特許第6579392号(P6579392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579392
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】有機マイクロディスク構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/17 20060101AFI20190912BHJP
   G02B 6/122 20060101ALI20190912BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   H01S3/17
   G02B6/122
   G02B6/13
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-547413(P2016-547413)
(86)(22)【出願日】2015年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2015075155
(87)【国際公開番号】WO2016039259
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-181951(P2014-181951)
(32)【優先日】2014年9月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】興 雄司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】安井 圭
(72)【発明者】
【氏名】小澤 雅昭
【審査官】 佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−080950(JP,A)
【文献】 特開2003−277741(JP,A)
【文献】 Cong CHEN, et.al.,Rapid microdisk printing in room temperature atmosphere,平成26年度電気・情報関係学会九州支部連合大会 講演論文集,2014年 9月11日,p.07-2P-13
【文献】 Yu YANG, et.al.,Highly photo-stable dye doped solid-state distributed-feedback (DFB) channeled waveguide lasers by a,OPTICS EXPRESS,2010年10月11日,Vol.18, No.21,pp.22080-22089
【文献】 Mitsunori SAITO, et.al.,Ink-jet process for creating fluorescent microdroplet,Proc. of SPIE,2010年,Vol.7716,p.77161T
【文献】 Xin LIU, et.al.,Ink-Jet-Printed Organic Semiconductor Distributed Feedback Laser,Applied Physics Express,2012年 6月19日,Vol.5,p.072101
【文献】 Peter E. FROEHLING,Dendrimers and dyes,Dyes and Pigments,2001年,Vol.48,pp.187-195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 − 3/02
3/04 − 3/0959
3/098− 3/102
3/105− 3/131
3/136− 3/213
3/23 − 4/00
G02B 6/12 − 6/14
H01L 51/50
H05B 33/00 −33/28
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有ハイパーブランチポリマーを含む第1のインクをインクジェット法によって基板上に印刷してクラッド層を形成するクラッド層形成工程と、
フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーおよびレーザー色素を含む第2のインクをインクジェット法によって前記クラッド層上に印刷してコア層を形成するコア層形成工程と、
前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーのみを溶かす溶媒を用いて前記クラッド層をエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする有機マイクロディスク構造体の製造方法。
【請求項2】
前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーが、アクリル系ハイパーブランチポリマーである請求項1記載の有機マイクロディスク構造体の製造方法。
【請求項3】
前記第1のインクにおける前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーの濃度が、5〜20質量%である請求項1または2記載の有機マイクロディスク構造体の製造方法。
【請求項4】
前記第2のインクにおける前記フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーの濃度が、5〜20質量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の有機マイクロディスク構造体の製造方法。
【請求項5】
前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーの屈折率が、1.50以下である請求項1〜4のいずれか1項記載の有機マイクロディスク構造体の製造方法。
【請求項6】
前記フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーの屈折率が、1.70〜1.90である請求項1〜5のいずれか1項記載の有機マイクロディスク構造体の製造方法。
【請求項7】
フッ素含有ハイパーブランチポリマーを含むクラッド層と、フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーおよびレーザー色素を含むコア層とからなることを特徴とするマイクロディスクレーザー。
【請求項8】
請求項7記載のマイクロディスクレーザーを用いたセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機マイクロディスク構造体の製造方法に関し、さらに詳述すると、インクジェット法を用いた有機マイクロディスク構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロディスク構造体に代表されるマイクロキャビティーは、界面で全反射を繰り返すことにより高効率で光を閉じ込めることができ、物質と光の高い相互作用を引き出すことが可能である。このため、超低しきい値で発振できる微小レーザーや光信号処理、集積光学回路、バイオセンサ等の高感度センサなどへの応用が期待されている。
マイクロディスクを形成する材料として、有機物は無機物と比較して、様々な色素をドープすることができる、低コストである、成型加工が容易などの利点がある。
【0003】
これまで、有機系のマイクロディスク作製においては、フォトリソグラフィ法が主に用いられている(非特許文献1〜3参照)が、プロセスが煩雑であることが欠点であった。
これに対し、インクジェット法は、簡便であるとともに、必要な箇所にのみ材料を追加していく手法であるため、省エネルギーかつ自由度が高いといった利点がある。
その反面、インクジェット法では、一般的に、数〜数十mPa・sの低粘度インクしか吐出することができないため、インク中のポリマーの高濃度化が困難であり、数100nm程度の薄膜しか作製できないという欠点がある。
このような理由から、これまでインクジェット法を用いた有機マイクロディスクの作製例は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】OPTICS EXPRESS, Vol. 19, No.12, pp.11451 (2011)
【非特許文献2】Applied Physics Letters 97, 063304 (2010)
【非特許文献3】OPTICS EXPRESS, Vol.19, No.10, pp.10009 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、インクジェット法を用いた有機マイクロディスク構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ハイパーブランチポリマーが高濃度溶液とした場合でも比較的低粘度であることから厚膜の作製が可能であることに着目し、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、所定のフッ素含有ハイパーブランチポリマーおよび高屈折率を示すトリアジン系ハイパーブランチポリマーが、高濃度のインクとした場合でもインクジェット塗布が可能であり、インクジェットでの厚膜化に適した材料であることを見出すとともに、これらのハイパーブランチポリマーとレーザー色素とを用いてインクジェット法によって作製した有機マイクロディスク構造体が、低しきい値でレーザー発振できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. フッ素含有ハイパーブランチポリマーを含む第1のインクをインクジェット法によって基板上に印刷してクラッド層を形成するクラッド層形成工程と、フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーおよびレーザー色素を含む第2のインクをインクジェット法によって前記クラッド層上に印刷してコア層を形成するコア層形成工程と、前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーのみを溶かす溶媒を用いて前記クラッド層をエッチングするエッチング工程と、を含むことを特徴とする有機マイクロディスク構造体の製造方法、
2. 前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーが、アクリル系ハイパーブランチポリマーである1の有機マイクロディスク構造体の製造方法、
3. 前記第1のインクにおける前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーの濃度が、5〜20質量%である1または2の有機マイクロディスク構造体の製造方法、
4. 前記第2のインクにおける前記フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーの濃度が、5〜20質量%である1〜3のいずれかの有機マイクロディスク構造体の製造方法、
5. 前記フッ素含有ハイパーブランチポリマーの屈折率が、1.50以下である1〜4のいずれかの有機マイクロディスク構造体の製造方法、
6. 前記フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーの屈折率が、1.70〜1.90である1〜5のいずれかの有機マイクロディスク構造体の製造方法、
7. 1〜6のいずれかの製造方法で得られる有機マイクロディスク構造体、
8. 7のマイクロディスク構造体からなるマイクロディスクレーザー、
9. 8のマイクロディスクレーザーを用いたセンサ、
10. フッ素含有ハイパーブランチポリマーを含むクラッド層と、フッ素非含有トリアジン系ハイパーブランチポリマーおよびレーザー色素を含むコア層とからなることを特徴とするマイクロディスクレーザー
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット法を用いたこれまでにない新しい有機マイクロディスク構造体の製造方法を提供できる。
また、本発明では、高い光閉じ込め効果が期待されるトリアジン系ハイパーブランチポリマー(以下、HBPと略記する)とレーザー色素を用いているため、既存のリソグラフィ法と同等レベルの低しきい値でレーザー発振できる有機マイクロディスクレーザーを提供できる。
さらに、本発明では、すべての作製工程を大気圧および室温下、低刺激で行うことができるため、サンプル負荷(真空ハンドリング、高熱、高刺激エッチングなど)の高い従来のリソグラフィ法では不可能であった有機物の事前添加による作製を可能とし、応用(バイオセンシングデバイスなど)において汎用性の高い製造技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る有機マイクロディスク構造体の製造方法の概略工程図である。
図2】実施例1で作製したマイクロディスクのレーザー発振スペクトル測定結果を示す図である。
図3】実施例1で作製したマイクロディスクの入出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る有機マイクロディスクの製造方法は、フッ素含有HBPを含む第1のインクをインクジェット法によって基板上に印刷してクラッド層を形成するクラッド層形成工程と、フッ素非含有トリアジン系HBPおよびレーザー色素を含む第2のインクをインクジェット法によってクラッド層上に印刷してコア層を形成するコア層形成工程と、フッ素含有HBPのみを溶かす溶媒を用いてクラッド層をエッチングするエッチング工程と、を含むものである。
【0011】
本発明において、インクジェット印刷に用いるインクジェット印刷機としては、特に限定されるものではなく、コンティニュアス型でも、オンデマンド型でもよい。また、オンデマンド型の場合、ピエゾ方式、サーマル方式、静電方式のいずれでもよいが、ピエゾ方式が好ましい。
インクジェットノズルの径も特に限定されるものではなく、インクの粘度や目的とするマイクロディスクの大きさに応じて適宜選定することができるが、通常、10〜100μm程度であり、好ましくは、20〜80μmであるが、クラッド層形成時のノズル径をコア層形成時のノズル径よりも大きくすることが好適である。
【0012】
クラッド層形成に用いられる第1のインクは、フッ素含有HBPを有機溶媒に溶解または分散させて調製される。
フッ素含有HBPとしては、フッ素原子を含有するHBPであれば特に限定されるものではないが、非トリアジン系のHBPが好ましく、アクリル系HBPがより好ましい。
特に、国際公開第2010/137724号に開示されるアクリル系含フッ素HBPが好適であり、中でも、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するモノマーと、分子内にフルオロアルキル基および少なくとも1個の(メタ)アクリル基を有するモノマーとを、モノマー総モルに対して5〜200モル%の重合開始剤の存在下、有機溶媒中で溶液重合させて得られるアクリル系HBPが好ましい。
【0013】
フッ素含有HBPの屈折率は、コア層に用いられるトリアジン系HBPよりも低ければよいが、本発明では1.5以下が好ましい。
フッ素含有HBPの重量平均分子量としては、特に限定されるものではないが、本発明では、1,000〜200,000が好ましく、2,000〜100,000がより好ましく、5,000〜60,000がより一層好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCという)分析による標準ポリスチレン換算で得られる平均分子量である(以下同様)。
【0014】
分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するモノマーの具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシチタントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−アクリロイルオキシ−3−メタクリロイルオキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ウンデシレノキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス[4−(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド、ビス[2−(メタ)アクリロイルチオエチル]スルフィド、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(分子量300)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量500)ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0015】
分子内にフルオロアルキル基および少なくとも1個の(メタ)アクリル基を有するモノマーの具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H−1−(トリフオロメチル)トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロブチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−パーフルオロオクチル−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−3−メチルブチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
重合開始剤としては、アゾ系重合開始剤が好適であり、その具体例としては、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジスルフェートジヒドレート、2,2'−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]テトラヒドレート、2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、4,4'−アゾビス−4−シアノバレリン酸、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、1,1'−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、ジメチル1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロメチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロブチル)エチル)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸−2−(パーフルオロヘキシル)エチル)等が挙げられるが、2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)が好適である。
【0017】
重合に用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系またはエステルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等の複素環式化合物系溶媒が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
重合反応の温度は好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは70〜150℃である。
【0018】
第1のインク調製に用いられる有機溶媒としては、フッ素含有HBPの溶解能を有するものが好適であり、このような有機溶媒としては、上記重合溶媒として例示したものが挙げられるが、特に、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒が好適である。
第1のインク中における、フッ素含有HBPの濃度は、インクジェット塗布による厚膜化を図るという点から、5〜20質量%が好ましく、7〜15質量%がより好ましい。
また、第1のインクの粘度は、インクジェット塗布可能な粘度であれば特に限定されるものではないが、上記フッ素含有HBPの濃度において、25℃で1〜30mPa・sが好ましく、3〜20mPa・sがより好ましい。
また、第1のインクにより作製されるクラッド層はコア層が作製される基礎土台となるため、表面の平坦性を向上させるためにも、低粘度(〜20 mPa・s)が好ましい。
【0019】
第1のインクを用いてクラッド層を形成する基板としては、第1のインクに含まれる溶媒や、後のエッチング工程で使用するエッチャントに対する耐性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ガラス基板、石英基板、ITO基板、IZO基板、金属やその酸化物からなる基板、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂基板などを用いることができるが、本発明では、PET等の樹脂基板が好適である。
【0020】
第1のインクを基板上にインクジェット印刷する際のスポット径は、使用するインクジェットノズル径によっても変動するものであるため一概には規定できないが、本発明では、100〜500μm程度であり、150〜350μm程度が好ましく、220〜320μm程度がより好ましい。
クラッド層形成時のインクジェット印刷の回数は、1回でも複数回でもよいが、十分な厚さとコア層を包括し得る面積かつ平面を有するクラッド層を形成するためには、2〜10回、好ましくは3〜7回の印刷を繰り返して積層することが好ましい。
なお、クラッド層の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.5〜3μm程度である。
【0021】
一方、コア層形成に用いられる第2のインクは、フッ素非含有トリアジン系HBPおよびレーザー色素を有機溶媒に溶解または分散させて調製される。
フッ素非含有トリアジン系HBPとしては、国際公開第2010/128661号に開示される、高屈折率のトリアジン環含有HBPが好適であり、中でも高屈折率であることから、下記式で示される繰り返し単位構造を有するHBPが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
式中、上記Arは、下記式で示されるいずれかの基を示す。
【0024】
【化2】
【0025】
特に、高屈折率と有機溶媒に対する溶解性とのバランスを考慮すると、Ar基としては、下記式で示されるものがより好ましい。
【0026】
【化3】
【0027】
トリアジン系HBPの屈折率は、1.65以上が好ましく、光閉じ込め効果をより高めることを考慮すると、1.70〜1.90がより好ましい。
トリアジン系HBPの重量平均分子量は、500〜500,000が好ましく、より溶解性を高め、第2のインクの粘度を低下させるという点から、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましく、10,000以下がより一層好ましい。
本発明で用いるトリアジン系HBPは、国際公開第2010/128661号記載の方法で製造することができ、例えば、Ar基としてm−フェニレン基を有するトリアジン系HBPは、ハロゲン化シアヌルおよびm−フェニレンジアミンを適当な有機溶媒中で反応させて得ることができる。
この際、有機溶媒としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0028】
第2のインク調製に用いられる有機溶媒としては、トリアジン系HBPの溶解能を有するものが好適であり、このような有機溶媒としては、上記重合溶媒として例示したものが挙げられるが、特に、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が好適である。
第2のインク中における、トリアジン系HBPの濃度は、インクジェット塗布による厚膜化を図るという点から、5〜20質量%が好ましく、7〜15質量%がより好ましい。
また、第2のインクの粘度は、インクジェット塗布可能な粘度であれば特に限定されるものではないが、上記トリアジン系HBPの濃度において、25℃で1〜30mPa・sが好ましく、3〜20mPa・sがより好ましい。
さらに、低しきい値レーザー発振に必要なディスク表面の平坦性を向上させるためにも、低粘度(〜20mPa・s)が好ましい。
【0029】
また、第2のインクに用いられるレーザー色素としては、特に限定されるものではなく、従来公知の色素から適宜選択して用いればよい。
その具体例としては、アントラセン誘導体,テトラセン誘導体,ピレン誘導体,ルブレン誘導体,デカシクレン誘導体,ペリレン誘導体等の炭素縮合環系色素、キサンテン系色素、シアニン系色素、クマリン系色素、キナクリドン系色素、スクアリウム系色素、スチリル系色素、フェノキサゾン系色素、金属または無金属のフタロシアニン、ベンジジン、イリジウム錯体、Al、Zn、Beまたは希土類金属からなる中心金属および配位子から構成される金属錯体などが挙げられるが、有機色素が好ましい。
【0030】
これらの色素は、市販品として入手可能であり、市販品としては、LDS698,720,722,730,750,751,759,765,798,821,867,925,950、クマリン440,445,450,456,460,461,478,480,481,485,487,490,498,500,503,504,504T,510,515,519,521,521T,522B,523,525,535,540,540A,545(以上、(株)インデコ)等が挙げられる。
【0031】
第2のインク中における色素の濃度は、特に限定されるものではないが、本発明では、インク中に0.1〜10mM程度であり、0.5〜5mM程度が好ましく、1〜3mM程度がより好ましい。
【0032】
第2のインクをクラッド層上にインクジェット印刷する際のスポット径は、使用するインクジェットノズル径によっても変動するものであるため一概には規定できないが、クラッド層よりも小さいことが好ましいことから、本発明では、10〜200μm程度であり、50〜150μm程度が好ましく、50〜120μm程度がより好ましい。
コア層形成時のインクジェット印刷の回数は、1回でも複数回でもよいが、本発明の第2のインクを用いた場合、1回の印刷で十分な厚みのコア層を形成できる。
なお、コア層の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.5〜3μm程度である。
【0033】
以上のようにしてインクジェット印刷により、クラッド層とコア層との積層体を製造した後、フッ素含有HBPを優先的に溶かす溶媒を用いてクラッド層をエッチングし、所望の形状の有機マイクロディスク構造体を製造する。
エッチング工程で用いられる溶媒(エッチャント)としては、フッ素含有HBPを優先的に溶かす溶媒であれば特に限定されるものではないが、本発明では、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒を用いることが好ましい。
【0034】
エッチング回数は、特に限定されるものではないが、通常、0.1〜1μL、好ましくは0.1〜0.5μLの溶媒を用いて0.1〜10秒間、好ましくは0.5〜2秒間のエッチングを1〜5回程度行えばよい。
溶媒の除去は、洗浄や吸引等の適宜な手法を用いればよい。
【0035】
本発明の製造方法で得られた有機マイクロディスク構造体は、高い光閉じ込め効果が期待されるトリアジン系HBPを用いているため、既存のリソグラフィ法と同等レベルの低しきい値でレーザー発振可能な有機マイクロディスクレーザーとして機能する。
この有機マイクロディスクレーザーは、その特性を利用して、超低しきい値で発振できる微小レーザー、光信号処理、集積光学回路、バイオセンサ等の高感度センサ類などとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、製造例および実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、使用した装置は以下のとおりである。
[1]インクジェット印刷
装置:インクジェットヘッド(マイクロジェット社製、IJK−200S)、高精度卓上ロボット(武蔵エンジニアリング社製、SHOTmini SL)、ピエゾドライバー(ハンテック社製、MC6)、圧力ドライバー(SMC社製、CN03)による複合装置
インクジェット印刷プロセスは、室温(25℃)、大気圧下で行った。
クラッド層およびコア層の印刷中、基板とインクジェットノズルの間隔は、〜1mmに維持した。
インクジェットヘッドの移動速は、空気乱流による吐出インクの乱れを抑えるため2mm/sの低速に設定した。
[2]レーザー発振スペクトル測定
装置:励起光源(Nanolase社製、PNG−002025−040)、観測顕微鏡(NIKON社製、ECLIPSE TE2000−U)、分光器(Ocean Optics社製、HR4000)による測定光学系システム
マイクロディスクレーザーの発振評価は、室温(25℃)で行った。
【0037】
[製造例1]第1のインクの製造
国際公開第2010/137724号の実施例1と同様の手順により、エチレングリコールジメタクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルメタクリレートおよび2,2′−アゾビスイソ酪酸メチルから製造したフッ素含有アクリル系HBPを、1,4−ジオキサンに溶かし、10質量%の第1のインクを製造した。
【0038】
[製造例2]第2のインクの製造
国際公開第2010/128661号の実施例98と同様の手順により、m−フェニレンジアミン、2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンおよびアニリンから製造したトリアジン系HBPおよびレーザー色素LDS798(Exiton社製)をシクロヘキサノンに溶かし、ポリマー10質量%、色素2mMの第2のインクを製造した。
【0039】
[実施例1]マイクロディスク構造体の作製
(1)クラッド層形成工程
図1に示されるように、70μm径インクジェットノズル13を用い、製造例1で得られた第1のインク11をPET基板10上に5ショット吐出積層して印刷し、スポット径250〜300μmのクラッド層12を形成した。
(2)コア層形成工程
次に、50μm径インクジェットノズル23を用い、製造例2で調製した第2のインク21を、先に形成したクラッド層12上の中央に1ショット吐出して印刷し、スポット径〜100μmのコア層22を形成し、クラッド層12およびコア層22の積層体20を作製した。
(3)エッチング工程
エッチャント31として1,4−ジオキサンを用い、1つの積層体20に対し、一回のエッチングで0.2μLのエッチャント31を投入して1秒間エッチングを行った後、積層体20の側面方向からクリーンペーパーで吸引してエッチャント31を除去する工程を二回繰り返し、マイクロディスク構造体40を得た。
なお、エッチング工程は、室温(25℃)、大気圧下、顕微鏡(NIKON社製、ECLIPSE TE2000−U製)で確認しながら手動で行った。
【0040】
上記実施例1で作製したマイクロディスクについて、下記手法によりレーザー発振特性を測定・評価した。レーザー発振スペクトルの測定結果を図2に、入出力測定結果を図3にそれぞれ示す。
[1]レーザー発振スペクトル
マイクロディスクキャビティーにはスポット径75μmのマイクロディスクを用いた。励起光源にはQスイッチ動作Nd:YAGレーザーの第二次高調波(波長532nm、パルス幅〜5ns、繰り返し周波数100Hz)を用いた。
この光を焦点距離2cmの平凸レンズによりスポット径300μmまで絞ってマイクロディスクに照射した。
マイクロディスクキャビティーのエッジから放出したwhispering−gallery mode(WGM)をもつレーザー光は、倍率100倍の顕微鏡を用いて集光し、分光器を用いた30秒間露光測定によりレーザー発振スペクトルを測定した。
【0041】
[2]入出力測定
レーザー発振評価における入出力特性は、励起光源と集光レンズの間に設置された回転型NDフィルター(減光フィルター)を用い、有効励起エネルギー密度(μJ/mm2)を変えてスペクトルを測定し、有効励起エネルギー密度に対応するスペクトルピークをプロットすることで求めた。このとき有効励起エネルギー密度は、NDフィルターと集光レンズの間でモニターしたエネルギーを元に集光レンズでの損失を考慮して定義した。
【0042】
図2に示されるように、励起エネルギー密度が弱いとき、波長820nm付近をピークとした複数のレーザー発振スペクトルが得られた。励起エネルギー密度を増加させると、発振ピークは短波長側へとシフトした。
最大励起エネルギー密度4.8μJ/mm2のとき、波長811.5nmがピーク波長となった。このとき、ディスク外周を共振器長とする縦モード間隔と等しい1.55nmが得られた。
図3に示されるように、弱励起における立ち上がりを除いた直線フィッティングによりレーザー発振閾値を定義すると、波長817.3nmにおいて最小閾値0.33μJ/mm2が得られた。この閾値は、これまで報告された基礎的なディスク型マイクロキャビティーレーザーにおいて最も低い値である。
【符号の説明】
【0043】
1 クラッド層形成工程
2 コア層形成工程
3 エッチング工程
10 PET基板(基板)
11 第1のインク
12 クラッド層
21 第2のインク
22 コア層
31 エッチャント(溶媒)
40 マイクロディスク構造体
図1
図2
図3