特許第6582010号(P6582010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582010
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】融着機
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/255 20060101AFI20190912BHJP
【FI】
   G02B6/255
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-42408(P2017-42408)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-146819(P2018-146819A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】田邉 明夫
【審査官】 岸 智史
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−022346(JP,U)
【文献】 特開2014−074796(JP,A)
【文献】 特開2014−044420(JP,A)
【文献】 米国特許第06820908(US,B1)
【文献】 中国特許出願公開第103216569(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/255,
F16F 15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー部材と、
前記カバー部材に対して複数個所の固定構造によって固定され、融着機構部を保持するベース部材と、
を具備する融着機であって、
前記固定構造は、
前記カバー部材に設けられる雌ねじ部と、
前記ベース部材の固定部に設けられる孔と、
前記固定部の両面に配置される緩衝部材と、
前記孔に挿入され、前記緩衝部材を貫通する筒状部材と、
前記筒状部材に挿通されて、前記雌ねじ部に固定される雄ねじと、
を具備し、
前記雄ねじと前記筒状部材の内面との間に所定のクリアランスが設けられ
前記筒状部材の一方の端部にはフランジ部が設けられ、前記筒状部材の他方の端部と前記雄ねじとの間には座金が配置され、前記緩衝部材は、前記フランジ部と前記座金の間に配置されることを特徴とする融着機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ同士を融着接続するために用いる融着機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光ファイバ同士を突き合わせて融着接続する際に用いられる融着機では、トップカバーとボトムカバーなどのカバー部材に、融着機構部が収容される。融着機構部は、たとえば、ベース部材に保持されて、カバー部材に固定される。融着機構部は、光ファイバの先端同士を突き合せるなど、極めて高い位置精度が要求される。
【0003】
このような融着機構部を保持するベース部材をカバー部材に固定するには、カバー部材に設けられたネジ穴とベース部材に設けられた孔とを重ねあわせ、ベース部材の孔に挿通した雄ネジをカバー部材に設けられたネジ穴に螺合する方法が一般的である。
【0004】
また、融着機は、落下などによる衝撃が付与される場合がある。このため、所定の衝撃で、融着機構部にずれが生じないように、カバー部材とベース部材とは、強固に固定する必要がある。
【0005】
このような衝撃に対しては、固定された2つの部材の間で衝撃や振動が伝達されるのを防止するために、2つの部材の間の複数個所に緩衝部材を配置する方法がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−217032号公報
【特許文献2】特開2001−165241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の融着機では、カバー部材とベース部材とをねじ機構によって固定する場合、カバー部材に設けられたネジ穴の位置とベース部材に設けられた孔の位置とが完全に一致せず、ずれが生じる場合がある。この状態でカバー部材とベース部材とを固定すると、融着機構部に歪みが生じるおそれがある。融着機構部は、極めて高い位置精度が要求されるため、このような歪みが生じると、精度の悪化の要因となる。
【0008】
一方で、カバー部材とベース部材とがずれを吸収可能なようにゆるく固定されたのでは、衝撃が付与された際に、カバー部材に対してベース部材がずれてしまい、融着機構部の位置精度が悪化するおそれがある。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、ベース部材とカバー部材との固定部にずれがある場合にも、部材に歪みを生じさせることなくカバー部材とベース部材とを固定することが可能な融着機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達するために本発明は、カバー部材と、前記カバー部材に対して複数個所の固定構造によって固定され、融着機構部を保持するベース部材と、を具備する融着機であって、前記固定構造は、前記カバー部材に設けられる雌ねじ部と、前記ベース部材の固定部に設けられる孔と、前記固定部の両面に配置される緩衝部材と、前記孔に挿入され、前記緩衝部材を貫通する筒状部材と、前記筒状部材に挿通されて、前記雌ねじ部に固定される雄ねじと、を具備し、前記雄ねじと前記筒状部材の内面との間に所定のクリアランスが設けられ、前記筒状部材の一方の端部にはフランジ部が設けられ、前記筒状部材の他方の端部と前記雄ねじとの間には座金が配置され、前記緩衝部材は、前記フランジ部と前記座金の間に配置されることを特徴とする融着機である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ベース部材とカバー部材との固定部にずれがある場合にも部材に歪みを生じさせることなくカバー部材とベース部材とを固定することが可能な融着機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】融着機1を示す斜視図。
図2図2(a)は、融着機1の平面概略図、図2(b)は図2(a)のA−A線断面概略図。
図3】固定構造20を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、融着機1を示す斜視図である。融着機1は、光ファイバを保持するホルダが載置されるホルダ載置部9と、光ファイバの先端および電極棒7が配置されるガイド部3と、ガイド部3が保持される保持部材5と、蓋部15等を具備する。
【0015】
融着機1は、一対の光ファイバを融着によって接続するものである。図示を省略した一対のホルダによって光ファイバを保持し、ホルダ載置部9にホルダが載置される。光ファイバをガイド部3上のV溝に保持し、光ファイバの先端を突き合わせた状態で、一対の電極棒7の間にアークを発生させることで、光ファイバの先端部を溶融して接合することができる。
【0016】
ここで、融着機1は、下方のボトムカバー11と、上方のトップカバー13とを備え、前述した各機構は、ボトムカバー11とトップカバー13とが固定されて形成される内部空間に配置される。前述したホルダ等の着脱は、トップカバー13に形成された蓋部15を開くことで行うことができる。なお、以下の本発明では、ボトムカバー11とトップカバー13とを合わせてカバー部材12と称する。
【0017】
図2(a)は、融着機1の蓋部15を閉じた状態を示す平面概略図、図2(b)は、図2(a)のA−A線断面概略図である。前述したように、融着機1の内部には、融着の際に必要な各種の機構からなる融着機構部19が収容される。融着機構部19は、光ファイバの先端位置などのずれが生じないように、極めて高い精度で構成される。なお、図示を省略しているが、融着機構部19は、光ファイバの位置あわせ機構を含み、光ファイバの位置を観察する機構や、光ファイバの位置を移動させる機構等を備える。
【0018】
融着機構部19は、ベース部材17に固定されて保持される。なお、図示を省略しているが、ベース部材17の上には、図1に示すホルダ載置部9や、ガイド部3が保持される保持部材5等が配置される。
ベース部材17は、例えば切削加工などによって一体に高精度に加工することも可能であるが、複数の部材からなってもよい。
【0019】
例えば、ベース部材17のうち融着機構部19の固定部近傍を高精度に加工して、メインベースとし、このメインベースの周囲に、トップカバー13との固定のためのサブベースを接合してもよい。このようにすると、全体を高精度に加工するよりもコスト低減となる。また、大型の部材を高精度に加工しようとすると、工具のブレなどによって精度が悪化するおそれがある。このため、融着機構部19を配置するメインベースのみを高精度に加工し、その周囲のサブベースは、例えばプレス加工などによって加工してもよい。
【0020】
ベース部材17は、トップカバー13に複数個所(例えば4か所)において、固定構造20により固定される。なお、前述したように、ベース部材17をメインベースとサブベースとを接合して構成する場合には、サブベースとトップカバー13とが固定される。
【0021】
図3は、固定構造20の拡大断面図である。トップカバー13側の固定部22には、雌ねじ部21が形成される。固定部22の下面には、筒状部材29が配置される。筒状部材29は、一方の端部に外径が大きくなるフランジ部31が形成され、フランジ部31が固定部22の端面と接触する。なお、フランジ部31は必ずしも必要ではない。
【0022】
ベース部材17側の固定部23には、孔25が形成される。孔25には、筒状部材29が挿入される。筒状部材29は、例えば金属製である。なお、孔25の内径と筒状部材29の外径はほぼ一致するため(例えば、孔25の内径が筒状部材29の外径よりも数μm〜数十μm程度大きい)、筒状部材29は、孔25に対してがたつくことがない。
【0023】
ベース部材17の固定部23の両面には、緩衝部材27が配置される。すなわち、筒状部材29は、ベース部材17の固定部23と、その両側の緩衝部材27を貫通する。緩衝部材27は、ゴム製であり、例えばシリコンゴム製であることが望ましい。シリコンゴムであれば、経時劣化によるへたりなどが生じにくく、厚み変化などを抑制することができる。
【0024】
筒状部材29のフランジ部31とは反対側(トップカバー13から離れる側)には、座金33が配置される。座金33の内径は、筒状部材29の外径よりも小さいため、座金33は筒状部材29の端面と接触する。
【0025】
座金33の下方から、筒状部材29に雄ねじ35が挿通され、雌ねじ部21と螺合して雄ねじ35が固定される。なお、雄ねじ35の外径に対して、筒状部材29の内径は十分に大きい。すなわち、雄ねじ35と筒状部材29の内面との間に所定のクリアランスが設けられる。
【0026】
次に、固定構造20の機能について説明する。前述したように、雄ねじ35と筒状部材29の内面との間には、十分なクリアランスが形成される。このため、仮に雌ねじ部21と固定部23の孔25の位置に、水平方向のずれ(図中矢印B)が生じたとしても、雄ねじ35と筒状部材29とのクリアランスによって、ずれを吸収することができる。このため、雄ねじ35を締めこんだ際に、ベース部材17に歪みなどが生じることを抑制することができる。
【0027】
また、雄ねじ35を雌ねじ部21へしっかりと固定すると、筒状部材29(フランジ部31)と、固定部22との摩擦によって、筒状部材29がずれることがない。また、固定部23の孔25の内径は、筒状部材29の外径とほぼ一致するため、筒状部材29が固定されることによって、固定部23が水平方向(図中矢印B)へ移動することを抑制することができる。
【0028】
一方、水平方向と垂直な方向(図中矢印C)に対しては、固定部23は、緩衝部材27の変形量だけ移動可能である。このため、トップカバー13側の固定部22の高さと、ベース部材17側の固定部23の高さにずれが生じた場合でも、緩衝部材27の変形によって、ずれを吸収することができる。
【0029】
ここで、融着機1には、所定の耐衝撃性が要求される。たとえば、融着機1が、水平状態で落下した場合、主に図中矢印C方向の衝撃が生じる。本実施形態では、このような図中矢印C方向の衝撃に対しては、緩衝部材27がクッションとなり、衝撃の一部を吸収することが可能である。また、この場合でも、前述したように、水平方向の位置ずれが生じることは抑制される。
【0030】
なお、筒状部材29の長さ(フランジ部31の厚みを除く長さ)は、固定部23の厚みと、固定部23の両側の緩衝部材27の厚みの総和よりもわずかに短い。したがって、雄ねじ35を締めこむと、緩衝部材27は、わずかに潰される。例えば、緩衝部材27は、10〜20%程度潰される。
【0031】
緩衝部材27の潰れ代が少なすぎると、ベース部材17の自重や、小さな衝撃によっても、緩衝部材27の変形量が大きくなりすぎる。このため、緩衝部材27の圧縮量は、10%以上であることが望ましい。
【0032】
一方、雄ねじ35を締めこんだ際に、緩衝部材27の潰れ代が大きくなりすぎると、緩衝部材27が固くなりすぎる。したがって、前述した、衝撃の吸収や、高さズレの吸収能力が低下する。このため、緩衝部材27は、10〜20%程度潰されることが望ましい。すなわち、筒状部材29のフランジ部31を除く長さは、緩衝部材27の厚み(両面)と、固定部23の厚みの和よりも、10〜20%短いことが望ましい。
【0033】
なお、ベース部材17(融着機構部19を含む)の自重を考慮すると、固定部23の下方の緩衝部材27の方が、固定部23の上方の緩衝部材27より大きな力を受ける。したがって、下側の緩衝部材27の厚みを上方の緩衝部材27の厚みよりもわずかに大きくしてもよい。また、上下の緩衝部材27の枚数を変えて、下方の枚数を上方よりも多くしてもよい。
【0034】
以上、本実施の形態によれば、筒状部材29の内面と雄ねじ35の間に所定のクリアランスが設けられるため、筒状部材29に対して、雄ねじ35は多少の位置の調整が可能である。このため、ベース部材17の固定部23に設けられる孔25と、トップカバー13に設けられる雌ねじ部21とに水平方向のずれがある場合でも、融着機構部19に歪みを生じさせることなくトップカバー13とベース部材17とを固定することができる。
【0035】
また、ベース部材17の固定部23の両面に緩衝部材27を設けることにより、ベース部材17の固定部23に設けられる孔25と、トップカバー13に設けられる雌ねじ部21とに鉛直方向のずれがある場合でも、融着機構部19に歪みを生じさせることなくトップカバー13とベース部材17とを固定することができる。
【0036】
また、緩衝部材27によってベース部材17が挟み込まれるため、融着機1に対して鉛直方向の衝撃を和らげることができる。
【0037】
また、筒状部材29を設けることで、雄ねじ35を過剰に雌ねじ部21へ締めこむことが防止される。すなわち、緩衝部材27の潰し代を、常に一定にして雄ねじ35を締めこむことができる。このため、例えば、緩衝部材27が潰れすぎることによって、ベース部材17の上下への移動が妨げられ、または緩衝効果が減少することを抑制することができる。また、緩衝部材27が十分に潰れていないことにより、ベース部材17の位置の保持力が低下することを抑制することができる。
【0038】
特に、筒状部材29の一方の端部にフランジ部31を設けることで、フランジ部31と固定部22とを広い範囲で接触させることができ、筒状部材29が固定部22に対してずれることを抑制することができる。
【0039】
また、筒状部材29の一方の端部のフランジ部31と、筒状部材29の他方の端部の座金33で緩衝部材27が挟みこまれるため、フランジ部31と座金33とで緩衝部材27を確実に保持することができる。
【0040】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0041】
例えば、ベース部材17は、トップカバー13に固定したが、ボトムカバー11であってもよく、カバー部材12に固定されればよい。
【符号の説明】
【0042】
1………融着機
3………ベース部
5………保持部材
7………電極棒
9………ホルダ載置部
11………ボトムカバー
12………カバー部材
13………トップカバー
15………蓋部
17………ベース部材
19………融着機構部
20………固定構造
21………雌ねじ部
22………固定部
23………固定部
25………孔
27………緩衝部材
29………筒状部材
31………フランジ部
33………座金
35………雄ねじ
図1
図2
図3