(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導線が、列方向において、隣り合う2つの前記光変調素子の前記磁性層から略等距離の位置に設けられ、前記光変調素子の列の両側の隣り合う2本を1組として、互いに反対方向に電流を通電されることにより前記磁界が生成されることを特徴とする請求項1に記載の空間光変調器。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係
る空間光変調器を実施するための形態について図を参照して説明する。本発明に係
る空間光変調器
は、光変調素子を画素として2次元配列
して備え、光変調素子に入射した光を異なる2値の光(偏光成分)に変調して出射する。画素とは、空間光変調器による表示の最小単位での情報(明/暗)を表示する手段を指す。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器10は、基板8、およびその上にX方向とY方向のそれぞれに2次元配列された光変調素子1を備える
。光変調素子1は、絶縁層2と垂直磁気異方性の磁性層3を積層し、その上下に、上部電極4と下部電極5(一対の電圧印加電極)を接続して備え、さらに下部電極5の下方に、2本の導線(磁界印加手段)7,7を平面視で磁性層3の両側に並設して備える。空間光変調器10において、光変調素子1は、磁性層3が当該光変調素子1毎に分離して設けられ、上部電極4が、すべての光変調素子1で共有されて一体に形成され、下部電極5が、光変調素子1の行毎に設けられてX方向に延設された帯状に形成されて(光変調素子1の行数)本(
図1では3本)設けられる。一方、導線7は、下部電極5に直交してY方向に延設され、平面視で光変調素子1(磁性層3)の列同士の間に配置されて(光変調素子1の列数+1)本(
図1では4本)設けられる。すなわち、X方向に隣り合う光変調素子1,1でそれぞれの導線7,7の1本が共有されている。空間光変調器10は、さらに磁性層3,3間や前記電極同士の間等を絶縁する絶縁部材6(
図6参照、
図1では空白で表す)を備え、基板8上に、下から、導線7、絶縁部材6、下部電極5、絶縁層2、磁性層3、上部電極4、の順に配置されている。なお、ここでは、空間光変調器は、説明を簡潔にするために、3行×3列の9個の画素からなる構成で例示される。
【0020】
さらに空間光変調器10は、
図2に示すように、光変調素子1を駆動する(磁性層3を磁化反転させる)駆動装置として、X(列)アドレスデータを受けて空間光変調器10における光変調素子1の列を選択するXデコーダ92と、Y(行)アドレスデータを受けて空間光変調器10における光変調素子1の行を1行以上選択するYデコーダ93と、Xデコーダ92が選択した光変調素子1の列における磁性層3に印加する磁界を生成するための電流を供給する電流回路94と、Yデコーダ93が選択した光変調素子1の行における磁性層3に電圧を印加する電源97と、Xデコーダ92、Yデコーダ93、および電流回路94にアドレスデータの出力や電流の供給方向の指示等を行う制御回路91と、を備える。以下、本実施形態に係る空間光変調器を構成する各要素を、主に光変調素子について詳細に説明する。
【0021】
〔光変調素子〕
(磁性層)
磁性層3は、垂直磁気異方性を示す
、光変調素子1における光変調層であり、電圧を印加された状態で磁界を印加されることにより磁化反転する。そのため、磁性層3は平面視における一辺の長さを光変調のために少なくとも入射光の回折限界(波長の1/2程度)以上とし、また、画素サイズ(ピッチ)に応じた大きさの所望の形状に設計することができる。
図3に示すように、磁性層3は、光変調素子1において絶縁層2上に設けられ、絶縁層2との界面に、Co,Fe,Co−Fe,Co−Fe−Bから選択される磁性金属膜31を備える。磁性金属膜31は、特にCoまたはCoを含有するCo−Fe,Co−Fe−Bを適用することが好ましい。これらの磁性材料は単独で面内磁気異方性を示すため、磁性層3は、全体で垂直磁気異方性を示すように、磁性金属膜31に垂直磁気異方性材料からなる層を積層して備える。このような材料として、垂直磁気異方性を有するスピン注入磁化反転素子(TMR素子、CPP−GMR素子)に適用される公知の磁性材料を適用することができ、特に、磁気光学効果の高いGdFe層(Gd−Feからなる層)33を適用することが好ましい。具体的には、磁性層3は、下(絶縁層2側)から、Co−FeまたはCo−Fe−Bからなる磁性金属膜31、Gd膜32、GdFe層33の3層構造を有することが特に好ましい。
【0022】
FeやCoは、電圧を印加されると絶縁層2との界面で電荷が蓄積されて、3d軌道の電子占有状態が変化することにより、磁化容易軸が膜面方向よりも垂直方向で安定するようになるとされる(非特許文献1,2)。本実施形態においては、磁性層3が、このような磁性金属膜31に垂直磁気異方性のGdFe層33がGd膜32を挟んで積層されて形成されているため、磁気的に結合して全体で垂直磁気異方性を示すが、電圧が印加されると、磁性金属膜31の磁気異方性の強さが変化することにより、磁性層3全体が面内磁気異方性を示すようになると推測される。
【0023】
磁性金属膜31において磁界印加により電子占有状態が変化するのは、絶縁層2との界面の1原子分の領域と考えられることから、1原子分を大きく超える厚さの膜になると、元の磁気異方性が優勢となって、変化が表れ難い。さらに、Co−FeまたはCo−Fe−Bからなる磁性金属膜31は、厚さが0.3nmを超えると、GdFe層33を含めた磁性層3全体が垂直磁気異方性を示さない。一方、磁化方向を有効に示すために、磁性金属膜31は厚さを0.1nm以上とすることが好ましい。したがって、磁性金属膜31は、厚さを0.1〜0.3nmの範囲とすることが好ましい。
【0024】
GdFe層33は、磁性層3の主たる要素であり、垂直磁気異方性を有する磁性材料である遷移金属(TM)と希土類金属(RE)との合金(RE−TM合金)の一種であるが、垂直磁気異方性が比較的弱いGd−Fe合金で形成される。Gd−Fe合金は、磁気光学効果が特に高く、光変調素子において磁化方向を変化させる層として好適である。GdFe層33は、厚いほど磁気光学効果が高くなるが、一方で過剰に厚膜化されると垂直磁気異方性を示し難くなるため、一般的なTMR素子の磁化自由層と同様に、厚さを1〜20nmの範囲とすることが好ましく、10nm以下がより好ましい。
【0025】
Gd−Fe合金においては、遷移金属であるFeが一方向(+z方向とする)の磁気モーメントを示すのに対し、希土類金属であるGdは、この一方向の逆方向(−z方向)の磁気モーメントを示す。RE−TM合金はフェリ磁性体の一種であり、例えばスピン注入磁化反転素子の磁性層として適用する場合には、通常、例えばTb−Fe−Co合金については、TM,REのそれぞれの磁気モーメントが相殺される組成(補償組成)に対して僅かにREが多い組成として、当該RE−TM合金全体として飽和磁化の小さい−z方向の磁気モーメントとして、容易に垂直磁気異方性を示すようにし、かつ必要な保磁力を確保している。一方、Gd−Fe合金については、このような補償組成付近では、他のRE−TM合金と比較して保磁力が小さいことから、Feの含有率を高くして、全体として+z方向の磁気モーメントを示すようにする。
【0026】
ここで、Gd−Fe合金は、Co−FeやCo−Fe−Bと組み合わされると、垂直磁気異方性を示さず、Co−Fe等と同じ面内磁気異方性を示すようになる。これは、Co−Fe等のFeによって、Gd−Fe合金におけるFeの反磁界成分の影響が強くなることによると考えられる。そこで、磁性層3は、磁性金属膜31とGdFe層33の間に、Gd膜32をさらに備えることで、磁性金属膜31によるFeの影響を相殺し、GdFe層33(磁性層3)が垂直磁気異方性を示すようにする。
【0027】
Gd膜32は、磁性金属膜31とGdFe層33の間に設けられ、磁性金属膜31中のFeのGdFe層33への影響を相殺して、GdFe層33が本来の垂直磁気異方性を示すようにする。Gd膜32は、GdFe層33や磁性金属膜31の厚さに応じて、GdFe層33が垂直磁気異方性を示すように、厚さを設定される。具体的には、Gd膜32は、厚さを0.1nm以上とすることが好ましく、Gd原子1個分(0.18nm)相当の0.2nm以上とすることがより好ましく、また、2nm以下とすることが好ましい。言い換えると、磁性層3は、磁性金属膜31との界面でGd−richとなるGd−Fe合金の層を備える。
【0028】
(絶縁層)
絶縁層2は、磁性層3(磁性金属膜31)において当該絶縁層2との界面に電荷を蓄積させるために設けられ、磁性層3と同一平面視形状に形成される。絶縁層2は、TMR素子の障壁層に適用されるMgO,Al
2O
3,HfO
2を適用することができ、特に、(001)面配向のMgOとすることが好ましい。絶縁層2は、電極4,5間に電流が流れないように、厚さを3nm以上とすることが好ましく、このような構造により、電圧印加では消費電力が実質的に増大しない。一方、絶縁層2は、厚さの上限は特に規定されない。ただし、空間光変調器10においては、絶縁層2が厚いと、下部電極5のさらに下方に設けられる導線7が、磁性層3からの距離が遠くなって、磁界を生成するために必要な電流が大きくなる。あるいは、電圧印加だけでなく、電流を流してジュール熱を発生させて、磁性層3、特にRE−TM合金からなるGdFe層33の保磁力を低減させてもよい。この場合は、絶縁層2は、厚さを3nm未満とし、TMR素子の障壁層と同様に厚さを2nm以下とすることが好ましく、かつ0.1nm以上とすることが好ましく、1nm以上とすることがより好ましい。
【0029】
(保護膜、下地膜)
光変調素子1は、製造工程におけるダメージから磁性層3を保護するために、磁性層3(GdFe層33)上に保護膜34を積層して備えることが好ましい。製造工程におけるダメージとは、例えばレジスト形成時の現像液の含浸や磁性層3のGdFe層33の酸化等である。保護膜34は、Ru,Ta,Cu,Pt,Au等の非磁性金属材料からなる単層膜、またはCu/Ta,Cu/Ru等の異なる金属材料からなる金属膜を2層以上積層した積層膜から構成される。保護膜34は、厚さが1nm未満であると連続した膜を形成し難いため、保護膜として十分な効果が得られず、一方、10nmを超えて厚くしても、磁性層3を保護する効果がそれ以上には向上せず、また、光変調素子1の上方からの入射光の透過光量を減衰させる。したがって、保護膜34は、厚さを1〜10nmとすることが好ましい。また、光変調素子1は、必要に応じて、絶縁層2の下に、下部電極5への密着性を付与するために、保護膜34と同様の金属膜を下地膜として設けてもよい(図示せず)。
【0030】
(上部電極、下部電極)
上部電極4および下部電極5は、磁性層3を、絶縁層2と共に上下から挟むように設けられ、一対の電極として磁性層3と絶縁層2の界面に垂直な所定の向き、ここでは下から上へ電圧を印加する。前記したように、上部電極4は、一体で空間光変調器10のすべての光変調素子1で共有されるように、平面視において空間光変調器10の全体に設けられ、また、磁性層3に対して光の入出射側に設けられているので、透明電極材料で形成される。具体的には、上部電極4は、インジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO
2)、酸化アンチモン−酸化スズ系(ATO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム(In
2O
3)等の公知の透明電極材料からなる。一方、下部電極5は、光変調素子1の行毎にその磁性層3の直下でX方向(
図1参照)に延設され、磁性層3の全体に電圧が印加されるように、磁性層3のY方向長以上の幅の帯状に形成される。また、下部電極5を挟んで下方に設けられる導線7と磁性層3との距離を短くするために、下部電極5は印加する電圧等に応じた厚さとして、過剰に厚くないことが好ましい。下部電極5は、Cu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金のような一般的な金属電極材料で形成される。電極4,5のこのような構成により、空間光変調器10において、磁性層3への電圧の印加が光変調素子1の行毎に行われる。
【0031】
(導線)
導線7は、磁性層3に垂直に印加する磁界を生成する電流を通電させ、そのために平面視で磁性層3を挟んで2本が並設されている。詳しくは後記するように、これら2本の導線7,7に互いに反対方向に通電する電流によりそれぞれ生成した磁界が合成されて、磁性層3において垂直な磁界になる。また、空間光変調器10においては、導線7,7は、光変調素子1の列毎にY方向に延設され、さらに構造をより簡易にするために、前記したように、X(列)方向に隣り合う光変調素子1,1でそれぞれの導線7,7の1本を共有するように、平面視でこれらの光変調素子1,1の磁性層3,3の略中間の位置に設けられる。したがって、空間光変調器10においては、磁性層3への垂直な磁界の印加が光変調素子1の列毎に行われる。導線7は、下部電極5と同様、Cu等の一般的な金属電極材料からなり、通電させる電流の大きさに対応した太さ(幅および厚さ)に形成される。
【0032】
また、導線7は、リーク電流等も含めて他の導体(磁性層3、電極4,5)と短絡しないように、本実施形態においては、磁性層3の下方の、さらに下部電極5の下方に絶縁部材6を隔てて設けられ、下部電極5から3nm以上、あるいはさらに導線7に通電する電流の大きさや電極4,5間の電圧に応じた距離を空けて離間している。一方、磁性層3を磁化反転させる合成磁界をより小さい電流で生成するために、導線7と磁性層3との距離はより短いことが好ましい。
【0033】
(基板)
基板8は、光変調素子1を形成するための土台である。基板8は、少なくとも表層が絶縁性の公知の基板材料が適用でき、具体的には、表面に熱酸化膜を形成されたSi(シリコン)基板、SiO
2(酸化ケイ素、ガラス)等を適用することができる。
【0034】
(絶縁
部材)
絶縁部材6は、空間光変調器10において、磁性層3,3間、下部電極5,5間、導線7,7間、ならびに下部電極5と導線7の層間に設けられる。絶縁部材6は、例えばSiO
2,Si
3N
4,Al
2O
3,MgO等の公知の絶縁材料からなり、また空間光変調器10の全体で同じ材料を適用されなくてもよい。また、絶縁部材6は、光変調素子1の絶縁層2と一体に形成されてもよい。
【0035】
(駆動装置)
図2に示すように、Xデコーダ92は、選択した光変調素子1の列の磁性層3を挟む2本の導線7,7を電流回路94に内蔵された電流源95に接続して、これら隣り合う2本の導線7,7に電流が通電されるようにする。Yデコーダ93は、選択した光変調素子1の行の下部電極5を電源97の正極に接続して、この下部電極5と上部電極4との間、すなわち選択した光変調素子1の行の各磁性層3に電圧が上向きに印加されるようにする。電流回路94は、電流源95および電流可変回路96を内蔵し、選択された光変調素子1の列の2本の導線7,7に互いに反対方向の電流を、生成される磁界の向き(上向きまたは下向き)に応じた向きで電流源95から供給する。なお、Xデコーダ92、Yデコーダ93、および電流回路94のこれらの動作は、画像データに基づいて、制御回路91からの命令により行われる。
【0036】
(光変調素子の変形例)
光変調素子1は、絶縁層2が異なる絶縁材料で2層以上に形成されてもよく、この場合は、前記のMgO,Al
2O
3,HfO
2を磁性層3(磁性金属膜31)との界面に設けることが好ましい。特に、後記第2実施形態のように、絶縁層2が十分に厚く形成される場合は、下側(下部電極5の側)にSi窒化物(Si
3N
4)等の高屈折率材料を備えて、磁性層3の下面と下部電極5の上面との間で光を多重反射させ、磁性層3によるカー回転角を累積させて光変調度を大きくすることができる。また、光変調素子1は、磁性層3と上部電極4との間にも絶縁層を備えてもよい(図示せず)。
【0037】
また、磁性層3として、Co膜にPt膜またはPd膜を積層した2層膜を適用することもできる。垂直磁気異方性材料として、Co膜とPt膜等とを交互に繰り返し積層した多層膜が知られているが、本発明においては、2層膜とすることで、電圧印加により磁化方向を変化させる。この場合、絶縁層2の側にCo膜を設ける。Co膜は前記した通り、厚膜化すると電圧印加の効果が低下するため、1原子から2、3原子相当の厚さである0.1〜0.5nmが好ましい。Pt膜、Pd膜も厚膜化すると、Co膜の磁気異方性の影響が低下するため、0.1〜1.0nmが好ましい。
【0038】
(空間光変調器の駆動方法)
本実施形態に係る空間光変調器の駆動方法として、
図4、
図5、および適宜
図1,2を参照して、選択した1列に配列された光変調素子の磁性層の磁化方向を所望の向きにする方法を説明する。なお、
図4においては、磁性層3にハッチングを付さずに磁化方向を黒塗り矢印で表し、また、絶縁部材6および基板8は図示省略する。また、
図5は、
図4(a)の選択された光変調素子1の磁性層3および導線7,7のみを示す。
【0039】
図4(a)における中央の1つの光変調素子1を含む1列がXデコーダ92により選択されると、この列の磁性層3を挟む2本の導線7,7に電流源95が接続され、まず、上向きの磁界を生成するために、
図4(a)において、左側(左から2本目)の導線7には奥から手前へ、右側(左から3本目)の導線7には手前から奥へ、同じ大きさの電流I
aが通電される。これらの導線7,7のそれぞれに流れる電流I
aにより生成された磁界H,Hが、選択された光変調素子1の列の各磁性層3において、合成された上向きの磁界H
totとして印加される。この磁界H
totは、大きさが磁性層3の保磁力Hc(電圧印加等の外部からの影響がない状態での保磁力)未満である(H
tot<Hc)。
【0040】
この選択された列を当該列に沿って
図4(b)に示す。この列において、磁性層3の磁化方向を上向きにする光変調素子1の行がYデコーダ93により選択されて、選択された各行(
図4(b)における両端の2つ)の下部電極5が電源97の正(+)極に接続され、既に電源97の負(−)極に接続されている上部電極4と前記下部電極5とに挟まれた磁性層3のそれぞれに上向きの電圧Vが印加される。すると、磁性層3(磁性金属膜31)において、絶縁層2との界面近傍に負(−)の電荷が蓄積され、これらの磁性層3は磁化容易軸が垂直から傾いて(
図4(a)参照)、垂直な磁化方向における見かけ上の保磁力がHcからHc´に低下して磁界H
tot未満になる(Hc´<H
tot)。その結果、そのうちの、磁界H
totが印加されている選択された列に配列された磁性層3の磁化方向が磁界H
totと同じ上向きを示す。このように、選択した列における所望の磁性層3が上向きの磁化方向となった(磁化反転した)後、Yデコーダ93が下部電極5と電源97との接続を解除して電圧Vの印加を停止する。電圧Vの印加が停止されると、磁性層3の保磁力がHcに回復する。なお、電圧Vを印加されているときに磁界H
totが印加されていない磁性層3(
図4(a)における両端の2つ)は、電圧Vの印加停止による保磁力の回復と共に、その保磁力Hcにより元の磁化方向に戻る。
【0041】
次に、同じ2本の導線7,7にそれぞれ前記とは逆方向に電流I
aを通電して、選択された光変調素子1の列の磁性層3に下向きの磁界H
totを印加させる。さらに、前記の上向きの磁界H
totを印加した時に非選択であった光変調素子1の行がYデコーダ93により選択されて、選択された各行における下部電極5が電源97の正極に接続され、選択された各行の光変調素子1のそれぞれの磁性層3に電圧Vが印加されて保磁力がHc´に低下する。その結果、そのうちの選択された列の光変調素子1の磁性層3の磁化方向が磁界H
totと同じ下向きを示し、選択した列におけるすべての光変調素子1のそれぞれの磁性層3が所望の磁化方向となる。そして、Xデコーダ92により新たな1列を選択して、同様に、この列の光変調素子1のそれぞれの磁性層3を所望の磁化方向にする。
【0042】
なお、電圧Vの極性は、磁性層3(磁性金属膜31)の材料によって決定されると考えられる。また、電圧Vが大きいほど、磁性層3の保磁力がある値(Hc
min´)までは小さくなる。電圧Vの大きさ(下部電極5−上部電極4間の電位差)は、磁性層3と下部電極5との間隔が長い(絶縁層2が厚い)、すなわち抵抗が高いほど大きく設定される。磁性層3の上下面間の電位差が100mV未満で磁化方向を変化させることができるとされるため(非特許文献1)、電極4,5から印加する電圧は、主に絶縁層2の抵抗に比例し、厚さや材料によって0.1V程度から200Vもの値に設定される。光変調素子1が電流の流れる態様、すなわち絶縁層2が薄い場合は、絶縁層2が絶縁破壊されないように、絶縁層2の厚さに応じて電圧の大きさを設定する。一方、絶縁層2が厚い場合は、印加電圧が極めて大きくても、厚い絶縁層2により光変調素子1に電流が流れないので、特に省電力化の効果が高い。
【0043】
また、1本の導線7に通電する電流I
aによって磁性層3に印加される磁界Hは、
図5に示すように、導線7から磁性層3までの距離:rとすると、下式(1)で表される(式中、a,h:導線7から磁性層3までのX方向長および高さ方向長)。一方、両側の2本の導線7,7のそれぞれに通電する電流I
aによって生成した磁界H,Hが合成された垂直な磁界H
totは、下式(2)で表される(式中、θ:導線7,7の並び方向(X方向)と一方の導線7、磁性層3の並び方向とがなす角)。
H=I
a/2πr=I
a/2π√(a
2+h
2) ・・・(1)
H
tot=2cosθ×H=2a/r×H=I
a×a/π(a
2+h
2) ・・・(2)
【0044】
ここで、
図4(a)および
図5に示すように、磁界Hは導線7を軸に回転する向きであるため、選択された光変調素子1の列だけでなくその隣の光変調素子1の列(
図4(a)における両端の2つ)の磁性層3にも、磁界Hが左右反転した向きに印加されている。この磁界Hは、垂直方向(上向き)における大きさが(cosθ×H)である。そして、電圧Vを印加すると、この非選択の列においても、上部電極4および下部電極5を共有しているので、選択した行の光変調素子1の磁性層3の保磁力がHc´に低下する。したがって、選択した列の隣の列の光変調素子1の磁性層3が追随して磁化反転しないように、Hcosθ<Hc´を満足する磁界Hを生成させる。さらに前記したようにHc´<H
tot<Hcであるから、Hcosθ<Hc´<H
tot<Hcを満足するように、磁性層3の保磁力Hc、磁性層3と導線7との間の高さ方向における距離h、および導線7,7間の距離2a(=光変調素子1(画素)のX方向のピッチ)に応じて、印加電圧Vおよび電流I
aのそれぞれの大きさを設定する。具体的には、電流I
aを抑制するために、磁性層3と導線7との間の高さ方向における距離hがより短いことが好ましい。また、電圧Vの印加による磁性層3の保磁力の低下量(Hc−Hc´)を大きくするために、磁性層3の保磁力がより最小値(Hc
min´)に近くなる電圧Vに設定されることが好ましい。
【0045】
磁性層3への電圧Vの印加と磁界H
totの印加(導線7,7への電流I
aの通電)とについて、その開始および停止のそれぞれの先後は、同時でもよいし、電圧Vのみまたは磁界H
totのみが印加されている期間があってもよく、特に安定して動作させるために、電圧Vの印加を停止してから磁界H
totの印加を停止することが好ましい。また、電圧Vと磁界H
totの両方を印加されている期間が、磁性層3の磁化反転に要する時間以上であるように、制御回路91により制御される。
【0046】
前記の磁性層3への電圧Vの印加は、選択した列において同じ磁化方向とするすべての光変調素子1に対して同時に行ったが、1ずつあるいは2以上の任意の数(行)ずつ行ってもよい。また、選択した列におけるすべての光変調素子1の磁性層3に電圧Vを印加して同じ磁化方向に、例えば上向きに揃えた後、下向きとする光変調素子1(行)の磁性層3に電圧Vを印加してもよい。あるいは、Yデコーダ93により選択した光変調素子1の1行において、電圧Vを印加しながら磁界H
totを1つずつ印加することもできる。なお、2列以上の光変調素子1の磁性層3に同時に磁界H
totを印加することもできるが、空間光変調器10では、隣り合う2列の光変調素子1において、導線7の1本を共有するので、同じ向きの磁界H(H
tot)を生成することができない。また、1列おきの2列の光変調素子1の各磁性層3に同じ向きの磁界H
totを印加すると、同時にその間の1列の光変調素子1の磁性層3に逆向きに磁界H
totが印加される(
図8参照)。したがって、例えば隣り合う4列の光変調素子1を1セットとし、1つの行を選択して電圧Vを印加しながら、まず、1列目、5列目、9列目、・・・((4n−3)列目、n:自然数)を同時に選択して、それぞれ所望の向きに磁界H
totが印加されるように、各列における導線7,7に電流I
aを通電する。次に、2列目、6列目、10列目、・・・((4n−2)列目)を同時に選択して同様に磁界H
totを印加し、さらに(4n−1)列目、4n列目を順次選択して磁界H
totを印加することにより、電圧Vを印加されている1行におけるすべての光変調素子1のそれぞれの磁性層3を所望の磁化方向とすることができる。さらに、空間光変調器10のすべての光変調素子1の磁性層3を同じ磁化方向に揃える場合は、すべての行を選択してすべての光変調素子1の磁性層3に電圧Vを印加しながら、前記の4列を1セットとした磁界印加を行えばよい。
【0047】
(空間光変調器の光変調動作)
第1実施形態に係る空間光変調器の光変調動作を、
図6を参照して、この空間光変調器を用いた表示装置にて説明する。表示装置は、前記した従来の磁気光学式空間光変調器(特許文献1〜5参照)と同様の構成とすればよい。本実施形態に係る空間光変調器10は反射型であり、また、光変調素子1の磁性層3は垂直磁気異方性材料からなり磁化方向が上向きまたは下向きを示すため、表示装置は以下の構成とすることが好ましい。空間光変調器10の上方には、空間光変調器10に向けて光(レーザー光)を照射する光源等を備える光学系OPSと、光学系OPSから照射された光が空間光変調器10に入射される前に1つの偏光成分の光にする偏光子PFiと、この入射光が空間光変調器10で反射して出射した出射光から特定の偏光成分の光を遮光する偏光子(検光子)PFoと、が配置される。
【0048】
光学系OPSは、例えばレーザー光源、およびこれに光学的に接続されてレーザー光を空間光変調器10の全面に照射する大きさに拡大するビーム拡大器、さらに拡大されたレーザー光を平行光にするレンズで構成される(図示省略)。偏光子PFi,PFoはそれぞれ偏光板等であり、特定の1つの偏光成分の光を完全に遮光する。光学系OPSから照射されたレーザー光は様々な偏光成分を含んでいるため、この光を空間光変調器10の手前の偏光子PFiを透過させて、1つの偏光成分の光にし、この光が入射光L
0になる。
【0049】
空間光変調器10のすべての光変調素子1は、前記した駆動方法により画像データに基づいて、磁性層3がそれぞれ上向きまたは下向きの磁化方向とされている(
図6に示す3つの光変調素子1,1,1においては左から、それぞれ下向き、上向き、下向き)。空間光変調器10に入射した入射光L
0は、上部電極4を透過して、これらの磁性層3のそれぞれに入射すると、当該磁性層3またはその下の下部電極5で反射して再び上部電極4を透過して出射する。空間光変調器10から出射した光(出射光L
1,L
2,L
3)は、偏光子PFoに入射する。
【0050】
磁性層3の磁化方向が上向きの光変調素子1から出射した出射光L
2は、磁性層3の磁気光学効果により+θkの角度で旋光した光であり、磁性層3の磁化方向が下向きの光変調素子1から出射した出射光L
1,L
3は、−θkの角度で旋光した光である。偏光子PFoは、入射光L
0に対して−θkの角度で旋光した光を完全に遮光するように配置されているため、出射光L
1,L
3を遮光して出射光L
2のみを透過させる。したがって、磁性層3の磁化方向が下向きの光変調素子1から出射した出射光L
1,L
3はスクリーン等の画像表示手段(図示省略)に到達せず、暗状態(黒)で表示され、磁性層3の磁化方向が上向きの光変調素子1から出射した出射光L
2は明状態(白)で表示される。
【0051】
また、
図6においては、入射光L
0と出射光L
1,L
2,L
3との経路が異なるように入射光L
0の入射角を傾斜させて示しているが、入射角が大きいほど極カー効果が低下するため、30°以内とすることが好ましく、膜面に垂直に入射、すなわち入射角を0°にすることが最も好ましい。入射角を0°にする場合は、入射光と出射光の光路が一致するため、例えば入射側の偏光子PFiと空間光変調器10との間にハーフミラーを配置して、出射光のみを側方へ反射させてもよく、反射させた先に出射側の偏光子PFoを配置する(図示せず)。
【0052】
第1実施形態に係る空間光変調器10は、下部電極5を上部電極4と同様に透明電極材料で形成し、また基板8を透明基板として、透過型の空間光変調器とすることもできる。この場合には、出射光が遮られないように、導線7の幅(X方向長)が、隣り合う光変調素子1,1の磁性層3,3の間隙の長さ以下に形成されることが好ましい。
【0053】
以上のように、本発明の第1実施形態に係る空間光変調器によれば、消費電流の増大を伴わない電圧の印加により、小さな印加磁界で光変調素子の磁性層を磁化反転させることができ、漏れ磁界による誤動作がし難くなり、また、磁界を生成する電流を低減することができる。また、配列した光変調素子の行毎に電圧を印加するように構成したことにより、磁界を光変調素子の列毎に印加しても所望の画素のみを磁化反転させることができ、磁界を生成する電流の経路となる導線を一方向に延設すればよく、簡易な構造となって、画素を微細化し易い。
【0054】
〔第2実施形態〕
第1実施形態に係る空間光変調器は、2次元配列した光変調素子の全面に設けた上部電極と行毎に設けた帯状の下部電極とにより、光変調素子の行毎にその磁性層に電圧を印加するが、透明電極からなる上部電極も帯状に形成して、下部電極と同様に選択されたもののみが電源に接続されてもよい。さらに、上部電極と下部電極をそれぞれ列毎と行毎に延設することにより、画素毎に電圧を印加することができ、いっそう誤動作し難くなる。以下、本発明の第2実施形態に係る空間光変調器について説明する。第1実施形態(
図1〜6参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0055】
本発明の第2実施形態に係る空間光変調器10Aは、第1実施形態と同様に磁界印加方式の反射型空間光変調器であり、
図7に示すように、基板8、およびその上に2次元配列された光変調素子1Aを備える。光変調素子1Aの構成は
図3に示す第1実施形態における光変調素子1と概ね同様であるが、側面視(断面図)において、導線7が下部電極5Aの上方に、すなわち磁性層3と下部電極5Aの間に設けられる。そのため、絶縁層2が導線7の厚さよりも厚く形成されている(
図8参照)。なお、
図7においては、絶縁層2は、絶縁部材6と共に空白で表す。したがって、空間光変調器10Aは、基板8上に、下から、下部電極5A、絶縁層2、磁性層3、上部電極4A、の順に配置され、さらに下部電極5Aと磁性層3の間に、絶縁部材6、導線7、絶縁部材6の順に配置されている。また、空間光変調器10Aにおいて、上部電極4Aは、第1実施形態に係る空間光変調器10における下部電極5と同様に光変調素子1Aの行毎に設けられ、X方向に延設された帯状に形成される。これに対して下部電極5Aは、光変調素子1Aの列毎に設けられ、Y方向に延設された帯状に形成されて、導線7と平行に設けられている。すなわち、下部電極5Aは、第1実施形態に対して平面視で90°延設方向が異なり、また、前記したように導線7と上下の配置が入れ替わっている。また、空間光変調器10Aにおいては、短絡しないように、導線7と下部電極5Aとの間隔と共に、導線7と磁性層3との間隔も離間させ、特に絶縁層2が厚いために電極4A,5A間の電圧が大きいので、これに応じた距離をそれぞれ空ける。一方、本実施形態に係る空間光変調器10Aは、導線7が磁性層3の近傍に設けられているので、通電させる電流を低減することができ、導線7を狭幅化することができる。空間光変調器10Aにおいて、このような形状および配置以外の材料等は、第1実施形態に係る空間光変調器10と同様の構成とすることができる。
【0056】
空間光変調器10Aの駆動装置は、
図2に示す第1実施形態と同様の構成とすることができる。ただし、Yデコーダ93は、選択した光変調素子1Aの行の上部電極4Aを電源97の負極に接続する。一方、Xデコーダ92は、選択した光変調素子1の列の2本の導線7,7を電流源95に接続すると共に、この光変調素子1Aの列の下部電極5Aを電源97の正極に接続する。
【0057】
(空間光変調器の駆動方法)
第2実施形態に係る空間光変調器の駆動方法を説明する。
光変調素子1Aの1つの列がXデコーダ92により選択されると、この列の磁性層3を挟む2本の導線7,7に電流源95が接続され、さらにこの列の光変調素子1Aの下部電極5Aが電源97の正(+)極に接続される。そして、例えば上向きの磁界を生成するために、第1実施形態(
図4(a)参照)と同様に、左側の導線7には奥から手前へ、右側の導線7には手前から奥へ、同じ大きさの電流I
aが通電される。これらの導線7,7のそれぞれに流れる電流I
aにより生成された磁界H,Hが、選択された光変調素子1Aの列の各磁性層3において、合成された上向きの磁界H
tot(H
tot<Hc)として印加される。
【0058】
この選択された列において、磁性層3の磁化方向を上向きにする光変調素子1Aの行がYデコーダ93により選択されて、選択された各行の光変調素子1Aの上部電極4Aが電源97の負(−)極に接続され、Xデコーダ92により電源97の正極に接続されている下部電極5Aと前記上部電極4Aとに挟まれた磁性層3のそれぞれに上向きの電圧Vが印加される。これらの磁性層3は保磁力がHcからHc´に低下して磁界H
tot未満になる(Hc´<H
tot)ため、磁化方向が磁界H
totと同じ上向きを示す。このように、選択した列における所望の光変調素子1Aの磁性層3が上向きの磁化方向となった(磁化反転した)後、Yデコーダ93が上部電極4Aと電源97との接続を解除して電圧Vの印加を停止する。
【0059】
次に、同じ2本の導線7,7にそれぞれ前記とは逆方向に電流I
aを通電して、選択された光変調素子1Aの列の磁性層3に下向きの磁界H
totを印加させる。さらに、前記の上向きの磁界H
totを印加した時に非選択であった光変調素子1Aの行がYデコーダ93により選択されて、選択された各行における上部電極4Aが電源97の負極に接続され、選択された各行の光変調素子1Aのそれぞれの磁性層3に電圧Vが印加されて保磁力がHc´に低下する。その結果、そのうちの選択された列の光変調素子1Aの磁性層3の磁化方向が磁界H
totと同じ下向きを示し、第1実施形態と同様、選択した列におけるすべての光変調素子1Aのそれぞれの磁性層3が所望の磁化方向となる。そして、Xデコーダ92により新たな1列を選択して、同様に、この列の光変調素子1Aのそれぞれの磁性層3を所望の磁化方向にする。
【0060】
本実施形態に係る空間光変調器10Aにおいては、選択された光変調素子1Aの1列以外には磁性層3に電圧Vが印加されないので、隣の非選択の列の光変調素子1Aの磁性層3が保磁力Hcを維持し、逆向きの磁界Hで反転する虞がなく、いっそう誤動作し難い。したがって、1本の導線7に通電する電流I
aで生成する磁界Hの垂直方向における大きさ(cosθ×H)が、Hc´未満でなくてもよい。ただし、Hcosθ≦H
tot<Hcを満足するように設定する(θ:導線7,7の並び方向(X方向)と一方の導線7、磁性層3の並び方向とがなす角(
図5参照))。さらに、空間光変調器10Aは、前記したように、導線7が磁性層3の近傍に設けられているので、通電させる電流I
aを低減することができる。また、第1実施形態に係る空間光変調器10と異なり、1列おきの2列の光変調素子1Aを選択することができる。以下、
図8を参照して、1列おきの2列の光変調素子を選択して、その磁化方向を所望の向きにする方法を説明する。なお、
図8においては、磁性層3にハッチングを付さずに磁化方向を黒塗り矢印で表し、また、絶縁部材6および基板8は図示省略する。
【0061】
図8における両端の2つの光変調素子1A,1Aの各列がXデコーダ92により選択されると、これらの2列をそれぞれ挟む導線7、すなわち隣り合う4本の導線7に電流源95が接続され、また、これらの2列に対向する下部電極5Aが電源97の正(+)極に接続される。そして、選択された2列の磁性層3にそれぞれ上向きの磁界H
totを生成するために、左から1、3本目の導線7,7には奥から手前へ、2、4本目の導線7,7には手前から奥へ、同じ大きさの電流I
aが通電される。その結果、選択された光変調素子1Aの2列の磁性層3においては、合成された上向きの磁界H
totが印加されると同時にこれらの列の間の中央の光変調素子1の列の磁性層3においては同じ大きさで逆向き(下向き)の磁界H
totが印加される。
【0062】
この状態で、
図8に示す光変調素子1Aの行がYデコーダ93により選択されて、選択された各行の上部電極4Aが電源97の負極に接続されると、両端の2つの光変調素子1A,1Aの磁性層3,3に電圧Vが印加される。その結果、これらの磁性層3,3は、保磁力がHcからHc´に低下して、磁化方向が磁界H
totと同じ上向きを示す。一方、中央の光変調素子1Aの磁性層3は、電圧Vが印加されていないので保磁力Hcを維持し、印加されている磁界H
totの向きにかかわらず、磁化方向(
図8では上向き)が維持される。
【0063】
第2実施形態に係る空間光変調器10Aは、第1実施形態と同様に、下部電極5Aを透明電極材料で形成し、基板8を透明基板として、透過型の空間光変調器とすることもできる。また、空間光変調器10Aは、上部電極4Aと下部電極5Aとで延設方向を入れ替えて、下部電極5Aと導線7が直交してもよい。また、光変調素子1Aは、第1実施形態と同様に、導線7が下部電極5Aの下方に設けられてもよい。あるいは光変調素子1Aは、導線7が隣り合う光変調素子1A,1Aの磁性層3,3の間隙に対して十分に幅狭に形成されて下部電極5Aとの間隔が十分に空けられるのであれば、導線7と下部電極5Aとが同じまたは重複する高さ(厚さ方向)位置に設けられてもよい。
【0064】
以上のように、本発明の第2実施形態に係る空間光変調器によれば、第1実施形態と同様に消費電流の増大を伴わない電圧の印加により、磁界を生成する電流を低減することができ、また、簡易な構造とすることができる。さらに、第2実施形態に係る空間光変調器によれば、電圧を画素毎に印加するように構成したことにより、選択した画素の隣の非選択の画素の光変調素子の磁性層が追随して磁化反転することを防止することができ、画素をいっそう微細化し易い。
【0065】
〔第3実施形態〕
第2実施形態に係る空間光変調器は、電圧印加手段である一対の電極が行毎と列毎に互いに直交して延設されているので、前記一対の電極が二方向の駆動ラインを構成する。したがって、磁界印加手段が駆動ラインの一部(一方向)を構成しなくても、画素毎に駆動することができることになる。以下、本発明の第3実施形態に係る空間光変調器について説明する。第1、第2実施形態(
図1〜8参照)と同一の要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0066】
本発明の第3実施形態に係る空間光変調器10Bは、第1、第2実施形態と同様に磁界印加方式の反射型空間光変調器であり、
図9に示すように、基板8、およびその上に2次元配列された光変調素子1Bを備える。ただし、空間光変調器10Bにおいては、導線(磁界印加手段)7Aは、すべての光変調素子1Bで共有して設けられ、2次元配列された光変調素子1Bの全体を内包するコイル状に形成されている。したがって、空間光変調器10Bは、基板8上に、下から、下部電極5A、絶縁層2、磁性層3、上部電極4A、の順に配置された、
図7に示す第2実施形態に係る空間光変調器10Aから導線7を除いた構成に、さらに電極間等に絶縁部材6(
図6参照、
図9においては空白で表す)を備える。空間光変調器10Bにおいて、このような形状および配置以外の材料等、ならびに導線7Aを除いて、第1、第2実施形態に係る空間光変調器10,10Aと同様の構成とすることができる。
【0067】
導線7Aは、すべての光変調素子1Bにおける共通の磁界印加手段であり、所定の大きさの電流を向きを入れ替えて通電させることにより、均一な大きさの磁界HAを向きを上向きと下向きとに切り替えて印加するものである。また、導線7Aは、光変調素子1Bへの光の入出射を遮らない構造とする。
図9においては、簡略化して、導線7Aが4周巻き回されたソレノイドコイルで表されるが、例えば外形が円筒形状の枠体に収容されていたり、芯(ヨーク)を備えた電磁石であってもよい(図示省略)。
【0068】
空間光変調器10Bの駆動装置は、第2実施形態と同様に、Yデコーダ93が、選択した光変調素子1Bの行の上部電極4Aを電源97の負極に接続し、Xデコーダ92が、選択した光変調素子1Bの列の下部電極5Aを電源97の正極に接続する。一方、1つ設けられた導線7Aは、両端に電流源95が接続され、電流可変回路96によって通電する電流の向きのみが制御される(
図2参照)。
【0069】
(空間光変調器の駆動方法)
第3実施形態に係る空間光変調器の駆動方法を説明する。
空間光変調器10Bにおいては、導線7Aに通電する電流によりすべての光変調素子1Bの磁性層3に共通の磁界が印加されるため、まず、これらすべての光変調素子1Bの磁性層3を例えば上向きの磁化方向に揃える。詳しくは、導線7Aに所定の大きさの電流を通電して、磁界HAを上向きに印加する。そして、すべての電極4A,5Aを電源97に接続して、上向きの電圧Vを印加して磁性層3の保磁力をHcからHA未満のHc´(Hc´<HA<Hc)に低減させ、磁化方向を上向きにする。磁性層3の磁化方向が上向きに揃えられたら、電極4A,5Aと電源97との接続を解除して電圧Vの印加を停止し、さらに電流源95の電流供給を停止して磁界の印加を停止する。
【0070】
次に、導線7Aへの電流源95の接続の極性を入れ替えて、電流を逆向きに通電して、磁界HAを下向きに印加する。そして、光変調素子1Bの1つの列がXデコーダ92により選択されると、この列の光変調素子1Bの下部電極5Aが電源97の正(+)極に接続される。この選択された列において、磁性層3の磁化方向を下向きにする光変調素子1Bの行がYデコーダ93により選択されて、選択された各行の光変調素子1Bの上部電極4Aが電源97の負(−)極に接続され、電源97の正極に接続されている下部電極5Aと前記上部電極4Aとに挟まれた磁性層3のそれぞれに上向きの電圧Vが印加される。これらの磁性層3は保磁力がHcからHc´に低下して磁界HA未満になるため、磁化方向が反転して磁界HAと同じ下向きを示す。その結果、選択した列におけるすべての光変調素子1Bのそれぞれの磁性層3が所望の磁化方向となる。そして、Xデコーダ92により新たな1列を選択して、この列においても同様に、所望の光変調素子1Bの磁性層3を下向きに磁化反転させる。
【0071】
このように、本実施形態に係る空間光変調器の駆動方法は、列毎の駆動については第2実施形態と概ね同様である。なお、最初にすべての光変調素子1Bの磁性層3の磁化方向を上向き(または下向き)に揃える工程においては、電圧Vを印加せずに、導線7Aに通電する電流を大きくして、磁性層3の保磁力Hcよりも大きな磁界を印加してもよい。
【0072】
第3実施形態に係る空間光変調器10Bは、第1、第2実施形態と同様に、下部電極5Aを透明電極材料で形成し、基板8を透明基板として、透過型の空間光変調器とすることもできる。この場合には、導線(磁界印加手段)7Aについて、光変調素子1Bの上下両側について、光を遮るヨーク等を設けない構成とする。
【0073】
以上のように、本発明の第3実施形態に係る空間光変調器によれば、第2実施形態と同様に電圧を画素毎に印加するように構成したことにより、選択した画素の隣の非選択の画素の光変調素子の磁性層が追随して磁化反転することを防止することができ、さらに磁界印加手段である導線を光変調素子の列毎に設けていないので、画素をいっそう微細化し易い。また、前記磁界印加手段が2次元配列した光変調素子の外側に設けられるため、磁界を生成する電流を低減する構成とし易く、消費電流の増大を伴わない電圧の印加と併せて省電力化することができる。
【0074】
以上、本発明の空間光変調器を実施するための各実施形態について述べてきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0075】
本発明の効果を確認するために、本発明に係る
空間光変調器の光変調素子のサンプルを作製した。サンプルは、Co−Feからなる膜(磁性金属膜)およびGd−Feからなる層を備えた垂直磁気異方性の磁性層(
図3参照)における磁化方向の変化を、抵抗の測定によって確認するために、前記磁性層を磁化自由層、絶縁層を障壁層とするTMR素子を模擬した。詳しくは、熱酸化Si基板に、表1に示すように、Cu膜で下部電極を形成した上に、下地膜から保護膜までの材料を下から順にイオンビームスパッタリング法にて連続して成膜して積層し、さらにその上にCu膜で上部電極を形成し、フォトリソグラフィで0.5μm×0.5μmの矩形に加工してサンプルとした。なお、GdFe層(Gd−Feからなる層)の組成は、Gd:20at%、Fe:80at%とした。
【0076】
【表1】
【0077】
作製したサンプルに、初期化磁界+5kOeを印加して、磁化固定層および磁性層(磁化自由層)の磁化方向を上向きに揃えた。そして、上下電極から定電圧を印加し、初期化磁界と反対方向の磁界H(<0)をその大きさ(絶対値)を漸増させながら印加して、電流値の変化を観察することにより、磁性層の磁化方向が下向きに反転して上下電極間の抵抗が変化(上昇)する磁界Hを測定し、保磁力Hcとした。同様の測定を、印加する定電圧の大きさ(絶対値)および向き(+,−)を変化させて行った。なお、定電圧の大きさ(絶対値)は、絶縁層(MgO膜)が絶縁破壊しない360mVまでとした。保磁力Hcの印加電圧依存性のグラフを
図10に示す。なお、本実施例において、印加電圧は、下部電極が「+」、上部電極が「−」において、正の値で表す。
【0078】
図10に示すように、下部電極を「+」として、すなわち磁性層の側を「−」にして電圧を印加すると、印加電圧を大きくするほど、保磁力Hcが減少した。これは、磁性層の垂直磁気異方性が弱くなって面内磁気異方性の傾向を示すようになったために、磁性層の垂直方向の保磁力Hcが低下したことを表す。反対に、上部電極を「+」として、すなわち磁性層の側を「+」にして電圧を印加すると、−200mVまでは保磁力Hcが増大し、さらに印加電圧(絶対値)を大きくすると減少に転じた。このように磁性層の側を「+」にして電圧を印加したときに保磁力Hcが増大するのは、磁性層(磁性金属膜)の垂直磁気異方性が増強されるためと推測される。また、印加電圧が−200mVを超える(絶対値で200mV超)と保磁力Hcが減少に転じたのは、大きな電圧が印加されてジュール熱が発生し、熱による影響を受け易いGdFe層の保磁力が低下したことによると推測される。磁性層の側を「−」にした場合に、+200mVを超えると保磁力Hcの減少が急峻になるのも同様である。
【0079】
以上のことから、本発明に係る
空間光変調器の光変調素子は、極性を固定して電圧を印加することにより、垂直磁気異方性を有する磁性層の磁化方向を膜面方向へ変化させて、垂直方向における保磁力を低減させることができ、その結果、より小さな外部磁界で磁化反転させることができることが確認された。