(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数種類の光度計それぞれの定量範囲の重複領域で、前記複数種類の光度計間の測定値を比較し、前記複数種類の光度計間においての測定値の差を基に、目的成分の定量値の測定エラーを検出するエラー検出手段
を備える請求項1に記載の自動分析装置。
前記複数種類の光度計それぞれの定量範囲の重複領域で、前記複数種類の光度計間の測定値を比較し、前記複数種類の光度計間においての測定値の差を基に、目的成分の定量値の測定エラーを検出するエラー検出手段
を備える請求項12に記載の自動分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示に係る自動分析装置及び自動分析方法の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、本開示に係る自動分析装置の一実施例の概略全体構成図である。
本実施例の自動分析装置1は、検体ディスク10、反応ディスク20、試薬ディスク30、検体分注機構41、試薬分注機構42、分析制御部50、出力部61、及び入力部62を備えた構成になっている。
【0020】
検体ディスク10には、検体2を収容する検体容器としての検体カップ15が複数搭載される。各検体カップ15は、検体ディスク10のディスク本体11上に、ディスク周方向に沿って相互に離間させて並設配置されて保持されている。検体ディスク10には、ディスク本体11を回動させて、複数の検体カップ15をディスク周方向に沿って移動変位させる駆動部12が備えられている。検体ディスク10は、この駆動部12の駆動制御によって、ディスク本体11に搭載された複数の検体カップ15の中の一の検体カップ15を、例えば検体吸入位置といった、ディスクの周方向に沿った所定位置に配置することができる。
【0021】
なお、
図1では、検体ディスク10は、複数の検体カップ15がディスク本体11上にディスク周方向に沿って一列に配置された例を示したが、同心円状に複数列配置する構成としてもよい。さらに、複数の検体カップ15を保持する構成は、検体ディスク10に限られるものではなく、一次元或いは2次元に検体容器を配列して保持する検体ラックを用いるラック方式としてもよい。
【0022】
反応ディスク20は、検体ディスク10と隣設され、そのディスク本体21には、反応液3が作製される反応容器25が複数保持されている。各反応容器25は、ディスク周方向に沿って相互に離間させて、ディスク本体21に並設配置されて保持されている。各反応容器25は、後述する吸光光度計44及び散乱光度計45による測定のために透光性材料により構成されている。反応ディスク20には、ディスク本体21を回動させて、複数の反応容器25をディスク周方向に沿って移動変位させる駆動部22が備えられている。
【0023】
反応ディスク20は、駆動部22の駆動制御によって、ディスク本体21が回動制御され、搭載された複数の反応容器25の中の一の反応容器25を、例えば、検体分注機構41による検体吐出位置、試薬分注機構42による試薬吐出位置等といった、ディスク周方向に沿って設けられた所定位置に移動配置することができる。
【0024】
また、反応ディスク20には、恒温槽28が備えられている。ディスク本体21上にそれぞれ配置された複数の反応容器25は、恒温槽28内の恒温槽水(恒温流体)に常時浸漬され、容器内の反応液3を一定の反応温度(例えば37℃程度)に保つことができる。恒温槽28内の恒温槽水(恒温流体)は、分析制御部50の後述する恒温流体制御部54によって、その温度と流量が制御され、反応容器25に供給される熱量が制御される。
【0025】
また、反応ディスク20の周回りには、検体分注機構41及び試薬分注機構42に加えて、それぞれ互いの位置を異ならせて、撹拌部43、吸光光度計44、散乱光度計45、洗浄部46が配置されている。
【0026】
撹拌部43は、検体分注機構41、試薬分注機構42それぞれにより反応容器25内に分注された検体2、試薬4の混合液からなる反応液3の攪拌を行う。これにより、反応容器25内の反応液3は、均一に攪拌されてその反応が促進される。撹拌部43には、例えば、攪拌翼を備える攪拌機、或いは超音波を用いた攪拌機構が備えられている。
【0027】
吸光光度計44と散乱光度計45は、図示の例では、反応ディスク20の回動中心を通る対角線上に反応ディスク20を挟んで互いに位置するように、反応ディスク20の周回りに配置されている。吸光光度計44及び散乱光度計45は、何れも光源と受光部を有する構造になっている。吸光光度計44は、光源から反応液に光を照射した際、反応液から得られる透過光を受光部によって検出し、単一又は複数の波長の透過光量を計測する。散乱光度計45は、光源から反応液に光を照射した際、反応液から得られる散乱光を受光部によって検出し、反応液によって散乱された光量及び/又は散乱光強度を計測する。
【0028】
洗浄部46は、分析が終了した反応容器25から残っている反応液3を排出し、反応容器25を洗浄する。洗浄された反応容器25には、再び検体分注機構41から、次の検体2が分注され、試薬分注機構42から、当該検体2に対応して設定された分析項目(目的成分)の定量に用いられる試薬4が分注される。
【0029】
試薬ディスク30は、反応ディスク20と隣設され、そのディスク本体31には、試薬4を収容する試薬ボトル35が複数搭載される。各試薬ボトル35には、自動分析装置1にて分析される目的成分(分析項目)に応じた試薬が、試薬の種類毎にボトルを変えて別々に収容されている。各試薬ボトル35は、ディスク周方向に沿って相互に離間させて、ディスク本体31上に並設配置されて保持されている。
【0030】
試薬ディスク30には、ディスク本体31を回動させて、複数の試薬ボトル35をディスク周方向に沿って移動変位させる駆動部32が備えられている。試薬ディスク30は、駆動部32の駆動制御によって、ディスク本体31に搭載された複数の試薬ボトル35の中の測定に使用する所定の試薬ボトル35を、試薬吸入位置といった、ディスクの周方向に沿った所定位置に配置することができる。
【0031】
また、試薬ディスク30には、冷却機構を備えた試薬保冷庫38が設けられている。ディスク本体31上にそれぞれ配置された複数の試薬ボトル35は、ディスク本体31が回動しても、試薬保冷庫38の冷却環境に常時保持された状態で冷却され、試薬4の劣化防止がはかられている。試薬保冷庫38に備えられた冷却機構としては、例えば、低温水を反応容器25が浸漬される冷却槽に循環する方式、或いはペルチェ素子により気相中にて冷却する方式等が用いられる。
【0032】
検体分注機構41は、検体ディスク10と反応ディスク20との間に設置され、可動アームと、これに取り付けられたピペットノズルからなる分注ノズルとを備えている。検体分注機構41は、その分注ノズルを検体ディスク10上の検体吸入位置に移動させ、検体吸入位置に配置された検体カップ15からノズル内に所定量の検体を吸入して収容する。その後、検体分注機構41は、分注ノズルを反応ディスク20上の検体吐出位置に移動させて、検体吐出位置に配置された反応容器25内に、ノズル内に収容されている検体を吐出して、検体の分注を行う。
【0033】
試薬分注機構42は、反応ディスク20と試薬ディスク30との間に設置され、同様に可動アームと分注ノズルとを備えている。試薬分注機構42は、その分注ノズルを試薬ディスク30上の試薬吸入位置に移動させ、試薬吸入位置に配置された試薬ボトル35からノズル内に所定量の試薬を吸入して収容する。その後、試薬分注機構42は、分注ノズルを反応ディスク20上の試薬吐出位置に移動させて、試薬吐出位置に配置された反応容器25内に、ノズル内に収容された試薬を吐出して、試薬の分注を行う。
【0034】
検体分注機構41及び試薬分注機構42には、それぞれ異なる種類の検体又は試薬の反応容器25への分注に備えて、分注を終えた分注ノズルを洗浄する洗浄槽がそれぞれ設けられている。それぞれの分注ノズルは、検体又は試薬の分注動作の前後に洗浄槽で洗浄され、検体同士又は試薬同士のコンタミを防止している。
【0035】
分析制御部50は、測定部51、解析部52、制御部53、恒温流体制御部54、データ格納部55、吸光散乱同時分析判定部56、測定時異常チェック部57、濃度範囲チェック部58、及び優先出力判定部59を備えている。
【0036】
測定部51は、吸光光度計44より得られる透過光量の測定値から、この測定値を取得した反応液3による透過光の光量及び/又は透過光強度(以下では、この透過光の光量及び/又は透過光強度のことを、透過光強度で総称する)を求める。また、測定部51は、散乱光度計45より得られる散乱された光量及び/又は散乱光強度の測定値から、この測定値を取得した反応液3による散乱光の光量及び/又は散乱光強度(以下では、散乱光の光量及び/又は散乱光強度のことを、散乱光強度で総称する)を求める。測定部51で求められた透過光強度及び散乱光強度は、測定値を取得した反応容器25、又はこの反応容器25が用いられた分析依頼と対応づけられて、データ格納部55に格納される。なお、この分析依頼には、分析で用いられる検体2、試薬4等の情報が含まれている。
【0037】
解析部52は、測定部51によって測定された所定の反応液3の透過光強度及び/又は散乱光強度を読み出して、この反応液3中の目的成分を解析する。解析後の解析データは、測定値を取得した反応容器25、又はこの反応容器25を用いた検体2の分析依頼と対応づけられて、解析部52によってデータ格納部55に格納される。
【0038】
具体的には、解析部52は、測定部51で求められた所定の反応液3の透過光強度及び/又は散乱光強度を、その所定の反応液3に用いられた試薬4に対応する検量線を参照して、所定の反応液3における目的成分の成分濃度(成分量)を算出する。検量線は、既知濃度の目的成分を含んでいる標準物質等の検体を用いて求めた目的成分の各成分濃度と、透過光強度及び/又は散乱光強度との関係を示したものである。データ格納部55には、試薬ボトル35に収容されて試薬ディスク30に搭載されている試薬それぞれの検量線データが予め記憶されている。
【0039】
さらに、解析部52は、この反応液3中の目的成分の成分濃度を算出する際には、測定部51で求められた所定の反応液3の透過光強度及び/又は散乱光強度といった測定データに加えて、検体分注機構41や試薬分注機構42等のこの所定の反応液3の分析に関わる機構の制御結果データについてもデータ格納部55から読み出して、測定データ自体や機構の制御に異常が生じていたか否かを確認するようになっている。
【0040】
そして、解析部52は、測定データ自体や機構の制御に異常が生じていたことを確認した場合には、この所定の反応液3の透過光強度及び/又は散乱光強度に基づいて算出した目的成分の成分濃度にはエラー(例えばテクニカルリミットエラーや検体不足エラー等)を付け加えて、測定値を取得した反応容器25、又はこの反応容器25を用いた検体2の分析依頼と対応づけてデータ格納部55に格納する。
【0041】
また、解析部52は、算出した目的成分の成分濃度を、後述する吸光散乱同時分析判定部56に出力し、吸光散乱同時分析判定部56を介して、又は必要に応じて、さらに測定時異常チェック部57、濃度範囲チェック部58、優先出力判定部59を適宜介して、ディスプレイ等により構成された出力部61へ表示出力する。
【0042】
制御部53は、データ格納部55に格納されている検体2それぞれの分析依頼に基づいて、駆動部12、22、32を制御して、検体ディスク10、反応ディスク20、試薬ディスク30を回動駆動する。また、制御部53は、検体分注機構41、試薬分注機構42による分注動作を制御する。
【0043】
制御部53は、検体ディスク10、反応ディスク20、試薬ディスク30それぞれを回動することにより、対応ディスクの規定位置に配置される検体カップ5、反応容器25、試薬ボトル35を調整する。この場合、検体ディスク10の規定位置には、検体分注機構41による検体吸入位置が含まれる。また、反応ディスク20の規定位置には、検体分注機構41による検体吐出位置、試薬分注機構42による試薬吐出位置、撹拌部43による撹拌位置、吸光光度計44による測定位置、散乱光度計45による測定位置、洗浄部46による洗浄位置が含まれる。また、試薬ディスク30の規定位置には、試薬分注機構42による試薬吸入位置が含まれる。
【0044】
制御部53は、このようにして検体ディスク10、反応ディスク20、試薬ディスク30それぞれの回動を制御し、検体分注機構41、試薬分注機構42による分注動作を制御することによって、反応ディスク20に複数保持されている反応容器25それぞれに対して、検体2それぞれの分析依頼に基づいた所定の反応液3の作製や、その作製した所定の反応液3の透過光強度及び/又は散乱光強度の測定を実行する。
【0045】
恒温流体制御部54は、反応ディスク20に備えられた恒温槽28内の恒温槽水(恒温流体)の温度及び流量を制御して、反応容器25内の反応液3の温度を調整する。
【0046】
分析制御部50における測定部51、解析部52、制御部53、恒温流体制御部54、吸光散乱同時分析判定部56、測定時異常チェック部57、濃度範囲チェック部58、及び優先出力判定部59は、例えば、CPU等のマイクロプロセッサによって一体的に構成される。この場合、マイクロプロセッサは、ROM又はRAM等により構成されるデータ格納部55の所定の記憶領域から各構成部51〜59の対応処理プログラムを読み出して実行することにより、分析結果を得るための上述した装置各部の作動制御や測定データの処理制御を行う。
【0047】
本実施例の自動分析装置1では、試料の分析項目(検体2の目的成分)は、吸光光度計44と散乱光度計45で同時に分析し、反応液3の反応過程を吸光光度計44及び/又は散乱光度計45で測定可能な構成になっている。
【0048】
その際、本実施例の自動分析装置1では、検体2又は検体2の目的成分が高濃度の場合は、吸光光度計44の測定値から算出した濃度を、検体2又は検体2の目的成分が低濃度の場合は、散乱光度計45の測定値から算出した濃度を、分析結果として出力部61から出力することが可能となり、ダイナミックレンジの広い測定が可能になっている。
【0049】
次に、このように構成された本実施例の自動分析装置1において、散乱光度計45、吸光光度計44それぞれによる測定の際に、分析制御部50の各構成部51〜59が参照する分析パラメータの設定、及びその設定されたパラメータに応じて分析制御部50が実行する濃度出力について、それぞれ項目別に分けて説明する。
【0050】
(1)分析パラメータの設定
図2は、本実施例の自動分析装置における分析パラメータ設定のための操作部の一実施例の構成図である。
【0051】
本実施例の自動分析装置1では、分析パラメータ設定のための操作部70は、GUIとしてのアプリケーション設定画面71を有して構成されている。アプリケーション設定画面71は、入力部62に含まれるキーボード、マウスといった操作機器の所定操作によって、出力部61に含まれるディスプレイ等の表示機器に表示される。分析パラメータは、このアプリケーション設定画面71上で、入力部62を介してその設定入力が行えるようになっている。
【0052】
アプリケーション設定画面71は、アプリケーション設定の項目選択欄72と、選択された項目毎のパラメータ設定欄73と有する。図示の例では、項目選択欄72で「分析」が選択され、パラメータ設定欄73には、分析パラメータ設定のためのパラメータ設定欄73’が表示されている状態が示されている。
【0053】
そして、分析パラメータ設定のためのパラメータ設定欄73’には、吸光光度計44及び散乱光度計45に共通な分析パラメータを設定入力する光度計共通設定欄75と、吸光光度計44だけの分析パラメータを設定入力する吸光光度計専用設定欄76と、散乱光度計45だけの分析パラメータを設定入力する散乱光度計専用設定欄77とに分けられた画面構成になっている。
【0054】
図2では、光度計共通設定欄75においては、プルダウンメニュー方式で、分析項目の種別を表す“項目名”として“CRP(C-リアクティブ・プロテイン(C−反応性タンパク質))”が、“分析依頼方法”の種別として“吸光散乱同時分析”がそれぞれ選択された状態が例示されている。そして、“検体量”として「5[μl]」が、“試薬分注量”として第1試薬“R1”、第2試薬“R2”には「140[μl]」、「70[μl]」が、“吸光散乱結果差チェック値”として成分量「3」が、成分量の“出力単位”として「mg/dl」が、それぞれ設定された状態が例示されている。
【0055】
ここで、“分析依頼方法”の種別としての“吸光散乱同時分析”は、低濃度領域では散乱光度計を選択し、高濃度領域では吸光光度計を選択するように切り替えて、特性の異なる吸光光度計、散乱光度計を一緒に用いることによって目的成分のダイナミックレンジを広げた分析方法の実行設定を指す。
【0056】
また、吸光光度計専用設定欄76においては、“分析法”の種別として、反応前若しくは反応開始直後の測定値と反応終了時の測定値との2つの測定値から目的成分の濃度を求める方法である“2ポイントエンド”が、“測定波長”として2波長測光の主/副波長に「800/450[nm]」がそれぞれ設定された状態が例示されている。そして、“測光ポイント”として「19」及び「30」が、吸光光度計44による“定量範囲”として成分量(目的成分の濃度の測定値)の「5〜40」が、“切替領域設定”として「自動」が、“優先出力判定/順位”には「2」が、“吸光切替下限値”の成分量には「6」が、選択或いは設定された状態が例示されている。なお、分析法の種別については、この“2ポイントエンド”以外にも、例えば、同じエンドポイント法で反応終了時の測定値を用いる“1ポイントエンド”、反応速度を測定して物質の濃度を求める“レート法”が、プルダウンメニュー方式で選択できるようになっている。
【0057】
また、散乱光度計専用設定欄77においては、“分析法”の種別として“2ポイントエンド”が、“受光角度”として「20°」が設定された状態が例示されている。そして、“測光ポイント”として「21」及び「30」が、散乱光度計45による“定量範囲”として成分量の「0.1〜10」が、“切替領域設定”として「自動」が、“優先出力判定/順位”として「1」が、“散乱切替上限値”として成分量「9」が、選択或いは入力設定された状態が例示されている。
【0058】
なお、
図2では、光度計共通設定欄75に分類依頼方法として“吸光散乱同時分析”が選択されているため、アプリケーション設定画面71には吸光光度計専用設定欄76及び散乱光度計専用設定欄77が表示されているが、分類依頼方法として“吸光分析”又は“散乱光分析”が選択されている場合には、分析に使用されない散乱光度計45又は吸光光度計44に係る散乱光度計専用設定欄77又は吸光光度計専用設定欄76は表示しないようにしてもよい。
【0059】
また、
図2に示されているように、光度計共通設定欄75に分類依頼方法として“吸光散乱同時分析”が選択されている場合は、吸光光度計専用設定欄76、散乱光度計専用設定欄77それぞれの“優先出力判定/順位”には、いずれかの一方の専用設定欄76(又は77)に優先出力順位(例えば「1」)を設定すれば、他方の専用設定欄77(又は76)には、先に設定した一方の優先出力順位(例えば「1」)に基づいて、相補的な優先出力順位(例えば「2」)が自動的に入力設定される。
【0060】
次に、本実施例の自動分析装置1で吸光光度計44、散乱光度計45による目的成分の定量に適用される透過光強度、散乱光強度の検量線L1,L2を参照しながら、
図2に示した吸光光度計専用設定欄76及び散乱光度計専用設定欄77で設定する“定量範囲”並びに“切替領域設定”、吸光光度計専用設定欄76で設定する“吸光切替下限値”、並びに散乱光度計専用設定欄77で設定する“散乱切替上限値”について説明する。
【0061】
図3は、本実施例の自動分析装置で適用される透過光強度及び散乱光強度を用いた検量線の模式図である。
図3では、横軸に濃度(単位として、例えば[ng/ml]、[μg/ml]、[mg/dl]を適用)、縦軸に吸光度(単位として、例えば[Abs.]を適用)又は散乱光強度(単位として、例えば[count]を適用)を取ったグラフ上に、透過光強度、散乱光強度の検量線L1,L2を模式的に示してある。
【0062】
本実施例の自動分析装置1の場合では、
図3に示すように、
・吸光光度計44の定量範囲C1:5〜40、
・散乱光度計45の定量範囲C2:0.1〜10
になっている。その結果、吸光光度計44の定量範囲C1「5〜40」の定量下限値CL1「5」が散乱光度計45の定量範囲C2「0.1〜10」に含まれ、同様に散乱光度計45の定量範囲C2「0.1〜10」の定量上限値CH2「10」が吸光光度計44の定量範囲C1「5〜40」に含まれている。これに伴い、吸光光度計44の定量範囲C1「5〜40」の検量線L1と散乱光度計45の定量範囲C2「0.1〜10」の検量線L2との間には、吸光光度計44の定量下限値CL1「5」と散乱光度計45の定量上限値CH2「10」で規定される濃度領域の重複領域ROが形成されるようになっている。
【0063】
また、本実施例では、この重複領域RO内に、吸光光度計専用設定欄76で設定された吸光切替下限値CSL「6」と散乱光度計専用設定欄77で設定された散乱切替上限値CSH「9」とで規定される、吸光光度計44と散乱光度計45との間での光度計の切替領域RSが設定される。
【0064】
次に、本実施例の自動分析装置1における分析パラメータの特徴である、(a)重複領域RO、(b)切替領域RS、(c)優先出力順位、及び(d)吸光散乱結果差チェックの設定について説明する。
【0065】
(a) 重複領域ROの設定
同時測定が可能な散乱光度計45、吸光光度計44それぞれの定量範囲C2、C1(C2:0.1〜10、C1:5〜40)の重複領域RO(RO:5〜10)は、光度計共通設定欄75で分類依頼方法として“吸光散乱同時分析”が選択された状態で、散乱光度計専用設定欄77による散乱光度計45の定量範囲(散乱定量範囲)C2の入力と、吸光光度計専用設定欄76による吸光光度計44の定量範囲(吸光度定量範囲)C1の入力とによって設定される。その際、重複領域ROの濃度幅「5」は、散乱光度計45、吸光光度計44による透過光強度、散乱光強度それぞれの測定値AL1、AL2のばらつきによる目的成分の濃度のばらつきの幅と比べて、十分広い幅に設定される。
【0066】
例えば、重複領域ROの濃度幅を「0」、すなわち吸光光度計44の定量下限値CL1と散乱光度計45の定量上限値CH2とを同一の濃度C(例えば、C=CL1=CH2=7)に設定した場合は、1点としての濃度(C=7)が光度計44、45の単一な切り替え閾値Csとなる。
【0067】
このような1点の濃度C(=7)を閾値Csとする場合、閾値Cs以上の濃度C(7≦C)の検体2に対しては吸光光度計44を用いて濃度Cを算出し、閾値Csよりも小さな濃度C(C<7)の検体2に対しては散乱光度計45を用いて濃度Cを算出することになる。ところが、切り替え閾値Cs(=7)付近の濃度Cの検体2を測定した際には、この切り替え閾値Csを基準にした光度計44、45の択一的な選択では、光度計の選択エラーが発生する可能性がある。また、2種の吸光光度計44及び散乱光度計45から、それぞれによって2つの互いに異なる測定濃度が取得されることも起こり得る。
【0068】
閾値Cs(=7)付近の濃度Cの検体2を測定した場合、測定値ALのばらつきから、吸光光度計44では閾値Cs(=7)より低い濃度C(例えば、C=6.9)を算出し、散乱光度計45では閾値Cs(=7)より高い濃度C(例えば、C=7.1)を算出してしまう場合も生じる。その際、重複領域ROの濃度幅が「0」に設定されていると、どちらも閾値Cs(=7)を基準にした定量範囲外となってしまう。これは、吸光光度計44の閾値Cs(=7)を基準にした定量範囲が「7〜40」になり、散乱光度計45の閾値Cs(=7)を基準にした定量範囲が「0.1〜7」になることに因る。その結果、どちらの濃度C(吸光光度計:Ca=6.9、散乱光度計:Cb=7.1)も吸光光度計44及び散乱光度計45それぞれの本来の定量範囲(吸光光度計:5〜40、散乱光度計:0.1〜10)内で正常な測定ができているにもかかわらず、重複領域ROの濃度幅が「0」になっているがために、どちらの算出濃度C(吸光光度計:Ca=6.9、散乱光度計:Cb=7.1)も定量範囲外になってしまうため、測定エラーが出力されてしまう。
【0069】
また、反対に、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれによる測定値ALのばらつきから、どちらの算出濃度C(吸光光度計:Ca=7.1、散乱光度計:Cb=6.9)も閾値Cs(=7)を基準にした定量範囲(吸光光度計:7〜40、散乱光度計:0.1〜7)になってしまった場合は、一つの検体2に対して二つの異なる算出濃度C(吸光光度計:Ca=7.1、散乱光度計:Cb=6.9)が取得されることになってしまう。
【0070】
このような事態が発生するのを避けるために、本実施例の自動分析装置1では、試薬4は、重複領域ROが吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値ALのばらつきによる目的成分の濃度のばらつきの幅に比べて、重複領域ROの濃度幅を十分広く持った試薬を利用する。
【0071】
例えば、事前の試験等により、試薬4のロット毎に光度計の種類それぞれの定量範囲C1、C2が決定され、その定量範囲C1、C2や重複領域ROについての情報が取得されていれば、ユーザは、その取得された定量範囲C1、C2や重複領域ROについての情報を基に、複数種類の光度計を切り替えるための、吸光光度計44の定量下限値CL1や散乱光度計45の定量上限値CH2といった分析パラメータを設定することができる。さらに、その設定の際も、臨床の現場で求められる正確さや精度を考慮して、装置1及び試薬4の性能上、定量に用いても問題の無い濃度範囲を設定する。また、この定量下限値CL1や定量上限値CH2といった、複数種類の光度計を切り替えるための分析パラメータについては、マニュアルで設定する方法や装置で自動設定する方法も考えられる。しかしながら、分析結果の濃度データの信頼性を確保するため、事前の試験等により取得される試薬4の種類毎の定量範囲C1、C2や重複領域ROについての情報を利用するようにすれば、マニュアルで設定する方法や装置で自動設定する方法よりも、複数種類の光度計を切り替えるための分析パラメータを容易に設定することができる。
【0072】
各光度計(吸光光度計44、散乱光度計45)の定量範囲C1、C2は、例えば、(a1)測定値AL1、AL2のばらつき、(a2)検量線CL1、CL2の直線性、(a3)吸光光度計44と散乱光度計45との出力値の乖離、等を考慮して決定される。
【0073】
(a1) 測定値ALのばらつき
測定値ALのばらつきは、同一の検体を、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれで複数回測定したときの透過光強度の測定値AL1、散乱光強度の測定値AL2のそれぞれのばらつきを確認することで得られる。すなわち、臨床の現場で求められる測定値ALのばらつきが許容値以下となるように、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの濃度範囲が設定される。
【0074】
(a2) 検量線L1、L2の直線性
検量線L1、L2の直線性は、複数の濃度の標準物質を吸光光度計44、散乱光度計45それぞれで測定し、横軸(x軸)に標準物質の濃度C、縦軸(y軸)に吸光光度計44で測定された透過光強度AL1、又は散乱光度計45で測定された散乱光強度AL2をプロットする。その上で、透過光強度AL1、散乱光強度AL2それぞれのグラフの傾きが許容値内になる、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの濃度範囲が設定される。
【0075】
(a3) 吸光光度計44と散乱光度計45との間での濃度出力値の乖離
散乱光度計45は高濃度領域では、多重散乱の影響により濃度変化量に対する散乱光強度変化量が減少し、実濃度よりも低い濃度を出力する可能性がある。このため、散乱光度計45による定量上限値CH2は、吸光光度計44と散乱光度計45の出力濃度の乖離が少ない濃度に設定される。
【0076】
上記のような要素を検討し、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの定量範囲C1、C2、及び吸光光度計44と散乱光度計45との間での、それぞれ定量範囲C1、C2の重複領域ROが決定される。
【0077】
(b) 切替領域RSの設定
前述した、吸光光度計44と散乱光度計45との間での定量範囲C1、C2の重複領域ROは、各光度計による定量が可能な検体の濃度範囲であり、散乱光度計45の定量上限値CH2(定量範囲C2が「0.1〜10」である場合の「10」)と吸光光度計44の定量下限値CL1(定量範囲C1が「5〜40」である場合の「5」)で規定される。
【0078】
このような重複領域ROに対して、切替領域RSは、散乱光度計45と吸光光度計44との間で光度計それぞれの測定値のばらつきが同程度となる同一検体における濃度領域であり、散乱光度計45の切替上限値CSHと、吸光光度計44の切替下限値CSLとによって規定できる。
【0079】
事前の試験等により、重複領域ROにおける吸光光度計44と散乱光度計45との間で、光度計それぞれの測定値AL1、AL2のばらつきに明らかな差があることが判明している場合は、定量範囲C1、C2とは別に、さらに散乱光度計45の切替上限値CSHや吸光光度計44の切替下限値CSLは設定しなくてもよい。例えば、一方の光度計の測定値のばらつきに対して他方の光度計の測定値のばらつきが重複領域ROの全域に亘って小さい場合等は、吸光光度計44と散乱光度計45との間で重複領域ROにおいての優先順位を設定しておけばよい。
【0080】
しかしながら、どちらの光度計も測定値AL1、AL2のばらつきが同程度の場合、光度計の装置間での個体差の影響を考慮し、アプリケーション設定画面71で散乱光度計45の切替上限値CSH、吸光光度計44の切替下限値CSLを設定して、装置上で切替領域RSを決定することが望ましい。
【0081】
切替領域RSの設定においては、次の(ア)、(イ)、(ウ)の方法を採用し得る。
(ア) 事前に試験等で、該当の試薬4のロットから決定した切替領域RSを入力する。
(イ) 複数の光学系の測定結果、試薬4の感度等から切替領域RSを決定し、自動的にその決定した切替領域RSの切替上限値CSHと切替下限値CSLを設定する。
(ウ) 切替上限値CSHと切替下限値CSLをオペレータが自由に入力することができる。マニュアルで設定可能である。
【0082】
上記(ア)では、ユーザは、例えば、事前の試験等によって、試薬のロット毎に決定した、切替領域RSについての切替上限値CSH、切替下限値CSLの情報を使用することも可能である。
【0083】
上記(イ)では、自動分析装置1に蓄積された濃度の測定結果から、重複領域ROの領域内における、さらに吸光光度計44と散乱光度計45との測定値のばらつきが同程度となる領域を求め、設定する。
【0084】
ここで、上記(イ)に係り、自動分析装置1のデータ格納部55に蓄積されたデータから切替領域RSを自動で設定するための処理フローについて説明する。なお、この場合は、自動分析装置1のデータ格納部55に十分なデータが蓄積するまでの間は、事前の試験の結果を基に決定した重複領域ROを用いて、目的成分の成分量の測定(濃度Cの測定)を行うことになる。
【0085】
事前の試験により自動分析装置1のデータ格納部55に十分なデータ蓄積結果が得られた後は、吸光光度計44の測定値AL1から算出した濃度Caそれぞれと、散乱光度計45の測定値AL2から算出した濃度Cbそれぞれとをグラフ上にプロットし、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれによる算出濃度Ca、Cbのばらつきの傾向を分析することによって、切替領域RSを自動的に設定することができる。
【0086】
図4は、吸光光度計の測定値から算出した濃度と、散乱光度計の測定値から算出した濃度との関係を、プロットした図である。
【0087】
図4では、横軸(x軸)を吸光光度計44の測定値から算出される濃度(単位として、例えば[ng/ml]、[μg/ml]、[mg/dl]を適用)とし、縦軸(y軸)を散乱光度計45の測定値から算出される濃度(単位として、例えば[ng/ml]、[μg/ml]、[mg/dl]を適用)として示したグラフ上に、同じ検体2に含まれる目的成分について、吸光光度計44の実際の測定値AL1から算出した濃度(x=Ca)と散乱光度計45の実際の測定値AL2から算出した濃度(y=Cb)との組み合わせを、 (x,y)=(Ca,Cb)
として、プロットしたものである。
【0088】
ここで、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの実際の測定値AL1、AL2から算出した濃度Ca、Cbが、ともに実際の測定値AL1、AL2のばらつきがなく、常に真値を示す場合、両濃度Ca、Cbをプロットしたグラフは、吸光光度計44による濃度Caは散乱光度計45による濃度Cbと同じ値になり、両濃度Ca、Cbは、1:1(すなわち、Ca=Cb)の対応関係になる。したがって、両濃度Ca、Cbの関係は、
図4に示したグラフにおいては、
y=x
の式に従う。
【0089】
しかしながら、実際には、どちらの光度計もその測定値ALにはばらつきがある。通常、吸光度検出法は、低濃度側での測定値AL(=AL1)のばらつきが大きく、高濃度側では測定値AL1のばらつきが小さい傾向になる。これに対して、光散乱検出法では、低濃度側では測定値AL(=AL2)のばらつきが小さく、高濃度側では測定値AL2のばらつきが大きい傾向になる。
【0090】
そのため、
図4に示したグラフにおいては、検体毎の吸光光度計44及び散乱光度計45それぞれの実際の測定値AL1、AL2から算出した濃度(x,y)=(Ca,Cb)のプロット群は、全てプロットがy=xで示される直線上に分布しておらず、y=xで示される直線を中心にして、ばらつきを有したプロット群となる。
【0091】
具体的には、低濃度側の濃度(x,y)=(Ca,Cb)のプロットでは、吸光光度計44の測定値AL1に生じるばらつきの影響を大きく受けることから、その吸光光度計44による濃度「Ca」は、y=xで示される直線上の真値から外れ、y=xで示される直線に対して大きくばらつくことになる。一方、高濃度側の濃度(x,y)=(Ca,Cb)のプロットでは、散乱光度計45の測定値AL2に生じるばらつきの影響を大きく受けることから、その散乱光度計45による濃度「Cb」は、y=xで示される直線上の真値から外れ、y=xで示される直線に対して大きくばらつくことになる。
【0092】
したがって、吸光光度計44の定量範囲C1の定量下限値CL1から散乱光度計45の定量範囲C2の定量上限値CH2までの自動分析装置1のダイナミックレンジについても、検体毎の吸光光度計44及び散乱光度計45それぞれの実際の測定値から算出した濃度(x,y)=(Ca,Cb)のプロット群は、その個々のプロットが上述した吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値AL1、AL2のばらつきの影響を受けて、重複領域ROの濃度幅、すなわちy=xで示される直線の長さ方向に沿って、y=xで示される直線に対してのばらつきの広がりが変化するプロットになる。ここで、ばらつきの広がりは、個々の濃度のプロット(x,y)=(Ca,Cb)から、y=xで示される直線に下ろした垂線の長さ、すなわち、y=xで示される直線からの距離lで表される。
【0093】
そして、検体毎の吸光光度計44及び散乱光度計45それぞれの実際の測定値AL1、AL2から算出した濃度(x,y)=(Ca,Cb)それぞれは、上述した吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値AL1、AL2のばらつきの影響から、次のような傾向を有する。
【0094】
すなわち、吸光光度計44の実際の測定値AL1から算出した濃度Caの真値に対するばらつきと、散乱光度計45の実際の測定値AL2から算出した濃度Cbの真値に対するばらつきとが同程度となる中間濃度領域では、低濃度側又は高濃度側になる中間濃度領域の両側の濃度領域に比べて、その中間濃度領域に含まれる濃度(x,y)=(Ca,Cb)のプロット全体が、y=xで示される直線からの距離lが近い位置に集まり、y=xで示される直線に対するばらつきの広がりが小さくなる。
【0095】
そこで、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの定量範囲C1、C2の重複領域ROにおいて、y=xで示される直線に対する濃度(x,y)=(Ca,Cb)に係るプロット群の最大乖離(ばらつき)が最も小さくなる、直線y=x上の点、すなわち点(x,y)=(Cap,Cbp)=(Cbp,Cbp)を算出する。そして、この点を基準点BPとして、この基準点BPに対応する濃度Cbpを濃度基準点とし、吸光光度計44と散乱光度計45との間でこの濃度基準点Cbpを領域内に含む切替領域RSを設定することができる。
【0096】
このような基準点BPに対応する切替領域RSの濃度基準点Cbpは、自動分析装置1のデータ格納部55に十分な数の検体の分析データが蓄積されている状態で、例えば、次のようにして取得することができる。
【0097】
例えば、自動分析装置1のデータ格納部55に蓄積されている一の検体Aの分析が行われたときに、吸光光度計44による測定値AL1から算出した濃度Cを「a」、散乱光度計45による測定値AL2から算出した濃度Cを「b」とする。
その上で、
図4に示したグラフにこの検体Aの濃度(x,y)=(a,b)をプロットし、そのプロットした点A(a,b)から直線y=xに下ろした垂線と直線y=xとの交点A’を求めると、
交点A’((a+b)/2,(a+b)/2)
となる。
【0098】
このとき、原点Oから交点A’までの距離rは
r=(a+b)/√2
となり、
また、点AA’間の距離lは、直線y=xより上部に位置する点からの距離を正とすると、
l=(b−a)/√2
となる。
【0099】
そこで、自動分析装置1上では、分析制御部50は、検体2を分析する度に、このr、lからなる距離情報を算出して、データ格納部55にその反応液3を形成した検体2及び試薬4と対応づけて蓄積する。
【0100】
図5は、本実施例の自動分析装置1において切替領域の濃度基準点を算出する例を示した図である。
【0101】
分析制御部50は、
図5に示すように、吸光光度計44と散乱光度計45の定量範囲C1,C2が重なる重複領域ROを、予め設定されている単位距離に基づいて、複数の個別単位領域に分割する。そして、この分割された個別単位領域毎に、当該個別単位領域に含まれる距離rの点A(a,b)全てについて、各点A(a,b)の距離lの値をもとに、当該個別単位領域における点A(a,b)全体の距離lのばらつき度合(標準偏差)σが、分析制御部50によって算出される。
図5中では、重複領域ROの個別単位領域毎に算出された、個別単位領域全体の、距離lのばらつき度合(標準偏差)σが、黒丸点●を用いてプロットしてある。
【0102】
図5において、その横軸は、
図4のグラフで示した原点Oから交点A’までの距離rの大きさに該当する。そして、その横軸における各個別単位領域に対応した距離rの大きさ部分は、
図4に示した直線y=x上の該当位置部分における、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの濃度Cにも対応する。
【0103】
分析制御部50は、距離rの大きさ、及び吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの定量範囲C2、C1の重複領域ROを分割した個別単位領域それぞれの距離lのばらつき度合(標準偏差)σから、重複領域RO内における、吸光光度計44の実際の測定値から算出した濃度Caと散乱光度計45の実際の測定値から算出した濃度Cbとの乖離度合の傾向を、把握することができる。さらに、重複領域ROの領域内において、吸光光度計44と散乱光度計45との間で、測定値のばらつきが同程度となる個別単位領域の傾向も把握することができる。
【0104】
そこで、分析制御部50は、
図5において、距離rに応じた個別単位領域毎に求められてプロットされたばらつき度合(標準偏差)σを基に、重複領域ROにおける吸光光度計44よる濃度Caと散乱光度計45よる濃度Cbとの乖離度合の傾向を表した2次の多項式近似曲線等を求め、その極小値を算出する。そして、分析制御部50は、その極小値に該当する距離r、すなわちこの距離rに対応した濃度Cが、吸光光度計44と散乱光度計45それぞれにより測定された濃度Ca、Cbのばらつきが同程度となり、吸光光度計44と散乱光度計45との間で測定精度の高低が入れ替わる濃度領域であることを推定することができる。
【0105】
その上で、分析制御部50は、ばらつき度合(標準偏差)σの極小値になる距離rを、光度計の濃度Cに変換したものを濃度基準点(すなわち、濃度Cbp)として、重複領域RO内に光度計の切替領域RSを設定する。その際、切替領域RSの濃度幅は、アプリケーション設定画面71の光度計共通設定欄75により、吸光散乱結果差チェック値として設定した濃度幅が設定される。
【0106】
なお、算出した基準点BPが、どちらか一方の光度計の定量限界値(具体的には、吸光光度計44の定量下限値CL1又は散乱光度計45の定量上限値CH2)に近く、基準点BP濃度に対応する濃度基準点Cbpを切替領域RSの中心値に設定できない場合は、切替領域RSの一方の領域端の値をこの定量限界値と同一にして、切替領域RSを設定する。この場合は、この定量限界値から吸光散乱結果差チェックで設定した濃度幅を加えた値位置、または減じた値位置が、重複領域ROのもう一方の領域端として設定される。これにより、切替領域RSは、重複領域RO内で、基準点BPに対してずらされ、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値ALのばらつきの幅に比べてその幅が小さくならないようにしている。
【0107】
また、切替領域RSの幅は、基準点BPにおける距離lの値のばらつき度合(標準偏差)σの8倍幅、すなわち切替領域RSの中央値±4σを、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの定量範囲C1,C2が重なる重複領域ROにおける、切替領域RSの濃度幅としてもよい。
【0108】
また、吸光光度計44と散乱光度計45の定量範囲が重なる重複領域RO内で、極小値が算出できない場合は、切替領域RSを設定せず、重複領域RO内における設定値を用いて光度計を選択する。
【0109】
(c) 優先出力順位の設定
吸光光度計44、散乱光度計45間における優先出力順位は、測定値の信頼性が高い方の光度計の測定結果を選択的に出力するために設定される。設定された優先出力順位は、検体を測定した結果、吸光光度計44が算出した濃度Caが、切替領域RSの切替下限値CSL、又は定量範囲C1の定量下限値CL1以上であり、かつ、散乱光度計45が算出した濃度Cbが、切替領域RSの切替上限値CSLH、又は定量範囲C2の定量上限値CH2以下であるときに、有効になる。
【0110】
優先出力順位は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値ALのばらつきや、検体に含まれる共存物質の影響を考慮して決定される。測定値ALのばらつきの影響を考慮する必要があるのは、例えば、事前の試験等により吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの定量範囲C1、C2の重複領域ROにおける、吸光光度計44と散乱光度計45との間で、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値ALのばらつきに明らかな差がある場合である。この場合は、測定値ALのばらつきの大きい方の光度計の優先出力順位よりも、測定値ALのばらつきの小さい方の光度計の優先出力順位を高く設定する。優先出力順位の設定情報は、例えば、事前の試験等により試薬のロット毎に決定された情報をユーザが利用することも可能である。
【0111】
吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの測定値ALのばらつきが同程度の場合は、共存物質の影響を考慮して優先出力順位を決定する。
【0112】
検体には、目的成分の分析に影響を与える共存物質が混入している場合がある。共存物質には、脂質、ヘモグロビン、ビリルビン等があり、それらが混入した異常検体は、それぞれ乳び、溶血、黄色と呼ばれる。溶血と黄色は、検体の色変化を起こすため、主に吸光光度計44への影響が大きく、乳ビは、検体の濁度変化を起こすため、主に散乱光度計45への影響が大きい。自動分析装置1には、上記共存物質の濃度を分析する機能が搭載されており、算出された共存物質の影響レベルによって、装置が自動で優先出力順位を設定する。具体的な設定例を以下に説明する。
【0113】
自動分析装置1では、検体に含まれる共存物質の濃度や影響度合いに応じて、1から3の3段階にレベル分けを行う。検体の共存物質を測定した結果、例えば、溶血のレベルが「1」、乳ビのレベルが「2」と判定され、吸光光度計44への影響が大きい溶血よりも散乱光度計45への影響が大きい乳ビの影響度合いが大きくなることが予想された場合には、散乱光度計45が算出した濃度に比べ、吸光光度計44が算出した濃度の方が、正確性が高い、と言えるため、吸光光度計44の優先出力順位を高く設定する。
【0114】
優先出力順位の決定のためのパラメータ設定では、検体中の共存物質としての溶血及び/又はビリルビンのレベルと、共存物質としての乳ビのレベルとの大小を比較し、優先順位を切り替える方法がある。また、吸光光度計44の設定波長(2波長測光の主/副)が、共存物質の影響を受けない波長に設定されていた場合は、散乱光度計45への影響が大きい共存物質の乳ビのレベルに判定基準を設定して優先順位を切り替える方法がある。この方法では、設定値以上のレベルの乳ビが算出されたときには、吸光光度計44を用いて検体の成分濃度を算出し、設定値以下のレベルの場合には、散乱光度計45を用いて検体の成分濃度を算出する。
【0115】
乳ビと溶血及び/又は黄色とで、検体の共存物質の混入レベルが同程度の場合は、測定値のばらつきも同程度となるように、定量範囲C1,C2の重複領域ROにおける切替領域RSが設定されていることから、どちらの光度計を選択しても同等の正確さを持った濃度を出力することができる。そのため、
図2に示したアプリケーション設定画面71により、優先出力順位は、吸光光度計44と散乱光度計45のどちらを高く設定してもよいが、反応容器25の傷や検体中の気泡の影響を受けにくい吸光光度計44の優先出力順位を高く設定することが望ましい。本実施例では、散乱光度計45と吸光光度計44とにそれぞれ優先出力順位を設定する例を示したが、優先出力する光度計を選択する形態をとっても同様な効果が得られる。
【0116】
(d) 吸光散乱結果差チェックの設定
本実施例の自動分析装置1において、吸光散乱同時分析を実施した場合、同一の検体に対し、吸光光度計44と散乱光度計45とを用いて、検体の成分濃度を測定する。吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの定量範囲の重複領域ROにおいては、上述したとおり、測定値のばらつきや共存物質の影響から、散乱光度計45が算出した濃度と吸光光度計44が算出した濃度とに、乖離が発生する。その乖離幅が、臨床の現場で許容される測定値のばらつきの幅を超えた場合、測定時に散乱光度計45、吸光光度計44の中のいずれかの光度計で異常が発生した可能性がある。自動分析装置1は、データが吸光散乱結果差チェック値を超えて乖離した場合、測定異常としてアラームを表示させる。
【0117】
その際、アプリケーション設定画面71の吸光散乱結果差チェック値に設定する検体の濃度幅は、測定値のばらつきや共存物質の影響を考慮し、許容できる最大幅に設定する。異常発生の判定は、例えば、散乱光度計45が算出した濃度と吸光光度計44が算出した濃度との差分をとり、吸光散乱結果差チェック値のパラメータ設定で入力した濃度幅と比較し、設定値を超えた場合にはアラームを表示する形態をとる。
【0118】
また、吸光散乱結果差チェック値で設定した濃度幅は、上述した吸光光度計44と散乱光度計45との間での切替領域Rsの濃度幅を設定する際にも利用される。吸光光度計44と散乱光度計45との間での切替領域RSを設定する目的は、吸光光度計44と散乱光度計45とがどちらも正常な測定濃度が算出できているにもかかわらず、測定値のばらつきから、どちらも定量範囲外となり、測定エラーが出力されてしまう事態が発生することを防ぐことである。許容される測定値の乖離幅を設定し、その乖離幅を切替領域の濃度幅とすることで、上記問題を回避することができる。
【0119】
(2) 濃度出力方法
本実施例の自動分析装置1による濃度出力方法について説明するに当たって、まず、分析制御部50の測定部51、解析部52、及び制御部53によって行われる、分析依頼があった検体についての分析処理について説明する。
【0120】
自動分析装置1の分析制御部50では、分析依頼があった検体の分析処理について、同一の検体を吸光光度計44と散乱光度計45の2つの光度計を用いて測定する“吸光散乱同時分析”依頼が、予めアプリケーション設定画面71を用いて設定されているか否かについて、制御部53によって判定される。
【0121】
制御部53は、“吸光散乱同時分析”依頼が設定されている場合は、測定部51及び解析部52に、吸光光度計44及び散乱光度計45から得られる測定値AL1及びAL2を基に、分析依頼があった検体の分析処理を行わせる。“吸光散乱同時分析”依頼が設定されておらず、吸光光度計44又は散乱光度計45のいずれか一方による分析依頼が設定されている場合は、制御部53は、測定部51及び解析部52に、対応する吸光光度計44から得られる測定値AL1又は散乱光度計45から得られるAL2を基に、分析依頼があった検体の分析処理を行わせる。
【0122】
これにより、分析制御部50では、分析依頼のあった検体について、測定部51が、吸光光度計44及び/又は散乱光度計45から得られる測定値AL1及び/又はAL2を基に、透過光強度及び/又は散乱光強度を求める。そして、測定部51は、求めた透過光強度及び/又は散乱光強度を、分析依頼のあった検体が分注された反応容器25、又はこの検体2の分析依頼と対応づけて、データ格納部55にデータを格納する。
【0123】
一方、解析部52は、測定部51によって求めた透過光強度及び/又は散乱光強度を、事前に作成してある対応試薬の検量線L1,L2を用いて、検体の目的成分の成分濃度Ca及び/又はCbに換算する。そして、解析部52は、算出した検体の目的成分の成分濃度Ca及び/又はCbを、分析依頼のあった検体が分注された反応容器25、又はこの検体2の分析依頼と対応づけて、データ格納部55にデータを格納する。
【0124】
その際、解析部52は、測定値AL1及び/又はAL2から求めた透過光強度及び/又は散乱光強度が、事前にアプリケーション設定画面71で設定してある吸光光度計44、散乱光度計45の定量範囲C1、C2内に収まっているかをチェックするテクニカルリミットチェックを実施する。そして、解析部52は、定量範囲C1、C2を超えている場合は、算出した成分濃度に“テクニカルリミットエラー”を付け加えて、データ格納部55に格納する。
【0125】
また、分析依頼方法として“吸光散乱同時分析”が設定され、吸光光度計44と散乱光度計45とを用いて同一の検体を分析した場合は、解析部52は、吸光散乱結果差チェックを実施する。この吸光散乱結果差チェックでは、測定値のばらつきや共存物質の影響から、吸光光度計44により算出された濃度Caと散乱光度計45により算出された濃度Cbとの間に、
図2に示したアプリケーション設定で設定した“吸光散乱結果差チェック値”の濃度値を超える乖離が発生しているか否かが確認される。吸光光度計44、散乱光度計45が算出した濃度Ca,Cbの乖離幅が設定値を超えている場合は、測定値のばらつきや共存物質の影響から、測定時に吸光光度計44、散乱光度計45の中のいずれかの光度計で異常が発生した可能性がある。解析部52は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれによる濃度Ca,Cbの乖離幅が設定値を超えている場合は、濃度Ca,Cbに“吸光散乱結果差エラー”を付け加えて、データ格納部55に格納する。
【0126】
また、この分析依頼のあった検体の分析作業中に制御部53が異常の発生を判定し、異常による測定エラーが生じている場合は、解析部52は、算出した検体の目的成分の成分濃度Ca及び/又はCbをデータ格納部55に格納する際、“分析操作中のエラー”を付け加える。制御部53は、分析作業中、ディスク10、20、30、分注機構41、42、光度計44、45等の自動分析装置1におけるそれぞれの構成部の作動制御を行うとともに、これらいずれかに異常が発生したか否かを監視している。
【0127】
その上で、分析制御部50では、分析依頼があった検体について、測定部51及び解析部52による分析結果の出力は、吸光散乱同時分析判定部56、測定時異常チェック部57、濃度範囲チェック部58、及び優先出力判定部59によって、出力部61に対し、分析結果の出力制御が行われる。この分析結果の出力制御について、
図6を参照しながら説明する。
【0128】
図6は、吸光光度計及び/又は散乱光度計を用いて、目的成分の濃度出力に用いる光度計を選択する濃度出力判定フローチャートである。
【0129】
吸光散乱同時分析判定部56は、分析結果を出力部61に出力する検体について、分析依頼の際にアプリケーション設定画面71で設定された検体の測定依頼形式が、同一検体を吸光光度計44と散乱光度計45の2つの光度計を用いて測定する“吸光散乱同時分析”依頼であるか否かを判定する(ステップS601)。
【0130】
吸光散乱同時分析判定部56は、“吸光散乱同時分析”依頼が設定されていないこと、すなわち、吸光光度計44又は散乱光度計45の中のいずれか一方による分析依頼が設定されていることを判定すると、設定された吸光光度計44又は散乱光度計45のいずれかで測定した全てのデータを、出力部61へ出力する(ステップS602)。これにより、出力部61からは、設定された光度計による濃度を含む、設定された光度計で測定したデータが出力される。
【0131】
なお、吸光散乱同時分析依頼でない検体の測定依頼形式としては、吸光光度計44又は散乱光度計45のみを用いた単項目依頼や、吸光光度計44のみを用いて測定対象として同一反応容器内の検体の2種類の目的成分を分析する吸光吸光同時分析依頼等がある。
【0132】
これに対し、吸光散乱同時分析判定部56は、“吸光散乱同時分析”依頼が設定されていることを判定すると、分析依頼があった検体についての、吸光光度計44により算出された濃度Caと散乱光度計45により算出された濃度Cbとを含む、吸光光度計44及び散乱光度計45で測定した全てのデータを、測定時異常チェック部57を介して出力する。
【0133】
“吸光散乱同時分析”依頼が設定されている場合、測定時異常チェック部57は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出された濃度Ca、Cbが正常に測定されたものであるか否か、を判定する(ステップS603)。具体的には、測定時異常チェック部57は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出された濃度Ca、Cbについて、濃度Ca、Cbのいずれかに “テクニカルリミットエラー”が付け加えられているか否か、濃度Ca、Cbの両方に“吸光散乱結果差エラー”が付け加えられているか否か、及び濃度Ca、Cbのいずれかに“分析操作中のエラー”が付け加えられているか否かに基づいて、濃度Ca、Cbが正常に測定されたものであるか否か、を判定する。
【0134】
“テクニカルリミットエラー”は、測定部によって求められた光強度(透過光強度又は散乱光強度)が定量範囲(C1又はC2)内に収まっていないことを示し、エラーがあった場合は、エラーが確認された濃度Ca、Cb毎に個別に付け加えられる。“吸光散乱結果差エラー”は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれによる濃度Ca,Cbが設定値を超えて乖離していることを示し、エラーがあった場合は、濃度Ca、Cb両方に付け加えられる。“分析操作中のエラー”は、分析作業中に異常発生による測定エラーが発生していることを示し、エラーがあった場合は、エラーが確認された濃度Ca、Cb毎に個別に付け加えられる。
【0135】
この判定の結果、吸光光度計44から得られた測定値AL1及び透過光強度にエラーがあり、散乱光度計45から得られた測定値AL2及び散乱光強度にエラーがないことを判定すると、測定時異常チェック部57は、散乱光度計45による濃度Cbを含む、散乱光度計45で測定した全てのデータだけを出力部61へ出力する(ステップS606)。これにより、出力部61からは、エラーがない、散乱光度計45による濃度Cbを含む散乱光度計45で測定したデータが、優先的に出力される。
【0136】
一方、吸光光度計44から得られた測定値AL1及び透過光強度にエラーがなく、散乱光度計45から得られた測定値AL2及び散乱光強度にエラーがあることを判定すると、測定時異常チェック部57は、吸光光度計44による濃度Caを含む、吸光光度計44で測定した全てのデータだけを出力部61へ出力する(ステップS608)。これにより、出力部61からは、エラーがない、吸光光度計44による濃度Caを含む、吸光光度計44で測定したデータが、優先的に出力される。
【0137】
また、測定時異常チェック部57は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出された濃度Ca、Cbがどちらも正常出力であり、或いはどちらもエラー出力であることを判定すると、吸光光度計44及び散乱光度計45で測定した全てのデータを、濃度範囲チェック部58を介して出力する。この出力データには、分析依頼があった検体についての、吸光光度計44により算出された濃度Caや、散乱光度計45により算出された濃度Cbも含まれている。
【0138】
ステップS601で、吸光散乱同時分析依頼が設定されていることが判定され、かつステップS603で、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出された濃度Ca、Cbが正常に測定されたものであることが判定された場合、濃度範囲チェック部58は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出された濃度Ca、Cbの濃度範囲チェックを行う(ステップS604)。濃度範囲チェック部58は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出した濃度Ca、Cbについて、散乱光度計45による濃度Cbが切替領域RSの切替上限値CSH以下であるか否か、及び吸光光度計44による濃度Caが切替下限値CSL以上であるか否かを判定する。
【0139】
濃度範囲チェック部58が、散乱光度計45により算出した濃度Cbが切替上限値CSH以下であり、吸光光度計44により算出した濃度Caの出力した濃度が切替下限値CSLよりも小さいことを判定すると、濃度範囲チェック部58は、散乱光度計45による濃度Cbを含む、散乱光度計45で測定した全てのデータだけを出力部61へ出力する(ステップS606)。この判定状態は、検体の成分濃度が、吸光光度計44の測定値AL1のばらつきが大きく、散乱光度計45の測定値AL2のばらつきが小さい濃度領域にあることを示す。これにより、出力部61からは、散乱光度計45により算出した濃度Cbを含む、散乱光度計45で測定したデータだけが出力される。
【0140】
濃度範囲チェック部58が、散乱光度計45により算出した濃度Cbが切替上限値CSHを超え、吸光光度計44により算出した濃度Caの出力した濃度が切替下限値CSL以上であることを判定すると、濃度範囲チェック部58は、吸光光度計44による濃度Caを含む、吸光光度計44で測定した全てのデータだけを出力部61へ出力する(ステップS608)。この判定状態は、検体の成分濃度が、吸光光度計44の測定値AL1のばらつきが小さく、散乱光度計45の測定値AL2のばらつきが大きい濃度領域にあることを示す。これにより、出力部61からは、吸光光度計44により算出した濃度Caを含む、吸光光度計44で測定したデータだけが出力される。
【0141】
濃度範囲チェック部58は、散乱光度計45により算出した濃度Cbが切替上限値CSHを超え、かつ吸光光度計44により算出した濃度Caの出力した濃度が切替下限値CSLよりも小さいこと、又は、散乱光度計45により算出した濃度Cbが切替上限値CSH以下であり、かつ吸光光度計44により算出した濃度Caが切替下限値CSL以上であることを判定すると、濃度範囲チェック部58は、吸光光度計44及び散乱光度計45で測定した全てのデータを、優先出力判定部59を介して出力する。この出力データには、吸光光度計44により算出された濃度Caや、散乱光度計45により算出された濃度Cbも含まれている。
【0142】
この判定において、散乱光度計45により算出した濃度Cbが切替上限値CSHを超え、吸光光度計44により算出した濃度Caの出力した濃度が切替下限値CSLよりも小さいことは、吸光光度計44により算出した濃度Ca及び散乱光度計45により算出した濃度Cbのどちらもが切替領域RSを外れていることを意味する。すなわち、これは、吸光光度計44により算出した濃度Caと散乱光度計45により算出した濃度Cbの乖離幅が、臨床の現場で許容される測定値のばらつきの幅を超えていることを示し、算出された濃度Ca、Cbの両方には“吸光散乱結果差エラー”が付け加えられている。
【0143】
また、この判定において、散乱光度計45により算出した濃度Cbが切替上限値CSH以下であり、吸光光度計44により算出した濃度Caが切替下限値CSL以上であることは、吸光光度計44、散乱光度計45いずれも切替限界値内で、定量範囲C1,C2内であることを意味する。この吸光光度計44、散乱光度計45いずれも切替限界値内で、定量範囲C1,C2内であることは、吸光光度計44により算出した濃度Ca及び散乱光度計45により算出した濃度Cbのどちらもが切替領域RS内であることを含む。
【0144】
ステップS601で、吸光散乱同時分析依頼が設定されていることが判定され、ステップS603で、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより算出された濃度Ca、Cbがいずれも正常に測定されたものであることが判定され、かつステップS604で、散乱光度計45による濃度Cbが切替領域RSの切替上限値CSH以下で、吸光光度計44による濃度Caが切替下限値CSL以上であることが判定された場合は、優先出力判定部59は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれについて、光度計の優先出力判定を行う(ステップS605)。すなわち、優先出力判定部59は、分析依頼の際にアプリケーション設定画面71で設定された吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの“優先出力判定/順位”に基づいて、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれの優先出力を判定する。
【0145】
具体的には、
図2に示したアプリケーション設定画面71に示したように、散乱光度計45による濃度Cbの出力が、吸光光度計44による濃度Caの出力に対して、優先設定されている場合、優先出力判定部59は、散乱光度計45による濃度Cbを含む、散乱光度計45で測定した全てのデータだけを出力部61へ出力する(ステップS606)。これにより、出力部61からは、エラーがない、散乱光度計45による濃度Cbを含む散乱光度計45で測定したデータが、優先的に出力される。
【0146】
反対に、吸光光度計44による濃度Caの出力が、散乱光度計45による濃度Cbの出力に対して、優先設定されている場合、優先出力判定部59は、吸光光度計44による濃度Caを含む、吸光光度計44で測定した全てのデータだけを出力部61へ出力する(ステップS608)。これにより、出力部61からは、エラーがない、吸光光度計44による濃度Cbを含む吸光光度計44で測定したデータが、優先的に出力される。
【0147】
また、吸光光度計44と散乱光度計45との間で優先出力順位が設定されていない場合は、吸光光度計44により算出された濃度Caと散乱光度計45により算出された濃度Cbとを含む、吸光光度計44及び散乱光度計45で測定した全てのデータを、出力部61へ出力する(ステップS607)。これにより、出力部61からは、吸光光度計44による濃度Caと散乱光度計45による濃度Cbとを含む、吸光光度計44及び散乱光度計45で測定した全てのデータが、出力される。
【0148】
なお、優先出力判定部59は、優先判定した結果の吸光光度計44及び/又は散乱光度計45で測定したデータを出力部61へ出力する際(ステップS606、S607、S608)、吸光光度計44による濃度Ca及び/又は散乱光度計45による濃度Cbに“吸光散乱結果差エラー”のようなエラーが付け加えられている場合は、出力部61に出力するデータにも、エラーを付け加えて出力する。したがって、ステップS606〜S608での出力部61からの出力では、“吸光散乱結果差エラー”のようなエラーが付け加えられている場合は、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれで測定したデータに対応させて、そのエラー内容も出力される。
【0149】
以上のように、本実施例の自動分析装置は、吸光光度計44と散乱光度計45とを備え、各分析項目について吸光光度計44と散乱光度計45との2つの光度計で同時に分析し、どちらの光度計でも定量が可能な重複領域RO及び/又は切替領域RSを設定し、同時に上記2つの光度計のうち濃度出力に用いる光度計の優先出力順位を設定し、上記2つの光度計のそれぞれが算出した試料の濃度が、どちらも定量可能な濃度範囲C1、C2に存在するとき、設定した光度計の優先出力順位に基づき優先度の高い光度計を選択し、選択した光度計が検出した光に基づく濃度を上記試料の濃度に決定する、構成とした。これにより、吸光光度計44と散乱光度計45との選択が必要な濃度範囲において、光度計の選択エラーを起こすことなく測定結果を出力することができ、臨床サイドはエラーに伴う再検査を実施する必要がなくなる。これにより、吸光光度計44と散乱光度計45との切り替え選択を、光度計の選択エラーを起こすことなく的確に行うとともに、検体中に含まれる目的成分の成分量の測定を高精度且つ高速に実行できる。
【0150】
なお、上述した実施例においては、重複領域RO内に切替領域RSを作製するために基準点BP及び濃度基準点Cbpは、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれのデータ出力の際は使用していないが、切替領域RS内をさらに基準点BP及び濃度基準点Cbpを基準にして複数のサブ切替領域rsに分けて、吸光光度計44、散乱光度計45それぞれにより測定された濃度が、この複数のサブ切替領域rsの中のいずれに含まれるかのパターンに応じて、切替領域RSに吸光光度計44、散乱光度計45それぞれのデータ出力が含まれる場合であっても、そのサブ切替領域rsに対応させて出力する光度計を自動で選択させようにしてもよい。
【0151】
なお、上述した例においては、吸光光度計44と散乱光度計45との2つの光度計を使用する場合の例であるが、その他の方式の光度計であって、方式が異なる複数の光度計を使用する場合にも、本開示は適用可能である。例えば、光源の波長や光量、受光角度が異なる2つの散乱光度計を搭載した自動分析装置や、反応容器を透過する光路長を変化させた2つの吸光光度計を搭載した自動分析装置、これらの散乱光度計や吸光光度計を組み合わせた3つ以上の光度計を搭載した自動分析装置においても、光度計の切り替えが必要な濃度領域において適用可能である。