(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579449
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】脂質の分画方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/64 20060101AFI20190912BHJP
C11B 7/00 20060101ALI20190912BHJP
C11B 1/10 20060101ALI20190912BHJP
C10L 1/02 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
C12P7/64
C11B7/00
C11B1/10
!C10L1/02
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-511875(P2016-511875)
(86)(22)【出願日】2015年3月30日
(86)【国際出願番号】JP2015059895
(87)【国際公開番号】WO2015152144
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-71748(P2014-71748)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】神田 英輝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元信
(72)【発明者】
【氏名】沖田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英治
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0146851(US,A1)
【文献】
特開2010−094111(JP,A)
【文献】
特開2007−143479(JP,A)
【文献】
特開2005−102680(JP,A)
【文献】
クリーンエネルギー, 2010, vol.19, no.10, p.59-63
【文献】
J. Jpn. Inst. Energy, 2012, vol.91, no.9, p.1172-1176
【文献】
化学工学, 2013, vol.77, no.9, p.620-623
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
C12P 1/00−41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物バイオマスに含まれる脂質を抽出しながら分画する方法であって、
液化ジメチルエーテルを溶媒として使用して微生物バイオマスから脂質を抽出することにより、複数の分画物を得る工程を含み、
ここで、微生物バイオマスに含まれる脂質に対する液化ジメチルエーテルの分離選択性の差により、分画物は、互いに異なる脂質組成を有する、前記方法。
【請求項2】
微生物バイオマス中の脂質組成を改変する方法であって、
微生物バイオマスに含まれる脂質に対する液化ジメチルエーテルの分離選択性を利用して、液化ジメチルエーテルにより抽出される脂質のうち一部の脂質を抽出し、目的の脂質の微生物バイオマス中の濃度を高める工程を含む、前記方法。
【請求項3】
さらに、請求項2の方法で得た脂質組成が改変された微生物バイオマスから、脂質組成が改変された脂質を抽出することを特徴とする、脂質を製造する方法。
【請求項4】
微生物バイオマスがラビリンチュラ類に属する微生物を培養して得られるバイオマスであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
ラビリンチュラ類がAurantiochytrium属のラビリンチュラ類である、請求項4の方法。
【請求項6】
微生物バイオマスが緑藻類に属する微生物を培養して得られるバイオマスであることを特徴とする請求項1ないし3いずれかに記載の方法。
【請求項7】
緑藻類がHaematococcus属の緑藻類である、請求項6の方法。
【請求項8】
液化ジメチルエーテルによる微生物バイオマスからの抽出を、カラムを用いて行う、請求項1〜7いずれかに記載の方法。
【請求項9】
液化ジメチルエーテルによる微生物バイオマスからの抽出を、バッチ処理により行う、請求項1〜7いずれかに記載の方法。
【請求項10】
分画物が、飽和脂肪酸と高度不飽和脂肪酸の含有割合において互いに異なる、又は、クロロフィルとアスタキサンチンの含有割合において互いに異なる、請求項1の方法。
【請求項11】
一部の脂質が飽和脂肪酸を多く含む脂質であり、目的の脂質が高度不飽和脂肪酸を多く含む脂質である、又は、一部の脂質がクロロフィルを多く含む脂質であり、目的の脂質がアスタキサンチンを多く含む脂質である、請求項2または3の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物バイオマスからの脂質の分画方法に関するものであり、更に詳しくは液化ジメチルエーテルの脂質抽出における分離選択性を利用し、脂質の分画を行う方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微生物バイオマスからの脂質の抽出方法としてヘキサン等の有機溶媒を用いた溶媒抽出や、超臨界二酸化炭素による抽出等、従来から様々な抽出技術が知られ、広く利用されている。例えば渦鞭毛藻
Crypthecodinium cohnii やラビリンチュラ
Aurantiochytrium limacinum (
Schizochytrium limacinumともいう)、糸状菌
Mortierella alpina 等の微生物はドコサヘキサエン酸やアラキドン酸等の有用な高度不飽和脂肪酸含有脂質を生産することが知られている。これらの微生物によって生産される高度不飽和脂肪酸を含有する脂質は複数の企業により実用生産されており、乳幼児用粉ミルクへの添加用や食品への配合用として広く利用されている。これらの脂質の製造に際し、ヘキサン等の有機溶媒を用いた溶媒抽出法によって細胞から抽出する方法が知られている(非特許文献1)。また、微細藻類の一種である緑藻
Haematococcus pluvialis は培養条件をコントロールすることにより休眠細胞(シスト細胞)中にアスタキサンチンを高濃度に蓄積することが知られ、この藻類を利用したアスタキサンチンの生産も複数の企業により実用化されているが、細胞からの抽出にはアセトン等の有機溶媒を用いた溶媒抽出(特許文献1)や超臨界二酸化炭素による抽出(非特許文献2)が行われている。
【0003】
以上のような従来の抽出方法と並び、近年注目されている方法が液化ジメチルエーテル(以下、DMEともいう)を溶媒として用いる抽出方法である。この方法はバイオマスの乾燥が不要、細胞の破砕が不要、抽出に用いた有機溶媒の除去が不要等の特徴を有する(特許文献2、3)。液化ジメチルエーテルを用いる抽出方法では原料の乾燥や抽出物からの溶媒除去等の加熱を必要とする工程を経ないため、例えば微生物バイオマスからの脂質抽出に用いた場合、脂質の酸化が最小限に抑えられ、高品質の脂質を製造することができる。また、乾燥、破砕、溶媒除去に要するエネルギーを省略することにより、より少ないエネルギーコストで脂質を製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4934272号
【特許文献2】特開2010−240609号
【特許文献3】特開2011−031170号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】James Wynn, Paul Behrens, Anand Sundararajan, Joe Hansen, and Kirk Apt, Production of Single Cell Oils by Dinoflagellates, in Single Cell Oils, Zvi Cohen, and Colin Ratledge, eds., AOCS Press, Champaign, Illinois, 2005, pp. 86-98.
【非特許文献2】岡村俊宏:食品工業、Vol. 50、No. 6、p. 56-62、光琳(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この特許文献2の液化ジメチルエーテルを溶媒として用いる抽出方法は、対象材料から抽出できるすべての油分を抽出する技術である。
本発明者らは、この液化DMEを用いる抽出を脂質分画に用いることができないかと思い至り、本発明を見出した。すなわち、本願発明は、液化DMEを溶媒として用いる脂質の分画方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは微生物バイオマスを対象に、これまで脂質に対する分離選択性が知られていなかった液化ジメチルエーテルを溶媒として用いた抽出を行い、抽出物を経時的に分画したところ、分画物の脂肪酸組成に経時変化が起こっていることを発見し、本発明を完成した。すなわち本発明は、微生物バイオマスからの脂質の新たな分画方法を提供することを目的とするものである。
本発明は以下の(1)から(7)に記載の方法を要旨とする。
(1)微生物バイオマスを、液化ジメチルエーテルを溶媒として用いた抽出に供し、脂質に対する分離選択性を利用して脂質を分画する方法。
(2)微生物バイオマスを、液化ジメチルエーテルを溶媒として用いた抽出に供し、脂質に対する分離選択性を利用して一部の脂質を分画することにより、微生物バイオマス中に残る脂質の脂肪酸組成を改変する方法。
(3)さらに、(2)の方法で得た脂肪酸組成が改変された微生物バイオマスから、脂肪酸組成が改変された脂質を抽出することを特徴とする、脂質を製造する方法。
(4)微生物バイオマスがラビリンチュラ類に属する微生物を培養して得られるバイオマスであることを特徴とする(1)ないし(3)いずれかに記載の方法。
(5)ラビリンチュラ類が
Aurantiochytrium属のラビリンチュラ類である、(4)の方法。
(6)微生物バイオマスが緑藻類に属する微生物を培養して得られるバイオマスであることを特徴とする(1)ないし(3)いずれかに記載の方法。
(7)緑藻類が
Haematococcus属の緑藻類である、(6)の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により液化DMEを溶媒とする、微生物バイオマスからの脂質の新たな分画方法を提供することができる。例えば液化DMEを用いて分画するだけで、飽和脂肪酸を多く含有する脂質と高度不飽和脂肪酸を多く含有する脂質を分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明に用いる装置の1態様を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、微生物バイオマスの菌体内に含まれる脂質を取り出す際に、液化DMEの脂質に対する選択性の差を利用して、脂質を分画するものである。
本発明で用いる液化DME(IUPAC名:メトキシメタン)は、沸点が−23.6℃であるため、常温では気体である。これを液体としたものを本発明の溶媒として用いる。DMEを液化するには、圧力0.25〜1.14MPa、温度0〜50℃程度の範囲で適宜調節することができる。
【0011】
本発明において、微生物とは、その菌体内に脂質を生産する微生物である。例えば、クリプセコジニウム(
Crypthecodinium)属、スラウストキトリウム(
Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(
Schizochytrium)属、ウルケニア(
Ulkenia)属、ジャポノキトリウム(
Japonochytrium)属、ハリフトロス(
Haliphthoros)属、モルティエレラ(
Mortierella)属、ペニシリューム(
Penicillium)属、アスペルギルス(
Aspergillus)属、ロードトルラ(
Rhodotorula)属、フザリューム(
Fusarium)属に属する微生物である。具体的には、渦鞭毛藻
Crypthecodinium cohnii やラビリンチュラ
Aurantiochytrium limacinum (
Schizochytrium limacinumともいう)、糸状菌
Mortierella alpina 等の微生物、緑藻
Haematococcus pluvialisが例示される。
本発明において、脂質とは、微生物が生産する脂質であり、主にトリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、リン脂質、遊離脂肪酸、ステロール類、炭化水素等である。さらにアスタキサンチン等のカロテノイドのような、微生物が生産する脂質に含まれる色素などの成分も脂質とともに分画することができる。
【0012】
脂質に結合している脂肪酸は、微生物によって組成は異なるが、通常炭素数12〜24、二重結合数0〜6の脂肪酸がさまざまな比率で含まれる。生理活性があり有用とされる脂肪酸は高度不飽和脂肪酸であり、高度不飽和脂肪酸とは、炭素数18以上、二重結合数3以上の脂肪酸であり、より好ましくは炭素数20以上、二重結合数3以上の脂肪酸である。具体的には、α‐リノレン酸(18:3,n‐3)、γ‐リノレン酸(18:3,n‐6)、アラキドン酸(20:4,n‐6)、ジホモ-γ-リノレン酸(20:3,n‐6)、エイコサペンタエン酸(20:5,n‐3)、ドコサペンタエン酸(22:5,n‐6)、ドコサヘキサエン酸(22:6,n‐3)などが例示される。
微生物菌体中の脂質には、これらの脂肪酸がトリグリセリドやリン脂質などの構成脂肪酸として結合している。
【0013】
液化DMEの分離選択性を利用する最も簡単な方法は、カラムに微生物菌体を詰めて、そのカラムに液化DMEを一定速度で流し、流出液を分画する方法である。実施例に示すように、液化DMEは微生物菌体から脂質を溶出する際に選択性がある。
飽和脂肪酸を含有する脂質を早く溶出し、高度不飽和脂肪酸を含有する脂質は遅れて溶出される。この差を利用し、全脂肪酸中に含まれる高度不飽和脂肪酸の濃度を高めることが可能である。カラムを用いず、バッチ処理で、少量の液化DMEでの抽出を繰り返すことでも同様のことが可能である。その他、同様の効果を発揮するどのような装置を用いてもよい。
【0014】
従来、微生物菌体から溶媒抽出する場合、例えば、ヘキサンによって効率良く抽出されているが、ヘキサンの脂質に対する分離選択性は低いため、抽出された中性脂質の脂肪酸組成は微生物バイオマス中の中性脂質の脂肪酸組成と基本的に同一である。もし抽出された脂質中の高度不飽和脂肪酸を濃縮する場合には、抽出後に別途精製工程を行う。脂肪酸組成を改変する精製方法としては尿素付加法、ウィンタリング法、精密蒸留法、リパーゼによる濃縮法等が知られており、いずれも分子量や不飽和結合数といった脂肪酸の性状の違いに基づいて脂肪酸組成を改変する方法である。
本発明の方法により、微生物菌体からの抽出段階で、一定の濃縮が可能となる。本発明の分離を行った後で、さらに上記のような従来の精製方法を用いることも可能である。
【0015】
上記の分離選択性を利用して、液化DMEで飽和脂肪酸など不要な脂肪酸を選択的に微生物菌体から抽出除去し、その後、ヘキサン等で残存する脂質をすべて抽出することもできる。
【0016】
アスタキサンチンのような脂質に含まれる色素は、液化DMEにより分画することにより、それが多く含まれる脂質と共に濃縮され、そのまま濃縮色素として用いることも、あるいは、さらに、超臨界二酸化炭素による抽出等のアスタキサンチンを精製する方法を適用して精製することもできる。
【0017】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例で用いた抽出装置の構成を
図1に示す。微生物を充填する抽出カラム(HPG-10-5、耐圧硝子工業株式会社製、180mm×26mm(内径))の出口側と貯蔵容器(HPG-96-3、耐圧硝子工業株式会社製、容量96cm
3)をステンレスチューブで接続する。抽出カラムと貯蔵容器はガラス及びポリカーボネートを用いた耐圧容器から成る。ジメチルエーテルタンクから液化ジメチルエーテルを微生物菌体を充填した抽出カラムに送液し、抽出カラムからの抽出液は、貯蔵容器内に回収する。抽出を所定時間行った後、貯蔵容器の減圧バルブを開放してジメチルエーテルを気化させて除去し、残った抽出物と水の混合物を回収する。
【実施例1】
【0018】
ラビリンチュラからの脂質の抽出
ラビリンチュラ類に属する微生物
Aurantiochytrium limacinumの種菌をGY培地(30g グルコース、10g 酵母エキスを50%濃度の人工海水 1Lに溶解し、pH7.0に調整したもの)にて培養した。培養には50mLの三角フラスコを用い、これに30mLのGY培地を入れ、100rpmで振盪しながら28℃で3日間培養した。この培養液から遠心分離により菌体を回収し、回収した菌体を蒸留水で洗浄して培地成分を除去したのち、さらに遠心分離により菌体を回収した。回収した菌体を凍結乾燥に供して微生物バイオマスを得た。得られた微生物バイオマスは、抽出に供するまで-20℃の冷凍庫にて保管した。
凍結乾燥した微生物バイオマス0.33gに蒸留水1.263gを添加して良く撹拌したサンプルを、
図1の抽出装置を用いて分画しながら抽出した。その際、液化ジメチルエーテルの流量を5mL/minに設定した。抽出カラムの温度は20℃に設定し、圧力は0.51MPaだった。なお、微生物バイオマスに蒸留水を添加し含水状態としたのは、培養液から回収した菌体に近い状態の再現を目的としている。この間、細胞の破砕を目的とした操作は行っていない。
抽出液は、表1に記載の時間ごとに分画した。液化ジメチルエーテルを流すことによって得た各フラクションを常温、常圧に戻すことでジメチルエーテルを気化させ、各フラクション中の抽出物からジメチルエーテルを除去した。さらに、乾燥した気体(本実施例ではジメチルエーテルを使用)を抽出物と十分接触させることにより各フラクション中の抽出物から水分を除去し、表1に記載の量のオイルを得た。
【0019】
【表1】
【0020】
このようにして得られた各オイルから脂肪酸メチルエステルを調製し、ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸組成分析に供した。分析にはガスクロマトグラフ:Agilent Technologies 7890A GC System、カラム:J&W DB-WAX(内径0.25mm×長さ30m、膜厚0.25μm)を使用し、カラム温度(昇温条件)は140℃→240℃(4℃/分)、240℃で10分間保持、キャリアガスHe(1.05ml/min)の条件で分析を行った。その結果を表2に示す。各オイルの脂肪酸組成が大きく異なる結果が得られ、このことから液化ジメチルエーテルを溶媒とした抽出方法は脂質に対する分離選択性を有することが明らかになった。
表2のフラクション番号1および2のオイルでは、脂肪酸組成におけるパルミチン酸(C16:0)の値が約80%と極めて高かった。これは、本実施例の全てのフラクションのオイルを合計した場合のパルミチン酸の脂肪酸組成よりも高い値だった。したがい、液化ジメチルエーテルを溶媒とした抽出方法は、バイオ燃料として期待されるパルミチン酸を含有する脂質の割合を高める分画が可能な方法であることが明らかになった。
また、表2のフラクション番号3、4、5のオイルのDHAの脂肪酸組成は、本実施例の全てのフラクションのオイルを合計した場合のDHAの脂肪酸組成よりも高い値を示していた。したがい、液化ジメチルエーテルを溶媒とした抽出方法は、DHAを含有する脂質の割合を高める分画が可能な方法であることが明らかになった。
【0021】
【表2】
【実施例2】
【0022】
ジメチルエーテルを用いた選択的抽出により、DHA濃度が濃縮された微生物油を得る方法
実施例1の結果より、微生物バイオマスから、C16:0などを選択的に抽出除去し、バイオマスにDHAなどを残留させることができることが考えられた。
実施例1で用いた微生物バイオマスには、表3の「原料」の欄に記載したオイルが含まれていた。このバイオマスに対して、表2のフラクション番号2までの抽出だけを行う。そうすると、計算上、バイオマス中には、表3の「抽出後バイオマス」に示した組成の油脂が残る。
表3に示すように、液化ジメチルエーテルを溶媒とした抽出方法によりパルミチン酸を含有する脂質の割合が高い脂質を抽出することにより、微生物バイオマス中の他の脂肪酸、例えばDHAを含有する脂質の割合を高めることが可能であることがわかる。
この微生物バイオマスをさらに抽出の原料として用い、ヘキサンのような脂質に対する分離選択性が低い溶媒で抽出することにより、DHAを含有する脂質の割合を高めた脂質を効率よく抽出することができる。
【0023】
【表3】
【実施例3】
【0024】
ヘマトコッカス藻からの脂質の抽出
バイオジェニック株式会社から購入したヘマトコッカス藻乾燥バイオマス(
Haematococcus pluvialis、BM070828、未破砕品)を微生物バイオマスとして抽出に供した。微生物バイオマス0.403gに蒸留水2.317gを添加して良く撹拌したサンプルを、
図1の抽出装置を用いた抽出に供した。その際、液化ジメチルエーテルの流量を10mL/minに設定した。抽出カラムの温度は20℃に設定し、圧力は0.51MPaだった。この間、細胞の破砕を目的とした操作は行っていない。実施例1と同様の操作を行って得たオイルの量を表4に、またこれらオイルを脂肪酸組成分析に供した結果を表5に示す。各オイルの脂肪酸組成が大きく異なる結果が得られ、実施例1と同様、液化ジメチルエーテルを溶媒とした抽出方法は脂質に対する分離選択性を有することが明らかになった。
実施例1及び本実施例の結果から、液化ジメチルエーテルを溶媒とした脂質に対する分離選択性を利用して脂質を分画する方法は、微生物の種類に依存することなく利用できることが明らかになった。
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
実施例3で得た各オイル中のアスタキサンチンの重量をHPLC法により測定した。アスタキサンチン標品及び各オイルは、アセトン:クロロホルム=2:1に溶解して分析に供した。分析条件は次のとおり(カラム:COSMOSIL 250 × 4.6 mm (i.d.), 5C
18-MS-PAQ type(ナカライテスク株式会社製)、検出器:インテリジェント紫外可視検出器UV-2075 plus(日本分光株式会社製)、移動相:メタノール:テトラヒドロフラン=9:1、流速:1.5mL/min、検出:470nm)。結果を表6に示した。また、各オイルの目視による色調も表6に記載した。
Haematococcus pluvialisは緑藻類に属する微細藻類であり、脂溶性の色素であるクロロフィル(緑色)を光合成色素として含む。また、そのシスト細胞にはやはり脂溶性の色素であるアスタキサンチン(赤橙色)を高濃度に蓄積することが知られている。液化ジメチルエーテルを溶媒とした抽出で得られた各オイルの色調が明らかに異なることから、液化ジメチルエーテルはこれらの脂溶性色素に対しても分離選択性を有することが確認された。この性質を利用し、例えばクロロフィルが低減され、その結果、より鮮やかな赤橙色を呈するアスタキサンチン含有オイルを製造する方法を提供することが可能である。
【0028】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、有用な高度不飽和脂肪酸を含有する微生物バイオマスから脂質を抽出すると同時に、飽和脂肪酸を多く含有する脂質と高度不飽和脂肪酸を多く含有する脂質を分画することができる。液化ジメチルエーテルを単に抽出溶媒として用いるのではなく、分画しながら抽出する溶媒として用いる方法を提供する。