着構造体は、アルミナを焼成によってコーディエライトにコーティングする際、アルミナ粒子とバインダの組成によっては微細な細孔が形成されにくい場合や、焼成により比表面積が著しく低下してしまう場合があるため、吸着剤としての機能が十分に働かないことがある。また隔壁の全体がアルミナからなる吸着構造体は、微細な細孔が形成されにくいため吸着能力を十分に高めることができない。
【0008】
国際公開第2015/199017号は、外壁と、前記外壁の内側に設けられた流路を備え、親水性物質と疎水性物質とが含有された被処理水を投入される吸着部材であって、前記流路は、前記親水性物質を吸着する部材と前記疎水性物質を吸着する部材とを有する吸着部を有しており、前記親水性物質を吸着する部材又は前記疎水性物質を吸着する部材が粒子状に形成されている吸着部材を開示しており、(a)親水性微粒子と、疎水性微粒子とを、アクリル系ポリマー、メチルセルロース等のバインダを用いて、前記隔壁の表面及び連通孔の内面に固定する方法、(b)疎水性微粒子を、アルミナゾル、シリカゾル等の無機ゾル系の親水性バインダを用いて、前記隔壁の表面及び連通孔の内面に固定する方法、及び(c) 親水性微粒子を、芳香族カルボン酸と芳香族アミンとの混合溶液等の疎水性バインダを用いて、前記隔壁の表面及び連通孔の内面に固定する方法を記載している。
【0009】
しかしながら、国際公開第2015/199017号は、このようにして得られた吸着部材は、親水性及び疎水性微粒子の表面にバインダが被覆していることにより、前記微粒子の吸着能力が十分に発揮されないため、あらかじめ表面を覆っているバインダを除去することが望ましいと記載しており、使用に際し余分な作業が必要になる。それに加えて、バインダを除去することにより前記微粒子の一部が剥脱し、吸着部材の吸着能力が低下する場合がある。
【0010】
一方、国際公開第2015/083628号は、金属酸化物Aからなる多孔質セラミック支持体と、前記支持体の表面に被覆した金属酸化物Aの粒子からなる濾過膜層と、前記粒子表面に担持された金属酸化物B(金属酸化物Aとは異なる)とからなり、金属酸化物Bは、濾過膜層の表面電荷をファウリング原因物質の表面電荷と同極性となる金属酸化物であるセラミックフィルタを開示している。このように、濾過膜層の粒子表面にファウリング物質の表面電荷と同極性となる金属酸化物Bを担持することにより、フィルタの濾過膜層表面とファウリング原因物質とが電気的に反発することになるため、目詰まりを発生しにくく、一旦、目詰まりを発生させても容易に除去できるという利点を有している。
【0011】
しかしながら、国際公開第2015/083628号に記載のセラミックフィルタは、基本構成としては、フィルタに形成した細孔により、その細孔径以上の異物を遮断することで異物を除去する細孔遮断型のフィルタであるため、ファウリング物質によるフィルタの圧力損失は避けられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、多糖類等の溶存有機物の吸着能力に優れた多孔質セラミックハニカム構造体からなる吸着部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、多孔質セラミックからなる基材と、前記基材の表面及び連通孔内面の少なくとも一部に固定された金属酸化物の粒子とで構成された隔壁を有する多孔質セラミックハニカム構造体であって、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上である吸着部材が、被処理水中の溶存有機物(多糖類等)の吸着能力に著しく優れていることを見出し、本発明に想到した。
【0014】
すなわち、本発明の吸着部材は、多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備え、前記複数の流路に被処理水を通過させて前記被処理水内の異物を吸着除去する多孔質セラミックハニカム構造体からなり、
前記流路は、被処理水流入側又は処理水流出側が交互に目封止されており、
前記隔壁は、
前記流路間を接続する連通孔を有し、
多孔質セラミックからなる基材と、
前記基材の表面及び連通孔内面の少なくとも一部に固定された金属酸化物の粒子とで構成されており、
水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上
であることを特徴とする。
【0015】
前記10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積は、前記隔壁の見かけ体積当たり1.0%以上であるのが好ましく、8%以下であるのが好ましい。
【0016】
前記吸着部材において、水銀圧入法で測定した容積基準のメジアン細孔径(ただし、容積基準のメジアン細孔径は、前記隔壁の細孔径と累積細孔容積との関係を示す曲線において、全細孔容積の50%に相当する細孔容積での細孔径である。)は、表面積基準のメジアン細孔径(ただし、表面積基準のメジアン細孔径は、前記隔壁の細孔径と累積細孔表面積との関係を示す曲線において、全細孔表面積の50%に相当する細孔表面積での細孔径である。)の50〜5000倍であるのが好ましい。
【0017】
前記隔壁の厚さをd、前記流路の幅をwとしたとき、
dが0.1〜2 mmであり、
式:0.20≦d/w≦1.25
を満たすのが好ましい。
【0018】
前記隔壁は、
気孔率が25〜70%、及び
水銀圧入法で測定した容積基準のメジアン細孔径(ただし、容積基準のメジアン細孔径は、前記隔壁の細孔径と累積細孔容積との関係を示す曲線において、全細孔容積の50%に相当する細孔容積での細孔径である。)が1〜50μmであり、前記隔壁の厚さdの0.005〜0.15倍であるのが好ましい。
【0019】
前記金属酸化物の粒子は、前記被処理水に接触したときに表面が正に帯電する材料からなるのが好ましい。前記金属酸化物の粒子は、pH8〜10の等電点を有する材料からなるのが好ましい。
【0020】
前記金属酸化物は、アルミナであるのが好ましい。
【0021】
前記隔壁は、
多孔質のコーディエライトからなる基材と、
前記基材の表面及び連通孔内面の少なくとも一部に被覆されたアルミナの粒子と
からなるのが好ましい。
【0022】
前記アルミナはαアルミナ又はγアルミナであるのが好ましい。前記アルミナはαアルミナであるのが好ましい。
【0023】
本発明の吸着部材の製造方法は、多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備え、前記複数の流路に被処理水を通過させて前記被処理水内の異物を吸着除去する吸着部材を製造する方法であって、
セラミック原料を含む坏土を所定の成形体に押出成形し、前記成形体を乾燥及び焼成し、多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備えたセラミックハニカム構造体を形成する工程と、
前記セラミックハニカム構造体の流路端部に、交互に目封止部を形成する工程と、
前記セラミックハニカム構造体の前記隔壁に金属酸化物の粒子をコーティングし、乾燥及び焼成する工程とを有し、
前記金属酸化物の粒子をコーティングし、乾燥及び焼成する工程により、前記隔壁を、前記流路間を接続する連通孔を有し、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上にすることを特徴とする。
【0024】
前記セラミック原料はコーディエライト化原料であるのが好ましい。
【0025】
前記金属酸化物はアルミナであるのが好ましい。
【0026】
前記金属酸化物の粒子のコーティングに無機バインダとしてアルミナゾルを用いるのが好ましい。
【0027】
前記金属酸化物の粒子の焼成の温度は900℃以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の吸着部材は、溶存有機物等の異物の吸着能力に優れるので水処理システムにおける分離膜(逆浸透膜等)による処理工程の前処理として好適である。本発明の吸着部材を用いた処理を追加するにより、逆浸透膜の寿命を延ばすことが可能となり、水処理にかかるランニングコストを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[1]吸着部材
(1) 多孔質セラミックハニカム構造体
図1〜
図3に示すように、本発明の吸着部材1は、多孔質の隔壁2に仕切られた軸方向に延びる複数の流路3を備え、前記複数の流路3に被処理水を通過させて前記被処理水内の異物(溶存有機物等)を吸着除去する多孔質セラミックハニカム構造体4からなる。前記隔壁2は、隣接する流路3間を接続する連通孔5を有し、多孔質セラミックからなる基材6と、前記基材6の表面6a及び連通孔内面6bの少なくとも一部に固定された金属酸化物の粒子7とで構成されており、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上であることを特徴とする。
【0031】
多孔質セラミックハニカム構造体4は、外周壁8と、外周壁8の内側に設けられた軸方向に延びる複数の流路3と、複数の流路3の間を隔てる隔壁2とからなり、前記隔壁2には隣接する流路3同士を接続する連通孔5を有している。
【0032】
多孔質セラミックハニカム構造体4の軸方向(長手方向)に延びる複数の流路3は、ハニカム状に形成されており、多孔質セラミックハニカム構造体4の一方の端部(被処理水の流入側)又は他方の端部(処理水の流出側)に交互に設けられた目封止部9a、9bを有することにより、被処理水の流入側の端面10aが開口し、反対側の処理水の流出側の端面10bが目封止部9aによって目封止された第1の流路3aと、処理水の流出側の端面10bが開口し、反対側の流入側の端面10aが目封止部9bによって目封止された第2の流路3bとを有する。第1の流路3aと第2の流路3bとは、軸方向視で、縦横ともに交互に配置されている。
【0033】
吸着部材1を構成する多孔質セラミックハニカム構造体4に被処理水が流入したときの被処理水の流れを、
図2及び
図3を用いて説明する。流入側の端面10aに開口した第1の流路3aに流入した被処理水は、隔壁2中の微細な連通孔5を通って、第2の流路3bに流入し、流出側の端面10bから処理水として吸着部材1の外に排出される。被処理水が第1の流路3a及び第2の流路3bを通るとき、並びに隔壁2中の微細な連通孔5を通るときに、隔壁2の基材6の表面6a及び連通孔内面6bに固定された金属酸化物の粒子7に接触し、金属酸化物の粒子7が被処理水中の異物(多糖類等の溶存有機物)を吸着することによって、被処理水から異物を除去することができる。
【0034】
(2) 隔壁
隔壁2は、多孔質セラミックからなる基材6と、前記基材6の表面6a及び連通孔内面6bの少なくとも一部に固定された金属酸化物の粒子7とで構成されている。金属酸化物の粒子7は、前記基材6の表面6a及び連通孔内面6bの少なくとも一部に固定されていればよく、連通孔内6bに主に固定されているのが好ましい。被処理水が吸着部材を通過する際、被処理水は、基材6の表面6aに固定された金属酸化物の粒子7よりも、連通孔内面6bに固定された金属酸化物の粒子7との接触時間の方が長いため、金属酸化物の粒子7を連通孔内面6bにより多く固定することで溶存有機物等の異物を効率よく吸着除去できる。
【0035】
金属酸化物の粒子7は、
図4に示すように、基材6の表面6a及び連通孔内面6bに積層されて固定されているのが好ましい。このような構成を有することにより、1μm以下の微細な細孔が多数形成され、高い比表面積を有する吸着部材を形成することができる。このため被処理水中の溶存有機物等の異物を効率よく吸着除去することが可能になる。すなわち、隔壁2は、連通孔5を構成する比較的大きな細孔と、金属酸化物の粒子7によって形成される1μm以下の微細な細孔とからなる構造を有している。
【0036】
(a) 細孔構造
隔壁2は、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上である。なおこの値は、「隔壁の見かけ体積当たり」に存在する「10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積」の割合のことであり、隔壁見かけ体積当たりの10〜200 nmの細孔容積の割合とも言う。10〜200 nmの細孔径を有する細孔は、主に金属酸化物の粒子7によって形成され、被処理水中の異物(溶存有機物等)の吸着に大きく寄与する。水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、前記隔壁の見かけ体積当たり0.1%未満であると10〜200 nmの細孔径を有する細孔が十分に存在しないか、被処理水との接触時間が短い基材6の表面6aに多く存在するため、溶存有機物を吸着除去する効果が不十分となる。水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積は、前記隔壁の見かけ体積当たり0.5%以上であるのが好ましく、1.0%以上であるのがより好ましい。ここで隔壁見かけ体積は、金属酸化物の粒子7が連通孔内面6bに固定されても増加しないので、金属酸化物の粒子7が基材6の表面6aよりも連通孔内面6bにより多く固定された場合、隔壁見かけ体積当たりの10〜200 nmの細孔容積の割合がより大きくなる。
【0037】
隔壁見かけ体積当たりの10〜200 nmの細孔容積の割合の上限は特に限定されないが、この割合が大き過ぎると過剰に固定された金属酸化物の粒子7が隔壁2の連通孔5を狭め、被処理水の隔壁2の通過を妨げるだけでなく、被処理水と金属酸化物の粒子7とが接触する機会の増加に寄与しなくなる。このため、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積は、前記隔壁の見かけ体積当たり8%以下であるのが好ましく、6%以下であるのがより好ましい。なお、隔壁の見かけ体積とは、
図5に枠2sで示すように、隔壁2を構成する連通孔5、母材6及び金属酸化物の粒子7の合計の体積である。
【0038】
以下に、金属酸化物が多糖類等の溶存有機物を吸着除去する機構について簡単に説明する。例えば、海水淡水化処理においては、前述したように、海水中に溶存する有機物のうち、逆浸透膜に選択的に付着し目詰まりを起こす多糖類等の溶存有機物を、前処理で吸着除去することが望まれている。これらの多糖類の多くはカルボキシル基等の酸性基を有しているため海水中で負に帯電している。一方、アルミナのような金属酸化物は、水中で水が吸着することによりその表面に水酸基を有しており、このアルミナ表面の水酸基は通常pH=9付近に等電点を有するため、中性付近のpHを有する海水中ではアルミナ表面は正に帯電している。従って、表面が正に帯電したアルミナは、多糖類等の溶存有機物を吸着し除去することができる。また、アルミナ等の金属酸化物上には酸素原子が多く存在しているため、これらの酸素原子と溶存有機物が有する水酸基との水素結合により、溶存有機物が金属酸化物に吸着される。
【0039】
従って、金属酸化物の粒子7は、前記被処理水に接触したときに表面が正に帯電する材料からなるのが好ましく、特にpH8〜10の等電点を有する材料からなるのが好ましい。等電点がpH8以上であれば、中性に近い大部分の処理水中で隔壁表面の電荷をプラスにすることができ、マイナスに帯電した有機物を吸着・保持することが可能となる。なお海水等は、ややアルカリ性を示すため、このような処理水を処理する場合、これらの処理水中において隔壁表面がプラスに帯電するような等電点を有する金属酸化物を選択するのが好ましい。例えば、8.2以上の等電点を有する金属酸化物を適用するのが好ましい。
【0040】
金属酸化物の等電点の上限はpH10であるのが好ましい。本発明のように被処理水内の異物を吸着させて除去するタイプの吸着部材においては、吸着性能が低下した場合、洗浄時に表面電荷のプラス/マイナスを逆転させ、吸着保持した異物を表面から剥離することにより吸着部材の吸着性能を再生することができる。pH10を超える等電点を有する金属酸化物を使用すると、より強いアルカリの水溶液を洗浄液として使用しなければ、表面電荷を逆転して十分な反発力を得ることができない。洗浄液として強アルカリを使用した場合、吸着部材及び他の部材へのダメージが大きくなる。従って、強アルカリの使用を極力減らすために、金属酸化物の等電点はpH10以下とする。
【0041】
金属酸化物の粒子としては、αアルミナ、γアルミナ、酸化亜鉛等の粒子が挙げられるが、特に溶存有機物の吸着能に優れたαアルミナ及びγアルミナが好ましく、中でも、等電点が9.1付近のαアルミナは、耐食性にも優れるため最も好ましい。
【0042】
海水中に存在する溶存有機物としては、多糖類が代表的なものとして挙げられる。例えば、多糖類として、分子量が100万の分子を考えた場合、その分子サイズ(密度1 g/cm
3の球と仮定)は約15 nmとなり、分子量が500万の分子を考えた場合、その分子サイズ(密度1 g/cm
3の球と仮定)は約30 nmとなる。従って、金属酸化物の粒子7によって形成される10〜200 nmの細孔径を有する細孔が多く存在すると、これらの溶存有機物が吸着できる表面が多く存在することになり、効率よく溶存有機物を吸着除去することが可能となる。
【0043】
水銀圧入法とは、真空状態にした隔壁試料を水銀に浸漬して加圧し、加圧時の圧力と試料の細孔内に押し込まれた水銀の体積との関係を求めることにより、細孔分布を求める方法である。水銀圧入法の測定においては、圧力を徐々に上昇させたときに、試料表面の径の大きい細孔から順に水銀が圧入され、最終的に全ての細孔が水銀で満たされる。ただし、実際には数nm未満の径を有する細孔については、材料によっては正確に測定ができない場合があるので、本発明においては、6 nm以上の細孔について得られた測定値を用いて容積基準の細孔分布(隔壁の細孔径と累積細孔容積との関係)を求めた。従って、全細孔容積は、6 nm以上の細孔に満たされた水銀量から求めた値とした。
【0044】
ここで、全細孔容積の50%の容積の水銀が圧入された時点の細孔径が水銀圧入法により測定されるメジアン細孔径(容積基準)である。さらに隔壁の細孔径と累積細孔表面積との関係を求め、その曲線から、全細孔表面積の50%に相当する細孔表面積での細孔径を表面積基準のメジアン細孔径として求める。
【0045】
水銀圧入法で測定した容積基準のメジアン細孔径D
50は、表面積基準のメジアン細孔径d
50の50〜5000倍、すなわち50≦D
50/d
50≦5000であるのが好ましい。容積基準のメジアン細孔径D
50は、隔壁内の連通孔を形成する細孔のように比較的大きな細孔構造を主に反映する値であり、1〜50μmの範囲であるのが好ましい。一方、金属酸化物の粒子によって形成されるような1μm以下の細孔径を有する細孔が多く含まれると、表面積基準のメジアン細孔径d
50が容積基準のメジアン細孔径D
50に対して著しく小さい側にシフトする。従って、溶存有機物を吸着除去するのに効果の大きい10〜200 nmの細孔径を有する細孔が多く存在すると、D
50/d
50の値がより大きくなる。D
50/d
50の値が50未満であると、10〜200 nmの細孔径を有する細孔が少なくなり、溶存有機物を吸着除去する効果が大きく低下する。D
50/d
50の値が5000超の場合、10 nm未満のさらに細かい細孔が多く存在し、溶存有機物を吸着する効果としては飽和してしまう。D
50/d
50の値は、100〜2500であるのがより好ましく、150〜1000であるのが最も好ましい。
【0046】
容積基準のメジアン細孔径D
50は、前述したように、隔壁内の連通孔を形成する細孔を主に反映する値であり、1〜50μmの範囲であるのが好ましく、1〜30μmであるのがより好ましく、5〜25μmであるのがさらに好ましく、10〜20μmであるのが最も好ましい。また、容積基準のメジアン細孔径D
50は、前記隔壁の厚さdの0.005〜0.15倍の範囲であるのが好ましい。容積基準のメジアン細孔径D
50が1μm未満である場合及び/又は隔壁の厚さdの0.005倍未満である場合、連通孔の径が小さくなりすぎるため、水の通過時の抵抗(圧力損失)が大きくなり、また吸着成分以外の成分による目詰まりが顕著となって、被処理水に大きな圧力を加えた際、破損する場合がある。容積基準のメジアン細孔径D
50が50μm超である場合及び/又は隔壁の厚さdの0.15倍超である場合、細孔が大き過ぎるため金属酸化物の粒子を固定する連通孔内面の面積が小さくなり、金属酸化物の粒子の量が少なくなる。そのため溶存有機物を吸着する能力が低下する。
【0047】
本発明の吸着部材は、吸着により溶存有機物を除去するので、容積基準のメジアン細孔径D
50が1〜50μmの範囲であっても、10〜20 nmの大きさで水中に存在している溶存有機物を除去できる。このため、フィルタに形成した細孔により、その細孔径以上の異物を遮断することで異物を除去する細孔遮断型のフィルタ(濾過膜)と異なり、小さい圧力損失と溶存有機物の高い除去性能が両立できる。
【0048】
(b)気孔率
隔壁2の気孔率は25〜70%であるのが好ましい。隔壁2の気孔率は基材6の隔壁2内の連通孔5の細孔容積と、基材6の表面6a及び連通孔内面6b、並びに目封止部9a、9bの表面に金属酸化物の粒子7がコーティングされたことで形成される1μm以下の微細な細孔の容積の合計から算出される。連通孔5の細孔容積の方がコーティングで形成される1μm以下の微細な細孔の容積よりも大きいため、気孔率はほとんど連通孔5の細孔容積によって決まる。隔壁2の気孔率が25%未満である場合、連通孔5を形成しない細孔が多く存在するようになり、連通孔5の量が少なくなる。隔壁2の気孔率が70%超では、隔壁2の機械的強度が低下し、処理水に大きな圧力を加えた際、破損する可能性が生じる。
【0049】
(c)構造
隔壁2の厚さdは0.1〜2 mmであるのが好ましく、厚さdと隔壁2によって形成される流路の幅wとの比d/wは、式:0.20≦d/w≦1.25を満たすのが好ましい。隔壁2の厚さが0.1 mm未満及び/又は0.20>d/wである場合には、隔壁2の機械的強度が低下し、被処理水に大きな圧力を加えた際、破損する可能性が生じるとともに、連通孔5の長さを十分確保できず、金属酸化物の粒子の量が少なくなるため、吸着性能が低下する。隔壁2の厚さが2 mm超及び/又はd/w>1.25の場合には、被処理水を透過するのに必要な圧力が大きく(圧力損失が上昇)になり、水処理に時間とエネルギーがかかる。なお、隔壁2の厚さdと、流路の幅wとは、成形用金型の寸法を変化させることで、適宜設定できる。
【0050】
限定されないが、隔壁2は軸方向視で格子状又は網目状に設けられているのが好ましい。従って、例えば、隔壁2が格子状に設けられている場合は、流路3は軸方向視で四角形の形状を有している。この場合、流路3は軸方向視で一辺が0.5〜8 mmの四角形であるのが好ましい。流路3の一辺が0.5 mm未満であると、被処理水中の溶存有機物以外の異物がセラミックハニカム構造体4の流入側の端面10aに開口する流路3aを塞いでしまうことがあり、処理能力が低下する。一方、流路3の一辺が8 mm超の場合、セラミックハニカム構造体4の隔壁2の厚さを十分にとらないと、機械的強度が不十分となり、被処理水に大きな圧力を加えた際に破損する可能性が高くなる。流路3の形状は、
図1に示すような正四角形に限られず、他の四角形、三角形、六角形、八角形と四角形との組み合わせ等の平面上に充填できるような形状であっても良い。
【0051】
(d)材料
隔壁2の基材6は、アルミナ、シリカ、コーディエライト、チタニア、ムライト、ジルコニア、スピネル、炭化珪素、窒化珪素、チタン酸アルミニウム、リチウムアルミニウムシリケート等を主成分とするセラミックからなるのが好ましい。特に基材6としては、アルミナ又はコーディエライトが好ましく、中でもコーディエライトが最も好ましい。コーディエライトとしては、主結晶相がコーディエライトであればよく、スピネル、ムライト、サフィリン等の他の結晶相、さらにガラス成分を含有しても良い。従って、本発明の吸着部材としては、多孔質のコーディエライトからなる基材と、前記基材の表面及び連通孔内面の少なくとも一部に被覆されたアルミナの粒子とからなるものが好ましい。
【0052】
本発明においては、前記隔壁の基材はコーディライトであり、金属酸化物の粒子はアルミナであるのが好ましい。コーディライトは、細孔を容易に形成できる基材であり、またアルミナを成分として含むため、アルミナを強固に固定させるのに有効である。
【0053】
(3)目封止部
セラミックハニカム構造体4の複数の流路3は、被処理水流入側又は処理水流出側が交互に目封止されており、その結果、被処理水の流入側の端面10aが開口し、反対側の処理水の流出側の端面10bが目封止部9aによって目封止された第1の流路3aと、処理水の流出側の端面10bが開口し、反対側の被処理水の流入側の端面10aが目封止部9bによって目封止された第2の流路3bとを有する。第1の流路3aと第2の流路3bとは、1枚の隔壁2を介して、互いに隣接するように配置されており、第1の流路3aから流入した被処理水が隔壁2中の連通孔を通って第2の流路3bから処理水が排出されるように構成されている。
【0054】
目封止部9a、9bは、多孔質のセラミックハニカム構造体4(隔壁2の基材6)と同一の材料、有機材料、その他の無機材料などの処理水に溶解しない材料で形成することができる。多孔質のセラミックハニカム構造体4と同一の材料で形成する場合は、セラミック材料からなるスラリーを流路の所定の端部に注入し焼成することによって形成できる。また有機材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリウレタン、アクリル、エポキシ、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等の材料が挙げられ、その他の無機材料としては、隔壁2を構成するセラミック以外のセラミック(アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ジルコン、コージェライト、スピネル、チタン酸アルミニウム、リチウムアルミニウムシリケート等)、ガラス等が挙げられる。また目封止部9a、9bの形成は公知の方法を用いることができる。
【0055】
目封止部9a、9bの気孔率は、0〜40%であるのが好ましく、隔壁2の気孔率より小さいのが好ましい。また目封止部9a、9bの軸方向長さは、隔壁2の厚さより厚いのが望ましい。目封止部9a、9bに使用する材料の気孔率が40%超又は隔壁2の気孔率より大きい場合、被処理水が隔壁2だけでなく目封止部9a、9bを通過してしまうため、溶存有機物が金属酸化物の粒子7に吸着されないで吸着部材から排出される。
【0056】
[2] 吸着部材の製造方法
本発明の吸着部材を製造する方法は、
セラミック原料を含む坏土を所定の成形体に押出成形し、前記成形体を乾燥及び焼成し、多孔質の隔壁に仕切られた軸方向に延びる複数の流路を備えたセラミックハニカム構造体を形成する工程と、
前記セラミックハニカム構造体の流路端部に、交互に目封止部を形成する工程と、
前記セラミックハニカム構造体の隔壁に金属酸化物の粒子をコーティングし、乾燥及び焼成する工程とを有する。
【0057】
(1) 多孔質セラミック構造体の形成
多孔質セラミック構造体4の形成方法を、コーディエライトからなる多孔質セラミック構造体4の場合を例に挙げて説明する。カオリン、タルク、シリカ、アルミナなどの粉末を調製して、質量比でSiO
2:48〜52%、Al
2O
3:33〜37%、及びMgO:12〜15%となるようにコーディエライト化原料粉末を準備し、造孔材、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のバインダ、必要に応じて分散剤、界面活性剤、潤滑剤等の添加剤を加えて乾式で充分混合した後、規定量の水を添加、混錬を行って可塑化したセラミック杯土を作製する。次に、成形用金型を用いて杯土を押し出し成形し、切断して、乾燥し、必要に応じて端面及び外周等の加工を施し、ハニカム構造を有する乾燥体とする。この乾燥体を、焼成(例えば、1400℃)したのち、外周にコーディエライト粒子とコロイダルシリカを含有するコーティング剤を塗布、焼成して、外周壁8の内側に隔壁2で仕切られた断面が四角形状の多数の流路3が形成されたコーディエライト質の多孔質セラミックハニカム構造体4とする。なお外周壁8の形成は後述する目封止部の形成後に行っても良い。
【0058】
(2) 目封止部の形成
多孔質セラミック構造体4の製造に用いたコーディエライト化原料粉末に、バインダ及び分散媒(溶剤)を添加して目封止部形成用のスラリーを作製する。このスラリーを、多孔質セラミックハニカム構造体4の流路3に、流路3の被処理水流入側端部と処理水流出側端部とが交互に目封止されるように、複数のノズルを有するディスペンサを用いて注入し、その後、乾燥、焼成して目封止部9a、9bを形成する。
【0059】
目封止部9a、9bの形成には、ディスペンサ以外に、スクリーン印刷法を用いることができる。スクリーン印刷法を用いる場合には、所定の位置が開口した印刷マスクをセラミックハニカム構造体4の所定の位置に合わせて配置し、高粘度のスラリーを印刷マスクの開口部を介して注入し、その後、乾燥、焼成して目封止部9a、9bを形成する。
【0060】
目封止部9a、9bは、多孔質のセラミックハニカム構造体4と同一材料で形成しても良いし別のセラミック材料で形成しても良い。また有機高分子材料(ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリウレタン、アクリル、エポキシ、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等)、無機材料(ガラス等)又はセラミック粒子(アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ジルコン、コージェライト、スピネル、チタン酸アルミニウム、リチウムアルミニウムシリケート等)と前記有機高分子材料からなる複合材料を使用して形成しても良い。例えば、テフロン(登録商標)等の材料であらかじめ作製しておいた栓を棒やシリンジで押し込み固定することによって目封止部9a、9bを形成してもよい。有機高分子材料を用いる場合には、隔壁2を形成する温度より目封止部9a、9bを形成する温度を低くする。
【0061】
(3) 金属酸化物の粒子のコーティング
目封止部9a,9bの形成後、多孔質セラミックハニカム構造体4の隔壁2の基材6の表面6a及び連通孔内面6b、並びに目封止部9a,9bの表面に金属酸化物の粒子7をコーティングする。金属酸化物の粒子7のコーティングは、いわゆる公知のウォッシュコート法によって行うことができる。金属酸化物の粒子7(例えば、αアルミナ、γアルミナ)を含むスラリーを、多孔質セラミックハニカム構造体4の内部に吸引して供給した後、乾燥して、900℃以下で焼成することによって行う。前記スラリーには、アルミナゾル等の無機バインダを添加することができる。900℃超で焼成を行った場合、アルミナゾル内の微結晶やγアルミナが結晶成長して粗大な粒子となり比表面積が低下する場合があるので好ましくない。金属酸化物の粒子によって形成される1μm以下の微細な細孔を有する吸着部材を得るためには、金属酸化物の粒子のコーティング後の焼成の温度は900℃以下とする。
【0062】
コーティングする金属酸化物の粒子7としては、例えば、平均粒径0.1〜1μmのアルミナ粉末を用いるのが好ましい。このようなアルミナ粉末としては、住友化学製アルミナA-26を粉砕したものなどが挙げられる。またバインダとしては、平均粒径100〜500 nmのアルミナゾルが好ましく、具体的には日揮触媒化成製Cataloid ASシリーズが挙げられる。
【0063】
隔壁2の基材6への金属酸化物の粒子7のコーティング量は、焼成後形成される金属酸化物の粒子7の厚さとして0.2〜5μmであるのが好ましく、0.5〜2μmであるのがより好ましい。金属酸化物の粒子によって形成される1μm以下の微細な細孔を有し、水銀圧入法で測定した10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上となる吸着部材を得るためには、金属酸化物の粒子の焼成後の厚さは0.2μm以上とする。コーティング量は、スラリーの粘度、金属酸化物の粒子濃度等により調節することができる。また1回で所定量の金属酸化物の粒子が被覆されない場合は、ウォッシュコート法を複数回繰り返して行っても良い。
【0064】
[3] 水処理設備
本発明の吸着部材1は、例えば、
図6にフロー図で示すような水処理設備100に使用する。水処理設備100は、本発明の吸着部材1を組み込んだ吸着モジュール101と、吸着モジュール101で処理された水を貯水する貯水タンク102と、貯水タンク102の水を給水する給水ポンプ103と、給水ポンプ103から送られた水から被分離物質を除去する逆浸透膜105を備えた逆浸透膜モジュール104とを備えている。
【0065】
本発明の吸着部材1を組み込んだ吸着モジュール101を
図7に示す。吸着モジュール101は、本発明の吸着部材1と、前記吸着部材1の被処理液流入側端面及び処理水流出側端面を、把持部材(図示せず)を介して支持するフィルタ支持体110と、前記吸着部材1及びフィルタ支持体110を収納するハウジング111(例えば、アクリル製の収納容器)とから構成される。フィルタ支持体110は、被処理水が抵抗なく通過可能で、被処理水の圧力によって容易に変形しない程度の強度を有し、水への溶出物がない材料及び材質のものであれば良く、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン等の樹脂製メッシュスペーサ、ステンレス、チタン等の金属製メッシュ又はパンチングメタル等を用いることができる。
【0066】
吸着モジュール101には、ごみ等をスクリーンにかけて取り除く処理、砂などの細かい懸濁物を凝集剤添加して沈降除去する処理、微生物を用いて有機物を分解する処理等の処理が施された一次処理水が供給され、この一次処理水には塩類や溶存有機物が含まれている。吸着モジュール101に供給された一次処理水は、吸着部材1を通過することによって被処理水中の異物(溶存有機物等)が吸着除去され、貯水タンク102を経て、給水ポンプ103で加圧しながら逆浸透膜105に通し、処理水中の有機物や塩類が除去された透過水と、有機物や塩類が濃縮された濃縮水とに分離する。吸着部材1によって一次処理水中の異物(溶存有機物等)が吸着除去されることによって、逆浸透膜105の目詰まりの発生を防止し、逆浸透膜105の交換寿命を延ばすことができる。
【0067】
本発明の吸着部材1は、逆浸透膜105の表面に付着する有機物等を選択的に効率よく吸着除去する前処理工程として機能するため、このような水処理設備100は、海水淡水化、半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造、上水の高度処理、下水・排水の再生処理(微生物処理を併用しないものなどを含む)等の逆浸透膜105を用いた水処理、特に海水の淡水化のプロセスに応用が可能である。
【実施例】
【0068】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0069】
(1)吸着部材の作製
実施例(本発明)及び比較例の吸着部材を以下のようにして作製した。
【0070】
実施例1
カオリン、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム及びアルミナの粉末を調整して、化学組成が50質量%のSiO
2、36質量%のAl
2O
3及び14質量%のMgOとなるコーディエライト化原料粉末を得た。このコーディエライト化原料粉末に、成形助剤としてメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として熱膨張性マイクロカプセルを添加し、規定量の水を注入して、十分な混練を行い、ハニカム構造に押出成形可能な坏土を調整した。
【0071】
得られた坏土を成形用金型を用いて押出してハニカム構造の成形体を作製し、乾燥後、周縁部を除去加工し、1400℃で24時間焼成した。焼成後のセラミックハニカム体の流路に、流路の被処理水流入側端部又は処理水流出側端部が交互に目封止されるように、コーディエライト化原料からなる目封止材スラリーを充填した後、目封止材スラリーの乾燥及び焼成を行った。目封止部を形成後のセラミックハニカム構造体の外周に、コーディエライト粒子とコロイダルシリカを含有するコーティング剤をコーティング、乾燥及び焼成して外周壁を形成して、外径285 mm、全長330 mm、隔壁厚さ0.3 mm及びセルピッチ1.6 mmの多孔質セラミックハニカム構造体を得た。
【0072】
目封止部を形成した多孔質セラミックハニカム構造体を、γアルミナを起源とするアルミナ微粒子とアルミナゾルバインダとを含むスラリーに浸漬し、多孔質セラミックハニカム構造体の隔壁に形成された連通孔内に前記スラリーを十分に浸透させた後、スラリーから取り出し、乾燥して、500℃で5時間焼成し、多孔質セラミックハニカム構造体の隔壁の基材表面及び連通孔内面、並びに目封止部表面に金属酸化物の粒子(アルミナ微粒子)をコーティングし、本発明の吸着部材を作製した。コーティングされたアルミナの粒子からなる層は、厚さが0.2〜1μmの範囲であった。なおコーティングされたアルミナは、電子線回折によりαアルミナであることを確認した。
【0073】
実施例2
実施例1で使用したγアルミナを起源とするアルミナ微粒子に替えて、αアルミナを起源とするアルミナ微粒子を用いた以外、実施例1と同様にして本発明の吸着部材を作製した。コーティングされたアルミナの粒子からなる層は、厚さが0.3〜0.8μmの範囲であった。コーティングされたアルミナは、電子線回折によりαアルミナであることを確認した。
【0074】
実施例3
実施例1で使用したγアルミナを起源とするアルミナ微粒子に替えて、別のγアルミナを起源とするアルミナ微粒子を用いた以外、実施例1と同様にして本発明の吸着部材を作製した。コーティングされたアルミナの粒子からなる層は、厚さが0.5〜1.5μmの範囲であった。コーティングされたアルミナは、電子線回折によりαアルミナであることを確認した。
【0075】
比較例1
αアルミナ粉末に、成形助剤としてメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び造孔材として内部が中空構造で平均粒径10〜45μmの球状樹脂を添加し、規定量の水を注入して、十分な混練を行い、ハニカム構造に押出成形可能な坏土を調整した。得られた坏土を成形用金型を用いて押出してハニカム構造の成形体を作製し、乾燥後、周縁部を除去加工し、1400℃で24時間焼成した。焼成後のセラミックハニカム体の流路に、流路の被処理水流入側端部又は処理水流出側端部が交互に目封止されるように、実施例1と同様に、コーディエライト化原料からなる目封止材スラリーを充填した後、目封止材スラリーの乾燥及び焼成を行った。目封止部を形成後のセラミックハニカム構造体の外周に、コーディエライト粒子とコロイダルシリカを含有するコーティング剤をコーティング、乾燥及び焼成して外周壁を形成して、外径285 mm、全長330 mm、隔壁厚さ0.76 mm及びセルピッチ2.66 mmのアルミナからなる多孔質セラミックハニカム構造体を作製し、吸着部材とした。金属酸化物の粒子のコーティングは行っておらず、金属酸化物の粒子の厚さは0μmであった。
【0076】
比較例2
隔壁表面及び連通孔内にアルミナをコーティングしなかった以外実施例1と同様にして多孔質コーディエライトからなる吸着部材を作製した。金属酸化物の粒子のコーティングは行っておらず、金属酸化物の粒子の厚さは0μmであった。
【0077】
比較例3
実施例1で得られた吸着部材をさらに1400℃で24時間焼成し吸着部材を作製した。アルミナの粒子からなる層は、1400℃での焼成前は厚さが0.2〜1μmの範囲であったが、1400℃での焼成によりセラミックハニカム構造体の表面とアルミナ粒子が反応して境界部分が一体化し、アルミナの粒子からなる層の厚さは0.2μm未満であった。
【0078】
(2)細孔構造の評価
得られた吸着部材の細孔分布を水銀圧入法により測定した。水銀圧入法による測定は、金属酸化物の粒子をコーティングした後の多孔質セラミックハニカム構造体から切り出した試験片(10 mm×10 mm×10 mm)を、Micromeritics社製オートポアIIIの測定セル内に収納し、セル内を減圧した後、水銀を導入して加圧し、加圧時の圧力と試験片内に存在する細孔中に押し込まれた水銀の体積との関係を求めることにより行った。前記圧力と体積との関係から細孔径と累積細孔容積との関係を求めた。水銀を導入する圧力は0.5 psi(0.35×10
-3 kg/mm
2)とし、圧力から細孔径を算出する際の常数は、接触角=130°及び表面張力=484 dyne/cmの値を使用した。
【0079】
なお本願において、水銀圧入法による測定は、6 nm以上の細孔について行い、それより小さいサイズの細孔は考慮しなかった。従って、全細孔容積とは6 nm以上の細孔径を有する全細孔容積である。細孔径と累積細孔容積との関係(容積基準の細孔分布のデータ)から、全細孔容積の50%に相当する細孔容積での細孔径を容積基準のメジアン細孔径(D
50)として求めた。また容積基準の細孔分布から10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積を求め、隔壁の見かけ体積当たりの割合で示した。
【0080】
さらに容積基準の細孔分布のデータから、隔壁の細孔径と累積細孔表面積との関係(表面積基準の細孔分布のデータ)を求め、その曲線から、全細孔表面積の50%に相当する細孔表面積での細孔径を表面積基準のメジアン細孔径(d
50)として求めた。気孔率は、全細孔容積の測定値から、コーディエライトの真比重を2.52 g/cm
3として計算によって求めた。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
注1:隔壁の見かけ体積当たりに占める10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積の割合
【0083】
(3)吸着性能の評価
実施例1〜3及び比較例1〜3の吸着部材の溶存有機物に対する吸着性能を、以下のようにして評価した。多糖類の1種であるマンナンを6 mg/Lの濃度で人工海水中に溶解して被処理液を準備し、
図7に示すような吸着モジュールに組み込んだ25mm径、35mm長の吸着部材に、前記被処理液を、120 L/hrの体積流量(SV)で供給した。吸着モジュールの入口及び出口での被処理液中のマンナンの量(炭素重量)をTOC(全有機炭素)測定器(島津製作所製TOC-L)により測定して、吸着部材に吸着したマンナンの量(炭素重量)を算出し、90分間の累計吸着量を吸着性能として評価した。上述の吸着性能の評価条件で評価した吸着量が1.0 mg以上であれば、実用上許容できるコストやサイズでの水処理設備の設計が可能である。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
注1:被処理液を90分間処理したときの吸着部材当たりの累積吸着量
【0085】
表2及び表3から、10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、隔壁の見かけ体積当たり0.1%以上である実施例1〜3の吸着部材は、いずれも吸着量が1.0 mg以上であり、溶存有機物に対する吸着性能が優れていることがわかる。また10〜200 nmの細孔径を有する全細孔容積が、隔壁の見かけ体積当たり1.0 %以上の実施例2及び3は、吸着量が1.5 mg以上であり、さらに吸着性能が優れていることがわかる。
【0086】
(4)本発明の吸着部材を用いた水処理
カオリン、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム及びアルミナの粉末を調整して、化学組成が50質量%のSiO
2、36質量%のAl
2O
3及び14質量%のMgOとなるコーディエライト化原料粉末を得た。このコーディエライト化原料粉末に、成形助剤としてメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔材として熱膨張性マイクロカプセルを添加し、規定量の水を注入して、十分な混練を行い、ハニカム構造に押出成形可能な坏土を調整した。
【0087】
得られた坏土を成形用金型を用いて押出してハニカム構造の成形体を作製し、乾燥後、周縁部を除去加工し、1400℃で24時間焼成した。焼成後のセラミックハニカム体の流路端部に、流路の被処理水流入側端部又は処理水流出側端部が交互に目封止されるように、コーディエライト化原料からなる目封止材スラリーを充填した後、目封止材スラリーの乾燥及び焼成を行った。目封止部を形成後のセラミックハニカム構造体の外周に、コーディエライト粒子とコロイダルシリカを含有するコーティング剤をコーティング、乾燥及び焼成して外周壁を形成して、外径267 mm、全長185 mm、隔壁厚さ0.8 mm及びセルピッチ1.9 mmの多孔質セラミックハニカム構造体を得た。
【0088】
得られた多孔質セラミックハニカム構造体の隔壁の基材表面及び連通孔内面に、実施例3と同様にして、金属酸化物の粒子(アルミナ微粒子)をコーティングし、本発明の吸着部材を得た。コーティングされたアルミナの粒子からなる層は、厚さが0.5〜1.5μmの範囲であった。コーティングされたアルミナは、電子線回折によりαアルミナであることを確認した。
【0089】
水処理系統A(本発明例)
作製した吸着部材による逆浸透膜のファウリング抑制効果を検証するため、実海水とこれに下水を添加可能な実証設備を設置した。下水を添加した海水を原水として、安価な砂ろ過(SF)に得られた吸着部材を組み合わせて(砂ろ過(SF)+吸着部材)で前処理を行い、その処理水が逆浸透膜モジュールへと送られるようにした系統Aを作製した。
【0090】
水処理系統B(比較例)
下水を添加した海水を原水として、既存の限外ろ過膜(UF)で前処理を行い、その処理水が逆浸透膜モジュールへと送られるようにした系統Bを作製した。
【0091】
水処理系統A'(比較例)
系統Aで用いた前処理(砂ろ過(SF)+吸着部材)の代わりに、砂ろ過(SF)のみの前処理に変更した系統A'を作製した。
【0092】
これらの水処理系統A、B及びA'を用いて、下水を添加した海水から1.7 m
3/日の淡水を生産する運転を2週間行った。ただし、系統Aについては、1日1回10分間、吸着部材にのみNaOH水溶液(0.1質量%)を20 L流し、アルカリ洗浄を実施した。
【0093】
2週間後の逆浸透膜の圧力上昇を測定することによって、各系統の逆浸透膜におけるファウリング抑制効果を比較評価した。その結果、本発明の吸着部材を用いず限外ろ過膜(UF)のみによる前処理を行った系統Bでは約15%圧力が上昇し、また本発明の吸着部材を用いず砂ろ過(SF)のみで前処理を行った系統A'では約30%圧力が上昇した。一方、本発明の吸着部材による前処理を行った系統Aは圧力上昇が見られなかった。従って、本発明の吸着部材による前処理は逆浸透膜のファウリング抑制効果が大きいことが確認できた。