(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6579951
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム単結晶積層体、該積層体の製造方法、及び該積層体を利用した半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20190912BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20190912BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20190912BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20190912BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20190912BHJP
H01L 33/12 20100101ALI20190912BHJP
H01L 33/22 20100101ALI20190912BHJP
【FI】
H01L21/205
C30B29/38 C
C30B25/20
C23C16/34
H01L33/32
H01L33/12
H01L33/22
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-252762(P2015-252762)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-117972(P2017-117972A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】岡山 玲子
(72)【発明者】
【氏名】木下 亨
(72)【発明者】
【氏名】永島 徹
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−267088(JP,A)
【文献】
特開2015−156483(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/078252(WO,A1)
【文献】
特開2010−089971(JP,A)
【文献】
特開2009−190960(JP,A)
【文献】
特開2005−225756(JP,A)
【文献】
Daeyong Eom, 外6名,AlN Nanostructures Fabricated on a Vicinal Sapphire (0001) Substrate,Crystal Growth & Design,2015年 1月14日,Vol. 15,pp. 1242-1248
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02、21/18−21/20、21/205、
21/31、21/34−21/36、21/365、
21/469、21/84−21/86、
33/00−33/46、
C23C 16/00−16/56、
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム単結晶基板の窒素極性面上に、窒化アルミニウム単結晶層が直接積層した積層構造を有する窒化アルミニウム単結晶積層体であって、
該積層体の表面および裏面の全面が共にアルミニウム極性面であり、表面および裏面の転位密度が共に106cm−2以下であり、前記窒化アルミニウム単結晶積層体の表面形状の曲率半径が|5|m以上(5m以上または−5m以下)であることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶積層体。
【請求項2】
前記窒化アルミニウム単結晶層の膜厚が2μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の窒化アルミニウム単結晶積層体。
【請求項3】
前記窒化アルミニウム単結晶層が、極性が反転する極性反転部を有し、かつ該極性反転部上にアルミニウム極性であるアルミニウム極性部を有する構造からなり、
該窒化アルミニウム単結晶層が、前記窒化アルミニウム単結晶基板の該窒素極性面と平行な面において、その全面がアルミニウム極性部のみで構成されるアルミニウム極性層を有し、
該アルミニウム極性層の厚みが0.1μm以上である請求項1又は2に記載の窒化アルミニウム単結晶積層体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の窒化アルミニウム単結晶積層体の少なくとも一方のアルミニウム極性面上に、少なくともn型半導体層を有する半導体素子層を備えた半導体素子。
【請求項5】
前記半導体素子層が、n型半導体層、活性層、及びp型半導体層を少なくとも有する多層半導体である請求項4に記載の半導体素子。
【請求項6】
請求項1〜3の何れかに記載の窒化アルミニウム単結晶積層体の製造方法であって、
アルミニウム極性面の転位密度が106cm−2以下である窒化アルミニウム単結晶基板からなるベース基板を使用し、1400℃以上1900℃以下の温度とした該ベース基板の窒素極性面上に、アルミニウム原料ガスと窒素源ガスとを供給して反応させることにより、該窒素極性面上に窒化アルミニウム単結晶層を成長することを特徴とする窒化アルミニウム単結晶積層体の製造方法。
【請求項7】
前記窒素極性面上に窒化アルミニウム単結晶層を成長するに際し、前記アルミニウム原料ガスを供給する前に、ハロゲン化水素ガス、及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスを該窒素極性面上に供給することを特徴とする請求項6に記載の窒化アルミニウム単結晶積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3の何れかに記載の窒化アルミニウム単結晶積層体の少なくとも一方のアルミニウム極性面上に、少なくともn型半導体層を有する半導体素子層を製造し、該半導体素子層をアルカリ溶液と接触させる工程を含むことを特徴とする、半導体素子の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜3の何れかに記載の窒化アルミニウム単結晶積層体の少なくとも一方のアルミニウム極性面上に、n型半導体層、活性層、及びp型半導体層を少なくとも有する多層半導体素子層を製造し、次いで、該p型半導体層、及び該活性層の一部を除去してn型半導体層を露出させた後、該n型半導体層が露出した多層半導体をアルカリ溶液と接触させる工程を含むことを特徴とする、半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な窒化アルミニウム単結晶積層体、該積層体の製造方法、及び積層体を利用した新規な半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)は、その禁制帯幅が6.2eVと大きく、かつ直接遷移型の半導体であることから、AlNと同じIII族窒化物である窒化ガリウム(GaN)や窒化インジウム(InN)との混晶を含めて紫外発光素子材料として期待されている。
【0003】
紫外発光素子などの半導体素子を形成するためには、n型電極に電気的に接合したn型半導体層、p型電極に電気的に接合したp型半導体層との間に、活性層等を含む積層構造を形成する必要があり、発光効率の点から何れの層においても高い結晶性、すなわち、結晶の転位や点欠陥が少ないことが重要である。このような理由から、一般に上記構造は、自立して存在するに十分な機械的強度を有する、結晶性の高い単結晶基板(単結晶自立基板)上に形成される。
【0004】
上記単結晶基板としては、その上に形成する窒化アルミニウムガリウムインジウム(AlGaInN)などのIII族窒化物単結晶との格子定数差や熱膨張係数差が小さいこと、さらには、素子の劣化を防ぐ観点から熱伝導率が高いことが要求される。そのため、窒化アルミニウムを含有する半導体素子を作製するためには、Al系III族窒化物単結晶基板上に上記層構造を形成することが有利である。中でも、該基板としては、該基板上に成長させる素子層の転位密度や欠陥、およびクラックを低減し、発光効率を向上させるためには、結晶性が高く、不純物が少なく、かつ光学特性に優れた窒化アルミニウム単結晶よりなる基板が好ましいと考えられている。
【0005】
一般的に、c軸配向の窒化アルミニウム単結晶は、アルミニウム極性と窒素極性の2種類を有する。窒化アルミニウム単結晶における極性とは、原子配列の方向性を示すものである(例えば、特許文献1参照)。窒化アルミニウム単結晶は、六方晶系のウルツ鉱型構造をとる。ウルツ鉱型構造ではc軸方向に関して対称面がなく、結晶には表裏の関係が生じる。アルミニウム原子から垂直上側に窒素原子を配置する結晶をアルミニウム極性といい、反対に窒素原子から垂直上側にアルミニウム原子を配置する結晶を窒素極性という。そのため、通常は、窒化アルミニウム単結晶の膜において、窒素極性を有する面(窒素極性面)の反対側の面はアルミニウム極性を有する面(アルミニウム極性面)となる。
【0006】
窒化アルミニウム単結晶のアルミニウム極性面においては、表面に現れる1つの窒素原子が1つのアルミニウム原子と結合しており、窒素極性面においては、表面に現れる1つの窒素原子が3つのアルミニウム原子と結合している。窒素極性面上にIII族窒化物半導体を成長する場合、成長中に飛来するIII族原子に対して窒素原子の結合手が1本しかないため結合力が弱くなることから成長速度が遅い。また、同様の理由からIII族空孔などを形成しやすく、アルミニウム極性面上にIII族窒化物半導体層を成長する場合に比べて結晶品質が劣る場合がある。
【0007】
以上のことから、窒素極性面を半導体素子層の成長面として用いることは不適となる場合があり、高品質の窒化物半導体素子の製造のためには、一般的には、アルミニウム極性面への半導体素子層の成長が必要である。そのため、窒化アルミニウム単結晶基板を、半導体素子製造用基板として用いる場合には、アルミニウム極性面上へ半導体素子層を形成し、裏面である窒素極性面は露出する構造となることが一般的である。
【0008】
本発明者らは、第一の窒化アルミニウム単結晶基板の窒素極性面上に第二の窒化アルミニウム単結晶を成長することで、酸素濃度の低い窒化アルミニウム単結晶基板を製造できることを提案している(特許文献2参照)。このような基板は、具体的には、以下のように製造されている。先ず、異種基板(例えばシリコン単結晶基板)上に第一の窒化アルミニウム単結晶層を成長させる。そして、該異種基板を分離して第一の窒化アルミニウム単結晶基板を得る。得られた第一の窒化アルミニウム単結晶基板の窒素極性面上に、さらに第二の窒化アルミニウム単結晶層を積層する。このとき、第二の窒化アルミニウム単結晶層の表面(最表面)はアルミニウム極性面となる。最後に、第一の窒化アルミニウム単結晶基板を除去することにより、第二の窒化アルミニウム単結晶層からなる、酸素濃度が低い高品質な窒化アルミニウム単結晶基板を得る方法である。この最終的に得られた基板は、一方の面がアルミニウム極性面であり、他方の面が窒素極性面となる。
【0009】
特許文献2に記載の方法では、不純物、特にベース基板由来の不純物の低減に成功した。しかし、第一の窒化アルミニウム単結晶層を成長するためのベース基板が窒化アルミニウムとは異なる基板(異種基板)であったため、最終的に得られた基板は、格子定数差と熱膨張係数差によりクラックや反り、転位が発生しやすく、より高出力で、より耐久性の高い半導体素子層を形成するための基板として、より一層結晶性を高くすることが望まれていた。
【0010】
また、本発明者らは、窒化アルミニウム基板の反りの低減を提案している。具体的には、以下の方法を提案している。先ず、シリコン単結晶基板などの異種基板をベース基板とし、該ベース基板上に、膜厚が10nm〜1.5μmである窒化アルミニウム単結晶層を積層し、該単結晶層上に該単結晶層の膜厚の100倍以上の膜厚である窒化アルミニウム非単結晶層を積層する。その後、ベース基板を除去することで、得られた窒化アルミニウム基板(単結晶と非単結晶の積層体)の反りを低減する方法である(特許文献3参照)。特許文献3の方法では、曲率半径から反りを評価した。該窒化アルミニウム基板の単結晶面が下に凸となる状態の曲率半径をプラスの曲率半径、上に凸となる状態の曲率半径をマイナスの曲率半径として評価した。そして、例えば、上記膜厚を満たさない場合に曲率半径が−0.1mだったものが、上記膜厚を満たすことで−1.8m以上になり、基板の反りの低減に成功した。
【0011】
しかし、近年の半導体素子製造用の基板には、より高度な特性が求められており、特許文献3で得られる基板よりもさらに高品質である基板が求められている。具体的には、より結晶性が高く、曲率半径もより大きくなる基板が望まれている。特許文献3に記載の方法では、異種基板を使用しているため、どうしても得られる基板(単結晶層)の結晶性が低下し、また、反りの改善が十分ではなかった。そのため、該基板上に窒化アルミニウム単結晶層を形成したとしても、該窒化アルミニウム単結晶層からなる基板も、精々、反りが|4|m程度であり、転位密度も10
7cm
−3以上であった。以上の通り、半導体素子を製造するための従来の基板については、改善の余地があった。
【0012】
転位密度の低い窒化アルミニウム単結晶自立基板、例えば昇華法によって製造された窒化アルミニウム単結晶基板のアルミニウム極性面上にHVPE法で窒化アルミニウム単結晶層を積層する方法も知られている(非特許文献1)。該方法によれば、結晶性の低下を抑制することができ、高品質の半導体素子製造用基板を製造することができる。該方法は、ベース基板として窒化アルミニウム単結晶基板(同種基板)を用いている。そのため、異種基板を用いる場合と比べてベース基板由来の不純物の導入が少なく、特許文献2のように不純物濃度低減のために、窒素極性面上に窒化アルミニウム単結晶層を積層する必要がない。この場合、アルミニウム極性面上に窒化アルミニウム単結晶層を積層することが一般的であった。
【0013】
これらの方法で製造された窒化アルミニウム単結晶基板は何れも、一方の主面がアルミニウム極性面であり、他方の面が窒素極性面である。該窒化アルミニウム単結晶基板を半導体素子の製造に用いる場合には、アルミニウム極性面に半導体素子層を成長させ、裏面である窒素極性面は、露出した状態になる。
【0014】
半導体素子の製造工程において、素子表面を水酸化カリウム(KOH)水溶液などのアルカリ溶液と接触させて表面のダメージ層を除去する工程を実施することで電極特性が向上することが知られている。例えば、特許文献6には、サファイア単結晶基板を有する半導体素子を製造するにあたって、以下の方法が提案されている。まず、サファイア単結晶基板上にn型半導体層を積層し、該n型半導体層上にp型半導体層を積層する。そして、該p型半導体層をドライエッチングしてn型半導体層を露出させる。このとき、ドライエッチングによって、n型半導体層にダメージ層が形成される。そして、該ダメージ層をKOH水溶液と接触させることで除去すると、n型半導体層表面上に良好な接触抵抗値を有するn型コンタクト電極を形成することができる。
【0015】
このような特許文献6の方法を、窒化アルミニウム単結晶基板を有する半導体素子に適用した場合、以下のような問題があった。例えば、特許文献2、3、非特許文献1の方法により得られた窒化アルミニウム単結晶基板を使用した場合には、前記の通り、高品質な半導体素子を製造するために、アルミニウム極性面上に半導体素子層を形成する。この場合、ダメージ層とKOH水溶液とを接触させる際、半導体素子全体をKOH水溶液に接触させると、露出した窒化アルミニウム単結晶基板の裏面(窒素極性面)がKOH溶液に溶解するという問題があった。窒素極性面は、耐薬品性が低く、特にKOH水溶液などのアルカリ溶液に溶解しやすいことが知られている。この問題を解決するためには、半導体素子をアルカリ溶液と接触させる前に、基板裏面(窒素極性面)をアルカリ耐性のある金属等により被覆保護することが必要であった。しかしながら、窒素極性面に付着した微粒子などの影響で被覆が不十分であると、窒素極性面が溶解し、半導体素子の歩留まりが低下することがあった。
【0016】
また、転位密度が高い基板においては、KOH水溶液に接触させる面がアルミニウム極性面であっても、KOH水溶液に接触させることで転位部分がエッチングされてピットが形成され、半導体素子の品質に悪影響を及ぼすことがあった。
【0017】
以上のような問題点を解決するためには、表裏の両面ともに、転位密度の低いIII族極性面(例えば、アルミニウム極性面)であるIII族窒化物単結晶基板(例えば、窒化アルミニウム単結晶基板)を使用すれば解決できるものと考えられる。このような両面III族極性面であるIII族窒化物単結晶基板を使用して半導体素子を製造する方法も知られている。特許文献4では、III族窒化物基板の両面をIII族極性面とすることで、該基板の両面への半導体素子層の形成が可能となることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2006−253462号公報
【特許文献2】特開2010−89971号公報
【特許文献3】WO2009/090821号パンフレット
【特許文献4】特開2009−267088号公報
【特許文献5】特開2010−56459号公報
【特許文献6】WO2011/078252号パンフレット
【特許文献7】特開2015−017030号公報
【特許文献8】特開2015−156483号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Applied Physics Express 5(2012)055504
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
特許文献4に記載の方法では、III族極性を示す第1の主面と、窒素極性を示す第2の主面と、前記第2の主面上に設けられる極性反転層とを具備する発光素子製造用基板が提案されている。そして、極性反転層には多結晶やアモルファスが含まれても良いと記載されている。一般的に、基板上に形成する窒化物半導体の結晶性は下地基板の結晶性に大きく依存するため、極性反転層が多結晶やアモルファスである場合、該極性反転層上に形成した半導体の結晶性が悪化することが容易に想像できる。さらに、本発明者らの検討によると、極性反転層が単結晶であったとしても、窒素極性面上にIII族窒化物半導体を成長させる場合、基板面内で極性が反転する領域と反転しない領域が混在しやすいことが分かった。該極性反転層表面を発光素子製造用基板として用いるには結晶性の改善および極性の面内均一化の余地があった。
【0021】
また、特許文献5に記載の方法おいても、極性反転層の形成が記載されているが、半導体素子の製造後に極性反転層を形成するため、半導体素子製造時のアルカリとの接触工程の際には裏面が窒素極性面であり、裏面の溶解に関する課題は解決されていない。
【0022】
したがって、本発明の目的は、高品質な窒化アルミニウム単結晶積層体(基板)を提供することにある。より詳細には、転位密度が低く、反りが小さく、耐薬品性が高く、半導体素子を製造するに際して、裏面を被覆保護することなく高品質の半導体素子を製造できる窒化アルミニウム単結晶積層体(基板)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者等は、上記課題を解決するため、まず、窒化アルミニウム単結晶からなる極性反転層の検討を行った。窒化アルミニウム単結晶基板とその窒素極性面上に形成した窒化アルミニウム単結晶層の積層体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM;Transmission Electron Microscope)で観察しところ、基板面内において、極性反転が完了してアルミニウム極性となるタイミングが異なることが分かった。全面で極性反転が完了しなければ、面内に窒素極性とアルミニウム極性が混在することになる。その状態で、該窒化アルミニウム単結晶層上に半導体素子層(例えばn型AlGaN層)を成長すると、基板面内で極性が不均一なまま成長したり、転位密度が増加したりする傾向があった。それにより、素子全面において耐薬品性を向上させることができなかった。
【0024】
以上のような検討をもとに、窒化アルミニウム単結晶積層体(基板)であって、該基板の表面および裏面の全面がともにアルミニウム極性面であり、さらに転位密度が低ければ、該基板上に形成した半導体素子は耐薬品性が高くなるものと考えた。つまり、該積層体は、成長面(半導体素子層を形成する面)、及び裏面においても転位密度の低いアルミニウム極性面であるため、アルカリ溶液に対して溶解し難く、半導体素子の製造過程において、裏面に金属などを被覆する工程を経ることなくアルカリ溶液を使用することが可能となる。そして、窒素極性面上窒化アルミニウム単結晶層の成長条件等を種々検討して該積層体を製造すると共に、該積層体を用いて得られる半導体素子は耐薬品性の高いものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0025】
すなわち、第一の本発明は、 窒化アルミニウム単結晶基板の窒素極性面上に、窒化アルミニウム単結晶層が直接積層した積層構造を有する窒化アルミニウム単結晶積層体であって、
該積層体の表面および裏面の全面が共にアルミニウム極性面であり、表面および裏面の転位密度が共に10
6cm
−2以下であ
り、前記窒化アルミニウム単結晶積層体の表面形状の曲率半径が|5|m以上(5m以上または−5m以下)であることを特徴とする窒化アルミニウム単結晶積層体である。
【0026】
第二の本発明は、アルミニウム極性面の転位密度が10
6cm
−2以下である窒化アルミニウム単結晶基板からなるベース基板を使用し、1400℃以上1900℃以下の温度とした該ベース基板の窒素極性面上に、アルミニウム原料ガスと窒素源ガスとを供給して反応させることにより、該窒素極性面上に窒化アルミニウム単結晶層を成長することを特徴とする窒化アルミニウム単結晶積層体の製造方法である。
【0027】
第三の本発明は、前記窒化アルミニウム単結晶積層体の少なくとも一方のアルミニウム極性面上に、少なくともn型半導体層を有する半導体素子層を製造し、該半導体素子層をアルカリ溶液と接触させる工程を含むことを特徴とする、半導体素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の窒化アルミニウム単結晶積層体によれば、表面および裏面の全面がともに転位密度の低いアルミニウム極性面であるため、表面および/または裏面上に形成する半導体素子層の品質が向上し、半導体素子を製造する際にアルカリ溶液と接触する工程を含む場合においても裏面を保護する工程を省略することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の窒化アルミニウム単結晶積層体の概略図である。
【
図2】本発明の代表的な窒化アルミニウム単結晶積層体の断面TEM(透過顕微鏡観察)の写真(40000倍の写真)である。
【
図3】本発明の積層体部分を含む代表的な半導体素子の概略図である。
【
図4】本発明の積層体を製造する装置の代表例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
(窒化アルミニウム単結晶積層体)
第一の本発明は、窒化アルミニウム単結晶基板と、該窒化アルミニウム単結晶基板の窒素極性面上に積層された、窒化アルミニウム単結晶層とを少なくとも有する窒化アルミニウム単結晶積層体であって、該積層体の表面および裏面の全面がともにアルミニウム極性面であり、表面および裏面の転位密度がともに10
6cm
−2以下であることを特徴とする、窒化アルミニウム単結晶積層体である。
図1に本発明の窒化アルミニウム単結晶積層体の代表的な断面図の概略図を示し、
図2に該積層体のTEM写真を示した。以下、図面を参照しながら説明する。
【0031】
本発明において、転位密度とは、目的とする面(露出した面であり、表面または裏面)に到達している、該面の単位面積当たりの転位線の数を指すものとする。転位線は、TEMで測定することにより検出できる。また、測定面がアルミニウム極性面であれば、エッチピット(EPD;Etch Pit Density)法により検出することができる。具体的には、加熱した水酸化カリウム(KOH)と水酸化ナトリウム(NaOH)の混合液に測定面を浸漬することで、転位に対応するエッチピットを生じさせて検出することができる。本発明においては、KOHとNaOHを重量比1:1で混合し、450℃に加熱した溶融液に5分間浸漬させた際のエッチピットの値を転位密度とした。
【0032】
本発明において、窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7とは、窒化アルミニウム単結晶層3側の露出したc面を指し、裏面5とは表面の反対側の露出したc面(窒化アルミニウム単結晶基板側の露出したc面)を指す。
【0033】
本発明において、窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7の極性の判定は、該表面をKOH水溶液に浸漬させたときのエッチングの有無により確認した。具体的には、ホットプレート上で50℃ に加熱した45質量%KOH水溶液中に窒化アルミニウム単結晶積層体を10分浸漬した。浸漬終了後、基板を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM;Field Emission Scanning Electron Microscope)により表面観察し、溶解痕(膜厚が薄くなっている領域)の有無を確認した。表面に溶解痕があれば窒素極性面であり、溶解痕がなければアルミニウム極性面である。なお、収束電子回折(CBED;Convergent Beam Electron Diffraction)法や環状明視野走査透過型電子顕微鏡(ABF−STEM;Annular Bright Field Scanning Transmission Electron Microscopy)法で断面を観察することでアルミニウム極性か、窒素極性かを判別することもできる。
【0034】
また、窒化アルミニウム単結晶層3が窒化アルミニウム単結晶であることは、窒化アルミニウム単結晶層3のX線回折測定により確認できる。窒化アルミニウム単結晶層の表面をθ−2θモードで測定し、(002)面およびそれと等価の面の回折角のみにピークが出現すれば、窒化アルミニウム単結晶層3はベース基板の方位を引き継いだ、c面を成長面とした単結晶であることが確認できる。
【0035】
該窒化アルミニウム単結晶積層体1は、該積層体の表面7および/または裏面5上に半導体素子層11を形成する、半導体素子製造用基板として好適に用いられる。
図3に該積層体の表面7上に半導体素子層11を積層して製造した半導体素子10の概念図を示す。
【0036】
半導体素子層11を形成するに際して、反りが大きいと、半導体素子層11の形成時または昇降温時の応力により欠陥が生じることがある。また、素子層形成用装置(例えばMOCVD装置)内に該積層体を設置した後に、圧力の変動やガスの流れ、積層体設置台の回転により、該積層体が設置位置より動かないようにするためにも、該積層体の反りが小さいほうがよい。
【0037】
本発明において、該窒化アルミニウム単結晶積層体の表面形状の曲率半径から反りを評価した。具体的には、該基板の表面側から青紫色レーザー顕微鏡を用い、50倍の倍率で該基板の高さ情報を取得し、面内の高さ分布より、球形近似の仮定のもとで該基板の曲率半径を算出した。該基板が下に凸となる状態をプラスの曲率半径、上に凸となる状態をマイナスの曲率半径とした。曲率半径が、正の値であっても、負の値であっても、値が大きいほうが反りが小さいと判断できる。該窒化アルミニウム単結晶積層体の表面形状の曲率半径は、好ましくは|5|m以上(5m以上、−5m以下)、さらに好ましくは|10|m以上(10m以上、−10m以下)である。
【0038】
(窒化アルミニウム単結晶基板(ベース基板))
本発明に用いる窒化アルミニウム単結晶基板2は、アルミニウム極性面(窒化アルミニウム単結晶基板の裏面5)の転位密度が10
6cm
−2以下である。該アルミニウム極性面の転位密度を10
6cm
−2以下とすることにより、得られる窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7および裏面5の転位密度を10
6cm
−2以下とすることができる。該基板上のアルミニウム極性面(窒化アルミニウム単結晶基板の裏面5)に製造する半導体素子層11の転位密度の低減、および/または、窒素極性面6に製造する窒化アルミニウム単結晶層3の転位密度の低減のためには、好ましくは10
5cm
−2以下であり、さらに好ましくは10
4cm
−2以下である。基板2の厚みは、操作性を低下させない範囲で決定すればよく、具体的には50〜1000μmであることが好ましい。
【0039】
(窒化アルミニウム単結晶層)
本発明において、窒化アルミニウム単結晶層3は、前記窒化アルミニウム単結晶基板2の窒素極性面6上にあり、表面(窒化アルミニウム単結晶積層体の表面7)の全面がアルミニウム極性面である。そして、該窒化アルミニウム単結晶層3は、極性反転部8を含む。本発明において、極性反転部8とは、極性が反転する部分であり、窒素極性とアルミニウム極性とが混在している部分である。そして、
図2のTEM像における、黒い点(線)で示された部分である。これは、TEM像と前記に記載した極性の判別を行う方法を比較して確認できる。そして、
図2のTEM像において、該極性反転部の上であって、窒化アルミニウム単結晶基板2と同様の色合いの部分が、アルミニウム極性の窒化アルミニウム単結晶であるアルミニウム極性部9である。なお、該TEM像は、奥行き約100nmの情報を含んでいる。
【0040】
本発明者らの検討によれば、窒化アルミニウム単結晶層3の成長中に極性反転が起こるタイミングは面内で同時ではないことが分かった。ある点において極性反転が起こるタイミングは、該点の周囲において極性反転が起こるタイミング、基板サイズ、及び成長条件等に影響されると考えられる。そして、極性反転が起こるタイミングが異なることに起因して、窒化アルミニウム単結晶基板2の窒素極性面6から極性反転が完了する点(極性反転部の上端であり、アルミニウム極性となる点)までの厚みが、位置により異なる(すなわち、極性反転部8は、その表面が凹凸構造を有するものとなる。)。そのため、該窒化アルミニウム単結晶層3の表面7の全面がアルミニウム極性となるためには、該窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚は、極性反転部8の最大の厚みと同じとするか、より厚い膜厚とする必要がある。
【0041】
該窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚は、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがさらに好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。また、窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚は、全面がアルミニウム極性となれば、それ以上の膜厚を必要としない。以下に詳述する窒化アルミニウム単結晶層3の製造方法によれば、極性反転部8の最大の厚みを2μm未満にすることができる(極性反転部8の厚みは、特に制限されるものではないが、高品質な積層体1を製造するためには、0.1μm以上2μm未満であることが好ましい。)。そのため、窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚を2μm以上とすることで、窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7の全面を安定してアルミニウム極性とすることができる。なお、該窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚の上限値は、表面の全面がアルミニウム極性面となっていれば特に制限されるものではないが、工業的な生産を考慮すると、1000μmである。
【0042】
本発明において、極性反転部8の厚みはTEMにより確認できる。具体的には、
図2に示すように、窒化アルミニウム単結晶積層体1の、窒化アルミニウム単結晶基板2と窒化アルミニウム単結晶層3との界面の断面をTEMによって観察すればよい。
図2のTEM像に示す、黒い点(線)の厚みが、極性反転部8の厚みである。そして、極性反転部8の最大の厚みとは、観察する基板サイズにもよるが、倍率10000〜50000倍程度で基板の任意の個所を観察した中で、極性反転部の厚みが最大である位置の厚みである。
【0043】
窒化アルミニウム単結晶層3の表面7の全面がアルミニウム極性であり、転位密度が10
6cm
−2以下であることにより、該面上に窒化アルミニウム単結晶層または半導体素子層11を形成する際に、高品質のものを製造することができる。特に、低転位密度の半導体素子層11を形成するためには、転位密度は10
5cm
−2以下であることが好ましい。
【0044】
本発明の窒化アルミニウム積層体1を確実に安定して製造するためには、該窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚を極性反転部8の最大の厚みよりも厚くすることが好ましい。つまり、該窒化アルミニウム単結晶層3を、極性反転部8を有し、かつ該極性反転部8上にアルミニウム極性部9を有する構造とする。そして、該窒化アルミニウム単結晶層3は、前記窒化アルミニウム単結晶基板2の窒素極性面6と平行な面において、その全面がアルミニウム極性部9のみで構成されるアルミニウム極性層4を有することが好ましい。該アルミニウム極性層4の厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、さらに1μm以上であることが好ましい。なお、半導体の工業的生産を考慮すると、アルミニウム極性層4の厚みの上限は、窒化アルミニウム単結晶層3の最大厚みから極性反転部8の最大厚みを引いた値であり、おおよそ1000μmである。極性反転部8の最大厚みが2μm未満であることが好ましいため、アルミニウム極性層4の最大厚みは9998μmを超え1000μm未満であることが好ましい(極性反転部8の最大厚みが0.1μm以上2μm未満の場合には、アルミニウム極性層4の最大厚みは9998μmを超え9999.9μm以下であることが好ましい)。
【0045】
該アルミニウム極性層4の厚みを0.1μm以上とすることにより、以下の効果も発揮することができる。例えば、HVPE法やMOCVD法において、ベース基板上に半導体を積層する場合、ベース基板表面の酸化膜や研磨傷の除去のためにサーマルクリーニングを実施する場合がある。また、水素ガスを含む雰囲気下で成長温度まで加熱し、成長温度に到達してから原料ガスを流して半導体の成長を開始する場合がある。窒化アルミニウムは、高温化、特に、高温において水素ガスと接触すると表面がエッチングされることが知られている。該窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚が極性反転部8の最大の厚みと等しい場合(アルミニウム極性層4が存在しない場合)、又はアルミニウム極性層4が薄すぎる場合、該積層体1を高温で水素ガスに曝すと、表面がエッチングされ、成長前に窒素極性面が露出する可能性がある。このことを防止し、昇温中に表面がエッチングされても窒素極性面が露出することなく、全面がアルミニウム極性面のまま、半導体の成長を開始することが望ましい。そのためには、該アルミニウム極性層4の厚みを0.1μm以上とすることが好ましい。
【0046】
また、本発明の積層体1の表面7(アルミニウム極性層4)上に半導体素子層11を積層させ、最後に窒化アルミニウム単結晶基板2を除去する場合、該窒化アルミニウム単結晶基板2のない状態で自立する半導体素子とすることが望ましい。例えば、紫外透過性の低い窒化アルミニウム単結晶基板2を用いた積層体1の表面上に半導体素子層11を積層させ、紫外発光ダイオード(半導体素子)を製造する場合、光取り出し効率を向上させるために、紫外透過性の低い窒化アルミニウム単結晶基板2を除去することが好ましい。
【0047】
次に、本発明の窒化アルミニウム積層体、及び該積層体上に半導体素子層(多層半導体)を形成する方法について説明する。
【0048】
(窒化アルミニウム単結晶積層体の製造)
本発明の窒化アルミニウム単結晶積層体1は、転位密度が10
6cm
−2以下の窒化アルミニウム単結晶基板2をベース基板として用い、該ベース基板の窒素極性面6上に、アルミニウム原料ガスと窒素源ガスとを供給して反応させることにより、該窒素極性面6上に窒化アルミニウム単結晶層3を成長させればよい。この際、該窒素極性面6上の温度を1400℃以上1900℃以下とすることが好ましい。
【0049】
(窒化アルミニウム単結晶基板(ベース基板)の準備)
ベース基板の製造方法には、昇華法やHVPE(Hydride Vapor PhaseEpitaxy)法など、公知の方法を使用することができる。昇華法で製造した窒化アルミニウム単結晶基板(昇華法基板)のアルミニウム極性面上にHVPE法で窒化アルミニウム単結晶(HVPE層)を積層させて製造した窒化アルミニウム単結晶積層体をベース基板とすることもできる。
【0050】
ベース基板の製造においては、成長面は特に制限されるものではなく、c面(アルミニウム極性面あるいは窒素極性面)、あるいはm面、a面、r面等が使用できる。ただし、本発明においては、窒化アルミニウム単結晶層3を成長させる面はベース基板の窒素極性面であり、裏面はアルミニウム極性面であるため、ベース基板の製造においてはアルミニウム極性面または窒素極性面を成長面として製造することが好ましい。ベース基板の製造において、成長面が窒素極性面であれば、該窒素極性面上に窒化アルミニウム単結晶層3を成長することが可能である。また、ベース基板の製造において、成長面がアルミニウム極性面であれば、窒化アルミニウム単結晶層3を成長する際に、ベース基板の窒素極性面を表面にして成長を開始すればよい。ベース基板をc面以外の面で製造した場合においては、該基板の製造後に、切断加工等によって、表面にアルミニウム極性面および窒素極性面を露出させ、露出させた窒素極性面上に極性反転層を成長させればよい。
【0051】
何れの場合においても、窒化アルミニウム単結晶層のクラックや欠陥、応力等を低減させるため、窒化アルミニウム単結晶層を成長させる面(窒素極性面6)の表面粗さは、好ましくは5nm以下、より好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下である。そして、表面の曲率半径においては、|5|m以上、さらに好ましくは|10|m以上とすることが好ましい。表面粗さや曲率半径は、表面をCMPする際に用いる研磨剤の影響を受けることがある。具体的には、アルカリ性、中性、または酸性の研磨剤を用いて研磨することができるが、本発明においては、該表面は、窒素極性面であり、耐アルカリ性が低いため、弱アルカリ性、中性または酸性の研磨剤、具体的には、pH8以下の研磨剤を用いることが好ましい。
【0052】
(窒化アルミニウム単結晶層の形成)
窒化アルミニウム単結晶層3の形成方法としては、HVPE法やMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法など公知の方法を用いることができる。中でも、特許文献2に記載のように、HVPE法において成長温度1400℃以上1900℃以下で窒素極性面上に窒化アルミニウムを成長させると、極性が反転することが分かっている。そして、本発明者等の検討によると、生産性の観点からは、成長温度1400℃以上1700℃以下がより好ましい。
【0053】
窒化アルミニウム単結晶層3の形成に適している、HVPE法について説明する。HVPE法は、昇華法と比べると成長速度が遅く、バルク単結晶を製造するには適していないが、深紫外光透過率に悪影響を及ぼす不純物濃度が低いため、発光ダイオード用窒化アルミニウム単結晶基板の製造に好適に用いられる。また、MBE(Molecular Beam Epitaxy)法やMOCVD法と比較すると膜厚を精密に制御することには適していない一方で、結晶性の良好な単結晶を速い成膜速度で成長させることが可能であるため、単結晶基板の量産に適しているといえる。
【0054】
HVPE法に用いる気相成長装置(HVPE装置)の代表例の概念図を
図4に示す。HVPE法による窒化アルミニウム単結晶層3の成長は、III族原料ガス(アルミニウム源ガス)と、V族原料ガス(窒素源ガス)とを反応器中に供給し、両者のガスを加熱された基板上で反応させることにより行われる。III族原料ガスには、塩化アルミニウムガス等の、ハロゲン化アルミニウムガスが、V族原料ガスには、アンモニアガスが好適に使用される。
【0055】
HVPE法では、結晶性が良好な単結晶を得るために、様々な検討が行われている。本発明においては、それら公知の方法が特に制限なく使用できる。中でも、本発明においては、一ハロゲン化アルミニウムガスが低減されたハロゲン化アルミニウムガス(主成分は、三ハロゲン化アルミニウムガス)を原料ガスとすることが好ましい。三ハロゲン化アルミニウムガス中に一ハロゲン化アルミニウムガスが多く含まれると、結晶品質が低下する場合がある。
【0056】
以上のような理由から、窒化アルミニウム単結晶層3をHVPE法で成長させる場合には、窒素極性面上の反応域において、原料ガスであるハロゲン化アルミニウムガス(主成分は、三ハロゲン化アルミニウムガス)を供給する前に、ハロゲン化水素ガス、及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスを供給することが好ましい。このようにハロゲン系ガスを先行供給することにより、一ハロゲン化アルミニウムガスの平衡分圧を確実に下げることができ、一ハロゲン化アルミニウムガスの発生を抑制できるからである。また、この方法に限定されず、一ハロゲン化アルミニウムガスの生成を抑制する方法は、公知の方法を採用することができる。その他の条件は、特に制限されるものではなく、例えば、特許文献7の方法を採用することができる。
【0057】
窒化アルミニウム単結晶層3において、全面がアルミニウム極性となった後(極性反転部の最大の厚み以上の膜厚を形成した後)、アルミニウム極性層4を形成する方法は、極性反転部を含む窒化アルミニウム単結晶層と同じであってもよいし、異なってもよい。具体的には、HVPE法で1400℃以下の温度で形成することもできる。また、該アルミニウム極性層4は、窒化アルミニウム単結晶基板2に極性反転部8を含む窒化アルミニウム単結晶層を積層した基板を成膜装置から取り出すことなく、連続して該極性反転層部8上に成長することもできるし、一度装置から取り出してから改めて装置へ導入し成長することもできる。表面の安定性のためには、連続して成長することが好ましい。
【0058】
窒化アルミニウム単結晶層3をHVPE法で製造することにより、紫外光透過率の高い層を形成することができる。ベース基板である窒化アルミニウム単結晶基板2が昇華法により製造された紫外光透過率の低い基板である場合には、最終的に、昇華法により製造された基板を除去できるように、HVPE法で製造された該窒化アルミニウム単結晶層3上に、半導体素子層(多層半導体)を形成することが好ましい。
【0059】
以上のような方法により、本発明の窒化アルミニウム単結晶積層体1を製造することができる。次に、本発明の積層体1の少なくとも一方のアルミニウム極性面上に、半導体素子層11(多層半導体)を成長し、半導体素子10を製造する方法について説明する。
【0060】
(半導体素子の製造方法)
本発明は、前記窒化アルミニウム単結晶積層体1の少なくとも一方のアルミニウム極性面上に、少なくともn型半導体層12を有する半導体素子層11を製造し、該半導体素子層11をアルカリ溶液と接触させる場合に、特に優れた効果を発揮する。また、前記半導体素子層11は、n型半導体層12、活性層13、及びp型半導体層14を少なくとも有する多層半導体であってもよい。多層半導体を形成する場合、p型半導体層14、及び該活性層13の一部を除去してn型半導体層12を露出させた後、該n型半導体層12が露出した多層半導体をアルカリ溶液と接触させる場合に、本発明は、特に優れた効果を発揮する。
【0061】
前記n型半導体層12、活性層13、及びp型半導体層14は、Al
XGa
YIn
ZN(但し、X、Y、Zは、0≦X≦1.0、0≦Y≦1.0、0≦Z≦1.0、X+Y+Z=1.0を満足する有理数である。)で表されるIII族窒化物半導体からなることが好ましい。該組成の半導体素子層11は、第一の本発明である窒化アルミニウム単結晶積層体1上に形成することにより、クラックや歪み、転位密度が小さく、高品質な半導体素子層11とすることができる。
【0062】
上記半導体素子層11(多層半導体)の形成方法は、特に制限されるものではなく、例えば、特許文献8の方法により実施できる。
【0063】
(半導体素子層(多層半導体)の形成)
前記n型半導体層12、活性層13、およびp型半導体層14は、MOCVD法、MBE法など公知の方法で形成することができる。具体的には、例えば、特許文献8に記載のMOCVD法を用いて形成することができる。
【0064】
n型半導体層12は、ドーパント原料を含有させることによりn型の導電性を付与した導電層である。AlGaN単結晶からなることが好ましく、ドーパント原料としては、Si、O、Geなどの公知のn型ドーパント材料をドーピングできるが、原料濃度の制御性やn型層中のイオン化エネルギーなどを考慮すると、Siであることが好ましい。n型半導体層の転位密度は、好ましくは10
8cm
−2以下であり、より好ましくは10
6cm
−2以下であり、最も好ましくは10
4cm
−2以下である。該転位密度は、本発明の窒化アルミニウム単結晶積層体1を用いることで達成が容易となる。また、n型半導体層12の厚みは、特に制限されるものではなく、500〜5000nmであることが好ましい。
【0065】
活性層13は、n型半導体層12上に形成され、量子井戸層と障壁層とが組み合わされた量子井戸構造を有することが好ましい。該量子井戸構造は単一の量子井戸層を有する構造であってもよく、複数の量子井戸層を有する多重量子井戸構造であってもよい。量子井戸層の厚みは特に限定されるものではないが、出力密度の向上および信頼性の観点から、2〜10nmであることが好ましく、4〜8nmであることがより好ましい。また、より高い出力密度を安定して得るためには、活性層13は3層以上の量子井戸層を有することが好ましい。活性層が厚さ2〜10nmの量子井戸層を3層以上そなえる多重量子井戸構造を有することにより、量子井戸層の実効的な体積を大きくできるため、半導体素子駆動時の急激な出力特性の劣化を抑制することが可能となる。障壁層の厚みも、特に限定されるものではないが、一般的には5〜30nmの範囲内である。
【0066】
p型半導体層14は、公知のp型ドーパント原料を含有させることによりp型の導電性を付与した導電層である。公知のp型ドーパント材料の中でも、Mgをドーパントとすることが好ましい。p型半導体層は、単一の組成を有する単層構造であっても、組成の異なる複数の層を積層した多層構造でもよい。活性層への電子の閉じ込め効果、p型電極との接触抵抗の低減効果を持たせるためには、多層構造であることが好ましい。例えば、組成の異なるAlGaN層を2層積層し、さらにInGaN層を積層することができる。AlGaN層の膜厚は特に限定されるものではないが、それぞれ5〜50nmの範囲内であることが好ましい。また、InGaN層の膜厚も特に限定されるものではないが、5〜200nmであることが好ましい。また、p型半導体層14の各層に含まれるドーパントの量は、導電性の観点から、1×10
19〜1×10
20cm
−3の範囲内であることが好ましい。
【0067】
この他、具体的に記載はしなかったが、電子ブロック層等をもける設けることもできる。
【0068】
(電極形成)
n型電極16は、n型半導体層12(n型層12)の上に形成される。通常、以下の方法によりn型半導体層12上にn型電極16が形成される。先ず、例えば上記半導体素子層11(多層半導体)の形成方法により、窒化アルミニウム単結晶積層体1、n型半導体層12、活性層13、およびp型半導体層14(p型層14)がこの順で積層された積層体を製造する。次に、p型半導体層14の側から積層体の一部をエッチング等で除去することによりn型半導体層12の表面を露出させる。エッチング方法としては公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)エッチング等の方法を特に制限なく採用できる。
【0069】
ICPエッチングを採用した場合、特許文献6に記載のように、ICPエッチングにより露出し、またダメージが生じたn型半導体層12に、アルカリ溶液、具体的にはKOH水溶液を接触させることで、ダメージ層を除去することが好ましい。本発明では、裏面が転位密度の低いアルミニウム極性面であるために、裏面に該溶液が接触しても裏面が溶解することがない。そのため、窒素極性面が露出していた従来の窒化アルミニウム単結晶基板を用いる際に必要だった窒素極性面を保護する工程を省いてアルカリ溶液と接触させることができる。
【0070】
続いて、n型半導体層12上にn型電極16を形成する。n型電極16は、公知のn型オーミック電極材料および形成方法を用いて形成することができる。n型オーミック電極材料は、n型半導体層12との接触抵抗値を低減可能な材料であれば、特に限定されるものではない。例えば、Ti、Alを含む材料が使用できる。n型電極16を構成する各層は、真空蒸着法、スパッタリング法などによって形成できる。また、n型電極16とn型半導体層12との接触抵抗値を低減させるため、n型電極16を形成したあとに、アルゴン、窒素などの不活性ガス雰囲気中でアニールすることが好ましい。n型電極16の厚みは、特に限定されるものではなく、接触抵抗値の低減が可能な範囲でn型電極16(層)を構成する各層の膜厚を適宜決定すればよいが、n型電極16(層)の生産性などを考慮すると、総厚を50〜500nmにすることが好ましい。
【0071】
p型電極15は、p型層(
図3上では、p型半導体層14)上に形成される。p型電極15には、公知のp型オーミック電極材料を使用することができる。具体的には、p型層との接触抵抗値を低減可能な材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、NiおよびAuを含む電極材料を好ましく採用することができる。これらの電極材料の層は、真空蒸着法、スパッタリング法などによって形成できる。また、p型電極15を形成した後には、接触抵抗値を低減させるために、窒素、酸素などの雰囲気中でアニール処理を行うことが好ましい。p型電極15(層)の厚みは、特に制限されるものではないが、5〜300nmであることが好ましい。
【0072】
n型電極16およびp型電極15の配置は特に限定されるものではないが、n型電極16とp型電極15との間の距離は0.5〜10μmであることが好ましく、さらに、半導体素子の駆動時における電流経路の均一性が高められるように、p型電極15の周囲をn型電極16が略均等に囲う形状であることが好ましい。
【0073】
(窒化アルミニウム単結晶積層体の両面を用いた半導体素子の製造)
上記方法にて、窒化アルミニウム積層体の一方のアルミニウム極性面上に半導体素子層を形成し、さらに、該半導体素子層の形成と同じ方法または異なる方法にて、該積層体の他方のアルミニウム極性面上に半導体素子層を形成することもできる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<実施例1>
昇華法により製造された窒化アルミニウム単結晶基板2の窒素極性面6上に、HVPE法で窒化アルミニウム単結晶層3を形成して製造した窒化アルミニウム単結晶積層体1の裏面5(窒化アルミニウム単結晶基板のアルミニウム極性面)上に半導体素子層11を積層して製造した深紫外発光ダイオードの実施例である。
【0076】
(窒化アルミニウム単結晶基板の準備)
昇華法により製造された、φ1inchの市販の窒化アルミニウム単結晶基板を準備した。該基板の窒素極性面6を、中性の研磨剤を用いてCMPした。研磨後の板厚は450μm、窒素極性面6のRMSは0.9nm、窒素極性面の曲率半径は12mであった。
【0077】
次に、該窒化アルミニウム単結晶基板を、7mm角程度の正方形形状4つに切断した。1つは該窒化アルミニウム単結晶基板分析用基板、2つは窒化アルミニウム単結晶積層体製造・分析用基板、1つは半導体素子(深紫外発光ダイオード)製造・分析用基板とした。
【0078】
該窒化アルミニウム単結晶基板分析用基板のアルミニウム極性面5および窒素極性面6の転位密度を、断面TEMで測定した。倍率10000倍でおよそ150μm
2の領域を観察ところ、両面ともに転位は一つも観察されなかったことから、両面ともに転位密度は7×10
5cm
−2以下であることが分かった。アルミニウム極性面5の転位密度は、EPD法によっても転位密度を測定した。具体的には、KOHとNaOHを重量比1:1で混合し、450℃に加熱した溶融液に5分間浸漬させた際のエッチピットの値を転位密度としたところ、6×10
4cm
−2であった。
【0079】
(窒化アルミニウム単結晶層の積層)
窒化アルミニウム単結晶層の成長には、
図4の態様の気相成長装置(HVPE装置)を用いた。
【0080】
前記窒化アルミニウム単結晶積層体の製造・分析用基板の1つを、ベース基板22として、窒素極性面6が成長面となるように、サセプタ23上に設置した。
【0081】
押し出しガス導入口24から、反応管内部雰囲気の全体を押し流すためのガスとして、水素と窒素を7:3の割合で混合した水素窒素混合キャリアガス6500sccmを流した。また、成長中の反応器21の圧力は0.99atmに保持した。
【0082】
窒素源ガス導入口41からアンモニアガス20sccm、水素キャリアガス160sccmを、V族追加ハロゲン系ガス供給ノズル44から塩化水素ガス20sccmを供給し、窒素源ガス供給ノズル42からベース基板22上へ計200sccmの混合ガスを供給した。この際、窒素源ガス供給ノズル42の温度は400℃とし、アンモニアガスと塩化水素ガスとが反応しないように調整した。また、バリアガスノズル(窒素源ガス供給ノズル42、及びハロゲン化アルミニウムガス供給ノズル34との間からバリアガスを供給できるように配置されたノズル。ただし、図示していない。)から窒素ガス1500sccmを供給した。
【0083】
上記ガス供給条件で、ベース基板22を1450℃に加熱した。
【0084】
ベース基板22を1450℃に加熱した後、III族追加ハロゲン系ガス供給ノズル36から塩化水素ガス7sccmを供給し、原料ハロゲン系ガス導入ノズル33から水素窒素混合キャリアガス1793sccmを供給することにより、ハロゲン化アルミニウムガス供給ノズル34から合計1800sccmのガスを供給した。
【0085】
III族追加ハロゲン系ガス供給ノズル36から塩化水素ガスの供給を開始して25秒後に、原料ハロゲン系ガス導入ノズル33より塩化水素ガスを9sccm導入し、原料部反応器31においてあらかじめ400℃に加熱されているアルミニウム32と反応させ塩化アルミニウムガスを発生させた。同時に水素窒素混合キャリアガスを9sccm減らし、1784sccmとした。塩化アルミニウムガスはハロゲン化アルミニウムガス供給ノズル34からベース基板22上に供給され、結晶成長を開始した。
【0086】
上記条件のガス流量とベース基板温度でベース基板22上に窒化アルミニウム単結晶層3を12μm成長した。ここで、窒化アルミニウム単結晶層の成長膜厚は、事前実験により求めた同条件における成長速度から、成長膜厚が12μmとなるような成長時間で成長することにより得られた膜厚である。窒化アルミニウム単結晶層3の成長後、塩化アルミニウムガス、アンモニアガス、塩化水素ガスの供給を停止して室温まで冷却した。
【0087】
以上の方法で、表面7および裏面5の全面がアルミニウム極性面である窒化アルミニウム単結晶積層体1が完成した。
【0088】
残りの前記窒化アルミニウム単結晶積層体製造・分析用基板および半導体素子(深紫外発光ダイオード)製造・分析用基板の窒素極性面6上にも、上記方法と全く同じ条件で、窒化アルミニウム単結晶層3を積層し、窒化アルミニウム単結晶積層体1を合計で3つ製造した。
【0089】
(窒化アルミニウム単結晶積層体の研磨および分析)
得られた3つの窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7を、アルカリ性の研磨剤を用いてCMPした。研磨後の、1つの窒化アルミニウム単結晶積層体の表面および裏面をEPD法で転位密度を測定したところ、それぞれ7×10
4cm
−2、6×10
4cm
−2であった。また別の1つの窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7の曲率半径を測定したところ、10mであった。さらに、該窒化アルミニウム単結晶積層体の表面をXRDでθ−2θ測定したところ、窒化アルミニウム(002)面およびそれと等価な面の回折角のみにピークが現れたことから該窒化アルミニウム単結晶層が単結晶であることが確認できた。さらに、該窒化アルミニウム単結晶積層体1の断面の3個所をTEMで倍率12500倍で観察したところ、窒化アルミニウム単結晶層3は5.0μmであり、極性反転部8の最大の厚みは1.3μmであり、アルミニウム極性層4は3.7μmであった。
【0090】
(半導体素子層の形成)
前記研磨後の窒化アルミニウム単結晶積層体1のうち、窒化アルミニウム単結晶層3の分析に使わなかった1つ(半導体素子製造・分析用基板を用いて製造した窒化アルミニウム単結晶積層体)を、該窒化アルミニウム単結晶積層体1の裏面5が成長面となるように、MOCVD装置内のサセプタ上に設置した。
【0091】
1080℃で、n型Al
0.65Ga
0.35N層(厚さ1μm:n型層)、3重量子井戸層(Al
0.40Ga
0.6N(厚さ4nm:量子井戸層)/Al
0.55Ga
0.45N層(厚さ10nm:障壁層):活性層)、p型AlN層(厚さ50nm:p型層)、p型Al
0.75Ga
0.25N(厚さ50nm:p型層)、p型GaN層(厚さ20nm:p型層)を順次積層し、多層半導体素子層11を形成した。不純物のドーピングは、n型層中のSi濃度が2×10
19cm
−3、p型層中のMg濃度が3×10
19cm
−3となるように、ドーパントとして用いたテトラエチルシランおよびビスシクロペンタジエニルマグネシウム流量を制御した。
【0092】
次いで、ICPエッチング装置により、紫外発光用積層体の一部(p型層側からの一部)をn型Al
0.65Ga
0.35N層(n型層)が露出するまでエッチングした。その後、該積層体を10wt%のKOH水溶液に100℃の温度で15分間浸漬させ、n型Al
0.65Ga
0.35N層(n型層)の表面処理を行った。
【0093】
表面処理を行ったn型層に、真空蒸着法によりTi層(厚さ20nm)/Al層(厚さ100nm)/Ti層(厚さ20nm)/Au層(厚さ50nm)かならなるn型電極を形成した。その後、窒素雰囲気中、1分間、950℃の条件で熱処理を行った。
【0094】
次いで、p型GaN層上に、真空蒸着法によりNi層(厚さ20nm)/Au層(厚さ50nm)からなるp型電極を形成した後、酸素雰囲気中、5分間、500℃の条件で熱処理を行った。
【0095】
最後に、窒化アルミニウム単結晶層3および窒化アルミニウム単結晶基板2を機械研磨により除去することで、紫外発光ダイオードウェハを完成させた。
【0096】
(紫外発光ダイオード、およびその分析)
紫外発光ダイオードウェハを0.8mm角程度の正方形形状に切断することにより紫外発光ダイオードチップを作製し、該紫外発光ダイオードチップを多結晶AlNキャリアにマウントし、紫外発光ダイオードを完成させた。作製した紫外発光ダイオードの発光ピーク波長および発光出力(全光束)は、2インチ積分球(スフィアオプティクス社製ゼニスコーティング)、およびマルチチャンネル分光器(オーシャンフォトニクス社製USB4000)を用いて測定した。紫外発光ダイオードの発光ピーク波長は280nmであった。駆動電流値100mA、25℃で測定した発光出力密度(紫外発光ダイオードの、上述の発光スペクトルの全光束測定によって求められる発光出力(W)を、紫外発光ダイオードの活性層13の面積(cm
2)で除した値)は19W/cm
2であった。
【0097】
<実施例2>
昇華法により製造された窒化アルミニウム単結晶基板2の窒素極性面6上に、HVPE法で窒化アルミニウム単結晶層3を形成して製造した窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7(窒化アルミニウム単結晶層のアルミニウム極性面)上に半導体素子層11を積層して製造した深紫外発光ダイオードの実施例である。
【0098】
窒化アルミニウム単結晶層3の成長膜厚を300μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム単結晶層3を成長し、窒化アルミニウム単結晶積層体1を3つ製造した。
【0099】
得られた3つの窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7を、アルカリ性の研磨剤を用いてCMPした。研磨後の、該積層体1の表面7および裏面3の転位密度はそれぞれ6×10
4cm
−2、9×10
4cm
−2であった。また、該積層体1の表面7の曲率半径は12mであった。また、窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚は282.7μm、極性反転部8の最大の厚みは1.6μm、アルミニウム極性層4の膜厚は281.1μmであった。
【0100】
そして、得られた窒化アルミニウム単結晶積層体のうち、窒化アルミニウム単結晶層の分析に用いなかった1つの窒化アルミニウム単結晶積層体の表面7上に、実施例1と同様の方法で、半導体素子層11を形成した。最後に窒化アルミニウム単結晶基板2を機械研磨により除去することで発光ダイオードウェハを完成させた。
【0101】
その後、実施例1と同様の方法で、紫外発光ダイオードを完成させた。作製した紫外発光ダイオードの発光ピーク波長は、281nmであった。駆動電流値100mA、25℃で測定した発光出力密度は18W/cm
2であり、実施例1と等価な紫外発光ダイオードであることを確認した。
【0102】
<実施例3>
窒化アルミニウム単結晶層3の成長膜厚を5μmとしたこと以外は実施例1と同様の方法で窒化アルミニウム単結晶層3を成長し、窒化アルミニウム単結晶積層体1を3つ製造した。
【0103】
得られた3つの窒化アルミニウム単結晶積層体1の表面7を、アルカリ性の研磨剤を用いてCMPした。研磨後の、該積層体1の表面7および裏面3の転位密度はそれぞれ9×10
4cm
−2、7×10
4cm
−2であった。また、該積層体1の表面7の曲率半径は9mであった。また、窒化アルミニウム単結晶層3の膜厚は1.3μm、極性反転部8の最大の厚みは1.2μm、アルミニウム極性層4の膜厚は0.1μmであった。
【0104】
そして、得られた窒化アルミニウム単結晶積層体のうち、窒化アルミニウム単結晶層の分析に用いなかった1つの窒化アルミニウム単結晶積層体の表面7上に、実施例1と同様の方法で、半導体素子層11を形成し、発光ダイオードウェハを完成させた。
【0105】
作製した紫外発光ダイオードの発光ピーク波長は281nmであり、駆動電流値100mA、25℃で測定した発光出力密度は16W/cm
2であった。
【0106】
<比較例1>
シリコン単結晶基板上にHVPE法で、窒化アルミニウム単結晶を0.3μm成長した後、窒化アルミニウム多結晶を230μm成長し、窒化アルミニウム多結晶/窒化アルミニウム単結晶/シリコン単結晶の積層体を製造した。該積層体を、フッ化水素酸:硝酸:酢酸:超純水を1:2:1:4の体積比で混合した水溶液に12時間浸漬し、ベース基板であるシリコンを溶解除去した。次いで、超純水で洗浄し、窒化アルミニウム多結晶/窒化アルミニウム単結晶の積層体を製造した。さらに、該積層体の窒化アルミニウム単結晶上に、HVPE法で、窒化アルミニウム単結晶を300μm成長した。そして、窒化アルミニウム多結晶側から350μmを機械研磨により除去した。最後に、窒化アルミニウム単結晶のアルミニウム極性面をアルカリ性の研磨剤を用いてCMPすることで、窒化アルミニウム単結晶基板を製造した。該窒化アルミニウム単結晶基板のアルミニウム極性面の転位密度は4×10
8cm
−2、該アルミニウム極性面の曲率半径は−2.0mであった。
【0107】
該窒化アルミニウム基板を、実施例1で使用した窒化アルミニウム単結晶積層体の代替として用い、該窒化アルミニウム基板のアルミニウム極性面上に半導体素子層を積層させたことと、半導体作製工程において、ICPエッチングの前に、基板の裏面(窒素極性面)上にNiを蒸着することで裏面を被覆保護すること以外は、実施例1と同様の方法で紫外発光ダイオードを完成させた。
【0108】
作製した紫外発光ダイオードの発光ピーク波長は281nmであり、駆動電流値100mA、25℃で測定した発光出力密度は1W/cm
2であった。
参考例1
実施例1の窒化アルミニウム単結晶層3を成長させる条件と同じ方法で、昇華法基板のアルミニウム極性面上に窒化アルミニウム単結晶層を積層させ、該窒化アルミニウム単結晶層上に実施例1と同様の方法で半導体層を形成した。半導体作製工程において、ICPエッチングの前に、基板の裏面(窒素極性面)上にNiを蒸着することで裏面を被覆保護すること以外は実施例1と同様の方法で電極を形成し、紫外発光ダイオードを完成させた。
【0109】
作製した紫外発光ダイオードの発光ピーク波長は279nmであり、駆動電流値100mA、25℃で測定した発光出力密度は19W/cm
2であった。
【符号の説明】
【0110】
1 窒化アルミニウム単結晶積層体
2 窒化アルミニウム単結晶基板(窒素極性)
3 窒化アルミニウム単結晶層
4 アルミニウム極性層
5 裏面(窒化アルミニウ結晶基板のアルミニウム極性面)
6 窒化アルミニウム単結晶基板の窒素極性面
7 表面(アルミニウム極性面)
8 極性反転部
9 アルミニウム極性部
10 半導体素子
11 半導体素子層
12 n型半導体層
13 活性層
14 p型半導体層
15 p型電極
16 n型電極
20 気相成長装置(HVPE装置)
21 反応器
22 ベース基板
23 サセプタ
24 押し出しガス導入口
25 排気口
26 原料部外部加熱装置
27 成長部外部加熱装置
31 原料部反応器
32 アルミニウム
33 原料ハロゲン系ガス導入ノズル
34 ハロゲン化アルミニウムガス供給ノズル
36 III族追加ハロゲン系ガス供給ノズル
41 窒素源ガス導入口
42 窒素源ガス供給ノズル
44 V族追加ハロゲン系ガス供給ノズル