(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記降圧制御手段は、前記降圧制御を実施する際、前記スイッチトリラクタンスモータの動作点が前記低負荷領域内において相対的に高負荷側から低負荷側に変化するにつれて前記スイッチトリラクタンスモータに印加する電圧を徐々に降圧させる
ことを特徴とする請求項1に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
前記降圧制御手段は、前記励磁幅拡大制御を実施する際、前記低負荷領域内において前記スイッチトリラクタンスモータの動作点が相対的に低負荷側に変化するにつれて前記電流の励磁幅を徐々に拡大させる
ことを特徴とする請求項3に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
前記降圧制御手段は、前記降圧制御を実施する際、前記スイッチトリラクタンスモータに正の電圧を印加している状態で当該スイッチトリラクタンスモータを流れる電流の値が低下し続ける電流波形に制御する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
前記電流の値が低下し続ける電流波形は、前記スイッチトリラクタンスモータに印加する電圧を0Vにしている状態の電流波形、または前記スイッチトリラクタンスモータに負の電圧を印加している状態の電流波形よりも、前記電流の値が緩やかに低下する電流波形である
ことを特徴とする請求項5に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態におけるスイッチトリラクタンスモータの制御装置について具体的に説明する。
【0022】
[1.システム構成]
図1は、本発明の一実施形態におけるスイッチトリラクタンスモータの制御装置を含むシステム構成例を示す概略図である。本実施形態のシステム構成は、スイッチトリラクタンスモータ(以下「SRモータ」という)1と、インバータ2と、降圧部3と、バッテリ4と、制御装置100とを含む。
【0023】
SRモータ1は、回転子に永久磁石を使用しない電動機であって、突極構造のステータ10と、突極構造のロータ20とを備えている。
図1に示すSRモータ1は、六極のステータ10と、四極のロータ20とを有する三相誘導電動機である。
【0024】
ステータ10は、環状構造の内周部に、突極としてのステータ歯11を複数備えている。各ステータ歯11には、インバータ2に接続されたコイル12が巻き回されている。ステータ10では、径方向で対向する位置に配置された一対のステータ歯11a,11aが、1つの相を成す。ステータ10の径方向内側に、ロータ20が配置されている。ロータ20は、環状構造の外周部に、突極としてのロータ歯21を複数備えている。なお、ロータ20は図示しないロータ軸と一体回転する。
【0025】
SRモータ1は、三相交流式であるため、一対のステータ歯11a,11aとコイル12aによるA相、一対のステータ歯11b,11bとコイル12bによるB相、一対のステータ歯11c,11cとコイル12cによるC相、を含む。ロータ20は、一対のロータ歯21x,21xと、一対のロータ歯21y,21yと、を備える。
【0026】
SRモータ1は、インバータ2および降圧部3を介してバッテリ4と電気的に接続されている。SRモータ1とインバータ2とは、コイル12によって電気的に接続されている。また、SRモータ1は、電動機および発電機として機能するものである。
【0027】
インバータ2は、三相交流をコイル12に通電できるように6つのスイッチング素子を備えた電気回路(インバータ回路)を含む。インバータ2は、インバータ回路に接続された各コイル12に対して相毎に電流を流す。
図1に示すインバータ回路は、スイッチング素子としてのトランジスタを有し、各相とも2つのトランジスタと2つのダイオードとを含む。インバータ2は、各相において、2つのトランジスタを同時にオンまたはオフにすることで、コイル12に流れる電流値を変更する。A相においては、トランジスタTra1,Tra2とダイオードDa1,Da2を備える。B相においては、トランジスタTrb1,Trb2とダイオードDb1,Db2を備える。C相においては、トランジスタTrc1,Trc2とダイオードDc1,Dc2を備える。なお、
図1に示すように、インバータ2には平滑コンデンサC
0が接続されている。
【0028】
降圧部3は、インバータ2とバッテリ4との間に設けられ、SRモータ1に印加する電圧(以下「印加電圧」という)を降圧する電気回路(降圧回路)である。
図1に示す降圧回路は、第1スイッチSW
1と、第2スイッチSW
2と、コイルL
1と、コンデンサC
1とを備え、第1スイッチSW
1および第2スイッチSW
2のON/OFFを切り替えることにより電圧を降圧することができる回路である。各スイッチSW
1,SW
2の切り替え制御は、制御装置100によって実施される。
【0029】
制御装置100は、SRモータ1を制御する電子制御装置(ECU)である。制御装置100は、CPUと、各種プログラム等のデータが格納された記憶部とを有し、CPUにはSRモータ1を制御するための各種の演算を行う制御部が含まれる。制御部での演算の結果、制御装置100からインバータ2および降圧部3に、SRモータ1を制御するための指令信号が出力される。制御装置100は、インバータ2と降圧部3を制御することによって、SRモータ1に印加する電圧(印加電圧)、およびコイル12に流す電流(励磁電流)を制御する。
【0030】
例えば、制御装置100は、降圧部3を制御する際、第1スイッチSW
1をONにし、かつ第2スイッチSW
2をOFFにして、バッテリ4の電圧をSRモータ1に給電する給電状態に制御する。さらに、制御装置100は、降圧部3を制御する際、第1スイッチSW
1をOFFにし、かつ第2スイッチSW
2をONにして、バッテリ4の電圧をSRモータ1に給電しない非給電状態に制御する。そして、給電状態の時間(給電時間)と非給電状態の時間(非給電時間)との割合に応じて、SRモータ1に印加する電圧をバッテリ4の電圧に対して降圧することができる。また、降圧部3は、非給電時間の割合が大きくなるように制御されることにより、印加電圧の降圧量を増やすことができる。
【0031】
また、制御装置100には、SRモータ1の回転数を検出する回転数センサ51からレゾルバ信号が入力される。制御装置100は、回転数センサ51のレゾルバ信号から、回転方向でのステータ歯11とロータ歯21との相対的な位置関係に基づいて、通電対象となるコイル12の切り替えを相毎に繰り返す駆動制御を実行する。制御装置100が駆動制御を実行することによって、ロータ20を回転させる。駆動制御時、制御装置100は、ある相のコイル12に電流を流してステータ歯11を励磁させ、ステータ歯11とそのステータ歯11近くのロータ歯21との間に磁気吸引力を発生させる。磁気吸引力は、周方向と径方向の分力に分解できる。周方向の分力が回転力であり、径方向の分力がラジアル力である。磁気吸引力の周方向成分である回転力がロータ20に作用することによって、SRモータ1のトルクが発生する。磁気吸引力の径方向成分であるラジアル力は、騒音・振動(NV)の要因となる。駆動中のSRモータ1で生じる音圧は、ラジアル力が大きくなるにつれて高くなる。SRモータ1に作用するラジアル力が大きくなると、ステータ10やロータ20の変位が大きくなり、振動が大きくなる。
【0032】
なお、ステータ歯11とロータ歯21とが周方向で完全に重なる位置となる場合(ステータ歯11とロータ歯21とが径方向で完全に対向する位置となる場合)、磁気吸引力は径方向のみに作用する。そのロータ歯21には回転力が作用せずラジアル力のみが作用することになる。そのため、制御装置100は、コイル12に電流を流すことによって励磁対象になっているステータ歯11が、ロータ歯21と径方向で対向して完全に重なった位置となったとき、または完全に重なる前後に、コイル12への通電停止による非励磁対象とする。また、制御装置100は、次のロータ歯21が所定の位置まで近づいてきたときに、そのロータ歯21を励磁対象とする。
【0033】
[2.駆動領域マップ]
図2は、SRモータ1の特性を示すN−T線図である。
図2のN−T線図は、横軸をSRモータ1の回転数、縦軸をSRモータ1のトルクとするマップである。
【0034】
SRモータ1は、
図2に示すマップの駆動領域内で駆動する。そのマップによれば、SRモータ1の最大トルクは、低回転数側では定格トルクであるが、高回転側ではSRモータ1の回転数が上昇するにつれて減少する。
【0035】
制御装置100は、SRモータ1が駆動している最中の負荷状態に応じて、通常制御、第1降圧制御、第2降圧制御の三つの制御モードを切り替えてSRモータ1を制御する。各制御モードでは、印加電圧の降圧の有無と、電流の励磁幅の拡大の有無とが異なる。制御装置100は、印加電圧を降圧させる降圧制御を実施する制御部と、励磁幅を拡大させる励磁幅拡大制御を実施する制御部とを備えている。
【0036】
通常制御は、電圧の降圧なし、かつ励磁幅の拡大なしの状態(通常状態)にSRモータ1を制御する制御モードである。制御装置100は、通常制御モードを実施する際、降圧部3によるバッテリ電圧の降圧を行わずに通常電圧を印加し、かつ電流の励磁幅を通常の励磁幅に制御する。
【0037】
第1降圧制御は、電圧の降圧あり、かつ励磁幅の拡大なしの状態(第1降圧状態)にSRモータ1を制御する制御モードである。制御装置100は、第1降圧制御モードを実施する際、降圧部3による降圧を実施し、かつ電流の励磁幅を通常の励磁幅に制御する。
【0038】
第2降圧制御は、電圧の降圧あり、かつ励磁幅の拡大ありの状態(第2降圧状態)にSRモータ1を制御する制御モードである。制御装置100は、第2降圧制御モードを実施する際、降圧部3による降圧を実施し、かつ電流の励磁幅を通常幅よりも広い幅に制御する。
【0039】
図2に示すマップは、三つの制御モードを切り替える際に用いられる。制御装置100は、
図2に示すマップを用いて、SRモータ1の動作点が高負荷の駆動領域(高負荷領域)と低負荷の駆動領域(低負荷領域)とのどちらに含まれるのかを判定する。SRモータ1の動作点は、モータ回転数とモータトルクとによって定められる。つまり、制御装置100は、三つの制御モードの切替時、SRモータ1の回転数(モータ回転数)とSRモータ1の要求トルク(目標モータトルク)とをパラメータに用いて、駆動中のSRモータ1が高負荷状態であるか、あるいは低負荷状態であるかを判定する。
【0040】
具体的には、
図2に示すマップ内の駆動領域は、降圧用の切替線A
0を境界にして高負荷領域と低負荷領域とに分けられている。降圧用の切替線A
0は、モータ回転数が増加するにつれてトルクが減少するように設定されている。例えば、降圧用の切替線A
0は、SRモータ1の等出力線(図示せず)に沿う形状に設定されるとともに、相対的に低出力側の等出力線上に設けられる。すなわち、この実施形態における低負荷領域は、切替線A
0よりも低出力側の領域である。
図2に示すように、その低負荷領域は、モータ回転数が所定回転数よりも低いこと、およびSRモータ1のトルクが所定トルクよりも小さいことのうち少なくともいずれか一方を満たす駆動領域である。さらに、低負荷領域は、振動・騒音を低減することが望まれる駆動領域であるため、電圧の降圧を実施する制御モード(第1降圧制御、第2降圧制御)が選択される領域である。つまり、降圧用の切替線A
0は、印加電圧を降圧する駆動領域と、印加電圧を降圧しない駆動領域との境界を表す。一方、この実施形態における高負荷領域は、降圧用の切替線A
0よりも高出力側の領域(高出力が要求される場合に駆動する領域)であるため、印加電圧の降圧が実施されない駆動領域である。すなわち、その高負荷領域は、印加電圧の降圧を実施しない制御モード(通常制御)が選択される領域である。
【0041】
さらに、低負荷領域は、励磁幅用の切替線A
1を境界にして、通常の励磁幅で電流を流す領域と、通常の励磁幅よりも拡大された励磁幅に制御する領域とに分けられる。
図2に示すように、励磁幅用の切替線A
1は、降圧用の切替線A
0よりも低負荷側(低出力側)に設けられており、モータ回転数が増加するにつれてトルクが減少するように設定されている。例えば、励磁幅用の切替線A
1は、降圧用の切替線A
0よりも低出力側でSRモータ1の等出力線に沿う形状に設定される。
【0042】
また、制御装置100では、予め通常時の電圧値と降圧時の電圧値が設定されている。そして、制御装置100は、通常制御と降圧制御(第1降圧制御、第2降圧制御)とを切り替え時、通常電圧と降圧時の電圧とを切り替える制御を実施する。また、降圧制御とは、少なくとも印加電圧を降圧させる制御モードであるため、電流の励磁幅を拡大させるか否かは問わない。
【0043】
[3.駆動制御]
図3は、駆動制御フローの一例を示すフローチャートである。
図3に示す制御フローは、制御装置100によって実施される。また、実施形態では、通常時の印加電圧が600V、降圧時の印加電圧が300Vに予め設定されている。
【0044】
図3に示すように、制御装置100は、SRモータ1の駆動制御に用いる各種情報を読み込む(ステップS1)。その情報には、回転数センサ51から入力されるレゾルバ信号と、SRモータ1の要求トルクとが含まれる。レゾルバ信号は、SRモータ1の角度(回転位相)を示す情報を含む。
【0045】
制御装置100は、ステップS1で読み込んだレゾルバ信号(センサ値)に基づいてSRモータ1の回転数を演算し(ステップS2)、要求トルクに応じたモータトルク指令値を導出する(ステップS3)。また、制御装置100は、ステップS2で算出されたモータ回転数と、ステップS3で算出されたモータトルク指令値とに基づいて、SRモータ1の動作点を定める。なお、この処理では、モータトルク指令値の代わりに要求トルク値を用いてもよい。つまり、SRモータ1の動作点はSRモータ1の要求トルク値とSRモータ1の回転数とに基づいて定めてもよい。
【0046】
制御装置100は、印加電圧を降圧させる必要があるか否かを判定する(ステップS4)。制御装置100は、SRモータ1の動作点が
図2に示すマップの低負荷領域内にあるか否かを判定する。例えば、SRモータ1の動作点が降圧用の切替線A
0よりも低負荷側の領域内にある場合、ステップS4で肯定的に判定される。
【0047】
印加電圧を降圧させる必要があることによりステップS4で肯定的に判定された場合(ステップS4:Yes)、制御装置100は降圧時の電圧を決定する(ステップS5)。例えば、予め通常電圧が600V、降圧時の電圧が300Vに設定されている場合、制御装置100は、印加電圧値として降圧時の300Vを選択する。
【0048】
また、印加電圧を降圧する場合、制御装置100は、電流の励磁幅を拡大させる必要があるか否かを判定する(ステップS6)。例えば、SRモータ1の動作点がステップS4で肯定的に判定された駆動領域(動作点)よりも低負荷側の領域内にあるか否かが判定される。SRモータ1の動作点が励磁幅用の切替線A
1よりも低負荷側の領域内にある場合、ステップS6で肯定的に判定される。
【0049】
電流の励磁幅を拡大させる必要があることによりステップS6で肯定的に判定された場合(ステップS6:Yes)、制御装置100は、第2降圧制御を実施し、印加電圧を降圧させ、かつ電流の励磁幅を通常幅よりも拡大させる(ステップS7)。ステップS7では、後述する
図6に示すサブルーチンが実行される。そして、制御装置100は、ステップS7を実施後、この制御フローを終了する。
【0050】
電流の励磁幅を拡大させる必要がないことによりステップS6で否定的に判定された場合(ステップS6:No)、制御装置100は、第1降圧制御を実施し、印加電圧を降圧させ、かつ電流の励磁幅を通常幅に制御する(ステップS8)。ステップS8では、後述する
図5に示すサブルーチンが実行される。そして、制御装置100は、ステップS8を実施後、この制御フローを終了する。
【0051】
一方、印加電圧を降圧させる必要がないことによりステップS4で否定的に判定された場合(ステップS4:No)、制御装置100は、通常制御を実施し、通常電圧をSRモータ1に印加し、かつ電流の励磁幅を通常幅に制御する(ステップS9)。ステップS9では、後述する
図4に示すサブルーチンが実行される。そして、制御装置100は、ステップS9を実施後、この制御フローを終了する。
【0052】
上述した駆動制御フローが実施されることによって、三つの制御モード(通常制御、第1降圧制御、第2降圧制御)が切り替えられる。各制御モードを実施時、SRモータ1で実現される電圧波形および電流波形の一例を
図7に示す。通常制御が実施された場合(降圧なし、励磁幅通常の場合)、
図7(a)に示す電圧波形になるとともに、
図7(d)に示す電流波形となる。第1降圧制御が実施された場合(降圧あり、励磁幅通常の場合)、
図7(b)に示す電圧波形になるとともに、
図7(d)に示す電流波形となる。第2降圧制御が実施された場合(降圧あり、励磁幅拡大の場合)、
図7(c)に示す電圧波形になるとともに、
図7(d)に示す電流波形となる。
【0053】
[4.通常制御]
通常制御について説明する。まず
図7(a),(d)を参照して通常制御の電圧波形および電流波形を説明し、次いで
図4を参照して通常制御フローを説明する。なお、
図7(a)に示すように、通常時の印加電圧は600Vに設定されている。
【0054】
[4−1.電圧波形および電流波形]
図7(a),(d)に示すように、制御装置100は、あるロータ歯21の角度が励磁区間に入った場合、すなわち励磁開始角θ
S(ON角θ
ON)となった場合、励磁対象となるコイル12へ電流を流し始める。ロータ歯21の角度が電流立上げ区間内にある場合、すなわち電流を上昇させる必要がある場合、制御装置100は、励磁対象となるステータ歯11のコイル12に対して電流の立上げ制御を行う。電流立上げ区間では、正電圧を印加する制御モード(正電圧モード)を実施し、電流値を最大電流値I
maxまで上昇させる。最大電流値I
maxに到達後のヒステリシス区間では、正電圧モードと、電圧を0Vにする制御モード(還流モード)とを繰り返す制御(スイッチング制御)を実施し、電流値が最大電流値I
max付近の大きさとなるように制御する。還流モードは、コイル12に電圧を印加せずに、コイル12を介してインバータ回路内で電流を還流させる制御モードである。具体的には、制御装置100は、ヒステリシス区間内で電流値が、最大電流値I
maxを上限値とする所定電流幅の範囲内を推移するように制御する。この場合、電流値が最大電流値I
maxに到達した場合には還流モードを実施し、その後、電流値が所定電流幅の下限値に到達した場合には正電圧モードを実施する。あるいは、制御装置100は、電流値が制限電流値I
αよりも小さい場合には正電圧モードを実施し、電流値が制限電流値I
α以上の場合には還流モードを実施する。制限電流値I
αは、最大電流値I
maxよりも小さい値、かつ所定電流幅の下限値よりも大きい値に予め設定されている。そして、ロータ歯21の角度がOFF角θ
OFFになったとき、すなわち励磁区間を抜けた場合、励磁対象のステータ歯11のコイル12に対して通電中の電流を立下げ始める。その電流立下げ区間において、制御装置100は、負電圧を印加するモード(負電圧モード)を実施する。このように、ON角θ
ONからOFF角θ
OFFまでの角度範囲が、通常制御の励磁区間である。つまり、この実施形態における励磁区間とは、要求トルクの発生に寄与する磁束を励磁対象のステータ歯11およびコイル12から積極的に発生させる角度範囲である。その後、励磁終了角θ
Eにて、コイル12を流れる電流が0になる。通常制御では、励磁開始角θ
Sから励磁終了角θ
Eまでの角度範囲において電流が流れ続けている。この実施形態における励磁幅とは、電流をコイル12に流す区間のことである。つまり、通常制御の励磁幅は、励磁開始角θ
Sから励磁終了角θ
Eまでの角度範囲である。なお、通常制御の励磁幅(θ
S〜θ
E)は、通常の励磁幅である。
【0055】
[4−2.通常制御フロー]
図4は、通常制御フローの一例を示すフローチャートである。なお、
図4に示す通常制御フローが実行される場合、印加電圧は通常電圧(降圧なしの通常電圧値)に決定されている。
【0056】
制御装置100は、通常制御用の励磁条件マップを読み込む(ステップS11)。通常制御の励磁条件には、励磁開始角θ
S(ON角θ
ON)、OFF角θ
OFF、励磁終了角θ
E、および最大電流値I
max(制限電流値I
α)が含まれる。なお、その励磁条件は予め設定されている。
【0057】
また、制御装置100は、ロータ20の角度(回転位相)と、SRモータ1の電流値とを読み込む(ステップS12)。制御装置100は、図示しない電流センサからの検出信号に基づいて、ある相のコイル12に実際に流れている電流値(瞬時電流値)を読み込む。電流センサは、コイル12を流れる電流値を検出するものであり、各相のコイル12について電流値を検出可能に構成されている。また、制御装置100は、回転数センサ51からのレゾルバ信号に基づいてロータ20の角度(回転位相)を読み込む。
【0058】
そして、制御装置100は、ロータ20の回転位相に基づいて、ロータ歯21が励磁区間内にあるか否かを判定する(ステップS13)。ロータ歯21がON角θ
ONとOFF角θ
OFFとの間の角度範囲内にある場合、ステップS13で肯定的に判定される。つまり、ステップS13で肯定的に判定される場合には、電流立上げ区間内である場合と、ヒステリシス区間内である場合とが含まれる。
【0059】
ロータ歯21が励磁区間内にあることによりステップS13で肯定的に判定された場合(ステップS13:Yes)、制御装置100は、電流を上昇させる必要があるか否かを判定する(ステップS14)。電流を上昇させる必要がある区間とは、電流立上げ区間内、またはヒステリシス区間内のうち電流を上昇させる区間である。ヒステリシス区間内の場合には、電流値が制限電流値I
αよりも小さい場合(あるいは電流値が所定電流幅の下限値に到達した場合)に、ステップS14で肯定的に判定される。
【0060】
電流を上昇させる必要があることによりステップS14で肯定的に判定された場合(ステップS14:Yes)、制御装置100は、正電圧モードを実施し、コイル12に正電圧を印加する(ステップS15)。その正の電圧値は、降圧なしの通常電圧値である。予め通常電圧が600Vに設定されている場合、600Vの正電圧がSRモータ1に印加される。例えば、電流立上げ区間内の場合、上昇中の電流が最大電流値I
maxに到達しないことになり、ステップS15によって正電圧モードが継続される。一方、ヒステリシス区間内の場合、最大電流値I
maxから低下していた電流値が制限電流値I
αを下回ること(あるいは電流値が所定電流幅の下限値に到達したこと)になり、ステップS15によって還流モードが終了され正電圧モードが開始される。そして、制御装置100は、ステップS15を実施後、上述したステップS12にリターンする。
【0061】
電流を上昇させる必要がないことによりステップS14で否定的に判定された場合(ステップS14:No)、制御装置100は、還流モードを実施し、コイル12に印加する電圧を0Vにする(ステップS16)。電流立上げ区間内の場合、上昇中の電流値が最大電流値I
maxに到達したことになり、ステップS16によって正電圧モードが終了され還流モードが開始される。すなわち、電流立上げ区間からヒステリシス区間に移行する。一方、ヒステリシス区間内の場合、上昇中の電流値が制限電流値I
αを超えたことになり、ステップS16によって正電圧モードが終了され還流モードが開始される。そして、制御装置100は、ステップS16を実施後、上述したステップS12にリターンする。
【0062】
一方、ロータ歯21が励磁区間内にないことによりステップS13で否定的に判定された場合(ステップS13:No)、制御装置100は、負電圧モードを実施し、SRモータ1に負電圧を印加する(ステップS17)。その負の電圧値は、降圧なしの通常電圧値である。予め通常電圧が600Vに設定されている場合、600Vの負電圧がSRモータ1に印加される。そして、制御装置100は、ステップS17を実施後、このサブルーチンを終了する。
【0063】
[5.第1降圧制御]
第1降圧制御について説明する。まず
図7(b),(d)を参照して第1降圧制御の電圧波形および電流波形を説明し、次いで
図5を参照して第1降圧制御フローを説明する。なお、
図7(b)に示すように、降圧時の印加電圧は300Vに設定されている。
【0064】
[5−1.電圧波形および電流波形]
図7(b),(d)に示すように、第1降圧制御では、通常制御の電流波形に比べて、励磁開始角θ
S1(ON角θ
ON1)を前出し、かつ励磁終了角θ
E1を後出ししている。具体的には、第1降圧制御の励磁幅は、励磁開始角θ
S1から励磁終了角θ
E1までの角度範囲である。第1降圧制御の励磁開始角θ
S1は、通常制御の励磁開始角θ
Sよりも小さく、かつ後述する第2降圧制御の励磁開始角θ
S2よりも大きい。第1降圧制御の励磁終了角θ
E1は、通常制御の励磁終了角θ
Eよりも大きく、かつ後述する第2降圧制御の励磁終了角θ
E2よりも小さい。また、第1降圧制御の最大電流値I
max1は、通常制御の最大電流値I
maxよりも小さい。
【0065】
第1降圧制御の励磁幅(θ
S1〜θ
E1)は、通常制御の励磁幅(θ
S〜θ
E)よりも広い角度範囲になっているが、これは振動・騒音を低減する目的で励磁幅が広がっているわけではない。これは、要求トルクを満たす目的である。詳細には、第1降圧制御では通常電圧(600V)よりも降圧された電圧(300V)を印加するので、要求トルク(要求パワー)を満たすためには印加電圧の降圧分を補う目的で電流の励磁幅を広げなければならない。このように要求トルク(要求パワー)を満たすことができる電流波形を実現しようとした結果、第1降圧制御の励磁幅は通常制御の励磁幅よりも広がっている。すなわち、第1降圧制御の励磁幅は、降圧を実施した際の通常幅といえる。
【0066】
また、第1降圧制御では、印加電圧が降圧されているため、励磁区間内のヒステリシス区間においてインバータ2のスイッチング制御を実施していない。具体的には、
図7(a),(b),(d)を参照して、通常制御の電流波形と第1降圧制御の電流波形とを比較する。通常制御では、正電圧(+600V)が印加されると必ず電流値が上昇する。一方、第1降圧制御では、降圧された電圧(300V)を印加しているので、電流値が最大電流値I
max1に到達後に正電圧(+300V)を印加し続けても、電流値は低下する。そのため、第1降圧制御では、ヒステリシス区間においてインバータ2のスイッチング制御が実施する必要がない。また、第1降圧制御では、励磁区間内(θ
ON1〜θ
OFF1)で電流値が急激に低下することを抑制するために正電圧モードが継続して実施される。すなわち、第1降圧制御時、正電圧が印加されている状態で電流値が緩やかに低下し続ける電流波形に制御される。
図7(b),(d)に示すように、正電圧が印加されている状態(正電圧モード)で電流値が低下し続ける電流波形は、負電圧が印加されている状態(負電圧モード)の電流波形よりも、電流が緩やかに低下する電流波形である。このように、第1降圧制御では、ヒステリシス区間でインバータ2のスイッチング制御が不要になるため、スイッチグ損失を削減でき、効率を向上させることができる。
【0067】
[5−2.第1降圧制御フロー]
図5は、第1降圧制御フローの一例を示すフローチャートである。なお、
図5に示す第1降圧制御フローが実行される場合、上述したステップS5において、印加電圧(降圧時の電圧)は決定されている。
【0068】
図5に示すように、制御装置100は、第1降圧制御用の励磁条件マップを読み込む(ステップS21)。ステップS21によって、電圧に応じた励磁条件が決定される。第1降圧制御の励磁条件には、励磁開始角θ
S1(ON角θ
ON1)、OFF角θ
OFF1、励磁終了角θ
E1、および最大電流値I
max1が含まれる。なお、その励磁条件は予め設定されている。
【0069】
制御装置100は、SRモータ1の電流値と、ロータ20の角度(回転位相)とを読み込む(ステップS22)。ステップS22は、上述した
図4に示すステップS12と同様の処理である。
【0070】
そして、制御装置100は、ロータ20の回転位相に基づいて、ロータ歯21が励磁区間内にあるか否かを判定する(ステップS23)。ロータ歯21がON角θ
ON1とOFF角θ
OFF1との間の角度範囲内にある場合、ステップS23で肯定的に判定される。
【0071】
ロータ歯21が励磁区間内にあることによりステップS23で肯定的に判定された場合(ステップS23:Yes)、制御装置100は、正電圧モードを実施し、SRモータ1に正電圧を印加する(ステップS24)。その正の電圧値は、降圧された電圧値(+300V)である。ステップS24によって300Vの正電圧がSRモータ1に印加される。そして、制御装置100は、ステップS24を実施後、上述したステップS22にリターンする。
【0072】
一方、ロータ歯21が励磁区間内にないことによりステップS23で否定的に判定された場合(ステップS23:No)、制御装置100は、負電圧モードを実施し、SRモータ1に負電圧を印加する(ステップS25)。その負の電圧値は、降圧された電圧値(−300V)である。ステップS25によって300Vの負電圧がSRモータ1に印加される。そして、制御装置100は、ステップS25を実施後、このサブルーチンを終了する。
【0073】
[6.第2降圧制御]
第2降圧制御について説明する。まず
図7(c),(d)を参照して第2降圧制御の電圧波形および電流波形を説明し、次いで
図6を参照して第2降圧制御フローを説明する。なお、
図7(c)に示すように、降圧時の印加電圧は300Vに設定されている。
【0074】
[6−1.電圧波形および電流波形]
図7(c),(d)に示すように、第2降圧制御では、励磁幅を拡大させることを目的とし、第1降圧制御の電流波形に比べて、励磁開始角θ
S2(ON角θ
ON2)を前出し、かつ励磁終了角θ
E2を後出ししている。これにより、第2降圧制御の励磁幅(θ
S2〜θ
E2)は、第1降圧制御の励磁幅(θ
S1〜θ
E1)よりも広い角度範囲になる。
【0075】
具体的には、第2降圧制御の励磁区間は、励磁開始角θ
S2から励磁終了角θ
E2までの角度範囲である。第2降圧制御の励磁開始角θ
S2は、第1降圧制御の励磁開始角θ
S1よりも小さい。第2降圧制御の励磁終了角θ
E2は、第1降圧制御の励磁終了角θ
E1よりも大きい。また、第2降圧制御の励磁幅は、積極的に励磁幅を拡大させる制御を実施した結果、励磁幅が三つの制御モードのうち相対的に最も広い電流波形になっている。
【0076】
また、第2降圧制御では、印加電圧が降圧されているため、励磁区間内にヒステリシス区間が設けられていない。ここで、
図7(b)〜(d)を参照して、第1降圧制御の電流波形と第2降圧制御の電流波形とを比較する。第2降圧制御は、第1降圧制御よりも励磁開始角θ
S2が前出しされているため、電流の立ち上がりが急になる。そのため、第2降圧制御の最大電流値I
max2は、第1降圧制御の最大電流値I
max1よりも大きい。第2降圧制御では、第1降圧制御よりも励磁幅を拡大させるために、電流値が最大電流値I
max2に到達すると還流モードが実施される。そして、第2降圧制御では、還流モードを開始した角度から所定角度進むと、電流が急激に低下することを抑制するために、正電圧モードが実施される。第2降圧制御では、励磁区間内(θ
ON2〜θ
OFF2)で電流値が急激に低下することを抑制する必要がある場合には、正電圧モードが継続して実施される。
図7(c),(d)に示すように、第2降圧制御では、降圧された電圧(300V)を印加しているので、還流モードを実施後(印加電圧を0Vにした後)に正電圧(+300V)を印加し続けても、電流値は低下する。すなわち、第2降圧制御時、正電圧が印加されている状態で電流値が緩やかに低下し続ける電流波形に制御される。詳細には、第2降圧制御時、正電圧が印加されている状態(正電圧モード)で電流値が低下し続ける電流波形は、印加電圧が0Vの状態(還流モード)の電流波形、または負電圧が印加されている状態(負電圧モード)の電流波形よりも、電流が緩やかに低下する電流波形である。このように、第2降圧制御でも第1降圧制御と同様に、インバータ2のスイッチング回数を少なくすることができる。そのため、第2降圧制御では、スイッチング損失を低減でき、効率を向上させることができる。
【0077】
[6−2.第2降圧制御フロー]
図6は、第2降圧制御フローの一例を示すフローチャートである。なお、
図6に示す第2降圧制御フローが実行される場合、上述したステップS5において、印加電圧(降圧時の電圧)は決定されている。
【0078】
図6に示すように、制御装置100は、第2降圧制御用の励磁条件マップを読み込む(ステップS31)。第2降圧制御の励磁条件には、励磁開始角θ
S2(ON角θ
ON2)、OFF角
OFF2、励磁終了角θ
E2、および最大電流値I
max2が含まれる。なお、その励磁条件は予め設定されている。
【0079】
また、制御装置100は、SRモータ1の電流値と、ロータ20の角度(回転位相)とを読み込む(ステップS32)。ステップS32は、上述した
図4に示すステップS12と同様の処理である。
【0080】
そして、制御装置100は、ロータ20の回転位相に基づいて、ロータ歯21は励磁区間内にあるか否かを判定する(ステップS33)。ロータ歯21がON角θ
ON2とOFF角θ
OFF2との間の角度範囲内にある場合、ステップS33で肯定的に判定される。
【0081】
ロータ歯21が励磁区間内にあることによりステップS33で肯定的に判定された場合(ステップS33:Yes)、制御装置100は、電流を上昇させる必要があるか否かを判定する(ステップS34)。電流を上昇させる必要がある区間とは、電流立上げ区間内である。例えば、ロータ歯21の角度が励磁開始角θ
S2になった後、電流値が最大電流値I
max2まで上昇中の場合に、ステップS34で肯定的に判定される。
【0082】
電流を上昇させる必要があることによりステップS34で肯定的に判定された場合(ステップS34:Yes)、制御装置100は、正電圧モードを実施し、SRモータ1に正電圧を印加する(ステップS35)。その正の電圧値は、降圧された電圧値(+300V)である。ステップS35によって300Vの正電圧がSRモータ1に印加される。そして、制御装置100は、ステップS35を実施後、上述したステップS32にリターンする。
【0083】
電流を上昇させる必要がないことによりステップS34で否定的に判定された場合(ステップS34:No)、制御装置100は、電流が急激に低下することを抑制する必要があるか否かを判定する(ステップS36)。
【0084】
電流が急激に低下することを抑制する必要があることによりステップ36で肯定的に判定された場合(ステップS36:Yes)、制御装置100は、正電圧モードを実施し、SRモータ1に正電圧を印加する(ステップS37)。ステップS37によって300Vの正電圧がSRモータ1に印加される。そして、制御装置100は、ステップS37を実施後、上述したステップS32にリターンする。
【0085】
電流が急激に低下することを抑制する必要がないことによりステップS36で否定的に判定された場合(ステップS36:No)、制御装置100は、還流モードを実施し、SRモータ1に印加する電圧を0Vにする(ステップS38)。電流立上げ区間内の場合、上昇中の電流値が最大電流値I
max2に到達したことになり、ステップS38によって正電圧モードが終了され還流モードが開始される。そして、制御装置100は、ステップS38を実施後、上述したステップS32にリターンする。
【0086】
一方、ロータ歯21が励磁区間内にないことによりステップS33で否定的に判定された場合(ステップS33:No)、制御装置100は、負電圧モードを実施し、SRモータ1に負電圧を印加する(ステップS39)。その負の電圧値は、降圧された電圧値(−300V)である。ステップ39によって300Vの負電圧がSRモータ1に印加される。そして、制御装置100は、ステップS39を実施後、このサブルーチンを終了する。
【0087】
[7.ラジアル力変動]
ここで、
図8、
図9を参照して、第2降圧制御を実施した場合と、通常制御を実施した場合とについて、ラジアル力変動の違いを比較説明する。なお、
図8には、第2降圧制御の3相電流波形が実線で示され、通常制御の3相電流波形が破線で示されている。
図9には、第2降圧制御のラジアル力変化幅が実線で示され、通常制御のラジアル力変化幅が破線で示されている。
【0088】
図8に示すように、第2降圧制御は、印加電圧を降圧することによって各相の励磁幅が広くなるため、3相電流波形では、異なる相の励磁幅同士が重なる区間(角度範囲)が広く存在する。これにより、3相電流波形全体でみた場合、第2降圧制御では、電流の変化幅(振幅)が狭くなるとともに、電流の変化が緩やかになる。一方、通常制御の3相電流波形は、異なる相の励磁幅同士が重なる角度範囲が狭い。そのため、3相電流波形全体でみた場合、通常制御では、電流の変化幅(振幅)が広くなるとともに、電流の変化が急になる。その結果、
図9に示すように、第2降圧制御と通常制御とでは、ラジアル力変動に差が生じる。
【0089】
第2降圧制御では、3相電流波形全体でみると、電流の変化が緩やかになっている角度範囲(区間)が多く存在するためにラジアル力の変化が緩やかになるとともに、電流の変化幅が狭いためにラジアル力の変化幅(振幅)は狭くなっている。一方、通常制御では、第2降圧制御を実施した場合よりも、ラジアル力の変化が急になっているとともにラジアル力の変化幅(振幅)が広くなっている。ラジアル力変化幅は、ラジアル力変動の大きさを表す。つまり、第2降圧制御を実施した場合には、通常制御を実施した場合よりも起振力(ラジアル力)の変化が緩やかになっているとともに起振力(ラジアル力)の変化幅が狭くなるため、SRモータ1の振動・騒音を低減させることができる。
【0090】
以上説明した通り、実施形態の制御装置100では、低負荷領域でSRモータ1を駆動する際、降圧された電圧をSRモータ1に印加するので、電流が緩やかに変化するとともに電流の変化幅が狭くなる。これにより、低負荷時の起振力の変動を抑制でき、騒音・振動を低減させることができる。
【0091】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0092】
例えば、上述した
図3に示すステップS5では、電圧の使用可能範囲に基づいて降圧時の電圧を決定することができる。電圧の使用可能範囲は、バッテリ4の充電状態(SOC)や、バッテリ4に接続された他の電気機器の駆動状態などに基づいて、現在使用可能な範囲に定められる。この場合、降圧時の電圧が300Vに予め設定されていても、電圧の使用可能範囲に300Vが含まれない場合には、降圧時の電圧値として300Vは選択されず、現在使用可能な範囲内の所定電圧(通常電圧の600Vよりも低い電圧)が降圧時の電圧に決定される。
【0093】
また、上述した
図4〜
図6に示すサブルーチンは一例である。例えば、
図4に示す通常制御のサブルーチンを、第1降圧制御および第2降圧制御のサブルーチンとして実行してもよい。この場合、第1降圧制御のサブルーチンは、
図5のステップS22〜ステップS25の代わりに、
図4のステップS12〜ステップS17を行うように構成される。また、第2降圧制御のサブルーチンは、
図6のステップS32〜ステップS39の代わりに、
図4のステップS12〜ステップS17を行うように構成される。要するに、SRモータ1の駆動制御は、印加電圧(降圧の有無)に応じて、異なる励磁条件(励磁開始角、OFF角、励磁終了角、最大電流値)が決定されるように構成されていればよい。
【0094】
さらに、上述した
図7(d)に示す通常制御の電流波形は一例である。例えば、通常制御の電流波形は、励磁区間内のヒステリシス区間を抜けた後、還流モードが所定角度範囲で継続して実施されたことにより電流が緩やかに低下してから、負電圧モードが実施されて電流が立下がる波形であってもよい。このように、ヒステリシス区間後に還流モードが実施される場合、上述した励磁条件には、その還流モードが開始される角度(還流開始角)が含まれる。
【0095】
[8.第1変形例]
第1変形例として、制御装置100は、SRモータ1の動作点が高負荷側から低負荷側に移動するにつれて印加電圧を徐々に低下させる制御(電圧徐変制御)を実施するように構成することができる。ここでは、
図10を参照して、第1変形例の制御装置100について説明する。なお、第1変形例の説明では、上述した実施形態と同様の構成については説明を省略する。
【0096】
図10(a)は、電圧徐変制御を説明するためのSRモータ1のN−T線図である。
図10(b)は、電圧徐変制御を実施した際の電圧の変化を説明するための図である。
図10(a),(b)に示すように、第1変形例の制御装置100は、電圧徐変制御を実施し、SRモータ1の動作点が降圧用の切替線A
0よりも低負荷領域内の場合、相対的に高負荷側から低負荷側に移動(変化)するにつれて印加電圧の降圧量が徐々に大きくなるように印加電圧を連続的に降圧させる。例えば、通常時の印加電圧が600Vの場合、制御装置100が電圧徐変制御を実施すると、印加電圧が600Vから徐々に低下する。また、制御装置100は、降圧部3を制御して、印加電圧を徐々に降圧させることが可能である。
【0097】
さらに、第1変形例の制御装置100は、電圧の降圧量に限らず、電流の励磁幅を徐々に変化させる制御(励磁幅徐変制御)を実施することができる。つまり、第1変形例では、SRモータ1の動作点が高負荷領域から低負荷領域に移動(変化)するにつれて、印加電圧が徐々に降圧されるとともに、電流の励磁幅が徐々に広げられる。例えば、通常時の印加電圧が600Vの場合、制御装置100は印加電圧を600Vから徐々に低下させつつ電流の励磁幅が徐々に広がるように制御する。もしくは、制御装置100は、印加電圧を600Vから所定電圧まで徐々に低下させてから、電流の励磁幅を徐々に広げる制御を実施するように構成されている。加えて、励磁幅徐変制御の実行条件として、印加電圧を降圧させ始めた際のSRモータ1の動作点よりも低負荷側に動作点が移動(変化)している場合が含まれる。
【0098】
[9.第2変形例]
第2変形例として、SRモータ1は、ステータ10の極数とロータ20の極数との組み合わせが、六極/四極の倍数となるように構成することができる。例えば、SRモータ1は、12極のステータ10と、8極のロータ20とを有する構造に構成されてもよい。また、
図11に示すように、SRモータ1は、18極のステータ10と、12極のロータ20とを有する構造に構成されてもよい。あるいは、SRモータ1は、24極のステータ10と、16極のロータ20とを有する構造に構成されてもよい。
【0099】
[10.適用車両]
SRモータ1は、走行用動力源として車両に搭載されることが可能である。SRモータ1が車両に搭載される場合、上述した
図3のステップS1では、アクセル開度センサから入力されるアクセル開度信号や、車速センサから入力される車速信号などの情報が読み込まれる。また、
図3のステップS3では、アクセル開度信号と車速信号と所定の要求トルク用マップとを用いて、要求トルクを演算し、その要求トルクに応じたモータトルク指令値を導出する。
【0100】
図12は、適用車両の一例を示すスケルトン図である。
図12に示す車両200は、エンジン201と、車輪202と、変速機(T/M)203と、デファレンシャルギヤ204と、駆動軸205と、走行用動力源としてのSRモータ1とを備えている。車両200は、四輪駆動車であり、エンジン201が左右の前輪202FL,202FRを駆動し、リヤモータであるSRモータ1が左右の後輪202RL,202RRを駆動する。
【0101】
エンジン201は、周知の内燃機関である。車両200のフロント側駆動装置では、エンジン201が、変速機203およびデファレンシャルギヤ204を介して左右の駆動軸205,205に接続されている。変速機203は、例えば有段や無段の自動変速機や、手動変速機である。左右の駆動軸205,205の一方は左前輪202FLに接続されており、他方は右前輪202FRに接続されている。前輪202FL,202FRは、エンジン201の出力トルク(エンジントルク)によって駆動される。なお、車両200は、エンジン201に加えて、前輪202FL,202FRを駆動させるモータ・ジェネレータ(MG)を備えていてもよい。
【0102】
SRモータ1は、いわゆるインホイールモータであり、左右の後輪202RL,202RRにそれぞれ一つずつ設けられている。車両200のリヤ側駆動装置では、左後輪202RLには左後SRモータ1RLが接続され、かつ右後輪202RRには右後SRモータ1RRが接続されている。後輪202RL,202RRは、互いに独立して回転可能である。左後SRモータ1RLの出力トルク(モータトルク)によって左後輪202RLが駆動される。右後SRモータ1RRの出力トルク(モータトルク)によって右後輪202RRが駆動される。各SRモータ1RL,1RRは、インバータ2および降圧部3を介してバッテリ(B)4に接続されている。SRモータ1は、バッテリ4から供給される電力によって電動機として機能し、および後輪202RL,202RRから伝達されるトルク(外力)を電力に変換する発電機として機能する。なお、インバータ2には、左後SRモータ1RL用の電気回路と、右後SRモータ1RR用の電気回路とが含まれる。
【0103】
制御装置100は、各SRモータ1RL,1RRと、エンジン201を制御する。例えば、制御装置100には、SRモータ用制御部(SRモータ用ECU)と、エンジン用制御部(エンジンECU)とが含まれる。この場合、エンジンECUは、吸気制御、燃料噴射制御、点火制御等によって、エンジン201の出力トルクを目標とするトルク値に調節するエンジントルク制御を実施する。また、SRモータ用ECUは、回転数センサ51から入力される信号に基づいて、各SRモータ1RL,1RRについてのモータ制御を実施する。回転数センサ51には、左後SRモータ1RLの回転数を検出する左後回転数センサ51RLと、右後SRモータ1RRの回転数を検出する右後回転数センサ51RRとが含まれる。
【0104】
図12に示すように、SRモータ1がリヤモータとして車両に搭載される場合、制御装置100は、上述した
図3に示すステップS5において降圧時の電圧を決定する際、電圧の使用可能範囲に基づいて降圧時の電圧を決定する。電圧の使用可能範囲は、車両Veのフロント側の駆動状態に基づいて決まる。
【0105】
具体的には、予め降圧時の電圧が300Vに設定されている場合であっても、電圧の使用可能範囲内に300Vが含まれない場合について説明する。この場合、ステップS5では、まず予め設定された降圧時の電圧(300V)を印加電圧に仮決定し、その仮決定された印加電圧を使用可能であるか否かが判定される。そして、仮決定された印加電圧(300V)が使用可能範囲内である場合には、仮決定された印加電圧(300V)をそのまま降圧時の電圧に決定する。一方、仮決定された印加電圧(300V)が使用可能範囲内に含まれない場合には、仮決定された印加電圧(300V)よりも高い印加電圧を降圧時の電圧に決定する。このように、ステップS5では、通常時の600Vよりも低い電圧に印加電圧を決定するものの、その印加電圧は電圧の使用可能範囲に基づいて予め設定された300Vよりも大きい電圧に設定することができる。
【0106】
なお、SRモータ1を走行用動力源とする車両例は
図12に示す例に限定されない。例えば、
図12に示すフロント側駆動装置とリヤ側駆動装置とを入れ替えて、フロントモータとしてのSRモータ1が左右の前輪202FL,202FRを駆動し、エンジン201が左右の後輪202RL,202RRを駆動する車両であってもよい。また、
図12に示すリヤ側駆動装置の変形例として、一つのSRモータ1がデファレンシャルギヤおよび左右の駆動軸を介して左右の後輪202RL,202RRに接続された車両であってもよい。さらに別の適用車両例として、エンジンを搭載していない車両(電気自動車)が挙げられる。電気自動車の場合、前後左右の車輪202全てにインホイールモータとしてのSRモータ1が設けられた四輪駆動車であってもよい。電気自動車の別の例として、フロント側インホイールモータとしての二つのSRモータ1が左右の前輪202FL,202FRを駆動する前輪駆動の電気自動車であってもよく、あるいはリヤモータとしてのSRモータ1が左右の後輪202RL,202RRを駆動する後輪駆動の電気自動車であってもよい。後輪駆動の電気自動である場合、一つのSRモータ1によって左右の後輪202RL,202RRが駆動される車両であってもよく、左右の後輪202RL,202RRそれぞれにインホイールモータとしてのSRモータ1が設けられた車両であってもよい。