特許第6579570号(P6579570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6579570コーティング層における剥離の非破壊検査方法および非破壊検査装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579570
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】コーティング層における剥離の非破壊検査方法および非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/72 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   G01N25/72 K
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-240536(P2014-240536)
(22)【出願日】2014年11月27日
(65)【公開番号】特開2016-102703(P2016-102703A)
(43)【公開日】2016年6月2日
【審査請求日】2017年11月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 一般財団法人電力中央研究所、電力中央研究所報告、研究報告:M13007、平成26年6月 一般財団法人電力中央研究所 エネルギー技術研究所、平成25年度(2013年度)主な研究成果の概要、第11−12頁、平成26年7月 公益社団法人日本ガスタービン学会、第42回日本ガスタービン学会定期講演会 講演論文集、A−25、平成26年10月22日 第42回日本ガスタービン学会定期講演会、平成26年10月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】尾関 高行
(72)【発明者】
【氏名】酒井 英司
(72)【発明者】
【氏名】藤井 智晴
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊彦
【審査官】 野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−246097(JP,A)
【文献】 特開2003−344330(JP,A)
【文献】 特開平11−083773(JP,A)
【文献】 特開2002−189008(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0077649(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/00−72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に形成したコーティング層における剥離の非破壊検査方法であって、
前記コーティング層に剥離が生起されていない標準試料を加熱して検出した前記コーティング層の表面温度と、同様のコーティング層が形成されている検査対象である実測試料を同様の条件で加熱して検出した前記コーティング層の表面温度とを比較し、両者の差に基づき前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出する場合において、
前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、
前記コーティング層を加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、前記加熱を開始した時点での前記コーティング層の温度である初期温度になる前の所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を一回以上行うとともに、表面温度の比較は前記再加熱または再放熱の際に検出された温度に基づき行う際に、
前記表面温度の代わりに前記残熱率を利用し、該残熱率の大きさに基づき前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査方法において、
前記再加熱に関する前記所定の時点は、前記コーティング層の表面温度の差が最大になった時点とすることを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査方法において、
前記加熱は、加熱源を前記標準試料および前記実測試料に対して相対的に移動させながら行うことを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法。
【請求項4】
基材の表面に形成したコーティング層における剥離の非破壊検査装置であって、
前記コーティング層を形成した試料の表面を加熱する加熱手段と、
前記加熱手段により前記コーティング層を加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、前記加熱を開始した時点での前記コーティング層の表面温度である初期温度になる前の所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を一回以上行うように前記加熱手段を制御する制御手段と、
剥離を生起していないコーティング層を有する標準試料を、前記制御手段で制御される前記加熱手段により加熱した場合の前記コーティング層の表面温度と、同様のコーティング層が形成されている検査対象である実測試料を、前記制御手段で制御される前記加熱手段により、同様の条件で加熱した場合の前記コーティング層の表面温度とを検出する表面温度検出手段と、
前記表面温度検出手段が検出した前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度とをそれぞれ記憶する記憶手段と、
前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度であって、前記再加熱または再放熱の際に検出された表面温度に基づき前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度とを比較する表面温度比較手段と、
前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、前記表面温度の代わりに前記残熱率を使用し、前記残熱率に基づき前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出する剥離検出手段を有することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、
前記剥離検出手段は、前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、検査対象である前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、前記再加熱および再放熱を一回以上行った場合において、
前記表面温度とともに前記残熱率も利用して前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、
前記再加熱に関する前記所定の時点は、前記コーティング層の表面温度の差が最大になった時点とすることを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置。
【請求項7】
請求項4〜請求項6のいずれか一つに記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、
前記加熱は、加熱源を前記標準試料および前記実測試料に対して相対的に移動させながら行うことを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティング層における剥離の非破壊検査方法および非破壊検査装置に関し、特にガスタービン等における遮熱コーティング中の内部剥離を非破壊検出する場合に適用して有用なものである。
【0002】
ガスタービンの燃焼器、動翼、静翼といった高温部品には、耐熱合金が用いられているが、特に高温の燃焼ガスに曝される部分には、金属の基材を守るために、遮熱コーティング(TBC)が適用されている。TBCは、通常、合金製のボンドコートとセラミックス製のトップコートの2層から構成されている。トップコートは数百ミクロンの厚さであるが、金属よりも熱伝導率が低いセラミックスであることと、内部に細かな気孔を多数含んだ構成であることから、優れた遮熱性能を発揮する。しかし、TBCを高温で長時間使用すると、トップコートとボンドコートとの界面付近に横亀裂が発生する場合があり、その部分が剥離(浮き上がり状態)した状態となる。この状態のまま使用を続けると、将来的にトップコートの一部が部品表面から完全に離脱してしまい、初期に想定されていた遮熱性能が低下することになる。
【0003】
遮熱性能の低下は、部品の金属基材の温度上昇をもたらし、部品自体の余寿命を短くすることや、部品の破損による事故を引き起こすことが考えられる。このため、部品の点検時に、剥離箇所を非破壊で精度よく検出できれば、その情報を基に補修(再コーティング)の必要性の有無を判断することが可能となる。
【0004】
この種のトップコートの剥離の非破壊検査方法の従来技術として、赤外線サーモグラフィを利用したものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。これは、トップコートの表面をランプや温風等で加熱し、表面における温度の上昇過程を赤外線カメラで撮影して剥離部位を検出する方法である。
【0005】
剥離部位は一種の断熱層となり、周辺の健全部位に比較して、基材側との熱の受け渡しが少なくなるため、赤外線カメラの画像上で、色が異なって表示されることになる。ただ、このことを利用する従来の剥離の検出方法では、健全部位と剥離部との温度差が小さく剥離部であるか、否かの判定を高精度に行うことができない場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電力中央研究所報告「TBC遮熱性能非破壊評価法の開発−TBC遮熱性能評価手法の提案−研究報告:W97021」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、コーティング層の剥離を高精度に、しかも短時間の非破壊検査で確実に検出することができるコーティング層における剥離の非破壊検査方法および非破壊検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、基材の表面に形成したコーティング層における剥離の非破壊検査方法であって、前記コーティング層に剥離が生起されていない標準試料を加熱(加熱源であればよい、(光に限定されない))して検出した前記コーティング層の表面温度と、同様のコーティング層が形成されている検査対象である実測試料を同様の条件で加熱して検出した前記コーティング層の表面温度とを比較し、両者の差に基づき前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出する場合において、前記コーティング層を加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、前記加熱を開始した時点での前記コーティング層の温度である初期温度になる前の所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を一回以上行うとともに、表面温度の比較は前記再加熱または再放熱の際に検出された温度に基づき行うことを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法にある。
【0009】
本態様によれば、コーティング層を加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を一回以上行うようにするとともに、表面温度の比較は再加熱または再放熱の際に検出された温度に基づき行うようにしているので、コーティング層の健全部位と剥離部位とにおける表面温度の差をより大きくすることができる。この結果、健全部位と剥離部位とをより明確に峻別することができる。ここで、再加熱は、コーティング層が、その初期温度になる前の時点で行うようにしているので、前回の加熱による温度上昇に積み上げる形で再加熱による温度上昇を生起させることができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査方法において、前記再加熱に関する前記所定の時点は、前記コーティング層の表面温度の差が最大になった時点とすることを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法にある。
【0011】
本態様によれば、コーティング層の表面温度の差が最大になった時点を所定の時点としているので、前回加熱の結果を最大限に利用して最も効果的に再加熱を行うことができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査方法において、前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、前記再加熱および再放熱を一回以上行った場合において、前記表面温度の代わりに前記残熱率を利用し、該残熱率の大きさに基づき前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法にある。
【0013】
本態様によれば、コーティング層の表面温度の代わりに残熱率を利用して実測試料のコーティング層の剥離の有無を検出することができる。ここで、検出に使用する残熱率は前回の加熱による温度上昇に積み上げた再加熱により得る残熱率を利用しているので、得られる残熱率の大きさを大きくすることができる。この結果、より明確な剥離部位の検出を行うことができる。
【0014】
さらに、残熱率は、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間を利用して定義されるパラメータであるので、判定温度は最高温度よりも低温領域で確定される。したがって、コーティング層表面の汚れ等による実測試料毎の放射率の違いに起因する誤差の影響をより小さくすることができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1または第2の態様に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査方法において、前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、前記再加熱および再放熱を一回以上行った場合において、前記表面温度とともに前記残熱率も利用して前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法にある。
【0016】
本態様によれば、パラメータとして表面温度と残熱率との両方を用い、それぞれの場合のパラメータに基づき実測試料のコーティング層の剥離の有無を検出しているので、より正確に剥離を検出することができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれか一つに記載するコーティング層における剥離の非破壊検査方法において、前記加熱は、加熱源を前記標準試料および前記実測試料に対して相対的に移動させながら行うことを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査方法にある。
【0018】
本態様によれば、点である加熱部位を時間軸に沿う長さに変化させて線状の加熱部位として検出することができるので、検出が容易になる。
【0019】
さらに、試料の全体を均一に加熱することができ、加熱ムラの発生を未然に防止することができるので、特に曲面等の複雑な形状を有する試料のコーティング層の検査に有用なものとなる。ちなみに、遮熱コーティング(TBC)はガスタービンの燃焼器、動翼、静翼といった曲面形状の部品に施されている。
【0020】
本発明の第6の態様は、基材の表面に形成したコーティング層における剥離の非破壊検査装置であって、前記コーティング層を形成した試料の表面を加熱する加熱手段と、前記加熱手段により前記コーティング層を加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、前記加熱を開始した時点での前記コーティング層の表面温度である初期温度になる前の所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を一回以上行うように前記加熱手段を制御する制御手段と、剥離を生起していないコーティング層を有する標準試料を、前記制御手段で制御される前記加熱手段により加熱した場合の前記コーティング層の表面温度と、同様のコーティング層が形成されている検査対象である実測試料を、前記制御手段で制御される前記加熱手段により、同様の条件で加熱した場合の前記コーティング層の表面温度とを検出する表面温度検出手段と、前記表面温度検出手段が検出した前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度とをそれぞれ記憶する記憶手段と、前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度であって、前記再加熱または再放熱の際に検出された表面温度に基づき前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度とを比較する表面温度比較手段と、前記表面温度比較手段で比較する前記標準試料の表面温度と前記実測試料の表面温度との差に基づき前記コーティング層の剥離を検出する剥離検出手段とを有することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置にある。
【0021】
本態様によれば、加熱手段でコーティング層を加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、さらに所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を一回以上行うように加熱手段を制御するとともに、表面温度の比較は再加熱または再放熱の際に検出された温度に基づき行うように制御手段で制御しているので、コーティング層の健全部位と剥離部位とにおける表面温度の差をより大きくすることができる。この結果、健全部位と剥離部位とをより明確に峻別することができる。ここで、再加熱は、コーティング層が、その初期温度になる前の時点で行うように制御しているので、前回の加熱による温度上昇に積み上げる形で再加熱による温度上昇を生起させることができる。
【0022】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、前記再加熱に関する前記所定の時点は、前記コーティング層の表面温度の差が最大になった時点とすることを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置にある。
【0023】
本態様によれば、コーティング層の表面温度の差が最大になった時点を所定の時点としているので、前回加熱の結果を最大限に利用して最も効果的に再加熱を行うことができる。
【0024】
本発明の第8の態様は、第6の態様に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、検査対象である前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、前記再加熱および再放熱を一回以上行った場合において、前記表面温度の代わりに前記残熱率を使用し、該残熱率に基づき前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置にある。
【0025】
本態様によれば、第6の態様のコーティング層の表面温度の代わりに残熱率を利用し、残熱率の大きさに基づき試料のコーティング層の剥離の有無を検出することができる。ここで、検出に使用する残熱率は前回の加熱による温度上昇に積み上げた再加熱により得る残熱率を利用しているので、残熱率の大きさをより大きくすることができる。この結果、剥離部位のより正確な検出を行うことができる。
【0026】
さらに、残熱率は、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間を利用して定義されるパラメータであるので、判定温度は最高温度よりも常に低温である。この結果、コーティング層表面の汚れ等による試料毎の放射率の違いに起因する誤差の影響をより小さくすることができる。
【0027】
本発明の第9の態様は、第6または第7の態様に記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、前記標準試料が、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間と、検査対象である前記実測試料が同様の条件で加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度に降下するまでの時間との比を残熱率として定義し、前記再加熱および再放熱を一回以上行った場合において、前記表面温度とともに前記残熱率も利用して前記実測試料の前記コーティング層の剥離の有無を検出することを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置にある。
【0028】
本態様によれば、パラメータとして表面温度と残熱率との両方を用い、それぞれのパラメータに基づき個別に実測試料のコーティング層の剥離の有無を検出しているので、より正確に剥離を検出することができる。
【0029】
本発明の第10の態様は、第6〜第9の態様のいずれか一つに記載するコーティング層における剥離の非破壊検査装置において、前記加熱は、加熱源を前記標準試料および前記実測試料に対して相対的に移動させながら行うことを特徴とするコーティング層における剥離の非破壊検査装置にある。
【0030】
本態様によれば、点である加熱部位を時間軸に沿う長さに変化させて線状の加熱部位として検出することができるので、検出が容易になる。
【0031】
さらに、試料の全体を均一に加熱することができ、加熱ムラの発生を未然に防止することができるので、特に曲面等の複雑な形状を有する試料のコーティング層の検査に有用なものとなる。ちなみに、遮熱コーティング(TBC)はガスタービンの燃焼器、動翼、静翼といった曲面形状の部品に施されている。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、複数回加熱とともに温度上昇に積み上げる形で再加熱を行うことにより、温度差や残熱率を大きくすることができる。したがって、高精度の剥離検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の前提となる試料に対するレーザ光による加熱の態様を示す説明図である。
図2】本発明の実施の形態に係る加熱特性を示す特性図である。
図3】レーザ光を2分割して加熱・放熱を2回行う場合の一例の一態様を模式的に示す説明図である。
図4】本発明の第2の実施の形態に係る剥離の非破壊検査装置を示すブロック図である。
図5】本発明の第3の実施の形態で利用するパラメータである残熱率の概念を説明するための加熱特性を示す特性図である。
図6】本発明の第4の実施の形態に係る剥離の非破壊検査装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0035】
<第1の実施の形態>
本形態では、図1に示すように、金属基材1の表面にボンドコート2Aおよびトップコート2Bからなる遮熱コーティング(Thermal Barrier Coatings(以下、TBCという))2を施した試料Iの表面に加熱源であるビーム状のレーザ光Lを図中左側から右側に向けて一定速度で移動させながら照射して、トップコートにおける剥離を検出する。この場合、剥離部位5の始端Aから終端Bおよび、健全部位6における所定領域の赤外線カメラ4の画像に基づくトップコート2Bの表面の温度分布は、図に示すようになる。これは次の理由による。TBC2に剥離部位が存在せず、健全である場合は、レーザ光Lの照射によりトップコート2Bの表面に発生する熱が、ボンドコート2Aを介して金属基材1に移動する。これに対し、TBC2に剥離部位5が存在する場合には、剥離部位5が断熱層となるので、レーザ光Lの照射によりトップコート2Bの表面に発生する熱が剥離部位5で遮断されて、剥離部位5に対応するトップコート2Bの表面位置で、その温度が局部的に上昇する。特に、剥離部位5には、低温度の領域9に、レーザ光Lの移動方向と反対方向に伸びる尻尾状の帯部9Aとして残熱像IIIが検出される。
【0036】
本形態は、剥離部位5では健全部位6よりも加熱時のトップコート2Bの表面温度が高くなるという現象を利用する剥離の非破壊検査方法である。具体的には、剥離が生起されていない標準試料IAにおけるトップコート2Bの表面温度と、同様のトップコート2Bが形成されている検査対象である実測試料IBを同様の条件で加熱した場合の実測試料IBのトップコート2Bの表面温度とを比較し、両者の差に基づき実測試料IBのトップコート2Bの剥離の有無を検出する。ここで、標準試料IAとは、トップコート2Bに剥離が生起されていないことが保証されている試料Iをいう。したがって、かかる試料Iを実測試料IBと別に用意してもよいが、実測試料IBにおいて、トップコート2Bに剥離が生起されていないことが保証されている領域を選択して標準試料IAとしても良い。
【0037】
本形態の剥離検出における加熱工程では、トップコート2Bを加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させる。続いて、加熱を開始した時点でのトップコート2Bの温度である初期温度になる前の所定の時点で再度加熱する。その後加熱を中断して再度放熱させる。かかる、再加熱および再放熱を一回以上行う。このように複数回の加熱および放熱、例えば2回の加熱および放熱は、レーザ光Lをその移動方向に関し所定間隔を隔てて先行するレーザ光と後続させるレーザ光とに二分割することで容易に実現し得る。この点に関しては後に詳述する。
【0038】
ここで、再加熱に関する前記所定の時点は、加熱を開始した時点でのトップコート2Bの温度である初期温度になる前の時点であれば特に限定はないが、標準試料IAと実測試料IBとのトップコート2Bの表面温度の差が最大になった時点が最適である。前回加熱の結果を最大限に利用して最も効果的に再加熱を行うことができるからである。表面温度の差が最大になったことは、例えば時間の関数である標準試料IAと実測試料IBとの表面温度の差を時間で微分して前記差の極大値を求めることで検出することができる。
【0039】
また、表面温度の比較は、再加熱または再放熱の際に検出された温度に基づき行えば、いずれの時点でも良く、それ以上の限定はない。ただ、再加熱の際および再放熱の際のいずれにも属する最高温度で比較するのが最も簡単かつ確実である。
【0040】
図2は本発明の実施の形態に係る加熱特性を示す特性図である。同図は、横軸に時間τ、縦軸に温度θ、を採ったものである。同図中、一点鎖線が標準試料IAの加熱特性、実線が実測試料IBの加熱特性をそれぞれ示している。同図を参照すればより明確になるように、本形態ではトップコート2Bの表面を所定時間加熱することによりその表面温度を最高温度(θmax,n(標準試料IAの場合)、θmax,d(実測試料IBの場合))まで上昇させ、その後加熱を一旦中断して放熱させることにより表面温度を低下させる。続いて加熱を開始した時点でのトップコート2Bの温度である初期温度θになる前の所定の時点T1n、T1dで2回目の加熱を開始し、所定時間加熱した後、加熱を中断して放熱させる。かかる工程により得られる再加熱(2回目の加熱)および再放熱(2回目の放熱)時の標準試料IAの最高温度θmax2,nと、実測試料IBの最高温度θmax2,dとの比(θmax2,d/θmax2,n)を求め、当該比(θmax2,d/θmax2,n)が所定の閾値を超えているとき剥離を生起していると判定する。
【0041】
ここで、本形態では加熱・放熱を二回繰り返す場合に関して説明したが、これは二回に限るものではない。前回の加熱を開始した時点でのトップコート2Bの温度になる前の時点で再度加熱を開始する複数回の加熱・放熱により剥離部分の顕在化という同様の効果を得ることはできる。
【0042】
図3はレーザ光を2分割して加熱・放熱を2回行う場合の態様を模式的に示す説明図である。同図中、図1と同一部位には、同一番号を付している。レーザ発振器21から照射されるレーザ光Lは移動方向(図中の矢印方向)に関して先行するレーザ光L1と後続のレーザ光L2とに分割されている。かかる分割は、例えばレーザ光を2個のスリット21A,21Bをそれぞれ通過させることにより容易に実現することができる。ここで、レーザ光L1,L2の間隔は、スリットの間隔で決定される。また、レーザ光L1,L2の大きさと間隔および、その移動速度とで各回毎の加熱・放熱時間が決定される。そこで、レーザ光Lの移動速度との関係を考慮してレーザ光L1,L2の間隔を決定することにより、再加熱の開始時点を決定して加熱開始時点のトップコート2Bの表面温度(初期温度)になる前の所定の時点で次回の加熱が開始されるように設定することができる。
【0043】
かかる本形態によれば、トップコート2Bを加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を行わせるというように加熱および放熱を二回(複数回)行うので、トップコート2Bの健全部位6と剥離部位5とにおける表面温度の差をより大きくすることができる。この結果、健全部位6と剥離部位5とをより明確に峻別することができる。ここで、再加熱は、トップコート2Bが、その初期温度θになる前の時点で行うようにしているので、前回の加熱による温度上昇に積み上げる形で、すなわち下駄を履かせる形で、再加熱による温度上昇を生起させることができる。この結果、剥離部位5の表面温度と健全部位6の表面温度との差がより大きくなり、剥離部位5をより正確に検出することができる。
【0044】
<第2の実施の形態>
図4は、第1の実施の形態に係る非破壊検査方法を実現する非破壊検査装置を示すブロック図である。同図に示すように、本形態に係る非破壊検査装置は、所定の情報を処理して実測試料IBの剥離を検出する情報処理部20、標準試料IAおよび実測試料IBのトップコート2Bの表面をそれぞれ加熱する加熱手段であるレーザ発振器21および表面温度検出手段である赤外線カメラ4を有している。ここで、情報処理部20は、制御手段22、記憶部23、表面温度比較部24、剥離検出部25および閾値設定部26を有している。また、レーザ発振器21は、図3に示すものと同様の二分割されたレーザ光L1,L2を標準試料IAおよび実測試料IBのトップコート2Bの表面に照射してトップコート2Bを加熱する。かかる加熱の際、レーザ発振器21は情報処理部20の制御手段22でレーザ光Lの照射タイミングとともに、その移動速度が制御される。かくして移動方向で先行するレーザ光L1と後続するレーザ光L2との間隔が予め設定されているレーザ発振器21は、制御手段22の制御により所定の移動速度に制御されてトップコート2Bを加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させる。続いて、加熱を開始した時点でのトップコート2Bの表面温度である初期温度θになる前の所定の時点T1n,T1dで再度加熱するとともに、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を二回行う。すなわち、図2に示す特性を得るような態様の加熱を行う。
【0045】
赤外線カメラ4は試料Iのトップコート2Bの表面温度を、その試料Iにおける位置情報とともに計測する。記憶部23は、実測試料IBの比較対象である標準試料IAの加熱特性に関するデータを記憶する。さらに詳言すると、制御手段22の所定の制御の下でレーザ発振器21により標準試料IAを加熱して、図2に一点鎖線で示す標準試料IAの加熱特性を得て、これを標準試料IAの位置を特定するデータとともに記憶する。なお、標準試料IAの加熱特性に関するデータは、所定の演算により求めることもでき、演算によりもとめた場合には、その結果を記憶部23に記憶させておけば良い。
【0046】
表面温度比較部24では、制御手段22の所定の制御の下でレーザ発振器21により実測試料IBを加熱して、リアルタイムで実測した実測試料IBの、図2に実線で示す加熱特性を得つつ、記憶部23に記憶されている加熱データと比較する。かかる比較は、標準試料IA,IBが最高温度θmax2、n,θmax2、dとなる時点での両者の表面温度の差を検出する。このように最高温度θmax2、n,θmax2、dとなる時点の情報は、制御手段22から表面温度比較部24に供給される。すなわち、加熱を一旦中断させて放熱に移行させるタイミングとして与えられる。かかる比較は、再加熱(本形態では2回目の加熱)または再放熱(本形態では2回目の放熱)の際に検出された任意の時点の表面温度であれば、最高温度θmax2、n,θmax2、dとなる時点での表面温度に限定するものではないが、本形態のように、最高温度θmax2、n,θmax2、dとなる時点での標準試料IAと実測試料IBとの表面温度を比較する場合が最も簡単かつ確実に所定の比較を行うことができる。
【0047】
剥離検出部25では表面温度比較部24での比較の結果得られる標準試料IAの最高温度θmax2、nと実測試料IBの最高温度θmax2、dとの差を、閾値設定部26に予め設定されている閾値と比較し、その差が閾値を超えている場合に剥離が発生しているとして剥離発生を表わす信号を送出する。
【0048】
かかる本形態によれば、レーザ発振器21でトップコート2Bを加熱した後、一旦加熱を中断して放熱させ、さらに所定の時点で再度加熱し、その後加熱を中断して再度放熱させる再加熱および再放熱を2回行うようレーザ発振器21を制御するとともに、表面温度の比較は2回目の加熱の際に検出された最高温度θmax2、n,θmax2、dに基づき行うように制御手段22で制御しているので、トップコート2Bの剥離部位5と健全部位6とにおける表面温度の差をより大きくすることができる。この結果、剥離部位5を確実かつ容易に特定し得る。ここで、2回目の加熱(再加熱)は、トップコート2Bが、その初期温度θになる前の時点で行うように制御しているので、前回の加熱による温度上昇に積み上げる形で再加熱による温度上昇を生起させることができる。また、実測試料IBのリアルタイムの加熱特性を実測試料IBの位置を特定するデータとともに検出して記憶部23に記憶している。
【0049】
<第3の実施の形態>
上記第1の実施の形態では、剥離判定のパラメータとしてトップコート2Bの表面温度を用いたが、他のパラメータとしての残熱率を用いることもできる。本形態は、残熱率を剥離検出のパラメータとするものである。ここで、残熱率(τ/τ)は、図2と同様の加熱特性を表す図5に示すように、図中に一点鎖線で加熱特性を示す標準試料IAが、H1で示す加熱開始からH2で示す温度上昇期を経てH3で示す最高温度に達し、所定の判定温度θに降下するまでの時間τと、図中に実線で加熱特性を示す実測試料IBが同様にH1,H2,H3を経て、所定の判定温度θに降下するまでの時間τとの比として定義される。
【0050】
本形態では、剥離部位5と健全部位6との差がより明確になる2回目の加熱・放熱の際の残熱率(τ2d/τ2n)(図2参照)を用いている。すなわち、図2に示すように、本形態における残熱率(τ2d/τ2n)は、標準試料IAが、再加熱開始時点である所定の時点T1nから最高温度θmax2,nを経て、所定の判定温度θに降下するまでの時間τ2nと、実測試料IBが同様の条件で再加熱開始から最高温度θmax2,dを経て、所定の判定温度θに降下するまでの時間τ2dとの比として与えられる。
【0051】
かかる本形態によれば、トップコート2Bの表面温度の代わりに標準試料IAに対する実測試料IBの残熱率(τ2d/τ2n)に基づき実測試料IBのトップコート2Bの剥離の有無を検出しているので、第1の実施の形態と同様に、トップコート2Bの剥離部位5と健全部位6とをより明確に峻別することができる。また、再加熱は、トップコート2Bが、その初期温度θになる前の時点で行うようにしているので、前回の加熱による温度上昇に積み上げる形で得た加熱特性に基づく残熱率(τ2d/τ2n)を利用することができる。
【0052】
なお、本形態の場合も、再加熱に関する所定の時点T1n,T1dは、加熱を開始した時点でのトップコート2Bの温度である初期温度θになる前の時点であれば特に限定はないが、標準試料IAと実測試料IBとのトップコート2Bの表面温度の差が最大になった時点が最適である。前回加熱の結果を最大限に利用して最も効果的に再加熱を行うことができるからである。
【0053】
<第4の実施の形態>
図6は、第3の実施の形態に係る非破壊検査方法を実現する非破壊検査装置を示すブロック図である。同図中、図4と同一部位には同一番号を付し、重複する説明は省略する。
【0054】
本形態は剥離判定のパラメータとして標準試料IAに対する実測試料IBの表面温度の差に代えて残熱率を利用するものである。したがって、本形態に係る非破壊検査装置は、図4に示す第2の実施の形態に係る非破壊検査装置に対し情報処理部30の構造が異なる。すなわち、本形態における情報処理部30は、制御手段32、記憶部23、残熱率検出部34、剥離検出部35および閾値設定部36を有している。制御手段32は、第2の実施の形態と同様にレーザ発振器21を制御するとともに、残熱率検出部34に対して加熱位置の情報を与えている。残熱率検出部34では、2回目の放熱期間中(再放熱期間中)において標準試料IAと実測試料IBとが予め設定された判定温度θとなる時間τ2n、τ2dを検出するとともに時間τ2n、τ2dに基づく両者の比としての残熱率(τ2d/τ2n)を演算し、この残熱率(τ2d/τ2n)の大きさを表わす残熱率信号を送出する。さらに詳言すると、制御手段32から供給される加熱位置情報を参照しつつ第2の実施の形態と同様の記憶部23に記憶されている加熱特性を利用し、2回目の放熱期間中(再放熱期間中)において予め設定された判定温度θとなるまでの時間τ2nと、赤外線カメラ4からリアルタイムで供給される実測試料IBの加熱特性において2回目の放熱期間中において判定温度θとなるまでの時間τ2dとに基づき残熱率(τ2d/τ2n)を演算し、この残熱率(τ2d/τ2n)に基づき前記残熱率信号を生成する。
【0055】
剥離検出部35では残熱率検出部34で得られる残熱率信号の大きさが、閾値設定部36に予め設定されている閾値を超えている場合に剥離が発生しているとして剥離の発生を表わす信号を送出する。
【0056】
本形態によれば、第2の実施の形態におけるトップコート2Bの表面温度の代わりに残熱率(τ2d/τ2n)を利用し、この残熱率(τ2d/τ2n)の大きさに基づきトップコート2Bの剥離の有無を検出することができる。ここで、検出に使用する残熱率(τ2d/τ2n)は前回の加熱による温度上昇に積み上げた再加熱により得る残熱率(τ2d/τ2n)を利用しているので、より大きな値の残熱率(τ2d/τ2n)を得ることができる。この結果、剥離部位のより正確な検出を行うことができる。
【0057】
さらに、残熱率(τ2d/τ2n)は、加熱開始から最高温度を経て、所定の判定温度θに降下するまでの時間を利用して定義されるパラメータであるので、判定温度θは最高温度よりも常に低温である。この結果、トップコート2Bの表面の汚れ等による実測試料IB毎の放射率の違いに起因する誤差の影響を可及的に小さくすることができる。
【0058】
<他の実施の形態>
上記実施の形態では加熱源であるレーザ発振器が試料に対して移動するように構成したが、加熱源は静止していても良い。この場合には、例えば、レーザ光の照射、照射停止の間隔を調整することで加熱期間および放熱期間の長さを調整する。このことにより上記実施の形態と同様の複数回加熱および放熱を容易に実現し得る。また、加熱源をレーザ光に限定するものでもない。他に、例えばランプ光源が考えられる。
【0059】
また、剥離の有無を判定する場合の閾値としては、標準試料IAと実測試料IBとの表面温度の差を閾値とする場合、残熱率の大きさを閾値とする場合の他、表面温度の差と、残熱率の大きさとの二つを閾値とする場合も考えられる。この場合には表面温度の差および残熱率の大きさが個別にそれぞれの閾値を越えた場合に剥離と判定する。したがって、より正確に剥離の発生を検出し得る。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は遮熱コーティングを施した部品を多く使用しているタービン等の高温機械の保守、製造等を行う産業分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
I 試料
IA 標準試料
IB 実測試料
III 残熱像
L、L1、L2 レーザ光
1 金属基材
2 TBC(Thermal Barrier Coatings)
2A ボンドコート
2B トップコート
4 赤外線カメラ
5 剥離部位
6 健全部位
20,30 情報処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6