(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、磁化渦流探傷試験および漏洩磁束法には、欠陥の有無を検査することはできるものの、欠陥の深さ等を精度よく定量的に測定することができないという問題がある。
【0006】
また、水浸回転式超音波厚さ測定法は、欠陥の深さ等を定量的かつ高精度に測定することができるものの、検査に時間がかかるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、磁性体部材の欠陥の定量的評価を迅速に行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる欠陥測定方法は、磁性体部材の欠陥測定方法であって、磁石と、前記磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知する磁気センサとを備える検査プローブを用い、前記磁気センサの出力を測定する測定工程と、欠陥が前記磁性体部材における前記検査プローブとの対向面である表面に生じている表面欠陥であるのか、当該対向面の裏面に生じている裏面欠陥であるのかを判定する欠陥面判定工程と、表面欠陥および裏面欠陥のそれぞれについて予め設定された評価アルゴリズムのうち、前記欠陥面判定工程の判定結果に応じた評価アルゴリズムを前記出力信号に適用することにより、前記磁性体部材の欠陥の定量的評価を行う評価工程とを含むことを特徴としている。
【0009】
上記の方法によれば、磁石と、前記磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知する磁気センサとを備える検査プローブを用いて前記磁気センサの出力を測定し、前記磁気センサの出力信号に、欠陥面判定工程の判定結果に応じた評価アルゴリズムを適用することにより、磁束抵抗法を用いて欠陥の定量的評価を迅速かつ適切に行うことができる。
【0010】
また、前記磁性体部材の渦流探傷検査を行う渦流探傷工程を含み、前記欠陥面判定工程では、前記渦流探傷検査の結果に基づいて欠陥が前記磁性体部材の表裏いずれの面に存在するのかを判定するようにしてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、渦流探傷検査によって表面欠陥か裏面欠陥かを判定し、その判定結果に応じた評価アルゴリズムを適用することにより、磁束抵抗法を用いて欠陥の定量的評価を迅速かつ適切に行うことができる。
【0012】
また、前記検査プローブは、前記磁性体部材との対向面に沿ってハルバッハ配列を成すように配置されている複数の磁石と、前記複数の磁石のうちのハルバッハ配列の中央部に配置されている磁石における前記磁性体部材との対向面側に配置されている、前記渦流探傷検査を行うための渦流探傷用センサとを備え、前記磁気センサは、前記複数の磁石のうちのハルバッハ配列の端部に配置されている磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知するものであってもよい。
【0013】
上記の構成によれば、渦流探傷工程と測定工程とを並行して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0014】
また、前記磁性体部材は磁性体管であり、前記測定工程では、前記検査プローブを前記磁性体管内で当該磁性体管の軸方向に沿って移動させるようにしてもよい。
【0015】
上記の方法によれば、磁性体管の欠陥の定量的評価を迅速かつ適切に行うことができる。
【0016】
また、前記磁気センサは、磁束密度に応じた電圧値を出力し、前記評価工程は、前記磁性体管の軸方向に垂直な断面における断面積に対する欠損した断面積の比率である断面欠損率を算出する断面欠損率算出工程を含み、前記断面欠損率算出工程では、試験用磁性体管に形成された複数種類の欠陥を前記各磁気センサにより測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値の合計値と試験用磁性体管に形成された前記各欠陥の実際の断面欠損率との関係に基づいて予め設定された断面欠損率算出式と、前記磁性体管を測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値の合計値とに基づいて前記磁性体管の断面欠損率を算出するようにしてもよい。
【0017】
上記の方法によれば、磁性体管の欠陥の断面欠損率を迅速かつ適切に算出することができる。
【0018】
また、前記評価工程は、前記磁性体管の周方向に沿った欠陥の範囲を示す欠陥範囲を算出する欠陥範囲算出工程を含み、前記欠陥範囲算出工程では、試験用磁性体管に形成された複数種類の欠陥を測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値のうちの最大値、前記各磁気センサの出力電圧値を前記最大値で除算した値の合計値、および試験用磁性体管に形成された前記各欠陥の実際の欠陥範囲との関係に基づいて予め設定された欠陥範囲算出用データと、前記磁性体管を測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値の最大値、および前記各磁気センサの出力電圧値を前記最大値で除算した値の合計値とに基づいて、前記磁性体管における欠陥の欠陥範囲を算出するようにしてもよい。
【0019】
上記の方法によれば、磁性体管の欠陥の欠陥範囲を迅速かつ適切に算出することができる。
【0020】
また、前記評価工程は、前記磁性体管に生じている欠陥の欠陥深さを算出する欠陥深さ算出工程とを含み、前記欠陥深さ算出工程では、前記磁性体管の外径の半径をr(mm)、前記断面欠損率算出工程で算出した断面欠損率をS(%)、前記欠陥範囲算出工程で算出した欠陥範囲をθ(°)、欠陥深さをd(mm)とすると、欠陥が前記磁性体管における前記検査プローブとの対向面の裏面に存在する場合には、d=r−{r
2−S・360/(π・θ)}
1/2に基づいて欠陥深さを算出し、欠陥が前記磁性体管における前記検査プローブとの対向面である表面に存在する場合には、d={(r−t)
2+S・360/(π・θ)}
1/2−(r−t)に基づいて欠陥深さを算出するようにしてもよい。
【0021】
上記の方法によれば、磁性体管の欠陥の欠陥深さを迅速かつ適切に算出することができる。
【0022】
本発明の一態様にかかる欠陥測定装置は、磁石と、前記磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知する磁気センサとを備える検査プローブと、前記磁気センサの出力信号に基づいて前記磁性体部材の欠陥の定量的評価を行うことができる磁束抵抗演算部とを備え、前記磁束抵抗演算部は、欠陥が前記磁性体部材における前記検査プローブとの対向面である表面および当該対向面の裏面のいずれに形成されているかに応じて選択される評価アルゴリズムを前記出力信号に適用することにより、前記磁性体部材の欠陥の定量的評価を行うことができる構成である。
【0023】
上記の構成によれば、磁石と、前記磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知する磁気センサとを備える検査プローブを用い、前記磁気センサの出力信号に、欠陥が磁性体部材の表面および裏面のいずれに形成されているかに応じて選択される評価アルゴリズムを適用することにより、磁束抵抗法を用いて欠陥の定量的評価を迅速かつ適切に行うことができる。
【0024】
また、前記検査プローブは、前記磁性体部材との対向面に沿ってハルバッハ配列を成すように配置されている複数の磁石と、前記複数の磁石のうちのハルバッハ配列の中央部に配置されている渦流探傷用センサと、前記複数の磁石のうちのハルバッハ配列の端部に配置されている磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知する磁気センサとを備えており、前記渦流探傷用センサを用いた渦流探傷検査の結果に基づいて欠陥が前記磁性体部材における表裏いずれの面に存在するのかを判定することができる欠陥面判定部を備え、前記出力信号に前記欠陥面判定部の判定結果に応じて選択される評価アルゴリズムを適用することにより、前記磁性体部材の欠陥の定量的評価を行うことができる構成としてもよい。
【0025】
上記の構成によれば、渦流探傷用センサによる測定と磁気センサによる測定とを並行して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0026】
また、前記磁性体部材は磁性体管であり、前記磁束抵抗演算部は、前記検査プローブを磁性体管内で当該磁性体管の軸方向に沿って移動させたときの前記各磁気センサの出力信号に基づいて前記磁性体管の欠陥の定量的評価を行うことができる構成としてもよい。
【0027】
上記の構成によれば、磁性体管の欠陥の定量的評価を迅速かつ適切に行うことができる。
【0028】
また、前記磁気センサは、磁束密度に応じた電圧値を出力し、前記磁束抵抗演算部は、前記磁性体管の軸方向に垂直な断面における断面積に対する欠損した断面積の比率である断面欠損率を算出することができる断面欠損率算出部を備え、前記断面欠損率算出部は、試験用磁性体管に形成された複数種類の欠陥を前記各磁気センサにより測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値の合計値と、試験用磁性体管に形成された前記各欠陥の実際の断面欠損率との関係に基づいて予め設定された断面欠損率算出式と、前記磁性体管を測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値の合計値とに基づいて前記磁性体管の断面欠損率を算出することができる構成としてもよい。
【0029】
上記の構成によれば、磁性体管の欠陥の断面欠損率を迅速かつ適切に算出することができる。
【0030】
また、前記磁束抵抗演算部は、前記磁性体管の軸方向に垂直な断面における周方向に沿った欠陥の範囲を示す欠陥範囲を算出することができる欠陥範囲算出部を備え、前記欠陥範囲算出部は、試験用磁性体管に形成された複数種類の欠陥を測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値のうちの最大値、前記各磁気センサの出力電圧値を前記最大値で除算した値の合計値、試験用磁性体管に形成された前記各欠陥の実際の欠陥範囲の関係に基づいて予め設定された欠陥範囲算出用データと、前記磁性体管を測定したときの前記各磁気センサの出力電圧値の最大値および前記各磁気センサの出力電圧値を前記最大値で除算した値の合計値とに基づいて、前記磁性体管の欠陥範囲を算出することができる構成としてもよい。
【0031】
上記の構成によれば、磁性体管の欠陥の欠陥範囲を迅速かつ適切に算出することができる。
【0032】
また、前記磁束抵抗演算部は、前記磁性体管に生じている欠陥の欠陥深さを算出する欠陥深さ算出部を備え、前記欠陥深さ算出部は、前記磁性体管の外径の半径をr(mm)、前記断面欠損率算出部の算出した断面欠損率をS(%)、前記欠陥範囲算出部の算出した欠陥範囲をθ(°)、欠陥深さをd(mm)とすると、欠陥が前記磁性体管における前記検査プローブとの対向面の裏面に存在する場合には、d=r−{r
2−S・360/(π・θ)}
1/2に基づいて欠陥深さを算出し、欠陥が前記磁性体管における前記検査プローブとの対向面である表面に存在する場合には、d={(r−t)
2+S・360/(π・θ)}
1/2−(r−t)に基づいて欠陥深さを算出することができる構成としてもよい。
【0033】
上記の構成によれば、磁性体管の欠陥の欠陥深さを迅速かつ適切に算出することができる。
【0034】
また、磁性体部材の欠陥を検査するための検査プローブであって、前記磁性体部材との対向面に沿ってハルバッハ配列を成すように配置されている複数の磁石と、前記複数の磁石のうちのハルバッハ配列の中央部に配置されている渦流探傷用センサと、前記複数の磁石のうちのハルバッハ配列の端部に配置されている磁石および前記磁性体部材が形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知する磁気センサとを備えている構成としてもよい。
【0035】
上記の構成によれば、渦流探傷用センサの検知結果に基づいて磁性体部材の欠陥が検査プローブとの対向面側に存在するのかその裏面側に存在するのかを判定するとともに、磁気センサの検知結果に基づいて磁束抵抗法により欠陥の定量的評価を行うことができる。
また、渦流探傷用センサによる測定データの取得と磁気センサによる測定データの取得とを並行して行うことができるので、作業効率を向上させることができる。
【0036】
また、磁性体からなる円筒状のヨークを備え、前記各磁石は前記ヨークの軸方向に沿ってハルバッハ配列を成すように並べて配置され、かつそれぞれの前記磁石は前記ヨークの外周面に沿って円筒状に配置されており、前記磁気センサは、前記ヨークの周方向に沿って複数配置されている構成としてもよい。
【0037】
上記の構成によれば、磁性体管の欠陥の定量的評価を迅速かつ適切に行うことができる。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明の欠陥測定方法および欠陥測定装置によれば、磁性体部材の欠陥の定量的評価を迅速に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本明細書において、磁性体部材とは磁性体からなる部材であり、例えば、磁性体からなるケーブル、ワイヤ、板状部材、各種構造物等が挙げられる。また、磁性体部材の欠陥としては、減肉状の欠陥(以下、減肉と称する)、亀裂状の欠陥等が挙げられる。また、減肉とは、機械的な摩耗や、化学的な腐食などによって厚みが薄くなる現象である。
【0041】
本発明の一実施形態について説明する。本実施形態では、磁性体部材として磁性体管を検査対象とし、磁気センサとしてホール素子を用い、渦流探傷用センサとして励磁・検出コイルを用いて減肉を検査する実施例について説明するが、本発明の適用対象は磁性体管に限るものでも、減肉の検査に限るものでもない。
【0042】
また、本実施形態では、本発明の欠陥測定装置を「減肉測定装置」と称する。また、本発明の欠陥が検査プローブとの対向面である表面に生じている表面欠陥および当該対向面の裏面に生じている裏面欠陥を、それぞれ「
内面減肉」および「
外面減肉」と称する。また、本発明の磁性体管の軸方向に垂直な断面における周方向に沿った欠陥の範囲を示す欠陥範囲を「減肉範囲」と称し、当該欠陥範囲を算出する欠陥範囲算出部を「減肉範囲算出部」と称する。また、本発明の磁性体管に生じている欠陥の欠陥深さを「減肉深さ」と称し、当該欠陥深さを算出する欠陥深さ算出部を「欠陥深さ算出部」と称する。また、本発明の渦流探傷用センサを用いた渦流探傷検査の結果に基づいて欠陥が前記磁性体部材における表裏いずれの面に存在するのかを判定することができる欠陥面判定部を、「減肉面判定部」と称する。また、欠陥が前記磁性体部材における前記検査プローブとの対向面である表面に生じている表面欠陥であるのか、当該対向面の裏面に生じている裏面欠陥であるのかを判定する欠陥面判定を、「減肉面判定」と称する。
【0043】
(1−1.検査プローブ100の構成)
図1は、検査プローブ100の断面模式図である。また、
図2は
図1に示したA−A断面の断面図である。
【0044】
本実施形態では、検査プローブ100を磁性体管の管内に挿入して管内を移動させることにより、磁性体管の磁化渦流探傷法(磁化ECT(Eddy Current Testing))および磁束抵抗法(MFR;Magnetic Flux Resistance)による検査を行う。検査対象の磁性体管としては、例えば、炭素鋼、フェライト系ステンレス鋼、フェライト相およびオーステナイト相の二相からなる二相ステンレス鋼などの磁性体からなる管体を用いることができる。
【0045】
検査プローブ100は、
図1に示すように、ヨーク1、第1磁石2、第2磁石3、第3磁石4、励磁・検出コイル5、渦電流制御コイル6、ガイド7,8、空気導入孔9、空気噴射孔10、およびホール素子11を備えている。
【0046】
ヨーク1は、磁性体からなる中空円筒状の部材である。ヨーク1を構成する磁性体としては、例えば、炭素鋼や低合金鋼などの高透磁率金属を用いることができる。
【0047】
第1磁石2、第2磁石3、および第3磁石4は、ヨーク1の外周面に取り付けられており、ヨーク1の軸方向に沿ってハルバッハ配列を成すようにこの順で配置されている。
【0048】
具体的には、第1磁石2は、単一の磁石からなる中空円筒状もしくは周方向に複数に分割された磁石を組み合わせた中空円筒状に形成されており、ヨーク1の軸方向中央部(第2磁石3と第3磁石4とに挟まれた位置)の外周面に沿って装着されている。本実施形態では、第1磁石2は、中空円筒状に形成され、その軸線がヨーク1の軸線と同一直線上となるようにヨーク1に装着されている。また、第1磁石2は、ヨーク1の軸方向に略平行な方向に沿って分極しており、第2磁石3側の磁極がN極、第3磁石4側の磁極がS極となるように着磁されている。第1磁石2としては、例えば、ネオジム磁石などの高性能永久磁石が用いられる。
【0049】
第2磁石3は、ヨーク1における第1磁石2に対して軸方向の一端側の外周面に沿って装着されている。本実施形態では、第2磁石3は、単一の磁石からなる中空円筒状もしくは周方向に複数に分割された磁石を組み合わせた中空円筒状に形成されており、その軸線がヨーク1の軸線と同一直線上となるようにヨーク1に装着されている。また、第2磁石3は、ヨーク1の半径方向(磁性体管Pと対向する方向)に沿って分極しており、ヨーク1側の磁極がS極、その反対側(検査対象の磁性体管側)の磁極がN極となるように着磁されている。第2磁石3としては、例えば、ネオジム磁石などの高性能永久磁石が用いられる。
【0050】
第3磁石4は、ヨーク1における第1磁石2に対して軸方向の他端側(第2磁石3が配置される側に対して反対側)の外周面に沿って装着される。本実施形態では、第3磁石4は、単一の磁石からなる中空円筒状もしくは周方向に複数に分割された磁石を組み合わせた中空円筒状に形成されており、その軸線がヨーク1の軸線と同一直線上となるようにヨーク1に装着される。また、第3磁石4は、ヨーク1の半径方向(磁性体管Pと対向する方向)に沿って分極しており、磁極方向が第2磁石3とは逆になるように着磁されている。すなわち、本実施形態では、第3磁石4は、ヨーク1側の磁極がN極、その反対側の磁極がS極となるように着磁されている。第3磁石4としては、例えば、ネオジム磁石などの高性能永久磁石が用いられる。
【0051】
このように、第2磁石3と第3磁石4との間に、第2磁石3側の磁極がN極、第3磁石4側の磁極がS極となるように第1磁石2を装着することにより(すなわち、ハルバッハ配列を成すように第2磁石3、第1磁石2、および第3磁石4を配置することにより)、第2磁石3および第3磁石4によって形成される磁束の強さ(磁束密度)を大きくするとともに磁束分布を均一にすることができる。
【0052】
なお、第1磁石2、第2磁石3、および第3磁石4のサイズは、検査対象の磁性体管に挿入可能であれば特に限定されるものではないが、第2磁石3および第3磁石4のヨーク1の軸方向外側の端部(第1磁石2から遠い側の端部)における磁束密度が1.4T〜2.4Tの範囲内になるサイズであることが好ましく、1.5T〜2.2Tの範囲内であることがより好ましい。磁束密度が上記範囲内である場合、磁束密度の変化に対する検査対象の磁性体管の比透磁率が線形に変化する。このため、磁束密度を上記範囲内に設定することにより、後述する磁束抵抗法(MFR;Magnetic Flux Resistance)による検査をより精度よく行うことができる。
【0053】
また、磁石の配置個数も特に限定されるものではなく、例えば、第1磁石2と第2磁石3との間、および第1磁石2と第3磁石4との間のうちの一方または両方に、さらに他の磁石を備えてもよい。また、その場合、各磁石がハルバッハ配列を成すように各磁石を配置してもよい。
【0054】
また、第1磁石2、第2磁石3、および第3磁石4のヨーク1に対する装着方法は特に限定されるものではなく、例えば接着剤等によりヨーク1に装着してもよく、ヨーク1に嵌合させてもよい。
【0055】
励磁・検出コイル5は、ヨーク1の軸方向中央部に配置された第1磁石2の外周面に沿って巻きつけられており、磁性体管Pにおける第2磁石3、第1磁石2、および第3磁石4によって磁気飽和された領域(あるいは渦電流が十分に浸透可能な程度に透磁率が低下した領域)を渦流探傷する、渦流探傷検査を行うためのものである。渦流探傷検査を行うことにより、励磁・検出コイル5が磁性体管の減肉部を通過したときに、減肉量(体積)に応じた振幅と減肉深さに応じた位相とに相関する減肉信号(検出信号)が検出される。励磁・検出コイル5の構成は、上記減肉信号を検出可能であれば特に限定されるものではないが、例えば線径が0.02〜1.0mmの銅線で、巻数が10〜200回のコイルを用いることができる。
【0056】
渦電流制御コイル6は、第1磁石2の外周面における励磁・検出コイル5に対してヨーク1の軸方向の両側の位置に巻きつけられており、励磁・検出コイル5が励起する渦電流とは逆方向に流れる渦電流を励起する。渦電流制御コイル6を設けることにより、励磁・検出コイル5が励起する渦電流の余剰な導電範囲を、当該励磁コイルで逆方向の渦電流を励起することによって相殺し、渦電流の余剰な導電範囲を抑制することができる。
【0057】
なお、
図1では、励磁・検出コイル5および渦電流制御コイル6の導線およびその取り出し孔については図示を省略している。
【0058】
図3は、検査プローブ100における渦流探傷部の回路図である。この図に示すように、2個の励磁・検出コイル5(La,Lb)、2個の渦電流制御コイル6(Lc,Ld)、および4個の可変抵抗器R1,R2,R3,R4が、電源13と渦流探傷機12との間に並列に接続されており、検出コイルLa,Lbと可変抵抗器R1,R2がホイストンブリッジ回路となるように、渦流探傷機12の入力信号用の端子に接続されている。
【0059】
渦流探傷機12の出力端子は導線によって後述する渦流探傷部30に接続されている。
【0060】
なお、渦流探傷検査は、次のようにして行う。すなわち、まず、所定の試験周波数(例えば100kHz)、および所定の印加電圧(例えば5v)の時の励磁・検出コイル5および渦電流制御コイル6のインピーダンスを測定し、可変抵抗器R1,R2の抵抗値を、その測定した抵抗値に調整する。また、このときの励磁・検出コイル5と可変抵抗器R1,R2の合成インピーダンスを測定し、渦電流制御コイル6に接続する可変抵抗器R3,R4の抵抗値を、その測定した抵抗値の前後に変化させて探傷し、最終的に検出感度が良い条件で探傷を行う。検査プローブ100による探傷速度は、例えば約2〜50mm/秒の範囲に設定され、より小さい減肉を精度良く検出する必要がある場合には約2〜10mm/秒の範囲に設定される。
【0061】
ホール素子11は、
図1および
図2に示したように、第3磁石4における第1磁石2から遠い側の端部近傍の位置に、ヨーク1の周方向に沿って略均等な間隔で8個配置されている。これら各ホール素子11は、第3磁石4と磁性体管とを通る磁束密度(磁束の強さ)に応じた電圧値(出力信号)を後述する磁束抵抗探傷部40に出力する。すなわち、ホール素子11は、第3磁石4および磁性体管Pが形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知し、検知結果に応じた出力信号を磁束抵抗探傷部40に出力する。磁束抵抗探傷部40では、各ホール素子11の出力信号を用い、後述する磁束抵抗法による減肉の定量的評価を行う。
図1ではホール素子11の導線およびその取り出し孔については図示を省略している。
【0062】
なお、本実施形態では、ヨーク1の周方向に沿って8個のホール素子11を配置しているが、ホール素子11の個数はこれに限るものではない。また、本実施形態では、磁気センサとしてホール素子を用いているが、磁気センサの種類は特に限定されるものではなく、磁束密度に応じた出力信号を出力可能なものであればよい。また、ホール素子11の設置位置は、第3磁石4と磁性体管Pとを通る磁束密度を測定可能な位置であればよく、例えば、第3磁石4に対して検査プローブ100の軸方向に対向する位置であってもよく、周方向に対向する位置であってもよい。また、ホール素子11の設置位置は、第3磁石4に当接する位置であってもよく、第3磁石4から離間した位置であってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、ホール素子11により第3磁石4と磁性体管Pとを通る磁束密度を測定しているが、これに限らず、ホール素子11を第2磁石3および磁性体管Pが形成する磁気回路上に配置し、第2磁石3と磁性体管Pとを通る磁束密度を測定するようにしてもよい。また、第2磁石3および磁性体管Pが形成する磁気回路上と、第3磁石4および磁性体管Pが形成する磁気回路上とにそれぞれホール素子11を配置し、第3磁石4と磁性体管Pとを通る磁束密度、および第2磁石3と磁性体管Pとを通る磁束密度をそれぞれ測定するようにしてもよい。
【0064】
検査プローブ100の軸方向両端部には、ガイド7,8が設けられている。ガイド7,8は、例えば、アセタール樹脂、ステンレス鋼などで形成され、ねじ構造によってヨーク1に装着される。
【0065】
また、ヨーク1の軸方向の両端面におけるヨーク1の略中心部には空気導入孔9が設けられており、ヨーク1の両端部近傍には空気導入孔9と連通し、ヨーク1の半径方向に延びる複数の空気噴射孔10が設けられている。これにより、ヨーク1の両端面に設けられた空気導入孔9から空気が導入され、空気噴射孔10から空気が噴射される。磁性体管の探傷では、検査プローブ100に装着した強力な永久磁石による管内面への張り付きにより、検査プローブ100の走査(移動)および芯出しが困難になるが、空気噴射孔10から磁性体管における検査プローブ100との対向面に略垂直に空気が噴射されることにより、管への張り付きを軽減させて検査プローブ100の走査を容易にすることができる。なお、空気噴射孔10は、例えば、孔径が約2mmφで、空気導入孔9から周方向に約6〜10本設けられる。
【0066】
(1−2.磁束抵抗法の概要)
図16は、従来から行われている漏洩磁束法(MFL;Magnetic Flux Leakage)と本実施形態で用いる磁束抵抗法(MFR;Magnetic Flux Resistance)との違いを示す説明図である。
【0067】
漏洩磁束法では、
図16に示したように、ハルバッハ配列で配置された第2磁石3、第1磁石2、および第3磁石4のうち、中央に配置された第1磁石2における磁性体管Pとの対向面にホール素子11bを配置し、このホール素子11bによって磁性体管P中を流れる磁束が磁性体管Pの減肉部で管外に漏洩するのを検出する。この場合、漏洩磁束が発生するのは減肉端部等の形状不連続部のみであり、
図16に示したように、全面減肉や緩やかな減肉部では漏洩磁束は発生しない。したがって、漏洩磁束法では、全面減肉や緩やかな減肉部を検出したり、減肉を定量的に評価したりすることができない。
【0068】
これに対して、磁束抵抗法では、ハルバッハ配列の端部に配置された磁石(磁性体管Pと対向する方向に分極した第3磁石4)、および磁性体管Pが形成する磁気回路上にホール素子11を配置し、当該磁石と磁性体管Pとを流れる磁束密度を測定する。これにより、磁性体管Pの肉厚に応じて増減する磁束密度を直接測定することができるので、磁束抵抗法では、全面減肉や緩やかな減肉部についても検出することができ、また、磁性体管Pの減肉深さおよび肉厚を正確に測定することができる。
【0069】
(1−3.減肉判定処理部20の構成)
図4は、本実施形態にかかる減肉測定装置200の構成を示すブロック図である。また、
図5は、本実施形態における減肉判定処理の概要を示す説明図である。
【0070】
減肉測定装置200は、
図4に示すように、励磁・検出コイル5、ホール素子11、および減肉判定処理部20を備えている。また、減肉判定処理部20は、渦流探傷部30と磁束抵抗探傷部40とを備えている。
【0071】
本実施形態では、
図4および
図5に示したように、励磁・検出コイル5により渦流探傷検査を行い、この渦流探傷検査の検出信号を用いて渦流探傷部30が磁性体管Pの内面に減肉が生じているのか外面に減肉が生じているのかを判断する。また、第3磁石4と磁性体管Pとを流れる磁束密度をホール素子11により検出し、この検出結果と渦流探傷部30による減肉面の判定結果とを用いて磁束抵抗探傷部40が磁性体管Pの減肉を定量的に評価する。なお、本実施形態において、磁性体管Pの内面とは、磁性体管Pと検査プローブ100との対向面である表面であり、外面とは、該対向面の裏面である。
【0072】
渦流探傷部30は、
図4に示したように、第1検出部31、第1記憶部32、および渦流探傷演算部33を備えており、渦流探傷演算部33は検出位置特定部34および減肉面判定部35を備えている。
【0073】
また、磁束抵抗探傷部40は、第2検出部41、第2記憶部42、および磁束抵抗演算部43を備えており、磁束抵抗演算部43は検出位置特定部44、断面欠損率算出部45、形状パラメータ算出部46、減肉範囲算出部47、および減肉深さ算出部48を備えている。
【0074】
第1検出部31は、励磁・検出コイル5から渦流探傷機12を介して入力される検出信号を取得し、取得した検出信号と当該検出信号が検出された検出時刻(検出タイミング)とを対応付けて第1記憶部32に記憶させる。
【0075】
第2検出部41は、各ホール素子11の出力電圧値を取得し、取得した電圧値と当該各電圧値の検出時刻(検出タイミング)とを対応付けて第2記憶部42に記憶させる。
【0076】
第1記憶部32および第2記憶部42の構成は特に限定されるものではなく、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM(登録商標)/フラッシュROM等の半導体メモリ系などの記録媒体を用いることができる。
【0077】
検出位置特定部34および検出位置特定部44は、第1記憶部32に記憶されている励磁・検出コイル5の検出信号およびその検出時刻と、第2記憶部42に記憶されている各ホール素子11の出力電圧値およびその検出時刻とに基づいて、磁性体管Pにおける励磁・検出コイル5の検出信号に対応する検出位置と各ホール素子11の電圧出力値に対応する検出位置とを対応付ける。
【0078】
減肉面判定部35は、励磁・検出コイル5の検出信号に基づいて、検査対象の磁性体管に存在する減肉が内面減肉であるのか外面減肉であるのかを判定する。
【0079】
断面欠損率算出部45は、後述する断面欠損率算出式に基づいて磁性体管の軸方向に沿った各位置における断面欠損率を算出する。断面欠損率とは、磁性体管の軸方向に垂直な断面における断面積に対する欠損した断面積の比率であり、欠損した断面積とは、減肉により減少した断面積である。なお、本実施形態では、詳細は後述するが、内面減肉の場合と外面減肉の場合とで異なる断面欠損率算出式を用いる。
【0080】
形状パラメータ算出部46は、各ホール素子11の出力電圧値に基づいて形状パラメータを算出する。本実施形態では、形状パラメータ算出部46は、形状パラメータとして、各ホール素子11の出力電圧値のうちの最大値であるVmaxと、各ホール素子11の出力電圧値をVmaxで正規化(除算)した値の合計値であるVallとを算出する。
【0081】
減肉範囲算出部47は、各ホール素子11の出力電圧値に基づいて、磁性体管の減肉範囲を算出する。
【0082】
減肉深さ算出部48は、断面欠損率算出部45が算出した断面欠損率と、減肉範囲算出部47が算出した減肉範囲とに基づいて、磁性体管の径方向についての減肉深さを算出する。
【0083】
なお、渦流探傷演算部33および磁束抵抗演算部43は、ASIC(Application specific integrated circuit)等の集積回路(ハードウェアロジック)であってもよく、CPU等のプロセッサを搭載したコンピュータがソフトウェアを実行することによって実現されるものであってもよく、それらを組み合わせて実現されるものであってもよい。
【0084】
また、渦流探傷演算部33および磁束抵抗演算部43は、第1検出部31、第1記憶部32、第2検出部41、および第2記憶部42と共通の筐体に備えられるものであってもよく、別体に備えられるものであってもよい。後者の場合、渦流探傷演算部33および磁束抵抗演算部43は、第1記憶部32および第2記憶部42に記憶された情報を、有線通信、無線通信、あるいは着脱可能な記憶媒体等を介して取得し、演算処理を行う。
【0085】
(1−4.減肉検査処理)
図6は、本実施形態における減肉検査処理の流れを示すフローチャートである。
【0086】
まず、検査プローブ100を検査対象の磁性体管に挿入して磁性体管内を軸方向に沿って移動させながら励磁・検出コイル5およびホール素子11による測定処理を行う(S1)。
【0087】
具体的には、第1検出部31が励磁・検出コイル5から渦流探傷機12を介して出力される検出信号と当該検出信号を検出した検出時刻とを取得し、それらを対応付けて第1記憶部32に記憶させる。また、第2検出部41が各ホール素子11の出力電圧値と当該電圧値を検出した検出時刻とを取得し、それらを対応付けて第2記憶部42に記憶させる。
【0088】
なお、検査プローブ100を磁性体管内で移動させる方法は特に限定されるものではなく、例えば、検査プローブ100に接続したワイヤ等引っ張ることにより移動させてもよく、検査プローブ100を棒状の部材で押すことにより移動させてもよく、検査プローブ100に駆動手段を設けて自走させてもよい。
【0089】
次に、検出位置特定部34および44が、第1記憶部32に記憶されている情報に基づいて、励磁・検出コイル5の検出信号に対応する検出位置(磁性体管の軸方向の位置)と、ホール素子11の出力電圧値に対応する検出位置(磁性体管の軸方向の位置)とを対応付ける(S2)。
【0090】
次に、減肉面判定部35が、S2で対応付けを行った検出位置の1つを注目検出位置として抽出し(S3)、当該検出位置の減肉面判定処理(当該検査位置の減肉が外面減肉か内面減肉かを判定する処理)を行う(S4)。これにより、本実施形態では、外面減肉の場合には外面減肉用の評価アルゴリズム(S5〜S11)により減肉の定量的評価(断面欠損率、減肉範囲、および減肉深さの算出)が行われ、内面減肉の場合には内面減肉用の評価アルゴリズム(S12〜S15)により減肉の定量的評価が行われる。
【0091】
磁化渦流探傷法による測定結果では、減肉が磁性体管の内面側に存在する場合と外面側に存在する場合とで出力電圧値の位相角が明確に異なる。具体的には、磁化渦流探傷法では、X軸をX方向の電圧振幅とし、Y軸をY方向の電圧振幅としたグラフにおいて、減肉が内面に存在する場合には検出結果が第1象限側に振れ、減肉が外面に存在する場合には第3象限側に振れる。したがって、磁化渦流探傷法を用いることにより、減肉が磁性体管の内面側に存在するのか外面側に存在するのかを容易に判定することができる。
【0092】
なお、本実施形態では、減肉面(減肉が磁性体管の外面側に存在する減肉か内面側に存在する減肉か)を磁化渦流探傷法により判定している。これにより、検査プローブ100を用いて、磁束抵抗法による測定データの取得と磁化渦流探傷法による測定データの取得とを同時に行い、リアルタイムで減肉面判定を行うことができる。このため、内面減肉および外面減肉が混在する場合などには磁化渦流探傷法による減肉面判定が特に有利である。ただし、減肉面の判定方法は磁化渦流探傷法に限るものではなく、他の判定方法を用いて判定してもよい。また、例えば検査対象の磁性体管の使用環境や目視検査結果などから減肉面を特定できる場合には、減肉面判定をユーザが行うようにしてもよい。
【0093】
次に、断面欠損率算出部45が、減肉面判定部35による減肉面の判定結果に基づいて、注目検査位置の減肉が外面減肉であるか否かを判断する(S5)。
【0094】
S5において外面減肉であると判断した場合、断面欠損率算出部45は、外面減肉用の断面欠損率算出式に基づいて断面欠損率Coutを算出する(S6)。
【0095】
なお、外面減肉用の断面欠損率算出式および内面減肉用の断面欠損率算出式は、複数種類の減肉を有する試験片(試験用磁性体管)を、検査プローブ100を用いて磁束抵抗法により測定した結果に基づいて予め設定しておく。
【0096】
図7の(a)は複数の外面減肉を有する試験片の一例を示す説明図であり、(b)は複数の内面減肉を有する試験片の一例を示す説明図である。
【0097】
図7の(a)に示すように、外面減肉の試験片としては、外径25.4mm、肉厚2.0mmのSTB管に、減肉範囲、および減肉率が異なる9種類の減肉を形成した試験片を用いた。すなわち、〔減肉範囲,減肉率〕がそれぞれ〔45°,25%〕、〔45°,50%〕、〔45°,75%〕、〔90°,25%〕、〔90°,50%〕、〔90°,75%〕、〔135°,25%〕、〔135°,50%〕、〔135°,75%〕である9種類の減肉を有する試験片を用いた。なお、周方向の減肉範囲が360度であるといえば、磁性体管Pの全周に亘って減肉が生じていることを表している。また、本実施形態における減肉率とは、健全な状態における磁性体管Pの肉厚に対する、磁性体管Pと第1磁石2とが対向する方向における減肉部の深さの割合を示す値であり、減肉率が75%であるといえば、磁性体管Pの厚みが健全な状態の1/4になっていることを示す。なお、各減肉における磁性体管の軸方向の幅は5mmである。
【0098】
また、
図7の(b)に示すように、内面減肉の試験片としては、(i)外径25.4mm、肉厚2.0mmのSTB管に、直径5mm、減肉率25%の平底穴状の減肉、および直径5mm、減肉率50%の平底穴状の減肉を形成した試験片と、(ii)外径25.4mm、肉厚2.0mmのSTB管に、減肉範囲90°、減肉率25%、磁性体管の軸方向の幅5mmの減肉、および減肉範囲90°、減肉率50%、磁性体管の軸方向の幅5mmの減肉を形成した試験片とを用いた。
【0099】
図7の(c)は、
図7の(a)および(b)に示した各試験片を磁束抵抗法により測定した結果(各ホール素子11の出力電圧値の合計値V_sum(V))と、各試験片における各減肉の実際の断面欠損率(実測値に基づいて算出した断面欠損率)との関係を示すグラフである。上記実測値は、超音波厚さ計、または水浸回転式超音波厚さ測定法を用いて測定した。なお、このグラフには、外面の全周溝減肉(外面周溝減肉)および内面の全周溝減肉(内面周溝減肉)を測定した結果についてもプロットしている。
【0100】
図7の(c)に示したように、局部減肉の場合も全周溝減肉の場合も、全ホール素子11の出力電圧値の合計値V_sumと減肉の断面欠損率との間には非常に高い相関があり、両者の関係は一次関数で近似できる。
【0101】
そこで、本実施形態では、予め用意した試験片の測定結果に基づくV_sumと実際の断面欠損率との関係に基づいて、V_sumから断面欠損率を算出するための断面欠損率算出式を予め算出しておく。
【0102】
なお、
図7の(c)に示したように、V_sumと断面欠損率のグラフにおいて、外面減肉用の断面欠損率算出式と内面減肉用の断面欠損率算出式とは、傾きはほぼ同じであるが、内面減肉用の方が切片の値が小さくなる。すなわち、外面減肉用の断面欠損率Coutを算出するための断面欠損率算出式は「Cout=a×V_sum」で表されるのに対して、内面減肉用の断面欠損率Cinを算出するための断面欠損率算出式は「Cin=a×V_sum−b」で表される。なお、上記a,bの値は、測定対象の磁性体管の材質やサイズ等に応じて予め用意した試験片の測定を行うことにより、測定対象の磁性体管の減肉検査処理を行う前に決定しておく。
【0103】
S6で外面減肉の断面欠損率Coutを算出した後、形状パラメータ算出部46が、各ホール素子11の出力電圧値に基づいて、所定の形状パラメータを算出する(S7)。
【0104】
本実施形態では、形状パラメータとして、各ホール素子11の出力電圧値のうちの最大値であるVmaxと、各ホール素子11の出力電圧値をVmaxで正規化した値の合計値であるVallとを算出する。
【0105】
図8は、全面減肉および局部減肉を探傷したときの8個のホール素子11(ch1〜ch8)の出力電圧値の一例を示す説明図である。この図に示すように、全てのホール素子11の出力電圧値が略同じになる全面減肉では、出力電圧値は長方形型の分布になる。一方、局部減肉の場合、局部減肉箇所の直下に配置されたホール素子11の出力電圧値が最も高くなり、そこから離れるにつれて出力電圧値が低くなる山型の分布となる。
【0106】
次に、減肉範囲算出部47が、形状パラメータ算出部46によって算出された形状パラメータ(Vmax,Vall)を用いた所定の第1算出方法により減肉範囲を算出可能であるか否かを判定する(S8)。なお、S8における判定方法については後述する。
【0107】
そして、S8において第1算出方法により減肉範囲を算出可能であると判断した場合には減肉範囲算出部47は第1算出方法により減肉範囲を算出し(S9)、第1算出方法により減肉範囲を算出できないと判断した場合には減肉範囲算出部47は所定の第2算出方法により減肉範囲を算出する(S10)。
【0108】
図9は、上述した外面減肉の試験片(
図7の(a)参照)および内
面減肉の試験片(
図7の(b)参照)を探傷した結果に基づいてVmaxおよびVallを算出し、横軸をVall、縦軸をVmaxとしてプロットしたグラフである。また、
図10は、
図9に示したデータのうち外
面減肉の試験片に関するデータを抽出したグラフである。
【0109】
図9および
図10に示したように、外面減肉については、Vallが所定値(例えば3V)以上である場合、VallおよびVmaxをプロットしたグラフにおいて、周方向の減肉範囲に応じた明確な分布が得られる。したがって、外面減肉の試験片を探傷した結果に基づいて減肉範囲毎にVallとVmaxとの相関関係を示す関数(減肉範囲算出用データ)をそれぞれ算出しておき、それらの関数を用いた補間演算を行うことにより、検査対象の磁性体管を探傷して得られたVallおよびVmaxに対応する減肉範囲を算出することができる。本実施形態ではこの算出方法を第1算出方法と称する。
【0110】
具体的には、第1算出方法では、外面減肉の試験片を探傷した結果に基づいて、減肉範囲45°の場合のVallとVmaxとの相関関係を示す直線L45、減肉範囲90°の場合のVallとVmaxとの相関関係を示す直線L90、および減肉範囲135°の場合のVallとVmaxとの相関関係を示す直線L135をそれぞれ予め算出しておく。
【0111】
そして、検査対象の磁性体管を探傷して得られたVmaxと各直線L45、L90、L135との交点を算出し、検査対象の磁性体管を探傷して得られたVallと上記各交点との差を算出し、算出した各差の比に応じて減肉範囲を算出する。
【0112】
例えば、外面局部減肉のVmax値が0.15V、Vall値が3.8の場合、
図10に示すように、直線L90およびL135上のVmax=0.15に対応するVallの値a,bをそれぞれ算出する。そして、(b−3.8)と(3.8−a)との比に応じて減肉範囲を算出する。例えば、検査対象の減肉の減肉範囲をXとすると、「(135−X):(X−90)=(b−3.8):(3.8−a)」の関係より、減肉範囲Xを算出する。これにより、Vmax=0.15V、Vall=3.8の場合の減肉範囲は約100°と算出される。
【0113】
一方、外
面減肉であっても、例えば8個のホール素子11のうちの1つでしか磁束変化が検出できないような減肉範囲が狭い局部減肉の場合、Vall値が評価マップ(
図10のグラフ)の範囲外になってしまい、上記の第1算出方法では減肉範囲を算出できない。
【0114】
また、内
面減肉の場合、
図9に示したように、外
面減肉に比べてVallが小さく、Vmaxが大きいという傾向が見られたものの、外面減肉のような周方向の減肉範囲に応じた明確な分布は得られない。これは、内面減肉の直下部では、ホール素子11と磁性体管との間の空間が広くなることにより見かけ上の磁気抵抗が増加して出力信号Vmaxが大きくなり、このVmaxで正規化した際にVallが一様に小さくなるためであると考えられる。
【0115】
そこで、本実施形態では、減肉範囲算出部47が、(i)外
面減肉であってVallの値が所定値(例えば3)未満の場合、および(ii)内
面減肉の場合には、第1算出方法ではなく、以下で説明する第2算出方法を用いて減肉範囲を算出する。すなわち、減肉範囲算出部47は、外
面減肉の場合、S8の処理においてVallの値が所定値以上であるか否かを判断し、所定値以上の場合にはS9において第1算出方法により減肉範囲を算出し、所定値未満の場合にはS10において第2算出方法により減肉範囲を算出する。また、減肉範囲算出部47は、内
面減肉の場合、後述するS14の処理において第2算出方法を用いて減肉範囲を算出する。
【0116】
図11は、第2算出方法による減肉範囲の算出方法を示す説明図である。
【0117】
第2算出方法では、まず、試験片に形成された減肉の1つを基準減肉として抽出する。本実施形態では、外面減肉を測定する場合の基準減肉を減肉範囲45°、減肉率25%の減肉を基準減肉とする。また、内面減肉を測定する場合、減肉範囲90°、減肉率50%の減肉(弧状減肉)を基準減肉とする。なお、試験片におけるどの減肉を基準減肉とするかは、事前に検証実験を行い、その実験結果に応じて適宜選択すればよい。
【0118】
そして、基準減肉の形状プロファイル(各ホール素子11の出力電圧をVmaxで正規化した値を結んでなるプロファイル)である基準プロファイル(
図11参照)において、Vmaxが検出されたホール素子11の両隣に配置されたホール素子11の出力電圧値の平均値を基準値とし、基準プロファイルにおける基準値に対応する2点間の距離L1を算出する。
【0119】
また、検出対象の磁性体管を探傷した結果に基づいて得られる形状プロファイルにおける上記基準値に対応する2点間の距離L2を算出する。なお、検出対象の磁性体管を探傷した結果に基づいて得られる形状プロファイルの幅L2が基準プロファイルの幅L1よりも狭い場合(L1>L2である場合)、Vmax=1と、Vmaxが検出されたホール素子11の両隣のホール素子11の出力電圧をそれぞれVmaxで正規化した値とを直線または曲線で結ぶ仮想プロファイルを求め、この仮想プロファイルにおける上記基準値に対応する2点間の距離を距離L2として算出すればよい。
【0120】
その後、基準結果の減肉範囲(本実施形態では45°)にL2/L1を乗算した値を検出対象の磁性体管の減肉範囲として算出する。
【0121】
そして、S9またはS10において減肉範囲を算出した後、減肉深さ算出部48が、減肉欠損率と減肉範囲とに基づいて減肉深さを算出し(S11)する。
【0122】
なお、外面減肉の場合の減肉深さdは、検査対象の磁性体管の外径の半径をr(mm)、健全部の肉厚をt(mm)、
欠損した断面積をS(
mm2)、減肉範囲をθ(°)とすると、
S=π・{r2−(r−t)2}・Cout/100
d=r−{r
2−S・360/(π・θ)}
1/2
より算出することができる。
【0123】
一方、S5において外面減肉ではない(内面減肉である)と判断した場合、断面欠損率算出部45は、上述した内面減肉用の断面欠損率算出式に基づいて断面欠損率Cinを算出する(S12)。
【0124】
次に、形状パラメータ算出部46が、各ホール素子11の出力電圧値に基づいて、形状パラメータを算出する(S13)。本実施形態では、外面減肉の場合と同様、形状パラメータとして、VmaxとVallとを算出する。
【0125】
その後、減肉範囲算出部47が、第2算出方法により減肉範囲を算出する(S14)。なお、本実施形態では、上述したように、内面減肉を測定する場合、減肉範囲90°、減肉率50%の減肉(弧状減肉)を基準減肉とし、この基準減肉の形状プロファイルを基準プロファイルとして第2算出方法により減肉範囲を算出する。
図12は、第2算出方法による減肉範囲の算出方法を示す説明図である。
【0126】
そして、S14で減肉範囲を算出した後、減肉深さ算出部48が、減肉欠損率と減肉範囲とに基づいて減肉深さを算出し(S15)、処理を終了する。
【0127】
なお、内面減肉の場合の減肉深さdは、検査対象の磁性体管の外径の半径をr(mm)、健全部の肉厚をt(mm)、
欠損した断面積をS(
mm2)、減肉範囲をθ(°)とすると、
S=π・{r2−(r−t)2}・Cin/100
d={(r−t)
2+S・360/(π・θ)}
1/2−(r−t)
より算出することができる。
【0128】
その後、減肉面判定部35が、全ての検査位置について断面欠損率、減肉範囲、および減肉深さの算出処理が完了したか否かを判断し(S16)、算出処理を行っていない検出位置が残っている場合にはS3に戻って同様の処理を繰り返す。また、S16において全ての検出位置について算出処理が完了したと判断した場合、減肉検査処理を終了する。
【0129】
図13は、本実施形態の方法により実機で使用された管を測定して得られた肉厚評価値と、実機で使用された管を実測して求めた肉厚実測値との関係を示すグラフである。肉厚評価値は、本実施形態の方法で実機で使用された管の減肉深さを算出し、健全な状態における管の肉厚と該減肉深さとの差を求めることで算出し、肉厚実測値は、超音波厚さ計、または水浸回転式超音波厚さ測定法を用いて測定した。この図に示すように、本実施形態にかかる方法により、概ね±0.15mmの精度で肉厚評価を行うことができた。
【0130】
(1−5.減肉検査の評価例)
(1−5−1.内面減肉の評価例)
図14の(a)は、内面減肉が生じている外径27.2mm、肉厚2.6mmのSTB管(磁性体管)を検査したときの各ホール素子11の出力電圧をプロットしたグラフである。
【0131】
この評価例では、
図14の(a)に示したように、減肉は周方向の一部の位置に偏って発生しているのがわかる。また、この評価例では、ホール素子11の出力電圧が周方向でピークを1つだけ持つような比較的なだらかな局部減肉が発生している。
【0132】
この評価例について、
図14の(a)に示した代表的な減肉部を
図6に示したフローに従って評価したところ、以下の結果が得られた。
<代表的な減肉部の評価結果>
(1)減肉面判定結果:内面減肉
(2)各ホール素子11の出力電圧の合計値V_sum=1.19V
(3)断面欠損率
(欠損した断面積S
)=16.7%(35.9mm
2)(a=16.163、b=2.5)
(4)周方向の減肉範囲θ=110°
(内面減肉であることから第2算出方法により減肉範囲θを算出した。すなわち、
図14の(b)に示すようにL1,L2を求め、L2/L1=1.96を算出した。そして、L2/L1を基準減肉の減肉範囲(56.3°)に乗算することにより、上記評価例の減肉範囲θ=56.3×1.96≒110°を算出した。)
(5)減肉深さd=1.6mm
(内面減肉であることから、d={(r−t)
2+S・360/(π・θ)}
1/2−(r−t)より減肉深さdを算出した。)
(1−5−2.外面減肉の評価例)
図15の(a)は、外面減肉が生じている外径25.4mm、肉厚2.0mmのSTB管(磁性体管)を検査したときの各ホール素子11の出力電圧をプロットしたグラフである。
【0133】
この評価例では、
図15の(a)に示したように、腐食(減肉)は管軸方向の略全域にわたって局部減肉およびバッフル部での局部減肉が発生していた。
【0134】
この評価例について、代表的な減肉部を
図6に示したフローに従って評価したところ、以下の結果が得られた。
<代表的な減肉部の評価結果>
(1)減肉面判定結果:外面減肉
(2)各ホール素子11の出力電圧の合計値V_sum=0.27V
(3)断面欠損率
(欠損した断面積S
)=4.4%(6.5mm
2)(a=16.163)
(4)減肉範囲θ=51.3°
(外面減肉であるが、Vall<3.0Vなので第2算出方法により減肉範囲θを算出した。すなわち、
図15の(b)に示すようにL1,L2を求め、L2/L1=1.14を算出した。そして、L2/L1を基準減肉の減肉範囲(45.0°)に乗算することにより、上記評価例の減肉範囲θ=45.0×1.14≒51.3°を算出した。)
(5)減肉深さd=0.69mm
(外面減肉であることから、d=r−{r
2−S・360/(π・θ)}
1/2より減肉深さdを算出した。)
(1−6.まとめ)
以上のように、本実施形態では、検査プローブ100は、第3磁石4と、第3磁石4と磁性体管とが形成する磁気回路上に配置され、当該磁気回路を流れる磁束密度を検知するホール素子11とを備えており、この検査プローブ100を磁性体管内で軸方向に沿って移動させたときのホール素子11の出力信号に基づいて磁性体管の減肉の定量的評価を行う。この際、減肉が磁性体管の内面側に生じているか裏面側に生じているか(内面減肉か外面減肉か)に応じて、内面減肉用の評価アルゴリズムまたは外面減肉用の評価アルゴリズムを適用して減肉の定量的評価を行う。
【0135】
これにより、欠陥の定量的評価を正確かつ迅速に行うことができる。すなわち、従来の磁化渦流探傷試験や漏洩磁束法では、欠陥の有無を検査することはできるものの、欠陥の定量的評価を行うことができなかったが、本実施形態にかかる方法によれば、磁性体管の欠陥の定量的評価を正確に行うことができる。また、従来の水浸回転式超音波厚さ測定法では、欠陥の定量的評価を行えるものの検査速度が遅いという問題があったが、本実施形態にかかる方法によれば欠陥の定量的評価を迅速に行うことができる。
【0136】
なお、本実施形態では、検査プローブ100が、ヨーク1を備えている構成を示したが、必ずしもヨーク1を備えている必要は無い。すなわち、検査プローブ100は、
図5に示した磁束密度を磁性体管Pに作用することができる構成であればよい。
【0137】
また、本実施形態では、検査プローブ100における第2磁石3および第3磁石4の分極方向が、磁性体管Pと対向する方向となるように第2磁石3および第3磁石4が配置されている構成を示したが、これに限るものではなく、
図5に示す磁束密度を磁性体管Pに作用させることができる構成であればよい。例えば、第2磁石3および第3磁石4は、磁性体管Pの軸方向と分極方向とが平行となるように配置されていてもよい。そのような場合であっても、ホール素子11およびヨーク1は、第2磁石3および第3磁石4と磁性体管Pとで構成される磁気回路上に設けられていればよい。
【0138】
また、本実施形態では、検査プローブ100を検査対象の磁性体管Pに挿入し、磁性体管P内を軸方向に沿って移動させながらホール素子11による測定処理を行う構成としたが、これに限るものではない。すなわち、検査プローブ100を検査対象の磁性体管Pに挿入し、磁性体管Pにおける任意の位置でホール素子11の出力を測定することにより、磁性体管Pの当該位置における欠陥の定量的評価を行う構成としてもよい。
【0139】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。