(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パイプ部には、周方向に向けて、前記パイプ部の変形防止のためのビードが形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の壁部貫通部材の取り付け構造。
前記ネジ傾斜防止部は、前記ネジの収容部の前記パイプ部側の幅を幅狭に絞った形状であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の壁部貫通部材の取り付け構造。
前記突起部は、前記係止部の先端近傍と、前記ネジ孔の近傍のそれぞれに形成され、前記ネジ孔の近傍の前記突起部の高さが、先端近傍の前記突起部の高さよりも高いことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の壁部貫通部材の取り付け構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のような壁部貫通構造は、壁部貫通部材がキッチンなどの高温の排気を行う用途に対しては、使用中に樹脂が変色、強度低下等劣化するため、使用することができない。
【0009】
一方、特許文献2の壁部貫通部材は、金属製であるため、キッチンなどの高温の排気を行う必要がある部位に適用できる。しかし、壁部への固定時には、フランジ部材に形成したネジ孔とネジとの遊びにより、ネジの傾きが大きくなり、係止部材を壁部に安定して接触させることが困難な場合がある。
【0010】
図14は、従来の壁部貫通部材100が壁部121に取り付けられた構造を示した部分断面図である。壁部貫通部材100は、主に、フランジ部材103、パイプ部105、弾性部材107、ネジ109、係止部材113、水膨張性部材115等から構成される。
【0011】
パイプ部105は、金属製の筒状体であり、所定の長さで形成される。パイプ部105の外周面には、金属製のフランジ部材103が溶接等によって接合される。フランジ部材103を貫通するように、ネジ109が設けられる。ネジ109は、フランジ部材103の前面側から挿通される。
【0012】
ネジ109には、回転規制部材であるOリング111が設けられる。また、ネジ109のOリング111の後方には係止部材113が螺合する。回転規制部材はネジ109に対して、係止部材113の空回りを防止する部材である。壁部貫通部材100の前方からネジ109を回転させると(図中矢印X方向)、係止部材113がOリング111に接触する。係止部材113がOリング111に接触すると、係止部材113はOリング111によって抵抗を受ける。したがって、係止部材113は、ネジ109とともに回転する。
【0013】
係止部材113は、係止部材113の一方の端部(ネジ109との螺合部から短い側の端部)近傍がパイプ部105の外周面に接触するまで回転することができる。したがって、ネジ109を回転させると、係止部材113の他方の端部(ネジ109との螺合部から長い側の端部)が、外側に開き、正面視において、フランジ部材103よりも外方に突出する。
【0014】
さらにネジ109を回転させると、係止部材113はそれ以上回転することができなくなるため、係止部材113はOリング111とともに、壁部121方向に移動する。係止部材113が壁部121の背面と接触すると、係止部材113とフランジ部材103とで壁部121が挟み込まれる。この際、弾性部材107が完全に潰れるまで、ネジ109を回転させることで、確実に、壁部貫通部材100を壁部121に固定することができる。また、壁部121の孔123とパイプ部105との間には、水膨張性部材115が配置されるため、確実に止水性を確保することができる。
【0015】
しかし、係止部材113が壁部121に接触した状態で、ネジ109を締めこんでいくと、係止部材113には回転しようとする力が付与されるため、係止部材113の端部によって、パイプ部105が中心方向に押圧される(図中矢印Z方向)。また、フランジ部材103のネジ孔とネジ109には遊びがあるため、ネジ109を締めこんだ際に、ネジ109が、パイプ部105から離れる方向に傾く恐れがある(図中矢印Y方向)。
【0016】
このように、ネジ109が傾くと、係止部材113と壁部121との接触が不安定となり、係止部材113とフランジ部材103とで壁部121を挟み込んで把持する力が低下するおそれがある。
【0017】
また、係止部材113は、パイプ部105との接触によって、それ以上の回転が規制されているが、フランジ部材103のネジ孔とネジの遊びにより、ネジ109が傾いてネジ109とパイプ部105との隙間が大きくなるため、係止部材113が空回りするおそれがある。
【0018】
図15は、パイプ部105に対する係止部材113の位置を示す拡大図である。ネジ109の位置が変わらないとした場合には、係止部材113の端部は、パイプ部105の外周面と接触し、それ以上の回転が規制される(図中V)。しかし、ネジ109が外側に開くと(図中Y)、係止部材113とパイプ部105との隙間が広くなるため、係止部材113の回転が規制されずに、係止部材が空回りするおそれがある。
【0019】
また、ネジ109の傾きが生じることで、係止部材113によって壁部121をきちんと押圧することができず、さらには、地震などの振動の影響で係止部材113が空回りして、壁部貫通部材100が壁部121から脱落するおそれがある。
【0020】
特に、壁部貫通部材が、斜め壁(斜め壁とは壁の表面から壁孔として貫通孔を設ける時に、壁部裏面の孔近傍に所定長さで斜めに拡開する部分を有する壁)に適用する場合には、係止部材113と壁部との接触がより困難となる。さらに、壁部貫通部材が、背面側に摩擦係数の小さな亜鉛めっき鋼板が取り付けられた壁部に適用される場合には、ネジ109の傾きによって、壁部121と係止部材113の摩擦力がさらに低下し、係止部材による締め付け力が低下するおそれがある。
【0021】
また、従来の壁部貫通部材100は、特に、厚壁である壁厚45〜70mmに固定される時に、係止部材113がパイプ部105に当接することでパイプ部105を変形させることがある。
【0022】
図15に示すように、パイプ部105は、係止部材113との接触によって、パイプ部105の中心方向に押圧される。このように、パイプ部105の外周面が中心方向へ向けて押圧されることで、パイプ部105が通常時(図中W)から内面側に変形する。
【0023】
このように、パイプ部105が変形すると、係止部材113とパイプ部105との隙間がさらに広がり、係止部材113の空回りが生じやすくなる。さらに、パイプ部105が変形することで、フランジ部材103に歪みが生じ、フランジ部材103が壁部121から浮きがあり、フランジ部材103と壁部121の間に隙間が生じると、フランジ部材103に配置された弾性部材107の圧縮が不十分となり、止水性が低下する恐れがある。
【0024】
このように、フランジ部材103と壁部121との間に隙間が生じるとフランジ部材103に配置された弾性部材107の圧縮が不十分となり、止水性が低下する。また、この隙間に雨水などが浸入し、壁部121の内側に配置される断熱材が腐食したり、かびが発生したりすることがある。
【0025】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、様々な壁部に対しても確実に壁部貫通部材を固定することが可能な壁部貫通部材の取り付け構造、壁部貫通部材の浮き上り防止方法、係止部材の空回り防止方法および係止部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、壁部への壁部貫通部材の取り付け構造であって、壁部に形成された貫通孔に壁部貫通部材が設置されており、前記壁部貫通部材は、金属製のパイプ部と、前記パイプ部の外周面に接合される金属製のフランジ部材と、前記フランジ部材を前方から貫通するネジと、前記フランジ部材の後方側に突出する部位の前記ネジに設けられる回転規制部材と、前記回転規制部材の後方で前記ネジと螺合する係止部材と、前記フランジ部材に設けられる弾性部材および水膨張性部材と、前記フランジ部材から所定距離離間し、前記係止部材の前方の位置であって、前記パイプ部の外周面に固定され、前記ネジの傾斜を防止する略U字状のネジ傾斜防止部と、を具備し、前記ネジは、少なくとも、前記フランジ部材の孔と前記ネジ傾斜防止部で支持され、前記フランジ部材の後面の前記弾性部材が、前記壁部の前面に押し付けられ、前記係止部材が前記貫通孔の外周側に張り出し、前記壁部は、前記フランジ部材と前記係止部材によって挟み込まれ、前記壁部貫通部材が前記壁部に固定され
、前記フランジ部材は、第1フランジ部と第2フランジ部とが離間して設けられ、前記第1フランジ部と前記第2フランジ部を連結部で結んで、断面形状が略コの字型に、一体で形成され、前記弾性部材は、前記第1フランジ部の後面であって、前記パイプ部の外周部近傍に設けられ、前記水膨張性部材は、前記第1フランジ部と前記第2フランジ部の間に設けられることを特徴とする壁部貫通部材の取り付け構造である。ここで、弾性部材に変えて、水膨張性部材を用いることもできる。
【0027】
前記壁部の壁厚に対する、前記フランジ部材の
前記第1フランジ部から前記ネジ傾斜防止部まで距離の比が0.4以上であることが望ましい。
【0028】
前記パイプ部には、周方向に向けて、前記パイプ部の変形防止のためのビードが形成されてもよい。
【0029】
前記ネジ傾斜防止部は、前記ネジの収容部の前記パイプ部側の幅を幅狭に絞った形状であってもよい。
【0030】
前記係止部材は、ネジ孔を挟んで一方に向けて延びる係止部と、前記ネジ孔に対して前記係止部の反対側に設けられるパイプ当接部と、を具備し、前記係止部には、前記壁部との接触面に突出する突起部が設けられてもよい。
【0031】
この場合には、前記突起部は、少なくとも、前記係止部の先端側において、前記係止部の幅方向に2カ所以上形成されることが望ましい。
【0032】
また、前記突起部は、少なくとも、前記ネジ孔の近傍の前記係止部に形成されてもよい。
【0033】
前記突起部は、前記係止部の先端近傍と、前記ネジ孔の近傍のそれぞれに形成され、前記ネジ孔の近傍の前記突起部の高さが、先端近傍の前記突起部の高さよりも高くてもよい。
【0034】
第1の発明では、壁部貫通部材のフランジ部材の前方からネジを回転させることで、ネジを回転させ、これに伴って係止部がOリングに接触するまでは、係止部材がネジの軸方向に移動する。一方、係止部材がOリングに接触すると、係止部材はネジとともに回転し、係止部材の一部がパイプ部の外周面に接触すると、ネジの回転に伴い、係止部材がOリングとともにネジの軸方向に移動する。このようにして、係止部材とフランジ部材とで壁部を挟み込むことで、確実に壁部貫通部材を壁部に固定することができる。
【0035】
この際、フランジ部材から挿通したネジが、ネジ傾斜防止部によって、パイプ部の外周面から遠ざかるように傾くことを防止することができる。このため、ネジの傾きによって、係止部材と壁面との接触や、係止部材による壁面の押圧が妨げられることを防止することができる。すなわち、係止部材を確実に壁面に接触させて壁面を押圧することができる。
【0036】
また、ネジが傾くことで、ネジとパイプ部との隙間が大きくなることを防止することができるため、係止部材の空回りを防止することができる。このため、振動などによって、係止部材が緩むことを防止することができる。
【0037】
このようなネジ傾斜防止部による効果は、ネジ傾斜防止部を、傾きの支点となるフランジ部材に近すぎる位置に配置したのでは、効果が小さい。このため、壁部の壁厚に対する、フランジ部材の第1フランジ部からネジ傾斜防止部まで距離の比を、0.4以上とすることで、より高い効果を得ることができる。
【0038】
また、パイプ部の周方向にビードを設けることで、係止部材の一部がパイプ部の外周部に押し付けられた際のパイプ部の変形を抑制することができる。このため、フランジ部材が壁面から浮き上がり、フランジ部材と壁面との間に隙間が生じることを防止することができる。また、パイプ部の変形を防止することで、係止部材の空回りをより確実に防止することができる。
【0039】
また、ネジ傾斜防止部を、ネジの収容部のパイプ部側の幅を幅狭に絞った形状とすることで、ネジの位置をより確実に規制することができる。
【0040】
また、係止部材の壁部との接触面に、突起部を設けることで、係止部材で壁面を押圧した際に、突起部を壁面に食い込ませることができる。このため、壁部への把持力を増加させることができる。また、摩擦係数の小さな亜鉛めっき鋼板が取り付けられた壁部に対しても、確実に壁部貫通部材を固定することができる。
【0041】
この際、係止部材の先端側の係止部の幅方向に、突起部を2カ所以上形成することで、斜め壁に対して壁部貫通部材を固定した際にも、突起部の少なくとも一方を斜め壁の傾斜部に食い込ませることができる。
【0042】
また、突起部を、係止部材のネジ孔の近傍に形成することで、特に、亜鉛めっき鋼板が取り付けられた壁部に対して、確実に壁部貫通部材を固定することができる。
【0043】
また、突起部が、係止部の先端近傍とネジ孔の近傍のそれぞれに形成され、ネジ孔の近傍の突起部の高さを、先端近傍の突起部の高さよりも高くすることで、ネジ孔近傍の突起部を確実に壁面に食い込ませることができる。
【0044】
第2の発明は、第1の発明にかかる壁部貫通部材の取り付け構造を用い、前記係止部材と前記フランジ部材とで前記壁部を挟み込んで、前記壁部貫通部材を前記壁部に固定した際に、前記フランジ部材の、前記壁部の壁面からの浮き上がりを防止することを特徴とする壁部貫通部材の浮き上り防止方法である。
【0045】
第2の発明によれば、ネジ傾斜防止部が、パイプ部の剛性を部分的に向上させるため、パイプ部の変形を抑制することができる。このため、フランジ部材が壁面から浮き上がることを防止することができる。特に、壁部貫通部材のパイプ部にビードが設ければ、パイプ部の変形をより確実に抑制することができる。
【0046】
第3の発明は、第1の発明にかかる壁部貫通部材の取り付け構造を用い、前記係止部材と前記フランジ部材とで前記壁部を挟み込んで、前記壁部貫通部材を前記壁部に固定する際に、前記係止部材の、前記パイプ部の外周での空回りを防止することを特徴とする係止部材の空回り防止方法である。
【0047】
第3の発明によれば、ネジ傾斜防止部によって、ネジが傾斜することを防止することができるため、ネジとパイプ部の外周面との隙間が開くことが防止される。このため、係止部材が空回りすることを防止することができる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、様々な壁部に対しても確実に壁部貫通部材を固定することが可能な壁部貫通部材の取り付け構造、壁部貫通部材の浮き上り防止方法、係止部材の空回り防止方法および係止部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明にかかる壁部貫通部材について説明する。
図1(a)は壁部貫通部材1を示す前方斜視図、
図1(b)は壁部貫通部材1を示す後方斜視図、
図2は壁部貫通部材1を示す背面図、
図3は壁部貫通部材1を示す平面図である。
【0053】
壁部貫通部材1は、主に、フランジ部材3、パイプ部5、弾性部材7、ネジ9、係止部材13、水膨張性部材15等から構成される。フランジ部材3およびパイプ部5は、例えばステンレスやアルミニウム等の耐食性の良い金属を適用することができる。
【0054】
パイプ部5は、筒状体であり、所定の長さで形成される。パイプ部5の外周面には、フランジ部材3が溶接等によって接合される。フランジ部材3は、例えばプレス等によって所定形状に一体で形成され、第1フランジ部3a、第2フランジ部3b等から構成される。フランジ部材3の詳細は後述する。
【0055】
図4は、壁部貫通部材1を示す軸方向断面図であり、
図3のC−C線断面図である。フランジ部材3の軸方向と、パイプ部5の軸方向は、わずかにずれている。すなわち、フランジ部材3に対して、パイプ部5は、僅かに傾いて接合される。傾き角度は、軸方向長さ50mmに対して、これと垂直な方向に約1mm程度変位する程度の角度であればよい。
【0056】
なお、壁部貫通部材1は、前方(
図4の左側であって、第1フランジ部3a側)に向かうにつれて、パイプ部5が下方に傾く向きで使用される。すなわち、壁部貫通部材1の上部側の方が下部側に対して、パイプ部5の上部先端近傍が僅かに上方を向くように前方に張り出す。
【0057】
このように、フランジ部材3とパイプ部5の軸方向が互いに僅かにずれているため、フランジ部材3を壁面にまっすぐに配置にした際に、パイプ部5を僅かにフランジ部側に向けて下方に向けて傾斜させることができる。したがって、パイプ部5から壁面の内側に水分が流れ込むことを防止することができる。
【0058】
第2フランジ部3bは、パイプ部5の軸方向(
図4の左右方向)に対して略垂直に外方に起立する。第2フランジ部3bの基部(パイプ部5との接触部近傍)は、前方側に屈曲されて、パイプ部5に沿って連結部3cが所定長さ形成される。
【0059】
連結部3cの前端近傍では、第2フランジ部3bと略平行に第1フランジ部3aが起立する。なお、第1フランジ部3aの外径は、第2フランジ部3bよりも大きい。さらに、第1フランジ部3aの先端部近傍が、壁部貫通部材の1の前方(図中左側)に向けて屈曲される。
【0060】
第1フランジ部3aの後面であって、外周部近傍には、弾性部材7が設けられる。弾性部材7は、例えば発泡体等であり、容易に変形して壁面との隙間を埋めるものである。第1フランジ部3aと第2フランジ部3bとは連結部3cの長さだけ離間して設けられ、第1フランジ部3aと第2フランジ部3bを連結部で結んで、第1フランジ部3aと第2フランジ部3bフランジ部の断面形状は略コの字型に成形される。連結部3cの外周部(第1フランジ部3a、第2フランジ部3bの間)には、水膨張性部材15が設けられる。すなわち、フランジ部材3には、弾性部材7および水膨張性部材15が設けられる。
【0061】
なお、フランジ部材3とパイプ部5の外周面との間には、図示を省略したコーキング処理等が施され、止水される。したがって、フランジ部材3とパイプ部5の隙間から水が浸入することがない。
【0062】
フランジ部材3の前方から、フランジ部材3(第1フランジ部3aおよび第2フランジ部3b)を貫通するように、ネジ9が設けられる。ネジ9は、第1フランジ部3aの前面側から挿通されて、第2フランジ部3bを貫通する。なお、
図2に示す例では、ネジ9は、フランジ部材3の上下に一対形成されるが、3か所以上であっても良い。
【0063】
第2フランジ部3bよりも後方側に突出する部位のネジ9には、回転規制部材であるOリング11が設けられる。また、Oリング11のさらに後方には、ネジ9と螺合する係止部材13が設けられる。なお、係止部材13の形状の詳細については後述する。
【0064】
回転規制部材は、ネジ9に対して、係止部材13が空回りすることを防止する部材である。なお、本発明においては、回転規制部材とは、リング状の弾性部材を指す。
図2に示すように、係止部材13は、通常状態では、正面視において、第1フランジ部3aの投影面から突出することなく、パイプ部5と接触するように畳まれる。
【0065】
パイプ部5の外周面には、ネジ傾斜防止部19が設けられる。
図5(a)は、
図3のA部におけるB−B線断面図である。ネジ傾斜防止部19は、略U字状のネジ収容部19aと、ネジ収容部19aの端部(パイプ部5との接触部側)に形成された接合部19bとからなる。接合部19bは、ネジ収容部19aに対して、両側に開くように略垂直に屈曲して形成される。ネジ収容部19aにはネジ9が挿通される。
【0066】
また、接合部19bは、スポット溶接やリベットなどによってパイプ部5に接合される。例えば、パイプ部5にネジ傾斜防止部19をスポット溶接することで、パイプ部5の溶接部近傍の断面係数が増加して、パイプ部5が変形しにくくなる。すなわち、ネジ傾斜防止部19をパイプ部5の外周面に固定することでも、部分的ではあるが、パイプ部5の剛性向上の効果を得ることができる。このため、後述する係止部材13とパイプ部5との接触時に、係止部材13によってパイプ部5の表面が押圧されても、パイプ部5が変形しにくくなる。
【0067】
ネジ傾斜防止部19によって、ネジ9は、ネジ収容部19aとパイプ部5とで囲まれた空間内での傾斜角を変化させることができる範囲の移動に規制される。
図4に示すように、ネジ9は、第1フランジ部3aと第2フランジ部3bの2点で支持されているが、これのみでは、第1フランジ部3aと第2フランジ部3bの距離が短いため、それぞれの孔とネジ9とのクリアランスによって、ネジ9は、大きく傾く恐れがある(
図14参照)。
【0068】
これに対し、ネジ傾斜防止部19は、ネジ9の位置を所定の範囲で規制するため、ネジ9が傾くことを防止することができる。すなわち、ネジ9は、少なくともフランジ部材3とネジ傾斜防止部19によって支持される。なお、ネジ傾斜防止部19は、フランジ部材3(第1フランジ部3a)から所定距離以上離間した位置の方が、ネジ9の傾斜防止効果は大きいが、後述する壁部への固定の際に、壁部貫通部材の固定の妨げとならない位置に設ける必要がある。ネジ傾斜防止部19の設置位置の詳細については後述する。
【0069】
なお、ネジ傾斜防止部19の形状は、
図5(a)に示した例には限られない。例えば、
図5(b)に示すように、ネジ傾斜防止部19のネジ収容部19aのパイプ部5側の幅を、幅狭に絞った形状としてもよい。このようにすることで、ネジ9の位置規制効果を高めることができる。すなわち、U字形状のネジ傾斜防止部19のネジ収容部19aの開口部の近傍の幅を幅狭に絞ることにより、ネジ9がパイプ部5に近づく方向および離れる方向に倒れることを防止することができる。
【0070】
パイプ部5の、フランジ部材3とは逆側の端部近傍には、必要に応じて、円周の一部にパイプ部5の内方に向けて、パイプ部5の変形防止のためのビード17が設けられる。ビード17は、断面が円弧状に突出するように形成される。
【0071】
パイプ部5は、外面からの力によって、変形するおそれがある。これに対し、ビード17によって、加工硬化と断面係数の増加により、パイプ部5の剛性が向上し、パイプ部5の変形(偏平)を抑制することができる。
【0072】
ここで、ビードを内方に向けて形成するのは、ビードを外方に向けて形成すると、ビードの円弧状の凹部に油や汚れが付着して堆積するのを避けるためである。ビード17の大きさは、換気時の通気抵抗の増加と強度向上効果の両者を考慮すると幅が5〜6mmで、深さが1.5〜3mm程度とする。ここで、ビードが深いと流路断面積が減少し換気時の通気抵抗の増加の原因となるため、ビードの深さの設定には注意を要する。例えば、ビード深さの設定は3mm以下とすることが望ましい。尚、ビード17を内方に向けて複数設けても良く、ビード17を複数設けることにより、パイプ部5の剛性がより向上する。また、ビード17をパイプ部5の外方に向けて突出するように設けることもできる。外方へ突出したビード17は、複数でも良い。ビード17をパイプ部5の外方に向けて突出するように設ける場合は、ビード17の設置位置は、ネジ傾斜防止部19やネジ9との干渉を避けるように、これらが形成されていないパイプ軸方向位置に設けるか、あるいはネジ傾斜防止部19やネジ9の近傍を除くパイプ部5の円周方向の一部に設けるなどの工夫が必要である。また、パイプ部5に設けるビード17は、別部材として成形し、パイプ部5に固定して一体化しても良い。
【0073】
次に、壁部21への壁部貫通部材1の固定方法について説明する。まず、
図6に示すように、係止部材13を畳んだ状態(係止部材13が第1フランジ部3a外方に突出しないようにした状態)で、壁部21に形成された孔23に壁部貫通部材1を挿入する(図中矢印D方向)。孔23は折り畳まれた状態の係止部材13の外接円および第2フランジ部3bよりも大きく、第1フランジ部3aよりも小さい。
【0074】
なお、前述したように、壁部貫通部材1には上下方向の向きが存在する。すなわち、パイプ部5が前方に向かって下方に向くように壁部貫通部材1を孔23に挿入する。
【0075】
次に、
図7(a)に示すように、壁部21の前面側(第1フランジ部3a側)からネジ9を回転させる(図中矢印E方向)。ネジ9を回転させると、係止部材13は、ネジ9の回転に伴い、壁部21側に移動する(図中矢印F方向)。この際、係止部材13とネジ9との螺合部における摩擦は、係止部材13の自重よりも小さいため、係止部材13は、回転せず、パイプ部5に沿って移動する。したがって、
図7(b)に示すように、係止部材13は、畳まれた状態を維持する。
【0076】
さらにネジ9を回転させると、
図8(a)に示すように、係止部材13がOリング11に接触する。係止部材13がOリング11に接触すると、係止部材13はOリング11によって抵抗を受ける。すなわち、壁部21方向への移動(図中矢印F方向)がOリング11によって抵抗を受け、ネジ9に対する係止部材13の回転が規制される。したがって、
図9(b)に示すように、係止部材13は、ネジ9とともに回転する(図中矢印G方向)。
【0077】
この際、係止部材13は、係止部材13の一方の端部(ネジ9との螺合部から短い側の端部)近傍がパイプ部5の外周面に接触するまで、回転することができる。係止部材13が完全に回転すると、係止部材13の他方の端部(ネジ9との螺合部から長い側の端部)が、外側に広がり、正面視において、第1フランジ部3aよりも外方に突出する。すなわち、係止部材13が孔23の外周側に張り出す。
【0078】
さらにネジ9を回転させると、係止部材13はそれ以上回転することができなくなるため、
図9(a)に示すように、係止部材13はOリング11とともに、壁部21方向に移動する(図中矢印F方向)。係止部材13が壁部21の背面と接触すると、係止部材13と第1フランジ部3aとで壁部21が挟み込まれる。このため、フランジ部材3の後面の弾性部材7が、壁部21の前面に押し付けられる。この際、弾性部材7が完全に潰れるまで、ネジ9を回転させることで、確実に、係止部材13と第1フランジ部3aとで壁部21を挟み込む。
【0079】
以上の操作を、上下のネジ9に対して行うことで、
図10に示すように、第1フランジ部3aが壁部21に対してまっすぐに固定される。この後、壁部貫通部材1に配管等を挿通することで、施工が完了する。すなわち、壁部21に形成された孔23に壁部貫通部材1が設置されて固定された、壁部貫通部材取り付け構造10を得ることができる。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態によれば、壁部21に壁部貫通部材1を取り付ける際に、壁部21の前方側からネジ9を締めることによって、壁部21に壁部貫通部材1が固定される。このため、壁部21の前面と後面とで作業を行う必要がなく、取り付けが容易である。
【0081】
また、ネジ傾斜防止部19によって、ネジ9が傾斜することが防止される。このため、係止部材13は確実に壁部21と接触し、フランジ部材3と係止部材13とで、壁部21を挟み込んで壁部21を把持することができる。
【0082】
また、パイプ部5の外周面とネジ9との隙間が開くことを抑制することができるため、係止部材13の空回りを抑制することができる。
【0083】
なお、前述した様に、ネジ傾斜防止部19がフランジ部材3から所定距離以上離間していることで、より確実にネジ9の傾斜防止の効果を得ることができる。本実施形態では、壁部21の壁厚(
図10のH)に対する、フランジ部材3(第1フランジ部3a)からネジ傾斜防止部19まで距離(
図10のI)の比が、0.4上であることが望ましい。このようにすることで、ネジ9の傾斜防止効果を確実に得ることができる。
【0084】
なお、壁部21の壁厚に対する、フランジ部材3(第1フランジ部3a)からネジ傾斜防止部19まで距離の比が、1以上であると、係止部材13と干渉するおそれがある。このため、上記比は1未満とすることが望ましい。
【0085】
ここで、例えば、壁部21の壁厚が60mmの場合には、ネジ傾斜防止部19のフランジ部材3の第1フランジ部3aからの距離を24mm以上離すことで、壁部21の壁厚に対する、フランジ部材3(第1フランジ部3a)からネジ傾斜防止部19まで距離の比が、0.4以上となる。この比は大きいほど良いため、上限値1.0に近いほど良いが、係止部材13やOリング11の取り付け等を考慮すると、この比は、0.4〜0.8程度が望ましい。さらに望ましく、0.6〜0.8の範囲が良い。
【0086】
また、パイプ部5にネジ傾斜防止部19が接合されることで、パイプ部5の剛性を高めることができる。このため、係止部材13がパイプ部5の外周面に当接し、係止部材13からパイプ部5の中心方向に外力が付与された場合でも、パイプ部5の変形を抑制することができる。したがって、パイプ部5の変形に伴い、フランジ部材3が壁面から浮き上がり、フランジ部材3と壁面との間に隙間が生じることを抑制し、隙間から雨等の水が浸入することを防止することができる。
【0087】
すなわち、壁部貫通部材取り付け構造10を用いることで、係止部材13とフランジ部材3とで壁部21を挟み込み、壁部貫通部材1を壁部21に固定した際に、フランジ部材3の、壁部21の壁面からの浮き上がりを防止する壁部貫通部材の浮き上り防止方法を提供することができる。
【0088】
また、パイプ部5の後端部近傍には、ビード17が形成されるため、パイプ部5の変形をさらに確実に抑制することができる。また、パイプ部5の変形が抑制されることで、パイプ部5の外周面とネジ9との隙間が開くことを抑制し、係止部材13の空回りを抑制することができる。
【0089】
特に、係止部材13が壁部21を係止する位置は、ネジ傾斜防止部19の取付け位置とビード17の形成位置の間であれば、係止部材13によって、パイプ部5の外周を押圧しても、パイプ部5の変形を少なくすることができる。このため、パイプ部5の外周面とネジ9との隙間が開くことを抑制し、係止部材13の空回りを抑制することができる。
【0090】
すなわち、壁部貫通部材取り付け構造10を用いることで、係止部材13とフランジ部材3とで壁部21を挟み込み、壁部貫通部材1を壁部21に固定した際に、係止部材13の、パイプ部5の外周での空回りを防止する係止部材13の空回り防止方法を提供することができる。
【0091】
また、Oリング11が設けられることで、係止部材13を確実に外方に向けて回転させることができる。なお、壁部貫通部材1を取り外す際には、ネジ9を逆に回転させると、係止部材13は畳まれた状態に回転して、後方に移動する。壁部貫通部材1を壁部21から取り出した後、Oリング11の位置を元の位置に戻すことで、再度使用することができる。
【0092】
また、パイプ部5およびフランジ部材3は金属製であるため、高温の流体が流れる部位でも使用可能である。また、パイプ部5は管体であり、フランジ部材3もプレスによって容易に製造することができる。また、溶接で接合可能であるため、接合も容易である。なお、前述したように、パイプ部5とフランジ部材3との接触部には、コーキングが施されるため、水の浸入を防止することができる。
【0093】
次に、第2の実施形態について説明する。
図11は、係止部材13aを示す図であり、
図11(a)は斜視図、
図11(b)は正面図、
図11(c)は平面図である。前述した実施形態における係止部材13は、壁部21との接触面は平坦であったが、係止部材13aは、壁部21との接触面に突起部31a、31bが形成される。
【0094】
係止部材13aの外形は係止部材13と略同様である。すなわち、係止部材13aは、ネジ孔25を挟んで一方に尖った先端に向けて延びる係止部27と、ネジ孔25に対して係止部27の反対側に、正面図における幅方向の両側に直線状部を有し、先端が略円弧形状のパイプ当接部29を有する全体形状が略ヘの字型で、その輪郭が直線部と曲線部を組み合わせて形成された細長い板状部材である。細長い板状部材の輪郭形状は、例えば、係止部材の外周部が曲線状または複数の曲線を組み合わせた形状、あるいは内周部が直線を組み合わせた形状であっても良いし、外周部が直線を組み合わせた形状、あるいは内周部が曲線状または曲線を組み合わせた形状であっても良い。
【0095】
係止部27の両側は、それぞれ壁部貫通部材のパイプ部5に沿って湾曲した曲線形状で、曲線の先端が相互に交わるように形成される。
【0096】
係止部材13aの一方の面には、プレス加工により、突起部31a、31bが設けられる。すなわち、係止部材13aには、係止部27の壁部との接触面に突出する突起部31a、31bが設けられる。突起部31a、31bは、ネジ孔25の中心からの互いに異なる距離離れた位置に形成される。
【0097】
突起部31aは、係止部27の長手方向の中央よりも先端側に、係止部27の幅方向に2カ所以上形成される。また、突起部31bは、係止部27の長手方向の中央よりもネジ孔25の近傍側の少なくとも1カ所に形成される。具体的には、係止部27の先端側に2カ所の突起部31aと、基部側に1カ所の突起部31bが形成される。
【0098】
なお、突起部31a、31bの高さは、両者をほぼ同等に設定するか、ネジ孔25近傍(係止部27の基部側)の突起部31bを、係止部27の先端近傍の突起部31aよりも僅かに高めに設定しても良い。基部側の突起部31bの高さを高くすることで、ネジ9に近い側の突起部31bをより確実に壁部に食い込ませることができる。
【0099】
次に、係止部材13aを用いた壁部貫通部材1aについて説明する。なお、以下の説明において、壁部貫通部材1と同一の機能を奏する構成については、
図1〜
図8と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0100】
係止部材13aを有する壁部貫通部材1aは、例えば、
図12に示すように、厚壁であって、斜め壁である壁部21aに対して適している。前述した様に、斜め壁とは、壁部の表面から壁孔として貫通孔を設ける時に、壁部の裏面近傍に所定長さで斜めに拡開する部分を有する壁部である。
【0101】
前述した様に、壁部21aの前面から、ネジ9を回転させると(図中矢印E方向)、係止部材13aは、Oリング11との接触によって回転が規制されて、パイプ部5の外側に開いた状態で、壁部21a側に移動する(図中矢印F方向)。この際、ネジ9の傾きは、ネジ傾斜防止部19によって規制される。
【0102】
壁部21aの裏面側の孔23の傾斜部の端部に、係止部材13aが接触した状態で、さらにネジ9を締めこむと、突起部31aは、壁部21aの裏面に食い込む。このため、係止部材13aとフランジ部材3によって確実に壁部21aを把持し、係止部材13aが緩むことがない。このように、従来、係止部材を壁部の背面に確実に接触させて把持させることが困難であった斜め壁に対しても、壁部貫通部材1aが緩むことなく固定された壁部貫通部材の取り付け構造を得ることができる。
【0103】
ここで、突起部31aは、係止部27の先端側に形成されるため、斜め壁のテーパ部に対して確実に食い込ませることができる。また、幅方向に2つの突起部31aを設けることで、より確実に、突起部31aを壁部21aに食い込ませて、壁部貫通部材1aを壁部21aに固定することができる。
【0104】
また、
図13に示すように、壁部貫通部材1aは、裏面に亜鉛めっき鋼板(図示省略)を貼り付けた壁部表面の摩擦係数が小さい壁部21bにも好適である。壁部21bの前面から、ネジ9を回転させると(図中矢印E方向)、係止部材13aは、パイプ部5の外側に開いた状態で、壁部21a側に移動する(図中矢印F方向)。また、壁部21bの裏面に、係止部材13aが接触した状態で、さらにネジ9を締めこむと、突起部31bは、壁部21bの裏面に食い込む。このため、係止部材13aとフランジ部材3によって確実に壁部21bを把持し、係止部材13aが緩むことがない。ここで、壁部貫通部材1aは、厚壁でも薄壁でも適用可能である。
【0105】
このような壁部21bの裏面は、摩擦係数が小さいため滑りやすく、従来の壁部貫通部材では、係止部材が壁部21bの裏面に対して滑ってしまい、固定が緩む原因となっていた。しかし、壁部貫通部材1aは、係止部材13aの突起部31bを壁部21bの裏面に押圧して食い込ませることができるため、係止部材13aが緩んで、壁部21bから外れることを防止することができる。
【0106】
ここで、突起部31bは、係止部27の基部側に形成されるため、亜鉛めっき鋼板に対しても、より強く押圧することができ、突起部31bを亜鉛めっき鋼板に対して確実に食い込ませることができる。このため、壁部貫通部材1aを壁部21bに確実に固定することができる。
【0107】
なお、係止部材13aの突起部31a、31bの形状としては、先端が堅く尖っていることが望ましい。この理由は、突起部31a、31bが尖っていることで、ネジ9の締め付けによる軸力によって、突起部31a、31bの先端と壁部21bの接触部に、より大きな圧力を集中して生じさせることができ、ネジ9が緩まないからである。
【0108】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、突起部31a、31bを有する係止部材13aを用いることで、傾斜面を有する斜め壁や、裏面に亜鉛めっき鋼板が貼り付けられる壁部などにも、確実に壁部貫通部材1aを固定することができ、緩みのない壁部貫通部材の取り付け構造を得ることができる。
【0109】
以上添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。