特許第6579466号(P6579466)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579466サンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置、及び該サンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579466
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】サンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置、及び該サンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20190912BHJP
   G01N 27/447 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   G01N1/02 A
   G01N27/447 301
   G01N27/447 301C
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-77776(P2015-77776)
(22)【出願日】2015年4月6日
(65)【公開番号】特開2016-197077(P2016-197077A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2018年3月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)事業「ナノ・マイクロポアを用いたInSECTシステムの開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】川合 知二
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正輝
(72)【発明者】
【氏名】筒井 真楠
(72)【発明者】
【氏名】横田 一道
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−274573(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0098659(US,A1)
【文献】 特開2006−177767(JP,A)
【文献】 特開2014−173935(JP,A)
【文献】 特開2009−264786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00 − 1/44
G01N 15/00 − 15/14
G01N 27/447
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板の下面に形成され、捕捉したサンプルを測定部に移動するためのサンプル移動流路、及び
該サンプル移動流路に形成されたサンプル捕集孔、
を含み、
前記サンプル捕集孔は前記サンプル移動流路から第1基板を貫通する貫通孔であり、前記サンプル移動流路に充填する導電性溶液が前記サンプル捕集孔を通じて第1基板の上面に液滴を形成することで周囲のサンプルを捕集できるサンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置。
【請求項2】
前記サンプル移動流路の一方の端部に導電性溶液を充填する充填孔が形成され、他方の端部には導電性溶液を排出する排出孔が形成されている請求項1に記載のサンプル捕集装置。
【請求項3】
前記サンプル移動流路の他端側に複数の分岐流路が形成されている請求項1又は2に記載のサンプル捕集装置。
【請求項4】
前記サンプル移動流路に、サンプルを分離するサンプル分離部が形成されている請求項1〜3の何れか一項に記載のサンプル捕集装置。
【請求項5】
前記サンプル移動流路のサンプル捕集孔以外の部分に、ピラーが形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載のサンプル捕集装置。
【請求項6】
前記サンプル移動流路の両端に捕集したサンプルを電気泳動により移動させるための電極が形成されている請求項1〜5の何れか一項に記載のサンプル捕集装置。
【請求項7】
前記サンプル移動流路が、非直線形状である請求項1〜6の何れか一項に記載のサンプル捕集装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載のサンプル捕集装置、
前記サンプル捕集装置に液密に接合する第2基板を含み、
前記サンプル捕集装置により捕集されたサンプルを測定する測定部、
を含むサンプル検出デバイス。
【請求項9】
前記測定部が、前記サンプル捕集装置のサンプル移動流路を挟むように形成した電極である請求項8に記載のサンプル検出デバイス。
【請求項10】
前記測定部が、前記第2基板に形成されたポア及び該ポアに形成した電極を含む請求項8に記載のサンプル検出デバイス。
【請求項11】
第1基板、該第1基板に液密に接合する第2基板、前記第1基板及び/又は前記第2基板に形成されたサンプルの電気泳動用の電極を含み、
前記第2基板は、捕集したサンプルを測定部に移動するためのサンプル移動流路、及びサンプルを測定する測定部、を含み、
前記第1基板には、前記サンプル移動流路に被さる部分に第1基板を貫通するサンプル捕集孔が形成され、前記サンプル移動流路に充填する導電性溶液が前記サンプル捕集孔を通じて第1基板上に液滴を形成することで周囲のサンプルを捕集できるサンプル検出デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置、及び該サンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイスに関する。特に、PM2.5、ウィルス、花粉、菌、毒素等の身の回りの微小な有害・危険物質を短時間で測定することができ、且つ装置を小型化・モバイル化するためのサンプル検出デバイスのサンプル捕集に用いることができるサンプル捕集装置、及び該サンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
大気中に含まれる細胞、菌、花粉、PM2.5等の微小サンプルの大きさ、個数等を正確に測定することは、健康な生活を送る上で大切な情報であり、簡単且つ精度よく測定できることが望まれている。
【0003】
図1は、サンプルの大きさや個数等の測定方法の従来技術を示しており、シリコン等の基板上に形成した細孔(マイクロポア)をサンプルが通過する際に生じるイオン電流の変化を測定することで、サンプルの体積の差異を識別している。
【0004】
図2は、サンプルの大きさや個数等の測定方法の他の従来技術を示しており、細孔を通過するサンプルの状態をより詳しく測定するため、マイクロ流路を形成した基板を横置きにすることで細孔部分を蛍光顕微鏡で観察できるようにし、イオン電流の測定に加えマイクロポアの周りの事象を直接観察する方法も知られている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Waseem A.et al.,Lab on a Chip, Vol.12, pp.2345−2352 (2012)
【非特許文献2】Naoya.Y et al.,“Tracking single−particle dynamics via combined optical and electrical sensing”, SCIENTIFIC REPORTS, Vol.3, pp.1−7(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1及び2に記載されている測定方法(装置)は、サンプルを導電性溶液に高濃度に分散する必要がある。そのため、大気中に希薄に浮遊する細胞、菌、花粉、PM2.5等の微小サンプルを分析するためには、大気中のサンプルを吸引・濃縮する必要があり、装置が大型化してしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、(1)基板上に形成したサンプル移動流路に基板を貫通するサンプル捕集孔を設けることで、サンプル移動流路に充填する導電性溶液がサンプル捕集孔を通り基板上に液滴を形成できること、(2)大気中に液滴を晒すことで、大気中に浮遊する細胞、菌、花粉、PM2.5等の微小サンプルを捕集できること、(3)サンプル移動流路に電場をかけることで、液滴で捕集した微小サンプルを電気泳動によりサンプル移動流路内で移動できること、を新たに見出した。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、大気中に浮遊する微小サンプルを捕集するためのサンプル捕集装置、及びサンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示す、サンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置、及び該サンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイスに関する。
【0010】
(1)第1基板上に形成され、捕捉したサンプルを測定部に移動するためのサンプル移動流路、及び
該サンプル移動流路に形成されたサンプル捕集孔、
を含み、
前記サンプル捕集孔は前記サンプル移動流路から第1基板を貫通する貫通孔であり、前記サンプル移動流路に充填する導電性溶液が前記サンプル捕集孔を通じて第1基板上に液滴を形成することで周囲のサンプルを捕集できるサンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置。
(2)前記サンプル移動流路の一方の端部に導電性溶液を充填する充填孔が形成され、他方の端部には導電性溶液を排出する排出孔が形成されている上記(1)に記載のサンプル捕集装置。
(3)前記サンプル移動流路の他端側に複数の分岐流路が形成されている上記(1)又は(2)に記載のサンプル捕集装置。
(4)前記サンプル移動流路に、サンプルを分離するサンプル分離部が形成されている上記(1)〜(3)の何れか一に記載のサンプル捕集装置。
(5)前記サンプル移動流路のサンプル捕集孔以外の部分に、ピラーが形成されている上記(1)〜(4)の何れか一に記載のサンプル捕集装置。
(6)前記サンプル移動流路の両端に捕集したサンプルを電気泳動により移動させるための電極が形成されている上記(1)〜(5)の何れか一に記載のサンプル捕集装置。
(7)前記サンプル移動流路が、非直線形状である上記(1)〜(6)の何れか一に記載のサンプル捕集装置。
(8)上記(1)〜(7)の何れか一に記載のサンプル捕集装置、
前記サンプル捕集装置に液密に接合する第2基板を含み、
前記サンプル捕集装置により捕集されたサンプルを測定する測定部、
を含むサンプル検出デバイス。
(9)前記測定部が、前記サンプル捕集装置のサンプル移動流路を挟むように形成した電極である上記(8)に記載のサンプル検出デバイス。
(10)前記測定部が、前記第2基板に形成されたポア及び該ポアに形成した電極を含む上記(8)に記載のサンプル検出デバイス。
(11)第1基板、該第1基板に液密に接合する第2基板、前記第1基板及び/又は前記第2基板に形成されたサンプルの電気泳動用の電極を含み、
前記第2基板は、捕集したサンプルを測定部に移動するためのサンプル移動流路、及びサンプルを測定する測定部、を含み、
前記第1基板には、前記サンプル移動流路に被さる部分に第1基板を貫通するサンプル捕集孔が形成され、前記サンプル移動流路に充填する導電性溶液が前記サンプル捕集孔を通じて第1基板上に液滴を形成することで周囲のサンプルを捕集できるサンプル検出デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明のサンプル捕集装置を使うことで、大気中に浮遊する細胞、菌、花粉、PM2.5等の微小サンプルを捕集することができる。したがって、公知のサンプル検出デバイスと組み合わせることで、大気中に浮遊する微小サンプルを捕集及び濃縮する装置が不要であり、サンプル検出デバイスを小型化及びモバイル化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、サンプルの大きさや個数等の測定方法の従来技術を示す図である。
図2図2は、サンプルの大きさや個数等の測定方法の他の従来技術を示す図である。
図3図3(1)は本発明の捕集装置1の概略を示す上面図で、図3(2)は図3(1)のA−A’断面図である。
図4図4は、捕集装置1のサンプル捕集原理を説明する図である。
図5図5は、図4に示す捕集装置1を含むデバイス10の一例を示す断面図である。
図6図6は、測定部として第2基板11にポア13を形成したデバイス10の断面図である。
図7図7は、捕集装置1の他の実施形態を示す図である。
図8図8は、サンプル分離部の実施形態を示す図である。
図9図9は、分岐流路31を複数形成したイメージ図である。
図10図10は、サンプル捕集装置1の製造工程の一例を示す図である。
図11図11は図面代用写真で、図11(1)は実施例1で作製した捕集装置1の全体の写真、図11(2)はサンプル捕集孔4を形成したエリアを拡大した写真である。
図12図12は図面代用写真で、実施例2で作製した捕集装置1の写真である。
図13図13は図面代用写真で、サンプル捕集孔4に液滴が生成したことを示す写真である。
図14図14は図面代用写真で、図14(1)は通電直後の写真、図14(2)は通電開始約1分後の写真でスリットの上流側でサンプルがトラップされていることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、サンプル検出デバイス用のサンプル捕集装置(以下、「捕集装置」と記載することがある。)、及び該サンプル捕集装置を含むサンプル検出デバイス(以下、「デバイス」と記載することがある。)について詳しく説明する。
【0014】
図3(1)は、本発明の捕集装置1の概略を示す上面図で、図3(2)は図3(1)のA−A’断面図である。捕集装置1は、第1基板2に形成され捕捉したサンプルを測定部に移動するためのサンプル移動流路3、サンプル移動流路3に形成され基板2を貫通する貫通孔であるサンプル捕集孔4を少なくとも含み、サンプル移動流路3に導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6を形成してもよい。
【0015】
図4は、捕集装置1のサンプル捕集原理を説明する図である。捕集装置1と後述する第2基板を液密に接合しデバイス1を作製した後、充填孔5又は任意のサンプル捕集孔4を通してサンプル移動流路3に導電性溶液を充填する。サンプル移動流路3が導電性溶液で満たされると、導電性溶液はサンプル捕集孔4を通り第1基板2上に液滴7を形成する。そして、液滴7は大気に晒されることから、大気中に浮遊しているサンプル8が液滴7に付着する。付着したサンプル8は、後述する電気泳動用電極を用いてサンプル移動流路3に電場をかけることでサンプル移動流路3内を電気泳動し、測定部に移動する。したがって、従来から使用しているデバイスの一部を設計変更するのみで、大気中を浮遊している微小サンプルを捕集・測定できるので、デバイスを小型化できる。
【0016】
図5は、図4に示す捕集装置1を含むデバイス10の一例を示す断面図である。図5に示すデバイス10は、捕集装置1に第2基板11を液密に接合して作製している。また、電気泳動用の電極12は第2基板11に形成しているが、電極12は導電性液体に接触できれば特に制限は無い。例えば、サンプル移動流路3の両端部の壁面に形成してもよい。また、電極12の一方を第2基板11、他方を第1基板2に形成してもよい。図5に示すデバイスの場合、測定部は第1基板2のサンプル移動流路3に形成した細孔部分(図4の9)を挟むように図示しない測定電極を形成し、細孔部分9をサンプル8が通過する際のイオン電流を測定すればよい。
【0017】
図6は、測定部として第2基板11にサンプルが通過するポア13を形成したデバイス10の断面図である。図6に示すデバイス10は、捕集装置1にポア13を形成した第2基板11を液密に接合し、更に、ポア13を通過したサンプルを回収する空間を形成するための第3基板14を液密に接合している。また、電極12の一方を第2基板11の第3基板14側に形成することで、サンプル移動流路3に入ったサンプル8がポア13に流れやすくしている。なお、上記の電極12の一方は第3基板14に形成してもよい。図6に示すデバイスの場合、測定部はポア13を挟むように図示しない測定電極を形成し、サンプル8がポア13を通過する際のイオン電流を測定すればよい。なお、ポア13は複数形成してもよい。
【0018】
サンプル移動流路3の幅及び深さは、サンプルのサイズより大きければ特に制限は無いが、測定部の形態に応じて、最適となるように調整すればよい。例えば、図3に示すようにサンプル移動流路3を挟むように測定電極を形成する場合、測定感度はサンプルが通過する細孔部分の体積が少なくないほど感度が高くなる。そのため、サンプル移動流路3の少なくとも一部を測定対象サンプルが通過できるサイズよりやや大きめのサイズとすることが望ましい。例えば、空気中のPM2.5の直径は約2.5μmであるので、サンプル移動流路3の幅及び深さは、3μm程度の大きさであればよい。また、スギ花粉の直径は約20〜40μm、ヒノキ花粉の直径は28μm〜45μm程度と言われているので、幅及び深さは約50μm程度であればよい。
【0019】
また、測定部を図6に示すポア13と測定電極で形成する場合は、サンプル移動流路3の幅及び深さは特に制限は無い。なお、サンプル移動流路3の抵抗成分Rは、
R=導電性溶液の抵抗率×(流路の長さ)/(流路の高さ×流路の幅)
で表される。なお、測定部をポア13と測定電極で形成する場合、測定感度を高くするためにはポア13の断面積が小さい方が好ましいのでポア13の抵抗は大きくなる。サンプル移動流路3と測定部の抵抗の差は少ない方が好ましいことから、測定対象サンプルのサイズ等を考慮し、サンプル移動流路3の抵抗が大きくなるように設計すればよい。抵抗を大きくするためには、例えば、サンプル移動流路3を長くすればよいので、非直線状にすればよい。なお、本発明において「非直線」とは、サンプル移動流路3に直線部分が含まれない、又は、サンプル移動流路3が直線部分と折り返し部分を含むことを意味する。直線部分が含まれない例としては、渦巻き状が挙げられる。また、直線部分と折り返し部分を含む例としては、図7に示すようにサンプル移動流路3を折り返して同じ方向に旋回する形状、蛇腹形状等が挙げられる。サンプル移動流路3を長くすることで、サンプル移動流路3の抵抗を大きくすることができ、更にサンプル捕集孔4をより多く形成できるので、サンプルの捕集効率が向上する。
【0020】
サンプル移動流路3の途中には、捕集したサンプルを分離するサンプル分離部を形成してもよい。図8はサンプル分離部の実施形態を示す図で、サンプル移動流路3にピラー20を所定の間隔で形成することで、サイズの大きなサンプルを捕捉し分析対象サンプルのみを通過させる例を示しているが、サンプル分離部はサイズ分離ができれば特に制限は無い。例えば、図8に示すピラーに代え、スリットを形成してもよい。また、サンプル移動流路3を形成した後に市販のサイズ分離フィルターを挿入してもよい。
【0021】
サンプルの捕集効率を高めるためには、第1基板2に形成するサンプル移動流路3の面積を大きくし、更に、サンプル捕集孔4も多く形成することが望ましい。しかしながら、サンプル移動流路3の面積を大きくすると第2基板11との間の空洞部分が多くなり、サンプル捕集装置1の強度が低下するという問題が発生する。そのため、サンプル移動流路3のサンプル捕集孔4以外の部分に、補強用のピラーを形成してもよい。補強用のピラーは、サンプルの通過を阻害しなければ大きさや形状に特に制限は無いが、サンプルが電気泳動により移動し易くするため、ランダムではなく規則正しく配置することが好ましい。なお、補強用のピラーを所定間隔で形成することで、サンプル分離用のピラー20と補強用のピラーを共通化してもよい。サンプル移動流路3へのピラーの形成は後述するサンプル捕集装置1と一体的に製造することができる。
【0022】
図6に示すポア13と測定電極で測定部を形成するデバイス10の場合、サンプル移動流路3の端部に分岐流路を複数形成し、第2基板11にも、分岐流路に応じて複数のポア13を形成してもよい。図9は分岐流路31を複数形成したイメージ図で、第1基板2の表面の図示を省略してある。矢印はサンプルが移動する方向を示している。図9に示す例では、サンプル移動流路3に接続する分岐流路31と分岐流路31の間に、サンプル分離流路3の下流側に向かうにしたがって間隔を狭くしたサンプル分離ピラー20を形成することで、サンプル分離流路3の上流側に接続する分岐流路31ほど大きなサンプルが流れ込みやすくなる。分離ピラーの間隔は、形成する分岐流路31の本数及び分離サンプルの大きさにより適宜調整すればよい。
【0023】
図10は、サンプル捕集装置1の製造工程の一例を示す図である。
(1)第1基板2の両面にポジ型フォトレジスト41をスピンコートで塗布する。
(2)第1基板2のサンプル移動流路3を形成する面に、サンプル移動流路3を形成する個所に光が照射するようにフォトマスクをする。サンプル移動流路3内にサンプル分離部及び/又はピラー20を形成する場合は、サンプル分離部及び/又はピラー20を形成する部分には光が照射せず、その周りに光が照射するようにフォトマスクをする。露光・現像処理し、光を照射した部分のポジ型フォトレジスト41を除去する(以下、除去した部分を「エッチング部分」と記載する。)。
(3)エッチング部分をBoschプロセス等の手法を用いてエッチングをする。なお、エッチングは、第1基板2を貫通しないように、所定の厚みを残しておく。
(4)第1基板2のサンプル移動流路3を形成する面のポジ型フォトレジスト41を除去する。
(5)第1基板2の他の面に、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6、サンプル捕集孔4を形成する個所に光が照射するようにフォトマスクをする。露光・現像処理し、光を照射した部分のポジ型フォトレジスト41を除去する。
(6)エッチング部分をBoschプロセス等の手法を用い、反対側に貫通するまでエッチングをする。
(7)第1基板2上のポジ型フォトレジスト41を除去する。
【0024】
なお、上記は製造方法の一例を示しているに過ぎず、他の製造方法であってもよい。例えば、以下の手順が挙げられる。
(1)第1基板2の一方の面からサンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6をエッチングする。
(2)他方の面からも、サンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6をエッチングし、第1基板2にサンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、及び導電性溶液を排出するための排出孔6用の貫通孔を形成する。
(3)第1基板2の一方の面に、サンプル移動流路3、必要に応じてサンプル分離部及び/又はピラー20をエッチングにより形成する。
【0025】
第1基板2は、半導体製造技術の分野で一般的に用いられている絶縁性の材料であれば特に制限は無い。例えば、Si、Ge、Se、Te、GaAs、GaP、GaN、InSb、InP、SiN等が挙げられる。
【0026】
ポジ型フォトレジスト9としては、OFPR、TSMR V50、PMER等、半導体製造分野で一般的に使用されているものであれば特に制限はない。また、ポジ型に代え、ネガティブ型フォトレジストを用いてもよく、SU−8、KMPR等、半導体製造分野で一般的に使用されているものであれば特に制限はない。その場合、露光する個所がポジ型と反対となるようにフォトマスクをすればよい。フォトレジストの除去液は、ジメチルホルムアミドとアセトン等、半導体分野で一般的な除去液であれば特に制限はない。
【0027】
第2基板11は、図5に示す測定電極をサンプル捕集装置1に形成する実施形態の場合は、第1基板2と同様の材料で作製した板状部材を使用すればよい。また、図6に示す第2基板11にポア13を形成する場合は、図10に示したエッチング部分がポア13となるようにポジ型フォトレジストとフォトマスクを調整し、ポア13を形成すればよい。なお、ポア13の抵抗成分R’は、
R’=導電性溶液の抵抗率×(ポアの深さ)/(ポアの断面積)
で表されるので、測定対象サンプルのサイズ等を考慮し、ポア13の抵抗が小さくなるように設計すればよい。また、第2基板14も、第1基板2と同様の材料で作製すればよい。
【0028】
電気泳動用の電極12、測定電極は、アルミニウム、銅、白金、金、銀、チタン等の公知の導電性金属を用いて、第1基板2、第2基板11を作製後、フォトリソグラフィやプリンター等により形成すればよい。
【0029】
第1基板2及び第2基板11は、微細な流路や孔に導電性溶液を充填し易くするため親水化処理をしてもよい。親水化処理方法としては、プラズマ処理、界面活性剤処理、PVP(ポリビニルピロリドン)処理、光触媒等が挙げられ、例えば、第1基板2及び第2基板11の表面を10〜30秒間プラズマ処理することで、表面に水酸基を導入することができる。
【0030】
デバイス10に充填する導電性溶液は電気が通れば特に制限は無く、TEバッファー、PBSバッファー、HEPESバッファー等が挙げられる。
【0031】
上記したデバイス10は、サンプル捕集装置1側にサンプル移動流路3を形成しているが、第2基板11側にサンプル移動流路3、必要に応じてサンプル移動流路3内にサンプル分離部及び/又はピラー20を形成し、サンプル捕集装置1には、サンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6のみを形成してもよい。その場合、デバイス10は以下の手順で作製することができる。
(1)第2基板11の片面にポジ型フォトレジスト41をスピンコートで塗布する。
(2)サンプル移動流路3を形成する個所に光が照射するようにフォトマスクをする。サンプル移動流路3内にサンプル分離部及び/又はピラー20を形成する場合は、サンプル分離部及び/又はピラー20を形成する部分には光が照射せず、その周りに光が照射するようにフォトマスクをする。
(3)露光・現像処理し、光を照射した部分のポジ型フォトレジスト41を除去する(以下、除去した部分を「エッチング部分」と記載する。)。
(4)エッチング部分をBoschプロセス等の手法を用いてエッチングをする。なお、エッチングは、第2基板11を貫通しないように、所定の厚みを残しておく。
(5)第2基板11のサンプル移動流路3を形成する面のポジ型フォトレジスト41を除去する。
(6)次に、サンプル捕集装置1の作製を行う。先ず、第1基板2の片面にポジ型フォトレジスト41をスピンコートで塗布する。
(7)サンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6を形成する個所に光が照射するようにフォトマスクをする。
(8)露光・現像処理し、光を照射した部分のポジ型フォトレジスト41を除去する(以下、除去した部分を「エッチング部分」と記載する。)。
(9)エッチング部分をBoschプロセス等の手法を用い、反対側に貫通するまでエッチングをする。
(9)第2基板11上のポジ型フォトレジスト41を除去する。
【0032】
なお、第2基板11に測定部用のポア13を形成する場合は、第2基板11のサンプル移動流路3を形成した面とは反対側に、ポア13を形成する個所に光が照射するようにフォトマスクをし、上記(3)と同様の手順を行った後、エッチング部分をサンプル移動流路3に貫通するまでエッチングし、次いで、ポジ型フォトレジスト41を除去すればよい。その後、電気泳動用の電極12及び測定電極を、フォトリソグラフィやプリンター等により形成すればよい。
【0033】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0034】
〔捕集装置1の作製〕
<実施例1>
以下の手順により、捕集装置1を作製した。
(1)30mm角の大きさにダイシングした厚さ300μmのSi基板の両面にポジ型フォトレジスト(OFPR)をスピンコートした。
(2)LED描画により、Si基板の一方の面に、サンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6をパターニングした。
(3)現像後、Boschプロセスにより、250μmの深さまでSi基板をエッチングした。
(4)残ったレジストを剥離液によって除去後、今度はSi基板の他方の面をLED描画により、サンプル捕集孔4、導電性溶液を充填するための充填孔5、導電性溶液を排出するための排出孔6のパターニングを行った。
(5)現像後、Boschプロセスにより、貫通するまでSi基板をエッチングした。残ったレジストを剥離液によって除去した。
(6)Si基板の一方の面に、OFPRをスピンコートし、LED描画によりサンプル移動流路3、補強用のピラー20をパターニングした。
(7)BoschプロセスによりSi基板をエッチングし、残ったレジストを剥離液により剥離した。
(8)CVDプロセスによりSi基板の両面にSiO2を蒸着することで、全面を親水化させた。
【0035】
図11(1)は、実施例1で作製した捕集装置1の全体の写真である。なお、充填孔5、及び排出孔6はシールドされており写っていない。図11(2)はサンプル捕集孔4を形成したエリアを拡大した写真で、黒い部分がサンプル捕集孔4である。サンプル捕集孔4の直径は約20μmであった。また、サンプル捕集孔4の重心位置には、補強用のピラー20を形成した。
【0036】
<実施例2>
サンプル移動流路3を渦巻き状となるように設計した以外は、実施例1と同様の手順でサンプル捕集装置1を作製した。図12は実施例2で作製したサンプル捕集装置1の写真である。
【0037】
〔デバイスの作製〕
<実施例3>
先ず、以下の手順で第2基板11を作製した。
厚さ50nmのSi34膜で両面が被覆されたSiウェハー(厚さ0.3mm)上のSi34膜を、反応性イオンエッチング法により部分的に除去(1mm四方の四角い穴の空いたメタルマスクで基板を覆ってエッチングを行った。)した後、KOH水溶液を用いたSi(100)の異方性エッチングによりSi34メンブレンを作製した。続いて、電子線描画法を用いてマイクロポアを描画し、反応性イオンエッチング法によりSi34を掘削することで、ポア13をメンブレン中に作製した。電気泳動電極および測定電極は、銀/塩化銀ペーストを白金棒に塗布し、その後加熱することで形成した。
【0038】
次いで、実施例2で作製したサンプル捕集装置1、第2基板11を液密に接合し、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で作製した第3基板を第2基板に液密に接合することで、デバイス10を作製した。
【0039】
〔液滴生成の確認〕
<実施例4>
超純水を、実施例3で作製したデバイスの充填孔5からデバイス10に充填した。図13は、サンプル捕集孔4に液滴が生成したことを示す写真である。
【0040】
〔捕捉したサンプルの電気泳動の確認〕
<実施例5>
次に、液滴に付着したサンプルがサンプル移動流路3を電気泳動で流れるか確認を行った。上記実施例1のサンプル捕集装置1のサンプル捕集孔4が形成されているエリアのサンプル移動流路3にサンプル分離部としてマイクロスリット(間隔:2μm)を形成した以外は、実施例1と同様の手順でサンプル捕集装置1を作製した。次いで、透明な材料であるPDMSを用いて電気泳動用電極を蒸着した第2基板11を作製し、サンプル捕集装置1と液密に接合することでデバイス10を作製した。
次に、導電性溶液としてPBSバッファーをサンプル移動流路3に充填し、サンプル捕集孔4に液滴を作製した。作製した液滴に、サンプルとして蛍光分子でラベルされたポリスチレン微粒子(粒径約1μm)を付着し、電気泳動用電極に通電した。
【0041】
図14(1)は通電直後の写真で、矢印の方向にサンプルが流れる様に通電している。図14(2)は通電開始約1分後の写真であり、スリットの上流側でサンプルがトラップされていることを確認した(白丸で囲まれている部分)。
以上の結果より、サンプル捕集装置1のサンプル捕集孔4に形成した液滴で捕捉したサンプルは、サンプル捕集孔4を通りサンプル移動流路3内を電気泳動により移動することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のデバイスを用いることで、大気中を浮遊する微小サンプルを別途捕集及び濃縮する装置を必要とせず、自動的に捕集・分析することができる。したがって、スマートフォン等の小型デバイスに組み込むことで、身の回りの危険物質を分析する機器の開発に有用である。
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