特許第6579560号(P6579560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579560重原子化化合物、膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物、および該組成物を用いた膜タンパク質の構造解析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579560
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】重原子化化合物、膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物、および該組成物を用いた膜タンパク質の構造解析方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/14 20060101AFI20190912BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20190912BHJP
   G01N 23/205 20180101ALI20190912BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20190912BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20190912BHJP
   C07C 233/54 20060101ALN20190912BHJP
   C07F 9/09 20060101ALN20190912BHJP
【FI】
   C07K1/14
   C07K14/705
   G01N23/205
   G01N23/207
   G01N23/2055 310
   !C07C233/54
   !C07F9/09 V
【請求項の数】7
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2018-508813(P2018-508813)
(86)(22)【出願日】2017年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2017007540
(87)【国際公開番号】WO2017169445
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年4月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-64669(P2016-64669)
(32)【優先日】2016年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22−27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「ERATO 村田脂質活性構造プロジェクト」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】杉山 成
(72)【発明者】
【氏名】花島 慎弥
(72)【発明者】
【氏名】溝端 栄一
(72)【発明者】
【氏名】村田 道雄
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
(72)【発明者】
【氏名】斎木 悠
(72)【発明者】
【氏名】島田 真典
(72)【発明者】
【氏名】松森 信明
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公告第785670(GB,A)
【文献】 英国特許出願公告第820661(GB,A)
【文献】 米国特許第4965391(US,A)
【文献】 特開2010−24257(JP,A)
【文献】 特開2014−172833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−1/36
C07K 14/00−14/825
G01N 23/00−23/2276
C07C 233/00−233/92
C07F 9/00−9/94
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物であって、
以下の式:
【化1】
で表される重原子化化合物、
以下の式:
【化2】
で表される重原子化化合物、および
以下の式:
【化3】
で表される重原子化化合物
からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、組成物。
【請求項2】
膜タンパク質の構造解析方法であって、
脂質および界面活性剤を混合して脂質集合体を形成する工程;
該脂質集合体と膜タンパク質とを接触させて、膜タンパク質−脂質集合体結晶を形成する工程;
該膜タンパク質−脂質集合体結晶に、請求項に記載の組成物を添加して、重原子誘導体結晶を形成する工程;ならびに
該重原子誘導体結晶のX線回折を通じて、該膜タンパク質の立体構造を判定する工程;
を包含する、方法。
【請求項3】
前記脂質集合体が、バイセル、デンドリマー、およびリポソームからなる群より選択される少なくとも1種の分子群である、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記脂質集合体がバイセルである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
膜タンパク質の構造解析方法であって、
脂質、界面活性剤および請求項に記載の組成物を混合して、重原子化化合物を含有する脂質集合体を形成する工程
該重原子化化合物を含有する脂質集合体と膜タンパク質とを接触させて、重原子誘導体結晶を形成する工程;ならびに
該重原子誘導体結晶のX線回折を通じて、該膜タンパク質の立体構造を判定する工程;
を包含する、方法。
【請求項6】
前記重原子化化合物を含有する脂質集合体が、前記重原子化化合物を構造内部に取り込んだ形態で構成される、バイセル、デンドリマー、およびリポソームからなる群より選択される少なくとも1種の分子群である、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記重原子化化合物を含有する脂質集合体が、前記重原子化化合物を構造内部に取り込んだ形態で構成される、バイセルである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重原子化化合物、膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物、および該組成物を用いた膜タンパク質の構造解析方法に関し、より詳細には、膜タンパク質の結晶品質の低下を防止し得る、化合物および組成物、ならびに該組成物を用いた膜タンパク質の構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜タンパク質の構造と機能の解明は、生命科学に残された最大の課題の1つであり、医学・薬学における重要性も極めて高い。
【0003】
一般に、タンパク質の構造解析には、単結晶X線解析が最も頻繁に用いられている。しかし、膜タンパク質のX線結晶構造解析の成功例は、水溶性タンパク質と比較して非常に少ない。現在タンパク質の立体構造データベース(PDB)には、およそ12万種類のタンパク質の立体構造が登録されているが、その多くは水溶性タンパク質に関するものである。膜タンパク質の立体構造は約600種類が登録されているに過ぎない。
【0004】
このように膜タンパク質の登録例が少ない理由の1つに、膜タンパク質の結晶構造の測定のために行われるフーリエ合成の際の位相角(位相情報)をどのように決定するかと言う点がある。一般的な位相情報の決定(位相決定)には、分子置換法(Molecular Replacement)、同型置換法(MIR、SIR)、多波長異常分散法(MAD)または単一波長異常分散法(SAD)のような方法がある(非特許文献1)。
【0005】
しかし、これらの方法には、相同タンパク質の三次元構造が必要である、高品質の結晶が必要である、結晶化のために充分量を必要とする等の制限がある。このため、大量発現が困難な膜タンパク質には必ずしも容易に適用され得ないものであった。
【0006】
これに対し、タンパク質の結晶を水銀原子や白金原子などの重原子を含有する重原子試薬(例えば、MeHgOAcおよびKPtCl)に浸漬してタンパク質と重原子との誘導体結晶を作製し、当該誘導体結晶を通じて位相決定と、当該タンパク質の構造解析とを行う方法が提案されている(非特許文献2)。
【0007】
しかし、上記重原子試薬を用いて得られる誘導体結晶では、本質的に結晶化が容易でない膜タンパク質の結晶品質が維持されず、または当該品質がさらに低下して、所望の膜タンパク質について適切な構造解析の結果を得ることができないことが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jan Drenth,“Principle of Protein X-ray Crystallography”,1994年,ISBN 0-387-94091-X,Springer-Verlag New York Berlin Heidelberg
【非特許文献2】坂部知平:監修「タンパク質の結晶化」,2005年,ISBN 4-87698-657-6,京都大学学術出版会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、膜タンパク質の結晶品質を低下させることなく容易に位相決定を行うことができ、かつ種々の膜タンパク質についての構造解析を可能にする、重原子化化合物、膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物、および該組成物を用いた膜タンパク質の構造解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の式(I):
【0011】
【化1】
【0012】
ここで、
は:
単結合、
酸素原子、あるいは
−NR−(ここで、Rは、水素原子;分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基であって、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい、アルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;である)
であり、
Zは:
少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基、もしくは
少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数3〜10のヘテロアリール基であって、該ヘテロアリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、ヘテロアリール基、
であり、
Aは:
分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20のアルキル基であって、該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルキル基、
分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20のアラルキル基であって、該アラルキル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アラルキル基;
炭素数2〜20のアルケニル基であって、該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルケニル基;もしくは
以下の式(II):
【0013】
【化2】
【0014】
(ここで、
は:
単結合;
酸素原子;あるいは
−NR−(ここで、Rは、水素原子;分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;である)
であり;そして
nは5から30の整数である)で表される基;
である、重原子化化合物である。
【0015】
1つの実施形態では、上記式(I)における、
が単結合であり;
Zが、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基であり;そして
Aが、以下の式(II):
【0016】
【化3】
【0017】
(ここで、Xおよびnは上記に定義した通りである)で表される基である。
【0018】
さらなる実施形態では、上記式(I)における、Zが以下の式(III):
【0019】
【化4】
【0020】
(ここで、RおよびRは同一または異なっていてもよいハロゲン原子である)で表されるアリール基である。
【0021】
1つの実施形態では、上記式(I)における、
が−NH−であり;
Zが、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基であり;そして
Aが、分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20のアルキル基であって、該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルキル基である。
【0022】
さらなる実施形態では、上記式(I)における、Zが以下の式(IV):
【0023】
【化5】
【0024】
(ここで、R、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つはハロゲン原子であり、かつ残りがそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、またはカルボキシル基である)で表されるアリール基である。
【0025】
本発明はまた、膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物であって、上記重原子化化合物および以下の式(V):
【0026】
【化6】
【0027】
(ここで、R10およびR11は同一または異なっていてもよいハロゲン原子である)
で表される重原子化化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有する、組成物である。
【0028】
本発明はまた、膜タンパク質の構造解析方法であって、
脂質および界面活性剤を混合して脂質集合体を形成する工程;
該脂質集合体と膜タンパク質とを接触させて、膜タンパク質−脂質集合体結晶を形成する工程;
該膜タンパク質−脂質集合体結晶に、上記組成物を添加して、重原子誘導体結晶を形成する工程;ならびに
該重原子誘導体結晶のX線回折を通じて、該膜タンパク質の立体構造を判定する工程;
を包含する、方法である。
【0029】
1つの実施形態では、上記脂質集合体は、バイセル、デンドリマー、およびリポソームからなる群より選択される少なくとも1種の分子群である。
【0030】
さらなる実施形態では、上記脂質集合体はバイセルである。
【0031】
本発明はまた、膜タンパク質の構造解析方法であって、
脂質、界面活性剤および上記組成物を混合して、重原子化化合物を含有する脂質集合体を形成する工程
該重原子化化合物を含有する脂質集合体と膜タンパク質とを接触させて、重原子誘導体結晶を形成する工程;ならびに
該重原子誘導体結晶のX線回折を通じて、該膜タンパク質の立体構造を判定する工程;
を包含する、方法である。
【0032】
1つの実施形態では、上記重原子化化合物を含有する脂質集合体は、上記重原子化化合物を構造内部に取り込んだ形態で構成される、バイセル、デンドリマー、およびリポソームからなる群より選択される少なくとも1種の分子群である。
【0033】
さらなる実施形態では、上記重原子化化合物を含有する脂質集合体は、上記重原子化化合物を構造内部に取り込んだ形態で構成される、バイセルである。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、膜タンパク質のX線結晶構造解析に必要な重原子誘導体結晶の位相決定を、当該誘導体の結晶品質の低下を招くことなく容易に行うことができる。これにより、膜タンパク質の構造解析を迅速かつより正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の第1の膜タンパク質の構造解析方法に使用される重原子誘導体結晶の作製手順の例を説明するための模式図である。
図2】本発明の第2の膜タンパク質の構造解析方法に使用される重原子誘導体結晶の作製手順の例を説明するための模式図である。
図3】実施例7で得られた重原子誘導体結晶の全体構造を示す図であり、(a)は当該誘導体結晶の構造解析によって得られた実験的マップ(メッシュ)を有する全体構造(リボン状モデル)を示す図であり、そして(b)は、(a)中に囲みを入れた部分(重原子化化合物(実施例2)の結合部位の周辺)を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
まず、本明細書中で用いられる用語を定義する。
【0037】
本明細書において、用語「炭素数1〜nの直鎖アルキル基」は、炭素数1からn(ここでnは正の整数である)の任意の直鎖状アルキル基を包含して言う。この定義において、用語「分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基」は、炭素数1から7の任意の直鎖状アルキル基、炭素数3から7の任意の分岐状アルキル基、および炭素数3から7の任意の環状アルキル基を包含し、例えば、炭素数1〜7の「直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、およびn−ペプチル基が挙げられ;炭素数3から7の任意の分岐状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、イソペンチル、tert−ペンチル基、イソヘキシル基、tert−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、イソヘプチル基、ter−ヘプチル基、sec−ヘプチル基などが挙げられ、炭素数3〜6の任意の環状アルキル基としては、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。また、用語「炭素数1〜3のアルキル基」は、炭素数1から3の任意の直鎖アルキル基をいい、例えば、メチル基、エチル基、およびn−プロピル基を包含する。さらに、用語「炭素数3〜6のシクロアルキル基」としては、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。またさらに、用語「分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20のアルキル基」は、炭素数5から20の任意の直鎖状アルキル基、炭素数5から20の任意の分岐状アルキル基、および炭素数5から20の任意の環状アルキル基を包含する。
【0038】
本明細書において、用語「炭素数1〜3のアルコキシ基」は、炭素数1から3の任意の直鎖状のアルコキシ基をいい、例えばメチルオキシ基、エチルオキシ基、およびn−プロピルオキシ基を包含する。
【0039】
本明細書において、用語「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。好ましくは、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0040】
本明細書において、用語「炭素数1〜3のアルキルアミノ基」は、アミノ基を構成する水素原子の1つまたは2つが、炭素数1から3の直鎖状のアルキル基で置換された基をいい、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、n−プロピルアミノ基などを包含する。
【0041】
本明細書において、用語「炭素数6〜11のアリール基」は、炭素数6から11の任意のアリール基をいい、例えば、フェニル基、インデニル基などを包含する。
【0042】
本明細書において、用語「炭素数5〜14のアラルキル基」は、炭素数5から14の任意のアラルキル基をいい、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、3−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、4−フェニルブチル基、3−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基などを包含する。さらに、本明細書において、用語「炭素数5〜20のアラルキル基」は、炭素数5から20の任意のアラルキル基をいい、例えば、上記炭素数5〜14のアラルキル基を包含する。
【0043】
本明細書において、用語「炭素数3〜10のヘテロアリール基」は、炭素数6〜11のアリール基を構成する少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子、ならびにこれらの組合せ)で置換された、炭素数3から10の任意のヘテロアリール基をいい、例えば、ピリジル基、ピロリル基、キノリル基、インドリル基、イミダゾリル基、フリル基、チエニル基などを包含する。
【0044】
本明細書において、用語「炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基」は、炭素数5〜14のアラルキル基を構成する少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子(例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子、ならびにこれらの組合せ)で置換された、炭素数4から13の任意のヘテロアリールアルキル基をいい、例えば、ピリジルメチル基、インドリルメチル基、フリルメチル基、チエニルメチル基、ピロリルメチル基、2−ピリジルエチル基、1−ピリジルエチル基、3−チエニルプロピル基などを包含する。
【0045】
本明細書において、用語「炭素数2〜20のアルケニル基」は、炭素数2から20の任意の直鎖状のアルケニル基をいい、例えば、エテニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−ヘキセニル基などを包含する。
【0046】
本明細書において、用語「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子を包含する。
【0047】
本明細書において、用語「重原子誘導体結晶」とは、脂質および界面活性剤から構成される脂質集合体と、重原子化化合物と、膜タンパク質とを含有する複合体の結晶を言い、例えば、脂質集合体内に膜タンパク質が添加されて再構成され、かつ当該脂質集合体に、重原子化化合物(本発明の重原子化化合物を包含する)が取り込まれた形態を有する、複合体の結晶を包含する。
【0048】
以下、本発明について詳述する。
【0049】
(重原子化化合物)
本発明の重原子化化合物は、以下の式(I):
【0050】
【化7】
【0051】
で表される構造を有する。ここで、式(I)において、
は:
単結合、
酸素原子、あるいは
−NR−(ここで、Rは、水素原子;分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基であって、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい、アルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;である)
であり、
Zは:
少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基、もしくは
少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数3〜10のヘテロアリール基であって、該ヘテロアリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、ヘテロアリール基、
であり、
Aは:
分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20(好ましくは6〜11)のアルキル基であって、該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルキル基、
分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20(好ましくは6〜11)のアラルキル基であって、該アラルキル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アラルキル基;
炭素数2〜20(好ましくは6〜14)のアルケニル基であって、該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルケニル基;もしくは
以下の式(II):
【0052】
【化8】
【0053】
(ここで、
は:
単結合;
酸素原子;あるいは
−NR−(ここで、Rは、水素原子;分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;である)
であり;そして
nは5から30、好ましくは5から16の整数である)で表される基;
である。
【0054】
本発明の1つの実施形態では、本発明の重原子化化合物は、種々の膜タンパク質に対し、より安定した重原子誘導体結晶を提供することができるという点から、上記式(I)において、
が単結合であり;
Zが、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基であり;そして
Aが、以下の式(II):
【0055】
【化9】
【0056】
(ここで、Xおよびnは上記に定義した通りである)で表される基であることが好ましい(以下、このような構造を有する重原子化化合物を「HAC1」ということがある)。
【0057】
さらに、本発明の1つの実施形態では、上記重原子化化合物(HAC1)は、式(I)におけるZが、好ましくは以下の式(III):
【0058】
【化10】
【0059】
(ここで、RおよびRは同一または異なっていてもよいハロゲン原子である)で表されるアリール基であり、より好ましくは以下の式(III’):
【0060】
【化11】
【0061】
(ここで、RおよびRは同一または異なっていてもよいハロゲン原子である)で表されるアリール基である構造を有する。
【0062】
本発明の重原子化化合物(HAC1)のうち、このような構造を有するさらに具体的な化合物の例としては、以下の式(VI):
【0063】
【化12】
【0064】
(ここで、X、RおよびR、ならびにnは上記に定義した通りである)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
上記式(VI)の化合物は両親媒性化合物であり、後述する膜タンパク質の構造解析方法において脂質集合体との溶解性が良好であり、かつ膜タンパク質と特異的に結合する性質を有する。
【0066】
本発明の1つの実施形態では、本発明の重原子化化合物はまた、種々の膜タンパク質に対し、より安定した重原子誘導体結晶を提供することができるという点から、上記式(I)において、
が−NH−であり;
Zが、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基であり;そして
Aが、分岐または環を形成していてもよい炭素数5〜20のアルキル基であって、該アルキル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルキル基であることが好ましい(以下、このような構造を有する重原子化化合物を「HAC2」ということがある)。
【0067】
さらに、本発明の1つの実施形態では、上記重原子化化合物(HAC2)は、式(I)におけるZが、好ましくは以下の式(IV):
【0068】
【化13】
【0069】
(ここで、R、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つはハロゲン原子であり、かつ残りがそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、またはカルボキシル基である)で表されるアリール基であり、より好ましくは以下の式(IV’):
【0070】
【化14】
【0071】
(ここで、R5’、R6’およびR7’は同一または異なっていてもよいハロゲン原子であり、そしてR8’およびR9’はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、またはカルボキシル基である)で表されるアリール基である構造を有する。
【0072】
本発明の重原子化化合物(HAC2)のうち、このような構造を有するさらに具体的な化合物の例としては、以下の式(VII):
【0073】
【化15】
【0074】
(ここで、R5’、R6’、R7’、R8’およびR9’は上記に定義した通りであり、そしてmは4〜19、好ましくは4〜12の整数である)で表される化合物が挙げられる。
【0075】
上記式(VII)の化合物もまた両親媒性化合物であり、後述する膜タンパク質の構造解析方法において脂質集合体との溶解性が良好であり、かつ膜タンパク質と特異的に結合する性質を有する。
【0076】
本発明の1つの実施形態では、本発明の重原子化化合物はまた、種々の膜タンパク質に対し、より安定した重原子誘導体結晶を提供することができるという点から、上記式(I)において、
が−NH−であり;
Zが、少なくとも1つの水素原子がハロゲン原子で置換された炭素数6〜11のアリール基であって、該アリール基の少なくとも1つの他の水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アリール基であり;そして
Aが、炭素数2〜20のアルケニル基であって、該アルケニル基の少なくとも1つの水素原子が、分岐または環を形成していてもよい炭素数1〜7のアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数6〜11のアリール基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数5〜14のアラルキル基;炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数3〜10のヘテロアリール基;または炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、およびカルボキシル基からなる群から選択される少なくとも1つの基で置換されていてもよい炭素数4〜13のヘテロアリールアルキル基;で置換されていてもよい、アルケニル基であることが好ましい(以下、このような構造を有する重原子化化合物を「HAC3」ということがある)。
【0077】
さらに、本発明の1つの実施形態では、上記重原子化化合物(HAC3)は、式(I)におけるZが、好ましくは以下の式(IV):
【0078】
【化16】
【0079】
(ここで、R、R、R、RおよびRのうちの少なくとも1つはハロゲン原子であり、かつ残りがそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、またはカルボキシル基である)で表されるアリール基であり、より好ましくは以下の式(IV’):
【0080】
【化17】
【0081】
(ここで、R5’、R6’およびR7’は同一または異なっていてもよいハロゲン原子であり、そしてR8’およびR9’はそれぞれ独立して、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、炭素数1〜3のアルキルアミノ基、シアノ基、水酸基、またはカルボキシル基である)で表されるアリール基である構造を有する。
【0082】
本発明の重原子化化合物(HAC3)のうち、このような構造を有するさらに具体的な化合物の例としては、以下の式(VIII):
【0083】
【化18】
【0084】
(ここで、R5’、R6’、R7’、R8’およびR9’は上記に定義した通りであり、そしてpとqとの合計(すなわち、p+q)は2〜18の整数である、好ましくはpおよびqがそれぞれ独立して1〜10の整数である)で表される化合物が挙げられる。
【0085】
上記式(VIII)の化合物もまた両親媒性化合物であり、後述する膜タンパク質の構造解析方法において脂質集合体との溶解性が良好であり、かつ膜タンパク質と特異的に結合する性質を有する。
【0086】
本発明の重原子化化合物は、公知の化合物から、例えば一つの反応工程を経て製造することができる。
【0087】
本発明の重原子化化合物は、膜タンパク質などのタンパク質との結晶化を促進して、重原子誘導体結晶を容易に形成し得る。このため、本発明の重原子化化合物は、例えば、タンパク質のX線結晶構造解析に利用される結晶化促進試薬として使用することができる。
【0088】
(膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物)
次に、本発明の膜タンパク質の結晶化を促進するための組成物(結晶化促進組成物)について説明する。
【0089】
本発明の結晶化促進組成物は、膜タンパク質などのタンパク質との結晶化を促進して、重原子誘導体結晶を容易に形成することができる。本発明の結晶化促進組成物は、式(I):
【0090】
【化19】
【0091】
(ここで、A、XおよびZはそれぞれ独立して、上記に定義した通りである)で表される重原子化化合物、および/または以下の式(V):
【0092】
【化20】
【0093】
(ここで、R10およびR11は同一または異なっていてもよいハロゲン原子である)
で表される重原子化化合物を含有する。
【0094】
本発明の結晶化促進組成物において、式(I)で表される重原子化化合物のより好ましい例は、上記の通りである。一方、式(V)で表される化合物は疎水性化合物であり、後述する膜タンパク質の構造解析方法において脂質集合体との溶解性が良好であり、かつ膜タンパク質と特異的に結合する性質を有する。
【0095】
式(V)で表される化合物の好ましい例としては、以下の式(V’):
【0096】
【化21】
【0097】
(ここで、R10およびR11は上記で定義した通りである)で表される重原子化化合物が挙げられる。式(V)または(V’)で表される化合物は公知であり、本発明の結晶化促進組成物のために、例えば市販の化合物を使用することができる。
【0098】
本発明の結晶化促進組成物は、例えば、脂質集合体と膜タンパク質とを接触させて得られた膜タンパク質−脂質集合体結晶に添加することにより、脂質存在下での膜タンパク質の結晶化が高められた重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)を形成することができる。あるいは、当該重原子誘導体結晶は、脂質と界面活性剤と本発明の組成物とを混合して、重原子化化合物を含有する脂質集合体を形成し、その後当該脂質集合体を膜タンパク質と接触させることにより形成することもできる。あるいは、当該重原子誘導体結晶は、脂質と界面活性剤と本発明の組成物とを混合して、重原子化化合物を含有する脂質集合体を形成し、その後当該脂質集合体を膜タンパク質と接触させ、さらに本発明の組成物(同一または異なっていてもよい)を添加することにより形成することができる。
【0099】
本発明の結晶化促進組成物を用いて得られた重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)は、例えば、膜タンパク質のX線結晶構造解析に利用可能な試薬として有用である。
【0100】
(膜タンパク質の構造解析方法)
本発明の膜タンパク質の構造解析方法は、いくつかの重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)を経て行うことができる。ここで、本発明の第1の膜タンパク質の構造解析方法として、脂質集合体としてバイセル(平面状脂質二重層)を用いた場合について説明する。
【0101】
図1は、本発明の第1の膜タンパク質の構造解析方法に使用される重原子誘導体結晶の作製手順の例を説明するための模式図である。
【0102】
本発明の第1の方法では、まず、脂質16および界面活性剤20を混合して、脂質集合体100が形成される(図1の(a))。
【0103】
脂質16の例としては、リン脂質、糖脂質、スフィンゴ脂質、ステロール、アーキオール、およびカルドアーキオール、ならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、コレステロールおよびにスフィンゴミエリン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明において、脂質16には、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンが好ましい。
【0104】
界面活性剤20の例としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤、ならびにそれらの組合せが挙げられる。アニオン性界面活性剤の例としては、コール酸ナトリウム水和物、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム水和物、タウロコール酸ナトリウム塩水和物、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩溶液、N−ラウロイルサルコシンナトリウム塩、ドデシル硫酸リチウム、およびドデシル硫酸ナトリウム、ならびにそれらの組合せが挙げられる。カチオン性界面活性剤の例としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドおよびミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ならびにそれらの組合せが挙げられる。両性界面活性剤の例としては、CHAPSO(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート)、CHAPS(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート水和物)、C7BzO(3−(4−ヘプチル)フェニル−3−ヒドロキシプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホナート)、3−(N,N−ジメチルオクチルアンモニオ)プロパンスルホン酸分子内塩、3−(デシルメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、N−ドデシル−N,N−ジメチル−3−アンモニオ−1−プロパンスルホン酸、3(N,N−ジメチルミリスチルアンモニオ)プロパンスルホン酸、3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホン酸、および3−(N,N−ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホナートならびにそれらの組合せが挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、N,N−ビス[3−(D−グルコンアミド)プロピル]デオキシコールアミド、Brij L23(ポリオキシエチレン23ラウリルエーテル)、Brij 58(ポリオキシエチレン20セチルエーテル)、2−シクロヘキシルエチルβ−D−マルトシド、6−シクロヘキシルヘキシルβ−D−マルトシド、ジヒドロウラシル、n−ドデシルβ−D−マルトシド、ウンデシルβ−D−マルトシド、デシル−β−D−1−チオマルトピラノシド、オクチルβ−D−グルコピラノシド、オクチルβ−D−グルコピラノシド溶液、オクチルβ−D−チオグルコピラノシド、ジギトニン、ジメチルデシルホスフィンオキシド、N−オクタノイル−N−メチルグルカミン、およびN−ノナノイル−N−メチルグルカミン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明において界面活性剤20には両性界面活性剤が好ましく、CHAPSO(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート)がより好ましい。
【0105】
脂質集合体100の形成は、例えば、上記脂質16および界面活性剤20をそれぞれ含有する水溶液を混合することにより行われる。なお、上記では脂質集合体100がバイセルである場合について説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されない。本発明に用いられる脂質集合体の例としては、リポソーム、バイセル(平面状脂質二重層)、およびデンドリマー(球状脂質ベシクル)ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0106】
次いで、脂質集合体100と膜タンパク質30とが接触させられ、膜タンパク質−脂質集合体結晶が形成される。
【0107】
膜タンパク質30は構造解析を要するタンパク質であり、例えば、図1の(a)に示すように、細胞膜中で脂質18に取り囲まれた形態で存在する。本発明では、当該脂質18に取り囲まれた膜タンパク質30が脂質集合体100と接触すると、脂質集合体100の内部に膜タンパク質30および一部の脂質18を取り込んで再構成が行われ、膜タンパク質−脂質集合体110の結晶が形成される(図1の(b))。
【0108】
脂質集合体100と膜タンパク質30との接触は、例えば、上記で得られた脂質集合体100を、膜タンパク質30を含有する緩衝液と混合して結晶化のための母液を調製することにより行われる。脂質集合体100と膜タンパク質30との混合比は、必ずしも限定されないが、体積を基準として好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは1:3〜1:5である。このような混合比を採用することにより、後述するような構造解析において有用な単結晶化を促すことができる。混合の際の温度は特に限定されないが、脂質集合体100と膜タンパク質30との混合が容易となる(温度の上昇に比例して脂質集合体100の粘度が上昇するためである)理由から、0℃〜6℃の温度に調節されていることが好ましい。
【0109】
本発明においては、膜タンパク質−脂質集合体110をより大きな結晶に成長させるために、ソーキング法などの当該分野において公知の手法を用いて結晶化を促進してもよい。
【0110】
こうして膜タンパク質−脂質集合体110の結晶が形成される。
【0111】
次いで、膜タンパク質−脂質集合体110の結晶に、本発明の結晶化促進組成物42が添加される。
【0112】
上記結晶化促進組成物42の添加において、構成成分である重原子化化合物40(すなわち、上記式(I)の重原子化化合物、および/または式(V)で表される重原子化化合物)は、膜タンパク質−脂質集合体結晶を含む母液に対し、最終濃度が好ましくは0.001モル〜0.01モル、より好ましくは0.003モル〜0.006モルとなる割合で添加される。添加される重原子化化合物の量が0.001モルを下回ると、後述する重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)が充分に形成されず、結果として膜タンパク質の立体構造を判定する際に位相決定を適切に行うことが困難になるおそれがある。添加される重原子化化合物の量が0.01モルを上回ると、膜タンパク質−脂質集合体結晶の品質が大きく低下するおそれがある。
【0113】
本発明の結晶化促進組成物は、上記のように両親媒性分子および/または疎水性分子である化合物を含有する。これにより、膜タンパク質−脂質集合体110を構成する脂質二重膜の一部が溶解し、これらの化合物が当該集合体内に取り込まれる。
【0114】
このようにして、脂質集合体を構成する脂質16,18の内部に重原子化化合物40と、膜タンパク質30とが取り込まれた重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)120が形成される(図2の(b))。
【0115】
次いで、重原子誘導体結晶120のX線回折を通じて、当該膜タンパク質の立体構造が判定される。
【0116】
重原子誘導体結晶120のX線回折を通じた立体構造の解析には、単一波長異常分散法(SAD)、同型置換法(MIR,SIR)、多波長異常分散法(MAD)などの当該分野において公知の方法が採用され得る。ここで、単一波長異常分散法(SAD)を用いる場合について例示すると、まず、上記重原子誘導体結晶の得るために用いられた本発明の結晶化促進組成物における重原子化化合物を構成するハロゲン原子(ヨウ素原子等)特有の吸収端を最も高くするX線波長がXAFS測定(X線吸収微細構造測定)により設定される。そして、このX線波長を有するシンクロトロン放射光を当該重原子誘導体結晶に照射し、市販の自動解析ソフトを用いることにより目的とする膜タンパク質の立体構造を把握することができる。シンクロトロン放射光は、我が国においては「SPring−8」(兵庫県佐用郡佐用町)または「Photon Factory」(茨城県つくば市)の設備を利用することができる。なお、本発明においては、解析データの精度を高めるために、X線回折分解能として3.5Å以上のX線回折データを使用することが好ましい。
【0117】
このようにして膜タンパク質の構造解析を行うことができる。
【0118】
次に、本発明の第2の膜タンパク質の構造解析方法として、脂質集合体としてバイセルを用いた場合について説明する。
【0119】
図2は、本発明の第2の膜タンパク質の構造解析方法に使用される重原子誘導体結晶の作製手順の例を説明するための模式図である。
【0120】
本発明の第2の方法では、まず、脂質16、界面活性剤20および本発明の結晶化促進化組成物42が混合され、重原子化化合物を含有する脂質集合体102が形成される。
【0121】
本発明の第2の方法で使用する脂質16、界面活性剤20および結晶化促進組成物42の種類および量は、上記本発明の第1の方法で使用する場合と同様である。第2の方法では、脂質集合体と膜タンパク質との再構成を行う前に、脂質集合体102内部の疎水性部分に重原子化化合物40が予め取り込まれた形態で存在する。
【0122】
重原子化化合物を含有する脂質集合体102の形成は、例えば、上記脂質16、界面活性剤20および結晶化促進組成物42をそれぞれ含有する水溶液を混合することにより行われる。なお、上記では脂質集合体102がバイセルである場合について説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されない。本発明に用いられる脂質集合体の例としては、リポソーム、バイセル(平面状脂質二重層)、およびデンドリマー(球状脂質ベシクル)ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0123】
次いで、重原子化化合物を含有する脂質集合体102と膜タンパク質30とが接触させられる。
【0124】
本発明では、膜タンパク質30が上記脂質集合体102と接触すると、脂質集合体102の内部に膜タンパク質30および一部の脂質18を取り込んで再構成が行われ、脂質集合体を構成する脂質16,18の内部に重合化化合物40と、膜タンパク質30とが取り込まれた重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)120が形成される(図2の(b))。
【0125】
次いで、重原子誘導体結晶120のX線回折を通じて、当該膜タンパク質の立体構造が判定される。
【0126】
重原子誘導体結晶120のX線回折は、上記本発明の第1の方法と同様にして行なわれる。
【0127】
このようにして膜タンパク質の構造解析を行うことができる。
【0128】
なお、本発明の構造解析方法では、さらなる第3の方法として。上記第1の方法と第2の方法とを組み合わせてもよい。この場合、まず本発明の第2の方法と同様に、脂質16、界面活性剤20および本発明の結晶化促進化組成物42が混合され、重原子化化合物を含有する脂質集合体102が形成される。次いで、重原子化化合物を含有する脂質集合体102と膜タンパク質30とが接触させられる。そして、この段階において、上記本発明の第1の方法のように、膜タンパク質−脂質集合体(重原子化化合物を含有する)の結晶に、本発明の結晶化促進組成物が再び添加される。このようにして得られた重原子誘導体結晶(膜タンパク質−脂質集合体結晶)のX線回折を通じて、当該膜タンパク質の立体構造が判定され得る。
【0129】
本発明の方法によれば、本来結晶化が困難な膜タンパク質であっても重原子誘導体結晶を容易に作製することが可能となる。また、本発明においては、重原子化化合物を構成する重原子の影響を受けて結晶の品質の低下(具体的には結晶中で規則正しく配列した膜タンパク質に外部から重原子が結合することにより、結晶中の膜タンパク質の配列が乱されることによる低下)を回避し得る。これにより、未知の膜タンパク質についてその立体構造解析を簡便に行うことできる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0131】
(実施例1:5−カプリロイルアミノ−2,4,6−トリヨード−イソフタル酸(化合物2)の合成)
【0132】
【化22】
【0133】
5−アミノ−2,4,6−トリヨード−イソフタル酸(化合物1;250mg,0.45mmol)およびn−オクタン酸(1.0g,6.9mmol)をジクロロメタン中で混合し、そして塩化チオニル(0.1mL,1.4mmol)を添加した。混合物を、ニート条件で室温にて15時間撹拌した。次いで、塩化チオニル(0.1mL,1.4mmol)の追加部分を添加し、そして70℃で2時間撹拌した。得られた混合物を室温まで冷却し、そして水(20mL)でクエンチした。沈殿物を濾過により回収し、残渣をSiOクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=1:1)およびSepPak C−18カラム(Waters社製)(メタノール:水=1:10)を用いて精製し、標題の化合物2(184mg,0.27mmol,収率60%)を白色固体として得た。
【0134】
得られた化合物2の物性データを以下に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
(実施例2:5−ミリストイルアミノ−2,4,6−トリヨード−イソフタル酸(化合物3)の合成
【0137】
【化23】
【0138】
5−アミノ−2,4,6−トリヨード−イソフタル酸(760mg,1.36mmol)と、n−ミリスチン酸(500mg,2.19mmol)を、ジクロロエタン(10mL)に溶解させた。さらに、塩化チオニル(0.4mL,60mmol)を添加し、室温で撹拌した後、70℃でさらに18時間撹拌した。反応終了後、水(20mL)を添加して固体を回収し、テトラヒドロフランで溶解して抽出した。テトラヒドロフランを減圧留去した後、残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール=1:1)で精製した。さらに、逆相C18カートリッジを用い、(メタノール−水、1/10)で精製し、標題の化合物3(520mg,0.6mmol,収率51%)を白色固体(白色粉末)として得た。
【0139】
得られた化合物3の物性データを以下に示す。
【0140】
【表2】
【0141】
(実施例3:N−オクチル−2,3,5−トリヨードベンズアミド(化合物5)の合成)
【0142】
【化24】
【0143】
2,3,5−トリヨード安息香酸(化合物4;0.48g,0.95mmol)にジクロロメタン20mLを添加し、0℃まで冷却した。n−オクチルアミン(0.23mL,1.44mmol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI;0.27g,1.45mmol)を添加した後、N,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP;0.17g,1.45mmol)を添加し、還流下にて22時間撹拌した。少量の水でクエンチした後、クロロホルムで抽出し、塩化アンモニウム水溶液および塩化ナトリウム水溶液でそれぞれ洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、標題の化合物5(0.46g,0.76mmol,収率81%)を白色固体(白色粉末)として得た。
【0144】
得られた化合物5の物性データを以下に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
(実施例4:N−オクチル−3−ブロモ−5−ヨードベンズアミド(化合物7)の合成)
【0147】
【化25】
【0148】
3−ブロモ−5−ヨード安息香酸(化合物6;0.47g,1.44mmol)にジクロロメタン(20mL)を添加し、0℃まで冷却した。n−オクチルアミン(0.23mL,1.44mmol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI;0.27g,1.45mmol)を添加した後、N,N−ジメチルアミノピリジン(DMAP;0.17g,1.45mmol)を添加し、還流下で22時間攪拌した。少量の水でクエンチした後、クロロホルムで抽出し、塩化アンモニウム水溶液および塩化ナトリウム水溶液でそれぞれ洗浄して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去した後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、標題の化合物7(0.42g,0.96mmol,収率72%)を白色固体(白色粉末)として得た。
【0149】
得られた化合物7の物性データを以下に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
(実施例5:1−O−ミリストイル−2−O−(3−ヨード−5−ブロモ−ベンゾイル)−3−sn−ホスファチジルコリン(化合物9)の合成)
【0152】
【化26】
【0153】
反応前に、リゾホスファチジルコリン(lyso PC(C14:0))(化合物8;64mg,0.14mmol)および3−ブロモ−5−ヨード安息香酸(80mg,0.25mmol)を反応フラスコに添加し、乾燥トルエンで3回共沸させた。次いで、混合物を、乾燥CHCl(3mL)に溶解し、そして2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物(NMBA;110mg,0.32mmol)および4−ピロリジノピリジン(98mg,0.66mmol)のCHCl(2mL)溶液を、キャニュラーを用いて反応フラスコに添加した。室温で12時間撹拌した後、反応混合物を、少量のMeOHでクエンチし、そして溶媒を減圧留去した。残渣をSiOフラッシュクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=3:2からクロロホルム:メタノール:水=65:25:2)で精製し、標題の化合物9(69mg,0.089mmol,収率64%)を白色粉末として得た。
【0154】
得られた化合物9の物性データを以下に示す。
【0155】
【表5】
【0156】
(実施例6:1−O−ミリストイル−2−O−(2,3,5−トリヨードベンゾイル)−3−sn−ホスファチジルコリン(化合物10)の合成)
【0157】
【化27】
【0158】
リゾホスファチジルコリン(lyso PC(C14:0))(化合物8;20mg,0.042mmol)および2,3,5−トチヨード安息香酸(42.5mg,0.085mmol)を反応フラスコに添加し、乾燥トルエンで共沸させた。次いで、混合物を、乾燥CHCl(3mL)に溶解し、そして2−メチル−6−ニトロ安息香酸無水物(NMBA;74mg,0.22mmol)および4−ピロリジノピリジン(61mg,0.41mmol)のCHCl(2mL)溶液を、キャニュラーを用いて反応フラスコに添加した。室温で12時間撹拌した後、反応混合物を、少量のMeOHでクエンチし、そして溶媒を減圧留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール:水=65:25:2)で精製し、標題の化合物10(27mg,0.028mmol,収率67%)を白色粉末として得た。
【0159】
得られた化合物10の物性データを以下に示す。
【0160】
【表6】
【0161】
(実施例7:両親媒性重元素化化合物(化合物11)の合成)
【0162】
【化28】
【0163】
5−アミノ−2,4,6−トリヨードイソフタル酸(50mg,0.09mmol)と、塩化ステアロイル(136mg,0.45mmol)を、N,N−ジメチルホルムアミド(1.5mL)に溶解し、55℃で12時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=5:1)で精製して、標題の化合物11(52mg,0.063mmol,収率70%)を白色粉末として得た。
【0164】
得られた化合物11の物性データを以下に示す。
【0165】
【表7】
【0166】
(実施例8:両親媒性重元素化化合物(化合物12)の合成)
【0167】
【化29】
【0168】
オレイン酸(58mg,0.21mmol)に塩化チオニル(80μL,1.1mmol)を添加し、55℃で13時間撹拌した後、減圧濃縮した。残渣に市販の5−アミノ−2,4,6−トリヨードイソフタル酸(23mg,0.04mmol)を添加し、N,N−ジメチルホルムアミド(0.5mL)に溶解し、70℃で12時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去し、残渣をフラッシュシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=5:1)で精製して、標題の化合物12(8mg,0.01mmol,24%)を得た。
【0169】
得られた化合物12の物性データを以下に示す。
【0170】
【表8】
【0171】
(調製例1:バクテリオロドプシン(bR)の紫膜の精製)
バクテリオロドプシン(bR)は、最も研究されている膜タンパク質の1つであり、バイセル結晶化が最初に成功した膜タンパク質であることが知られている。これをモデル膜タンパク質として採用するため、バクテリオロドプシン(bR)の紫膜を、以下のようにして精製した。
【0172】
ハロバクテリウム・サリナルム(Halobacterium salinarum)野生株R1M1を、表9に示す共通成分、2つの金属栄養成分(MSMK)および脱イオン水を含有する培地(500mL)にて37℃で3日間、前培養を行った。
【0173】
【表9】
【0174】
その後、前培養の培養液を10Lの培養ボトルに採り、充分な量の新たな培地で37℃にて7日間かけて通気培養を行うことにより本培養を行った。この本培養を経て、培養液を、15,000×gで15分間遠心分離にかけ、菌体を採取した。
【0175】
次いで、この菌体を、培養液に懸濁してDNアーゼで処理し、透析により分離し、5,000×gで40分間遠心分離にかけ、0.1Mの塩化ナトリウム水溶液で洗浄することにより、バクテリオロドプシンの紫残渣(PR)を得た。さらに。得られた残渣(PR)を、75,000×gで18時間遠心分離にかけ、30%〜50%のスクロース水溶液のグラジエントにかけて、紫色のバンド部分を回収した。これを水および0.3%Tween 20でそれぞれ洗浄し、50,000×gで40分間遠心分離にかけ、さらに水で洗浄して、バクテリオロドプシン(bR)の紫膜を得た。
【0176】
その後、F.Lopezら、Photochem.and Photobiolog.,1999,69(5),p.599-604に記載の方法に従って、得られたバクテリオロドプシン(bR)の紫膜(12mg)を、5mLの0.1M酢酸ナトリウム水溶液(1%のTriton X−100を含有)とpH5.0にて室温で64時間処理し、さらに50mLの0.4%コール酸ナトリウム水溶液(0.1M塩化ナトリウムおよび25mMのTris/HCl(pH7.2)を含有)を添加して、カラム(Phenyl FF(GEヘルスケア・ジャパン(株)製))にかけ、溶出物を最終的に4Mの塩化ナトリウム水溶液(25mMのTris/HCl(pH7.2)および0.5%のn−オクチル−1−チオ−β−D−グルコピラノシド(OTG)を含有)で可溶化することにより、精製されたバクテリオロドプシン(bR)の紫膜を得た。
【0177】
(実施例9:バクテリオロドプシン(bR)のX線結晶解析(1))
(1)バイセル中のbRの結晶化
調製例1で得られたバクテリオロドプシン(bR)の紫膜の濃度を、20mMのNaClおよび0.01%(w/v)のNaNを含有する、2mMのHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)−NaOH緩衝液(pH7.0)で9.0mg/mLに調節した。25mgの1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC;Avanti社製)を、83.3μL(10%(w/v))の3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホナート(CHAPSO;Sigma−Aldrich社製)および10μlの水と混合し、そして40℃にて5分間インキュベートして、25%(w/v)のDMPC/CHAPSOバイセルを調製した。次いで、上記紫膜とDMPC/CHAPSOバイセルとを4:1の混合比(体積比)で混合し、そして暗所で0℃にて30分間インキュベートして、試料を得た。1.5mLのマイクロチューブ中で、20μLの試料を、20μLの沈殿剤溶液(3.2MのNaHPO、3.5%(w/v)のトリエチレングリコールおよび180mMの1,6−ヘキサンジオールを含有)と混合した。そして、外液には100μLの沈殿剤溶液を使用した。この試料を暗所にて27℃でインキュベートし、そして1日で大きな結晶が成長した。大きな結晶を、超音波ホモジナイザー(株式会社トミー精工製UD−211)で破壊することにより、種結晶溶液を調製した。
【0178】
X線回折のための微結晶を、bRの種結晶溶液を用いる回転結晶化技術(rotational crystallization technique)を用いることにより成長させた。2.0mLのマイクロチューブにて、bRを含む20μLのバイセルを120μLの沈殿剤溶液と混合し、そして2μLのシード溶液を添加した。このマイクロチューブを、小形回転培養機(タイテック株式会社製ローテーターRT−50)に、18rpmにて20℃で2日間配置した。デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製KH−8700)を用いて観察したところ、微結晶のサイズは10μmと70μmとの間に分布していた。これに、実施例1で得られた化合物2(5−カプリロイルアミノ−2,4,6−トリヨード−イソフタル酸)を4mMの最終濃度にてチューブに添加し、そしてさらに3日間回転を続けた。
【0179】
(2)X線回折データの収集
X線回折データの収集の前に、bRの微結晶をグリースマトリックス(Synthetic Grease Super Lube #21030,Synco Chemical Co.製)と混合し、シリンジ(ノズルの開口直径150μm)に充填した(このシリンジは、Weierstallら、Nature communications, 2014, 5, p.3309により報告されたLCPインジェクタの設計に基づいて開発された)。油圧シリンダ、取り外し可能な試料リザーバおよびノズルから構成される新たなインジェクタをチャンバ内に設け、そしてインジェクタの温度を水を循環させることにより20℃にて一定に保持した。X線回折データは、CCD検出器を用いて、SACLA(SPring−8 Angstrom Compact Free−Electron Laser)のビームラインBL3(EH4)にて収集した。インジェクタを、回折チャンバエンクロージャ(SACLAにおけるHard X−ray DiffractionのためのDiverse Application Platform(DAPHNIS))内に取り付けた。試料チャンバをヘリウムガスで満たし、そして20℃で70%〜99%の湿度に維持した。流速を、0.95μL/分(896μm/秒)にセットした。微結晶に、単一XFELパルス(光子エネルギー7.0keV、持続時間2〜10fs、および繰り返し速度30Hz)を照射した。XFELパルスは、Kirkpatrick−Baezミラーを用いる相互作用点で1.4μm(高さ)×1.7μm(幅)にフォーカスされた2.1×1011光子/パルスから構成されていた。試料の代表的なパルスエネルギーは、240μJ/パルスであった。
【0180】
(3)位相決定および構造決定
得られたX線回折データのインデックス化を、プログラムDirAx(Duisenberg、Journal of Applied Crystallography, 1991, 25, p.92-96)を用いて実行した。すべてのX線回折データセットは、空間群C222にインデックス化した。結晶の平均格子定数は、すべてのX線回折データセットについてa=46.2Å、b=103.0Åおよびc=128.7Åであった。すべてのX線回折強度を、プログラムパッケージCrystFELの中にあるprocess_hklを用いてマージした。統計データを表10に示す。
【0181】
【表10】
【0182】
重原子誘導体結晶の構造を、単一波長異常分散法(SAD)により決定した。その際の位相決定を、SHELX(Sheldrick、GM (2010) Experimental phasing with SHELXC/D/E: combining chain tracing with density modification. Acta crystallographica. Section D, Biological crystallography 66(Pt 4):479-485)を用いて行った。
【0183】
得られた結果をProtein Data Bank(www.pdb.org)にPDB ID 5B34(HAD13a)として登録した。また、得られたバクテリオロドプシン(bR)と結合した重原子化化合物(化合物2)の全体構造を描いた図を表した(図3)。以上のことから、実施例1で得られた重原子化化合物(化合物2)は、膜タンパク質の立体構造解析における重原子試薬として有用であることがわかる。
【0184】
(実施例10:バクテリオロドプシン(bR)のX線結晶解析(2))
25mgの1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC;Avanti社製)を、83.28μLの3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシプロパンスルホナート(CHAPSO;Sigma−Aldrich社製)の10%w/v水溶液と混合した。次いで、そこへ実施例5で得られた化合物9(7.7802mg,0.01002mmol)を添加し、そして氷冷(0℃、約20秒)−撹拌−加温(45℃、約20秒)−ピペッティングの工程を4回〜6回繰り返すことにより、化合物9を含有する40%(w/v)バイセル溶液を得た。
【0185】
一方、調製例1で得られたバクテリオロドプシン(bR)の紫膜の濃度を、20mMのNaClおよび0.1%(w/v)のNaNを含有する、20mMのHEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)−NaOH緩衝液(pH7.0)で8.0mg/mLに調節した。次いで、上記紫膜と、化合物9を含有するバイセル溶液とを4:1の混合比(体積比)で混合し、そして暗所で氷上にて30分間インキュベートして、試料を得た。マイクロチューブ中で、20μLの試料を、20μLの沈殿剤溶液(2.4MのNaHPO、3.5%(w/v)のトリエチレングリコールおよび120mMの1,6−ヘキサンジオールを含有)と混合した。そして、外液には100μLの沈殿剤溶液を使用した。この試料を暗所にて30℃でインキュベートし、そして数日後に結晶が観察された。
【0186】
このようにして、実施例5で得られた化合物9を重原子化化合物として含有する重原子誘導体結晶を得た。得られた重原子誘導体結晶は、実施例9と同様にして、X線回折によるbRの立体構造解析に使用することができる。
【0187】
(実施例11:バクテリオロドプシン(bR)のX線結晶解析(3))
実施例5で得られた化合物9の代わりに、重原子化化合物として以下の式(VI):
【0188】
【化30】
【0189】
(Sigma−Aldrich社製)(0.8189mg,0.002505mmol)を用いたこと以外は、実施例10と同様にして、当該式(VI)の化合物を重原子化化合物として含有する重原子誘導体結晶を得た。得られた重原子誘導体結晶は、実施例9と同様にして、X線回折によるbRの立体構造解析に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明によれば、立体構造未知の膜タンパク質について、当該膜タンパク質の結晶品質を低下させることなく容易に位相決定を行うことができる。これにより、種々の膜タンパク質についての立体構造解析を簡便に行うことができる。本発明は、細胞膜のダイナミックな生理機能発現における研究開発において有用であり、例えば、創薬分野における標的化合物の基礎情報として活用することができる。
【符号の説明】
【0191】
16,18 脂質
20 界面活性剤
30 膜タンパク質
40 重原子化化合物
42 結晶化促進組成物
100,102 脂質集合体
110 膜タンパク質−脂質集合体
120 重原子誘導体結晶
図1
図2
図3