特許第6581606号(P6581606)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6581606選択的グルカゴン受容体アゴニストとしてのエキセンジン−4誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6581606
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】選択的グルカゴン受容体アゴニストとしてのエキセンジン−4誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/605 20060101AFI20190912BHJP
   A61K 38/26 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20190912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190912BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C07K14/605ZNA
   A61K38/26
   A61P3/08
   A61P3/10
   A61P39/02
   A61P1/00
   A61P43/00 111
   A61P43/00 121
   A61K45/00
【請求項の数】25
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-573789(P2016-573789)
(86)(22)【出願日】2015年6月17日
(65)【公表番号】特表2017-523147(P2017-523147A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(86)【国際出願番号】EP2015063607
(87)【国際公開番号】WO2015193381
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2018年6月4日
(31)【優先権主張番号】14305935.0
(32)【優先日】2014年6月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トシュテン・ハーク
(72)【発明者】
【氏名】ジークフリート・シュテンゲリン
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・エヴァース
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・ワーグナー
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ヘンケル
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−538360(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/023050(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/009545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
Tza−Ser−Gln−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−X10−Ser−Lys−Gln−X14−Glu−Ser−Arg−Arg−Ala−Gln−X21−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Leu−Ala−X29−Gly−Pro−Glu−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−R1
(I)
を有するペプチド化合物であって、
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、Phe、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
R1は、OHまたはNH2を表す
前記ペプチド化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
C末端基R1はOHである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
X10は、Leuを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
R1は、OHを表す
請求項1または2のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項4】
X10は、Tyrを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、Gluを表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項5】
X10は、1−ナフチルアラニンを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、Thrを表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項6】
X10は、シクロヘキシルグリシンを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、Thrを表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項7】
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニンおよびシクロヘキシルグリシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、Leuを表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項8】
X10は、Tyr、Leu、Ile、Phe、1−ナフチルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、Nleを表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、Thrを表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項9】
X10は、Leu、Phe、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニンおよびシクロヘキシルグリシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、Aspを表し、
X29は、Thrを表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項10】
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、Gluを表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜9のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項11】
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、Phe、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、Thrを表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜10のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項12】
X10は、Tyr、LeuおよびValから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、Leuを表し、
X21は、Gluを表し、
X29は、Glyを表し、
R1は、OHを表す
請求項1〜11のいずれか1項に記載の化合物、
またはその塩もしくは溶媒和物。
【請求項13】
配列番号3〜25の化合物、およびそれらの塩または溶媒和物から選択される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
配列番号3、5、6、9、15、20、23、24および25の化合物、ならびにそれらの塩または溶媒和物から選択される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項15】
医薬、具体的にはヒトに対する医薬に使用するための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体とともに、医薬組成物中に活性な薬剤として存在する、請求項15に記載の使用のための化合物。
【請求項17】
少なくとも1つのさらなる治療上活性な薬剤と一緒である、請求項15または16に記載の使用のための化合物であって、さらなる治療上活性な該薬剤は、一連のインスリンおよびインスリン誘導体、GLP−1、GLP−1アナログおよびGLP−1受容体アゴニスト、デュアルGLP1/グルカゴン受容体アゴニスト、デュアルGLP1/GIP受容体アゴニスト、PYY3−36またはそのアナログ、膵臓ポリペプチドまたはそのアナログ、グルカゴン受容体アゴニスト、GIP受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト、グレリンアンタゴニストもしくはインバースアゴニスト、キセニンおよびそのアナログ、DPP−4阻害剤、SGLT2阻害剤、ビグアニド、チアゾリジンジオン、デュアルPPARアゴニスト、スルホニル尿素、メグリチニド、α−グルコシダーゼ阻害剤、アミリンおよびアミリンアナログ、GPR119アゴニスト、シクロセット、11−β−HSD阻害
剤、グルコキナーゼ活性化剤、DGAT阻害剤、タンパク質チロシンホスファターゼ1阻害剤、グルコース−6−ホスファターゼ阻害剤、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ阻害剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ阻害剤、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ阻害剤、α2−アンタゴニスト、CCR−2アンタゴニスト、HMG−CoA−レダクターゼ阻害剤、フィブラート、ニコチン酸およびその誘導体、PPAR−(α、γまたはα/γ)アゴニストまたは修飾薬、PPAR−δアゴニスト、ACAT阻害剤、コレステロール吸収阻害剤、胆汁酸結合物質、IBAT阻害剤、MTP阻害剤、PCSK9修飾薬、HDL増加化合物、ABC調節薬、肥満治療用の活性物質、例えばシブトラミン、テソフェンシン、オルリスタット、CB−1受容体アンタゴニスト、MCH−1アンタゴニスト、MC4受容体アゴニスト、NPY5もしくはNPY2アンタゴニスト、NPY4アゴニスト、β−3−アゴニスト、レプチンまたはレプチン模倣物質、5HT2c受容体アゴニスト、またはブプロピオン/ナルトレキソン(コントレイブ)、ブプロピオン/ゾニサミド(エンパチック(EMPATIC))、ブプロピオン/フェンテルミン、もしくはプラムリンチド/メトレレプチンの組み合わせなど、高血圧、慢性心不全またはアテローム性動脈硬化に影響を及ぼす薬物、例えばアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、ACE阻害剤、ECE阻害剤、利尿薬、β遮断薬、カルシウムアンタゴニスト、中枢作用性昇圧薬、α−2−アドレナリン受容体アンタゴニスト、中性エンドペプチダーゼ阻害剤、血小板凝集阻害剤などから選択される、使用のための化合物。
【請求項18】
低血糖を治療し、血糖値を増加させるため、またはインスリンを伴う補助療法としての、請求項15〜17のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項19】
体重を減少させ、維持するため、β遮断薬およびカルシウムチャネル遮断薬の中毒に対する解毒剤として、ならびに放射線用途のために消化管系の一時的な弛緩を誘起するための、請求項15〜17のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項20】
低血糖、2型糖尿病を治療または予防するため、および前糖尿病から2型糖尿病への進行を遅延させるための、請求項15〜17のいずれか1項に記載の使用のための化合物。
【請求項21】
医薬組成物であって、請求項1〜14のいずれか1項に記載の少なくとも1つの化合物、またはそれらのいずれかの、生理的に許容される塩または溶媒和物を含む、前記医薬組成物。
【請求項22】
患者の低血糖を治療するための医薬であって、請求項1〜14のいずれか1項に記載の、式Iの少なくとも1つの化合物有効量を含む、前記医薬
【請求項23】
患者の低血糖を治療するための医薬であって、請求項1〜14のいずれか1項に記載の、式Iの少なくとも1つの化合物の有効量、および低血糖の治療に有用な、少なくとも1つの他の化合物有効量を含む、前記医薬
【請求項24】
式Iの少なくとも1つの化合物の有効量、および少なくとも1つの他の化合物の有効量を、同時に、別々に、または連続的に投与する、請求項22または23に記載の医薬
【請求項25】
非経口的に投与される、請求項22〜24に記載の医薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン受容体を活性化するエキセンジン−4ペプチドアナログ、およびそれらの医薬としての使用、例えば重度の低血糖の治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エキセンジン−4は、アメリカドクトカゲ(Heloderma suspectum)の唾液腺で産生される、アミノ酸39個のペプチドである(非特許文献1)。エキセンジン−4は、グルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)受容体の活性化剤であるが、グルカゴン受容体を有意に活性化しない。
【0003】
エキセンジン−4のアミノ酸配列を配列番号1として示す。
HGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPS−NH
【0004】
グルカゴンは、循環しているグルコースが少ない場合に血流中に放出される、アミノ酸29個のペプチドである。グルカゴンのアミノ酸配列を配列番号2として示す。
HSQGTFTSDYSKYLDSRRAQDFVQWLMNT−OH
【0005】
低血糖の間、すなわち血糖値が通常未満に降下している時、グルカゴンは肝臓に、グリコーゲンを分解しグルコースを放出するよう信号を送り、通常レベルに達するように血糖値を増加させる。低血糖は、血糖値の上昇によりインスリンでの治療を受けている糖尿病患者における、一般的な副作用である。このように、グルコース調節におけるグルカゴンの最も主要な役割は、インスリンの作用に対抗し、血糖値を維持することである。
【0006】
グルカゴンは約7に等電点を有し、したがってpH範囲4〜8でのみ溶解しにくい(0.2mg/ml未満)。pH値3未満または9超では十分に溶解する(10mg/ml超)(非特許文献2)。結果として、現在利用可能な市販のグルカゴン溶液(GlucaGen(登録商標)HypoKit、グルカゴン救急救命キット)は酸性であり、グルカゴンが低pH溶液中では化学的および生物物理学的に不安定であるため使用前に新しく調製する必要がある(非特許文献3)。
【0007】
市販のキット溶液と比較して、増強された安定性を有するグルカゴン製剤の調製については、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8および特許文献9の特許出願に記載されており、これらの内容を参照によって本明細書に組み入れる。
【0008】
安定化されたグルカゴンアナログの製造については、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13および特許文献14の特許出願に記載されており、これらの内容を参照によって本明細書に組み入れる。
【0009】
合成ペプチドの1位に4−チアゾリルアラニンを使用することについては、GLP−1受容体アゴニストについての特許文献15に記載されている。反対に、本発明における4−チアゾリルアラニンは、驚くべきことに、1位に天然ヒスチジンを有するペプチド(天然グルカゴン)と比較して、GLP−1受容体における活性が低減した、高度に活性なグルカゴン受容体アゴニストをもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO9947160
【特許文献2】WO12059762
【特許文献3】US2011/0097386
【特許文献4】US2011/0237510
【特許文献5】US2011/049713
【特許文献6】WO12012460
【特許文献7】WO12122535
【特許文献8】US2012/0071817
【特許文献9】WO13101749
【特許文献10】WO14016300
【特許文献11】WO11049713
【特許文献12】WO07056362
【特許文献13】WO08086086
【特許文献14】WO09155257
【特許文献15】WO07140284
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Eng,J.ら、J.Biol.Chem.、267:7402〜05頁、1992
【非特許文献2】Bromer,W.W.、Handbook of Experimental Pharmacology、Vol66/1、1983頁
【非特許文献3】Joshi,A.B.ら、Int.J.Ph.Sci.、203、115〜125頁、2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
グルカゴン受容体を強力かつ選択的に活性化し、天然グルカゴンと比較して、中性pH付近でのより高い溶解性、および溶液中での増強された化学的安定性を示す、エキセンジン−4アナログが本明細書で提供される。化合物は全て、1位に人工アミノ酸4−チアゾリルアラニンを有する。これが、驚くべきことに、1位のみが異なる(Hisの代わりに1位にTza)同一の化合物を互いに比較した場合、GLP1受容体と対比して、グルカゴン受容体に対するより高い選択性をもたらす。したがって本発明は、高度に選択的なグルカゴン受容体アゴニストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、式(I):
Tza−Ser−Gln−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−X10−Ser−Lys−Gln−X14−Glu−Ser−Arg−Arg−Ala−Gln−X21−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Leu−Ala−X29−Gly−Pro−Glu−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser−R
(I)
を有するペプチド化合物であって、
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、Phe、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
は、OHまたはNHを表す、
ペプチド化合物、
またはそれらの塩もしくは溶媒和物
を提供する。
【0014】
本発明の化合物は、グルカゴン受容体に結合するとき細胞内cAMP形成を刺激することができるという観察により決定される、グルカゴン受容体アゴニストである。化合物は、グルカゴン受容体において、天然グルカゴンと比較して少なくとも相対活性0.1%、好ましくは0.5%、より好ましくは1.0%およびさらにより好ましくは10.0%を示す。
【0015】
本発明の化合物は、GLP1受容体に結合するとき細胞内cAMP形成を刺激することができるという観察により決定される通り、GLP1受容体も活性化する。本発明の所与の化合物の活性(GLP1受容体におけるGLP1の活性と比較したその活性で表される)は、グルカゴン受容体における同化合物の活性(グルカゴン受容体におけるグルカゴンの活性と比較した活性で表される)と比較して10%未満、より好ましくは5%未満、さらにより好ましくは2%未満である。
【0016】
驚くべきことに、1位に4−チアゾリルアラニンを有する式Iのペプチド化合物が、この位置にヒスチジンを有する誘導体と比較して、グルカゴン受容体活性化の増大およびGLP−1受容体における活性に対する選択性の増大を示すことが判明した。ヒスチジンはグルカゴンの1位に天然に存在するアミノ酸であり、グルカゴン受容体の活性化機構にとって重要であることが示されている(Unson,C.G.ら、Arch.Biochem.Biophys.、300、747〜750頁、1993)。
【0017】
さらに、本発明の化合物は、好ましくは酸性および/または生理的pH値、例えば、25℃、pH4.5および/またはpH7.4で、増強された溶解性、好ましくは少なくとも0.5mg/ml、より好ましくは少なくとも1.0mg/ml、さらにより好ましくは少なくとも10.0mg/mlを有する。
【0018】
さらに、本発明の化合物は、好ましくは、pH7.3の溶液中50℃で14日間保管された場合、高い安定性を有する(実施例に記載のクロマトグラフ分析により決定)。好ましくは、新たに形成される分解生成物が40%未満、より好ましくは30%未満、さらにより好ましくは20%未満である。
【0019】
一実施形態において、C末端基RはNHである。
【0020】
さらなる実施形態において、C末端基RはOHである。
【0021】
さらなる実施形態は、
X10はLeuを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0022】
さらなる実施形態は、
X10はTyrを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21はGluを表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0023】
さらなる実施形態は、
X10はValを表し、
X14はLeuを表し、
X21はGluを表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0024】
さらなる実施形態は、
X10はIleを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21はGluを表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0025】
さらなる実施形態は、
X10は1−ナフチルアラニンを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0026】
さらなる実施形態は、
X10は2−フルオロフェニルアラニンを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21はAspを表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0027】
さらなる実施形態は、
X10はシクロヘキシルグリシンを表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0028】
さらなる実施形態は、
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニンおよびシクロヘキシルグリシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14はLeuを表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0029】
さらなる実施形態は、
X10は、Tyr、Leu、Ile、Phe、1−ナフチルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14はNleを表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0030】
さらなる実施形態は、
X10は、Leu、Phe、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニンおよびシクロヘキシルグリシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21はAspを表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0031】
さらなる実施形態は、
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21はGluを表し、
X29は、GlyおよびThrから選択されるアミノ酸残基を表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0032】
さらなる実施形態は、
X10は、Tyr、Leu、Val、Ile、Phe、フェニルグリシン、1−ナフチルアラニン、2−フルオロフェニルアラニン、シクロヘキシルグリシンおよびtert−ロイシンから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14は、LeuおよびNleから選択されるアミノ酸残基を表し、
X21は、AspおよびGluから選択されるアミノ酸残基を表し、
X29はThrを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0033】
さらなる実施形態は、
X10は、Tyr、LeuおよびValから選択されるアミノ酸残基を表し、
X14はLeuを表し、
X21はGluを表し、
X29はGlyを表し、
はOHを表す、
化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物の群に関する。
【0034】
式(I)のペプチド化合物の特定の例は、配列番号3〜25の化合物、およびそれらの塩または溶媒和物である。
【0035】
式(I)のペプチド化合物の特定の例は、配列番号3、5、6、9、15、20、23、24および25の化合物、ならびにそれらの塩または溶媒和物である。
【0036】
特定の実施形態において、すなわち式(I)の化合物が遺伝的にコードされるアミノ酸残基を含む場合、本発明は、前記化合物をコードする核酸(DNAまたはRNAであってよい)、このような核酸を含む発現ベクター、およびこのような核酸または発現ベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、本発明の化合物を担体との混合物中に含む組成物を提供する。好ましい実施形態において、組成物は薬学的に許容される組成物であり、担体は薬学的に許容される担体である。本発明の化合物は、塩、例えば薬学的に許容される塩、または溶媒和物、例えば水和物の形態であってよい。さらなる態様において、本発明は、医療の方法において、具体的にはヒトに対する医療において使用するための組成物を提供する。
【0038】
特定の実施形態において、核酸または発現ベクターを、例えば遺伝子治療における治療薬剤として使用することができる。
【0039】
式(I)の化合物は、さらなる治療上有効な薬剤がなくとも、治療への適用に適している。しかし、その他の実施形態において、化合物は、「組み合わせ治療」に記載される通り、少なくとも1つのさらなる治療上活性な薬剤とともに使用される。
【0040】
本発明の化合物およびその製剤は、主に、低血糖を治療するため、血糖値を増加させるため、インスリンを伴う補助療法として使用するだけでなく、β遮断薬およびカルシウムチャネル遮断薬中毒に対する解毒剤として、体重を減少させ、維持するため、ならびに放射線用途のために消化管系の一時的な弛緩を誘起するためにも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】末端麻酔したラットにおける、GCGまたは配列番号5の皮下投与後の血糖の偏位(excursion)を示す図である。値は平均値±SEM、n=ラット6〜8匹である。
図2】末端麻酔したラットにおける、GCGまたは配列番号6の皮下投与後の血糖の偏位を示す図である。値は平均値±SEM、n=ラット6〜8匹である。
図3】イヌにおける、血糖に対し皮下の配列番号5およびヒトグルカゴンが及ぼす効果を示す図である。
図4】イヌにおける、血糖に対し皮下および筋肉内の配列番号5が及ぼす効果を示す図である。
図5】イヌにおける、血糖に対し皮下の配列番号5対配列番号6が及ぼす効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
定義
本発明のアミノ酸配列は、天然に存在するアミノ酸については従来の1文字および3文字記号、Nle(ノルロイシン)などのその他のアミノ酸については一般的に許容される3文字記号を含む。
【0043】
さらに、以下の記号を表1に示すアミノ酸について使用した:
【0044】
【表1】
【0045】
「天然のエキセンジン−4」という用語は、配列HGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPS−NH(配列番号1)を有する天然のエキセンジン−4を指す。
【0046】
本発明は、上記で定義されるペプチド化合物を提供する。
【0047】
本発明のペプチド化合物は、ペプチド、すなわちカルボキシアミド結合により連結されたアミノカルボン酸の直鎖状主鎖を含む。好ましくは、アミノカルボン酸は別に示されない限り、α−アミノカルボン酸、より好ましくはL−α−アミノカルボン酸である。ペプチド化合物はアミノカルボン酸39個の主鎖配列を含む。
【0048】
疑義を回避するため、本明細書で提供される定義においては、ペプチドの部分の配列が、少なくとも、変化が可能であると明記される位置のうち1つにおいて、天然のエキセンジン−4と異なることが概して意図される。ペプチド部分内のアミノ酸は、従来のN末端からC末端への方向で、1〜39まで連続して付番されると考えてよい。したがって、ペプチドの部分内の「位置」への言及は、天然のエキセンジン−4および他の分子内の位置への言及、例えば、エキセンジン−4においては、Hisが1位、Glyが2位、…、Metが14位、…Serが39位、のように構築されるべきである。
【0049】
さらなる態様において、本発明は、本明細書で記載される本発明の化合物、またはそれらの塩もしくは溶媒和物を、担体との混合物中に含む組成物を提供する。
【0050】
本発明は、薬剤として使用するための、具体的には本明細書で記載される状態の治療のための、本発明の化合物の使用も提供する。
【0051】
本発明は、組成物が薬学的に許容される組成物であり、担体が薬学的に許容される担体である、組成物も提供する。
【0052】
ペプチド合成
当業者は、本発明に記載されるペプチドを製造する様々な異なる方法を知っている。これらの方法には、合成手法および組換え遺伝子発現が含まれるが、これに限定されない。したがって、これらのペプチドを製造する一方法は、溶液中または固体支持体における合成、ならびにその後の単離および精製である。ペプチドを製造する別の方法は、ペプチドをコードするDNA配列が導入された宿主細胞における遺伝子発現である。代わりに、遺伝子発現を、細胞系を利用することなく実現することもできる。上記の方法は、任意の方法で組み合わせてもよい。
【0053】
本発明のペプチドを製造する好ましい方法は、適切な樹脂における固相合成法である。固相ペプチド合成は、十分に確立された技法である(例えば:StewartおよびYoung、Solid Phase Peptide Synthesis、Pierce Chemical Co.、Rockford、Ill.、1984;E.AthertonおよびR.C.Sheppard、Solid Phase Peptide Synthesis. A Practical Approach、Oxford−IRL Press、New York、1989を参照のこと)。固相合成法は、切断可能なリンカーを担持する不活性な固体支持体に、N末端を保護したアミノ酸をそのカルボキシ末端で結合させることにより開始される。この固体支持体は、最初のアミノ酸のカップリングを可能にする任意のポリマー、例えばトリチル樹脂、クロロトリチル樹脂、Wang樹脂またはRink樹脂でもよく、そこでのカルボキシ基(または、Rink樹脂についてはカルボキシアミド)の樹脂への連結部は酸感受性である(Fmoc戦略を使用する場合)。ポリマー支持体は、ペプチド合成の間、α−アミノ基を脱保護するために使用される条件下で安定でなければならない。
【0054】
最初のアミノ酸を固体支持体にカップリングした後、このアミノ酸のα−アミノ保護基を除去する。次いで、残存する保護されたアミノ酸を、適切なアミドカップリング試薬、例えばBOP、HBTU、HATUまたはDIC(N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド)/HOBt(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール)を使用して、ペプチド配列で表される順序で次々にカップリングする。このとき、BOP、HBTUおよびHATUは三級アミン塩基とともに使用される。代わりに、遊離したN−末端をアミノ酸以外の基、例えばカルボン酸などで官能化することもできる。
【0055】
最終的に、ペプチドは樹脂から切断され脱保護される。これは、King’sカクテルを使用することで実現可能である(D.S.King、C.G.Fields、G.B.Fields、Int.J.Peptide Protein Res.36、1990、255〜266頁)。次いで、必要に応じて原料をクロマトグラフィー、例えば分取RP−HPLCにより精製してもよい。
【0056】
効力
本明細書では、「効力」または「インビトロでの効力」という用語は、細胞ベースのアッセイにおいて、化合物がGLP−1受容体またはグルカゴン受容体を活性化する能力の尺度である。数値的に、これは、用量反応実験において、反応(例えば、細胞内cAMPの形成)の最大の増加の半分を誘起する化合物の有効濃度である「EC50値」として表される。
【0057】
治療用途
本発明の化合物は、グルカゴン受容体のアゴニストである。このようなアゴニストはまず、低血糖を標的とする臨床上の必要性に取り組むという治療上の利益をもたらしうる。
【0058】
抗高血糖医薬品、例えばインスリン治療により誘起される低血糖は、血糖コントロールを維持するためのT1DMおよびT2DM治療における重大なリスクである。厳格なグルコースコントロールを実現しようとすると、外来患者および救命医療環境における低血糖リスクが増大しうる。健康な状態では、空腹時血漿グルコース濃度は通常、70mg/dL超である。血中糖値がこの閾値未満に降下すると、まだ自分で治療可能な症状を伴う、軽度の低血糖が最初に発症する。これらの症状には、脱力感、眠気、めまい、かすみ目または悲愴感および不幸感が含まれる。低血糖の症状は患者の年齢によっても決まり、高齢者では主に神経性のものであり、子供では挙動の変化が頻繁に観察される。夜間の低血糖イベントにより、朝の頭痛、質の悪い眠り、鮮明な夢、悪夢、就寝中の大量の発汗および落ち着きのない挙動がもたらされる可能性がある。夜間の低血糖中の夢遊病も報告されている。血中糖値がさらに降下すると、重度の低血糖イベントが結果として生じる可能性がある。重度の低血糖は血清グルコース値40〜50mg/dL未満を伴い、このイベントは、他の人の支援が必要な、発作または昏睡などの神経低血糖症の症状をもたらす可能性がある。低血糖は脳に影響し、錯乱(異常な挙動または両方、例えば定型業務を遂行することができないなど)、視覚障害、発作および時として意識消失をもたらす可能性がある。低血糖が頻繁に発生すると自覚が低下し、したがって重度の低血糖リスクが有意に増加しうる。深刻かつ長期の重度の低血糖は死をもたらす可能性があり、低血糖誘起による死亡の原因となる有力な機構には、脳死および心不整脈が含まれる。平均すると、T1DMの患者は、1週間あたり2回の症候性低血糖エピソード、および1年間あたり1回の重度の低血糖エピソードを経験する。インスリンによる治療を受けているT2DM患者における低血糖発症率は、T1DMで見られた発症率の約3分の1である。この数字は、より長期のインスリン治療を受けている患者、併存症の発症、および患者の年齢において増加しうる。
【0059】
低血糖の治療は、低血糖イベントの期間および強度によって決まる。軽度および中度の低血糖は、糖を含む飲料または食品を飲むか食べるかすることにより、自分で容易に治療することができる。一方、重度の低血糖は別の人の助けが必要である。糖質の静脈内施用は医療専門家に限定されているが、救命医薬品としてのグルカゴン投与は、皮下または筋肉内注射のいずれかにより、任意の熟練者が実施することができる。グルカゴンは、膵臓のα細胞で産生され、循環しているグルコースが少ない場合に血流中に放出されるペプチドホルモンである。インスリンの効果と反対の効果を有する膵島ホルモンとして、グルカゴンは、低血糖状態を回避するように糖新生およびグリコーゲン分解を刺激(同時に解糖系およびグリコーゲン合成を阻害)することにより、血糖値を上昇させている。
【0060】
市販のグルカゴン救急キット2種が、重度の低血糖用の救命医薬品として承認されている。Glucagon Emergency Kit(Eli Lilly and Co、Indianapolis、IN)およびGlucaGen(登録商標)Hypokit(登録商標)(Novo Nordisk A/S、Bagsvard、Denmark)である。これらのキットは、グルカゴン粉末のバイアル、および溶媒で充填されたシリンジを含む。グルカゴンキットは使用前に再溶解の必要がある。溶媒をシリンジからバイアルに移し、固体が全て溶解するまでバイアルを振る。次いで溶液をシリンジに戻し、シリンジ中の気泡を除去した後に、キットは脚部または腹部への投与準備が整う。推奨される用量は、成人、および体重25kg超の子供、および年齢6〜8才以上の子供では、滅菌水1mL中グルカゴン1mgである。25kg未満または年齢6〜8才未満の子供では、用量の半分(0.5mL)が推奨される。
【0061】
市販のグルカゴン製品両方についてのFDA承認済みの説明書は、凍結乾燥粉末を水溶液中に再溶解した後、即時使用することのみを許可している。凍結乾燥粉末を慎重に溶解させ、注射を遂行するという様々な工程を含む複雑な手順のため、緊急事態の場合、患者の介護人または身内が、これらの製品を患者に投与する必要がある。これらの必要条件に基づき、グルカゴンは、低血糖を即時に改善するという利益が立証されているにもかかわらず、依然として十分に活用されていない治療手法のままである。
【0062】
本発明に記載される、溶液中の安定性が改良されたグルカゴン受容体アゴニスト製品は、患者の自己注射に適したすぐに使えるペンデバイスを有効にすることができよう。救命医薬品としての有益性にとどまらず、このような製品は、グルコース最適化のためのインスリン対抗品として、治療構成要素となる機会を提供できよう。
【0063】
際立った用途は、インスリンおよび本発明に記載されるグルカゴン受容体アゴニストを複式ポンプで送達する、自動クローズドループ人工膵臓制御システムにおける使用であってよい。このような埋込式のシステムが皮下で血糖を測定し、グルコースレベルを通常のレベルに戻すため、インスリンが患者に与えられる。対照的に、安定化されたグルカゴン受容体アゴニストが、グルコースレベルが低くなりすぎるのを防止するため、人工膵臓システムにより投与される。
【0064】
したがって、本発明の化合物は、軽度から中度の低血糖の治療のため、または重度の低血糖イベントにおいて使用可能である。さらに、以下の種類の低血糖:抗糖尿病治療、例えばインスリン治療により誘起されるもの、反応性または食後低血糖、空腹時低血糖、アルコール誘起による低血糖、胃バイパス術後低血糖、非糖尿病性低血糖および妊娠関連性低血糖などは、本発明の化合物により治療できよう。
【0065】
上記で概説される通り、グルカゴンは、インスリンの効果と反対の急性効果を有するホルモンであり、低血糖状態を回避するために、糖新生およびグリコーゲン分解を刺激することにより、血糖値を上昇させる。しかし、げっ歯類およびヒトにおける最近のデータにより、グルカゴンがエネルギー収支、体脂肪量および栄養摂取に対しても有益な効果を有しえたことが明らかとなっている。したがって、本発明の化合物は、低血糖の治療にとどまらず、様々な状態または障害に使用可能である。本発明の化合物は、他の治療活性な薬物と組み合わせて使用可能である。関連する治療用途は、急性、慢性双方の低血糖、2型糖尿病の治療または予防、前糖尿病から、2型糖尿病、例えば耐糖能障害および/または空腹時血糖異常の状態、妊娠糖尿病、1型糖尿病、肥満、肥満に至る過体重を伴う疾患、メタボリックシンドローム/糖尿肥満、心血管疾患への進行の遅延、摂食障害例えば過食症の治療における食欲および満腹の調節、ならびに減量成功後に減少した体重の維持を含む。
【0066】
症候性徐脈および低血圧が存在するβ遮断薬中毒の場合には、高用量グルカゴンが第一選択の解毒剤と考えられる。したがって、本発明の化合物の注射は、β遮断薬およびカルシウムチャネル遮断薬の過剰投与における防御として使用可能である。
【0067】
グルカゴンの肝外での効果は、胃、十二指腸、小腸および大腸を含む胃腸管の平滑筋細胞の弛緩である。本発明の化合物およびその医薬製剤は、胃腸管用の画像診断技術、例えばX線撮影、CTスキャン、超音波検査、MRI画像法および核医学画像法と組み合わせて、平滑筋細胞弛緩薬として使用可能である。
【0068】
したがって、本発明の化合物およびその製剤は、低血糖を治療するため、血糖値を増加させるため、インスリンを伴う補助療法として、体重を減少させ、維持するため、β遮断薬およびカルシウムチャネル遮断薬の中毒に対する解毒剤として、ならびに放射線用途のために消化管系の一時的な弛緩を誘起するために使用可能である。
【0069】
医薬組成物
「医薬組成物」という用語は、混合されると共存でき、投与しうる成分を含む混合物を示す。医薬組成物は、1つまたはそれ以上の医薬品を含んでもよい。さらに、医薬組成物は、活性な成分であると考えられるか不活性な成分であると考えられるかに関わらず、担体、溶媒、補助剤、軟化剤、増量剤、安定剤および他の成分を含んでもよい。医薬組成物製造の熟練者用の案内が、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、(20版)A.R.Gennaro A.R.編、2000、Lippencott Williams & Wilkinsに見られる。
【0070】
本発明のエキセンジン−4ペプチド誘導体またはそれらの塩は、医薬組成物の一部としての、許容される医薬担体、希釈剤または賦形剤と併せて投与される。「薬学的に許容される担体」は、ともに投与される物質の治療特性を保持しつつ、生理的に許容される担体である。標準的な許容される医薬担体およびそれらの製剤は当業者に公知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、(20版)A.R.Gennaro A.R.編、2000、Lippencott Williams & Wilkinsに記載されている。例示的な薬学的に許容される一担体は生理食塩水である。
【0071】
許容される医薬担体または希釈剤は、経口、経直腸、経鼻または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内および経皮を含む)投与に適した製剤に使用されるものを含む。本発明の化合物は、典型的には非経口的に投与される。
【0072】
「塩」または「薬学的に許容される塩」という用語は、哺乳類に使用するのに安全かつ有効な、本発明の化合物の塩を意味する。薬学的に許容される塩には、酸付加塩および塩基性塩を含めてよいが、これに限定されない。酸付加塩の例には塩化物、硫酸、硫酸水素、リン酸(水素)、酢酸、クエン酸、トシル酸またはメシル酸の各塩が含まれる。塩基性塩の例には、無機陽イオン塩、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの各塩などのアルカリまたはアルカリ土類金属塩、およびアミン塩などの有機陽イオン塩が含まれる。薬学的に許容される塩のさらなる例が、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、(20版)A.R.Gennaro A.R.編、2000、Lippencott Williams & Wilkins、またはVerlag Helvetica Chimica Acta、Zurich、SwitzerlandおよびWiley−VCH、Weinheim、Germanyにより共同で出版されたHandbook of Pharmaceutical Salts, Properties, Selection and Use、P.H.Stahl、C.G.Wermuth編、2002に記載されている。
【0073】
「溶媒和物」という用語は、本発明の化合物またはその塩の、溶媒分子、例えば有機溶媒分子および/または水との錯体を意味する。
【0074】
化合物の「治療上有効な量」という用語は、毒性はないが、望ましい効果をもたらすのに十分な化合物の量を指す。望ましい生物学的効果を実現するのに必要な式(I)の化合物の量は、複数の因子、例えば、選択された特定の化合物、意図される用途、投与様式および患者の臨床状態によって決まる。任意の各場合における適切な「有効な」量は、通常の実験法を使用して、当業者が決定することができる。
【0075】
本発明の医薬組成物は、非経口(例えば皮下、筋肉内、皮内または静脈内)、経口、経直腸、局所および経口(例えば舌下)投与に適したものであるが、最も適切な投与様式は、個々の場合で、治療される予定の状態の性質および重症度、ならびに各場合で使用される式(I)の化合物の性質によって決まる。
【0076】
適切な医薬組成物は、独立した単位、例えばカプセル剤、錠剤、およびバイアルまたはアンプル中の散剤の形態であってよく、それぞれが、散剤もしくは顆粒剤として;水性もしくは非水性液体中の液剤もしくは懸濁剤として;または水中油型もしくは油中水型乳剤として、明記した量の化合物を含む。組成物は、単回用量の注射可能な形態、例えばペンの形態で提供可能である。組成物は、既に言及された通り、活性な成分および担体(1つまたはそれ以上のさらなる成分からなっていてよい)を接触させる工程を含む、任意の適切な薬学的方法により製造可能である。
【0077】
組み合わせ治療
低血糖イベント用の医薬品としての使用に加えて、本発明の化合物であるグルカゴン受容体アゴニストは、Rote Liste 2014で言及される全ての薬物などの、他の薬理学的に活性な化合物、例えばRote Liste 2014の12章で言及される全ての抗糖尿病薬、Rote Liste 2014の1章で言及される全ての減量薬もしくは食欲抑制薬、Rote Liste 2014の58章で言及される全ての脂質低下薬、Rote Liste 2014で言及される全ての降圧薬および腎臓保護薬、またはRote Liste 2014の36章で言及される全ての利尿薬と広く組み合わせることができる。
【0078】
活性成分の組み合わせは、特に作用の相乗的改善のために使用可能である。これらは、患者に活性成分を別々に投与することによっても、複数の活性成分が1つの医薬製剤中に存在する組み合わせ製品の形態でも施用可能である。活性成分を、活性成分を別々に投与することにより投与する場合、これを同時にまたは連続して行うことができる。
【0079】
以下で言及される活性成分の大部分が、USP Dictionary of USAN and International Drug Names、US Pharmacopeia、Rockville 2011に開示されている。
【0080】
このような組み合わせに適した他の活性物質には、具体的には、例えば、上記の兆候のうち1つに関して、1つもしくはそれ以上の活性物質に治療効果を付加するもの、および/または1つもしくはそれ以上の活性物質の投与量を低減させるものが含まれる。
【0081】
組み合わせに適した治療薬剤には、例えば、抗糖尿病薬:
インスリンおよびインスリン誘導体、例えば:グラルギン/Lantus(登録商標)(www.lantus.comを参照のこと)、グルリジン/Apidra(登録商標)、デテミル/Levemir(登録商標)、リスプロ/Humalog(登録商標)/Liprolog(登録商標)、デグルテク/デグルテクプラス、アスパルト、基礎インスリンおよびアナログ(例えばLY2963016)、ペグ化インスリンリスプロ(LY2605541)、Humulin(登録商標)、リンジェッタ(Linjeta)、SuliXen(登録商標)、NN1045、インスリンおよびシムリン、即効性かつ短時間作用性のインスリン(例えばリンジェッタ、PH20、NN1218、ヒンスベット(HinsBet))、(APC−002)ヒドロゲル、経口、吸入、経皮および舌下インスリン(例えばExubera(登録商標)、Nasulin(登録商標)、アフレッザ、トレゴピル(Tregopil)、TPM 02、カプスリン(Capsulin)、Oral−lyn(登録商標)、Cobalamin(登録商標)経口インスリン、ORMD−0801、NN1953、ビアタブ(VIAtab))
などが含まれる。さらに、HM12460A(LAPSインスリン)などの、二官能性リンカーによりアルブミンまたは別のタンパク質に結合されるそれらのインスリン誘導体も含まれる。
【0082】
GLP−1、GLP−1アナログおよびGLP−1受容体アゴニスト、例えば:リキシセナチド/AVE0010/ZP10/リキスミア、エキセナチド/エキセンジン−4/バイエッタ/ビデュリオン/ITCA650、リラグルチド/ビクトーザ、セマグルチド、タスポグルチド、アルビグルチド、デュラグルチド、rエキセンジン−4、CJC−1134−PC、PB−1023、TTP−054、HM−11260C、CM−3、GLP−1エリゲン(Eligen)、ORMD−0901、NN−9924、ノデキセン(Nodexen)、ビアドール(Viador)−GLP−1、CVX−096、ZYOG−1、ZYD−1、MAR−701、ZP−2929、ZP−3022、CAM−2036、DA−15864、ARI−2651、ARI−2255、エキセナチド−XTENおよびグルカゴン−Xten、MAR709、HM1525A、デュアルGLP1R/グルカゴンRアゴニスト、デュアルGLP1R/GIPRアゴニスト、トリプルGLP1R/グルカゴンR/GIPRアゴニスト、イデグリラ(IDegLira)、リキシランなどの、GLP1Rアゴニストとインスリン誘導体との組み合わせ。
【0083】
DPP−4阻害剤、例えば:アログリプチン/ネシーナ、リナグリプチン/BI−1356/オンデロ/トラゼンタ(Trajenta)/トラゼンタ(Tradjenta)/トラゼンタ(Trayenta)/トラゼンタ(Tradzenta)、サキサグリプチン/オングリザ、シタグリプチン/ジャヌビア/ゼレビア(Xelevia)/テサベル(Tesavel)/ジャヌメット/ベルメチア(Velmetia)、ビルダグリプチン、アナグリプチン、ゲミグリプチン、テネグリプチン、メログリプチン、トレラグリプチン、DA−1229、MK−3102、KM−223。
【0084】
SGLT2阻害剤、例えば:カナグリフロジン、ダパグリフロジン、レモグリフロジン、セルグリフロジン、エンパグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、ルセオグリフロジン、LX−4211、PF−04971729、RO−4998452、EGT−0001442、DSP−3235。
【0085】
ビグアニド(例えばメトホルミン、ブホルミン、フェンホルミン)、チアゾリジンジオン(例えばピオグリタゾン、リボグリタゾン、ロシグリタゾン、トログリタゾン)、デュアルPPARアゴニスト(例えばアレグリタザール、ムラグリタザール、テサグリタザール)、スルホニル尿素(例えばトルブタミド、グリベンクラミド、グリメピリド/アマリール、グリピジド)、メグリチニド(例えばナテグリニド、レパグリニド、ミチグリニド)、α−グルコシダーゼ阻害剤(例えばアカルボース、ミグリトール、ボグリボース)、アミリンおよびアミリンアナログ(例えばプラムリンチド、シムリン)。
【0086】
GPR119アゴニスト(例えばGSK−263A、PSN−821、MBX−2982、APD−597)、GPR40アゴニスト(例えばTAK−875、TUG−424、P−1736、JTT−851、GW9508)。
【0087】
他の適切な組み合わせ相手は:シクロセット(Cycloset)、11−β−HSD阻害剤(例えばLY2523199、BMS770767、RG−4929、BMS816336、AZD−8329、HSD−016、BI−135585)、グルコキナーゼ活性化剤(例えばTTP−399、AMG−151、TAK−329)、DGAT阻害剤(例えばLCQ−908)、タンパク質チロシンホスファターゼ1阻害剤(例えばトロダスケミン(Trodusquemine))、グルコース−6−ホスファターゼ阻害剤、フルクトース−1,6−ビスホスファターゼ阻害剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ阻害剤、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、ピルビン酸デヒドロキナーゼ阻害剤、α2−アンタゴニスト、CCR−2アンタゴニストである。
【0088】
1つまたはそれ以上の脂質低下薬、例えば:HMG−CoA−レダクターゼ阻害剤(例えばシンバスタチン、アトルバスタチン)、フィブラート(例えばベザフィブラート、フェノフィブラート)、ニコチン酸およびその誘導体(例えばナイアシン)、PPAR−(α、γまたはα/γ)アゴニストまたは修飾薬(例えばアレグリタザール)、PPAR−δアゴニスト、ACAT阻害剤(例えばアバシミブ)、コレステロール吸収阻害剤(例えばエゼチミブ)、胆汁酸結合物質(例えばコレスチラミン)、回腸胆汁酸輸送阻害剤、MTP阻害剤またはPCSK9修飾薬なども、組み合わせ相手として適切である。
【0089】
HDL増加化合物、例えば:CETP阻害剤(例えばトルセトラピブ、アナセトラピブ、ダルセトラピブ、エバセトラピブ、JTT−302、DRL−17822、TA−8995)またはABC1調節薬。
【0090】
他の適切な組み合わせ相手は、1つまたはそれ以上の肥満治療用の活性物質、例えば:シブトラミン、テソフェンシン、オルリスタット、カンナビノイド−1受容体アンタゴニスト、MCH−1受容体アンタゴニスト、MC4受容体アゴニスト、NPY5もしくはNPY2アンタゴニスト(例えばベルネペリット)、β−3−アゴニスト、レプチンまたはレプチン模倣物質、5HT2c受容体アゴニスト(例えばロルカセリン)、またはブプロピオン/ナルトレキソン、ブプロピオン/ゾニサミド、ブプロピオン/フェンテルミンもしくはプラムリンチド/メトレレプチンの組み合わせなどである。
【0091】
他の適切な組み合わせ相手は:
ペプチドYY3−36(PYY3−36)またはそのアナログ、膵臓ポリペプチド(PP)またはそのアナログ、GIP受容体アゴニストもしくはアンタゴニスト、グレリンアンタゴニストもしくはインバースアゴニスト、キセニンおよびそのアナログなどの、さらなる胃腸ペプチドである。
【0092】
さらに、高血圧、慢性心不全またはアテローム性動脈硬化に影響を及ぼす薬物、例えば:アンジオテンシンII受容体アンタゴニスト(例えばテルミサルタン、カンデサルタン、バルサルタン、ロサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、オルメサルタン、タソサルタン、アジルサルタン)、ACE阻害剤、ECE阻害剤、利尿薬、β遮断薬、カルシウムアンタゴニスト、中枢作用性昇圧薬、α−2−アドレナリン受容体アンタゴニスト、中性エンドペプチダーゼ阻害剤、血小板凝集阻害剤およびその他の薬物、またはそれらの組み合わせなどとの組み合わせが適切である。
【0093】
別の態様において、本発明は、組み合わせ相手として上記される活性物質のうち少なくとも1つと組み合わせた、本発明による化合物またはそれらの生理的に許容される塩の使用であって、グルカゴン受容体に結合することにより影響を受けうる疾患または状態の、治療または予防に適した薬剤を製造するための使用に関する。これは、好ましくはメタボリックシンドロームに関する疾患、具体的には上記に列挙した疾患または状態のうちの1つ、最も具体的には糖尿病または肥満またはそれらの合併症である。
【0094】
1つまたはそれ以上の活性物質と組み合わせた、本発明による化合物またはそれらの生理的に許容される塩の使用は、同時に、別々にまたは連続的に行うことができる。
【0095】
別の活性物質と組み合わせた、本発明による化合物またはそれらの生理的に許容される塩の使用は、同時にまたは時間差で、ただし具体的には短時間内で行うことができる。これらが同時に投与される場合、2種の活性物質は一緒に患者に与えられる;これらが時間差で使用される場合、2種の活性物質は12時間以内に、ただし具体的には6時間以内に患者に与えられる。
【0096】
結果として、別の態様において、本発明は、本発明による化合物またはこのような化合物の生理的に許容される塩、および組み合わせ相手として上記活性物質のうち少なくとも1つを、場合により1つまたはそれ以上の不活性担体および/または希釈剤とともに含む薬剤に関する。
【0097】
本発明による化合物または生理的に許容されるその塩もしくは溶媒和物、およびそれと組み合わされるさらなる活性物質はともに、1つの製剤、例えば錠剤もしくはカプセル剤、適切なシリンジもしくはデバイス中のすぐに使える製剤、注射前に再溶解することができる凍結乾燥物中に一緒に、または2種の同一もしくは異なる製剤中に、例えばいわゆるパーツキットとして別々に存在してもよい。
【0098】
方法
用いる略号は以下の通りである:
2F−Phe 2−フルオロフェニルアラニン
AA アミノ酸
cAMP 環状アデノシン一リン酸
Boc tert−ブチルオキシカルボニル
BOP (ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート
BSA ウシ血清アルブミン
tBu ターシャリーブチル
Chg シクロヘキシルグリシン
CTC 2−クロロトリチルクロリド
DIC N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA N,N−ジイソプロピルエチルアミン
DMEM ダルベッコ改変イーグル培地
DMF ジメチルホルムアミド
EDT エタンジチオール
FBS ウシ胎児血清
Fmoc フルオレニルメチルオキシカルボニル
GCG グルカゴン
GLP−1 グルカゴン関連ペプチド1
HATU 2−(1H−7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HBSS ハンクス平衡塩液
HBTU 2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチル−ウロニウムヘキサフルオロホスフェート
HEPES 2−[4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−イル]エタンスルホン酸
HOBt 1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
HOSu N−ヒドロキシスクシンイミド
HPLC 高速液体クロマトグラフィー
HTRF 均一時間分解蛍光
IBMX 3−イソブチル−1−メチルキサンチン
Nal 1−ナフチルアラニン
PBS リン酸緩衝生理食塩水
PEG ポリエチレングリコール
Phg フェニルグリシン
RP−HPLC 逆相高速液体クロマトグラフィー
s.c. 皮下
TFA トリフルオロ酢酸
Tle tert−ロイシン
TRIS トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン
Trt トリチル
Tza 4−チアゾリルアラニン
UV 紫外線
【0099】
ペプチド化合物の一般的合成
材料:
固相ペプチド合成には、プレロード型Fmoc−Ser(tBu)−Wang樹脂を使用した。Fmoc−Ser(tBu)−Wang樹脂は、ローディング0.3mmol/gでNovabiochemより購入した。
【0100】
Fmocで保護された天然アミノ酸を、Protein Technologies Inc.、Senn Chemicals、Merck Biosciences、Novabiochem、Iris BiotechまたはBachemより購入した。合成を通して、以下の標準アミノ酸を使用した:Fmoc−L−Ala−OH、Fmoc−L−Arg(Pbf)−OH、Fmoc−L−Asn(Trt)−OH、Fmoc−L−Asp(OtBu)−OH、Fmoc−L−Gln(Trt)−OH、Fmoc−L−Glu(OtBu)−OH、Fmoc−Gly−OH、Fmoc−L−His(Trt)−OH、Fmoc−L−Ile−OH、Fmoc−L−Leu−OH、Fmoc−L−Lys(Boc)−OH、Fmoc−L−Phe−OH、Fmoc−L−Pro−OH、Fmoc−L−Ser(tBu)−OH、Fmoc−L−Thr(tBu)−OH、Fmoc−L−Trp(Boc)−OH、Fmoc−L−Tyr(tBu)−OH、Fmoc−L−Val−OH。
【0101】
さらに、以下の特殊アミノ酸を上記と同じ供給業者より購入した:Fmoc−L−Tza−OH、Fmoc−L−Phg−OH、Fmoc−L−NaI−OH、Fmoc−L−2F−Phe−OH、Fmoc−L−Chg−OH、Fmoc−L−Tle−OH。
【0102】
標準的なFmoc化学反応およびHBTU/DIPEA活性化を使用して、Prelude Peptide Synthesizer(Protein Technologies Inc)で固相ペプチド合成を行った。溶媒としてDMFを使用した。脱保護:20%ピペリジン/DMFで2x2.5分間。洗浄:7xDMF。カップリング DMF中2:5:10 200mM AA/500mM HBTU/2M DIPEA。2x20分間。洗浄:5xDMF。
【0103】
合成されたペプチドは全て、TFA82.5%、フェノール5%、水5%、チオアニソール5%、EDT2.5%からなるKing’s切断カクテルで樹脂から切断した。次いで粗ペプチドをジエチルまたはジイソプロピルエーテル中で沈殿させ、遠心処理し、凍結乾燥した。分析HPLCでペプチドを分析し、ESI質量分析で確認した。分取RP−HPLC精製の従来手順により粗ペプチドを精製した。
【0104】
分取HPLC精製の一般的手順:
Akta Purifier SystemまたはJasco semiprep HPLC Systemのいずれかで粗ペプチドを精製した。精製される予定の粗ペプチドの量に応じて、様々なサイズの分取RP−C18−HPLCカラムを、様々な流速で使用した。溶離剤としてアセトニトリル+0.1%TFA(B)および水+0.1%TFA(A)を用いた。生成物を含む画分を収集して凍結乾燥し、精製された生成物を、典型的にはTFA塩として得た。
【0105】
エキセンジン−4誘導体の溶解性および安定性試験:
ペプチドバッチの溶解性および安定性試験の前に、その含量を決定した。そのため、2つのパラメータ、その純度(HPLC−UV)およびバッチの塩添加量(イオンクロマトグラフィー)を調べた。
【0106】
溶解性試験については、目標濃度を、純粋な化合物が10mg/mLとした。したがって、先に決定された含量に基づき、様々な緩衝液系中で化合物濃度10mg/mLで、固体サンプルから溶液を調製した。4000rpmで20分間の遠心処理により得られた上清を穏やかに撹拌した2時間後、HPLC−UVを行った。
【0107】
次いで、純水中または可変量のアセトニトリル中の濃度2mg/mLのペプチド保存液(当該化合物が完全に溶解した光学的対照)で得られたUVピーク領域と比較することで、溶解性を決定した。
【0108】
溶解性試験については、Waters ACQUITY UPLC(登録商標)CSH(商標)C18 1.7μm(150x2.1mm)でのWaters UPLC系を用いて、50℃、流速0.5mL/分のグラジエント溶出で分析クロマトグラフィーを行い、210〜225nmでモニターした。グラジエントは、B20%(0〜3分)〜B75%(3〜23分)に調節し、その後B98%(23.5〜30.5)での洗浄工程および平衡期間(B20%で31〜37分)を設けた。緩衝液A=水中0.5%トリフルオロ酢酸、およびB=アセトニトリル中0.35%トリフルオロ酢酸。場合により、LCを、陽イオンモードを使用するWaters LCT Premier ESI−TOF質量分析計に連結した。
【0109】
安定性試験については、目標濃度を、m−クレゾール(30mM)、塩化ナトリウム(85mM)およびポリソルベート20(8μM)を含むpH7.3トリス緩衝液(50mM)中純粋な化合物が1.0mg/mLとした。溶液を50℃で14日間保存した。その後、溶液をUPLCで分析した。
【0110】
安定性試験については、Waters Acquity UPLC BEH130 C18 1.7μmカラム(2.1x100mm)を用いる、Waters Acquity UPLC H−Class系により、40℃、流速0.5mL/分のグラジエント溶出でUPLCを行い、215および280nmでモニターした。グラジエントを19.2分にわたりB10%〜B90%に、次いで0.8分間B90%に調節した。緩衝液A=水中0.1%ギ酸、およびB=アセトニトリル中0.1%ギ酸。
【0111】
残存ペプチド量を測定するため、t0およびt14での目標化合物のピーク領域を比較し、方程式
%残存ペプチド=[(ピーク領域ペプチドt14)x100]/ピーク領域ペプチドt0。
にしたがって、「%残存ペプチド」を得た。
【0112】
「%正規化純度」を、方程式
%正規化純度=[(%相対純度t14)x100]/%相対純度t0
にしたがって、t0での%相対純度に対する14日目の%相対純度により定義した。
【0113】
t0での%相対純度を、方程式
%相対純度t0=[(ピーク領域t0)x100]/ピーク領域t0全ての合計
にしたがって、t0でのペプチドのピークをt0でのピーク領域全ての合計で割って算出した。
【0114】
同様に、%相対純度t14を、方程式
%相対純度t14=[(ピーク領域t14)x100]/ピーク領域t14全ての合計
にしたがって、t14でのペプチドのピークをt14でのピーク領域全ての合計で割って算出した。
【0115】
「%正規化純度」と「%残存ペプチド」との間の潜在的な差は、ストレス状態であるとき溶解した状態になかったペプチドの量を反映している。
【0116】
この沈殿物は、遠心処理により分析前に除去された、不溶性の分解生成物、ポリマーおよび/または微小繊維を含む。
【0117】
陰イオンクロマトグラフィー:
装置:Dionex ICS−2000、プレ/カラム:Ion Pac AG−18 2x50mm(Dionex)/AS18 2x250mm(Dionex)、溶離剤:水酸化ナトリウム水溶液、流速:0.38mL/分、グラジエント:0〜6分:22mM KOH、6〜12分:22〜28mM KOH、12〜15分:28〜50mM KOH、15〜20分:22mM KOH、サプレッサー:ASRS 300 2mm、検出:導電率。
【0118】
グルカゴン受容体効能についてのインビトロでの細胞アッセイ:
それぞれの受容体に対する化合物の受容体活性化作用を、ヒトGLP−1またはグルカゴン受容体を安定に発現するHEK−293細胞株のcAMP応答を測定する機能アッセイにより決定した。
【0119】
細胞のcAMP含量を、HTRF均一時間分解蛍光に基づき、Cisbio Corp.(cat.no.62AM4PEC)のキットを使用して決定した。調製のため、細胞をT175培養フラスコに分け、培地(DMEM/10%FBS)でほぼコンフルエントになるまで一晩増殖させた。次いで培地を除去し、細胞をカルシウムおよびマグネシウム不含のPBSで洗浄し、その後、accutase(Sigma−Aldrich カタログ番号A6964)でプロテイナーゼ処理した。剥離された細胞を洗浄し、アッセイ緩衝液(1xHBSS;20mM HEPES、0.1%BSA、2mM IBMX)中で再懸濁し、細胞密度を決定した。次いでこれを400000細胞/mlに希釈し、25μl分量を96ウェルプレートのウェルに分注した。測定のため、アッセイ緩衝液中の試験化合物25μlをウェルに添加し、その後室温で30分間インキュベートした。溶解緩衝液(キット成分)で希釈したHTRF試薬を添加した後、プレートを1時間インキュベートし、その後665/620nmで蛍光比を測定した。インビトロでのアゴニストの効力を、最大の反応の50%の活性化(EC50)を引き起こす濃度を決定することで定量した。
【0120】
麻酔したラットにおける血糖プロファイル:
この方法は、肝臓のグリコーゲン分解プロセスにおける試験化合物を研究することを目的としていた。ラットは、実験開始まで食料を自由に入手することができた。グルカゴン(GCG)またはGCG模倣物質投与後、約60〜90分間続いた血糖の上昇が、GCGまたはGCG模倣物質誘起による肝臓のグリコーゲン分解の結果であったと明記することができる。肝臓のグリコーゲン分解およびその後の血中の高血糖のピークに対するGCG模倣物質の効果を、用量30μg/kgでGCGを皮下ボーラス注射することで得られる効果と比較した。
【0121】
以前に記載された通り、麻酔したオスのWistarラットにおける血糖値を分析した(Herlingら Am J Physiol.1998;274:G1087〜93頁)。ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg)およびケタミン(10mg/kg)の腹腔内注射によりラットを麻酔し、気管切開した。ペントバルビタールナトリウムを皮下輸注することで麻酔を最大5時間維持した(各動物の麻酔深度に調節;約24mg/kg/時間)。直腸プローブ温度計で体温をモニターし、加熱した手術台を用いて温度を37℃に維持した。グルコース分析用の血液サンプル(10μl)を15分毎に尾の先端から得た。外科手術後最大2時間、ラットの血糖値を安定させた。次いで、基準化合物としてのGCG、または試験化合物を皮下に投与した。GCGについては、用量30μg/kgを使用して肝臓のグリコーゲン分解を誘起した。試験化合物配列番号5については用量10、20および30μg/kgを投与し、試験化合物配列番号6については用量10および30μg/kgを投与した。
【0122】
正常血糖のビーグル犬における血糖プロファイル:
オスの正常血糖のビーグル犬を、実験全体の前の一晩および実験全体の間絶食させた。動物を群あたりn=6で群にランダム化した。0分時点で、単回用量の試験化合物または基準化合物としての天然のヒトグルカゴンにより動物を処理した。実験前に注射溶液を新しく調製した。試験化合物を、用量1〜100μg/kgで3つの異なる経路(s.c.、i.m.およびi.v.)により、単回の注射として投与した。薬物投与前(=0分)および薬物投与後最大240分、頚静脈(vena jugularis)の穿刺により連続して血液サンプル採取を行った。血糖を全血から酵素的に(ヘキソキナーゼ法)決定し、イヌ特異的なELISAアッセイにより、インスリンをK−EDTA血漿から分析した。
【0123】
実施例
本発明を以下の実施例によりさらに例示する。
【実施例1】
【0124】
配列番号25の合成
プレロード型Fmoc−Ser(tBu)−Wang樹脂で固相合成法を実施した。HBTU/DIPEA活性化によるFmoc合成戦略を適用した。固相合成プロトコールにおいて、1位にFmoc−Tza−OHを、10位にFmoc−Tle−OHを使用した。King’sカクテル(D.S.King、C.G.Fields、G.B.Fields、Int.J.Peptide Protein Res.36、1990、255〜266頁)でペプチドを樹脂から切断した。粗生成物を、アセトニトリル/水グラジエント(ともに0.1%TFAを含有する緩衝液)を使用して、Watersカラム(Sunfire、Prep C18)による分取HPLCで精製した。
【0125】
最終的に、精製されたペプチドの分子質量をLC−MSにより確認した。
【実施例2】
【0126】
配列番号24の合成
プレロード型Fmoc−Ser(tBu)−Wang樹脂で固相合成法を実施した。HBTU/DIPEA活性化によるFmoc合成戦略を適用した。固相合成プロトコールにおいて、1位にFmoc−Tza−OH、10位にFmoc−Chg−OHを使用した。King’sカクテル(D.S.King、C.G.Fields、G.B.Fields、Int.J.Peptide Protein Res.36、1990、255〜266頁)でペプチドを樹脂から切断した。粗生成物を、アセトニトリル/水グラジエント(ともに0.1%TFAを含有する緩衝液)を使用して、Watersカラム(Sunfire、Prep C18)による分取HPLCで精製した。
【0127】
最終的に、精製されたペプチドの分子質量をLC−MSにより確認した。
【実施例3】
【0128】
配列番号5の合成
プレロード型Fmoc−Ser(tBu)−Wang樹脂で固相合成法を実施した。HBTU/DIPEA活性化によるFmoc合成戦略を適用した。固相合成プロトコールにおいて、1位にFmoc−Tza−OHを使用した。King’sカクテル(D.S.King、C.G.Fields、G.B.Fields、Int.J.Peptide Protein Res.36、1990、255〜266頁)でペプチドを樹脂から切断した。粗生成物を、アセトニトリル/水グラジエント(ともに0.1%TFAを含有する緩衝液)を使用して、Watersカラム(Sunfire、Prep C18)による分取HPLCで精製した。
【0129】
最終的に、精製されたペプチドの分子質量をLC−MSにより確認した。
【0130】
類似の方法で、ペプチド配列番号3〜36を合成した、表2を参照のこと。
【0131】
【表2】
【実施例4】
【0132】
化学的安定性および溶解性
ペプチド化合物の溶解性および化学的安定性を、方法の項で記載する通りに評価した。結果を表3に示す。
【0133】
【表3】
【実施例5】
【0134】
GLP−1およびグルカゴン受容体に関するインビトロでのデータ
ヒトグルカゴン受容体(hGLUC R)およびヒトGLP−1受容体(hGLP−1 R)を発現する細胞を、濃度を増大させた列挙した化合物に曝露し、方法の項で記載する通りに、形成されたcAMPを測定することにより、GLP−1およびグルカゴン受容体でのペプチド化合物の効力を決定した。
【0135】
ヒトGLP−1受容体(hGLP−1 R)およびヒトグルカゴン受容体(hGLUC R)での活性を有するエキセンジン−4誘導体についての結果を表4に示す。
【0136】
【表4】
【実施例6】
【0137】
比較試験
1位に人工アミノ酸4−チアゾリルアラニンを含むエキセンジン−4誘導体の選択を、1位にヒスチジンを有する対応する化合物との比較において試験した。1位のヒスチジンは、グルカゴンだけでなく、GLP−1およびエキセンジン−4を含む多くの関連ペプチドにおいて、受容体の活性化に不可欠である。したがって、人工アミノ酸4−チアゾリルアラニンにより、1位に天然ヒスチジンを有する同一の化合物と比較して、より高度に受容体が活性化されるのは驚くべきことである。さらに、グルカゴンの効果を逆調節するGLP−1受容体の活性化が、驚くべきことに人工アミノ酸4−チアゾリルアラニンの導入により減少した。これにより、より高いGCG/GLP−1活性比を有する、さらにより選択的なグルカゴン受容体アゴニストが生じる。基準の一対の化合物およびGLP−1およびグルカゴン受容体での対応するEC50値(pMで示す)を表5に示す。
【0138】
【表5】
【実施例7】
【0139】
s.c.注射後に麻酔されたラットにおける、グルコース放出に対する配列番号5および配列番号6の効果
2時間の前処理期間の間、血糖を、ラットにおける通常の摂食値(fed value)を表す約6mmol/lのレベルで安定させた。用量30μg/kgのGCGにより血糖の急速な上昇が引き起こされ、30分後に血糖値約10〜11mmol/lでピークとなった。用量10、20および30μg/kgの試験化合物配列番号5により、血糖の用量依存性増加が皮下で引き起こされ、それぞれ注射の30、45および90分後にピークとなった。用量20μg/kgの配列番号5は、30μg/kgのGCGと比較してほぼ同等の血糖偏位の形状を示した(図1)。
【0140】
用量10および30μg/kgの試験化合物配列番号6により、血糖の用量依存性増加が引き起こされ、それぞれ注射の30および60分後にピークとなった。用量10μg/kgの配列番号6は、30μg/kgのGCGと比較して、より強力な血糖偏位を示した(図2)。
【実施例8】
【0141】
s.c.注射後の正常血糖のビーグル犬における、グルコース放出に対する配列番号5および配列番号6の効果
動物およびヒトにおいては、グルカゴンを注射すると、肝臓のグリコーゲンの急速な動員が引き起こされ、即時にグルコースに分解される。これにより、血糖の急性だが短期間の増加が生じる。正常血糖のビーグル犬において、1μg/kgヒトグルカゴンの皮下(s.c.)注射により、15分以内に2〜3mmol/Lの急速な血糖の増加が引き起こされた。配列番号5および配列番号6のs.c.注射は、血糖に対するヒトグルカゴンの効果を模倣していた。イヌにおいて、1μg/kg s.c.配列番号5の注射後の総純グルコース応答(ベースラインからの血糖AUC(0〜240分)の変化)は、1μg/kg s.c.ヒトグルカゴンのものと類似していた。配列番号5に対する血糖応答は、10μg/kg s.c.で、ピーク増加が約3.5〜4mmol/Lに達するまで用量に応じて増加した(図3)。このより高い用量のs.c.配列番号5を超えて、より高いグルコースの偏位は生じなかった。イヌにおける、s.c.配列番号5に対するグルコース応答の開始はヒトグルカゴンのものに類似していたが、グルコース応答期間はわずかにより長かった。皮下、筋肉内および静脈内注射により急速かつ一過性の血糖増加が生じたため、配列番号5は全ての非経口経路において活性であった。イヌにおける、配列番号5の皮下と筋肉内注射との間で、活性および血糖の時間−作用プロファイルに差はなかった(図4)。
【0142】
血糖応答の誘起に関して、配列番号5および配列番号6は正常血糖のイヌにおいても同様に活性であった(図5)。
【0143】
【表6】
【0144】
【表7】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]