(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0010】
〔第一の実施形態〕
本発明の第一の実施形態に係る制震補強構造は、構造物の表面にポリウレア樹脂を含む補強層を形成することにより、構造物の振動減衰性能を向上させる点に特徴がある。
<補強対象>
本発明に係る制震補強構造は、土木、建築分野の各構造物に適用できるが、中でも主要な部材が鋼材から構成される鋼構造物の構造材に適用されると好適である。鋼構造物としては、風力発電装置のタワーや、鉄塔、橋梁等を挙げることができる。
近年、新エネルギーの導入促進や原子力発電に対するリスクなどにより、日本国内において風力発電装置の導入が増加している。風力発電装置の増加に伴い、その損壊報告も増え続けている。例えば、発電機を支えるタワー外面の鉄板に亀裂が生じる、発電機が落下する、タワー自体が倒壊するといった事故例が報告されている。
ヨーロッパでは安定した偏西風が吹くことから風力発電が盛んである。しかし、ヨーロッパ地方で利用されている風力発電装置を自然条件が異なる日本国にそのまま適用することはできない。特に、台風や地震といった厳しい自然条件に曝される日本国内において、風力発電装置に加わる振動を抑制することは、風力発電装置の損壊を防ぐ上で重要である。
通常、構造物が弾性範囲で振動している場合、減衰の主要因として構造減衰、地盤に起因する減衰、空力減衰がある。風力発電装置の減衰定数は、風速の影響が少ないナセル方向(X方向:
図1参照)に対しては概ね0.8%とされていたが、非特許文献1の発表により0.5%を採用することが一般的となった。減衰定数を0.8%として安全性が検証された風力発電装置については、現在では安全性に若干の不安が残る。
本実施形態においては、風力発電装置を分解等することなく補強層を形成して、風力発電装置の減衰性能を向上させる。
【0011】
<風力発電装置の構成>
図1は、プロペラ式風力発電装置の構造例を示す図である。
風力発電装置10(構造物)は、風力により回転するブレードとブレードの回転を増速する増速機とブレードの回転により発生した回転エネルギーを電力に変換する発電機等とを含む風車本体11、風車本体11を支持するタワー12(構造材)、一部が地中に埋設されてタワー12を支持する基礎13等を含んで構成される。タワー12は、日本国内では円柱状のモノポール式で鋼製を採用することが一般的である。
【0012】
<補強層>
本発明の実施形態に係る補強層は、風力発電装置10のタワー12の表面に形成される。補強層は、タワー12の内面のみ、外面のみ、又は内面と外面の双方に形成できる(
図3参照)。補強層を内面に形成する場合、施工時に天候の影響を受けにくい。また、補強層を内面のみに形成する場合は、施工前後で外観が変化しないといったメリットを享受できる。
補強層は、ポリウレア樹脂単体により形成してもよいし、ポリウレア樹脂に機能性向上用の添加剤を添加してもよい。例えば、ポリウレア樹脂に減衰性能を向上させるためにシリカ粉末を添加して補強層とすることができる。補強層は、機能性向上用の添加剤がポリウレア樹脂に均一に混合された状態で対象物の表面に形成されたものでもよいし、対象物に対してポリウレア樹脂と機能性向上用の添加剤を交互に積層した積層構造を有していてもよい。
【0013】
<ポリウレア樹脂>
ポリウレア樹脂は、ポリイソシアネート化合物と活性水素を持つアミン化合物(特殊混合レジン)を衝突混合させて化学反応させることにより得られる、ウレア結合を有する合成樹脂である。
ポリウレア樹脂は、超速硬化、強靱な物性(高い引裂強度・引張強度・伸び性・追従性、耐候性、耐腐食性等)が特徴であり、船舶やトラック、建築物の床や天井などのコーティング材や、ペンタゴンの防爆対策として用いられている。
【0014】
<吹付装置>
図2は、ポリウレア樹脂を対象物に吹き付ける吹付装置の一例を示す模式図である。
吹付装置20は、ポリイソシアネート化合物とアミン化合物を衝突混合させてミスト状にして対象物に吹き付ける装置である。
吹付装置20は、ポリイソシアネート化合物を収容した第一タンク21a、アミン化合物を収容した第二タンク21b、第一タンク21aから化合物を送り出す第一ポンプ22a、第二タンク21bから化合物を送り出す第二ポンプ22b、化合物に十分な圧力をかけて所定量を送り出す高圧定量ポンプ23、輸送される化合物を加熱するヒータ24、化合物の温度を保持するヒータ付ホース25、及び、両化合物を衝突混合させてミスト状態で射出するスプレーガン26を備えている。また、吹付装置20は、高圧定量ポンプ23を制御して両化合物の混合割合を可変させたり、ヒータを制御して加熱温度等を可変させる反応制御装置等も備えている。
第一タンク21aと第二タンク21bに収容されたポリイソシアネート化合物とアミン化合物は、それぞれ第一及び第二ポンプ22a,22bにより送液され、高圧定量ポンプ23により所定の圧力に加圧されて所定量が送り出される。両化合物は、ヒータ24により所定の温度に加熱されヒータ付ホース25により所定の温度に保持されたままスプレーガン26に送られる。スプレーガン26は、両化合物を衝突混合させると共に、ミスト状にして射出する。両化合物は化学反応によりポリウレア樹脂を生成し、吹付対象物の表面において固化し、塗膜を形成する。
【0015】
対象物に吹き付けるポリウレア樹脂には粉末状の添加剤(例えばシリカやカーボン)を混合することができる。添加剤の混合方法としては、予めアミン化合物を収容した第二タンク21b内に添加剤を混合しておく方法(内部混合)と、対象物への吹付時にポリウレア樹脂に添加剤を混合する方法(外部混合)とがある。仮に、スプレーガン26内部の流路の内径が0.7mm程度の場合、添加剤の直径が概ね0.1mm程度であれば、内部混合を採用できる。また、スプレーガン26内部の流路の内径が0.7mm程度の場合、添加剤の直径が概ね0.1mmを越える場合には、吹付装置の故障を回避するために、外部混合を採用した方がよい。
図2に示す吹付装置20は、添加剤を外部混合する添加剤混合装置30を更に備えている。添加剤混合装置30は、添加剤を収容した第三タンク31、第三タンク31から添加剤を輸送するホース32、ホース32から供給された添加剤を射出する第二スプレーガン33、第二スプレーガン33に高速のエアを供給するエアホース34等を備える。
第三タンク31には、エアコンプレッサにより所定の内圧が加えられている。第二スプレーガン33は、エアブラシと同様の構成である。エアホース34を介して第二スプレーガン33に高速エアを供給することにより、添加剤が高速のエアに引き込まれて第二スプレーガン33の先端部に配置されたノズルから射出される。第二スプレーガン33は、スプレーガン26からミスト状に射出したポリウレア樹脂に向けて添加剤を噴射することにより、ポリウレア樹脂に添加剤を混合する。
【0016】
内部混合の場合は、第二タンク21b内への添加剤の添加量により、ポリウレア樹脂に対する添加剤の混合割合を調整できる。
また、外部混合の場合、スプレーガン26から単位時間に射出されるポリウレア樹脂の量が既知であるため、ポリウレア樹脂の単位時間当たりの射出量に対して、添加剤の単位時間当たりの射出量を調整することにより、添加剤の混合割合を調整できる。添加剤の単位時間当たりの射出量は、第二スプレーガン33のノズル口径を調整することにより制御できる。
このように、内部混合によっても外部混合によっても、ポリウレア樹脂に対する添加剤の添加割合を制御できると共に、ポリウレア樹脂に対して添加剤を均一に混合することができる。
【0017】
<シリカ粉末>
ポリウレア樹脂には添加剤として工業的に合成された非晶質のシリカ粉末(二酸化ケイ素の粉末)を混合することができる。シリカ粉末は乾式法により製造されたものでも、湿式法により製造されたものでもよい。
【0018】
〔自由振動試験〕
ポリウレア樹脂により被覆した鋼板を自由振動させて、振動減衰性能を測定した。
図3(a)、(b)は、試験体の概要を示す長手方向側面図及び短手方向側面図である。
図3(a)に示す試験体40aは、主材41と、主材41の一面に形成された補強層42とを備える。
図3(b)に示す試験体40bは、主材41と、主材41の両面に形成された補強層42とを備える。
ポリウレア樹脂を吹き付けた試験体40a,40bは、主材41と、一面又は両面に形成された補強層42とを有する。なお、試験体40a,40bの厚さ方向の面には、補強層42を形成していない。
ポリウレア樹脂には、米国ライノライニング社のエクストリームを使用した。
【0019】
表1は、試験に使用したポリウレア基剤の性状を示している。
【0021】
表2は、上記ポリウレア基剤から生成されるポリウレア樹脂の性状を示している。
【0023】
自由振動試験の方法は、以下の通りである。まず、各試験体を鉛直に立てて、下端部を万力で固定し、上端部に加速度計を取り付けた。試験体の上端部に初期変位を与えた後、速やかに離して自由振動させ、その振幅を測定した。また、測定結果に基づいて減衰定数hを算出した。なお、減衰定数hは、自由振動波形の隣り合う振幅比を求め、振幅比の自然対数をとった対数減衰率δを算出し、対数減衰率δから以下の関係式(1)により求めることができる。
・・・式(1)
本試験においては自由振動を安定させるため、加振後10秒付近から5サイクル分の振幅比を用いて減衰定数hを算出した。
【0024】
<試験1>
まず、主材に添加剤を混合しないポリウレア樹脂を吹き付けた場合の減衰定数の変化について調べた。主材には、幅100mm×厚さ9mm×長さ1700mmの鋼板を用いた。試験体として、塗布面(片面塗布、両面塗布)と塗布厚さを変えてポリウレア樹脂を吹き付けた4種類の試験体と、比較用にポリウレア樹脂を塗布していない試験体(主材のみ)を用意した。
【0025】
表3は、各試験体のパラメータ、及び減衰定数を示している。
【0027】
本試験では、ポリウレア樹脂の塗布により、減衰定数が向上することがわかった。また、片面よりも両面に塗布した方が、減衰定数が向上する。ただし、塗布厚との関連性は確認できなかった。
【0028】
<試験2>
続いて、添加剤としてシリカ粉末を含むポリウレア樹脂補強層を主材に対して形成した場合の減衰定数の変化について調べた。なお、主材、補強層の形成部位、及び試験方法は先の試験1と同様である。本試験では、主材に対して、塗布面と塗布厚さとシリカ粉末の混合比を変えてポリウレア樹脂を吹き付けた6種類の試験体を用意した。なお、本試験においてシリカ粉末には、合成非晶質沈降シリカである、東ソー・シリカ(株)社製「Nipsil(登録商標)AQ」を用いた。また、本試験においては、主材に対してポリウレア樹脂の吹き付けとシリカ粉末層の形成とを交互に繰り返した積層構造型の補強層を形成した。
【0029】
表4は、試験に用いたシリカ粉末の性状を示している。
【0031】
表5は、添加剤としてシリカ粉末を混合したポリウレア樹脂を吹き付けた場合の、各試験体のパラメータ、及び減衰定数を示している。なお、「シリカ混合比」は、ポリウレア樹脂の体積を1とした場合のシリカ粉末の体積を示している。
【0033】
本試験では、ポリウレア樹脂にシリカ粉末を添加することにより、シリカ粉末非含有の試験体に比べて大幅に減衰性能が増加することを確認できた。但し、本試験ではシリカ粉末の含有率との関連性は確認できなかった。
【0034】
〔時刻歴応答解析結果〕
風力発電鉄塔の減衰定数hが変化した場合の挙動を、時刻歴応答解析を用いて確認した。
図4は、風力発電装置の解析モデルを示す図である。表6は、解析に用いた風力発電設備モデルの諸元である。
【0036】
地震時には、風車本体、基礎、及び周辺地盤は一体で挙動する。よってこの検討では、上部構造の解析については風車本体部11A、タワー部12A、及び基礎部13Aをそれぞれ一本棒の集中質量モデルとし、多質点でモデル化した直列系多質点モデルとした。また、基礎部13Aの解析については、周辺地盤との相互作用を考慮し、ロッキングバネ14Aとスウェイバネ15Aを有するロッキング・スウェイモデルを採用した。解析には、告示地震波BCJ−L2(乱数)を検討用地震動として用いた。
【0037】
図5は、時刻歴応答解析の結果を示す図であり、(a)は減衰定数、最大変位、及び変位の低減率を表で示す図であり、(b)はグラフ図である。80m級の風力発電鉄塔の場合、現在一般に採用されている減衰定数0.5%では最大変位が140.9cmとなった。表5の試験体名WSP0.3で確認できたのと略同じ減衰定数1.90%では、最大変位が81.6cmとなり、減衰定数0.5%の場合に比べて最大変位が42%も低減することが確認できた。
【0038】
<まとめ>
本試験結果から、風力発電装置のタワーの内面と外面の少なくとも一方に、ポリウレア樹脂を含む補強層を形成することにより、風力発電装置の減衰定数を向上できることが見込まれる。また、補強層に添加剤としてシリカ粉末を加えることにより、風力発電装置の減衰定数を大幅に向上できることが見込まれる。従って、地震や台風の来週といった自然災害による風力発電装置の振動による変位を低減させ、もって風力発電装置の損壊を防止できる。仮に、風力発電装置を新設する場合は、タワーを構成する鋼材を薄くすることができるので、風力発電装置の新設コストを削減できる。
本実施形態に示した補強層は、鋼構造物以外の構造物、例えば木材、コンクリート、木材とコンクリートを組み合わせた複合材等を用いて構築された土木・建築構造物の構造材の表面に形成することができことができる。
上記実施形態においては、主として既存の構造物に補強層を形成する例を示しているが、予め補強層を形成した構造用材料を用意し、この構造用材料を用いて構造物を構築してもよい。
【0039】
〔第二の実施形態〕
第一の実施形態においては、構造物の表面にポリウレア樹脂、又はポリウレア樹脂とシリカ粉末による補強層を形成して、構造物の振動減衰性能を高めて制震性を向上させたが、第二の実施形態においては、構造物の表面にポリウレア樹脂、又はポリウレア樹脂とカーボン粉末による補強層を形成して、構造物の剛性を高めて耐震性を向上させる。
本実施形態に係る補強層は、既存の土木・建築構造物の構造材の表面に形成することができ、構造材の材質は特に問わない。例えば、構造材を構成する構造用材料としては、コンクリートや木材、両者を組み合わせた複合材、鋼材等への適用が可能である、特に木材、及び主として木材から構成される木造建築物への適用が好適である。また、本実施形態に示す補強層が適用される構造材としては、柱、梁、桁、筋交い、壁、耐力壁等を例示できる。
ここで、ポリウレア樹脂は、高強度・高伸縮性を有する合成樹脂塗料であり、船舶やトラック、土木建築物の屋根や床、ペンタゴンの防壁などにも用いられている。しかし、ポリウレア樹脂を用いた構造材の性能は未知数である。
そこで、本実施形態においては、押出しポリスチレンフォームにポリウレア樹脂を塗布した試験体を用意し、曲げ載荷試験を行った。なお、押出しポリスチレンフォームのみの試験体(塗膜なし)も用意して比較・検討した。
【0040】
<梁の曲げ載荷試験>
図6(a)は、曲げ載荷試験の概要を示す図であり、(b)は試験体の概要を示す図である。
載荷装置50には200t万能型試験機(アムスラー)を用いた。試験体60の長手方向の各端部を夫々ピン51とローラ52によって支持した上で、試験体60中央部の2つの載荷点61,61に載荷し、試験体60中央の変位を棒状変位計(25mm)にて測定した。今回の試験では、棒状変位計の盛替えによる荷重の変動の影響がない20mmまでのデータで、変位−荷重の線形近似曲線を作成し、その傾きを試験体の曲げ剛性として評価した。
【0041】
表7は、各試験体の概要を示している。
【0043】
母材として、厚さ50mm×幅100mm×長さ1300mmの押出しポリスチレンフォームを用いた。また、試験体として、母材のみ(塗膜なし)の試験体S−Nと、母材の全面(6面)に補強層としてポリウレア樹脂を10mm厚で塗布した試験体S−Pと、母材の全面(6面)に補強層としてポリウレア樹脂とカーボンブラックを10mm厚となるように交互に塗布した試験体S−CPの3種類を用意した。なお、試験体S−CPは、ポリウレアの重量1に対して、重量0.3のカーボンブラックを含む。
カーボンブラックは、主として炭素からなる直径3〜500nm程度の微粒子である。カーボンブラックは、ゴムタイヤの補強剤、黒色顔料、或いは導電性付与剤等として種々の分野において利用されている。試験体S−CPについては、機能性向上用の添加剤としてカーボンブラックをポリウレア樹脂に添加した。
【0044】
ポリウレア樹脂には、米国ライノライニング社のエクストリームを使用した。試験に使用したポリウレア基剤の性状とポリウレア樹脂の性状は表1及び表2に示した通りである。
また、本試験においては、キャボットジャパン株式会社のショウブラックN330(ASTMコードD−1765−91)を用いた。
【0045】
図7は、各試験体の変位−荷重の線形近似曲線を示すグラフ図である。
【0046】
表8は、各試験体の曲げ剛性と、剛性比率を示す表である。
【0048】
表8に示すように、ポリウレア樹脂を吹き付けない試験体S−Nに比べて、ポリウレア樹脂のみを吹き付けた試験体S−Pは、曲げ剛性が220%増加した。また、ポリウレア樹脂のみを吹き付けた試験体S−Pに比べて、カーボンブラックを添加した試験体S−CPは、曲げ剛性が40%増加した。
各試験体とも、変形角1/10以上の大変形に対しても破断せず、また塗膜に損傷は見られなかった。
除荷後、ひずみゲージにて各試験体のひずみを測定したが、各試験体とも除荷後、直ちに元の形状に復帰し、残留変形はほとんど見られなかった。
以上の試験により、ポリウレア樹脂塗膜による梁部材の曲げ耐力向上、及び変形追従性の増加が確認できた。また、土木・建築構造物の構造材へ適用することにより、構造物の耐震性能の向上が見込まれる。
【0049】
<まとめ>
以上のように、本実施形態によれば、土木・建築構造物、特に木造建築物の柱、梁、桁、筋交い、壁、耐力壁等の表面にポリウレア樹脂を含む補強層を形成することにより、各部材及び建築物全体の剛性を増加させることができる。また、カーボンを添加した補強層を形成することにより、剛性を大幅に増加させることができる。従って、地震時や台風の来襲時における建築物の耐震性を向上させることができる。また、上記補強層を形成することにより、破壊には至らないが地震動によりダメージを受けた建築物を補強することができる。
本実施形態に示した補強層は、構造用材料を組み合わせてなる構造体に適用してもよいし、構造体形成前の構造用材料に適用し、この構造用材料を用いて構造物を構築してもよい。
【0050】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ〕
<第一の実施態様>
本態様は、構造物と、構造物を被覆する補強層と、を備えた制震補強構造であって、補強層は、ポリイソシアネート化合物とアミン化合物との化学反応により形成されるポリウレア樹脂と、シリカ粉末と、を含むことを特徴とする。
本態様に係る制震補強構造は、土木構造物や建築物等の各種の構造物に適用可能であり、構造物として例えば風力発電装置10のタワー12を挙げることができる。また、補強層は、構造物を構成する構造材の表面に形成することができる。例えば、補強層は、タワー12の外面と内面の少なくとも一方に形成することができる。自由振動実験にて用いた試験体40では、
図3に示す主材41が構造材に相当し、補強層42が構造材の表面に形成された補強層に相当する。主材41にポリウレア樹脂のみを塗布することによって振動定数は向上するが、ポリウレア樹脂にシリカ粉末を添加することにより振動定数が大幅に向上する。また、補強層は、ポリウレア樹脂とシリカ粉末とが均一に混合されたものでもよいし、ポリウレア樹脂とシリカ粉末とを交互に積層したものでもよい。
本態様によれば、補強層にポリウレア樹脂とシリカ粉末を含むことにより、振動減衰性能(振動定数)を大幅に向上させることができきるので、振動を早期に低減し、構造物を地震等に起因する振動から保護することができる。
【0051】
<第二、第三の実施態様>
第二の態様において構造物は、主要な部材が鋼材から構成される鋼構造物であることを特徴とする。
第三の態様においては、構造物が、風力発電装置のタワーであることを特徴とする。
風力発電装置10のタワー12は、一般的には円柱状のモノポール式であり、鋼材からなる鋼構造物である。振動による風力発電装置の損壊を防止するためには、振動定数の向上が不可欠である。
本態様によれば、ポリウレア樹脂にシリカ粉末を混合した補強層を、風力発電装置のタワー等の鋼構造物に形成するので、振動を早期に低減し、これらの構造物の損壊を硬化的に阻止できる。
【0052】
<第四、第五の実施態様>
第四の態様は、構造物を補強層によって被覆することにより、構造物の減衰性能を向上させる制震補強方法であって、アミン化合物にシリカ粉末を混合する工程と、ポリイソシアネート化合物とシリカ粉末を混合したアミン化合物とを衝突混合させることによりシリカ粉末を含むポリウレア樹脂を生成する工程と、シリカ粉末を含むポリウレア樹脂をミスト状にして構造物に吹き付けることにより補強層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
第五の態様は、構造物を補強層によって被覆することにより、構造物の減衰性能を向上させる制震補強方法であって、ポリイソシアネート化合物とアミン化合物とを衝突混合させることによりミスト状のポリウレア樹脂を生成する工程と、ミスト状のポリウレア樹脂にシリカ粉末を噴射して混合する工程と、シリカ粉末を含むミスト状のポリウレア樹脂を構造物に吹き付けて補強層を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0053】
シリカ粉末が添加されたポリウレア樹脂を得るには、ポリウレア基材のアミン化合物側に予めシリカ粉末を混合しておく方法(内部混合)と、生成されたポリウレア樹脂にシリカ粉末を混合する方法(外部混合)とがある。
ポリウレア樹脂を対象物に吹き付ける際には、スプレーガン26を用いてポリイソシアネート化合物とアミン化合物とを衝突混合させてポリウレア樹脂を生成する。前者の方法は、シリカ粉末がスプレーガン26の内部を通過することから、混合するシリカ粉末の粒子の大きさに制限がある。後者の方法には前者のような制限はないが、ポリウレア樹脂のゲルタイムが短時間であることから、生成されたポリウレア樹脂に対して早急にシリカ粉末を混合する必要がある。そこで、後者の方法では、ミスト状のポリウレア樹脂に対してエアブラシと同様の方法によりシリカ粉末を噴射して混合する。
何れの方法も、ポリウレア樹脂に対するシリカ粉末の混合割合を容易に制御することができ、構造物に所望の減衰性能を与える補強層を形成することができる。
【0054】
<第六の実施態様>
本態様は、構造物を構成する構造用材料であって、表面に、ポリイソシアネート化合物とアミン化合物との化学反応により形成されるポリウレア樹脂と、ポリウレア樹脂に混合されたシリカ粉末と、を含む補強層が形成されていることを特徴とする。
補強層は、既存の構造物に形成してもよいが、構造材用の材料に予め補強層を形成してもよい。
【0055】
<第七の実施態様>
本態様は、構造物と、構造物を被覆する補強層と、を備えた耐震補強構造であって、補強層は、ポリイソシアネート化合物とアミン化合物との化学反応により形成されるポリウレア樹脂と、ポリウレア樹脂に混合された粉末状のカーボンと、を含むことを特徴とする。
本態様によれば、ポリウレア樹脂により形成される補強層に粉末状のカーボンを混合することにより、剛性を大幅に向上させることができきるので、構造物を地震等に起因する振動から保護することができる。